第111話 それぞれの休日・パニラ

「チコちゃん、あなたはフレイの事をどう思っているの?」


 何となく気になった事を口にすると、彼女は白い体をこちらに向けながらこう言いました。


「私はフレイ様の召喚獣です、私がフレイ様のことをどう思おうと、パニラ様には関係ないかと...」


「ふ〜ん、それじゃフレイは私が貰っちゃおうかな〜」


「なっ!」


 敢えて彼女を挑発する事で初心な反応を楽しむ。

 初めて彼女を見せて貰った日から、彼女はきっとフレイの事が好きなのだと直感でわかったのでつい遊んでしまいたくなったのです。

 一国の姫としてこのような悪逆を楽しむようなゲスい行動は慎むのが妥当ですが、私はまだ子供ですので、もうちょっとの間だけ子供として悪戯で遊んでいたいのでした。

 彼女の顔が真っ赤になったので可笑しくって笑います。


「あはは、冗談です、チコちゃんはからかい甲斐がありますね」


「もう...、いつもパニラ様はそうやって私をからかうんですから...、少しは自重して下さいね!」


「はいはい」


「はいは一回ですよ!」


 こんなやり取りをしているだけで気が紛れるのは、いつも面倒くさいお稽古をしているからだと思います。

 私が3歳の時からしている王族の嗜みは、その全てが退屈極まりないものなもでした。

 窮屈すぎて息をするのもしんどいこの封鎖空間に身を置くと思うだけで心が潰されてしまいそうになります。

 私にも安息の休日は必要です。

 最近では、フレイが召喚のスキルを覚えてくれたので、チコちゃんと話すのが何気ない楽しみもなっていました。

 召喚獣である彼女であれば、私の弱い部分を吐き出しても、それを受け止めてくれるので、ありがたいのでした。


「あっそうだ!、チコちゃんは温いお茶を嗜みますか?」


「はい、私は暖かい食べ物や飲み物は好物ですね」


「良かった、一緒に飲もうと思っていたんでんですよ」


 私は、はしゃぎながら厨房へと向かいました。


 〜厨房〜


「ちょっと待っててね、私がお茶を入れますから」


「大丈夫ですか?パニラ様はお茶を入れた事があるのですか?」


「ないわ、これが初めてよ」


「大丈夫ですかね?」


「まあ任せなさい、私はこう見えてもお姫様よ、お茶の一つや二つ入れれなくては国を治めることなど出来ませんからね!」


 そう言いながら私はティーパックを使ってお湯に色を出し始めました。

 紅い色にどんどん変化していく様を美しく思って見惚れていると、つい長時間の間パックを付けてしまっていました。

 紅を通り越して少し黒くなっていますが大丈夫でしょうか?。

 恐る恐る口にしてみると、苦くて飲めた物ではありません。


「苦い...」


 舌を出してお姫様らしかぬ表情をしていると、彼女はため息を吐きながら紅茶を入れ始めました。


「いいですかパニラ様、よく見ておいて下さいね」


 彼女は巧みに尻尾を使い紅茶を入れる作業をしていきます。

 手馴れた様子の彼女を見ていると思わず口をポカーンと開けてしまいました。

 だって、トカゲが人間の私よりも紅茶を上手に作ってしまったのですから、こんな顔にもなってしまいます。


「どうぞ」


 尻尾から手渡された紅茶のカップを受け取ると一口飲んで見ました。

 すると予想以上に美味しかったので、目を丸くしました。


「美味しい...」


「それは良かった、私はたまにフレイ様のお茶を入れているので多少は心得ているのですよ」


(トカゲにお茶の入れ方で負けた!)


 お姫様としてのプライドが少し傷つきましたが、正直そんなプライドはあって無いような物なので捨てておきましょう。

 それよりも、友達と一緒に過ごす時間というものはそれだけで価値があるように思えてならないのは私だけでしょうか?。

 私にとってチコのことは友達だと思っているのですが、彼女もフレイと同様に私のことを姫様だと思っているような素振りが気に食いません。

 やはり、私の事を気軽に友達だと思ってくれているのはカリンのみだと思えてしまいます。

 昔、中庭で駆けっこをして転んだ私をそっと抱き上げてくれた時の手の温もりは今でも覚えています。

 その後も元気よく一緒に走り回って、大臣やフォロス様に後で叱られたのは良い思い出として残っています。


「カリンちゃん、また会えないかな...」


「...、もうすぐクティル王国祭ですからね、その時に会えるかもしれませんよ?」


「...、チコの言う通りですね、もう一度だけでもいいので一日中普通の女の子として、カリンちゃんと一緒に遊んでみたいな...」


 窓の外に見える町を見て彼女の事を思いながら、私はチコの入れてくれたあったかい紅茶をゆっくりと飲み干しました。

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