第406話 亀裂を巡る戦い、決着(1)
「・・・・・・力の意味か。それは詭弁と紙一重だろう・・・・・・!」
第1の亀裂、ロシア。レイゼロールVSレゼルニウスの戦い。レイゼロールは自身の体から噴き出す『終焉』の闇を固め、槍の形にした。そして、それをレゼルニウスに向かって投擲した。
「なるほど。そういう考え方を出来るようになったんだね。また君の成長が窺えて嬉しいよ」
レゼルニウスはしかし回避しなかった。レゼルニウスが召喚した槍が、自動的に闇の槍を弾いたからだ。
「確かに君の言う事も尤もだ。だけど・・・・・・力の意味を考えるか、詭弁と切り捨てるかでは差があると思うよ。少なくとも、僕は前者の方が好きだな」
「ふん、正義なき力は暴力だとでも言いたいのか」
「いいや。そこまで言うつもりはないよ。僕が言っているのはあくまで好みだからね」
レゼルニウスがフッと笑う。その笑みを見たレイゼロールは、レゼルニウスのその笑みが余裕そのものに見え、思わず苛立ちを感じた。
「なら、兄さんは分かっているというのか。自分が持つ力の意味を」
「あくまで僕なりの理解だけどね。『終焉』も、そして僕が今使っている冥界の神としての力も、僕なりの答えは出したよ」
レゼルニウスは無造作に手を振り、地面から真っ黒い骸骨――亡者と呼ばれるモノたち――と、空中に翼を持った機械人形――天使と呼ばれるモノたち――を召喚した。亡者と天使たちはレイゼロールへと襲い掛かる。
「・・・・・・そうか。流石は兄さんだな。だが、我に会うという欲望のために、
レイゼロールは『終焉』の闇を固め、2振りの剣に変えた。そして、その剣で亡者と天使を切り裂く。初めにレゼルニウスが亡者と天使を召喚した時の流れと同じだ。
「耳が痛い。君の言う通りだよ」
レゼルニウスが苦笑する。レイゼロールは左手の剣をブーメランのようにレゼルニウスに向かって投げた。だが、結果は先ほどの槍の時と同じ。レゼルニウスの頭上の槍が1人でに動き剣を弾く。
「ちっ、厄介なものを・・・・・・」
「敵にとっての厄介は、こちらにとっての褒め言葉だからね。さて、君はこれをどう攻略する? と言っても、攻略を考える時間は与えないけどね」
レゼルニウスはスッとアイスブルーの瞳を細めた。そして、力ある言葉を紡ぐ。
「第1の冥獄、這う炎」
レゼルニウスがそう唱えると、レゼルニウスの立っている地面の周囲に炎が奔った。その炎の色はレゼルニウスが身に纏う闇と同じ、紫闇の色だった。その炎はまるで意思を持っているかの如く氷原を奔り、レイゼロールの方に向かって来た。
「ふん、そんな愚鈍な速度の炎に当たるものか」
レイゼロールは強く地を蹴り炎を避けた。炎が氷原を奔る速度はそれなりだが、レイゼロールからすれば遅々としたものだった。
(さて、実際あの槍をどう攻略する。兄さんをどう倒す。我の攻撃手段は『終焉』に限られる。その『終焉』も何とか剣や槍といった、単純な武器に変えられるくらいの熟練度しか我は持ち合わせていない)
対してレゼルニウスの攻撃の手段は多様だ。しかも、恐らくまだまだ手札はあるはずだ。
(我の目的は預かった符を亀裂に貼る事。そのためには、兄さんに勝たなければならない。意表を突いて符を貼る事は、今の状況では不可能だ)
レイゼロールがチラリと視線をレゼルニウスの背後にある大きな亀裂に向ける。あの亀裂の周囲――正確には半径5メートルほど――は、時空間が強く歪んでいて座標の設定が出来ない。そのため、亀裂のすぐ近くに転移して符を貼るという方法は取れない。
(今ある手札、『終焉』で兄さんに勝つしかない。しかし、我の『終焉』では・・・・・・)
レイゼロールは苦悩した。諦めるわけではないが、レゼルニウスに勝てるビジョンが見えない。
「言ったはずだよ。攻略を考える時間は与えないとね。冥天、第5の福音、聖鐘の
