第431話 夏だ、祭りだ、ハチャメチャだ(4)

「勝負は3本勝負でどうかな。まず僕が勝負する遊戯を決めて、次に帰城くんが遊戯を決める。最後の勝負は連華寺さんたちに決めてもらう・・・・・・これで公平になると思うけどいいかな?」

「いいぜ、と言いたいところだが、お前があいつらを買収していない可能性はゼロじゃないよな? その場合俺が不公平になる。まずはあいつらが完全にシロだって証明しろ」

 光司の提案を受けた影人が前髪の下の目を風音たちに向ける。その言葉を受けた光司は「なるほど。確かにそうだね。さすがは帰城くんだ」と頷いた。

「連華寺さん、フィルガラルガさん、新品さん。実は僕と帰城くんは今から屋台を巡って勝負をするんだけど、少しだけ僕たちに付き合ってもらえないかな。第三者の存在が欲しいんだ」

「え? 私は別にいいけど・・・・・・2人はどう?」

「・・・・・・私も構わない」

「何だか香乃宮さまの様子が普段と違う気がするでありますな・・・・・・ですが、見方によっては中々に面白くなってきたであります。見学してもよいというなら、私は見学したいでありますな」

 急にそんな頼み事をされた風音は驚きながらもアイティレと芝居に意見を求めた。アイティレと芝居も拒否の意思は示さなかった。

「ありがとう。恩に着るよ。さて、帰城くん。君なら今の3人の反応が嘘ではないと分かると思うけど・・・・・・どうかな?」

 光司は風音、アイティレ、芝居に感謝の笑みを向けると影人の方に顔を戻した。光司が提示した証拠は3人の今の反応だった。

「・・・・・・確かに嘘をついたり芝居はしてねえな。分かった。信用してやる」

 スプリガンの経験で無駄に観察眼が鋭い前髪野郎がそう呟く。光司は「決まりだね」と小さく笑った。

「じゃあ、最初は僕が勝負を決めさせてもらうよ。少し移動しようか。見える範囲では、僕がやりたい遊戯は見えないから」

 光司はそう言うと歩き始めた。影人が光司の後に続く。そして、影人の後に風音、アイティレ、芝居が続いた。

「ああ、あった。帰城くん、最初の勝負はこれで頼むよ」

 影人たちが人混みの中を進んで行くと、光司がとある出店の前で足を止めた。

「ここは・・・・・・水風船、もといヨーヨーすくいか」

 影人の視線の先には、大きな桶に色とりどりの小さな風船が水に浮いており、その風船をヨーヨー釣り用のこよりで取ろうとしている子供たちの姿があった。影人の言葉に光司は頷いた。

「うん。子供の時に何度かお祭りに連れて行ってもらった事があるんだけど、これは特に得意だったんだ。やるのは久しぶりだけど、腕はそんなに衰えてはいないはずだよ」

「はっ、舐められたものだぜ。どうやら、お前は俺の2つ名を知らないらしいな。『ヨーヨー釣りの魔術師』・・・・・・見せてやるよ。俺の華麗な釣りをな」

 魔術師(笑)はクールを気取りながら店の方へと近づいた。光司も影人と一緒に店の方へと歩き始める。

「おっちゃん。1回頼む」

「ヨーヨー釣りを1回お願いします」

「ん。400円」

 店主の老齢の男性が影人と光司に手を向ける。影人はピッタリ400円を、光司は1000円を店主のてのひらに乗せた。老齢の店主は受け取った金をプラスチックのケースに入れると、光司に600円の釣り銭を渡した。

「ほれ、頑張れよ」

 店主の男性が影人と光司に、ヨーヨー釣りの釣り針と取ったヨーヨーを入れるための器を渡す。

「負けないよ帰城くん」

「それはこっちのセリフだ」

 ヨーヨーを釣るための装備を手に入れた光司と影人は、ヨーヨーが浮かんでいる桶の前にしゃがんだ。

「うわっ、お兄ちゃん凄いイケメンだ!」

「カッコいいー!」

「お兄ちゃん私の彼氏になってよ!」

「こっちのお兄ちゃんは凄く暗そうだね。それで前見えてるの?」

「僕知ってるよ。お兄ちゃんみたいな人、陰キャって言うんでしょ」

 影人と光司がヨーヨー釣りに参加すると、既にヨーヨー釣りをしていた小学校低学年くらいの子供たちがそんな声を掛けてきた。子供たちは男子は憧れるような目を、女子は目をハートにしながら光司を見つめ、対照的に、影人に対しては男子も女子も可哀想なものを見るような目を向けた。

