第474話 バレンタイン恋騒劇(7)

「え・・・・・・」

 その姿を見た影人は無意識の内に驚きの声を漏らした。見ると、服装まで当時の黒いボロ切れのような服に変わっていた。間違いない。あの時の、過去の世界で影人と共に過ごしていた幼体のレイゼロールだ。いったいどういう事だという疑問が湧き上がってくると同時に、レイゼロールと過去の世界で過ごした記憶が影人の中に蘇る。

「レ、レイゼロール様!? そのお姿は・・・・・・」

「っ・・・・・・」

 フェリートが珍しく驚きの声を漏らし、ゼノも目を見開く。他の者たちも多くはフェリートとゼノと同じ様に驚愕の反応を示した。

「この姿も随分と久しいが・・・・・・ふん。やはり色々と使い勝手が悪そうだな」

 一方のレイゼロールはと言うと、自分の姿を見下ろしそんな感想を呟いていた。

「きゃ・・・・・・きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 幼体のレールだ! レール可愛い!」

 突然ソレイユがそんな声を上げレイゼロールを抱き締める。ソレイユに抱き締められたレイゼロールは「むぐっ!?」と声を漏らした。

「お、おい急に何だソレイユ!? ええい、離せ! 暑苦しい!」

「嫌よ! こんな可愛い生き物抱き締めずにはいられないもの! はぁー、可愛い。本当に可愛い。うー、私も神力が使えれば幼体に戻るのに・・・・・・ねえ影人! 写真! 写真を撮って! 貴重なレールのこの姿を何かに残さないと! レールがこの姿を私たちに晒してくれる事なんて滅多にないのよ! この機を逃せばもうチャンスはない! だから早く!」

「は、はぁ?」

 ソレイユが真剣な顔でそんな事を言ってきたので、影人は戸惑った。そして、影人が戸惑っていると、影人のすぐ近くからカシャンという音が聞こえてきた。その男はカメラのシャッターを切る音のようだった。

「大丈夫! レールの超絶可愛い幼体の姿は僕が撮る! ふぅー! まさか幼体のレールを撮る事が出来るなんて! 今日地上に来て本当によかった! 撮りまくって絶対家宝にするぞー!」

 いつの間にか復活していたレゼルニウスがグッとサムズアップする。レゼルニウスはその超絶イケメン面を気持ちの悪い笑顔で歪ませながら、神力で創造したカメラのシャッターを切り続け、レイゼロールを撮影した。

「お、おいやめろ兄さん! ソレイユもいい加減に離せ!」

 レイゼロールはジタバタと暴れたが、ソレイユはギュッとレイゼロールを抱き締めたまま離さなかった。レゼルニウスは「いいよ! いいよレール!」と興奮し切った様子で変わらずカメラのシャッターを切り続ける。普通にヤバいシスコン野郎である。

「ほー、幼体時代のレイゼロールか。懐かしいのう」

「な、何か気づいたらレイゼロールが子供になっちゃってたけど・・・・・・な、なんで?」

「神力を使って肉体年齢を操作したのです。神は一定の期間を生きると、自在に己の姿を変える事が出来ますからね」

「そうなんですね・・・・・・でも、確かにロリのレイゼロール可愛いわ。ロリのレイゼロール、略してロリゼロールね」

「ふふっ、上手いこと言うわね明夜」

「まあ、可愛らしい」

「レゼルニウス様。お願いがあります。後で1枚だけでもいいので写真を頂きたく存じます。私は執事。主人のどのような姿も保存し、残していく義務があるのです」

「あれがレールの幼体時代か。何か不思議だな。話には聞いてたけど、レールにもあんな時代があったんだ」

「確かに可愛いけど・・・・・・レイゼロールは何で急に子供に変身したんだろ?」

「それは自分が引いたカードの指示に応えるためだと思うよ。レイゼロールのカードに書かれていた指令は『相手に懐かしい思いをさせる』。そして、恐らくあの姿こそレイゼロールが帰城くんと過去の世界で過ごしていた時の姿なのだろう。先ほど帰城くんを驚かせた時の方法といい、まさに神ならではの方法だね」

