第452話 スプリガンと交流会(3)
「ええ!? あれがスプリガン!? ちょ、マジもんかいな!?」
「わっ・・・・・・」
「彼が・・・・・・」
風音がスプリガンの紹介を行うと、火凛、暗葉、典子はそんな反応を示した。3人も光導姫だ。スプリガンの噂はよく知っていた。
「っ、海公っち・・・・・・」
「ええ、霧園さん・・・・・・」
一方、スプリガンの姿を見た魅恋と海公はどこか呆然とした様子でスプリガンを見つめていた。2人にとってスプリガンは、もう1度会いたいと願っていた憧憬の対象だ。まさか、こんな場所でまた会う事が出来ると思っていなかった魅恋と海公は、未だに衝撃の感情を処理出来なかった。
「っ、スプリガン・・・・・・」
穂乃影も驚いたようにスプリガンの名を呟く。穂乃影もスプリガンとは少しだが関わりがある。穂乃影はジッと舞台上にいる妖精の名を持つ男を見つめた。
「「「「「「・・・・・・」」」」」」
他方、スプリガンの正体を知っている者――陽華、明夜、光司、暁理、アイティレ、刀時などは無言で舞台上のスプリガンを見つめていた。反応を言葉に出せば、周囲の者たちにスプリガンの正体がバレる可能性もゼロではないので、スプリガンの正体を知っている者たちは無言だった。
『皆さんが驚き戸惑う理由はよく分かります。なにせ、スプリガンは正体不明の怪人で、一時期は私たち光導姫と守護者の敵でした。しかし、その実は違いました。彼は長年に亘る光と闇の戦いを終わらせるために、ソレイユ様の命令の元、ずっと暗躍を行っていた私たちの味方でした。皆さんも、その事は既に知らされていると思います』
風音は隣に立つスプリガンに視線を向けながら説明を行う。スプリガンが実は味方だったという事は、光と闇の最後の戦いが終わった翌日にソレイユとラルバから光導姫と守護者に伝えられた。そのため、風音の言うように、光導姫と守護者たちはスプリガンが味方であったという事は知っていた。
『彼は影から私たち光導姫や守護者を助け続け、今も危険があれば私たちを助けてくれています。レイゼロールの浄化、数ヶ月前の忌神との決戦も、彼がいなければ成し遂げられませんでした。そして、そんな彼が持つ経験は貴重です。【あちら側の者】の対応にも彼は慣れています。彼の持つ経験は、きっと私たちにとっても役立つ。そう思い、ぜひ今日の研修兼交流会に来て欲しいと、ソレイユ様経由で私から彼に依頼しました』
風音がなぜスプリガンを呼んだのかといった理由をマイク越しに光導姫と守護者に伝える。ちなみに、ソレイユ経由で依頼というのは嘘だが、風音がなぜそんな嘘をついたのかというと、それは風音がスプリガンの正体を知っているという事実を隠すためだ。スプリガンは強力な認識阻害の力を身に纏っているので、正体がバレる事は基本的にはない。
しかし、風音がプライベートでスプリガンに接触できるという立場から影人の正体がバレる事があるかもしれない。ゆえに、影人は風音と話しその辺りをボカしてもらったのだった。
(俺の経験が役立つね・・・・・・正直、絶対に役立たないと思うんだがな)
風音の説明を聞いていた影人は内心でそう呟く。影人のスプリガンとしての経験は正直特殊過ぎる。加えて、影人の持つ力も光導姫と守護者たちとは余りにも違い過ぎる。経験の共有とは、あくまで同じような立場と能力などを前提としたものでなければ、あまり意味を持たない。少なくとも、影人はそう考えていた。
『お前と意見が被るのなんざ最悪だが・・・・・・俺もそこに関しちゃ同意見だ。お前みたいなイかれた奴の経験が凡庸な光導姫と守護者どもの役に立つわけがねえ』
(おいイヴ。俺はイかれてないぞ)
イヴも念話で影人にそんな事を言ってくる。影人は念話でイヴに抗議したが、イヴは影人の抗議を無視した。前髪野郎がどうかしている事など、前髪野郎をよく知る者からすれば自明の理である。分かっていないのは前髪野郎だけだ。
『それではスプリガン、いえスプリガンさん。ぜひ一言お願いします』
風音が影人にマイクを渡して来る。影人は仕方なくマイクを受け取った。
『・・・・・・スプリガンだ。この中には実際に俺と出会い、戦った奴もいるかもしれないが・・・・・・まあ今の『巫女』の説明通りだ。よろしく頼む』
