第8話 人間関係というのはやはり複雑である

 初めて演劇部の活動をしてから1週間が経ち、親睦会当日になった。

 この1週間、体力作りの為にランニングをしてその度に火稟さんが燃え尽きたり、筋トレをして火稟さんが燃え尽きたり、滑舌トレーニングをして俺と大和の舌がぐちゃぐちゃになったり、エチュードをして大和が筋肉だったりと、中々に充実した日々を過ごせていた。


「・・・・・・早く着きすぎたな」


 13時に駅にあるオブジェの前に集合で、今は12時20分。少し小説を書いてから来ても良かったのかもしれないけど、集中したら絶対に遅刻してしまうし、仕事としても空いた時間にちょっとだけ書くというのは中途半端になりかねないから、やることもないし早めに出たらこれだよ・・・・・・。


 近くにあった鏡でなんとなく自分の姿を確認し、苦笑をしている自分とご対面。

 今日の俺の服装はシンプルな無地の淡い緑色のTシャツとロング丈Tシャツを重ね着して、下はこれまたシンプルな黒スキニーとスニーカーという恰好だ。

 

 もっと適当でもいいのかも知れないけど、うちにいるお洒落番担当こと詩音がそれを許してくれないから、詩音が家にいる場合出かける時は必ずファッションチェックが入ることになっている。

 まぁ、小説の登場人物の服装の描写にはすごく役立っているんだけど。

 

 ちなみに、詩音に黙ってクソださファッションで出かけると拗ねて3日間は口を利いてくれない。


「あれ? 早いね、水樹君!」


「風見さんこそ早いね、まだ30分以上前だけど」


 スマホで小説でも読んでおこうかと思っていたら、風見さんが小走りでやってきた。女の子の小走りってなんか可愛らしいよね。

 

「楽しみだったから、つい早く来ちゃったんだけど・・・・・・良かった、水樹君がいてくれるなら待ち時間も退屈しなさそうだよ!!」


 えへへーと頬を緩ませて微笑む風見さんを見ていると思わずこっちまで頬が緩んでしまった。

 そのまま視線を上から下へと移し、服装を観察。

 上は白色のニットセーターで下は赤って言うよりもワインレッド感のあるズボンっぽいスカート、キュロットスカートで足元は紺色のスニーカーを履いている。

 さらけ出された太ももがとても眩しいと個人的には思います。制服だとそこまで足に目がいかないのに私服だと変わって見える、不思議。

 

「そ、そんなにジロジロ見られると・・・・・・その、恥ずかしいんだけど・・・・・・この服、変・・・・・・かな?」


「え? そんなことないよ? ごめん、人間観察っていうか癖になっちゃってて」


「な、なるほど。小説を書くんだから観察も必要なんだもんね・・・・・・それで、どうかな?」


「・・・・・・何が?」


 もじもじとして顔をほんのり赤らめながら、何かを問うてくる風見さんに対して逆に問いかける。


「もう!! 服の感想だよ!!」


「えー、言わないとダメ? そういうのは彼氏の役目なんじゃないの?」


「ダメ!! ・・・・・・女の子はね? 頑張ってお洒落をして、それを可愛いって言ってもらえるだけでも嬉しいものなのです!!」


 詩音も同じようなことを言っていたような気がする・・・・・・僅かな変化でも気づいて欲しいものだーって。

 でも、前髪何cm切っただとか、ネイルがどうのとか、男には分からないものだと思うよ? 髪形が変わってるなら分かるけど、言わないで気づかれないで勝手に拗ねるのは自分勝手もいいところだと思うよ?

 まぁ、服装やら分かりやすいところは言葉を濁さずにストレートに伝えるべきだとも思うんだけど。


「・・・・・・いいと思います、お洒落で」


「ありがとー! ちょっと間が空いたのが気になるけど、まあ及第点です!」


 口が裂けても可愛いなどとは言えない。

 ヘタレた部分もそりゃあるけどさ、なんか可愛いとか簡単に口走ることが出来ない。

 そういうのは付き合った相手に言ってあげたいもので、誰彼構わず言ってしまいたくない。・・・・・・心の中では言うけどね!


