第15話 大天使(自称)マナエル降臨

 部活紹介のあった7日から約1週間が経った。

 5月もいよいよ中旬に入り始め、季節も少しずつ動いて夏に向けて移り変わっていく。

 新入生を新たに交えた各部活は完璧に新体制として切り替わり、大会へ向けて研磨を続ける日々。

 俺たち演劇部にも僅かだけど変化が起きていた。

 ・・・・・・それもあまりいい方じゃない変化が。


 端的に言って、風見さんと火稟さんと姫咲先輩がナンパ紛いのことをされるようになってしまったんだ。

 風見さんは目立たないタイプだけど、顔立ち自体は普通に整っていると言えるし、友達も多く、人付き合いが上手いタイプだから、上手くあしらっているみたい。

 姫咲先輩は父親が社長、母親がこの学校の理事長ということもあって、高嶺の花として遠巻きに見られることの方が多いけど、偶に命知らずが特攻していくというのを風の噂で聞いた。

 まぁ、そもそも本人は大和以外眼中に無いみたいだから問題にはならないと思う。

 問題は火稟さん。あまり気が強くなくて、人付き合いの苦手な彼女は教室まで上級生が話しかけに来てしまって困っていると本人からは聞いている。

 部活紹介で1年に美少女がいるらしいという認識から、1年に美少女がいるという確信に変わってしまったので、嬉々として会話をしに来るみたい。


 火稟さん曰く、私のことを本気で好きなんじゃなくてとりあえず可愛い女の子と付き合うステータスだとかアクセサリーだとか思っている人ばかりらしく、変に断ればクラスの女子から敵意を向けられかねない状況とのこと。

 今のところなんとかやり過ごせているらしいけど、時間の問題だと思う。


 この問題を解決するには、きっとクラスに味方を作ることが1番いい。

 でも、過去の経験からオタバレを気にしているせいで、気軽に会話にも混じれないというのが現状だ。


「・・・・・・どうするのがいいと思う?」


「確かに玲奈ちゃんは可愛いからねぇ・・・・・・あっ、この際いっそ誰か彼氏を作っちゃうとか!!」


「それは火稟さんの性格上難しいよ」


「やっぱりそうだよね。自分で言っておいて無いって思っちゃったし・・・・・・蒼太君の言う通り、趣味が同じ友達を作るっていうのが1番現実的かな」


 昼休みに風見さんと屋上で弁当を食べながら、何かいい案はないかって考えてみてるけど、これと言っていい案は浮かばない。

 今はまだ教室まで来て話しかけられているだけで済んでるけど、もっとひどい状況になれば、待ち伏せされたり、部室まで押し入って来るかも知れないんだよね。


 中学の時の修学旅行で急にクラスのリーダー格の人が、クラスのオタク層が集まった部屋を訪ねて、ラノベを何冊か持っていかれた上に、色んな人の部屋を回ってこんなの読んでた、なんてどこかじゃなく、完全にバカにした口調で触れ回っていた。

 そんなことをして何か意味があるのかと思うけど、きっとやってる人からすれば、何の意味も無い。

 そういうことを悪いと思わない人種だっているということだ。

 だから、部室にまで来て部活の邪魔をする人がいるかもという警戒はしておいていいはず。

 杞憂であって欲しいけど。


「・・・・・・そろそろ戻ろうか、午後の授業が始まるし。というかそんなことしてたら頭に血が上るよ」


 自分よりも上の方にある貯水タンクがある梯子の部分から顔だけを覗かせた仰向け状態の風見さんと目が合う。

 ごろんと回転して、うつ伏せの状態になった風見さんがぼーっと空を眺め始めてしまった。

 ついでに制服が汚れるということも言ってやりたかったけど、お母さんみたいという反撃が来るのは分かり切っているから、文句をため息と共に喉奥に押し返す。

 それに、彼女はここでよく横になる。きっとあの場所にはこの間持ち運んだシートか何かを敷いているんだろうし、言うだけ無駄ってもんだよね。


「先に戻るよ? そのまま寝て授業に遅れても俺は知らないからね」


「んー、待ってぇ、今下りるから」


 というか俺たちクラス違うし、別に待つ理由なんてないんだけど。

 風見さんからドライバーを借りるのが面倒だったから、自分のドライバーを買って持ってるし、戸締りは最後に残った方がやればいい。

 ・・・・・・学生鞄に常にドライバーを仕込ませた高校2年生がいるらしい。言ってて虚しくなる。


「よっと、よーっし、戻ろーっ!!」


 梯子を途中から飛び降りて下りた風見さんが隣に立って、ググっと伸びをして女性特有の膨らみが強調されて、視線が行きかけたけど背中を向け窓に向かうことで視線を逸らすことに成功した。