レゼルニウスが新たな冥界の力を行使する。レゼルニウスの体の前に、小さな透明の鐘が出現した。鐘は地面に落ちる事なく浮遊し、レゼルニウスはその小さな鐘を手で弾いた。すると、美しい鐘の音が鳴った。
「っ!?」
その鐘の音を聞いた直後、レイゼロールの視界がぐにゃりと歪んだ。平衡感覚が狂う。上か下か、右か左かも分からない。レイゼロールは思わず地面に片足をついた。
「聖なる鐘の音は、光の加護ある者に対しては恩寵をもたらし、闇の加護ある者に対しては災いをもたらす。平衡感覚がおかしくなっているだろう。とても立ってはいられないほどに。それが災いだよ」
レゼルニウスがそう説明した。そして、レゼルニウスは感情を切り離した冷ややかな声でこう言葉を続けた。
「いいのかい。そのままそこにいれば、地の国の炎に焼かれるよ」
「っ・・・・・・? ぐっ!?」
混乱しているレイゼロールには、最初レゼルニウスの言葉の意味は分からなかった。だが次の瞬間、レイゼロールは灼熱の気配を感じた。それは、先ほどレゼルニウスが放った紫闇の炎が、レイゼロールに到達した証だった。レイゼロールは一瞬にして火に包まれ、火だるまになった。
「・・・・・・這う炎は対象を焼くまでどこまでも追跡する炎だ。焼かれれば最後、対象が灰になるまで燃え続ける」
レゼルニウスは火だるまになっている妹を見つめた。見ていられない。心が張り裂けそうだ。そして、妹を焼いているのが兄である自分だという事実に死にたくなる。だが、耐えなければならない。見ぬふりをしてはいけない。この光景を招いたのは自分なのだから。
「〜っ!?」
全身を焼かれたレイゼロールは、痛みと熱で気が狂いそうになりながらも、炎から逃れるべく幻影化の力を使用した。陽炎のように揺らめいたレイゼロールは風に流されるように移動すると、離れた場所で実体化した。そして、回復の力を使用し全身を癒した。
「はあ、はあ・・・・・・」
「焼かれるのは苦しいよね。だけど、まだまだ戦いは終わらないよ」
レゼルニウスが再び鐘を弾く。鐘が鳴り聖なる音が響く。レイゼロールの平衡感覚が再び狂う。
「ぐっ・・・・・・!?」
「第6の冥獄、
レゼルニウスが地の国、第6階層の現象を呼び出す。レゼルニウスの背後からヒュウと一陣の風が吹く。その風はレイゼロールの肌を撫で――
「がっ・・・・・・」
次の瞬間、レイゼロールの全身を切り裂いた。レイゼロールの全身に刻まれた切り傷はかなり深いもので、大量の赤い血が白い地面を濡らした。
「荒ぶ風は対象の全身をズタズタに切り裂く。動く事はお勧めしないよ。動けばどこかが千切れるだろうしね」
レゼルニウスがそう説明すると、ピキッと空間に大きな亀裂が奔った。先ほどから、亀裂は徐々にその数を増やしていたが、ここにきてその数は一気にといってもいいほどに増えている。
「・・・・・・境界が完全に崩壊するまでの時間はもうあまり残されていないようだね。レール、早く僕を倒さなければ世界は変わってしまうよ。彼の、フェルフィズの思惑通りに」
「言われ、なくとも・・・・・・分かっている・・・・・・!」
レイゼロールは再び回復の力を使用し、全身の切り傷を癒した。いったい、これで幾度目の回復の力の使用だろうか。回復の力は便利な力だが、力の消費量が激しい。レイゼロールといえども、何度も何度も使えるものではない。残りの力の残量からいって、使えたとしても後3〜5回くらいが限界だ。
(時間もない。力の残量も少ない。そして、兄さんを倒す方法も未だ思いつかない・・・・・・はっきり言って窮地だな)
これほどまでに追い詰められたのはいつ以来だろうか。レイゼロールは自分が幼体であった頃、神界の神々と戦った頃の、まだ自分が未熟だった頃の事を思い出した。
(しかし、我は諦めるわけにはいかない。兄さんに勝たなければならない。任されたのだ。我はあいつに)
レイゼロールはポケットの内に入っている、影人から託された符を、布の上からそっと触った。レイゼロールと同じように、符は燃やされ切り裂かれたはずだが、確かに形を保ったままここにある。流石は真界の神の最高位たる『空』の力が込められた物だ。頑丈である。
