第428話 夏だ、祭りだ、ハチャメチャだ(1)

 いま、深淵の底よりギャグ回が蘇る。  


「――はっ!?」

「――っ!?」

「――何だ!?」

「――このオーラは・・・・・・!?」

「――感じる。感じるぜ・・・・・・!」

「――間違いない。俺の心が痛いほどに叫んでいる・・・・・・! 熱くなれと。バカになれと。青春の炎を今こそ燃やせと!」

 7月下旬のとある夜。風洛高校に通うとある6人の男子生徒たち――通称A、B、C、D、E、Fの6バカたちは一斉に何かを受信した。

「っ、こいつは・・・・・・」

 そして、6バカ以外にも何かを受信した者が1人。長すぎる前髪に顔の上半分を支配された男――通称前髪野郎、バカネームG、もとい帰城影人である。部屋にいた影人はハッとした顔で虚空を見上げた。今この瞬間、風洛高校の恥部の中の恥部、風洛の7バカは確かに何かを感じ取っていた。

「・・・・・・はっ、面白え。いいぜ。最近はずっとシリアスばっかだったからな。久しぶりに魂を燃やしてえと思ってたんだ。魂で繋がったあいつらと・・・・・・俺のソウルメイトとな」

 バカの前髪がバカな事を呟く。前髪は全ての理屈を超えた直感で理解していた。この感覚は他の6人もいま抱いているものだと。いま7人の魂が共鳴しているのだと。

「魂の解放日は明日・・・・・・フッ、楽しみだぜ」

 気色の悪い前髪スマイルを浮かべながら、前髪野郎は格好をつけた様子でそう呟く。そんな影人をペンデュラムの中から見ていたイヴは、

『ああ、久しぶりの大バカモードか』

 どうでもよさそうにそう思った。


 ――始まるはバカどもの宴。ノリと勢いのみが行動原理の異次元空間。

 正直――見なくていい。











 キーンコーンカーンコーン。

「・・・・・・来たか。約束の時が」

 7バカがアホな電波を一斉受信した翌日。風洛高校に昼休みを告げるチャイムの音が響いた。腕を組み意味深にそう呟いたバカ前髪は、ゆっくりと自分の席から立ち上がった。

「帰城さん今日は学食ですか?」

 すると、鞄の中から弁当を取り出した隣の席の海公がそんな事を聞いてきた。影人は大体は弁当が昼飯でその時は海公と教室で食べる事が多いため、影人にそう聞いたのだった。

「いや・・・・・・ちょっと友達と約束がな。悪い春野。俺は・・・・・・行かなきゃならないんだ」

「そ、そうですか・・・・・・」

 まるで戦いに赴くかのような真剣な様子の影人に、海公は思わず緊張した顔持ちになる。

「じゃあな」

「は、はい」

 影人が軽く右手を上げる。海公がコクコクと頷くと、影人はスッと教室を出て行った。

「・・・・・・今日の影人さん、何だか凄く真剣だったな。本当に友達に会いに行くのかな・・・・・・」

 影人を見送った海公は少し心配な顔でそう呟いた。










「・・・・・・」

 教室を出た影人は何の迷いもない足取りで校舎を出た。そして、とある場所へと向かった。

 数分後。影人が辿り着いたのは風洛高校2棟の校舎裏だった。昼休みにわざわざ校舎裏に来るような生徒は少ない。ほとんどいないと言っても過言ではないだろう。

「――待っていたよ。ミスター・・・・・・G」

 だが、校舎裏には既に幾人かの男子生徒の姿があった。その数、全部で6。その中の1人、メガネを掛けた男子生徒、Bこと天才あまつさいがはクイッとメガネのブリッジを上げた。

「これで、役者は・・・・・・いや、魂の友は全て集ったな」

「ああ。いつ以来だろうな。俺たちが全員集ったのは」

「さあな。だが、今日は記念すべき日だぜ。また俺たちが集った。しかも、集まる約束もなしにだ」

「俺たちは魂で感じた。今日この場所この時間に集う事を。それはなぜか。決まってる」

「青春の炎を燃え上がらせるためだ。真夏の太陽よりも熱い青春の炎を。さあ、みんなで燃えあがろうぜ!」

 Aこと窯木篤人かまきあつと、Cこと西村慶にしむらけい、Dこと宮田大輝みやただいき、Eこと梶谷英賢かじやえいけん、Fこと佐藤富司已さとうふじやもBに続くようにそんな言葉を述べた。一瞬にして場の雰囲気が無駄に格好をつけたバカどもの空気――シリアスのようだがその実ふざけ倒したもの――に変わった。

「・・・・・・A、B、C、D、E、F。あんた達・・・・・・いや、今は先輩か。久しぶりに先輩たちの顔をまた見れて嬉しいぜ」

 影人がフッと前髪スマイルで6人に応える。スマイル1つください。はい前髪スマイル。これにはスマイルを注文した作者も怒り心頭。作者は前髪野郎を訴訟。結果、前髪野郎は裁判にかかり2度目の死刑の判決が下された(ちなみに、1度目は打ち上げパーティーの時)変身ヒロインを影から助ける者。完。三文小説以下の駄作に相応しい終わりである。