「あれ? センパイたち早いですね・・・・・・ってもしかして玲奈が時間間違えてましたか!? ご、ごめんなさい!!」


 などと話していたら、火稟さんがとことこという感じに歩いてきて、時間を間違えて遅れたんじゃないかと泡を食ったように慌て始めた。

 やっぱり背も小柄で小動物チックな彼女があわあわとしていると、どうにも庇護欲というものが湧いてしまう。


「遅れてないよ~! 私たちが早く来すぎただけだから、落ち着いて?」


「そうそう、むしろ時間に余裕を持って動けるのはいいことだよ」


 俺と風見さんの言葉に火稟さんは胸に手を当てて撫でおろすような仕草をしてホッとした。


「良かったです・・・・・・あ、遅れましたけど、こんにちは」


 火稟さんはぺこりとお辞儀をし、風見さんの隣に立った。

 そのまま2人が談笑をし始めたので、暇になってしまった俺は再び人間観察に勤しむことにする。


 火稟さんの服装は白い無地の服の上から薄めのグレーのカーディガンを羽織り、折り目が付いてふくらはぎ程度まである長さの明るめの茶色のスカートに黒色のショートブーツを合わせたものだ。

 あのスカートってなんて名前なんだろ・・・・・・プリーツスカートでミモレ丈? っていうらしい。初めて知った。ありがとうネットの海、また1つ賢くなれた。


「この流れだとそろそろ大和も来てもいい頃だと思うんだけど・・・・・・」


「兎飛びですかね?」


「私はスクワットだと思うな、ほらあの右足出して腰を落として左足を出して腰を落としてのやつ。あれならやりながら移動出来るでしょ?」


「なんの筋トレをやりながら来るのか予想するのはやめない? 大和だって学外ではやらないよ」


 学内ではやるだろうけど、もはや大和の奇行は筋肉と一緒に学校中に知れ渡っているから。

 まぁ、大和はこれで人目を気にせず筋トレ出来るなって大喜びだったけど・・・・・・メンタルが異次元すぎる。

 あれで爽やかなイケメンフェイスなんだから宝の持ち腐れだよなぁ、黙っていればモテまくりだろうに。

 ・・・・・・というか筋トレをしながら来るっていう大和の考え方に染まってるよ、2人とも。


 





――来ない。・・・・・・もうあれから30分経過して、約束の時間まで5分を切っているのに?


「獅童センパイって時間にルーズなタイプですか?」


「いや、あいつは体育会系らしく、10分前行動が基本だよ。大和が遅刻するなんて何かあったのかも」


「まさか事故とか!?」


「おう、待たせて悪い!! ・・・・・・どうした? 遅れて来た筋肉を見るような目をして」


 事故かもなんて思っていると、ちょうど大和が来た。

 恰好は無地のTシャツに紺色のジャケットを羽織り、下はジーパンに白いスニーカー。


「お前が今答えを言ったよ、遅れるなんて珍しくない? 何かあったの?」


 そう聞くと、大和はきょとんという顔をして、ニカッという感じに歯を見せて笑顔になった。


「いやー! 大したことじゃないんだけどな、そこで人が車に轢かれそうになってたから助けたらその人にすっげえ感謝されてな、それで遅れたんだ! 悪い!」


「サラッと大したことを口走ったね・・・・・・まだ13時にはなってないから、遅れてはないよ」


 とんでもないイケメンムーブをサラリとやってのける男だなぁ。筋肉のことを抜けば本当にいい男なのに、もったいない。


「いや!? え!? 今のそんなに簡単に流していい話なんですか!?」


「そうだよ!? というか獅童君ケガはないの!?」


「ちょっと肘と膝を擦りむいたかもな、大丈夫! かすり傷だ! 助けた相手も無事だしケガ1つ負わせてねえ!! なんか助けたあとぼうっとして顔を赤くしてこっちを見てたぐらいだな!」


「それ相手に大やけど負わせちゃってるじゃん」

 

