第434話 夏だ、祭りだ、ハチャメチャだ(7)

「帰城くん? それに、香乃宮くんに他のみんなも・・・・・・え、みんなでお祭り回ってる感じ!?」

「しかも、この出店を出してるのしえらさんだわ・・・・・・まさか、みんなでお祭りを回るのに私たちだけハブられたって事・・・・・・!?」

「・・・・・・真祖が3人に『破絶の天狐』までいますか。色々と凄まじいですね」

 影人たちに気がついた陽華、明夜、イズがそれぞれの反応を示す。影人は不愉快な勘違い(あくまで自分にとって)をしている陽華と明夜に対して反論した。

「勘違いするな。俺は巻き込まれただけだ。考えてもみろ。孤独で孤高な俺が素直にこの集団といると思うか? いいや、あり得ないね。あ、ちょ、嬢ちゃん。いま決めてるところだから、そんな不満そうな目で睨まないでくれよ。分かった分かった。嬢ちゃんは別だから!」

 いつも通り無駄に格好をつけようとした前髪野郎だったが、シェルディアの無言の抗議を受け、最後はシェルディアに向かって取り繕っていた。何とも情けない生物である。

「うーん・・・・・・確かに、あの1人大好き侍の帰城くんが素直にみんなと一緒にいるのは不自然ね」

「だよね。帰城くんなら一目散に逃げてるはずだし・・・・・・」

「そうですね。帰城影人の行動原理から外れているように思います」

 明夜、陽華、イズは何の疑いもなく影人の言い分を信じた。信頼性の方向がおかしい気もするが、前髪野郎は、捻くれ捻くれツイスト野郎なので、その信頼の方向で逆に合っていた。

「朝宮さん、月下さん、フィズフェールさん、こんばんは。実はね――」

 3人に対して爽やかイケメンスマイルを向けながら、光司は事情を説明した。

「な、なるほど。香乃宮くんが帰城くんと一緒にお祭りを回りたいがために勝負をふっかけて、帰城くんがそれを買ったと・・・・・・」

「それで勝負をしている内に顔見知りが増えていって現在の状況になっていると・・・・・・」

「・・・・・・あなたもよく分からない人間ですね、香乃宮光司。帰城影人と共に祭りを回りたいとは。ですが、それを言うならあなたの目的は既に・・・・・・」

 陽華、明夜が状況を飲み込もうとしている中、イズが何か気づいた事を述べようとする。だが、光司はスッと自分の口元に人差し指を近づけた。

「おっと、フィズフェールさん。申し訳ないけど、それ以上は言わないでくれるかな。それは無粋というものだからね」

「っ?」

「・・・・・・なるほど。分かりました」

 光司の言葉に首を傾げた影人を見たイズは、全てを察したようにコクリと首を縦に振った。

「ねえ明夜、イズちゃん」

「言いたい事は分かってるわ陽華。もちろん、私はOKよ。というか、こんな楽しそうなイベント見逃せないわ」

「私も陽華が何を言おうとしているのか予想できます。構いませんよ。まあ、帰城影人がいるのはあれですが」

「ありがとう2人とも! ねえ、香乃宮くん。よければ、私たちも一緒に着いて行ってもいいかな? みんなとお祭りを回るのは、とっても楽しいだろうから!」

 明夜とイズに確認を取った陽華が光司にそう聞く。光司は笑顔で頷いた。

「もちろんだよ。朝宮さんたちが加わってくれたら、更に賑やかになるよ」

「おい香乃宮。何を勝手に決めてるんだ。これ以上増やすな。それに、朝宮と月下は特にうるさ――」

「ちょっと黙りなよ君」

お黙りシャラップだよ。影くん」

「いいじゃない影人。そっちの方が楽しいわ」

 影人が異議ありといった様子で声を上げるが、暁理、ソニア、シェルディアが影人の言葉を封じに掛かる。3人からそう言われた影人は「ぐっ・・・・・・」と言葉を飲み込む。これ以上は何を言っても無駄だと悟ったのだ。

「というわけで、皆さんこれからよろしくお願いします!」

「一緒に祭りを楽しみましょう」

「・・・・・・よろしく頼みます」

 陽華、明夜、イズが一行に挨拶をする。影人とキベリア以外の者たちは喜んで3人を受け入れた。

「ちくしょう・・・・やっぱりこうなるのかよ・・・・・・」

 そして、影人はガクリと肩を落とした。

 ――こうして、陽華、明夜、イズも一行に加わった。











「きゃー! 改めて見てもみんなの浴衣可愛いですね! 風音さんはザ・和風美人って感じで、アイティレさんは銀髪と浴衣のギャップが凄くマッチしてるし、芝居ちゃんは凄く綺麗だし、ロゼさんはカッコ可愛いし、会長は大人っぽいし、シェルディアちゃんはもう何か色々凄いし、キベリアさんはセクシーだし、キトナさんは萌え萌え可愛いし、早川さんは普段とのギャップにグッとくるし、テレフレアさんは着こなしが凄い! もうみんな似合ってる!」

