第435話 夏だ、祭りだ、ハチャメチャだ(8)

『参加される方はいらっしゃらないでしょうか? もしいなければ、今年の「祭りのど自慢大会」はこれで――』

 進行役の男性は会場を見渡し、参加者がいないかを確認する。そして、進行役の男性は大会終了の言葉を述べようとした。

 だが、その前にスッと右手が上がった。

「すみません。参加します」

 手を上げたのは当然というべきか、前髪に顔の上半分を支配された少年、我らが前髪野郎であった。影人が手を上げた事によって、観客の注目が一気に影人へと集まった。

「うおっ、前髪長っ・・・・・・」

「ギャルゲーの主人公みたいな見た目だな・・・・・・」

「うわー・・・・・・」

「いかにも陰キャって感じ・・・・・・」

 ざわざわと周囲からそんな声が聞こえてくる。だが、メンタルが鋼鉄の前髪野郎はそんな声を気にせずに、どんどんと舞台の方に向かっていった。

『あ、どうぞ舞台にお上がりください。ご参加ありがとうございます。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?』

『・・・・・・帰城影人。高校2年生です』

 舞台に上がった影人は先ほどの光司と同じく、軽い自己紹介を男性が差し出してきたマイクに向かって行った。

『帰城くんですね。帰城くんはなぜ飛び入り参加してくれたんですか?』

『そうですね・・・・・・ここで歌う事は、俺にとって逃れられぬカルマ・・・・・・だからです』

 真剣そのものといった様子で、前髪野郎は堂々とそんな理由をマイクに向かって放った。

「え、何・・・・・・?」

「カルマ・・・・・・?」

「なんかよく分かんないけど・・・・・・あの人ヤバい感じがする・・・・・・」

「痛たた・・・・・・」

 アホがマイクを通してそんな事を言ったものだから、会場の空気は一転、何とも微妙極まりないものになった。

「あのバカ前髪・・・・・・何してるんだよ。本当、あいつはバカだな・・・・・・」

「よくもまあ、恥ずかしげもなくあんな事をマイクに向かって言えるでありますな・・・・・・」

「・・・・・・帰城影人には羞恥心というものが欠如しているようですね。いえ、そもそも人として欠陥を抱えているといった感じでしょうか」

「あはははは! 帰城くんはやっぱり面白いわね」

「うーん、影くんだなぁ・・・・・・」

「カルマ・・・・・・確かサンスクリット語だったか。なぜ、その言葉が今ここで出るのだ・・・・・・?」

「・・・・・・改めて、人間のギャップって凄いわね・・・・・・」

「確かに間違った表現ではないね。うん。中々にいい表現だ」

「ふふっ、相変わらず面白い子」

「僕との勝負の事をそれまで・・・・・・本当に光栄だよ帰城くん」

「ほほっ、あやつは見ていて退屈せんの」

「な、なんか帰城くんぽいね・・・・・・」

「そ、そうね・・・・・・」

「真性のアホだわ・・・・・・」

「格好いいですよ。影人さん」

「! (頑張れー!)」

 一方、影人の言葉を聞いていた暁理、芝居、イズ、真夏、ソニア、アイティレ、風音、ロゼ、シェルディア、光司、白麗、陽華、明夜、キベリア、キトナ、ぬいぐるみはそれぞれの感想を漏らしていた。大半は呆れ果てた反応だったが、数人は少し違う反応を見せた。

『そ、そうですか。帰城くんは、とにかくこの大会に出たいと思ってくれたんですね!』

 本来ならば、前髪のコメントは凄まじく反応に困るものだったが、そこはさすが進行役というべきか、男性はそうフォローした。男性は内心では「ヤバい。とんでもない奴が来た」と思っていたが、そんな様子はおくびにも出さなかった。流石は大人である。

