第427話 とある家族の再会(2)

「影・・・・・・仁・・・・・・? 影仁・・・・・・なの・・・・・・?」

「お父・・・・・・さん・・・・・・?」

 目を皿のようにして影仁の姿を見た日奈美と穂乃影は、震え掠れた声でやっとの事でそんな言葉を漏らした。7〜8年前に突然失踪した生死不明の男が目の前にいる。姿はあの時よりも多少変わっているが、日奈美と穂乃影は言葉では言い表せないような感覚で、目の前の男が影仁だと確信した。いや、正確には認識を叩きつけられたと言うべきか。

「ああ。正真正銘、俺だ。帰城影仁だ。日奈美さん、相変わらず綺麗だな。穂乃影、大きくなったな。凄い美人さんだ」

 影仁は再び自分の名を言葉に放つと、2人にそんな言葉を送った。影仁の目に涙が滲む。だが、影仁はグッと堪えた。

「・・・・・・俺も驚いたよ。本当にたまたま、さっきこの辺りで父さんと出会ったんだ。立ち話で話を聞いたところ・・・・・・父さんは俺たちの前から姿を消した後、ずっと世界を旅してたみたいなんだ」

 影人が嘘と真実を織り交ぜた話を語る。本当は影人は1ヶ月と少し前に影仁と会っているが、その事を日奈美と穂乃影には話せない。話せば必然的に零無の事やスプリガンの事など、影人が裏で行って来た事を話さなければならないからだ。そして、影人は日奈美と穂乃影には死んでもその事は話さないと決めていた。

「旅を・・・・・・?」

「な、何で・・・・・・?」

 日奈美と穂乃影が当然そう聞き返す。本当ならば、2人とも先に聞きたい事や言いたい事があるだろうが、まだ混乱しているためか日奈美と穂乃影は影人の言葉に対する純粋な疑問の言葉を口にした。

「俺も、正直信じきれないんだけど・・・・・・」

 影人はチラリと前髪の下の目を影仁に向けた。本来ならば、前髪に覆われた影人の目は影仁には見えない。だが、影仁は影人の雰囲気から目が向けられている事、そして影人がなぜ自分に対して目を向けたのかを、持ち前の勘の良さで理解すると小さく頷き、

「・・・・・・頼む」

 小さくそう言った。それは影人に任せるという意味だ。影人も影仁の言葉の意味を正確に理解すると、日奈美と穂乃影にこう言葉を続けた。

「・・・・・・父さんは失踪した日に呪いをかけられたらしいんだ。ほら、俺たちがあの時旅行で泊まった旅館の近くに神社があっただろ。父さんの話だと、朝少し神社に散歩に行ったら・・・・・・悪い神と出会ったんだって。その神が神社に祀られていた神かどうかは分からないけど、父さんは理不尽にもその神から呪いをかけられた。その呪いは、一箇所には留まれない流浪の呪い。もし、その呪いに反して一箇所に留まれば・・・・・・呪いをかけられた者の最愛の人が死ぬ。だから、父さんは何も言わずに俺たちの元から去った・・・・・・らしいんだ」

「え、神・・・・・・?」

「の、呪い・・・・・・?」

 影人の説明を聞いた日奈美と穂乃影がポカンとした顔になる。予想の斜め上過ぎる話に日奈美と穂乃影の理解が追いついていないのだ。ただでさえ、今まで生死不明だった影仁が急に目の前に現れて混乱しているのに、更に混乱するような話をされたのだ。理解が追いつかないのは当然であった。

「それで、父さんは世界を旅し続けた。一箇所には留まれないから。でも、父さんもただ世界を旅していただけじゃなかったんだ。父さんはその間、自分にかかった呪いを解く方法を探していた。それでついこの前にその方法が見つかって、やっと呪いを解く事ができた。だから、父さんは日本に帰って来たんだけど・・・・・・昔住んでた家に俺たちがいなかったから、ご近所さんに聞いてこの辺りにいたみたいなんだ。それでたまたま俺と出会ったんだよ」

 影人は日奈美と穂乃影に影仁が消えていた事情、そして影仁と出会った経緯を話し終えた。

(さて、ほとんど真実だが・・・・・・これで父さんが失踪していた理由は話した。基本的に嘘じゃないから、俺と父さんも母さんや穂乃影に何か聞かれても整合性のとれない事を言う確率はほとんどない。普通ならほとんど真実でも信じられない話だが・・・・・・母さんと穂乃影には俺が「宇宙人に攫われていた」という経験がある。つまり、普通じゃない話に対する耐性は出来ているんだ。なら、最終的には信じる・・・・・・いや、信じるしかないはずだ)