 それは完全に落ちてますね、とんでもないもの盗んできてるじゃないか。


「マジでか!? 見た感じどこもケガしてなかったぜ!?」


「うん、分からないならいいよ。全員揃ったし行こうか」


「これも慣れるしかないんですかね?」


「慣れるしかないんだろうね・・・・・・」


 親睦会という名目のただ集まって遊ぶだけの企画が始まった。


***


まずは、ボウリングだ。

ちなみに、ボーリングと表記するとドリルでの穴あけ作業のことらしいので注意、どうでもいいか。


「オラァッ!! よっし、ストライク! ・・・・・・いや、ピンの弾け飛び方に勢いが無かったな・・・・・・くそっ!!」


「そういう競技じゃないから。ピンの飛び方に芸術点は付かないよ」


 おかしい、俺が投げてもガコンって感じの音なのに、大和が投げたらドゴンって音がしてピンが勢いよく弾け飛ぶんだけど・・・・・・。


「えいっ! あー、1ピン残っちゃった・・・・・・残念!」


 風見さんは良くも悪くも普通といった感じかな。スコアもまずまずだし。

 個人的には女の子が気合入れる時のえいって掛け声がとても可愛らしいと思うので芸術点を上げたいところ。


「お、重い・・・・・・んしょっ! あ、ガーターだ・・・・・・」


 火稟さんは辛うじて片手で投げられてはいるけど、投げる際に球が重すぎるのか踏ん張りが効いていなくて、ガーターばかりだった。


 


 ――次に、ゲームセンター。

 

「・・・・・・ふう、フルコンボ、です」


「す、すごいね。最高難度の曲なんだけど・・・・・・」


「いえ、スコア的にまだまだですよ。ランキングを見ても上には上がいますし・・・・・・」


 一般人としては十分レベルにいると思うんだけど・・・・・・まぁ、俺も小説書いてる時には他の作者と比べてまだまだだなって思うし、小説に関しては売上とか目には見えないけど、ランキングで表示されてしまう音ゲーなんかはどうしてもスコアに拘らざるを得ないんだろう。


 どうやら、火稟さんは相当なゲーマーらしい。


「うーん、やっぱり取れないなぁ・・・・・・」


「あのぬいぐるみ? 確かにあれは大きいし、ちょっと位置が悪いかもね」


 風見さんはUFOキャッチャーでなんかゆるっとした表情の犬のぬいぐるみを狙っているみたいで、うーん、なんかこう、でかい。

 ひっくり返って足が上に向いている状態でアームがギリギリ届くぐらいの隅にいってしまっている。


「・・・・・・私ちょっと両替してくるから、水樹君ちょっとここで待ってて!」


 そう言うと、風見さんは走りかけてすぐに小走りになった。

 店内では走ったら危ないってことを思い出したんだろうなぁ・・・・・・。

 俺も少しやってみようかな。UFOキャッチャー。


「ただいまーっ! ってあれ!? なんかすごい惜しいところまでいってる!?」


「あ、ごめん。勝手にやって位置ずらしたけど、良かった?」


「え、あ・・・・・・うん! というかもう取れそうだし、そのまま取ってよ!」


 よし来た。

 きっちりとアームを引っかけるようにして、穴に引きずり落とすと賑やかな店内により一層賑やかなファンファーレが鳴り響く。

 こういうアームが中途半端に強いタイプは1回で落とすよりも、アームを引っかけて何度も位置をずらした方が取れる確率が高いから、とりあえず上手くいってよかった。

 取れたぬいぐるみをそのまま風見さんに手渡すと、瞬きを数回した後にわたわたとし始めた。一体なんだろう?