『では、早速歌っていただきましょう。帰城くん、リクエスト曲を教えてください』

 男性が影人にそう質問する。影人のその質問に対する答えは既に決まっていた。

(・・・・・・待たせたな、。今こそ俺たちが輝く時だぜ)

 影人は内心でそう呟いた。そう。影人はずっと感じていた。光司との勝負の最中から、自分たちに向けられていた目を。友の魂の波動を。

『・・・・・・すみませんが、俺がリクエストする曲はありません。その代わり俺の、いやのオリジナルの曲を歌わせていただきます』

『え!?』

 前髪の想定外に過ぎる答えに、思わず進行役の男性がそう声を漏らす。男性が驚いている間に、影人は右手を天に掲げ、パチンッと指を鳴らした。

 瞬間、6つの風が奔った。

「――俺たちを」

「――呼んだかい?」

「――いいや、分かってるぜ」

「――君が今から何をしようとしているのかはな」

「――力を貸すぜ」

「――さあ、ここが俺たちのデビュー舞台だ」

 すると、いつの間にか影人の背後、舞台の上に6人の少年たちの姿があった。6人の少年たち――A、B、C、D、E、Fはなぜか全員、格好をつけたポーズを取っていた。

「え・・・・・・? 誰あの人たち・・・・・・?」

「さ、さあ・・・・・・?」

「ど、どこから現れたのだ・・・・・・? 気づけば既に視界内にいたが・・・・・・」

「なっ!? あ、あいつら風洛うちのバカ共じゃない!? いったい何をする気よ・・・・・・」

「ま、またまたよく分からない事態でありますが・・・・・・うーむ、何か面白い予感がビンビンにするでありますな」

「凄いわね。見たところ、ただの人間のはずなのに私の認知に引っかからなかったわ。どれだけのスピードで動いたのかしら」

「妾も反応できなんだ。あやつら、只者ではないの」

 急に舞台の上に出現した6人のバカ共に対し、暁理、明夜、アイティレ、真夏、芝居、シェルディア、白麗がそんな感想を漏らす。その他の者たちも基本的には6バカを知らないので、暁理や明夜やアイティレなどと同じ反応を浮かべていた。唯一、6バカを知っていた真夏は、バカ共が何をやらかすつもりなのかと緊張の混じった顔だった。あと、シェルディアと白麗に認知されずに舞台の上に現れたのは普通に人外レベルである。奴らのバカさと、バカさから来るバカパワーとでも言うべきエネルギーはもはや宇宙であった。

「ああ。お前たちの力を貸してくれ。ブラザー」

 影人はいつの間にか自分の背後に移動していたアルファベットズに驚く事なく、振り返りマイクを通さずにそう言った。影人の言葉を受けた6人はコクリと首肯した。

「「「「「「もちろんだブラザー!」」」」」」

「・・・・・・ありがとよ」

 影人が感謝の言葉を述べる。突然の乱入者に会場は大きく騒つく。進行役の男性も困り果てた様子で、影人たちに声をかけた。

『あ、あのー、すみませんがそちらの方たちは・・・・・・? それと、オリジナル曲と仰っていましたが、この大会はそういった趣旨の大会ではなくてですね・・・・・・それに、音源も・・・・・・』

「大丈夫だ。心配には及ばないぜ」

「ああ。こんな事もあろうかと、楽器は常に用意していたからな」

「練習も実は陰でバッチリやっていた」

「今や俺たちの楽器捌きはかなりものだぜ」

「ふっ、遂に披露する時が来たな」

「さあ、G。マイクを握ってくれ。歌詞は覚えてる、いや、もう俺たちの魂を通じて理解わかってるだろ。準備はいつでもいいぜ」

 言葉通り、どこからかベースやギター、携帯式のドラム、携帯式のピアノなどを持ち出してきたA、B、C、D、E、Fの6人のバカどもがフッと笑う。いったいどこの亜空間から取り出したのかと、声を大にして突っ込みたいが、無法バカモードのこいつらに何を言っても無駄である。どうせ、「何か気合いで出てきた」とか物理法則やらを無視しまくった言葉が出てくるに違いない。これぞバカパワー。終わりである。