「あはは、ありがとう。でも、ごめん。彼氏にはなれないかな」

「あ? 誰が陰キャだ。ったく、今時のガキは口が悪いな。将来ロクな大人にならねえぜ」

 光司は苦笑を浮かべ、陰キャは子供たちに悪態をつく。相手は子供なのだから、歳上らしく軽く受け流す余裕を見せればいいものを、何とも情けない奴である。

「よし、じゃあ始めようか」

「ああ。勝負開始だ」

 光司と影人が真剣な顔で水に浮いているヨーヨーを見つめる。ヨーヨー釣りはどのヨーヨーに狙いを定めるのかが大事だ。釣るヨーヨーを選ぶ時点で、既に勝負は始まっている。

(よし、こいつだ)

 影人は桶の左端にあった黒いヨーヨーに狙いを定めた。影人は慎重に釣り針を水につけ、ヨーヨーから垂れている白い輪に釣り針を通した。

「焦らずに且つ急ぐ。そして、風のようにフワリと持ち上げる・・・・・・ふっ、見さらせガキども。これがヨーヨー釣りの極意だ!」

 影人がそう言いながらヨーヨーを持ち上げる。ヨーヨーが針に釣られて水から離れた。

「おおっ!」

「やるじゃん陰キャの兄ちゃん!」

 影人がヨーヨーを釣り上げた事で子供たち、主に男子から歓声が上がった。

「当たり前だ。なにせ、俺は『ヨーヨー釣りの魔術師』――」

 影人がドヤ顔を浮かべる。だがその瞬間、釣り針は限界を迎え、あっという間にヨーヨーは桶に落ちた。

「あ・・・・・・」

「何やってんだよ前髪の兄ちゃん! 格好つけて早く器に入れないから!」

「ダッセー!」

「やっぱり陰キャは陰キャだな!」

 影人が小さく声を漏らす。すると一転、子供たちが影人に罵声を浴びせて来た。影人は「うるせえ!」と叫び返した。

「うーむ。『ヨーヨー釣りの魔術師』とはこれいかに・・・・・・」

「これはちょっと格好悪いね・・・・・・」

「子供たちから完全に舐められているな・・・・・・」

 その光景を見ていた芝居、風音、アイティレが呆れたような顔でそう呟く。子供たちにも同世代にも呆れられる。これぞ前髪クオリティである。

「残念だね帰城くん。でも、これは勝負。手加減はしないよ」

 光司はそう言うと、サッと水色のヨーヨーに釣り針を通した。光司はヨーヨーを持ち上げると慣れた仕草でそれを器に入れる。そして、次に橙色と赤のヨーヨーに狙いを定めると、まずは橙色のヨーヨーを掬い器に、次に赤色のヨーヨーを釣り上げ器に入れた。

「うん。どうやら、腕はあまり落ちてないみたいだね。よかったよ」

「凄え! お兄ちゃん本物だ!」

「やっぱりイケメンは何をやらせても出来るんだね!」

「カッコいい! お兄ちゃん好き!」

 光司が爽やかにそう呟くと、子供たちがキラキラとした目を光司に向けた。やはり、香乃宮光司こそが主人公であるという事を証明する光景だ。

 それから、光司は驚異的な腕前を見せ、紫のヨーヨーも釣り上げた。そして、4つ目のヨーヨーを器に入れた時点で、釣り針は使えなくなった。

「男前の兄ちゃんやるなぁ。いい釣りっぷりだったよ。前髪の兄ちゃんは残念だったな。ほれ、好きなヨーヨー1つ選びな。お情けだ。今度はちゃんと釣って帰ってくれよ」

 店主の男性は光司に、光司が釣り上げた4つのヨーヨーを渡し、影人にそう促した。影人は泣く泣く自身が落とした黒いヨーヨーを選んだ。最初の勝負、ヨーヨー釣りは光司の圧倒的勝利に終わった。

