第494話 過ぎ行く日々(10)
「『巫女』・・・・・・連華寺さん。何でここに・・・・・・」
風音の姿を見た影人は癖で風音を光導姫の名で呼びかけたが、蓮華の存在を思い出しそう呼んだ。
「こんにちは帰城くん。確かに驚くよね。私もさっきそこで真夏さんと出会って帰城くんの事を聞いた時は驚いたわ」
一方の風音は特に驚いた様子もなく影人に微笑みを向けた。影人と同じく学校帰りなのだろう。風音は制服姿だった。影人と風音の会話を聞いていた蓮華は意外そうな顔を浮かべた。
「なんだい。知り合いかい。清正の孫とあんたが知り合いなんて世間は狭いもんだね」
「私もまさか風音と一緒にこっちの仕事をする事になるとは思わなかったわ! はっはっはっ!」
蓮華の言葉に同意するように真夏が笑う。蓮華はそんな真夏を見て意味深に笑った。
「あたしもまさか榊原の術者・・・・・・いや、あんたらの家系は呪術師って呼び名に誇りを持ってたか。あんたらの一族とまた仕事をする事になるとは思ってなかったよ。あんたらの呪術師としての系譜は何代か前に途絶えてたはずだろ?」
「え、
「ああ。一緒に仕事をした事もあるからね。あいつはうるさいが優秀な呪術師だったよ」
まさかといった顔になる真夏に蓮華は懐かしむような様子でそう言った。
「??? ウチの蔵にあった記録だと、私の家系で呪術師をやっていた人は大正時代が最後だったと思うんですけど・・・・・・まあ私の勘違いか! 改めまして、初めまして! 榊原真夏です! 大学1年で今はフリーの祓い屋やってます! 久しぶりの榊原の呪術師です! 今日はよろしくお願いします!」
「九条蓮華。探偵だ。こっちこそ今日はよろしく頼むよ。清正の孫、あんたもね」
「はい。九条様の事は祖父よりたびたび聞かされておりました。生ける伝説、『
「かみしずめのきよ・・・・・・?」
風音は畏敬の眼差しを蓮華に向けた。影人は風音が何と言ったのか分からず首を傾げる。
「その名で呼ばれるのも久しぶりだね。まあ、いい。それよりもそろそろ封印場所に向かうよ。一応、状況は逼迫してるからね。最後にあんたらに確認するが・・・・・・この仕事には命の危険が伴う。もしかすれば本当に死ぬかもしれない。それでもやるかい?」
「そんなもん慣れっこです! 私、いつだって命懸けなんで! もちろんやります!」
「はい。重々承知の上です。【あちら側の者】の脅威から人々を守るのは連華寺の家系の使命でもあり、現在の私個人の使命でもあります。やらせてください」
蓮華の確認に真夏と風音はすぐに頷いた。普通ならば、もう少し葛藤があってもいいかもしれないが、真夏と風音は光導姫だ。光導姫の仕事は常に命の危険が伴う。あまり喜ばしい事ではないが、2人は命懸けの仕事に慣れている。真夏と風音にとって蓮華の問いかけは、ほんの少しの葛藤も生じさせるものではなかった。
「いい返事だ。安心しな。危険な分、報酬は弾んでやる。よし、じゃあ行くよ」
蓮華は満足そうに笑うと歩き始めた。影人、真夏、風音は蓮華の背に続いた。
「――もうすぐ封印が解ける。あんた達、準備はいいかい?」
約30分後。蓮華たちは地下の封印場所にいた。蓮華は石棺に触れながら、振り返り後方にいる者たちにそう声を掛けた。
「ばっちしです! いつでも来いって感じです!」
「私も大丈夫です」
「俺も・・・・・・まあ覚悟は出来てます」
真夏はパシッと掌に拳を合わせ、風音と影人は首を縦に振った。
「助手。あんたは適当にその辺りに隠れときな。で、いざとなったら憑いてる奴に守ってもらいな」
「「え!?」」
蓮華のその言葉に真夏と風音は衝撃を受ける。影人は2人のそんな反応を無視し、蓮華に向かって軽く頭を下げた。
「あ、はい。その、すみません。足手纏いで・・・・・・」
「気にするな。あんたに憑いてる奴はかなりヤバい。あんたが言うように無闇に力を借りない方がいい存在だ。まあ、清正の孫と榊原の呪術師がいるから多分大丈夫さ」