「ああ。さあ・・・・・・ショータイムといこうぜ!」

 前髪野郎が進行役の男性からマイクをひったくるように奪う。それと同時に、AとBはベースを鳴らし、CとDはギターを弾き、Eはドラムを叩き始め、Fはピアノの鍵盤を押し始める。それらが共鳴し、曲のイントロを奏で始める。

『皆さん、聞いて下さい。俺たちで「セブンス・バック・ヴァレット」――』

 ボーカルである前髪ことGは観客たちに曲名を告げると、高らかに歌い始めた。


曲名 セブンス・バック・ヴァレット


歌  G

作詞 A、B、C、D、E、F

作曲 B


歌詞 


俺たちは7つの弾丸 いつだって一緒の標的ターゲットを狙って撃ち抜くぜ

どんな困難ピンチも俺たちなら乗り越えられる

HEY HEY あんたはもう撃たれてるぜ


俺たちは別々の道を歩んでいた そう途中までは

だけど突然交差クロスした俺たちの道 NOW

魂で繋がった俺たちは さながら7つの弾丸

7つ集まれば世界だって WOW きっと WOW

撃ち抜いてみせるぜ 無敵で最強!

俺たちは7つの弾丸 いつだって一緒の標的ターゲットを狙って撃ち抜くぜ

どんな困難ピンチも俺たちなら乗り越えられる

HEY HEY あんたはもう撃たれてるぜ

撃たれたらお前も仲間 仲良くやろうぜ

セブンス・バック・ヴァレット! 君も今日から弾丸さ

どこまでも突き進んで撃ち抜いていけ!

セブンス・バック・ヴァレット! 俺たちは永遠エターナル


〜2番は考え中〜



『――聞いてくれてありがとう。感謝するぜ』

 気分が最高潮にまで盛り上がっていたのだろう。アホの前髪は天に人差し指を掲げていた。バカ前髪は満足そうな顔で観客にそう告げた。

「・・・・・・何よこれ?」

「うーん、正直上手くも下手でもなかったわね・・・・・・微妙っていうか・・・・・・」

「歌詞も音楽もちょっとアレかな・・・・・・」

「あのバカ・・・・・・本当にバカなんだな」

「・・・・・・まあ、心は込もっていたな」

「う、うん。私は好きだなー・・・・・・」

「ま、まあ・・・・・・うんって感じね・・・・・・」

「わ、わあ・・・・・・」

「・・・・・・あんな男に裁かれたのですから、製作者が浮かばれませんね」

「ふふっ、あの子はいつでも楽しそうね」

「中々に良い余興じゃったの」

「影人さん、いいお歌でしたよ!」

「ふむ。歌う事もまた芸術活動だ」

「うむ。漢を見たであります。見事であります、帰城殿」

「帰城くん、いい歌だったよ」

「! (わあ! パチパチ!)」

 前髪野郎と6バカどもの渾身の曲を聞いた、キベリア、真夏、ソニア、暁理、アイティレ、陽華、明夜、風音、イズ、シェルディア、白麗、キトナ、ロゼ、芝居、光司、ぬいぐるみはそれぞれの反応を示した。一部の者たちを除き、基本的には当然というべきか微妙や呆れといった反応だった。そして、それは観客たちも同じようで、特に女性は「どうすんのこの空気」的な顔を浮かべている者たちが大半だった。

