辞退してもいいですか?

「お父様!これは一体どう言うことですの?」


社交界からの帰宅後、アリシアはお父様の書斎を訪れていた。

公爵令嬢にあるまじき行動だが机に乱暴に手をついて声を荒げたのだ。

にも関わらず、咎めることもせずニッコリと笑っているだけの父。


「どうしたんだい?」

「どうした?じゃありません!!私と第一皇子との婚約のことです!」

「ああ、そんなことか。いいじゃ無いか幸せなことだろう?」


何が幸せだ。何がいいんだ!何にも良く無い!!

目の前で尚も笑顔を浮かべる父に叫び出したいのを抑えながらも心の中では悪態をつき続けた。

そもそも、父に何を言っても通じないのはアリシアが一番よく知っていた。

父・・・ヴァスタ公爵家カーロン・ヴァスタ公爵は娘のアリシアに関してどんな事柄も勝手に決めては異論を認めない。

それも上から押さえつけてくるのではなく、なんの問題があるのかわからないといった笑顔を向けて反論ができない様にしてくる。

実に厄介な男であった。


「どうして私なのですか!噂では皇子はラピス公爵家のご令嬢と仲がよろしいと聞きます。婚約するのであればラピスご令嬢ではありませんか?」


そう、ユリウェル皇子はラピス公爵家のご令嬢であるミリア・ラピス嬢と日頃からお茶をしており次期婚約者候補だとまで言われていた。

そんなご令嬢がいるにも関わらず面識のないアリシアを婚約者だと言った皇子。

わからないことが多すぎる状況だった。


「そうみたいだね。・・・まぁ、なんにせよ婚約破棄なんてことはできないからね?」

「そんな・・・!!」

「当たり前だろう?この婚約は王自らの申し出だからね」


顎の下で手を組み、笑顔から一変して真剣な表情を向ける父からは逆らう事の出来ないほどの圧力を感じた。

明らかにいつもとは違う。

震える手でドレスを力強く握りしめながら蚊の鳴くような声を絞り出す。


「・・・私から、辞退は、出来ない、のですね」


怖い。逃げ出してしまいたい。でも、婚約は納得できない。


「その通りだよ。よくわかっているじゃないか、アリシア・ヴァスタ」


目を細めて笑う父の顔を見るだけで冷や汗が額から流れ落ちた。

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ヒロインに辞表ってありますか? Reina* @yuyuuta45

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