「陽華の言う通りだわ。これぞ、美人美少女の宝石箱やーって感じだわ」

「ありがとう朝宮さん。朝宮さんの浴衣も凄く似合ってるよ。もちろん月下さんもね」

「分かってるじゃない名物コンビ! そうよ私は大学生。大人なのよ!」

「ふん、光導姫にしては分かってるじゃない」

「そ、そう言ってもらえると嬉しいな・・・・・・うむ。君たちもとても似合っているぞ」

「いやいや、私など皆様に比べたら。ですが、私もやはり女子。嬉しいでありますな」

「わ、和風美人なんて・・・・・・もう陽華ちゃんたら」

「カッコ可愛いか。新しい概念だね。ありがとう。君たちも皆素敵だよ」

「もう口が上手いわね。ふふっ、でも嬉しいわ。ありがとう。後で何か好きな物買ってあげるわね」

「ありがと♪ 日本の女性にそう言ってもらえると自信が出て来るよ♪」

「まあまあ。萌え萌え可愛いだなんて。嬉しいお言葉です。皆さんも萌え萌え可愛いですよ」

 陽華と明夜が女性陣の浴衣を褒めると、暁理、真夏、キベリア、アイティレ、芝居、風音、ロゼ、シェルディア、ソニア、キトナがそんな反応を示した。皆、上機嫌、あるいは嬉しそうだった。キャッキャとした女子たちの声が影人と光司の耳を打った。

「・・・・・・香乃宮。俺は女子たちのこの雰囲気が頗る苦手だ」

「まあまあ、賑やかなのはいい事だよ。・・・・・・ただ、そうだね。僕も少し苦手かもしれない」

 影人の言葉に光司は苦笑した。男の影人と光司からすれば、この姦しさはどうしても疎外感というか、苦手意識のようなものを感じてしまうのだ。

「凄え・・・・・・」

「女の子、全員めっちゃ綺麗で可愛い・・・・・・」

「どこかのアイドルグループか・・・・・・?」

「でも、あの前髪くんは何だ・・・・・・? パシリか・・・・・・?」

「1人だけ浮きっぷりが半端ないな・・・・・・」

「何か可哀想だな・・・・・・」

 ちなみに、前髪以外は基本的に美少女やら美人やらイケメンしかいないので、周囲の者たちは影人以外の者たちには驚いたり、羨望の混じった視線を、1人だけ異質な前髪に同情したり憐れんだりする目を向けた。

「それで、シェルディア。帰城影人とそやつの勝負方法はどうするのじゃ? 先ほど、シエラから何か聞いていたようじゃが」

 カウンターで酒を呑みながら、白麗がシェルディアにそう問う。アイスティーをストローで啜っていたシェルディアは、ストローから口を離した。

「そうね。遊戯とは少し違うけれど、面白い話をシエラから聞いたからそれにしようと思ってるわ。でも、決めるのは私1人というわけにはいかないから・・・・・・あなた達、ちょっといいかしら」

 シェルディアが周囲の者たちに呼びかける。すると、全員がシェルディアの方に顔を向けた。

「どうしたのシェルディアちゃん?」

「実は、影人とそこの彼の最後の勝負について提案があるの。賛成かどうか聞きたいから、答えてちょうだい。ああ、影人とあなたは少し離れていてね。当事者が聞けば驚きも楽しみもないでしょうから」

 明夜が首を傾げ、その場の全員の言葉を代弁する。そして、シェルディアは皆にそう告げた。

「へえ、面白そうじゃない」

「確かに、そろそろ花火だもんね。そろそろ見世物は決めとかないとだ」

「どんな方法なのですか?」

 真夏、暁理、キトナがそう反応し、他の者たちも3人と似たような反応になる。影人もシェルディアの提案は気になったが、離れろと言われたため、影人と光司はその場から離れた。