 加えて、いま日奈美と穂乃影は混乱している。混乱している時は理性が満足に働かない。そういう状態の時、人間はどのような言葉でも受け入れやすくなる。影人はそれすらも利用して、真実に少しの嘘を混ぜた話を日奈美と穂乃影に話したのだった。正直、詐欺師みたいなやり口だが、まあ前髪野郎は様々な点を加味して完全に悪人なので、問題は逆にないだろう。

「実は・・・・・・そうなんだよ。本当、信じられない話だろうけど・・・・・・俺はこういった場面では嘘をつける人間じゃない。だから、信じられなくても信じてほしい」

 影仁も表現は悪いが追い討ちをかけるかのように影人の説明を肯定した。影仁本人の肯定と、とても嘘をついているようには思えない影仁の真摯な態度、更に一応は理解できなくもない説明を聞いた日奈美と穂乃影は顔を見合わせた。

「・・・・・・影仁。あんたが嘘をついていないのは分かったわ。目を見れば分かるから」

「・・・・・・うん。私も父さんは嘘をついてないと思う。なんとなく・・・・・・だけど」

 日奈美と穂乃影は影仁の方に顔を向け直し、取り敢えずはそう言ってくれた。その言葉を聞いた影仁はホッと息を吐いた。

「・・・・・・ありがとう。こんな突拍子もない話を信じてくれて。いやー、やっぱり家族だなぁ・・・・・・」

 影仁が嬉しそうな顔になる。その顔を見た日奈美と穂乃影はいよいよこれが、影仁が生きて目の前にいるという光景が現実であると受け入れ始めた。

「影仁・・・・・・本当にあんたなのね・・・・・・あんた、本当に生きてたのね・・・・・・う、ううっ・・・・・・」

「お父さん・・・・・・ううっ・・・・・・」

 日奈美と穂乃影の体が震え始め、2人の目に涙が滲む。

 そして、

「影仁ぉぉぉぉぉぉっ!」

「お父さんっ!」

 日奈美と穂乃影は影仁に抱き付いた。

「あんたが突然いなくなって・・・・・・! 私、私どうにかなりそうだった・・・・・・! 寂しくて不安で悲しくて・・・・・・! でも、でも私は影人と穂乃影の親だから・・・・・・! 私、私・・・・・・! 影仁ぉ・・・・・・」

「よかった・・・・・・! よかった生きててくれて・・・・・・! お父さん、お父さん・・・・・・!」

 日奈美と穂乃影は涙を流しそう吐露した。影仁はそんな2人をしっかりと抱き返した。

「ごめん・・・・ごめんな日奈美さん穂乃影・・・・・・! 迷惑かけて・・・・・・! 辛い思いさせちまって・・・・・・! 俺は父親失格だ・・・・・・! でも、会いたかった・・・・・・! ずっと、ずっと会いたかった・・・・・・! 日奈美さん、穂乃影・・・・・・!」

 影仁も今まで堪えていた涙を流す。その光景を見た影人も思わず目に涙が滲んだ。だが、影人はグッと涙を堪えた。

(ああ、よかった・・・・・・俺はずっとこの光景が見たかったんだ・・・・・・)

 自分のせいで影仁も、日奈美も、穂乃影もずっと苦しんでいた。家族の仲をバラバラに引き裂いてしまった。ずっとずっと影人の心にあった消えない罪悪感。だが、3人が抱き合う光景を見て、影人はその罪悪感が少しだけ和らいだような気がした。

 そして、影仁と日奈美と穂乃影はしばらくそのまま抱き合い、影人はそんな3人を暖かな顔で見守った。












「あ、あれえ・・・・・・どうしてこうなったんだ?」

 家族の感動の再会から約30分後。影仁はマンションの外にいた。たった今、影仁は日奈美から家を追い出された形だった。

「・・・・・・母さんの怒りが思ってた以上だったね。一頻ひとしきり感動した後、怒りが込み上げて来たって感じだったし・・・・・・」

 追い出された影仁を憐れむように、見送りに来た影人がそう呟く。影仁が急に失踪した事情が事情だったため、日奈美は影仁を許すと影人は思っていたのだが、現実はそうはならなかった。