「・・・・・・製作者にも幼体の時代があったのでしょうか」

「まさか、あのレイゼロールの幼少の姿を見る事になるとはな・・・・・・」

「姿を変える事など妖狐なら誰でも出来るわ。どれ、妾の愛らしい幼体でも見せてやるかの」

 その光景を見ていたガザルネメラズ、陽華、シトュウ、明夜、シェルディア、キトナ、フェリート、ゼノ、ソニア、ロゼ、イズ、アイティレ、白麗は各々の反応を示した。

(なんだろうな・・・・・・この姿のレイゼロールがこれだけの奴らに囲まれているのを見ると・・・・・・どうしようもなく何か込み上げて来るものがあるな・・・・・・)

 ソレイユに抱き締められて、レゼルニウスに写真を撮られて。大勢の者たちと共にいる。レイゼロールの孤独な時代の一端を知っている影人からすれば、それはどこか夢のような光景であった。

『ピピー! 懐古と感動の感情を検知。懐古と感動の感情を検知』

 影人が保護者のようにレイゼロールを見守っていると、影人の右手首に巻かれていた機械から音声が発せられた。その音声を聞いたレイゼロールがハッとした顔になる。すると、再びレイゼロールの体が淡く輝きを放った。数秒後、レイゼロールの姿と服装は元に戻っていた。そして、レイゼロールは自分に抱きついていたソレイユを無理やり引き剥がし、レゼルニウスのカメラを闇色の腕で破壊した。

「きゃっ。あー、もう戻っちゃって・・・・・・」

「ぼ、僕の家宝がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 ソレイユが不満そうな顔を浮かべ、レゼルニウスが悲鳴を上げる。フェリートも「な、何て事をレイゼロール様・・・・・・!」と震えていた。

「全く、どいつもこいつも・・・・・・だからあの姿にはなりたくなかったのだ。だが、醜態を晒した甲斐はあったな。我の勝ちだ」

「別に醜態ではなかっただろ。醜態にしちゃ、あまりにも可愛い過ぎるぜ」

「なっ・・・・・・」

「まあ、流石にあの姿を見てノスタルジーを感じるなっていう方が無理だ。これは素直に俺の負けだな」

 影人に可愛いと言われたレイゼロールはカァと顔を赤くさせたが、影人はその事には気づかなかった。レイゼロールは顔を俯かせると「・・・・・・バカ者め。そういう事を軽々しく言うな・・・・・・」と小さな声で愚痴った。

「しかし、あっという間に2対2。次で最後か。残りのカードが何なのかはもう見なくても分かるな」

 影人が最後のカードをめくる。そこには「相手をドキドキさせる」と書かれていた。

「・・・・・・だよなぁ」

 影人は困った様子で頭を掻いた。ある意味バレンタインらしいお題が最後まで残ってしまった。

「なあ、レイゼロール。今更なんだがこのドキドキっていうのは、どういうドキドキなんだ。ドキドキにも色々あるだろ。恐怖から来るドキドキやら恥ずかしさから来るドキドキやら」

「何でもいい。この指令においての判断基準は特定の感情ではなく、急激な心拍数の上昇だからな。いま機械に心拍測定の機能を追加した。いつでもかかって来い」

「そうか。要は何でもありってわけか・・・・・・」

 レイゼロールの答えを聞いた影人はどうすればレイゼロールをドキドキさせる事が出来るかを考えた。恐怖から来るドキドキと言えば、先ほどの影人がそうだ。あれはドキドキさせる勝負ではなく、驚かせる勝負だったが、間違いなく影人はドキドキしていた。

(だけど、レイゼロールが何かにビビる姿は想像できないんだよな。どうやったらレイゼロールが怖いと思うか、どうやったらレイゼロールを驚かせる事ができるか・・・・・・中々いい考えが出てこないな)