影人はスプリガンとして光導姫と守護者たちにそう言葉を述べる。光導姫と守護者たちは未だに驚き戸惑っていたが、パチパチと拍手した。静かな拍手の音が体育館内に響いた。
『では、皆さん。これから研修を行いますので、変身の準備をお願いいたします。ふふっ、せっかくですからみんなで変身しましょうか。私がカウントダウン致しますので、ぜひご一緒に』
影人からマイクを返された風音が一同にそう呼びかける。体育館に集った光導姫と守護者たちは、各自の変身アイテムを取り出し、あるいは装着。既に変身アイテムを体に身に付けていた者は、いつでも風音の合図に反応できるように待った。
『皆さん、準備はいいですか? では行きますよ。3、2、1・・・・・・ゼロ!』
「変身!」
「転身!」
「浄化の光よ!」
風音のカウントダウンと同時に様々な掛け声が響く。カウントダウンを行った風音も一拍遅れ変身の言葉を放った。そして、次の瞬間には各自の変身アイテムから眩い光が発せられ、体育館の中を照らした。それは光導姫と守護者が変身する時に生じる光であった。
数瞬間の後に光が収まると、そこには先ほどとは姿が変わった少年少女たちの姿があった。今の彼・彼女たちは正しく守護者と光導姫。非日常から日常を守る者たちだった。
(・・・・・・さすがにこれだけの数の光導姫と守護者たちを見るのは初めてだな)
一斉に変身した光導姫と守護者たちを見た影人は思わず内心でそう言葉を漏らした。100人単位の光導姫と守護者が変身した光景は中々に圧巻だった。
『では、次に場所を整えましょう』
風音は舞台の袖に置いていた真っ白いキューブに触れた。そして、「『メタモルボックス』起動。モード、プラクティスルーム」と呟くと、瞬間キューブが眩い輝きを放った。すると、体育館の中の景色が広大な真っ白い空間にガラリと変わった。
「っ、こいつは・・・・・・」
その現象に影人が金の瞳を見開く。「メタモルボックス」の効果は事前に風音から聞かされていたが、実際に目にすると中々に驚くべきものだ。『世界』の顕現とかなり似ている気がする。影人はそう思った。
「これで準備は整いましたね。では、最後にスプリガン以外の実戦相手をご紹介します。実戦相手の方は前へお願いします」
体育館の舞台とマイクといった設備も「メタモルボックス」の効果で消えたため、風音は光導姫や守護者たちと同じ目線、地声でそう言った。
「ごめんみんな! 私たち行かなくちゃ!」
「ちょっと行ってくるわ」
風音の言葉を聞いた陽華と明夜は近くにいた友人たちにそう告げると、前へと向かって行った。
「え!?」
「ふ、2人とも?」
「っ・・・・・・」
「え、マジですか!?」
「わっ・・・・・・」
「・・・・・・」
火凛、暗葉、典子、魅恋、海公が驚いた顔になる。5人は陽華と明夜から何も聞かされていなかった。穂乃影だけは別に驚いた様子を見せなかった。
「面倒だけど・・・・・・やるって言っちゃたからね」
「行こうか」
「さーて、お仕事しますかね」
「・・・・・・私の役目を果たそう」
陽華と明夜以外にも、暁理、光司、刀時、アイティレも前へと歩き始めた。
「紹介します。まず、守護者。ランキング3位『侍』とランキング10位『騎士』。次に光導姫。ランキング3位『提督』、そして私、ランキング4位『巫女』、ランキング25位『アカツキ』、そしてランキング外にはなりますが、『レッドシャイン』と『ブルーシャイン』です」
風音が自分を含めた前に出てきた者たちの守護者名、光導姫名を順番に呼ぶ。光導姫と守護者たちはとある光導姫名を聞くとザワザワとし始めた。
「おい、レッドシャインとブルーシャインって確か・・・・・・」
「ああ、レイゼロールを浄化したっていう・・・・・・」
「あの子たちが・・・・・・」
光導姫レッドシャインとブルーシャインの名前はレイゼロールを浄化した光導姫として、日本中、いや全世界の光導姫と守護者に知れ渡っていた。光導姫と守護者たちが陽華と明夜の光導姫名を聞いて騒めいたのはそれが原因だ。