 ――そう思われたのだが、

「「「「「う・・・・・・うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」

 次の瞬間、男性の観客たちから怒号のような歓声が上がった。

「感動したぜ!」

「心に来たぜ! 最高だあんたら!」

「真の歌と真の音楽を聞いたッ! こんな気持ちは久しぶりだ! サンキュー!」

「年甲斐もなく興奮したわい! 若い頃を思い出すのう! ぬぉぉぉぉぉ! 滾ってきたぞ!」

「俺も弾丸になるぜ!」

「今夜は最高の夜だ!」

 男の観客たちは若い老い関係なく盛り上がっていた。女性の観客たちは男の観客たちに対し、「え、マジ?」的な目を向けていた。

「なあ・・・・・・見てみろよ。お前ら。この光景を。俺たち・・・・・・やったな」

「ああ・・・・・・」

「俺たちの思いがみんなに届いたんだな・・・・・・」

「最高のファーストライブだったぜ・・・・・・」

「やべえ。何か涙が・・・・・・」

「今日は記念すべき日だな・・・・・・」

 A、B、C、D、E、Fの6人は満足しきった顔を浮かべていた。もちろん、Gこと前髪野郎も。前髪野郎は歓声をその身に浴びながら、マイクを進行役の男性に返した。

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 猛烈に感動しました! 帰城くん、それにバックバンドの皆さん! 素敵で熱い歌をありがとうございました! フゥー! 皆さま、どうかこの最高のロックンローラーたちに盛大な拍手をお願いします!』

 進行役の男性も興奮していたようで、先ほどまでとは全く違う様子で、マイクに向かってそう言った。途端、凄まじい拍手の音が広場を支配した。

 ――こうして、影人と光司の最後の勝負は、まさかまさかの、互角の様相を呈したのだった。











「うん。2人とも良かったわ。いい勝負だったわね」

 パチパチと手を叩きながら、シェルディアが影人と光司を讃えた。

「・・・・・・まあ、何か結果そうなっちゃったね。よく分かんないけど」

「あはは、奇跡を起こすのは影くんの得意技だね」

「・・・・・・男って生き物は本当によく分からないわね」

「うーん、まさか男たちに受けるなんてね。不思議だわ」

 暁理、ソニア、キベリア、真夏がそんな感想を漏らす。一部の色々と特殊な者たち――具体的には、キトナ、芝居、光司、ロゼ、白麗など――以外は4人と似たような感想を抱いていた。

「ふっ、俺たちの熱い想いが伝わったんだ。あれくらいの歓声は上がるに決まってるだろ」

「そうだな」

「ああ。想いの力だ」

「まあ野郎にしか伝わってなかったが気にする事はない」

「ああ。それでいいんだ」

「次は女性にも伝えてみせるさ」

「目指せバーニングアンドバーニングだ」

 Gことゴキブリ野郎、ではなく前髪野郎がフッと格好をつけて笑う。それに同調するように、そのまま影人について来ていた、A、B、C、D、E、Fの 6バカがうんうんと頷いた。

「陽華、明夜。耳を塞いでください。この者たちの言葉を聞いていたら、頭が悪くなります」

「い、いやそれはないからイズちゃん! ・・・・・・た、多分!」

「そ、そうよイズちゃん。陽華の言う通りよ・・・・・・た、多分!」

 イズが7バカに対して軽蔑の目を向ける。陽華と明夜は基本いい子なので、一応フォローを入れた。それでも、推量の言葉をつけずにはいられなかったが。

「確かに、影人くん達の歌と演奏は素晴らしかったよ。でも、僕も負けていたつもりはないよ。自惚れに聞こえるかもしれないけど、歓声は君たちと同レベル、いやそれ以上に上がっていたと思うよ」

「はっ、言うじゃねえか香乃宮。俺たちも負けてるつもりはねえぜ。だが、勝ち負けを決めるのは俺やお前じゃない。さあ、判決を下してもらおうじゃねえか。ここにいるみなさま方にな」

 影人が周囲にいる者たち――陽華、明夜、イズ、風音、アイティレ、芝居、ロゼ、真夏、暁理、ソニア、シェルディア、キベリア、キトナ、白麗に前髪の下の目を向けた。最初に比べればかなり増えてしまったが、ここに居る14人(ぬいぐるみは可哀想だが除く)が影人と光司の勝負の行方を決めるのだ。

