第399話 忌神の神殿

「お前ら・・・・・・」

 現れた7人を見た影人は少し驚いたように、その金の瞳を見開いた。

「・・・・・・何だ。案外早く来たわね。でも・・・・・・人選がムカつくわ。何であんたらが援軍なのよ」

 ダークレイもやって来た者たちにそんな感想を述べる。ただ、かつて自分と戦い実質的に勝利した陽華と明夜に対しては、少しだけ顔を不快げに歪ませた。

「な、何でって言われても・・・・・・それはもちろん、帰城くんの力になってイズを救うためだよ!」

「イズを救うって言った言い出しっぺは陽華で、それに最初に賛成したのが私なのよ。その私たちが来ないのは色々とおかしいでしょ」

 陽華は両手を握り、明夜はそう言ってダークレイに言葉を返した。

「・・・・・・別におかしくはないわよレッドシャイン。あんた、相変わらず無駄に明るくて鬱陶しいわね」

「無駄に!? ひ、酷い!」

「まあ、確かに陽華は明る過ぎるところがあるものね」

「なに他人事みたいに言ってるのよ。あんたも鬱陶しいわよブルーシャイン。中身は暑苦しいくせに外側はクールぶってるのが」

「ぶってる!? 言いがかりだわ! 私は見た目も中身もクールな女よ!」

 ダークレイの言葉を受けた陽華と明夜が軽く悲鳴を上げる。一応、戦場だというのに先程までの空気はどこへやら。空気は一気に緩んだ。

「はあー・・・・・・相変わらずだな。お前らが来ると大体こんな空気になる気がするぜ。このシリアスブレイカーどもが」

「あのさ、君がそれ言う? スプリガンの雰囲気で誤魔化してるけど、君も相当痛い事言ってる感じでしょ。冷静に考えたら、それもシリアブレイカーじゃないの」

「うるせえぞ暁・・・・・・光導姫アカツキ。俺の場合は必要事項だ。断じてそんなものじゃない」

 エメラルドグリーンのフードを被った暁理がフードの下からジトっとした目を影人に向ける。影人は暁理の言葉を明確に否定した。

「・・・・・・この感じで今からラスボスの城に乗り込むのか? ちょっとというか、だいぶと心配になるな・・・・・・いやまあ、いつもヘラヘラしてる俺が言える事じゃないかもだけどよ・・・・・・」

「大丈夫ですよ『死神』。むしろ、気負い過ぎる方がよくないですから」

「そうそう♪ 緊張感は適度にね♪」

「ええ。私たちは光導姫。正の感情が力になりますから」

 困ったような心配したような顔を浮かべる壮司に、光司、ソニア、風音が明るく笑う。壮司は「まあ、そうだな」と最終的には諦めたように笑った。

「とにかく、みんなであの城に乗り込もう! 大丈夫! 私たちはみんなで戦ってるんだから、絶対に勝てるしイズを救えるよ!」

「そうよ。友情パワーの力を見せつけてやりましょう。友情パワーは無敵だわ」

 いつの間にか、すっかり元通りの様子に戻った陽華と明夜。真っ直ぐでどこまでも明るい2人の言葉に、ソニア、風音、光司は頷き、壮司も「はっ、あんたらが言うと説得力があるな」と小さく笑った。

「何であんたらが仕切ってるのよ。ムカつくわね」

「友情パワーの中に俺を入れるな。俺は孤高なんだよ」

 だが、ダークレイと影人はムッとした顔になった。闇の力を扱う組の文句を、しかし陽華と明夜は無視した。

「行こう!」

「行くわよ」

 陽華と明夜が城に向かって歩き始める。その歩みには確かな決意が見えた。

「だから仕切るな。ちっ、本当にムカつくわ」

「おい無視するな名物コンビ。俺は孤高で孤独な・・・・・・」

「まだ言ってるの君・・・・・・? 見た目は変わっても、本当中身はアレだね。終わってる」

「あはは、まあスプリガンの見た目で、影くん全開の言葉はまだちょっと違和感あるよね」

「そうかな? 帰城くんはいつだって帰城くんだよ。素晴らしくもカッコいい」

「光司くん・・・・・・?」

「10位くんはあれか。残念イケメンってやつか?」

 2人の後にダークレイが続き、影人、暁理、ソニア、光司、風音、壮司もそれに続いた。そして、9人の少年少女は忌神の潜む異形の神殿の中へと進んで行った。

 ――第6の亀裂、日本。光導姫レッドシャイン朝宮陽華、光導姫ブルーシャイン月下明夜、光導姫アカツキ早川暁理。『歌姫』ソニア・テレフレア、『巫女』連華寺風音、『死神』案山子野壮司、『騎士』香乃宮光司、『闇導姫』ダークレイ、スプリガン、忌神の神殿への潜入開始。