「ランキング外のレッドシャインとブルーシャインを実戦相手とする理由は、既に皆さん理解していらっしゃると思います。彼女たちはあのレイゼロールを浄化した光導姫。皆さんの実戦相手としては申し分ない方たちです」
「光導姫レッドシャインです! 本日はよろしくお願いします! あと、私たちがレイゼロールを浄化できたのは皆さんのおかげです! あの時はありがとうございました!」
「光導姫ブルーシャインです。まだまだ若輩の身ですが、よろしくお願いします。レッドシャインが言うように、レイゼロールを浄化したのは私たちの光ではなく、全ての光導姫と守護者の光です。私からも皆さんにお礼申し上げます」
風音の説明に続くように、陽華と明夜がそれぞれ挨拶と感謝の言葉を述べた。光導姫と守護者たちは2人の言葉を受け入れるように、パチパチと拍手を送った。
「2人ともありがとう。それでは、実戦研修を始めます。実戦研修は基本は1対1で行います。実戦相手は皆さんが自由に選んでください」
風音がそう言うと、陽華、明夜、暁理、アイティレ、光司、刀時、影人が散らばった。実戦相手はいずれも実力者。光導姫と守護者たちはその顔に緊張感を漲らせた。そして、光導姫と守護者たちは実戦相手を決めると、各々実戦相手がいる場所に向かって歩き始めた。
「・・・・・・」
実戦相手の1人として、影人は自分の持ち場で光導姫と守護者を待っていた。しかし、影人の場所には中々光導姫と守護者は来なかった。
「・・・・・・」
影人が金の瞳を他の実戦相手のいる場所に向ける。陽華と明夜の場所はかなりの光導姫が並んでいる。風音、アイティレの場所も多くの光導姫の姿が見える。暁理の場所もそれなりの数が確認できた。光司、刀時の場所は、守護者の実戦相手が光導姫よりも少ないという事もあってか、多数の行列があった。つまり、影人以外の場所はもれなく人がいた。
『くくっ、ある意味大人気だなお前』
(ああ、逆の意味でな。というか、これが正常だろ。誰が好き好んで俺なんかと戦いたがるかよ)
頭の中に響くイヴの声に影人は内心でそう言葉を返す。自分が正確に光導姫と守護者たちの間でどのように噂になっていたのかは分からないが、未だに大多数の光導姫と守護者にとってスプリガンは怪人のようなものだろう。
影人はこのまま誰も来ないだろう、いや来ない方が気が楽だと考えていると――
「「あ、あのっ!」」
そんなハモリ声と共に影人の場所に2人の男女が現れた。そして、影人はその2人をよく知っていた。影人の前に現れたのは、光導姫と守護者の姿となった魅恋と海公だった。2人は緊張した様子で影人を見つめてきた。影人は2人が変身した姿を初めて見たが、魅恋は桃色と紫を基調とした着崩した学生服のような姿で、海公は水色と緑を基調とした洋風の服装を身に纏っていた。
「・・・・・・俺との対戦希望者か?」
影人は魅恋と海公の姿に別段驚く様子もなくそう言葉を掛ける。影人は2人とクラスメイトだが、スプリガンの経験もあって他人のフリをするのは得意だし、またスプリガンの認識阻害の力もあって、2人が影人の正体に気づく事もない。ゆえに、影人はまるで初対面かのように2人に接した。
「あ、は、はい。それはそう・・・・・・なんだけど・・・・・・」
「あの・・・・・・僕たちのこと、覚えてないですか?」
「・・・・・・さあな。悪いが、光導姫と守護者の顔なんざ一々覚えていない」
魅恋と海公に対して影人は首を横に振った。もちろん嘘だ。影人はスプリガンの姿を2度、2人に晒している。だが、ここで覚えていると言うのは面倒な予感がしたし、何よりスプリガンのイメージに反しているような気がした。
「っ、私たちあなたに助けられたの! それも2回も! 私たち、あなたにずっとお礼を言いたかった!」
「だから、だから僕たちは光導姫と守護者になったんです!」
魅恋と海公はショックを受けた顔になりながらも、影人に向かってそう言ってきた。しかし、影人は表情を変える事はなかった。
「そうか。ご苦労な事だな。だが、俺からすればどうでもいい。それより、さっさと構えろ。お前らは俺と戦いに来たんだろ」
影人は魅恋と海公にそう促した。影人の冷たい反応に2人は再びショックを受けた様子になったが、次の瞬間にはキュッと顔を真剣なものに変えた。