 となれば、羞恥から来るドキドキか。レイゼロールを恥ずかしがらせる。レイゼロールを驚かせたり怖がらせたりするよりかは簡単に思える。レイゼロールを恥ずかしがらせる案も色々と浮かんでくる。

(ただ、身体的接触はセクハラになるからな。それ系で恥ずかしがらせるのはやめとこう。恥ずかしがらせるなら精神的に、かつ出来るだけソフトにだ。となると・・・・・・)

 影人が前髪の下の視線をとある人物に向ける。この勝負は基本的には何でもありだ。指令を達成するために、どんな方法を使ってもいい。事実、レイゼロールは指令達成のために神力を使用した。ならば、影人も――例えば、他者を使って指令を達成しても文句は言われないだろう。

「おいレゼルニウス。絶望して天を仰いでないでちょっとこっちに来いよ」

「え・・・・・・? な、何だい影人くん。悪いけど、僕は今それどころじゃ・・・・・・」

「いいから来い。というかお前、神力使えるんだろ。だったらカメラなんてなくてもさっきの写真を創り出せるだろ。お前が絶望してる意味が分からん」

「っ!? な、何それ! どういう事!? その話詳しく聞かせて!」

 レゼルニウスは急に復活して影人に詰め寄って来た。突然レゼルニウスの中性的な凄まじく整った顔が近付いて来たため、「っ・・・・・・」と逆に影人がドキリとしてしまった。

「近い! ちょっと離れろ!」

 影人は軽くレゼルニウスを押し除けた。だが、レゼルニウスは再びズイッと影人に顔を寄せて来る。

「影人くん! 早くその話を聞かせてくれ! これは僕の命に関わる事なんだ!」

「嘘つけ! 絶対そこまでじゃないだろ! ええい、離れろシスコン野郎! 分かった! 分かったから! 写真を創り出す方法を教えてやるから離れろ!」

 影人がそう言ってようやくレゼルニウスは離れた。影人は「ったく、どこまでガチなんだよ・・・・・・」とため息を吐くと、ポケットからペンデュラムを取り出した。教えるよりも実践して見せた方が早い。

「おい影人。余計な事をするな。それは勝負には関係ない」

「残念。勝負には関係あるんだよ。俺は指令達成の方法にレゼルニウスの協力を必要としてるからな。このままじゃ、話すら出来やしねえ。――変身」

 影人が力ある言葉を呟く。すると、ペンデュラムの黒い宝石が黒い輝きを放った。数秒後、影人の姿はスプリガンへと変化した。

「いいか。まずはさっきの光景を思い浮かべろ。で、それを写真を現像するようにイメージすれば・・・・・・」

 影人が右手をテーブルの上にかざす。すると、テーブルの上に写真が出現した。その写真には先ほどの幼体時代のレイゼロール、略してロリゼロールがソレイユに抱き締められている姿が写っていた。

「とまあ、こんな具合だ。お前に言うのもあれだが、神力は基本どんな事でも出来る力だろ。イメージの幅を広げろよ」

「なるほど! 神力にこんな使い方があったなんて! 流石だね影人くん! よし、僕もさっき脳内メモリーに刻み込んだレールの姿を写真にするぞ!」

「まあ待て。先に俺の話を聞け。いいか、ゴニョゴニョ・・・・・・」

 影人は興奮するレゼルニウスに小声で耳打ちを行った。影人の話を聞いたレゼルニウスはうんうんと頷いた。ちなみに、その間にレイゼロールは影人が創り出した写真を闇の力で消し去っていた。

「別にいいよ。僕のレールへの溢れ出る思いを伝えるだけだし。よし、じゃあ早速やろうか」

 レゼルニウスは影人が言った事を了承した。そして、急に歌い始めた。

「レール〜僕の可愛い妹〜。ああ〜なぜ君はそんなに愛らしいんだろうか〜。罪深いほどに〜」

「っ!?」

 レイゼロールが歌い始めたのは、妹に対するオリジナルのシスコンソングだった。迸るシスコンの炎。超絶イケメンといえども弾けるキモさ。大勢の前で実の兄に自分に対するオリジナルソングを歌われたレイゼロールの顔が羞恥に歪む。他の者たちの多くはドン引きした顔になる。場の空気はまるで放送事故が起こったかのような、何とも言えないものになった。