「連華寺さん、フィルガラルガさん、新品さん、もしよかったらだけどヨーヨーをどうぞ。ちょうど3つ余っちゃうんだ」

「え、いいの。ありがとう」

「ふむ。ならば、ありがたく受け取ろう。おお、ヒンヤリとしていて気持ちがいいな」

「ラッキーであります」

 光司が風音、アイティレ、芝居にヨーヨーを譲渡する。風音は赤色のヨーヨーを、アイティレは水色のヨーヨーを、芝居は紫色のヨーヨーを選択した。

「イケメンのお兄ちゃんはお姉さんたちにヨーヨーをプレゼントしてあげてるのに、前髪のお兄ちゃんと来たら・・・・・・」

「本当ダサいよな」

「っ、黙れガキども! 今日はパフォーマンスを重視したから失敗しただけだ! 俺の実力はこんなものじゃない!」

 子供たちから哀れなモノを見る目を向けられた、本当に哀れな奴が怒りの言葉を上げる。子供たちは「はいはい」「そうだね」と心の込もっていない返事をした。

「クソッ、あのガキどもめ。普通に殴りてえ・・・・・・そもそも、容姿で人を評価するなってんだ。俺がもしもイケメンだったら、絶対ドジ可愛いとかの評価になってるだろ。滅べルッキズム・・・・・・」

 ヨーヨー釣りの屋台を後にした影人はぶつぶつと呪詛の言葉を吐いた。

「ま、まあまあ帰城くん。彼・彼女たちはまだ子供だから、まだ善悪の判断や感情の制御がつかないんだよ。あまり気にしないで」

「けっ、うるせえ。勝った奴の言葉なんざ聞きたくねえんだよ」

 慰めの言葉を掛けてきた光司に影人はそっぽを向く。光司の言葉は善意100パーセントの優しさから来たものだったが、負けた影人からすれば嫌味にしか聞こえないのだ。

「取り敢えず、僕の1勝だね。次は帰城くんの番だよ。帰城くんはどの遊戯にするんだい?」

 光司が話題を変える。その言葉を聞いた影人は少しだけ悩んだ。祭りの屋台の遊戯は基本的に決まっている。金魚掬い、射的、くじ引き、輪投げ、型抜き、スマートボールなど、数はそれなりにあるが決まっている。その中で自分が1番何が得意なのか影人は考えた。

「・・・・・・よし、決めた」

 影人はどの遊戯にするのかを決めると目当ての屋台を探した。すると、程なく目当ての屋台が見つかった。

「あった。香乃宮、俺が選ぶのは・・・・・・これだ」

 影人が選んだのは輪投げの屋台だった。光司は「輪投げか。分かったよ」と影人の選択を受け入れた。

「――ん? これは珍しい。こんな所で会うとはね。やあ帰城くん。それに、香乃宮くんに風音くん、アイティレくんも。こんばんはボンソワール

 屋台で輪投げをしていた女性は影人たちに気がつくと、そう言葉を掛けてきた。水色に一部白いメッシュを入れた長髪は普段はストレートだが、今日は一本に纏められている。薄い青の瞳は変わらず美しい。明らかに外国人と分かる見た目だが、その女性は流暢な日本語を話した。藍色の浴衣を纏ったその女性の名は、ロゼ・ピュルセといった。

「あら帰城くんに副会長じゃない! それにあんたらも! でも1人見覚えがないわね。まあ、いいか!」

 もう1人、ロゼの隣にいた女性が影人たちに気付き明るい笑みを向けてくる。少し長めの髪には特徴的な紙の髪飾りが飾られている。影人と同じく黒の浴衣に身を包んだその女性は、榊原真夏といった。

