第34話 お城が見えた

「どうかなさいましたか!?」


 外の騎士が私の方を心配そうに見てきた。

 そりゃ、さっきみたいな絶叫を上げられたら誰でもびっくりするよね。

 馬車の中で騒いだので一瞬、車内が揺れた。

 天馬の鳴き声を聞いた私は、一度落ち着きを取り戻し「なんでもないよ!」と言葉を返した。


(この国の王様が住むお城...?、そんな所に招待されるなんて、母さんは一体何者!?)


 私が母さんを見ると、彼女は私を心配するように見ていた。


「カリンちゃん、大きい声なんかだして、どうかしたの?」


(どうかしたの?、じゃない!、私はそんな高尚な場に立った事など一度もない)


 そう、心配なのだ。

 自分はそういう場で正しく振る舞えるだろうか、たまらなく不安になる。

 震える私の手を、母さんは優しく包んでくれる。


「カリンちゃん?、どこか痛いの?、お母さんにいつでも言ってね、すぐ治してあげるから...」


 心配そうな母さんを見ると、なんだか悪いような気がして窓の外を見る。


「大丈夫だから!、ちょっと酔っただけ...」


 敢えて嘘をつく。

 彼女にとって私はカリンだが、私は林華なのだ。

 できるだけ彼女の様に振舞わなければならない。


「もう少しで、お城に着きます!」


 騎士の声が聞こえてきたので、前方を確認する。

 いつも下から眺めていたが、実際に近づいてみると、あまりの大きさに絶句する。

 遠くから見てもあれだけ大きく感じるのだから、当然といえば当然なのだが。


「ここにくるのも久しぶりね、カリンちゃんは覚えているかしら?、前に来たのは一年前なのよ」


(いや、知りませんけど〜...)


「ちょっと覚えてないかな〜...」


 私は誤魔化すように目線をずらす。


「そう...、ちょっとずつ思い出していけばいいからね、お母さんいつまでも待ってるから!」


 彼女は笑顔を見せた後、何も話して来なかった。

 数分の空の旅が終わり、私は初めて王の住む城に足を踏み入れた。

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