「失踪するにしても話していくなり、理由を書いてくなり、生きている事を伝える方法は色々とあったはずでしょ!? ずっとずっと不安にさせて! 私やこの子たちがどれだけ苦労したか! あんたがいないって事につけれない区切りを無理やりつけて、ずっと頑張って来たのに! 今になって実は生きてましたってなによ!? ああもうッ! 腹が立って仕方がないわ! 息子は宇宙人に攫われるし、夫は変な神様に呪いかけられて行方不明になるし・・・・・・! 影仁ッ! あんたしばらくウチには来るな! でも近くにはいなさいよ! あと連絡は取れるようにしなさい! 携帯がない? 知るか! 何とかしときなさい! じゃあね!」

 いま思い出しても烈火の如くだった。日奈美は安心と感動から一転、心の奥底から湧き上がった怒りを爆発させると、影仁を追い出した。日奈美は影仁がマンションの構内にいる事も許さなかった。

 ちなみに穂乃影は影仁が追い出される時、小さく手を振っていた。何だかんだ、穂乃影は近い内に影仁が日奈美に許される事を確信しているのだろう。そして、それは影人も同じだった。

「ごめん父さん。俺のせいであんなに怒られて・・・・・・でも、ある程度時間が経てば母さんも絶対許してくれると思うから」

「それは気にするなよ。日奈美さんに怒られる覚悟だけはしてたんだ。どうってことねえよ」

 謝罪する影人に影仁は笑いながら首を横に振った。

「でもまあ、確かに日奈美さんの言う通りだったよなー・・・・・・生きてる事くらいは紙にでも書いて伝えておいてもよかったかもしれない。いや、でもあの時は正直それどころじゃなかったしなぁ・・・・・・まあ、この結果が全てか。今更気にしてもだよな。よし、明るく行こう」

 影仁は無限に出てくる後悔の念を無理やりに振り切った。暗いことやどうにもならない事ばかり考えていても何にもならない。それらは最悪死につながる原因にもなり得る。数年間に及ぶ厳しい世界放浪の旅で、影仁はその事を痛いほど理解していた。メンタルリセットはその理解の副産物であった。

「・・・・・・やっぱり強いな父さんは。流石無一文で世界を放浪して今まで生きて来た男だよ」

「ははっ、まあメンタルの強さにはそれなりに自信があるからな。というか、さっきの日奈美さんの言葉で気になってたんだが・・・・・・影人、お前宇宙人に攫われたってマジなのか?」

 影仁は真顔で影人にそんな質問をした。影仁は影人が普通ではない世界に巻き込まれている事は知っているが、まさか宇宙人と関わっていたのか。だが、影人は首を横に振った。

「いや、嘘だよ。ちょっと死んでて3ヶ月くらい行方不明になってたから、それを誤魔化せる丁度いい嘘を言っただけ。流石の俺もまだ宇宙人とは会った事はないよ」

「え、死んで? え、ちょ、な、何を・・・・・・流石に冗談・・・・・・だろ・・・・・・?」

 何でもない様子でそう答えた影人に、影仁が意味が分からないといった様子になる。なんだ。いったい自分の息子は何を言っている。新手のジョークだろうか。いや、そうに違いない。死んでいればいま影人は自分の目の前にはいないはずなのだから。

「いや、残念ながら冗談じゃないんだ。信じられないと思うけど、俺2回死んでるんだ。で、何やかんやで2回生き返った」

 だが、影人は真顔でかぶりを振る。影人の言葉が嘘ではないと悟った影仁は一瞬固まると、思わずドン引きしたような顔を浮かべた。

「え・・・・・・マ、マジかよお前・・・・・・影人、お前本当に人間・・・・・・?」

「失礼だな。どこからどう見ても俺は人間だろ。そりゃ、災厄とか神とかは倒したし、擬似的に不死身にもなれるけど、俺は人間だよ」

「そーですかい・・・・・・」

 ムッとした様子で反論した影人に、影仁はなんだか疲れたような様子でそう呟く。話のスケールが大きすぎる。影仁は理解する事を放棄した。

「何てこった・・・・・・しばらくしない内に、俺の息子はなんか言葉にできないくらいヤバい奴になってたぜ・・・・・・」

「心外だな。俺はどこからどう見てもただの高校生だろ」

 影仁の呟きに影人は納得できない様子だった。影仁は「まあ、お前がそう思ってるならそれでいいと思うぜ」と気遣うように笑った。

「さーて、そろそろ現実をしっかりと見ないとな。日奈美さんの怒りが収まるまで、何とかこの辺りで生きとかないと・・・・・・って言っても、俺金ねーしな。しゃあねえ。ホームレスやるか」