「はい。皆さんの無事を祈って見守らせていただきます。それじゃあ・・・・・・」
影人はそそくさとこの空間の端にある岩陰に向かおうとした。しかし、その前にガシッと影人は両方を真夏と風音に掴まれた。
「ちょっとどういう事よ帰城くん!? 何でよりによってあなたが隠れるのよ!? あなた、バリバリの戦力でしょ!?」
「な、何か事情があるの? 九条様には失礼かもしれませんが、どう考えてもこの中で1番強いのは帰城くんだと思うんだけど・・・・・・」
「いや、実はその・・・・・・」
影人の事をよく知っている真夏と風音からすれば当然の疑問だろう。小声でそう聞いて来た2人に対し、影人は自分が蓮華に対してあまり力を見せたくないという事情を伝えた。
「零無の事は見抜かれてるんですけど、スプリガンの力とか『終焉』とか『零』の力だとかの俺が直接戦える力を持っている事は看破されてないんです。というわけで、蓮華さんからしてみたら俺はヤバい何かに憑かれた奴って認識なんです。俺は出来るだけ自分から力を開示したくはない。だから、俺は会長に連絡したんです」
「な、なるほどね。何というか、帰城くんっぽい理由だわ・・・・・・」
「ある意味プロフェッショナル・・・・・・なのかしら・・・・・・?」
影人の答えに真夏と風音は、微妙に納得したようなしていないような何とも言えない顔になる。2人からしてみれば、普通ではない人間と見抜かれているなら力を持っている事がバレる事もバレない事も同じなのではと思ってしまう。だが、影人からすればそれは違う事なのだろう。
「でも、もし本当にヤバそうだったら手助けさせてもらうんでそこは安心してください。絶対に誰も死なせませんから」
「あ、うん。それはありがと」
「信頼力と安心感しかない言葉ね。ありがとう。じゃあ、いざという時はお願いします」
影人のその言葉に真夏と風音は素直に頷いた。影人の言葉は受け手によれば、傲慢で真夏や風音の実力を信用していないように聞こえるかもしれない。
だが、2人は影人が全くそんな考えから今の発言をしたわけではないと分かっているので、素直に感謝の言葉を述べたのだった。
「おい、あんたら何をくっちゃべってるんだい。助手、もう本当に時間がないよ。さっさと隠れな」
「あ、はい。じゃあ、俺はこれで」
蓮華にそう言われた影人はそそくさと岩陰へと向かった。
「・・・・・・!」
影人が岩陰に身を隠した数瞬間後、突然ガタガタと石棺が震え始めた。石棺の側にいた蓮華はその場から離れ、真夏と風音の元にまで退がる。
そして、派手な音と共に石棺が砕け散った。蓮華は懐から防御の力を持った符を取り出し、それを展開した。蓮華の前に透明の障壁が展開され、障壁は石棺の破片から蓮華や真夏、風音の身を守った。
「・・・・・・」
先ほどまで石棺があった場所には1人の男が立っていた。この空間は日の光が届かず、人工的な光源もない暗闇の空間だが、蓮華が事前に地面や壁面に光る紋様を何かの術で描いてくれていたので、今はこの空間内がよく見える。蓮華はどういうわけか元より暗闇でも見えているらしかったが、影人、真夏、風音のためにこのような措置を施してくれた。そのため、影人たちにも立っている人物が男であると分かったのだった。
「・・・・・・」
今まで目を閉じていた男が目を開ける。その瞳の色は深い赤。長い黒髪は艶やかで顔は整っている。長身で恐らく2メートル近くあろう体は標準的な肉付きだ。だが、見るものが見ればその肉体は鍛え上げられている事がよく分かるだろう。黒い着流しに身を包み下駄を履いたその男は、一見すると普通の人間のようであった。
だが、男の頭部の右側面から生えている黒い角が、男がただの人間ではないという事実を証明していた。
「っ、あれが封印されていた鬼神・・・・・・」
「・・・・・・一目で分かるわ。あれはそこらの魔とはレベルが違う」