 もうちょっとこう、警戒心を持って欲しいなぁ。


「ん? どうしたの?」


 背中を向けたものの、全く歩く気配の無い俺を疑問に思ったのか、風見さんが今にもあくびをしそう程緩く訪ねてくる。

 

「いや、なんでもないよ。授業中寝ないでねって言おうと思って」


「やだなー、蒼太君。私だっていつも寝てるわけじゃないんだよ?」


「ごめん、それもそうだね」


「6時間中2時間は起きてるよ!」


「それは世間ではいつも寝てるって意味だと思うんだけど」


 こんなんで中間テストはどうやって乗り切るつもりなんだろう?

 まさか、テストで赤点を取ったら追試があって合格するまで部活には参加出来ないことを知らないわけじゃないよね?

 窓を潜りながら、その可能性もあるかもなんて思ったけど、進級出来てるわけだしそれは無いよねと即座に切り捨てた。


 風見さんと揃って階段を下りて、俺たちは自分たちのクラスへと歩き出した。


***


「・・・・・・ねぇ、大和」


「何だよ、蒼太・・・・・・いや、言わなくても分かるけどな」


 放課後になって部活動が始まる時間。

 俺たち演劇部は体力作りの為にグラウンドに出て、ランニングをこなして休憩中だったんだけど、どうにもさっきから気になってしまうことがあった。

 さっきじゃなくてここ数日の間からずっと気にしてたんだけど・・・・・・木陰からずっと黒髪の女の子が俺たちの方を見ているんだよね。

 本人は隠れてるつもりなんだろうけど・・・・・・体が半分以上木陰から出てるし。

 最初は勘違いかとも思ったんだけど、こうも連日毎日同じことをされていれば、流石に見ているのが演劇部だってことは分かる。

 だからって声をかけていいのかどうか・・・・・・。


「今日も見てるんですね、柚月ゆづきさん」


「知り合い?」


「はい、同じクラスの柚月真那ゆづきまなさんです。最初は学校に来てなかったんですけど、確か部活紹介の日から登校してきたんですよ」


「へえ、その柚月さんとやらがここ数日ずっと演劇部を見てることに関して何か分かる?」


「全く分かりません」


 どうやら、謎の黒髪少女の正体は火稟さんと同じクラスの柚月真那さんって言うらしい。

 頭の両サイドを飾る緩いお団子が特徴の髪型で、美人。目的は不明。


「火稟さんちょっと話聞いてくれば?」


「水樹センパイ、私がクラスの子と上手く話せるとお思いで?」


「なんでそんな自信満々に言うの? ――はぁ、風見さん。ちょっといい?」


 ちょうど水飲み場から帰ってきた風見さんを手招きと一緒に声を出して呼び、とりあえず声をかけてみてと頼むと2つ返事で柚月さんとやらの所に駆けて行った。

 流石の行動力。


「ねえ、あなた演劇に興味があるの?」


 急に近寄ってきて声をかけられたことにビクッとなって、木陰に隠れようとする柚月さんとやら。

 でも、決意を固めたのか、逃げ場がないと悟ったのかは分からないけど、割とすぐに木陰から姿を現した。

 そして、何かバッと擬音が付きそうな決めポーズをして、高らかに叫ぶ。


「私の結界を見破るとはやるわね! 人間の少女! 褒めてあげるわ!」


 ――まさか、あれは!?