「父さん、今日日ホームレスなんか中々やれないよ。すぐ通報されるし。そうなったらウチに流れ着くだろうから、やめた方がいいよ」

「ええ? じゃあどうするんだよ。昔の知り合いの家はそのままか分からねえし、俺の実家も変わってなかったらここから遠いぜ。あ、そうだ。父さんと母さん・・・・・・爺ちゃんと婆ちゃんはまだ元気か?」

「2人とも元気だよ。また近い内に会ってあげればいい。でも、おじいちゃんとおばあちゃんショック死するかもだから、そこは気をつけてね」

「そうか。それはよかったぜ」

 ついでではあるが、両親の安否を聞いた影仁は安心したように息を吐いた。

「うーん、この近くで父さんを居候させてくれそうな所か・・・・・・女性がいる家は正直難しいだろうしな・・・・・・」

「どうするかな・・・・・・」

 影人と影仁が悩んでいると、後方から足音が聞こえて来た。マンションの住人だと思った影人は邪魔にならないよう体を動かそうとする。だが、足音はピタリと止まった。

「あれ、君影人くんじゃないか。ああ、そうか。君はシェルディア様の家の隣に住んでるんだったね」

「あんた・・・・・・確か、響斬さん・・・・・・だったか?」

 影人に声を掛けて来たのは闇人の響斬だった。ジャージ姿に黒いバットケースを肩に掛け、手にどこかの土産屋の手提げ袋を持った響斬は笑顔で頷いた。

「うん。そうだよ。実は2、3日ほど京都に旅行に行っててね。八ツ橋を買って来たからシェルディア様にと思って。シェルディア様、いま家にいる?」

「あ、ああ嬢ちゃんなら多分家にいると思うが・・・・・・響斬さん、あんた随分と自由な感じなんだな。レイゼロールのアジトに住んでるんじゃないのか?」

「ぼかぁずっと日本に住んでるよ。レイゼロール様のアジトにはよく行くけどね」

 響斬が影人の質問に朗らかに答える。すると、影仁が影人に顔を向けた。

「影人、この人お前の知り合いか?」

「知り合い・・・・・・まあ、知り合いっちゃ知り合いかな」

 影人が微妙な顔になる。響斬との関係性は元々は敵だったが、今は味方・・・・・・とも言い切れない何とも言えないものだ。協力する事もあるが、仲良くする事もない。

「そうか・・・・・・お前本当色々な知り合いがいるな。この人、隠しちゃいるが凄い強い・・・・・・只者じゃないだろ。しかも、多分また人間じゃないし」

「っ・・・・・・」

 世界を放浪し培われた経験。その経験で研ぎ澄まされた元々の勘の良さ。その凄まじい勘の良さで響斬の正体にほとんど辿り着いた影仁。響斬は一瞬で自分の隠していた事を見破った影仁に驚いた顔を向けた。

「・・・・・・凄いな。この御仁、只者じゃないね。影人くん、この人は?」

「あー、俺の父親だ。ちょっと世界を放浪して元からよかった勘に更に磨きがかかったみたいでな」

 素直に称賛の言葉を述べる響斬に影人が影仁を紹介する。影仁は「どうも帰城影仁です。息子がお世話になっております」と軽くお辞儀をした。

「この人が君の・・・・・・どうも響斬です。姓は偽名用のものは遠山です。よろしくお願いします」

 響斬も影仁にお辞儀を返す。零無との戦いの時に、零無と影人の因縁、それにまつわる話をレイゼロールから聞いた事がある響斬は影仁がどのような境遇にいたかをある程度知っていた。