「っ、ピュルセさん、会長・・・・・・」

「こんばんは。ピュルセさん、榊原先輩。お2人も来ていらっしゃったんですね。あと、僕はもう副会長じゃありませんよ」

「ああそうだったわね。でも、副会長は私にとって副会長だから何の問題もないわ!」

 光司の指摘を受けた真夏は、しかし全く気にしていない様子だった。さすが榊原真夏といったところだろうか。

「しっかし、珍しい組み合わせね。副会長と『巫女』と『提督』と、そっちの子も光導姫? でしょ。あんたらはまあ分かるけど、そこに帰城くんがいるのが意外だわ」

「確かにそうだね。帰城くんは祭りに来るとしても1人だと思っていたよ」

「あー、それはですね。聞いてくださいよ。実はかくかくしかじかで・・・・・・」

 影人は真夏とロゼに事情を説明した。

「なるほど。屋台で勝負! いいじゃない! 相変わらず面白い事してるわね!」

「ふむ。いいね。確かにそれも祭りの楽しみ方の1つだ」

 影人の説明を聞いた真夏とロゼはその顔に興味の色を混じらせた。別の表現をするならば、食いついたという表現が1番合っているような気がした。

「でも帰城くんとお祭りを一緒に回りたいから勝負って・・・・・・ぷっ、あははははは! 副会長も随分素直になったものね! いいじゃない! 人間素直が1番よ!」

「い、痛いですよ先輩」

 バンバンと光司の背中を叩く真夏に光司が苦笑いを浮かべた。

「ふーむ、『芸術家』と『呪術師』とも知り合いとは・・・・・・帰城殿は守護者。それも高位の、でありますか?」

「う、うーん・・・・・・それは・・・・・・」

「・・・・・・どうだろうな。私たちも知り合いではあるが、その辺りの事は知らない」

 芝居の呟きに対して風音とアイティレは答えをはぐらかした。影人がスプリガンであるという事実は公にはされていない。知っているのは一部の光導姫や守護者、その他の一部の者たちくらいだ。影人の正体を芝居に伝えてもいいものか、風音とアイティレには判断しかねた。芝居は「そうなのでありますか」と素直に2人の反応を受け入れた。

「で、副会長と帰城くんは勝負しに来たんでしょ。じゃあさっさとやっちゃいなさい」

 真夏は残っている自分のリングを適当にポイっと投げながら、影人と光司にそう言った。ちなみに、真夏の投げたリングは見事棒に引っかかった。

「や、やるなあお嬢ちゃん・・・・・・全部成功だよ」

「当たり前よ。私は天下の呪術師なんだから。じゃあ、あのぬいぐるみちょうだい」

 片手間に目玉商品のぬいぐるみを屋台からぶん取る真夏。その光景を見ていた影人は「ああ、やっぱり会長は会長だな」と久しぶりに思った。ちなみに、ロゼは5個のリングの内1つを通してお菓子の詰め合わせをもらっていた。

「よし、じゃあやるか香乃宮。言っとくが今度は負けないぜ。『天輪の投者とうしゃ』と呼ばれた俺の力を見せてやるよ」

「僕もむざむざと負けるつもりはないよ」

 影人と光司は店主の中年手前くらいの男性に遊戯料金を支払うと、5つのリングを手に入れた。

(さて、流石に今回は負けられねえ。負けた瞬間に勝負が決まるからな。俺は香乃宮とか女子とかと祭りを楽しみに来たんじゃない。そんな青春は俺が望むものじゃない。俺はあいつらと、魂で繋がったあいつらと青春バカをやりに来たんだ・・・・・・!)

 捻くれに捻くれ、逆に一周してまともな想いを抱いた前髪は静かに闘志を燃やした。本気でそんな考えで闘志を燃やせるのだから大したものである。もちろん侮蔑100パーセントの意味でだ。

(ターゲットとの距離は約5メートルってところか。問題ない。意識を研ぎ澄ませ。嬢ちゃんとの戦い、レイゼロールとの最後の決戦、フェルフィズとの一連の戦いを思い出せ。あの時よりも深く深く集中しろ。そうすれば、きっと勝てるはずだ)