「うん。分かった。なら、この戦いを通して・・・・・・!」
「僕たちのあなたに対する想いを伝えます・・・・・・!」
魅恋は虚空からモーニングスターを呼び出し、海公は虚空から少し大きめの片手剣を呼び出した。
「・・・・・・好きにしろ。後、お前ら2人で俺に掛かって来いよ。『巫女』は基本は1対1って言ったが・・・・・・俺は例外だ。1対1じゃ話にならないからな。俺の実戦相手としての役割は・・・・・・まあ連携の練習、それと理不尽なまでの力への慣れ・・・・・・ってところか」
「「っ!?」」
影人は風音が自分を実戦相手とした理由をそう結論づけた。影人は自分の身に身体強化の闇を纏うと、魅恋と海公に向かって金の瞳を向けた。影人の目を見た魅恋と海公は、その金の瞳からゾクリとした何かを感じ取った。2人は影人の言葉が挑発でも嘲りでも傲慢さから来るものではなく、単純な事実だと認識した。
「・・・・・・本気で来い」
影人が最後に2人に向かってそう言葉を送る。魅恋と海公は互いに顔を見合わせると深く頷いた。
「光導姫、マジカルスター・・・・・・行くよっ!」
「守護者、カイト・・・・・・行きますッ!」
魅恋と海公は自身の光導姫名と守護者名を名乗ると、影人に向かって一歩を踏み締めた。
『――皆さん、お疲れ様でした。これにて午後の研修を終了いたします。今日の研修の経験が、これからの皆さんの活動に役に立てば幸いです』
数時間後。「メタモルボックス」の力が解除され、すっかり元に戻った体育館内。変身を解き元の姿に戻った風音は、舞台上からマイクを通してそう宣言した。
「・・・・・・やっと終わったか」
体育館端の壁にもたれかかっていた影人が、どこか疲れた顔でそう呟く。実際、影人は疲れていた。
魅恋と海公を適当にボコした影人は、魅恋と海公にそれらしいアドバイスを行った。魅恋はモーニングスターを風で操り戦う戦闘スタイルだったので、同じ風使いの暁理の所に行くようにと。海公は片手剣を扱う守護者だったので、光司の所に行くようにと。後は、2人に共通して近距離戦のポイント、敵への観察のポイントなどを教えた。影人のアドバイスは一応真っ当なものだったので、魅恋と海公は納得し影人に感謝の言葉を述べ、それぞれ暁理と光司の場所へと向かって行った。
問題はその後だった。影人が魅恋と海公を指導した光景を見ていたからか、または怖いもの見たさからか数人の光導姫が影人の場所に来た。影人は詳しく知らなかったが、それは陽華と明夜の友人である火凛、暗葉、典子だった。影人は仕方なく3人もボコし(3対1で)、3人にも適当にアドバイスをした。
そして、それから徐々に影人の場所に光導姫と守護者が並び始めた。影人の場所は1度に複数人を相手どるので回転数がよく、また先に指導した者たちがアドバイスが的確だと口コミをしたため、一瞬の内に大人気となってしまった。影人は戦闘というよりかは、数十、あるいは百数十人にアドバイスを行った事に疲労を感じていた。
『この後は交流会を予定しています。食事もご用意しているので、ぜひご参加ください。もちろん参加費のようなものはありません。この機会に親睦を深めましょう』
風音がそう言うと光導姫と守護者たちから、待っていましたという感じのざわめきが起こった。光導姫と守護者たちは楽しみといった顔を浮かべていた。
特に、大食いのとある光導姫は「やった! 食べ放題! 今日はこれも楽しみだったんだよね!」と目を輝かせていた。その光導姫の様子を目にした影人は、相変わらずだなと少し呆れた。
(さて・・・・・・じゃあ俺は帰るか)
交流会にまで参加する義理はないし参加したくもない。風音には既に出席しないと断りも入れている。影人は最後にスプリガンの金の瞳をとある女子――自分の妹である穂乃影に向けた。
(穂乃影・・・・・・今日はお前が頑張ってるところを見られてよかったぜ)
普段は中々見れない光導姫としての穂乃影の姿を見る事が出来た。影人からすれば、それだけでも今日ここに来た甲斐があった。影人は一瞬、優しい兄としての目で穂乃影を見つめると、転移の力を使用し、フッと影の如くその場から消えた。
「っ、あれ・・・・・・」