 仰々しいポーズに、結界、人間の少女という単語を聞いて、俺はすぐにその考えに至ってしまった。

 ポカンとしている俺たち演劇部を見て、満足そうに頷く柚月さんとやら。


「おっと、姿を見せたからには名乗らないといけないわね・・・・・・我が名は大天使マナエル!! 天界より舞い降りた大天使の1人!!」


 間違いない、あれは中二病だ・・・・・・。

 思春期特有の自分には何か特別な力が、という妄想や特別な存在だという妄想に憑りつかれた人が発症するというラノベやアニメではお馴染みの後に黒歴史となって本人を苦しませるであろう病気。

 俺にもちょっとだけ馴染みがあって、見ていてなんだかとっても胸が痛い。

 

 更に、静寂が場を支配して、なんだか時が止まったような錯覚に陥った。

 どうしよう、この空気。


「・・・・・・あ、あれ? もしかして、あたしやらかしちゃった?」


 空気がおかしいと気が付いたのか、仰々しいポーズのまま固まって、徐々に顔が赤くなっていく。

 

「う、うわぁぁぁぁぁああああん!!!!!」


 やがて、顔が余すところなく真っ赤に染まり、声を上げて逃げ出していってしまう。

 

「えっと、私追いかけた方がいい?」


「どうなんだろう・・・・・・?」


 叫び声を上げながら逃げていく自称大天使こと柚月真那さんを俺たちは見送ることしか出来なかった。

 そして、校舎の方を呆然と見つめる俺たちを不思議そうに首を傾げながら、姫咲先輩が合流したのだった。


***


 次の日の昼休み、弁当を持って部室に行こうとしていたら校舎の出入り口で柚月さんにばったり会ってしまった。

 お互いに顔を認識した途端に、言葉にしにくい微妙な空気が流れ始めるけど、柚月さんがすぐに踵を返して逃げようとする。


「待って!」


 俺は咄嗟に声を投げかけて、柚月さんは背中を向けたまま止まった。

 やばい、呼び止めたのはいいけど、何て言おう。


「用が無いならもう行っていい?」


 その声には、昨日のような覇気と言うか元気と言えばいいのか、とにかく別人のように暗い声だった。

 

「えっとさ、どうして演劇部をずっと見てたのか、気になるんだけど・・・・・・良かったら聞かせてもらえないかな?」


「・・・・・・それを話して私に何の得があるの?」


 明らかに突き放すような言い方、相当警戒されているみたいだ。

 それでも一応会話を続けてくれる辺り、根はいい人なのかもしれない。


「もしかしたら、何かが少しだけ変わるかも知れないよ?」


「はぁ? 何よそれ?」


 心底呆れた、という柚月さんの心情がしっかりと乗った声に、俺も我ながらバカなことを言ったと言ってしまったあとで気が付いた。

 言葉に迷う俺の方に向き直り、ジッと見てくる。


「あなた変な人ね、あたしが言うのもなんだけど」


「自覚はあるんだね・・・・・・とりあえず、演劇部の部室に来ない? ご飯でも食べながら話そうよ」


 無言で頷いて、柚月さんは俺の2、3歩後ろを黙って着いて来る。

 終始、お互いが無言のまま、演劇部の部室に辿り着き、予め受け取っていた鍵で扉を開けて中に入る。


「・・・・・・さて、ここなら誰にも聞かれないよ。話してくれるんだよね?」


「いいわ、まずあたしは中二病だった。というか今もそれを患っている、っていうのは言わなくても分かるわよね?」


「まあね、俺もその道はちょっと足を踏み入れかけたし」


 言いながら、頷く。

 その時の中二病の想像力を今の作家という職業に活かしているわけだから、全く無駄だったとは言い切れないけど。


「アニメとかラノベ、ゲームにもハマったあたしはすぐにその魅力に憑りつかれたわ。自分にも実際にそんな力があるって信じて、自分は特別だって疑わなかった。聖なる力を持った、大天使マナエル。正直、これは妄想なんかじゃなくて、もうあたしっていう人間を形成する上で欠かせないものになってしまっているの」


「・・・・・・うん、続けて」


「見事に中二病を発症したあたしは、クラスどころか学校で浮いた存在になって孤立したわ。それでまた自分は特別な存在で天使なんだっていう妄想に拍車をかけてしまった。でも、高校に上がる前に現実を見てしまったのよ」


