金食い虫と飽き性 2019/11/07
今日は仕事休み。
休みとはいえ早めに起きて掃除をしようと思っていたけど、いざ目覚ましを止めて体を起こそうとしても全く体が動かない。
どうやら思っていた以上に疲労が溜まっていたらしい。
今年始めから今の職場に勤めているが、日頃の労働時間は朝九時から夜の二十二時だ。
去年までも出勤時間は九時だったが、夜は定時なら十七時半には帰っていたから、今年に入ってからのハードさは火を見るよりも明らかだろう。
なんといっても睡眠時間が足りていないのが大きく、職場への通勤時間が一時間半と比較的長めなのもあって、日々の睡眠時間は基本的には四時間半程度になる。
職場近くに引っ越せばいいのではないかという話でもあるのだが、ルームシェアをしている現状、安い家賃を更に三人で折半しているというこの魅力にはなかなか勝てない。
第一、ボクは浪費家で、貯金というものが全く無いのだ。
転職した理由も、前の職場では副業が許されておらず、もっと稼ぎがいい仕事がしたいと思ったからである。
今年と来年は身を削ってでも稼ぐと自分で決めたので今の生活に全く不満はないが、体を酷使している分、疲れるものはやはり疲れる。
だから休日は時間の決まった約束を入れないと、こうしてお昼や夕方、酷い時では十九時ぐらいに布団から出て、夕飯とお風呂に入って、それだけでは虚しいからと映画の一本でも観て終わる、なんて一日になったりもするのだ。
「日頃それだけ体を酷使してるんだから、休日ぐらいおとなしくしといてもバチは当たらないんじゃない?」
都内へと向かう電車の中、ようやく最近自販機に並びはじめた "あったか〜い" カフェラテを飲みながら彼女が言う。
「でもそれだと、人生がホントに仕事だけになってしまう。体の休息ももちろん大事だけど、心に栄養が行き届かなくなるのもそれはそれで問題だからね。休日を睡眠不足の返済だけに当てる人生なんて虚しすぎるでしょ。」
まぁそれもそうか、と彼女がコーヒーをひと口飲む。
長めに寝るにしても、今日のように最低でも昼頃に起きて、こうして出掛けているぐらいがやはり健全だ。
一日体を全く動かさないというのも、それはそれで不健康である。
「それで、今は何処に向かってるの。」
「都内にある行きつけの靴屋に行こうと思ってね。そこで前々から気になってた靴下を買うつもりだよ。今持ってるロングソックスはあんまり気に入ったデザインがないから、買い足しておこうと思ってね。」
服が変われば合わせる靴も靴下も変わるし、靴が変わるとベルトが変わる。
靴が革靴やブーツならシューキーパーがあった方がいいし、ジャケットなどの羽織物には型崩れしないよう適切な大きさのハンガーがいる。
こうして次々と身に付ける物とその管理にかけるお金が増えていくわけだ。
"服にハマるとホントにロクな事がない" というのはファッション界におけるボクのメンターとも言える人の言だが、今のボクならその言葉にとても共感できる。
おかげでボクの家計は、おかげさまで毎月火の車なのだ。
周囲の人からの反応にその成果が出ているのが唯一の救いである。
「アナタって、無欲そうに見えて案外貪欲よね。」
「そうだね。風俗に行きまくったりとか、毎日何
軒も飲み歩いて馬鹿騒ぎをするとか、シーズンスポーツにシーズン中何回も行くとか、そういう血圧の高い発散の仕方はあまりしない。
代わりにボクみたいなタイプは日々細々と浪費し続けていくから、なんだかんだで欲が深いし、その分お金もかかるんだよね。」
こうして考えてみると "強欲" ではなく "貪欲" とした彼女の表現は、雰囲気として的を射ている気がする。
「なるほどねぇ。まぁ小説でも書いて一発当てて稼ぐかなーとか思ってる人間が、欲深くないワケないか。小説を書くのが好きでやるんじゃなくて、完全にお金目的みたいだし。」
「自分をアウトプットするのも嫌いじゃないけどね。もともとイラストレーターで食べていこうと思っていたぐらいだから。」
「へ?だったらそっちで一発当てればいいじゃない。なんでわざわざ小説なのよ。」
「前に少しだけナレーターの養成所に通っていた事があるんだけど、そこで書いた原稿が先生に褒められたんだ。それまでにも中学の時にやった百人一首大会の保護者向けの作文を先生から頼まれたりとか、ちょこちょこ文章を評価される機会があってね。これで面白い小説が書けるかどうかはまた別の話かもしれないけど、ある程度文章を書く素養はあるみたいだから。」
何故か彼女がとてもうんざりしたような顔をしている。
「いや、なんか、色々手ぇ出してるわよねアンタ。多趣味というか、飽き性というか…。」
「イラストとナレーションに関しては学校や養成所まで行ったくせに、どれも趣味というレベルにすら至ってない気がするから、ただの飽き性と言った方が正しいかな。こんなだからお金が貯まらないんだよね。」
自覚があるならなんとかしたらいいのに。
彼女はそう言って、コーヒーを一息に飲みきった。
「さて、そろそろ降りよう。今日のノルマはこれで十分だし、日記もこれで終わりにしようか。」
「え?まだ昨日言ってた十一月二日の夕方からの話とか書いてないけど?」
「まぁ、それはあんまり気が向かなかったから、何か機会があったら書くよ。」
そう言って席を立つ。
またもうんざりした表情で鼻から溜息をついている彼女を連れて、都内の街へと歩き出した。
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