男の姿を見た風音と真夏がその顔に緊張感を漲らせる。蓮華と岩陰の影人も真剣な顔で鬼神を見つめた。
「ふむ・・・・・・ようやっと封印が解けたか。いったいどれくらいの間封じられていたのか。・・・・・・お主たちは知っておるか。再び俺を封じに来た者たちよ」
「大体300年くらいらしいよ。随分とまあ長い間封印されてたね。そのままずっと封じられてくれてりゃよかったのに」
男はその深い赤の瞳を蓮華たちに向けた。蓮華は男に気圧されている様子もなく笑みを返す。蓮華から答えを聞かされた男は衝撃を受けた様子もなく頷いた。
「そうか・・・・・・それなりの時間だな。教えてくれた事に感謝しよう。その礼だ。今すぐに立ち去ればお前たちは見逃そう。そこの岩陰に隠れている奴もな」
男は影人が隠れている岩に目を向ける。やはりバレているか。まあ、相手は封印されていた鬼神だ。さもありなんといったところだ。影人は特に驚きもせず男の言葉を岩陰から受け取った。
「すぐに立ち去らなきゃどうなるんだい?」
「無論、殺す。俺を封じようとしている者は俺の敵だからな」
即答だった。男はスッと目を細め、その身から殺気と闘気を解放した。空気が一瞬で張り詰め、鉛のように重くなる。常人ならば縮み上がってしまうだろう。
「悪いが殺されてはやれないね。あんたこそ、この世界で暴れないって制約を結ぶか、元いた世界に帰るなら危害は加えないよ。でも、そうしないなら・・・・・・また封印、もしくはあんたを祓う」
蓮華も男の放つ重圧に対抗するかのように、その身から殺気にも近い闘気を放つ。
(意外だな。問答無用で戦いになると思ったが、ちゃんと最後通牒は突きつけるのか)
岩陰から蓮華の言葉を聞いていた影人は内心でそう呟く。この前は問答無用で怨念の集合体を祓った――表現を変えれば殺した――ので、戦闘に関してはある種無慈悲だと思っていたのだが、どうやらそれは影人の思い違いだったようだ。まあ、今思えばあの怨念の集合体はどう見ても言葉が通じなさそうだったし、言葉が通じる者ならば蓮華は今のように最後通牒くらいは突きつけるのかもしれない。
「・・・・・・俺の目的はこの世界を支配する事でも無闇な殺戮を振り撒く事でもない。俺がこの世界に来たのは何か意図しての事ではない。ただの偶然だ」
「なら私の提案を受け入れてくれるかい?」
「・・・・・・悪いが、それは難しい。俺の目的は強者との死合い。お前の提案を受け入れれば、お前たちとは戦えなくなるからな」
男はニィと笑い初めて表情を変えた。その笑みは愉悦の笑みだった。久方ぶりの戦いに対する愉悦。戦いに取り憑かれた者が浮かべる笑みだ。
「うわぁ、面倒くさ・・・・・・この手のタイプって本当にダルいのよね」
「冥と同じタイプ・・・・・・戦闘狂ですね。同意します真夏さん」
男がどのような手合いか察した真夏と風音は思わずそんな感想を漏らした。
ちなみに、風音は昔は真夏の事を榊原さんと名字で呼んでいたが、現在は真夏さんと名前呼びである。これは単純に真夏との距離が、陽華や明夜を通して以前よりも縮まったからである。真夏も未だに風音に対してライバル意識を持っているが(光導姫ランキングの事も多少関係しているが、真夏は自分の家系が呪術師であり、風音の家系が神職であるという事から風音をライバルだと認識していた。真夏曰く、祓う立場の『巫女』と呪う立場の『呪術師』は相入れない。それはもはや運命や因縁であるとの事)、以前よりは多少は風音に対する態度が軟化していた。
「はあー、面倒くさいね。あたしには分からないよ。命を懸ける戦いに喜びを見出すのは」
「長く生き、中々死ねない身にもなればお前にも分かるだろう。さて、言葉を交わすのはこれくらいにしよう。久方ぶりの死合いだ。存分に楽しませてくれ」
男は静かな興奮を感じながら左手を前方に突き出し、右手を軽く引き、構えた。風音は懐から白い符を、真夏は懐から黒い符を取り出す。
(っ、光導姫に変身しないのか?)