「よせよ。先輩だなんて。例え、君が留年してしまっていても、俺たちは魂で繋がった友。友には学年なんか関係ない。どうか今まで通りの距離感で接してくれ」

「そうだぜ。俺たちはそんな事を気にするような器の小さい奴らじゃない」

「留年なんて些細なもんさ。俺たちの心はまだ中学生に留年してるからな」

 B、D、Fが気さくな様子で影人にそう言った。A、C、Eも3人と同じように全く気にしていない様子だった。

「お前ら・・・・・・フッ、ありがとよ」

 影人は嬉しさを隠すようにまた前髪スマイルを浮かべた。本話3回目である。なに笑とんねん。

「さて、俺たち風洛の7人の侍も揃った事だし、そろそろ本題に入ろう」

 Bが音頭を取りそう切り出す。A、C、D、E、F、G(前髪)はBの言葉に同意するように頷いた。

「俺たちは昨日の夜に同時に何かを受信した。その何かとは、熱く、激しく、空を突き抜けるようで、爽快さと楽しみと嬉しさを混ぜ合わせたようなもの・・・・・・つまり、青春の波動だ」

 Bはグッ右手を自分の胸に当てる。高校3年生が急に何を言い出すのだろうか。受験勉強のストレスからくる奇抜な言動ではなく、天才(笑)は正気で何の恥ずかしげもなくそう言ったのだった。はっきり言ってイカれて・・・・・・いやクレイジーだった。結局同じやないか〜い。ルネッ◯〜ンス。は(自問自答)?

「ああ。お前の言う通りだ」

「俺たちは間違いなくそれを感じた」

「きっと俺たちを見守ってくれてる神さまが、祭りを見せろって言ってるんだ」

 A、C、Eが真剣な顔になる。もちろん、他のD、F、Gも同様である。恐ろしい事にこの場には本物のバカ達しかいなかった。

「青春の波動を受け取った我々には、青春を実現する義務がある。そこでだ。諸君に問いたい。我々が実現すべき青春とは何か。この夏に起こすべきムーヴメントとは何か。君たちの考えを聞かせてくれ!」

 Bはまるで一流の演説者かのように、何かに訴えかけるように熱く言葉を放った。暑い夏の空気を通して伝わったBの言葉は6人の胸の奥深くにまで届いた。

「B! お前の想いに応えるぜッ! 俺は意見モンスター『真夏のビーチでスイカ割り』を召喚するぜ!」

「なら俺はAの意見カードを生贄リリースして、上級意見モンスター『バーベキューパーティー』を召喚だ!」

「なんの! なら俺は意見モンスター『祭り』を召喚して、Cの上級意見モンスターと融合だ! 融合召喚! 来い! 融合意見モンスター『野郎たちの夏祭り』!」

「甘いぜD! 俺はチ◯ーナー意見モンスター『ドキドキ』を召喚! そして、Dの融合意見モンスターとチュー◯ング! シ◯クロ召喚! 現れろ! シ◯クロ意見モンスター『ドキドキ!? 野郎たちの肝試し』!」

「甘いのは誰かな? 俺は意見モンスター『異性』を召喚! そして、Eのシ◯クロモンスターと意見モンスター『異性』でオーバー◯イネットワークを構築! エク◯ーズ召喚! 来やがれ! エク◯ーズ意見モンスター『異性をナンパ! 一夏のラプストーリー』!」

「流石の連鎖だな兄弟ブラザーたち。だが、俺はその全ての上を行くぜ。俺はペ◯デュラム意見モンスター『花火』を召喚。そして、ペ◯デュラム意見モンスター『花火』をリ◯クマーカーにセット! ア◯ーヘッド確認! 中略! サーキッ◯コンバイン! リ◯ク召喚! 現れろリ◯ク1『花火大会で友との宴』! 風流だぜ!」

 A、C、D、E、F 、Gの6バカどもがなぜか某カードゲーム風にそれぞれの答えを具申する。Bは6人の答えを噛み締めるかのように何度も首を縦に振った。

「・・・・・・諸君らの意見はよく分かった。お前たちの熱い青春への想い、このBがしかと受け止めた!」

 Bは感動したように拳を握る。そしてBはカッと両目を見開いた。

「君たちの意見を無駄にする事は出来ない! なぜならば全てが青春そのものだからだ! ゆえに、俺は君たち全ての意見モンスターを生贄に捧げ、ここに神を召喚するッ!」

「「「「「「っ!?」」」」」」

 Bの宣言を受けた6バカどもがその顔を驚愕の色に染める。Bはバカどもが召喚したバカモンスターたちをリリースし、バカの神を召喚した。

「全ての意見モンスターを生贄に捧げ降臨せよ! 『ドキドキ! 夏祭りで宴だ! かわい子ちゃんを狙え! 青春は花火だ!』!」

 Bが召喚したバカの極みは、結局バカどもの意見をツギハギにしたキメラだった。いったい融合召喚と何が違うのか。その辺りはまあ多分何も考えていないのだろう。基本、この場にいる者たちはノリと勢いで生きている奴である。