(我はあいつの信頼に応えたい。そのためにも考えろ。どうすれば兄さんに勝てるのか。今までの戦いで何かヒントはないか。思い出せ)
レイゼロールは冷静に、かつ必死に記憶を呼び起こした。どんなに絶望的な状況でも、決して諦めずに思考する。それは、どこかの前髪が長い少年と同じ姿勢だった。
(力、力の意義・・・・・・兄さんは言っていた。この戦いで我が『終焉』の力の意義、その答えを出さなければ勝てないと。兄さんはフェルフィズとの契約によって我と戦っているが根は変わらない。優しい、本当に優しい神だ。我には分かる。あの時から何も変わってはいないと)
今のレゼルニウスは冷酷に見えるが、それはレイゼロールが敵らしく振る舞えと言ったからだ。その証拠に、レゼルニウスは小さく、本当に小さくではあるが震えていた。それは心を殺しても拭えない拒否反応だ。兄妹であり、誰よりもレゼルニウスの事を知っているレイゼロールだからこそ分かる反応。
(兄さんの言葉には意味がある。我を想い、見守り続けていてくれた兄さんの言葉が嘘であるはずがない。『終焉』の力の意義。おそらく、それを見出すことが勝利への道だ)
気づきは得た。後は答えを出すだけだ。レイゼロールの目に小さな希望の光が灯る。
「ふむ・・・・・・目の色が変わったね。僕を倒す方法に見当がついたのかな」
「ああ。心優しく妹に甘い兄のおかげでな」
レゼルニウスも兄妹だからか、レイゼロールの小さな変化を見逃さなかった。
「・・・・・・そうか。これだけ酷い事をしたのに、まだそう言ってくれるのか。こう思ってはいけないのに・・・・・・救われる気分だよ」
今にも泣き出しそうな顔でレゼルニウスは笑った。だが、すぐに顔を引き締めた。
「だけど、だからといって手は抜かないよ」
「当然だ。そういった意味で言ったのではないのだからな」
「ならよかったよ。冥天、第7の福音、白翼の雨」
レゼルニウスがそう唱えると、突然空から白い羽が降ってきた。1つ、2つといった数ではない。大量に。それこそ雨のようにだ。白い羽は当然、レゼルニウスとレイゼロールに触れる。
「っ・・・・・・」
その羽に触れた瞬間、レイゼロールの視界が突然暗転した。レイゼロールの前に広がるのは、無辺の暗闇だけだ。
「白翼の雨も聖鐘の音と似たようなものだよ。聖鐘の音が、音を聞いた闇の者に対して平衡感覚を狂わせる効果を持っているように、白翼の雨は、白翼に触れた闇の者に対して視界を奪う効果を持っている。今の君は何も見えてはいないだろう」
レゼルニウスはそう言うと、今度は鐘を弾いた。聖なる鐘の音がレイゼロールの平衡感覚を狂わせる。
「これで感覚も狂った。今の君は真に無力だ。そして、僕はそんな君に容赦はしない。第8の冥獄、永久の
レゼルニウスが冥界における地の国、天の国、共に第8階層の事象を呼び出す。すると、レイゼロールの周囲を取り囲むように水色の魔法陣が出現し、レイゼロールの胸元に一輪の白い花が咲いた。
「ぐっ・・・・・・!?」
途端、レイゼロールを新たに2つの感覚が襲った。1つは何か力が吸われているような感覚で、もう1つは体が凍っていくような感覚だ。視界を奪われ平衡感覚も狂っているレイゼロールには、正確に自分の身に何が起きているのか分からなかった。
「永久の氷咎はその名の通り、対象を永久に凍らせる。命の花は、光の加護を持つ者には力を与え、闇の加護を持つ者にはその逆、力を奪う。視界を奪われ感覚を狂わせられ、力を吸われ、そして凍っていく。レール、このまま何もしなければ、君の負けだ」
レゼルニウスの言葉が暗闇の野に響く。状況を理解したレイゼロールはしかし、何も焦りはしなかった。
(兄さんは言っていた。『終焉』は全てを終わりに導く力だと。終わりとは何だ。生物に限って言うのならば、終わりとは死だ。では、死とはなんだ?)
