第398話 とある兄妹の再会、6つの亀裂

「ああ・・・・・・きっと、こういうのを感無量というんだろうな。君の姿をこんなに近くから見られるなんて・・・・・・」

 レゼルニウスは軽く涙ぐみそっと右手で目元を拭った。ずっと遠くから見守る事しか出来なかった自分の大切な存在が目の前にいる。手を伸ばせば触れる事が出来る。こんなに喜ばしい事はない。

「・・・・・・我も未だに信じられないよ。また兄さんに会う事が出来るなんて」

 レイゼロールもその顔に様々な感情を滲ませる。レイゼロールが長い長い時を費やしてまで蘇らせようとしていた存在が目の前にいる。レイゼロールの中に、レゼルニウスと暮らしていた時の記憶が鮮やかに蘇る。

「・・・・・・影人の言った通りだな」

「うん。僕が今こうしてここにいられるのは彼のおかげだ。彼が何も心配する事はないと背中を押して、いや突き落とすと言った方が正しいか。突き落としてくれたから、僕はフェルフィズと契約した。彼の味方になる事を条件に、現世に来る事が出来た」

 レゼルニウスは数日前の事を思い出す。レゼルニウスはフェルフィズから勧誘があった事を『空』であるシトュウに報告しに行った。そこにはシトュウと零無がいたが、レゼルニウスがフェルフィズの言葉を全てそのまま――フェルフィズが影人にも話を伝えてみろと言ったことも――伝えると、シトュウと零無は真界に影人を呼んだ。影人は内に零無の魂のカケラを宿す人間だ。ゆえに、真界には制限なく出入りする事が出来る。

 レゼルニウスと再会した影人は驚いた様子だったが、レゼルニウスの話を聞くとその顔を真剣なものに変えた。そして、レゼルニウスに「フェルフィズと契約を結べ」と言った。その答えに、フェルフィズも、そしてシトュウも驚いた顔を浮かべた。ただ1人、零無だけは笑っていたが。

「『せっかくレイゼロールに会えるチャンスがあるなら棒に振るな。お前1人が敵になったくらいで何も変わらない。俺たちが必ずフェルフィズに勝ってあいつの目的を食い止める。だから、お前はあいつに会ってやれ』。彼は、影人くんはそう言ってくれたよ。君を救ってくれた事といい、今回の事といい、彼には頭が上がらないよ」

「・・・・・・いかにもあいつが言いそうな言葉だ」

 レイゼロールがポツリとそう呟く。ぶっきらぼうなようで甘い。頼りのない雰囲気だが誰よりも頼りになる。帰城影人という人間は奇妙なギャップを有した人間だ。

「あいつから兄さんとまた会える、ただし敵になるということを聞かされた時は信じられなかった。・・・・・・だが、先ほど兄さんの懐かしい気配を感じた時、影人の言った言葉が真実なのだと確信した」

 影人はレゼルニウスが蘇り敵になるだろうという事をレイゼロールや一部の者たちに伝えた。だから、レイゼロールは驚きこそしているものの、狼狽えてはいないのだ。

「・・・・・・許してくれとは言わないよ。結局、僕は自分の欲望を優先して君たちの敵になってしまった者だ。彼の言葉があったとはいえ、それは変わらない」

「・・・・・・ふん。許すも許さないもない。どんな形であれ、また兄さんに会えた。我にとってはそれが全てだ」

「レール・・・・・・」

 はっきりとそう言い切ったレイゼロールに、レゼルニウスは少し驚いた顔になった。そして、ふっと笑った。

「ありがとう。こんな僕にそう言ってくれて。見た目もだけど、中身も本当に成長したね。うん。すっかり大人だ」

「・・・・・・兄さんが死んでから、我も随分と長い時を生きて来たからな。色々と変わるさ」

 レイゼロールは一旦そこで言葉を区切ると、真剣な顔でこう聞いた。

「兄さん、最後に1つ聞かせてくれ。兄さんが人間たちに殺された原因がフェルフィズだったというのは・・・・・・本当か?」

「・・・・・・うん。フェルフィズに確認したら、彼は頷いたよ」

「っ・・・・・・そうか」

 首肯したレゼルニウスを見たレイゼロールは、体を震わせギュッと拳を握った。影人を殺したと偽り自分を絶望させただけでなく、人間たちを唆しレゼルニウスをも殺させた。身を焦がすほどの怒りと激しい憎しみがレイゼロールの内に渦巻いた。