 俺から視線を外して、窓の外の空を飛び回る鳥を見つめる柚月さん。

 それが、俺には何か別のものを見ているように見えて仕方がなかった。


「自分は特別なんかじゃなくて、特殊、ただの変わり者のレッテルを貼られた柚月真那っていう友達がいないぼっちの人間だってことに気が付いてしまったの。それからはマナエルっていう自分の一部を押し殺して、普通になろうとしたわ。中学では手遅れだったけど。高校でなら、と思って中学の知り合いが誰もいないここを選んで、入念に準備をした」


「準備?」


「普通の女子高生になれるように、流行もたくさん調べて、お洒落も頑張って、とにかく普通を目指したの。まぁ、そのせいで登校は遅れちゃったんだけど・・・・・・それで、登校初日の部活紹介で、あなたたちを見つけたの」


 見た、ではなく、見つけた。

 似たような言葉だけど、意味は違う。

 見るは文字通り、閲覧していること。

 見つけたは自分の意志で探していたものを発見したということだ、と個人的には思う。


「もしかしたら、演技っていう部分でなら、あたしのこの中二病も浮かないんじゃないかって、ようやく仲間が出来るんじゃないかってちょっと期待しちゃったんだと思う。普段から演じている訳じゃないってことは、よく考えれば分かることなのにね」


「だから、演劇部に興味を持って、声をかけるタイミングを窺っていたってこと?」


「そうね、その解釈で間違いないわ。結果は大失敗だったけど、これで分かった。やっぱりマナエルとはもうお別れをして、普通の女子高生として生きるべきなんだって。恥ずかしい想いはしたけど、おかげで目は覚めたわ」


 ありがとうと呟き、寂しそうに笑って、部室から出て行こうとする柚月さんを俺は止めることが出来ない。

 世間から見れば中二病は変わってると見られて、大体が疎まれると思う。

 それを個性と受け止め、真っ直ぐに向き合える人間なんてほんの僅か、ごく少数だろうし、普通に戻れるなら戻った方がいい。

 それは、本人が心の底から望んでる場合だけだけど。


「――柚月さん!!」


 扉の外にスタンバイしていた火稟さんが扉を勢いよく開けて、出て行こうとしていた柚月さんの前に立ちはだかる。

 

「えっ!? 火稟さん!?」


 まさか火稟さんがいるだとか思ってもいなかったんだろうね。でも、俺を睨まないで? この状況俺が仕組んだ訳じゃないから。

 火稟さんは元々昼休みは部室でご飯を食べてるんだし、部室の外にいてもおかしくないかなとは思ってたけどさ。

 多分、中で俺たちが会話してることに気が付いて、終わるまで待っていたんだ。


「柚月さん、カッコいいよ!! 誰に何を言われようと自分を貫き通したんだよ!? それって、とってもカッコいいことだよ!!」


「か、火稟さん? 分かったから落ち着いてよ」


「――私は・・・・・・玲奈はオタクだってことがバレて仲間外れにされたり、からかわれたりすることが怖くて、自分をずっと偽ってちゃんと話せる友達もいなかったんだよ?」