「・・・・・・正直難しいわね。香乃宮くんと帰城くんの歌に対する観客の反応は、ほぼ互角に見えたし」

「うん。香乃宮くんは女性の、帰城くんは男性の反応が良かったもんね」

「というか、香乃宮くんと影人の戦いなのに、影人の後ろで演奏してた人たちの事は見逃していいの? 普通に反則じゃないの」

「勝負はあくまで歌対決で、彼らは歌っていないから問題はないのではないか?」

「そうだね。でも、バックバンドの存在は大きいかな」

「でも、歌自体は副会長の方が上手かったわよ」

「確かにそうでありますな。やはり、歌が対決の肝となっている以上、歌の上手さは見逃せないポイントであります」

「・・・・・・もう面倒だから帰城影人の負けでよくない?」

「そうですね。帰城影人ですから」

「それは影人さんが可哀想ですよ」

「わ、私もそう思います」

「どうしようかしら。心情的には影人を勝ちにしてあげたいところだけど、それは贔屓よね」

「歌の上手さは香乃宮じゃったか、そやつの方が上。余興としては帰城影人の方が上という感じじゃな」

「ふーむ、甲乙つけがたいね」

 明夜、陽華、暁理、アイティレ、ソニア、真夏、芝居、キベリア、イズ、キトナ、風音、シェルディア、白麗、ロゼが議論を交わす。議論に決着がつくまではもう少し時間がかかるか。影人と6バカ、光司がそう思っていると、どこからかこんなアナウンスが聞こえて来た。

『皆さま、あと5分ほどで花火を打ち上げます。ご覧になる方は空にご注目ください』

「え、もうそんな時間!? こんなくだらない議論してる場合じゃないわ! 花火を見れるベストスポットに移動しないと! ほら、行くわよあんた達!」

「く、くだらない・・・・・・? あのですね、会長。これは何よりも重大な事で・・・・・・」

 アナウンスを聞いた真夏がハッとした顔になり、周囲の者たちにそう声を掛ける。くだらない議論と言われた影人は真夏に抗議しようしたが、周囲の者たちもハッと真剣な顔になっていた。

「そうね。議論は後だわ」

「だね。花火の方が大事だ」

「じゃの」

 シェルディア、ロゼ、白麗が頷き、他の者たちも頷く。女性陣は一斉に真夏に続き広場を後にした。

「ちょ、俺たちの勝負の結果は!?」

「判定は後になりそうだね。それより、僕たちも行こう帰城くん」

「ああ。ここは女子たちや香乃宮くんの言う通りだぜG」

「「「「「だな」」」」」

 悲鳴を上げる影人に、光司とAがそう言い、B、C、D、E、Fの5人も同意する。影人は「ああくそっ!」と悪態をつくと、女性陣の跡を追った。











 5分後。影人たちは花火大会の会場から少し離れた場所――影人と6バカたちがベースキャンプと言っていた木の暗がり――にいた。6バカが途中で女性陣に場所を確保している事を進言したのだ。その結果、影人たちはこの場所から、たったいま打ち上がり始めた花火を見上げていた。

