第110話 それぞれの休日・フレイ

 王宮内の施設で僕は本を読んでいると不意に声をかけられました。


「精が出ますね...」


 そちらを見やると、姫様が見えたので敬礼をします。


「これはこれは...、パニラ様ではありませんか」


「ふふっ、まだ貴方は学生の身なのですから、そこまで堅苦しい挨拶をしなくても良いと思いますよ」


「そう言うわけにはいきません、僕はいずれ大人の騎士団と交わり、この国の平和を守る剣となるのですから、学生の身分の間もそのことを忘れてはいけないと思うのです」


「相変わらず変わりませんね、フレイは...、そんな貴方が私は大好きですよ」


「恐縮であります」


 そっと微笑みを浮かべる彼女の顔を見ると少し落ち着く。

 数秒置いてから彼女は口を動かしてきた。


「ところで...、こんな所で何をやっているのですか?、見たところ何やら一心不乱に書物を読み漁っているように見えて心配になったのですが、何かあったのですか?」


「...、それは...」


 ...、僕がなぜここで本を読んでいたのかと言うと、最近王国近くでの魔物の災害が頻発しているという事実に僕は昔の災厄との関連性がないか調べていたのだ。

 僕とトウマが襲われたあの蚊のような魔物がどうにも引っかかってならない。

 僕たちが生まれる前にあったとされる悠久の魔女との戦。

 文献をいくつかみていると、どこかあの時の状況と似ている部分がちらほらと見受けられた。

 その中でも突然無害な生物が人に牙を剥くと言う事例が特に気になったため、こうして悠久の魔女に関する本をひたすらめくっていたのである。

 まあ、大抵は魔女が災厄を引き起こした張本人であるということしか書いていないため、捜査は難航していた。

 この王城クティル図書館にも情報をがないとすれば、手がかりはもうないと言えるだろう。

 だが、そんな事を彼女に言って不安がらせるなど、騎士の風上にも置けない行為はしたくないため、敢えて他の探し物をしていたと伝えた。


「いえ、剣のカタログを見て将来どの剣を使おうか考えていたのですよ、騎士にとって生涯を共にする愛剣というのはとても大事ですからね」


「...、本当にそれだけですか?」


 少し疑わしいように僕を見てきたが、彼女はとりあえずそう思い込んでくれたように背を向けた。


「まあ良いですよ、騎士が私に秘密にしていることなんて沢山あるでしょうし、今回もそういうことだと思っておきます」


 相変わらずこの人の直感は鋭いなと思いながらも、僕は頭を下げて一言発します。


「恐縮でございます」


「それは良いとして、フレイ、チコちゃんはいますか?」


「いますが、チコがどうかしましたが?」


 何やらもじもじしながら僕の方を見てきたので察する。


「ああ、なるほど分かりました」


 僕は指をパチっと鳴らして召喚獣である彼女を呼び出した。

 すると、大気が燃え始めながら彼女の姿が露わになった。


「およびでしょうかフレイ様...」


 凛とした佇まいで彼女はスゥっと僕の腕に降りてきた。


「チコ、パニラ様の話相手になってくれないだろうか?、今僕は手が離せないんだ」


「かしこまりました、パニラ様、私でよければ話相手になりましょう」


 そう言いながら彼女はパニラ様の元へと飛んでいく。

 チコを見た彼女は一瞬だけ口が綻んで笑顔を見せそうになったが、直ぐに元の表情に戻した。


「チコちゃん、ちょっとだけ私の相手をしてくださいね」


「はい、フレイ様の命に従い私は貴方様の話相手となります」


 ルンルン気分で去って行く彼女の後ろ姿を見送ると、僕は再び調査を再開する。


(きっとどこかにあるはずなんだ...、あの時に感じた違和感の正体のような物が...!)


 僕はこの後、何かに取り憑かれたように本を読みあさった。

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