普通列車

味噌煮込み白木

普通列車

普通列車に乗っていた。


いや、私の最寄り駅に「快速列車が止まらない為、仕方なく」乗ったのではない。


理由として、「快速列車は人が多くて混雑していた為」「快速列車には迷惑な乗客が乗っていた為」などといったベターなものをあげるべきなのだろうが。

実際のところ、そのような理由はなく。「気がついたら、なんとなく」という情けないものでしかなかった。


その理由のせいで、私が浪費した時間は実に数年に渡り。落としてしまったものは1や10では収まらないものとなってしまった。


しかし、私は懲りもせずに。未だ普通列車に乗っている。


この列車は、言わずもがな快速列車より遅い。とても遅い。想像以上に遅い。


向こうが1日かけて進む距離を、この列車は1ヶ月、いや、数ヶ月を使って進む。


そんな列車の窓から見える風景というのは、今まで生きていた世界とは、まるで別物のような。


浦島太郎は竜宮城で100年に近い時間、優雅な踊りや舞を堪能したと聞いたことがある。恐らく、今の私はそれに近しい体験をしているのだろう。


薬局に入っていく夫婦、木の絵を一生懸命描く中年男性、多弁に話しかける初老の男性。



何もかもが、ゆっくりと過ぎていく。



皆、普通列車の乗客であり。電車が来るのを待っている。


普通列車は駅での滞在時間も長く、それは乗客が「ゆっくりと長い時間をかけて乗車するから」なのだが。それが、この普通列車の最大の特徴でもある。


快速列車に乗るというのは、酷く疲れる。満員電車に押され、揺られ、体を密着させ。そういった状況が快速列車なのだ。


しかし、困った事にこういった列車に乗れない人間というのも居る。それが私達であり、気づいていないだけであなた達の中にもきっといるだろう。


そう言った人達にとって必要なのが普通列車なのだ。


快速列車に乗りながら窓を覗けば、ゆっくりと遅い列車がいるだろう。ホームに停り続けている列車がいるだろう。


それが普通列車なのだ。

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普通列車 味噌煮込み白木 @yasai69batake

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