影人は意外に思った。影人は真夏と風音の戦闘手段は光導姫になる事だけだと思っていた。だが、この様子だと2人は光導姫になる事以外にも戦闘手段を有しているようだ。
「名乗っておこう。俺は
志津鬼はグッと足に力を込め、地を蹴った。志津鬼が蹴った地面が抉れる。志津鬼は一瞬にして蓮華に肉薄すると、右の拳を放った。
「見た目通りの
志津鬼の拳はおよそ人間が反応できる速度ではなかったが、蓮華は見事に反応し志津鬼の拳に向かって符を投げた。蓮華が投げた符が志津鬼の拳に触れる。瞬間、符が爆ぜた。
「っ・・・・・・」
「あんたら、今だよ」
志津鬼の右腕は爆発によって半ば吹き飛んだ。さらに爆発の衝撃で志津鬼が体勢を崩す。蓮華は真夏と風音にそう言葉を送る。
「呪われなさい!」
「祓う!」
真夏が黒い符を、風音が白い符を志津鬼に向かって投げる。黒と白の符はそれぞれが意思を持っているかのように志津鬼の体に張り付いた。黒い符からは黒い稲妻が、白い符からは白い稲妻が発生し、志津鬼にダメージを与えると同時に、志津鬼の体を縛った。
「ふむ」
だが、志津鬼はさして反応する事なく左手で自分の胴体に張り付いた黒と白の符を剥がした。
「なっ!?」
「っ!?」
その光景を見た真夏と風音は信じられないといった顔になる。2人が投げた符は拘束の力が込められた符だ。本来なら対象は動けないか、少なくとも動きが制限される。だが、志津鬼はごく普通に動き、符を剥がしたのだ。
「こういった物は喰らい慣れている。どうという事はない」
「ならこいつも喰らっときな」
蓮華の背後に複雑な紋様が描かれた魔法陣が浮かび上がる。すると、魔法陣から光の矢が無数に放たれた。光の矢は志津鬼へと襲い掛かる。
「ほう」
志津鬼は感心したような顔を浮かべ、光の矢を避けながら蓮華から距離を取る。やがて光の矢が止むと、志津鬼は興味深そうに蓮華を見つめた。
「その術・・・・・・何やら懐かしい気配を感じるな。お前、何者だ?」
「あたしはただの探偵さ。それ以上でも以下でもないよ」
「探偵・・・・・・聞かぬ言葉だな。まあいい。この死合い、楽しくなりそうだ」
志津鬼がそう言うと、半ば失くなっていた志津鬼の右腕が見る見るうちに再生し元通りになった。その光景に再び真夏や風音が驚いた顔になる。
「再生能力持ちか。厄介だねえ」
「お前らからすればそうだろうな。
志津鬼がそう唱えると、志津鬼の体に赤いオーラが纏われた。次の瞬間、志津鬼がその場から掻き消える。否、正確には掻き消えたと錯覚するほどの超スピードで動いたのだ。
「ふっ・・・・・・!」
志津鬼は真夏の背後を取り、回し蹴りを放っていた。真夏はその速度に全く反応出来ていない。風音も同様だ。志津鬼の蹴りが真夏の背骨を蹴り砕く、かに思われたが、志津鬼の足が真夏の背に触れる直前に蓮華が飛ばした符が、足と背の間に滑り込む。符は障壁を展開し、真夏の身を守った。
「え!?」
「しっかりしな榊原の。あたしが助けなきゃ死んでたよ」
ようやく自分の背後にいる志津鬼に気づいた真夏が驚きの声を上げる。蓮華は真夏に対し注意の言葉を送った。
「身体能力を上昇させた俺の速度に反応するか。面白い・・・・・・!」
志津鬼はグッと右手に力を込め拳にすると、障壁に向かって拳を突き出した。障壁は拳の威力に耐えきれず瓦解した。
「呪符よ! 寄り集まり亡者の手と化せ!」
「符よ! 清浄なる息吹を運べ!」
志津鬼が障壁を破壊したと同時に真夏と風音が術を行使する。真夏は複数の黒い符を媒介とし、闇色の腕を複数個召喚した。蓮華は白い符を媒介とし、魔なるモノを祓う風を吹かせた。
「温い。鬼言術、『払いの
しかし、志津鬼がガンッと右足をその場に叩き付けると、志津鬼を中心に目には見えない衝撃波のようなものが発生した。その結果、闇色の腕も魔なるモノを祓う風は消し飛ばされる。それだけではない。近くにいた真夏と風音もその衝撃波を浴びてしまった。
「がっ・・・・・・!?」
「ぐっ・・・・・・!?」
