第3章 2

「あら。しのぶちゃん、どうしたのかしら」

 ほのか様が知恩院と公園とを区切る門に消えていくしのぶちゃんを見送りながら言った。

「それはともかく、ヘル子さん、チルの所在はご存じでしょうか?」

「はぁ。チルですか」

 チルを知らないマコトはなんでここでそんな話、と思うが、ほのか様とヘル子さんは通じているらしい。黙っていることにした。

「昨夜の地震。急激な気温上昇。つまるところ、再び扉が破られたわけではないでしょうか」

 ほのか様は空を見あげる。どんよりと分厚い雲が覆っていた。

「あれを破れるのは、神を喰らう狼であるところのチルしかおりません」

「そう、ですね」

 ヘル子さんは思案する。

 彼女が真面目な顔になるのはほのか様に関わることだけだ。そして、今の最優先事項は「ほのか様の平穏なる普通の生活を維持すること」。

 マコトは嫌な予感がした。

「調べてまいります」

「ええ。チルにも……わかってもらえればいいけど」

 ヘル子さんがスカートの裾をまくり上げて、走っていく。あれでけっこう足は早かった。

「さて、二人きりになりましたわね」

 どことなく色っぽいセリフだが、マコトは寒気しかしなかった。特に、懐のほうに。

「お腹、すきませんこと?」

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