「嬢ちゃんが提案する勝負か・・・・・・正直、嫌な予感しかしないな」

「確かに。でも、僕はどんな勝負でも全力でやるよ。今日僕は君に勝つ」

「・・・・・・はっ、それはこっちのセリフだ。吠え面かかせてやるよ」

 シェルディアたちが話をしている間、影人と光司はそんな言葉を交わす。言葉だけなら少年漫画っぽいが、賭けているのは「前髪とお祭りデート券(直球)」である。普通に締まらないし、なぜか悲しくなってくる。

「いいねそれ! 絶対盛り上がるよ!」

「うん! それ最高! 私大賛成♪」

「あの帰城影人が全力でそれをしたら・・・・・・ぷぷっ、想像するだけで笑えてくるわ」

「ほほっ、何とも楽しそうじゃ。よし、妾も見に行ってやろう」

「うむ。間違いなく盛り上がるでありますな」

 シェルディアの説明が終わったのか、突然女性たちが集まっている方からそんな声が聞こえてきた。声の主たちは、陽華、ソニア、キベリア、白麗、芝居だったが、他の者たちも賛成といった雰囲気だった。

「じゃあ、異論はないという事でいいわね?」

 シェルディアが皆に改めて確認を取る。シェルディアの説明を聞いた者たちは、皆首を縦に振った。

「影人、ええと確か光司だったかしら。最後の勝負の方法が決まったわ」

「・・・・・・じゃあ、聞かせてもらうぜ。その勝負の方法はいったい何なんだ?」

 シエラの屋台の方に戻りながら、影人がシェルディアにそう質問を飛ばす。そして、シェルディアは影人と光司に最後の勝負の方法を伝えた。

「あなた達の最後の勝負、それは・・・・・・よ」











『さあさあ、残す時間もあと僅か! 「祭りのど自慢大会」の参加者はいないですかー? 花火の前に歌ってスッキリ出来ますよ! あと15分で打ち切りです! 参加希望者はお早めに! 飛び込み参加大歓迎ですよ!』

 数分後。影人たちは広場にいた。広場にはたくさんの人たちが集合しており、櫓が建てられていたり、その周囲で盆踊りをする人たちも多くいた。そして、そんな広場に何かの進行係だろうか、浴衣を来た若い女性がマイクでそんなアナウンスを行っていた。

「・・・・・・まさか、最後の勝負が歌対決になるとはな・・・・・・」

 女性のアナウンスを聞いた影人が、どこか暗い顔でそう呟く。前髪野郎の顔は元々暗いも暗いが、今はより暗くなっていた。

「そうだね。これは予想出来なかったよ」

 影人の隣にいた光司も小さく苦笑する。ただ、光司は影人のように滅入っているような様子には見えなかった。

 シェルディアが提案し、他の見学者たちが了承した最後の勝負は、この広場で行われているのど自慢大会、いわゆるカラオケ対決だった。影人と光司が歌い、観衆の反応がよりいい方が勝ち、悪い方が負けるといったものだ。正確には、屋台の遊戯による勝負ではないが、勝負の内容を決める者たちが全員賛成した事によって、この勝負方法に決定されたのだった。

「でも、勝負は勝負だからね。帰城くん、先に行くかい?」

「いや・・・・・・まだどの曲を歌うのか悩んでるから後でいい」

「分かった。なら、僕はもう決まってるから、先に行かせてもらうよ」

 光司はそう言うと、舞台の方へと歩いて行った。そして、進行役の女性に向かって声を掛けた。

「すみません。参加いいですか?」

『あ、はい! 大歓迎ですよ! どうぞどうぞ! 舞台に上がってください!』

 マイクを持っていた女性が光司にそう言葉を返す。光司は舞台に上がった。

『飛び入り参加ありがとうございます! お兄さん、超絶イケメンですね! いや、本当に。後で連絡先を・・・・・・コホンッ! す、すみません。ええと、お兄さんのお名前は?』

 光司のイケメンぶりに思わず口を滑らせそうになった女性が、気を取り直したようにそんな質問をする。光司は女性の握っているマイクに向かって、軽い自己紹介をした。

『香乃宮光司です。高校3年生です。よろしくお願いします』

「キャー!」

「イケメンだわ!」

 光司が自己紹介をすると、会場から黄色い声が上がった。

『高校生! いいですね若いですね! こんなイケメン高校生が現実に存在したなんて。やっぱり連絡先を・・・・・・コホンコホンッ! な、何でもありません!』

「大丈夫かあの人・・・・・・」

 再び欲望に塗れた言葉を述べようとした進行役の女性に、見ていた影人が思わずそう言葉を漏らす。光司のイケメンぶりに目が眩むのは分からなくもないが、見ていて色々と危なっかしい女性だった。