真夏と風音が吹き飛ばされ地面を転がる。蓮華だけは咄嗟にバックステップをしていたので、衝撃波に当たる事はなかった。
「シッ・・・・・・!」
志津鬼は吹き飛ばした2人には目もくれず、蓮華との距離を詰める。そして、その強化された肉体から異名通り鬼神の如き攻撃を繰り出した。その拳や蹴りを一撃でも貰ってしまえば人間は即座に死に至るだろう。しかも、拳や蹴りの速度は神速の域。人間が反応できる速さではない。
「格闘戦は苦手なんだがね」
だが、蓮華はどういうわけかその速度に反応し、志津鬼の連撃を避け、或いはいなす。
「ははは! お前、凄まじいな! それも術か!?」
「ああ。あんたと同じ身体能力を上昇させる術。巫術と呪術、後は魔術とエトセトラの特性を混ぜたあたしのオリジナルだよ」
蓮華がその場で軽く右足を踏む。すると、どこからかシャンという音が響き、蓮華と志津鬼を中心とするように白い輝きを放つ魔法陣が浮かび上がった。
「っ・・・・・・」
「
蓮華が術の名を唱えると同時に、強い浄化の力が魔法陣の上に満ちた。浄化の力は魔なるモノ、【あちら側の者】にも有効だ。突然強力な浄化の力を浴びた志津鬼は「がふっ!?」と急に吐血し、体勢を崩す。志津鬼からすれば、急に毒を浴びたようなものだ。蓮華は志津鬼の吐いた血を躱すと、右の掌底を志津鬼の腹部に穿った。
「魔巫術、『
「〜っ!?」
浄化の力を宿した掌底をモロに受けた志津鬼は後方へと吹き飛ばされた。
「つ、強ぇ・・・・・・」
蓮華の戦闘を見ていた影人は自然とそんな感想を漏らした。蓮華がまさかこれ程の実力者だったとは思わなかった。これならば、蓮華1人でも何とかなったのではと影人は思った。
「は、ははっ・・・・・・何という幸運か。蘇ってすぐにお前のような実力者と戦う事が出来るとは・・・・・・!」
一方、蓮華に吹き飛ばされた志津鬼はヨロリと立ち上がると、その顔に抑えきれぬ喜びの色を露わにしていた。志津鬼はそれなりにダメージを受けているはずだが、あまり効いているようには見えなかった。
「もっとだ。もっとお前の力を見せてみろ! 俺もその分だけ力を見せよう!」
「はぁ、今ので大抵の奴は祓えるんだけどね・・・・・・というか、やっぱりまだまだ本気じゃなかったのか。面倒だねえ。ああ、面倒だ」
蓮華はうんざりとした様子で軽く頭を掻く。そして、倒れている真夏と風音に向かってこう声を掛けた。
「あんたら、いつまで寝てるんだい。さっきのくらいでダウンしてるんじゃないよ。ほら、さっさと立ち上がりな」
「ううっ・・・・・・」
「くっ・・・・・・」
蓮華から発破をかけられた真夏と蓮華が立ち上がる。2人は土で汚れた顔を軽く拭い、自分たちが戦うべき相手を見つめた。
「ああもう、甘かったわ。今の私の呪術だけでこんな奴を相手にしようだなんて。まだまだ修行が足りないわ」
「私もです。光導姫の力じゃない、私だけの力ではこのクラスの相手は祓えない」
「やるしかないわね。恥も未熟も今はいらないわ」
「ええ。素直に私たちのもう1つの力を使うしかないですね。ソレイユ様からお借りしている力を」
真夏は髪に付けていた紙の髪飾りを外しそれを手に持った。風音も懐から先ほど放っていた符とは違う符を取り出した。
「我は呪法を扱う系脈に生を受けし者。我はその呪法を扱いし者。しかして、我の呪法は光を
「我、願い奉る者。光の女神の奇跡を以て、我に浄化の力を与えたまえ!」
真夏と風音がそう唱えると髪飾りと符が輝かんばかりの光を放った。志津鬼、蓮華、影人はその光に軽く目を細めた。
「転身完了! さあ、ここからが本番よ! 絶対にあんたを呪ってやるわ!」
「『巫女』の名において、必ず祓います!」
光が収まると、そこには光導姫に変身した真夏と風音の姿があった。2人は志津鬼に向かってそう宣言を行った。
――鬼神との戦いはこれから本格的にその激しさを増す。
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