レイゼロールはただ思考を続けた。視界を奪われ、感覚もおかしくなり、力を吸われ衰弱し、凍っていることによって意識もぼんやりとし始めているのに。1本の思考の線を強く意識して。
(死とは忌避すべきものだ。死んでしまえば何も出来なくなる。本来ならば、全ての生物が必ず行き着く場所。だが、不死者にとっては死とは必ずしも忌避すべきものではない。我もシェルディアも、かつては死を望んでいた)
それはなぜか。生きるのに疲れたから、あまりにも長い時を生きすぎたからだ。レイゼロールやシェルディアは、死に安寧を求めた。
(ああ、そうか。死とは恐ろしいだけの力ではない。死とは、終わりとは・・・・・・)
レイゼロールが一種の答えに辿り着く。だが、レイゼロールが答えに辿り着いた直後、レイゼロールの体は完全に凍ってしまった。同時にレイゼロールの意識も凍りついた。
「・・・・・・」
「・・・・・・残念だ。レール、君ならば僕を超えてくれると信じていたんだけどね。どうやら、まだもう少しだけ時が足りなかったらしい」
凍りついた自分の妹を見たレゼルニウスがそう言葉を漏らす。レゼルニウスは思わず一条の涙を流した。ずっとずっと堪えてきたが限界だった。
(これが僕の選んだ結果。僕の罪。僕のせいでこの世界は・・・・・・)
レゼルニウスが暗澹たる気持ちを抱いた時だった。突然、凍っているレイゼロールにピシリとヒビが入った。
そして、
「・・・・・・時間なら足りている。本当にギリギリだったがな」
次の瞬間、氷が砕けた。自由を取り戻したレイゼロールはレゼルニウスにそう言葉を放った。
「っ・・・・・・レール」
復活したレイゼロールを見たレゼルニウスがその目を大きく見開く。第8の冥獄、永久の氷咎は意識すらも完全に凍りつかせる。冥獄の氷は決して溶けず壊れない氷だ。だが、レイゼロールはそれを破った。その事実がレゼルニウスを驚かせる。
「ようやく分かったぞ。兄さんが言っていた言葉の意味が。力の意義を考えろ。あれは・・・・・・力の解釈を広げろという意味でもあったのだな。だから、兄さんは我が答えを出さなければ勝てないと言った」
レイゼロールは自身の体から噴き出す『終焉』の闇を見つめた。レイゼロールはこの闇が持つ全てを終わらせる力を、恐ろしいものだと言った。だが、違ったのだ。
「・・・・・・この力は全てを終わりに導く、死と同義の力だ。そして、死とは全ての生物に訪れる果て。・・・・・・死とは恐ろしいものだ。だが・・・・・・同時に安寧でもある。平等に訪れる安らぎだ。死とは、終わりとは、恐ろしいだけの力ではない。平等な優しい力だ」
レイゼロールはしっかりとした目でレゼルニウスを見つめた。それがレイゼロールが出した『終焉』の力の意義、答えだ。
「・・・・・・うん。素晴らしい。いい答えだ。それでこそ『終焉』を司る女神。そうだ。終わりとは決して恐ろしいだけの力じゃない。夜の闇の如く、静寂と安寧を与え包み込む事が出来るものだ」
レゼルニウスは満足げに笑った。ああよかった。もう大丈夫だ。自身が司る『終焉』の力を取り戻し、その意義にも答えを出した。レイゼロールは今こそ一人前の神となった。レイゼロールは自分を越えてくれる。レゼルニウスはそう確信した。
「君の出したその答えが『終焉』の力をより強固に、あるいは変質させた。だからこそ、君はその氷を壊す事が出来たんだね」
「・・・・・・流石に分かりきっているな。そうだ。我のこの力が全てに対して平等ならば、如何なるものをも包み込む事が出来る。例えそれが同じ死であったとしてもな」
レイゼロールはそう言うと、ゆっくりとレゼルニウスに向かって歩を進めた。
「死を包み込むか。確かに『終焉』にならそれも可能だ。・・・・・・でも、だからといって僕が戦いを放棄する事はないよ」
レゼルニウスは自身の中から溢れ出す冥界の力を最大限にまで高めた。
「第9の冥獄、