「・・・・・・奴には必ず報いを受けさせてやる」

「・・・・・・レール。復讐をするなとは言わないよ。ただ、負の感情に深く沈み過ぎないようにね。でなければ、その感情は君自身をも殺してしまうよ」

「分かっている。・・・・・・その事は身に染みて分かっているつもりだ」

 レゼルニウスの忠告にレイゼロールは深く頷いた。直近でレイゼロールが負の感情に完全に呑まれたのは、自分が影人を殺したと思った時だ。あの時の自分は世界を滅ぼしかけた。影人たちが止めてくれなければ、自分は取り返しのつかない事をするところだった。

「我はもう2度と自分を見失わない。我の闇は我だけのものだ。これからはちゃんと背負ってみせる」

「・・・・・・君はもう立派な闇の女神だな」

 レイゼロールは闇を司る女神。闇と親和性がある感情は負の感情だ。疎まれ、よくないとされる感情だが、理性ある生物からその感情を切り離す事は出来ない。そして、負の側面が結集した闇という概念も。自分の醜い部分を自覚し受け入れる。それらを悪とせずに受け入れて飼い慣らす。レイゼロールの姿勢は闇を司る神としては正しいものだった。

「さて、正直まだまだ話し足りないけど、そろそろやめないとマズい事になるからね。レール、君はこの場所の亀裂を安定させに来たんだよね?」

「ああ。だから亀裂の前から退いてくれ・・・・・・と言いたいところだが、そうはいかないのだろう。フェルフィズに言われてこの亀裂を守っているのが・・・・・・兄さんなのだろうからな」  

「うん。そうだ。今の僕は忌神と契約を結んだ忌神の手先。悲しいけど、全力で君を阻む者だ」

 レイゼロールとレゼルニウスのアイスブルーの瞳が交錯する。互いの瞳に映る色は悲哀か、それとも他の色か。

「・・・・・・ならば、戦うしかないな」

「そうだね。悲しいけど・・・・・・それが定めだ」

 レイゼロールとレゼルニウスの纏う雰囲気が変わる。レイゼロールはその身に身体能力を上昇させる闇を纏わせた。レゼルニウスもどういう効果の闇かは分からないが、その身に紫闇しあんを纏わせる。

 普通ならば、神はレイゼロールや『空』という特例を除き、地上世界で力を振る事は出来ない。だが、レゼルニウスは元々レイゼロールと同じ特別。そして、今は神だ。元々、冥界の神は現世に干渉する事は出来ない。ゆえに、冥界の神にはそもそも地上で力を振るえないという制約は発生しない。そのため、レゼルニウスは十二分に地上で神としての力を振るう事が出来るのだった。

「兄妹喧嘩といこうか。レールとするのは多分初めてだね」

「ふん、例え兄さんであろうと勝たせてもらうぞ」

「その意気だよ。じゃあ、始めようか」

 レイゼロールが目を細め、レゼルニウスも笑みを消す。

 そして、

「行くぞ、レゼルニウス」

「来い、レイゼロール」

 2人は敵としての互いの名を呼び合うと、次の瞬間に氷の地を蹴った。

 ――第1の亀裂、ロシア。闇の女神レイゼロールVS冥界の神レゼルニウス。戦闘開始。















「ふーん・・・・・・なるほど。君が敵か」

 場所は変わりイギリスの亀裂。こちらも日本とは違い昼間だ。とある山の中腹辺りにある大きな亀裂。その前にいた人の姿をしたモノを見つめながら、ゼノはそう呟いた。

「・・・・・・」

 亀裂を守るように立っていたのは、一見すると少女のようだった。プラチナホワイトの髪にスクール水着のような衣装。体に奔るライン。それはアオンゼウの器と全く同じ特徴だ。だが、アオンゼウの器と1つだけ違うのは顔にヘッドギア、正確にはバイザーのようなものが装着されている点だった。バイザーには青い目が1つボゥと灯っていた。