「やっと入って来ましたか。それにしても、案外に大所帯になりましたね」

 「忌神の神殿」最頂部。そこから、影人たちが神殿内に侵入してくる様子を見ていたフェルフィズは、そう呟いた。この神殿内部には至る所にカメラが仕掛けられており、フェルフィズはそれを自由にモニターに映して見る事が出来た。

「報告します製作者。各端末、戦闘を開始しました」

「そうですか。アオンゼウの器を解析して作った量産機・・・・・・数こそ4体と少なく性能もオリジナルよりかは劣りますが・・・・・・それでも魔機神の写し身です。たかだか光導姫と守護者、闇人程度が勝てる存在ではない。例え、彼らが協力しても」

 最低でも4つの亀裂が安定する事はない。フェルフィズはそう確信していた。

「さて、何やら抗っている形跡は見えますが、境界の崩壊が完全に終わるまで大体3〜4時間といったところですか」

 自身の背後にある大きな亀裂の状態を計測していたフェルフィズがそんな判断を下す。計測は完全に正確とはいえないが、大きな時間のズレはないはずだ。

「まあ、それまでの間、存分に楽しませてもらいましょうか。ねえ、イズ」

「・・・・・・私に楽しむという感情はありません」

「・・・・・・そうですか」

 イズは無感情にそう答えた。その答えを聞いたフェルフィズは少し残念そうな顔になった。

「まあ、いずれ分かりますよ。今はまだ自覚できないだけでしょうから」

 ふっとどこか優しげに笑ったフェルフィズは、モニターに視線を戻した。

「さあ、影人くん。私の神殿を存分に楽しんでください。そして、私たちのいる場所まで辿り着いてください。今日ここで・・・・・・私とあなたの物語を終わらせましょう」

 そして、忌神はモニターに映る、自分との数奇な縁を持つ少年にそんな言葉を送った。











「見た目から分かってはいたが・・・・・・やっぱり広いな」

 神殿内に足を踏み入れた影人は周囲を見渡した。1階部分は黒を基調とした広大なホールで、奥の方には上階に登るためのスロープのようなものが見えた。

「・・・・・・面倒だから、やっぱりぶっ壊してショートカットした方がよくねえか」

「うるさいわよバカ。内部で建物を壊したら私たち全員下敷きになるでしょ。どこまでバカなのよ」

 先ほどの話を蒸し返した影人に、ダークレイが軽蔑の目を向ける。バカバカと言われた影人は少しカチンと来た。

「バカバカうるせえぞ。崩落くらいどうとでも出来る。あと、バカバカ言われるのは月下・・・・・・ブルーシャインの専門だ。言うならブルーシャインに言え」

「え!?」

 とんでもないとばっちりを受けた明夜が驚愕する。無理もない。もし球技で例えるなら、誰かが真っ直ぐ飛んでいたボールを遠く離れた所から見ていたら、急にボールが物理法則ではあり得ない曲がり方を見せ、その見ていた誰かにぶつかって来た感じだ。理不尽が尋常ではない。