 ミスをすれば死ぬと思え。ここはまごう事なき戦場。それも死地だ。影人は本気で集中した。本当にこいつはアホである。

「ほら頑張りなさい副会長! 帰城くんと一緒にお祭りを楽しむんでしょ!」

「分かっています榊原先輩。はっ!」

 真夏にそう言われた光司は1つ目のリングを飛ばした。リングは1、2、3、4、5、6、7、8、9と書かれた棒の内、5の棒に見事に引っかかった。

「よし。この調子で・・・・・・! ふっ、はっ!」

 光司が続けて第2、第3のリングを投げる。それらのリングも見事に1番と2番の棒に引っかかった。光司はいい波に乗っていると感じると、第4、第5の残りのリングも投げた。第4のリングは外れてしまったが、最後のリングは8のリングに引っかかった。2、5、8でビンゴである。

「おお、やるわね副会長!」

「さすが光司くんね」

「イケメンは何をやっても強いでありますな」

 真夏、風音、芝居が光司に称賛の言葉を贈る。5つのリングの内、4つが棒に掛かり、ビンゴのラインも完成。かなりの高ポイントだ。

「おお、兄ちゃんもやるなあ。ほれ、ここから好きなの選びな」

「ありがとうございます。ですが、景品はもう少し後で。さあ、君の番だよ帰城くん」

 店主の男性にニコリとイケメンスマイルを向けた光司は、隣の影人にそう言った。

「・・・・・・そんな事は分かってる。一々口出しするな」

 影人はいっそ冷たいと思える声音でそう言うと、5つのリングを纏めて右手で持ち、構えた。

「・・・・・・店主。1つ聞かせてもらうぜ。1番得点の高い輪の入れ方は何だ?」

「そりゃ、あそこの張り紙に書いてあるみたいに同じ番号に5個の輪を入れる事だよ。でも、かなり難しいよ。成功した人は少ない」

「そうか・・・・・・ありがとう」

 影人が店主の男性に礼の言葉を述べる。集中出来ているためコンディションは上々だ。今ならば何だって出来る気分だ。

「さて、見せてもらおうかな。帰城くん、君の実力を」

「・・・・・・私は君の事を詳しくは知らない。だが、これだけは分かる。君は決める時は決める人間だ」

 ロゼは薄い青の瞳を、アイティレは赤い瞳をそれぞれ影人に向ける。光司、真夏、風音、芝居も影人に注目する。正直、これは茶番なのだが、いつの間にか場の空気は真剣なものへと変わっていた。

「・・・・・・決める時は一撃でだ」

 そして、影人は右手に握っていた5つのリングを投げた。

「なっ・・・・・・」

 至近距離からその光景を見ていた光司が驚いた声を漏らす。影人の投げ方があまりにもリスキー、場合によっては自暴自棄にも思えたからだ。確かに、その投げ方なら入った時は大きいが、外せば終わりだ。当然リングは1個ずつ投げた方が成功率も上がるし安定もする。つまり、影人の投げ方は博打以外の何者でもなかった。光司以外の者たちもそう思った。

 だが、

「・・・・・・未来は見えたぜ」

 影人がそう呟くと同時に、5つのリングは奇跡的に全て5番の棒に引っかかった。

「っ・・・・・・長年輪投げ屋をやってるが初めてだぜ。1投で全部同じ番号に入れるなんて・・・・・・」

「凄いわね! 見直したわよ帰城くん!」

「うん。格好よかったよ」

「・・・・・・流石だな」

「これは・・・・・・意外な展開でありますな」

「帰城くんって器用なのね・・・・・・いや、今までの事を考えると、勝負所に強いっていう方が正しいのかしら・・・・・・」

 店主、真夏、ロゼ、アイティレ、芝居、風音がそれぞれそんな感想を述べる。未だに投げた仕草のまま残心していた前髪は、隣の光司にこう言った。

「まあ、俺が本気を出せばこんなもんだ」

「・・・・・・本当に流石だね帰城くん。うん。今回は僕の負けだよ」 

 光司はフッと笑うと、敗北の言葉を口にした。


 ――これで戦いの結果は1対1。勝敗は、最後の戦いにもつれ込む事となった。

 はたして、影人は光司たちを振り切る事が出来るのか。それとも、光司が影人を掴み切るか。

 はたまた――

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