「響斬さん、あんた日本に住んでるって言ってたが、どの辺りに住んでるだ? ここから近いのか?」

「近いほうだよ。30分から1時間掛からないくらいかな」

「っ、そうか・・・・・・ちなみにもう2個ほど聞くが、一人暮らしか? 部屋は余ってたりするか?」

「一人暮らしだよ。部屋も余ってるっちゃ余ってるけど・・・・・・なんで?」

 響斬が不思議そうに首を傾げる。影人の質問の意味を理解した影仁はハッとした顔で影人を見つめた。

「影人、まさかお前・・・・・・」

「ああ。そのまさかだ父さん。こいつは奇跡だ。チャンスはここしかない」

「???」

 影人が影仁の言葉に頷く。だが響斬には何のことだか全く分からなかった。

「響斬さん。実はあんたに、いやあなたにお願いがあるんだ。もちろん、嫌なら全然断ってくれてもいい。だけど、出来れば受けてほしい。頼りは正直、あなたしかいない」

「っ・・・・・・」

 影人が真剣な表情で響斬にそう言葉を切り出す。影人のあまりの真剣さに響斬の表情も思わず引き締まった。

 そして、

「響斬さん、頼む。どうか――」

 影人は響斬にある願い事を告げた。










「ふぁ〜あ・・・・・・あー、よく寝た・・・・・・」

 数日後。東京郊外、響斬邸。クーラーの効いた部屋で布団から起き上がった響斬は、スマホを見て現在の時間を確認した。

「11時か。ちょっと寝過ぎたな。でも、昨日はゲームに熱中してたし仕方ないな」

 ダメ人間まっしぐらな言い訳をしながら響斬は寝床を出た。まずは洗面所に行って顔を洗う。そしてトイレで用を足してリビングに向かった。

「――おっ、おはよう響斬さん。って言っても、もう昼前だけどな」

 リビングに出るとテーブルに着いてコーヒーを飲みながらテレビを見ていた男が響斬に挨拶をして来た。歳の頃は30〜40代くらいの少し長めの髪の男だ。響斬と同じ日本人で男は綺麗に髭を剃った顔で人好きのする笑みを浮かべた。

「おはようございます影仁さん。いやー、昨日ゲームし過ぎちゃいまして」

「あー分かる。ゲームは楽しいよな。やめ時が見つからない。俺もよく徹夜でゲームしてたよ」

 影仁が響斬に共感する。そして、影仁はテーブルの上にある白飯、味噌汁、魚、卵焼きなどラップの掛かっている朝食を指差した。

「作っといたから適当に食べてくれ。冷めてるだろうから温めるよ」

「いやー、ご丁寧にありがとうございます。正直、滅茶苦茶助かりますよ。影仁さんのご飯美味しいですし」

 響斬がお礼を言いながら席に着く。冷めた白飯をレンジに入れ、コップに冷たい緑茶を注ぎ箸を取った影仁は首を横に振った。

「いや、助かってるのは俺の方だよ。居候させてくれて本当にありがとう。衣食住全部どうにかさせてもらって・・・・・・マジで響斬さん優しいよ」

「世の中助け合いですよ。困っている人がいるなら助ける・・・・・・ぼかぁ人間を辞めた者ですけど、出来るだけそうしたいと思ってますし。それに、影仁さんもこうして家事をしてくれてるじゃないですか。僕も十分助けられてますよ。いや、本当」

「これくらいはお安いご用さ。世界を放浪してる時もよく家事を手伝わせてもらったしな」

 影仁は温め終えた白飯をレンジから取り出すと、次に魚をレンジに入れた。その間に鍋で味噌汁を温め直す。そして魚と味噌汁を温め終えると、影仁は最後に卵焼きをレンジで温めた。

「いただきます。もぐもぐ・・・・・・うん。やっぱり凄く美味しい」

「ははっ、どうも」

 卵焼きを口に運んだ響斬の顔が綻ぶ。影仁はそんな響斬を見て嬉しそうな顔を浮かべた。

「奥方のお怒りはまだ鎮まらないご様子ですか?」

「ああ。昨日影人と会ったんだが、全く収まってないって言ってたよ。むしろ、怒りが増してる感じだってさ。いやー、ヤバいかも・・・・・・」

 食事をしながら響斬はそんな話題を振った。影仁は苦笑いを浮かべそう答えた。

「妻の怒りが1番怖いですもんね・・・・・・でも、いずれ許してくれますよ。それまではどうぞ、僕の家に居候してください」

「ありがとう響斬さん。本当に申し訳ないけどお言葉に甘えさせてもらうよ」

「ええ。そうだ。今日の夜一緒にゲームしませんか? お酒呑みながら。きっと楽しいですよ」

「いいね! やろうやろう」

「よし決まりだ。じゃあ、ぼかぁこの後修行しに出かけるんで帰りに酒とツマミを買って来ますよ。何かリクエストありますか?」

「え、いいの? じゃあ、悪いけど――」

 響斬の提案に影仁は楽しそうに頷く。それから、2人はワイワイと楽しそうに話を続けた。


 ――こうして、帰城影仁はしばらく間、響斬の家で居候する事になったのだった。

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