『それで、香乃宮くんは何で飛び入り参加してくれたんですか?』

『そうですね。少し歌いたい気分だったので。すみません、つまらない理由で』

『いえいえ! とても素敵な理由ですよ! やっぱりイケメンは理由までいい・・・・・・と、すみません。では香乃宮くん、リクエストの曲は何にしますか? カラオケと同じセットなので、大体の曲は用意できますよ!』

『では、◯◯の◯◯◯◯◯でお願いします』

 光司が進行役の女性にリクエストの曲を告げる。女性が光司にマイクを渡し舞台の袖に移動する。光司はマイクを持ったまま、舞台の中央に1人立った。

「〜♪」

 光司がリクエストした曲がスピーカーから流れる。光司にピッタリな爽やかで明るい曲だ。光司はリズムに乗りながら、歌い始めた。

『〜♪ 〜♪』

 光司の歌ははっきり言ってかなり上手かった。音程、歌詞への理解度、声の伸ばし方はもちろんの事、堂々たる振る舞いもあって、さながらプロのようだった。

「「「「「キャー!」」」」」

 光司のビジュアルに歌の上手さも相まって、観客、特に女性の反応は凄まじかった。会場はさながら男性アイドルのコンサート会場のようで、会場全体を黄色い声が席巻していた。

『ふぅ・・・・・・ありがとうございました』

「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」

 歌い終わった光司が爽やかな笑みを浮かべる。途端に凄まじい歓声と拍手が巻き起こった。観客の反応は上々だった。

「わあ! 香乃宮くん凄い!」

「うん。光司くん、格好よかったわ」

「いやー・・・・・・凄いね。歌まで上手いんだ。流石だなー。もうこれ、勝負あったんじゃないの」

「さすがは副会長ね! 何でも出来るわ!」

「うん。いい歌声だね♪」

「諦めなさい。もうあんたの負けは確定よ。帰城影人」

「そうね・・・・・・ここから帰城くんが勝つには奇跡を起こすか、裸で踊るしかないわ」

 光司の歌を聞いた陽華、風音、暁理、真夏、ソニア、キベリア、明夜がそんな感想を漏らす。感想の半分ほどは影人に諦めを投げかける言葉だった。

「まだやってみねえと分からねえだろうが! というか月下、何で裸で踊るのが俺の勝ちに繋がるんだよ」

「だってこれって観客の反応がいい方が勝ちなんでしょう。だったら、帰城くんが舞台で脱いで騒いだら勝ちじゃない」

「勝ちと引き換えに捕まるじゃねえか! ふざけんなよ月下てめえ!」

 影人が思わずそう突っ込む。そんな影人たちとは別に、舞台では進行役の女性が光司からマイクを受け取っていた。

『素晴らしい歌声でしたね! イケメンで歌まで上手いなんて反則です! じゅるり、やはりこの獲物を逃しては・・・・・・あ、ちょ!? 警備員さん!? 何で私を連行して・・・・・・あーれー!?』

 遂にアウトと誰か偉い人に判断されたのか、進行役の女性は屈強な警備員に連行されていった。この町にはまともな大人がいないなと、見ていた影人は思った。

『えーと、ここからは私が進行役をさせていただきます』

 そして、その女性の代わりに舞台に上がってきた20代半ばくらいの男性がマイクを握った。光司ほどではないが、その男性もイケメンと呼ばれるような容姿だった。

『それでは気を取り直して。高校生の香乃宮くんの歌でした。香乃宮くん、素晴らしい歌をありがとうございました。皆さん、改めて盛大な拍手をお願いいたします』

 進行役の男性が観客たちにそう促すと、再び拍手が巻き起こった。このイベントは審査員がいないので、点数をつけられるという事はなかった。

「ふぅ、中々気持ちが良かったよ」

 舞台から降り、影人たちの元に戻ってきた光司がニコリと笑う。陽華や明夜、その他の者たちは光司に「お疲れ!」と労いの言葉を掛けた。

『花火の時間が迫ってきておりますので、次の方で最後とさせていただきます。最後に飛び入り参加される方はいらっしゃらないでしょうか?』

 進行役の男性のアナウンスがスピーカーを通して会場に響く。そのアナウンスを聞いた光司は影人の方に顔を向けた。

「さて、次は君の番だよ帰城くん」

「・・・・・・ああ、分かってるよ。ここでしっかり見て聞いとけ。お前を負かす男の歌をな」

 影人は光司にそう言うと、観客を掻き分け舞台の方へと向かった。


 ――次回、「セブンス・バック・ヴァレット」。

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