「・・・・・・これがバカなのは大体分かるわよ。でも、あんたもバカなのは変わらないわ」

「これ!? バカ!? ちょっと急に酷過ぎるわよ2人とも! 私はバカじゃない! 名誉毀損よ!」

 ダークレイにもバカ呼ばわりされた明夜が抗議の声を上げる。そんな明夜に一同は苦笑いを浮かべた。

「でも、実際真面目にこの城を登って行くのは効率が悪いよね。ただでさえ時間がないんでしょ。だったら、やっぱり何か時短できる方法は考えないと」

 暁理が影人の提案に一部同意しそう言った。暁理の指摘に黒いフード姿の壮司は頷いた。

「そうだな。何か上手い具合に方法を考えねえと。スプリガンさんよ、ぶっ壊さないでショートカット出来そうな方法はないか? あんたの力って万能なんだろ」

「確かに俺の力はどんな形にも変化できるが・・・・・・壊さないでってなると難しいな。・・・・・・いや、もしかしたら転移なら行けるか?」

 影人はその可能性に気がついた。一応、外からこの城の最頂部は見ている。ならば理論上、転移は可能だ。だが、影人の中にイヴの声が響いた。

『転移は出来ねえぞ。この建物の中は転移不可エリアになってるっぽいからな。後、適当に解析してたが、ここはシスの野郎がいた城とほとんど同じだ。物理的に壊す事はほぼ不可能な素材で作られてる。だからまあ、真面目に行くしかねえな』

「マジかよ・・・・・・ちっ、流石の性格の悪さだなあの野郎」

 影人は小さく舌打ちをした。この建造物は影人たちが入って来た時点で扉が閉まっている。不壊属性に転移禁止エリアという特性がある以上、影人たちに残された道は限られていた。

「ん? というか、君の声なんか聞き覚えがあるな。うーん、すぐそこまで出かかってるんだけど・・・・・・」

 暁理が壮司の方を見ながら唸る。すると、壮司は「何だ。まだ気づいてなかったのかよ」と言い、少し呆れたような顔を浮かべた。

「俺だよ。隠す必要なくなったから言うが、スケアクロウだ。実は守護者ランキング4位『死神』は俺でしたーと」

 壮司がフードを取る。壮司の顔を見た暁理はフードの下でその目を大きく見開いた。

「なっ・・・・・・!? か、かかし!? 嘘だろ君だったのか!? しかも、守護者ランキング4位!? 君が!?」

「その呼び方、やっぱり直らねえなアカツキさん」

 壮司がヘラリと笑う。壮司の素顔を初めてしっかりと見た陽華と明夜も驚いた顔を浮かべる。

「あ! あの時の!」

「まさかランキング4位だったなんて・・・・・・」

「ああ、そういえばお2人さんともスケアクロウの時に共闘してたな。改めて守護者ランキング4位『死神』案山子野壮司だ。薄汚れた罪人だが、世界のために命を懸けて頑張るんでよろしくな」

 壮司がペコリと頭を下げる。この場にいる者たちは皆光と闇の最後の戦いの場にいた者たちだ。そのため、壮司がレイゼロールを殺そうとしていた事、そのために暗躍している事を知っていた。

「案山子野さん、そんなにご自身を卑下することは・・・・・・」

「いや事実だからな。でもまあ、聞いてて気分はよくねえか。悪かった。余計な事言っちまったな」

 そんな壮司に光司はそう言葉をかける。だが、壮司は首を横に振った。そして、申し訳なさそうに苦笑した。

「・・・・・・実は誰が誰々でしたなんてこと話してる場合か。さっさと行くぞ。・・・・・・ちなみにそれを言うなら、アカツキの正体は早川暁理だ。朝宮と月下はまだ気づいてないみたいだがな」