「うわー! 綺麗!」

「やっぱり夏といえば花火よね」

「これが花火・・・・・・人間はよくこんなものを作り出しますね」

「花火って本当に綺麗ね・・・・・・」

「そうでありますな」

「・・・・・・見事だな。日本の花火はこれほどまでに美しいのか」

「私も久しぶりに見たな。本当、素敵だね♪」

「派手でいいわね! でも、私っていう存在の方がもっと派手だわ!」

「・・・・・・まあまあね」

「まあ・・・・・・! 空に花が咲いていますわ! いったいどのような魔法なのでしょうか!」

「あれに魔力は感じんの。つまり魔法ではない。魔法も使わずに空に花を描くとは・・・・・・ほほっ、やはり異なる世界は面白いの」

「あれは火薬の組み合わせであんな風になるのよ。今まで何百、何千回と見てきたわ。とはいえ、やっぱり綺麗ね」

「美しい・・・・・・ああ、実に美しい・・・・・・」

「風物詩だね。うん。やっぱりいい」

 陽華、明夜、イズ、風音、芝居、アイティレ、ソニア、真夏、キベリア、キトナ、白麗、シェルディア、ロゼ、暁理がそれぞれ花火の感想を漏らす。

「みんなでこうして花火を見上げられるなんて・・・・・・素晴らしい思い出が出来たよ。僕はこの日の事を、これから先絶対に忘れない」

「魂の友たちだけじゃなくて、こんな超美人美少女軍団と花火が見れるなんてな・・・・・・やべー、超幸せだ」

「ああ、こんなに嬉しい事はない・・・・・・」

「死んでもいいぜ・・・・・・」

「そうさ。俺たちはこの日のために生まれてきたんだ・・・・・・」

「母さん、父さん・・・・・・やったよ。俺はいま女子たちと花火を見てる・・・・・・」

「これもまた青春だ・・・・・・」

 光司、A、B、C、D、E、Fの男性陣も花火を見上げ、それぞれの感想を呟く。6バカどもの感動の仕方は少しおかしい気がしないでもなかったが、まあ年頃の男子高校生という点から見れば、ある意味普通と言えるだろう。

「クソッ、何でこんな事に・・・・・・」

 そして、普通でない前髪は花火を見上げながら、そんな事を呟いていた。本来ならば、魂の友たちと熱い感動の涙を流しながら花火を見ていたはずだ。だが、結果はこの大人数である。捻くれ捻くれツイストの前髪は、この現状に不満があった。

(だがまあ・・・・・・)

 影人は前髪の下の目を花火から周囲の者たちに向けた。女性陣も男性陣も、皆満ち足りた顔で、或いは楽しそうな顔で花火を見上げている。流石の影人もこの空気を壊そうとは思えなかった。

「・・・・・・はっ、仕方ねえ。俺は大人だからな。今夜くらい周りに合わせてやるぜ」

 前髪野郎はフッといつも通りの前髪スマイルを浮かべる。何とも気持ちの悪い呟きだったが、前髪野郎のその呟きは花火の音が掻き消したので、誰の耳も汚す事はなかった。

 影人も再び花火を見上げる。こんな大人数で花火を見上げるのは初めてだ。それもこれも、風音たちと出会い、光司と勝負をしたのが――

「・・・・・・あ」

 影人は唐突にある事に気がついた。そして、先ほどイヴが言っていた事、イズが何を言おうとしていたのかも理解した。

「てめえ香乃宮! 謀りやがったな!? 勝負って名目だけでやってた事は普通に一緒に祭りを巡ってただけじゃねえか!」

 騙されていた事に気づいた影人が、光司に対してキレる。そんな影人に暁理は驚いた。

「え、今頃気づいたの?」

「やはり帰城影人はバカですね」

「帰城影人がアホなのはいつも通りよ」

「ふふっ、あなたって鋭いのか鈍いのか分からない時があるわね」

 イズとキベリアは影人に侮蔑の言葉を送り、シェルディアはクスリと笑う。他の者たちもほとんどの者たちは既に気づいており、呆れたような目をする者もいれば、シェルディアのように笑う者もいた。

「誤解だよ帰城くん。僕はあくまで勝負をしていただけで、その過程で君と一緒に祭りを堪能していただけだよ」

「誤解もクソもあるか! だいたいお前は――!」

 光司がかぶりを振り影人がそう叫ぶ。空も花火で賑やかだが、地上にもある意味賑やかな空気が流れた。


 ――夏祭りの夜はこうして過ぎて行った。

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