「いや、それは水樹君が取った物だから・・・・・・欲しいんだけど、その受け取れないっていうか・・・・・・ねっ?」


「ねって言われても、俺別にこれ欲しくないし・・・・・・なんとなくやってたら偶々取れただけだし、取れた物をどうしようと俺の自由でしょ? だからあげるよ」


「だったらせめてその分お金を!!」


「じゃあこれ捨ててもいいんだね? 荷物になるし」


「ダメ!! ・・・・・・うー・・・・・・ありがとう」


 最初から素直に受け取ってくれればいいのに、ていうかそんなあからさまに納得いってないみたいな顔されても困るんだけど・・・・・・。

 

 ついでに言うと、俺はそもそもお金には困ってない。

 賞を取った時の賞金と、これまでの原稿料に映画化した時の原作料とかほぼ使ってないし、というか使うことがほとんどないんだよね・・・・・・。

 俺がお金を使うのは本とか、ゲームとかだし使う機会の方が少ないから。


 だから、人の為に使うぐらいがちょうどいい。


 なんだかんだいいながら満面の笑みでぬいぐるみをぎゅっと抱きしめている風見さんを見て、まぁ、なんだ、そんな風に思った。


「・・・・・・水樹センパイ、あそこで他のゲームには目もくれずに延々とパンチングマシンをやり続けている人はどうしましょうか?」


「そのまま放置で大丈夫だよ、満足したらその内戻って来るから」


 店内記録はとっくに超えてるし、あとはなんで利き腕じゃない左で右と同じぐらいの数値出せるのかが謎。

 

「火稟さんって利き腕は?」


「左ですけど、急にどうしたんですか?」


「いや、なんとなく暇潰しで」


「私は右だよ!」


 袋にぬいぐるみを入れた風見さんがちょうど戻ってきた。

 奇遇だね、俺も右利きなんだ。


「風見センパイそれ取ったんですか? すごいですね」


「いや、私じゃなくて水樹君が・・・・・・じゃーん!! いいでしょー、可愛いでしょー!」


 受け取るの渋ってたのに、やっぱり嬉しそうじゃないか。

 せっかく袋に入れてたのにわざわざ出してまで、見せなくてもいいのに。


「確かにいいですね・・・・・・私も欲しい物があるんですけど、どうにもUFOキャッチャーは苦手で・・・・・・」


「まぁ、あそこの筋肉さんが終わるまでまだまだかかりそうだし、時間潰しにやってみようか? どれ?」


「え、いやそんな!! いいですよ!」


「いいから、どれ?」


 申し訳なさそうに伏し目がちの表情になって、結局目的の物がある筐体へと歩き出した火稟さんは、とあるフィギュアの筐体の前で立ち止まった。


「これ、なんですけど・・・・・・」


「棒の隙間に落とすタイプかー・・・・・・確かに難しいね」


 向きを変えたり、持ち上げるだけじゃなく押し込んだり、一般的な穴に落とすタイプのぬいぐるみよりも難易度は高いと思う。

 実のところ、俺はそこまでUFOキャッチャーが得意というわけではない。

 それこそ、上手い人がやるやり方なんて真似しても出来ない。

 コツコツとやってくのは割と好きなんだけど・・・・・・。


「・・・・・・とか思ってたら数回で取れるとは思わなかった」


「あ、あのセンパイ本当にこれ貰っちゃっていいんですか? 私は嬉しいんですけど・・・・・・」


「いいよ、そもそもそういうつもりでやってたんだし。俺そのアニメよく知らないし」


 お礼を言って目を輝かせながら、リュックに箱を押し込んでいる火稟さんを横目で眺めていると、視界の端から歩いてくる大和と風見さんが視界に入ってきた。

 どうやら、ゲームセンターはここまでらしい。



 カラオケに来た。

 時間的にここが最後になるっぽい。

 まぁ、ラウンド1だから全部同じ施設内だし、移動時間はかかってないんだけど。


「2年B組所属、風見晴恋! 趣味はヘアピン集め! 歌います!」


 どうやら歌う時に名乗って趣味を言わないといけないらしい。

 人数の少ない親睦会だからまだいいものの、これがクラス会とかだったらやれと言われても絶対やらない。


 おっと、黒い感情が流れ出しそうになったけど、風見さんの元気な歌声で浄化されていく。


「い、1年C組所属、火稟玲奈、です。趣味はアニメやラノベ、あとはゲームです・・・・・・う、歌わせていただきます!」


 元気な歌声だった風見さんとは対照的に、火稟さんは控えめだけどよく通る声をしていると思う。

 