穂乃影はいつの間にかスプリガンの姿が消えている事に気がついた。
「ん? どないしたんや?」
「あ、いえ・・・・・・そう言えば、スプリガンがいなくなってるなって・・・・・・」
穂乃影の呟きに気がついた火凛が首を傾げた。穂乃影は火凛にその事実を指摘した。
「え? あ、ホンマや。いつの間にかおらんで。かぁー、なんか流石スプリガンって感じやな。いつ消えたんって感じやで」
「ほ、本当だ。いつの間に・・・・・・も、もしかしてスプリガンって幽霊・・・・・・?」
「そんなわけはありませんわ暗葉。彼は多彩な能力を持つ実力者。私たちに気づかれずに去る方法を持っていても驚く事ではありませんわ。しかし・・・・・・彼は本当に強かったですわよね。3対1でもまるで勝てる気がしませんでしたし・・・・・・それに、全く本気でもなかった。まるで、底が見えない深淵を相手にしているようでしたわ」
穂乃影の指摘を受け、火凛、暗葉、典子もその事に気がついた。
「あれ、スプリガンは・・・・・・?」
「消えてる・・・・・・」
「いつの間に・・・・・・」
他の者たちも段々とスプリガンが消えている事に気づき始めた。ざわめきはやがて交流会の楽しみから、スプリガンが消えた事に対するものへと変わった。
「あはは・・・・・・」
「全く・・・・・・」
「あのバカ・・・・・・」
「ははっ・・・・・・」
影人が消えた事に、陽華、明夜、暁理、光司はそんな反応になる。スプリガンが消えた事に対するざわめきは中々収まらず、光導姫と守護者たちは近くにいる者と言葉を交わす。
「ガチでクソ強かったな・・・・・・」
「ああ。えげつなかった。何でもありかよって感じだ・・・・・・」
「もしスプリガンと本気で戦えって言われたら秒で死ねるわ・・・・・・」
「でも、アドバイスはすっごく的確だったわよね」
「うん。私の事しっかり見てくれてたんだなって。複数人の相手してたのに凄い観察眼だった」
「思ってたより怖くなかったな。というか、正直格好よかった・・・・・・」
「あれだけ強い人がいざとなれば助けに来てくれるって思うと、安心して戦えるな」
光導姫と守護者たちのスプリガンに対する反応は意外にも好意的なものが多かった。光導姫と守護者たちの反応を舞台上から見聞きしていた風音は、思わず口角を上げた。
(どうやら、スプリガンに対する光導姫と守護者のイメージを少しは変える事が出来たみたいね)
多くの光導姫と守護者にとって、スプリガンのイメージは未だに謎の怪人といったもので、あまり好意的なものではない。だが、影から光導姫と守護者を助ける存在であるスプリガンのイメージがそれではあまりに不憫だ。少なくとも風音はそう思った。まあ、影人本人は全く気にしないだろうし、何ならそのままの方がいいと言いそうだが。
風音が今回の研修にスプリガンを呼んだのは、そのイメージを多少なりとも変えたいと思ったからだった。今回は日本にいる光導姫と守護者だけだったが、いずれは世界の光導姫と守護者たちに対しても、現在のスプリガンのイメージを払拭したいと風音は考えていた。
結局、影人は最終的に風音が自分を研修に呼んだ理由を、光導姫と守護者の連携の練習用、理不尽な敵との戦闘の経験と予想したが、その予想は見事に外れていた。ざまあである。分かったふり恥ずかし。
ちなみに、影人が風音の依頼を受けた理由は、零無戦の時の借りを返すためだったので、特に報酬のようなものはなかった。そして、これもちなみにではあるが、周囲の光導姫と守護者のスプリガンに対するコメントを聞いていた陽華、明夜、光司はなぜかドヤ顔を浮かべていた。
『では皆さん。交流会に参加される方は係の者の後に。帰宅される方はそのまま校門の方に――』
風音が光導姫と守護者たちにそうアナウンスする。光導姫と守護者たちが体育館の中から外へと出て行く。ほとんどの者たちは交流会に参加し、親睦を深め、大いに交流会を楽しんだ。
――こうして、『巫女』の画策により、スプリガンに対する、日本の光導姫と守護者のイメージは少しだけ変わったのだった。
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