(くくっ、どうだレイゼロール。恥ずかしくて仕方ないだろう。羞恥の感情は心拍数を上昇させる。正直、お前には悪いと思ってるし人前でガチのオリジナルシスコンソングを披露するレゼルニウスには引くが・・・・・・許せよ。これが本気の勝負だ)

 スプリガン、もとい前髪がニヤリと悪魔の笑みを浮かべる。影人がレゼルニウスに頼んだのは、いつもの調子でレイゼロールを褒めたり可愛がったりしてほしいという事だった。まさかオリジナルソングを歌い出すとは予想外だったが、まあ結果オーライというやつだ。レイゼロールは間違いなく恥ずかしがる。勝った。影人は勝利を確信した。

(っ、なるほど。これが貴様のやり方か影人・・・・・・!)

 レイゼロールはアイスブルーの瞳でスプリガンに変身した影人を睨み付けた。レイゼロールは影人の意図を察していた。恐らく、レゼルニウスを使いレイゼロールの羞恥の感情を煽り、レイゼロールの心拍数を上げる事が目的だろう。正直、敵ながら見事な策である。レイゼロールの心臓は羞恥と怒りから今にも暴れ出しそうだ。

「だが・・・・・・舐めるなよ!」

 しかし、レイゼロールも影人と同じく鋼の精神を持つ者だ。レイゼロールの数千年の孤独と絶望によって鍛え上げられた精神が無理矢理に感情を抑え付ける。レイゼロールは闇色の腕を創造し、闇色の腕は歌っているレゼルニウスの腹部に渾身のパンチを繰り出した。レゼルニウスは「がふっ!?」と苦悶の声を漏らし、その場に倒れた。この間、実に2秒である。

「レゼルニウス!?」

「ふん、残念だったな」

 影人が倒れたシスコン野郎レゼルニウスを見つめ、レイゼロールは冷めた様子で影人を一瞥した。どうやら、レゼルニウスは軽く気を失っているようで立ち上がる気配はない。そして、レイゼロールの手首に巻かれている機械からレイゼロールの心拍数の上昇を知らせる声は聞こえない。つまり、この勝負は影人の負けだ。

「ちっ、俺の負けだ。次はお前の番だぜ」

 影人が敗北を認めカードを裏返しに戻す。レイゼロールが最初の方に説明したように、カードは指令が達成されるまで場に残り続ける。レイゼロールはいま影人が裏返しにしたカードを表向きにした。そこに書かれていた指令は当然、「相手をドキドキさせる」というものだった。

「さて、お前はどうやって指令を達成しようするのか・・・・・・お手並み拝見と――」

「アァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 影人が格好をつけた言葉を述べようとすると、突然虚空から化け物が現れた。その化け物は血だらけの女の顔をしていて長い髪を逆立てた生首で、血も凍るような叫び声を上げた。その悲鳴に店内にいた多くの者たちがビクッと怯え、驚いた。

「・・・・・・さっきのお前の言葉をそのままそっくり返すか。舐めるなよレイゼロール。俺が2回も同じ手を喰らって驚くか」

 しかし、影人はその多くの者たちには含まれなかった。影人は落ち着き払った金の瞳で化け物を一瞥すると、レイゼロールにそう言った。

「・・・・・・ちっ」

 レイゼロールは影人を驚かせるために創造した化け物を消滅させた。レイゼロールは先ほどと同じように影人を驚かし、恐怖させ、影人の心拍数を上昇させようと考えていた。だが、それは上手くいかなかった。レイゼロールはカードを裏向きに戻した。

「お前、我のやり方を読んでいたな」

「まあな。心拍数を上昇させる方法は色々ある。恐怖やら驚きから心拍数を上昇させるのはメジャーなやり方だ。だから、お前がさっきと同じような事をやってくる可能性は想定してた。は普段の俺より冷静だからな」