「イズじゃないね。だけど、イズに酷似してる・・・・・・さしずめ、イズを模した機械人形って感じかな」

「ふむ、なるほどー。機神の写し身ですか。いやはや、これは強力な相手ですねー」

 芝居がかかった仕草で困ったというふうに首を振ったのはクラウンだ。

「ふはははっ! 相手にとって不足なしよ! 最近体が鈍ってたから丁度いいわ! 『呪術師』の力を存分に見せてあげるわ!」

「私も頑張ります!」

 高笑いを上げたのは、光導姫ランキング第10位『呪術師』榊原真夏。そして、小さく両手を握ったのは光導姫ランキング第1位『聖女』ファレルナ・マリア・ミュルセールだ。

「はぁ、面倒くさい。定期的に世界の危機訪れ過ぎでしょ」

「・・・・・・同意だな」

 ため息を吐いたのは守護者ランキング第9位『弓者』ノエ・メルクーリ。同意したのは守護者ランキング第2位『傭兵』ハサン・アブエイン。イギリスの亀裂に集った実力者たちは、その6人であった。

「・・・・・・」

 イズの姿を模した機械人形がその青い単眼を6人に向ける。すると、人形は無言で右手を水平に伸ばした。次の瞬間、どこからか武装が出現し人形に装着される。その兵装もイズが纏う滅式兵装と酷似していた。

「早速戦いみたいだね。じゃ、一応よろしく頼むよ。ファレルナ、その他の光導姫と守護者」

「はい、ゼノさん。みんなで力を合わせましょう!」

「やったるわよピエロ! あんたの根性見せなさい!」

「道化に根性を求めますかー。ですが、頑張りましょう。呪術師と道化師、そして光と闇の共闘ショーの開幕ですー」

「面倒いけど、今回もやるしかないか」

「・・・・・・俺は傭兵だ。報酬さえあれば、どんな奴とだって組んで、どんな奴とでも戦ってやる」

 起動した人形に対し、ゼノ、ファレルナ、真夏、クラウン、ノエ、ハサンの6人も戦闘態勢を取る。

「・・・・・・!」

 戦闘の開始を告げたのは、人形が右腕の砲身を6人に向けた事だった。次の瞬間、砲身から破滅の光が放たれた。

 ――第2の亀裂、イギリス。『聖女』ファレルナ・マリア・ミュルセール、『呪術師』榊原真夏、『傭兵』ハサン・アブエイン、『弓者』ノエ・メルクーリ『破壊』のゼノ、『道化』のクラウンVS魔機神の写し身1号。戦闘開始。











「おおっ、なんか動き始めたぞ!?」

 第3の亀裂、南アフリカ。こちらも昼間。岩場にある大きな亀裂の前にいた機械人形が武装を纏ったのを見た、光導姫ランキング8位『閃獣』メティ・レガールは驚いたようにそう言った。

「ふむ。少女の姿をしたモノが重厚でスタイリッシュな武装を纏う・・・・・・うん、いいね。これもまた美だ」

 興味深そうにそう言ったのは、光導姫ランキング第7位『芸術家』ロゼ・ピュルセだ。

「あれが美しいですか。その感覚は理解に苦しみますね」

「・・・・・・恐らくは、一騎当千の力を持った絡繰。己も美は感じないな。むしろ、悍ましい」

 ロゼの言葉に反応したのはフェリートと殺花だ。2人は警戒感を全開にして、人形を見つめていた。

「僕はピュルセ嬢の感覚も分かるかな。見ようによっては一種の美術品だからね」

「・・・・・・そうだな。一流は審美眼を持つものだ。俺から見ても、奴には『強さ』という美を感じる」

 優雅な笑みを浮かべながらもその翡翠の瞳に鋭い色を持つのは、守護者ランキング第1位『守護者』プロト・ガード・アルセルト。右手に銃を持ち左手で軽く帽子を押さえたのは、守護者ランキング第7位『銃撃屋』エリア・マリーノだ。2人ともいつ戦いが始まってもいいように、体に緊張感を奔らせていた。

「・・・・・・!」

 機械人形が右腕の砲身を剣に変形させる。それが戦いを知らせる合図となった。

「おお、やるか!? よーし、行くぞ!」

「さて、描かせてもらおうかな君の本質を」

「では、僕たちの使命を果たそうか」

「使命ではなく契約だがな。一流として、今回も仕事はきっちりとするだけだ」

「足だけは引っ張らないようにお願いしますよ」

「・・・・・・参る」

 メティ、ロゼ、プロト、エリア、フェリート、殺花がそれぞれ構えた。

 ――第3の亀裂、南アフリカ。『芸術家』ロゼ・ピュルセ、『閃獣』メティ・レガール、『守護者』プロト・ガード・アルセルト、『銃撃屋』エリア・マリーノ、『万能』のフェリート、『殺影』の殺花VS魔機神の写し身2号。戦闘開始。