レゼルニウスが最大にまで高めた力を放出する。すると、レゼルニウスの背後から全てを塗り潰す真っ黒な暗闇が出現した。そして、空が割れ太陽とは違う光がさす。暗闇はレイゼロールに纏わりつき、光はレイゼロールを照らす。その闇は纏わりついた対象の五感を永遠に奪い、光は照らした対象が闇の者であった場合、その者の精神を永遠に焼き続ける。無間の獄夜は冥界の地の国最下層の、天明の審判は冥界の天の国最上層の事象だった。
「ふん・・・・・・」
だが、レイゼロールは何事もないかのように歩き続けた。今のレイゼロールの『終焉』は死の世界の事象すらも包み込む。つまりは、無力化できるという事だ。
「うん。やはりこうなるね。じゃあ、最後。僕の切り札を見せよう」
レゼルニウスが右手を自分の胸に当てる。今のレゼルニウスの肉体は冥界と繋がっている。一種のゲートと化している自身の肉体から、レゼルニウスはある物を引き摺り出した。
「冥神の
レゼルニウスが引き出した物は、紫闇の槍だった。それは禍々しさと神々しさを兼ね添えた不思議な槍だった。
「これは冥界の力全てが込められた槍だ。冥界の最高位の神たる僕にしか扱えない。レール。君は死の世界そのものを受け止め切れるかな」
「愚問だな。無論だ」
「なら、君を信じよう」
レゼルニウスは冥界そのものの力が込められた槍をレイゼロールに向かって投擲した。槍は真っ直ぐに飛んでいき、レイゼロールを正面から穿たんとする。レイゼロールはその槍を『終焉』の闇で受け止めた。
「ぐっ・・・・・・」
レゼルニウスの投擲した槍は、流石は冥界全ての力が込められているためか、今のレイゼロールでも受け止める事は難しかった。
「死の世界・・・・・・流石に重い。だが、受け止めきってみせよう。我はレイゼロール。『終焉』を司る闇の女神。死の世界すらも安寧の闇で包んでやろう!」
レイゼロールは己から噴き出す『終焉』の闇を全開にした。自身が司る権能に対する答えを得たレイゼロールの『終焉』は、先ほどまでの『終焉』とは違う。力の意義を得、強固になり、拡張されたレイゼロールの『終焉』は、槍を包みやがて消し去った。
「・・・・・・見事だ」
レゼルニウスが満足そうな笑みを浮かべる。レイゼロールはそのままレゼルニウスとの距離を詰め、
「・・・・・・終わりだ。兄さん」
『終焉』の闇でレゼルニウスを包み込んだ。
「ああ、僕はなんて幸運なんだろう・・・・・・君が一人前の女神になれる瞬間を間近で見る事ができた。兄として、いや君を痛めつけた僕に兄を名乗る資格はないな。1柱の神として、これほど嬉しい事はないよ。よくぞ、よくぞ僕を越えた」
『終焉』の闇に包まれたレゼルニウスが軽く瞼を閉じる。レゼルニウスは冥界の神。すでに死んでいるレゼルニウスが『終焉』を受けても死ぬ事はない。だが、レゼルニウスの体は黒い粒子となって消えていく。レイゼロールの『終焉』に包まれた事によって、レゼルニウスはあるべき場所へと戻されるのだ。つまり、冥界へと。体が黒い粒子になっているのはその過程だった。
「・・・・・・何を言う。兄さんは我の兄さんだ。資格云々などあるものか。・・・・・・ありがとう、兄さん。本当に、本当にまた会えて嬉しかった。後は任せてくれ。我たちを見守っていてくれ」
「っ・・・・・・全く、どこまで優しいんだ君は。彼に似たね。うん。ありがとうレール。またあっちの世界から君たちを見守るよ。さようなら、レール。僕の愛する妹よ」
レゼルニウスは泣きながら満面の笑みを浮かべた。そして、レゼルニウスは黒い粒子となって完全に消えた。
「・・・・・・ああ。さようなら、兄さん。我の最も敬愛する神よ」
レイゼロールは少し悲しげな顔を浮かべると、大きな亀裂に向かって歩いた。そして、亀裂に影人から預かった符を貼った。
――第1の亀裂、ロシア。闇の女神レイゼロールVS冥界の神レゼルニウス。勝者、闇の女神レイゼロール。こうして、とある兄妹の戦いは終了した。
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