「ちょ影人!?」

「「え!?」」

 急に正体をバラされた暁理が驚き、影人の言葉通り気づいていなかった陽華と明夜は、驚愕の声を上げた。

「そろそろいいだろ。いずれバレる。お前の俺への態度やらでな。実際、香乃宮はもう気づいてるぞ」

「え?」

 暁理が光司の方に顔を向ける。すると、光司は苦笑した。

「まあ、声とか影人くんに対する絡みが早川さんそのものだったからね。といっても、僕も気づいたのはついさっきだけど」

「ほらな」

「あー・・・・・・まあそっか。僕の場合は影人とは違ってフードで顔を隠してるだけだもんね。流石にバレるか」

 暁理はしまったという風に軽く息を吐くと、エメラルドグリーンのフードを取った。

「別に正体を隠してた事に深い理由はないんだけど、改めて光導姫ランキング25位アカツキ、早川暁理です。ごめんね、朝宮さんに月下さん。今まで黙ったままで」

「ううん、全然! でも早川さんも光導姫だったなんて凄い偶然だね! しかもランキング25位なんて凄い!」

「こちらこそ。改めてよろしくね早川さん。それにしても、ウチの学校、扇陣高校でもないのに光導姫と守護者がけっこう多かったのね・・・・・・」

 陽華と明夜が快く暁理の挨拶を受け入れた。

「へえ、アカツキさんの顔ってそんな感じだったのか。美人さんじゃん」

「あ、小学校で影くんと一緒にいた子だったんだ」

 その様子を傍から見ていた壮司とソニアもそんな言葉を呟いた。

「・・・・・・バカバカしい」

 付き合いきれないといった様子で、ダークレイがスロープのある方に向かって歩き始める。すると、そのタイミングで、

「・・・・・・!」

 天井の一部を突き破って何かが降ってきた。それは鋼色の巨大な蠍のようなもので、背中には何やら銃火器のようなものが装備されていた。

「「「「「「っ!?」」」」」」

 突如として現れたその怪物に、陽華、明夜、暁理、ソニア、風音、光司が衝撃を受ける。

「おー、何かデカブツが来たな」

「・・・・・・まあ、何かが来るだろうとは思ってたぜ」

「ふん、どうせまた雑魚でしょ」

 壮司、影人、ダークレイの3人はさしたる驚きもなく蠍のような怪物を見つめた。

「・・・・・・!」

 怪物は背中の銃で影人たちに弾丸の雨を放った。影人は右手を前方に伸ばし、全員を守れるように闇色の障壁を展開した。弾丸は全て障壁に阻まれる。

「っ、ありがとう影くん」

「礼はいい。さっさとあいつを瞬殺するぞ」

 感謝の言葉を述べるソニアに影人は金の瞳で一瞥を返した。

「んじゃまあ働きますか」

「行くよ!」

 壮司は異空間から大鎌を呼び出し、暁理は剣を持ちながら怪物へと駆けた。2人は光導姫と守護者の身体能力で一気に距離を詰めると、それぞれの獲物を怪物に振るった。

「っ、見た目通り硬えな・・・・・・!」

「これ、まんま鋼じゃないか・・・・・・!」

 だが、2人の一撃が怪物にダメージを与える事はなかった。大鎌と剣はガキンという音を立てて、怪物の外皮に阻まれた。

「・・・・・・!」

 怪物が2人に両手の巨大な鋏を振るう。壮司と暁理は大きく跳躍しその攻撃を躱した。

「っ、2人とも! この!」

「はあッ!」

「援護するわ!」

攻撃のストライク――!」

「第1式札から第10式札、光の矢と――!」

 陽華と光司が突撃をかけ、明夜、ソニア、風音は援護攻撃を行おうとする。しかし、その前に2つの影が動いた。

闇技あんぎ発動、ダークブレット」

「言っただろ。瞬殺だ」

 ダークレイは両手のグローブに闇を纏わせ、その右拳を怪物に穿ち、影人は右足に闇を纏わせ、怪物の背中に蹴りを落とした。闇の力で強化された2人の一撃は強力だ。その結果、

「・・・・・・!」

 怪物の体にみるみるヒビが奔り、やがて怪物は全身を砕け散らせた。

「ふん、やっぱり雑魚だったわね」

「だな」

 砕け散った怪物の残骸をダークレイと影人はつまらなさそうに見つめた。

「え、もう終わり・・・・・・?」

「流石はスプリガンとダークレイね・・・・・・」

「いやー、敵だとおっかないが味方だと頼もしい限りだな」

「なんか、影人って本当にスプリガンなんだね・・・・・・」

「やるねお2人さん♪」

「ありがとう帰城くん。ダークレイさん」

「・・・・・・本当に頼もしいですね」

 一瞬にして怪物が倒された事に、陽華、明夜、壮司、暁理、ソニア、光司、風音がそれぞれの反応を示す。影人とダークレイはその言葉に反応する事なく、先に向かうべく歩き始めた。

「行くぞお前ら。取り敢えず、ショートカットの方法は道中に考える」

「うん!」

「ええ。この最強チームならきっとすぐに最上階まで辿り着くわ」

 チラリと振り向いた影人に陽華と明夜が頷く。陽華と明夜、それに他の者たちも影人とダークレイの後に続いた。

 ――こうして、影人たちは忌神の神殿を進んで行った。

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