「くっ・・・・・・!? な、何て強力な意見モンスターなんだ・・・・・・!」

「流石は神の名を冠する意見モンスターだぜ・・・・・・!」

「ああ、まさか神を召喚するなんてな・・・・・・!」

「神を操る者・・・・・・あいつがデュ◯ルキングか・・・・・・!」

「やるなB・・・・・・お前がナンバーワンだ」

 C、D、E、F、Gが圧倒されつつも尊敬と称賛の眼差しをBに向けた。今のどこに尊敬する要素があるのかはわからないが、知能というものを小学生に置き去りにしてきたバカどもなので、理解する事は難しい。

「ま、待ってくれB! 確かに、お前の神意見モンスターは凄い! 空前絶後だ! まさに神意見モンスターだ! だが俺の意見モンスター『真夏のビーチでスイカ割り』の片鱗がカケラも見えないぜ!?」

 唯一キメラのパーツにされていないAが戸惑った顔を浮かべる。ちなみに、キメラのパーツにされていないというのであれば、Cの「バーベキューパーティー」とEの「肝試し」もパーツにはなっていないのではないかと思われるが、バーベキューパーティーは結局夏祭りで飲み食いが出来るし、肝試しに関しては、まあこいつらが騒いでいるだけで肝が冷えるので実質肝試しだろう。CとEはまあ多分本能でその辺りの事が分かっていたのだろう。Aのように文句を言わなかったのは、本能による理解からだった。本当に色々と化け物みたいな奴らである。

「A・・・・・・君の痛みは分かる。だが、現実は非情なんだ。1日で全てをやり切る事は難しいんだ・・・・・・! 分かってくれ・・・・・・!」

 Bが苦渋に満ちた顔になる。Bも苦しいのだ。その事を感じ取ったAは「B・・・・・・」と呟いた。

「というか、ぶっちゃっけこの近く海がないから、ビーチでスイカ割りだけちょっと本当に難しいんだ。ここから1番近いのは多分東京湾だけど、時間もかかるし、東京湾でスイカ割りはしたくないだろ?」

「あ、まあそれはそうだな。悪い。もうちょっと現実的なことを言えばよかった」

「気にするなよ。今は難しいかもだけど、ビーチでスイカ割りはまた後日にしようぜ」

 急に素に戻ったようにBとAがそんな会話を行った。Bの提案にAは「ありがとうよ」Cは「いいね」Dは「もちろん賛成だぜ」Eは「何か今からでもめっちゃワクワクするな」Fは「やべー、生きる目的がまた出来ちゃったぜ」Gは「イカした提案だ。諾だ」とそれぞれ賛成の姿勢を示した。

「よし、問題は解決した! では諸君。話を戻そう! 俺たちの意見を結集させた神意見モンスターの力を発揮する時は、いつも7月30日にある地元の夏祭り! みんなも知っていると思うが、この夏祭りは屋台も出るし、花火も上がるし、異性もおめかしをしてたくさん集まる! つまり全ての条件が揃っているんだ! どうだろう、風洛の誇る漢たちよ! ここでみんなで青春を爆発させてエンジョイしちゃわないか!?」

 再びバカモードに戻ったBが具体的な日付や場所を述べる。アホたちは皆腕を組みうんうんと首を縦に振った。

「異議なし!」

「同じく!」

「右に同じ!」

「イエス!」

「最高だぜ」

「愚問だな」

 A、C、D、E、F、Gが即座に同意する。仲間たちの答えに感動したBは思わず感涙を流しそうになった。

「お前たち・・・・・・全く男子高校生は最高だぜ! よーし、なら7月30日の夜7時に正門前に集合だ! 行くぜお前ら! 青春の坩堝へと!」

「「「「「「おうッ!」」」」」」

 右手を天に掲げたBに呼応するように、バカどもも右手を天に掲げる。

 ――こうして、7月30日の夏祭りにバカどもの真の宴が開催される事になったのだった。

 始まるは約束された失笑劇。コメディにも満たないアホたちの行動劇。

 しかし――

「――あら、近い内に夏祭りがあるのね。ふふっ、せっかくだから影人を誘おうかしら。ついでにキベリアとキトナも連れて行きましょう」

「ねえ明夜! 今年も夏祭り行こうね!」

「当たり前よ。今年はイズちゃんとか風音さんとかアイティレさんとか、他にもいっぱい誘いましょう」

「夏祭り! これは影くんとの距離をグッと近づけるチャンスだよね!」

「この夏祭りで今年こそ影人と僕は・・・・・・!」

「ふむ。日本の祭りか。これは是非行かなければね」

 ――そこはかとなく恋笑劇ラブコメの波動も感じられそうだ。

 そして――

「夏祭りか・・・・・・よし、帰城くんを誘ってみよう。僕は今年も帰城くんとの・・・・・・友達との一夏の思い出を作ってみせる・・・・・・!」

 ――香乃宮光司の波動も。

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