「2年A組! 獅童大和!! 趣味は料理、歌うぜ!!」


「えっ!? 嘘、筋トレじゃないの!?」


「筋トレじゃないんですか!?」


「大和にとって、筋トレは趣味じゃなくて生きる理由だからね」


「よく分かってんじゃねえか、マッスルメイト!!」


 俺はそれを何度否定すればいいんだろう・・・・・・あとマイク持ったまま叫ぶのはやめて、うるさくてうるさいから。


「あー、2年D組、水樹蒼太。趣味は小説の執筆と読書、歌います」


 カラオケなんて妹が行きたがった時にしか行かないから、人前で歌うのはすごい緊張するな・・・・・・やばい、いつもの癖で立ち上がってしまった。

 立った方が声が出る気がするから、俺はいつも立って歌ってるけど、これってすごいノリノリなやつって感じで恥ずかしさがある。

 でも、なんとなく手拍子してくれてるみんなのおかげで恥ずかしさもなく、歌い切ることが出来た。


「じゃあ、次私ね! 火稟ちゃん! デュエットしようよ!」


「あ、疲れたので遠慮していいですか?」


「えぇ!? 断られるなんて思ってもなかったよ!?」


 まぁ、色々とあったけど・・・・・・今日は楽しく過ごせてよかった。


***


「まさか水樹君と帰る方向が一緒だとは思わなかったな~!」


「そうだね、そこそこ近所なのかもしれないね」


 火稟さんを送り、大和と別れたあとの帰り道。

 帰る方向が偶然にも一緒だということもあって、風見さんと2人夜に染まり始めた道を歩く。

 夕日がまだ、頑張って存在感を主張しているけど、すぐに夜に飲み込まれることは間違いないだろう。


 影が長く、伸びて俺たちの先を歩いているのを見ながら、今日のことを話しながらあれが楽しかっただのと雑談に花を咲かせていた時のことだった。


「あれ? 晴恋! 今帰り?」


 影が伸びている先に、別の人影がぽつりと立っていて、点灯し始めた街灯がその人物の存在を更に引き立てる。


「あっ!! お姉ちゃん!! ただいまー! 演劇部の親睦会だったんだよ!」


 小走りでその『お姉ちゃん』と呼んだ存在の元に駆けていく風見さんを、俺は呆然と見送ることしか出来なかった。

 





















――だって、俺はその人を知っている。




「紹介するね! 私のお姉ちゃん! 風見桜花かざみさくらお姉ちゃんです!」


「妹がいつもお世話になっています。えっと・・・・・・」


「・・・・・・あ、み、水樹・・・・・・蒼太、です」


 ようやく言葉が絞り出せて、ひりつくような痛みを伴って言葉となって空気に混じり、消えていく。

 そのか細く、弱弱しい発言が、彼女たちの元に届いたのかどうかは分からない。


「どうしたの? 水樹君・・・・・・あ、そっか! そりゃこと高瀬桜花たかせおうか が急に目の前に現れたら緊張するよね!!」


「あはは・・・・・・有名って言っても最近は学業優先であまり仕事出来ていないんだけど・・・・・・」


 風見さんを少し大人にしたようなその女性は困ったようにはにかんだ。

 

 あぁ、そうか・・・・・・よく見れば、やはり姉妹だと思える程には面影がある。

 点と点が線になって、俺は答えに辿り着いた。


 























 ――風見さんが、俺の映画化した作品のヒロイン役を演じた女優の妹だという答えに。


 だとすれば、素の演技力の高さにあの世界を表現してみせた演技にも納得がいってしまう。

 恐らく、ずっと姉の背中に憧れて、追いかけてきたんだろう。


 そこからのことは、よく覚えていない。

 あれからどうやって、自室に辿り着いたのか、全く記憶に残っていない。



 ただ、俺のファンだと言ってくれて嬉しかった気持ち、俺が彼女の身内の人生を壊してしまったという気持ちがごちゃ混ぜになった、あの時の、夕日の赤と闇夜が混ざり合ったあの空の色は、今の自分自身のようだと、自嘲してしまったことだけは・・・・・・。



 

































――どうしようもないぐらい鮮明に、記憶に残ってしまっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る