「おいおい、期待して来てみりゃ・・・・・・何だよ。こいつが敵か? どう見ても機械の人形じゃねえか」

 第4の亀裂、アルゼンチン。早朝。深い谷の近くにある大きな亀裂。明らかな落胆の声を漏らしたのは冥だった。

「まあまあ、落胆するのはまだ早いぜ冥くん。それにしても・・・・・・いや、眼福だな。機械少女が実際に武装しているのを3次元で見られるとは。いやー、実に2次元チックでいいね」

 満足そうな顔でそう言ったのは響斬だ。サブカルチャーに深い興味を持っている響斬ならではの感想だ。

「いやー、分かるぜ。いいよな少女が武装してるの。萌えるって感じだ」

「分かる分かる。ジャパニーズ萌えを感じるぜ。キュートだ」

 うんうんと頷いたのは守護者ランキング3位『侍』剱原刀時と、守護者ランキング第8位『狙撃手』ショット・アンバレル。

「・・・・・・敵に対して何を言っている。バカ者どもめ・・・・・・」

「でも、実際なんかグッとくるよ? なんかこう硬そうというか強そうというか」

 呆れ切ったように、光導姫ランキング第3位『提督』アイティレ・フィルガラルガが首を横に振った。対して首を傾げたのは光導姫ランキング第5位『鉄血』エルミナ・シュクレッセン。

「まあいいや。歯応えがなけりゃ一瞬でスクラップにして、日本の亀裂に行けばいいだけだしな。おら、戦るぜ」

「あんまり美少女を斬りたくはないんだけどね。だけどまあ、仕方ないか」

「ああ、戦いってのは非情だからな」

「じゃ、俺は適当に後方支援するんで」

「世界のためだ。その正義のためにお前を排除する」

「機械は硬そうだけど・・・・・・うん。頑張って殴る」

 冥が拳を構え、響斬は剣を抜く。刀時も響斬と同様に剣を抜き、ショットは後方に下がる。アイティレは両手の銃を機械人形に向け、エルミナはグッと拳を握った。

「・・・・・・!」

 戦意にあてられたかのように、機械人形の背に魔法陣が出現する。次の瞬間、そこから大量の剣が現れた。

 ――第4の亀裂、アルゼンチン。『提督』アイティレ・フィルガラルガ、『鉄血』エルミナ・シュクレッセン、『侍』剱原刀時、『狙撃手』ショット・アンバレル、『狂拳』の冥、『剣鬼』の響斬VS魔機神の写し身3号。戦闘開始。











「はあー・・・・・・最悪ですわ。何でよりにもよってあなたと共に戦わなければなりませんの」

 第5の亀裂、アメリカ。都会のど真ん中にある大きな亀裂。その場所で大きくため息を吐いたのは、光導姫ランキング6位『貴人』メリー・クアトルブだった。

「けっ、そりゃこっちのセリフだ。報酬さえなけりゃ、誰がお前と組むかよ」

 嫌そうな顔でメリーにそう言葉を返したのは、光導姫ランキング第9位『軍師』胡・菲。メリーと菲は互いの価値観が合わない、いわゆる犬猿の仲だった。

「ははっ、冥と殺花嬢みてえだ。光導姫にも仲の悪い者同士はいるもんなんだな」

「お黙りなさいゲス闇人。あなたと組むのも最悪なことですわ」

 陽気に笑ったゾルダートにメリーはギロリと厳しい視線を向けた。ゾルダートは「おお怖っ」とわざとらしく肩をすくめる。

「ただでさえゾルダートなんかと組まされて最悪なのに、光導姫まで面倒くさそうなんて・・・・・・終わってるわ・・・・・・」

 キベリアは絶望しきった様子で、死んだ魚のような目を浮かべていた。場の空気は完全に悪いものになっていた。

「・・・・・・なんか胃が痛くなってきた。はあー、帰りたい・・・・・・」

「・・・・・・どうでもいい事だ」

 左手で軽く腹をさすりながらそう言葉を漏らした、守護者ランキング5位『凍士』イヴァン・ビュルヴァジエンに、守護者ランキング6位『天虎』練・葬武は一言だけそう言葉を吐いた。