 柚月さんが目を丸くし、何かを言おうとしているけど、言いたいことがまとまらないのか、ただ口を開けたり閉じたりを繰り返す。

 その間にも、火稟さんの言葉は紡がれていく。


「だから、偶然とは言え、柚月さんの話を聞いて、ただすごい! カッコいいって思ったの!! お別れなんて言わないでよ!!」


「――誰からも理解されないのはもうたくさんなのよっ! 勝手なこと言わないで!!」


「自分の一部なんでしょ!? 簡単に捨てちゃってもいいの!? 捨てられるの!?」


「捨てなきゃいけないのよ!! そうじゃないと、あたしは・・・・・・また、独りぼっちなんだから!! これでいい、やっと普通になれるの・・・・・・」


「嘘つき!! 捨てていいって思ってる人が、そんな顔をするわけない!! 出来る訳ないよ!!」


「あなたに何が分かるのよ!?」


 火稟さんは、力を抜いて笑みを浮かべると、柚月さんとの距離を少し詰める。

 柚月さんはその分後ろに下がるけど、火稟さんがまた距離を詰める、柚月さんが離れるを繰り返し、やがて壁のせいで下がれなくなった柚月さんの前に火稟さんが立った。


「分かるよ。玲奈もずっと1人だったんだから」


「でも、今の火稟さんには居場所があるじゃない・・・・・・あたしとは違う」


「だからね、柚月さんも演劇部に入ってくれないかな? それで、玲奈と友達になってください」  


「・・・・・・あ、あたしは。変わり者よ?」


「うん」


「・・・・・・きっと一緒にいたら迷惑をかけるわよ?」


「そうかもね」


「マナエルとか言い出して、周りから変な目で見られるわよ?」


「それは大変だね。だから、玲奈や演劇部の皆の前だけにしておけばいいよ。マナエルのこと、きっと認めてくれるよ」


「――本当にいいの?」


「うんっ! 私は、ずっと趣味のことを話せる友達が欲しかったんだよ?」


 柚月さんは顔をくしゃくしゃにして、火稟さんに抱き着いた。

 やがて、嗚咽が聞こえてきて、それが聞こえなくなるまで、5分ぐらいは火稟さんと抱き合っていた。


「水樹センパイ、というわけなので」


「見てたから分かるよ。とりあえず、風見さんには連絡しておくよ」


「先輩、迷惑をかけたわね」


「迷惑をかけた風には見えないなぁ・・・・・・でも、良かったね」


「そうね、先輩に話して良かったわ」


 散々泣いたおかげで、心の奥底に溜まっていたものもちゃんと洗い流すことが出来たのか、柚月さんは背筋をピンと伸ばし、不敵な笑みを浮かべていた。

 

***


「というわけで、今日から演劇部に加わる柚月真那さんです。何か挨拶しておく?」


「そうね、なら・・・・・・我が名は大天使マナエル、改め柚月真那!! ここに降っ臨っ!!!」


 放課後、皆を集めて柚月さんの紹介と俺たちの自己紹介を終える。

 高らかに名乗りを上げた柚月さんは、どこか不安そうな顔をしていたけど、風見さんも大和も姫咲先輩も、新しい仲間を歓迎してくれている。

 

 俺と火稟さんはその様子を輪から少し離れて窓際に立って見ている。


「火稟さん、やっぱりちょっと変わったよね」


「そう、なんですかね? 確かに部活紹介の演劇で私の弱さが皆さんに迷惑をかけてしまったって思ってからはちゃんと成長して歩きたいって思ってますけど、急にそこまでは変わらないと思いますよ」


「自分のことを話したことのない人に打ち明けたり、ああやって啖呵を切れるのは成長したってことじゃない?」


「あ、あの時は必死で・・・・・・って思い出させないで下さいよ!! あれ、思い返せばめちゃくちゃ恥ずかしいんですから!! というか本当に何様だって話ですよ!!」


「でも、友達が出来て良かったね。しかも同じクラス」


「それはそうですけど、多分、クラスじゃアニメとかの話はしないと思います。皆が皆受け入れてくれるわけじゃないってことは知ってますから」


 柚月さんがこっちを見てきて、火稟さんがその視線に気が付いて、俺の方を見てきた。

 多分、輪に加わって話してもいいかってことを確認したいんだろうから、頷いておく。

 

「どうしたの? 柚月さん」


「・・・・・・真那って呼んでよ、友達なんでしょ? 私も玲奈って呼ぶから」


「――うんっ、真那!」


「よろしくね! 真那ちゃん!!」


「先輩には言ってないんだけどっ!!!」


 便乗して柚月さんのことを名前呼びした風見さんがツッコミを受け、皆が笑う。

 また賑やかになりそうだなぁ、と窓の外に見える緑に染まり始めた木々を見ながら、これから先の未来のことを想像して、少し笑ってしまった。

 ちなみに、柚月さんはよくコスプレ衣装を自作しているらしく、衣装を作れるというハードルが高く見つかりにくい人材が入ってきてくれたことに、皆して喜んだのはまた別の話。

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