 スプリガン変身時の効果に思考をクリアにするというような効果はない。だが、影人はずっとスプリガンを謎の怪人として演じて来た。結果、その経験がスプリガン時の影人に影響を与えていた。

「次で決めるぜ」

「抜かせ」

 ここからはいわゆるサドンデス。勝負は最後に影人かレイゼロールどちらかがカードを取るまで続く。再び影人がカードをめくる。

 それから、影人とレイゼロールの勝負は予想以上に長い攻防が続いた。2人ともあの手この手で相手をドキドキさせようとしたが、中々決着はつかなかった。

「・・・・・・お前しつこ過ぎだろ。そろそろ負けろよ」

「これは勝負だ。そう簡単に負けてやるか。お前こそしつこいぞ」

 影人とレイゼロールは互いに疲れた様子になっていた。影人は「ちっ、この負けず嫌いが」と文句を言いながらもカードをめくった。このカードをめくるのも何度目になるのかもう覚えていない。

(何かもう考えるのも面倒くさくなってきたな。1回泣き落としでもやってみるか? いや、それだけは絶対にないな。かといって、もう他の方法はあらかた試し尽くしたし・・・・・・)

 後は身体的接触を使った方法くらいしか思いつかない。だがその方法はやはり使いたくない。影人がうーんと悩んでいると、レイゼロールがこう言葉をかけて来た。

「なんだアイデアが尽きたか。だったら、さっさと負けを認めたらどうだ」

「俺は諦めが悪いんでね。この程度で降参はしねえよ。お前も同じだろ。なんせ、お前も俺と同じくらいに諦めが悪い奴だからな」

「・・・・・・ふっ、そうだな。ふん、余程に我の菓子が食べたいと見える」

「まあ、正直食ってはみてえよ。あのお前が作った菓子だろ。普通に興味はあるし。お前って冷たいように見えて義理堅いよな。俺、お前のそういうところ好きだぜ」

 影人は自然と笑みを浮かべた。影人からすれば何と意図もないただの会話だった。

「っ・・・・・・!?」

 だが、影人にそう言われたレイゼロールは大きく目を見開き固まった。お前のそういうところ好きだぜ。その言葉がレイゼロールの頭の中で何度も反響する。いつの間にか、その言葉はお前のこと好きだぜという言葉に変換され、レイゼロールの中に響き続けた。レイゼロールの顔はみるみるうちに赤く染まった。

『ピピー! 心拍数の急激な上昇を検知。心拍数の急激な上昇を検知』

「え?」

 レイゼロールの右手首の機械から流れた音声に影人が目を丸くする。今の音声はつまりレイゼロールがドキドキしたという事だ。だが、レイゼロールがなぜ急にドキドキしたのか影人には全く分からなかった。

「〜っ! 勝負は貴様の勝ちだ! くれてやる!」

 レイゼロールは顔を背けるとバレンタインの菓子を影人に押し付けるように渡した。

「は? お、おい何でお前急にドキドキしたんだよ。俺別に何もしてねえぞ。理由が気になるから教えろよ」

「うるさい! 勝ったのだからいいだろう! 我は絶対に教えんぞ!」

 影人はレイゼロールにそう尋ねたがレイゼロールは首をぶんぶんと横に振った。

「うわぁ・・・・・・影くんそれはズルいよ・・・・・・」

「あの無自覚たらしめ・・・・・・」

「人には必ず何かしらの才能があるものだ。帰城くんの場合その1つは、異性の心を掴む事の上手さだろうね」

 その光景を見ていたソニア、暁理、ロゼはそんな感想を漏らした。他の者たちはジトっとした目を向けている者もいれば、呆れる者、苦笑いする者、微笑む者など様々な反応を示していた。

「いや、何でだよ!? 別にそれくらい教えろよ! お前をドキドキさせた俺には知る権利があるぞ!」

「しつこい! 我は絶対に教えんからな!」

 影人とレイゼロールの言葉が喫茶店内に響く。2人はしばらくの間、そんな言葉の押し引きを続けた。

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