「・・・・・・まあいいですわ。世界の危機ですもの。例え、最悪な相手と組まなければならないとしてもやるしかないですわ。淑女の嗜み国際条約第37条。淑女はどんな事でもやり遂げる。やってやりますわよ!」

 メリーが剣と銃を構える。メリーの言葉を聞いたゾルダートはニヤリと笑った。

「おう。その意気だぜお嬢さん。傭兵やってりゃ、この前の敵が味方になったなんてしょっちゅうだ。さあて、じゃあ戦るかね。楽しい楽しい戦いをよ!」

「私らは正確には傭兵じゃないがな。・・・・・・だがまあ、やってる事は傭兵みたいなもんだ。いいぜ。割り切ってやってやる」

「あーもー・・・・・・! キレたわ。面倒くさい。やってやるわよ! もし酷い目にあったら、レイゼロールとシェルディアのロリババアを呪ってやる!」

「うわ、何か急にキレた・・・・・・本当、早く帰りたいから頑張ろ」

「機械相手からどれだけ鍛錬を積めるからは分からんが・・・・・・せいぜい糧にさせてもらう」

「・・・・・・!」

 ゾルダート、菲、キベリア、イヴァン、葬武もメリーと同じように戦意を燃やし、敵である人形を見つめる。人形も青い単眼をブゥンと強く輝かせ、武装を駆動させた。

 ――第5の亀裂、アメリカ。『貴人』メリー・クアトルブ、『軍師』胡・菲、『凍士』イヴァン・ビュルヴァジエン、『天虎』練・葬武、『強欲』のゾルダート、『魔女』のキベリアVS魔機神の写し身4号。戦闘開始。










「・・・・・・こんなもんか」

 そして第6の亀裂、日本。ダークレイと共に大量の機械人形を迎撃した影人は、地に倒れる人形の残骸をつまらなさそうにその金の瞳で見下ろしていた。

「・・・・・・ふん。雑魚がいくら来たところで無駄なのよ」

 ダークレイも影人と同じように倒した人形たちを見下す。城の中から人形が出てくる気配はない。取り敢えずは一旦これで終わりという事だろう。影人とダークレイからすれば、人形たちの迎撃は単純作業のようなもので、戦いですらなかった。

「さて、どうする闇導姫。このまま中に2人で突撃でもかけるか?」

「・・・・・・別にいいわよ。ただでさえ時間がないのに、応援がどれくらいで来るのかも分からないし。その代わり、あんた私の盾になりなさいよ」

「無茶苦茶だなおい・・・・・・だがまあ、承ったぜ」

「ならさっさと行くわよ。盾」

 影人とダークレイが城の入り口を目指し歩き始める。すると、後方からこんな声が聞こえてきた。

「――そこのお2人さん。ちょっと待ってくれるか?」

 それは男の声だった。影人とダークレイが振り返る。

「よう、頼りねえかもだが援軍に来たぜ。あんたはすぐさまの援軍は拒否したみてえだが、人数の振り分け的に余っちまってな。ま、そういうわけでよろしく頼むぜ」

「微力ながら力になるよ。スプリガン」

「はーい影くん♪ 助けに来たよー♪」

「光導姫『巫女』、参りました。私も微力ながらお力に」

 現れたのは4人の男女――守護者ランキング第4位『死神』案山子野壮司と守護者ランキング第10位『騎士』香乃宮光司。光導姫ランキング第2位『歌姫』ソニア・テレフレア、光導姫ランキング第4位『巫女』連華寺風音だった。

 そして、それだけでなく――

「来たよ帰城くん!」

「ふふん、主役は遅れて来るものよね」

「全く、戦いになったら僕を呼べって言ったのに・・・・・・呼ばないから僕の方から来てやったよ。感謝しろよ、妖精さん」

 光導姫レッドシャイン、朝宮陽華。光導姫ブルーシャイン、月下明夜。光導姫アカツキ、早川暁理。3人の少女もそこにはいた。


 ――6つの亀裂に、役者は着実に揃いつつあった。

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