第397話 幕開、忌神との決戦
「・・・・・・そういうわけだ。お前たちにはこれから亀裂に向かってもらう。亀裂には恐らく何らかの罠が仕掛けられている、もしくは敵がいる可能性が高い。各自、光導姫と守護者と協力してその亀裂を安定させろ」
辺りが暗闇に包まれた場所。自分の拠点であるその場所で、レイゼロールは集めた9人の男女――闇人たちに対しそう告げた。
「ん、分かった」
「御意に」
その言葉に『十闇』第1の闇『破壊』のゼノと、第2の闇『万能』のフェリートが了承の意を示す。
「ふん、面倒ね。何で光導姫と守護者と協力なんて・・・・・・」
「まあまあ、そう言いなさんなよ。世界がヤバいんだ。ここは互いに協力しないとどうにもならないぜ。まあ、1回世界を滅ぼしかけた俺らが言う言葉じゃねえがよ」
文句を呟く第3の闇『闇導姫』のダークレイに、第5の闇『強欲』のゾルダートがどこか薄っぺらい言葉を送った。
「やっと戦いかよ。待ちくたびれたぜ。だが、大将首じゃねえのは面白くねえな。せっかくなら、フェルフィズとイズって奴と戦いたかったぜ」
「じゃあ、出来るだけ早く亀裂を安定させて日本の亀裂に行けばいいよ。正直、僕もちょっと戦ってみたいしね。頑張ろう」
バチンッと拳を掌に打ち付けながら好戦的な笑みを浮かべたのは、第6の闇『狂拳』の冥だ。冥に釣られるように小さく笑ったのは、第7の闇『剣鬼』の響斬。柔和な見た目をしているが、漏れ出た闘気には修羅の色があった。
「はぁー、もう・・・・・・シェルディア様に言われた魔法がどうにか形になったと思ったら、決戦なんて・・・・・・嫌だわ。布団に入って寝たい」
「・・・・・・現実逃避をしている場合ではございませんよ、キベリア殿。己たちは死する覚悟で戦わねばならないのですから」
ため息を吐き軽く頭を抱えたのは第8の闇『魔女』のキベリア。キベリアにそう注意したのは、第9の闇『殺影』の殺花だ。
「了解しましたー。今回も皆さんでハッピーエンドを目指しましょう。えいえいおーというやつですー」
最後に戯けたように手を挙げたのは第10の闇『道化』のクラウン。全員の言葉を聞いたレイゼロールはこんな言葉を放った。
「では、各自2人体制を組め。現地に送る役目は我が引き受ける。1人余る計算にはなるが・・・・・・その者は我に言え」
「私よ。こいつらの誰かと組むのなんてごめんだわ」
すぐさま手を挙げたのはダークレイだった。レイゼロールはダークレイの方に顔を向けた。
「お前か・・・・・・まあいいだろう。他の者も組み次第我に言え。亀裂に連れて行く」
「・・・・・・レイゼロール様、口を挟んでしまい申し訳ありませんが・・・・・・先ほどのお話では御身はお1人で亀裂に向かわれるとの事。レイゼロール様のお力は充分に承知していますが、相手は狡猾を絵に描いたような相手です。僭越ながら、誰か護衛をつけるべきかと」
「・・・・・・己もフェリート殿のお言葉通りかと」
フェリートがそう進言する。フェリートの言葉が尤もだと言わんばかりに、フェリートと同じくらいに忠誠心が高い殺花もそう言った。
「・・・・・・お前たちの気持ちを蔑ろにするつもりはない。だが、それは無理だ。あそこには、あの亀裂には我が1人で行かねばならぬ理由があるからな」
「・・・・・・そうでございますか。執事の身でありながら、出過ぎた真似を。失礼しました」
否の答えを述べたレイゼロールにフェリートが頭を下げる。長年レイゼロールに仕えてきたフェリートは、レイゼロールの言葉から並々ならぬものを感じ取った。
「好きに組めって言っても、出来るだけ亀裂に向かう力が均衡な方がいいよね。じゃあ、クラウン。俺と組もうか」
「おや、まさかゼノさんからお誘いいただけるとはー。はい、よろしくお願いしますー」
「そういう事でしたら、殺花さん。どうですか?」
「はい。組ませていただきます。よろしく頼みます、フェリート殿」
「響斬、組もうぜ」
「うん、いいよ」
ゼノとクラウン、フェリートと殺花、冥と響斬がチームを組む。
「じゃ、必然的に俺と『魔女』さんか。よろしく頼むぜ」
「は!? 嫌よ嫌! 何で私がよりによってあんたと組まなきゃならないのよ!」
「おおう、随分と嫌われたもんだな。でも仕方ねえよ」
「ううっ、最悪・・・・・・最近の私って何でこんなに損な役ばっかり・・・・・・」
こうして、ゾルダートとキベリアの最後のチームも決まった。
「決まったようだな。では、まずゼノとクラウンから送るぞ」
レイゼロールはそう言うと、まずはイギリスの亀裂の座標を意識し、2人と共に転移を開始した。そして、2人を現地に送った後再び拠点に戻り、次はフェリートと殺花を南アフリカの亀裂に、その要領で、冥と響斬をアルゼンチンの亀裂に、ゾルダートとキベリアをアメリカの亀裂に送った。
「・・・・・・で、私はどうするのよ。あんた、亀裂には自分1人で向かうんでしょ」
残ったダークレイがレイゼロールにそう聞いた。
「ああ。お前には我とは違う亀裂に向かってもらう。お前は奴が、スプリガンがいる日本の亀裂に行け。・・・・・・あいつが無茶をしないか見張っていてくれ」
「日本の亀裂・・・・・・忌神と機神がいるって所? 別にいいけど、そんなものが理由? 倒してこいの一言でも言ったらどうなの」
「お前の力を低くみているわけではないが、奴らはお前1人で倒せる敵ではない。そして、それは影人・・・・・・スプリガンにも言える事だ。だから、他の亀裂が安定し戦力が整うまでは、奴らに挑むのは得策ではない。我が言いたいのはそういうことだ」
不満げな顔のダークレイにレイゼロールはそう説明した。レイゼロールはまだ直接イズと対峙した事はないが、話を聞く限り尋常ではない存在だ。
「・・・・・・ふん。まあ、分かったわよ。あの男のお目付け役っていうのは気に入らないけど」
「・・・・・・すまんが頼むぞ」
レイゼロールがダークレイにそう言った。ダークレイは最後にこう呟いた。
「・・・・・・本当に、あの男が大事なのね」
「・・・・・・ああ。もう2度と失いたくないほどにな」
ダークレイに対し、レイゼロールは素直に自分の気持ちを述べた。
「ふん・・・・・・ムカつくわね」
ダークレイのその感想が周囲の闇に溶けていく。そして、レイゼロールとダークレイはその場から消えた。
「――そろそろ、彼らが直接的に対応する頃ですかね」
どこかの広い室内。フェルフィズはその部屋の中心部で佇んでいた。フェルフィズの呟きに、少し離れた場所で待機していたイズが小さく頷いた。
「はい。端末を通して、各亀裂の周囲に光と闇の気配を感じます。光導姫と守護者、そして闇人たちと思われます」
「そうですか。長年争っていた光と闇が手を組み、世界を守るために戦う・・・・・・うーん、お涙頂戴。感動的な物語ですねえ」
フェルフィズはわざとらしい仕草で両手を掲げた。そして、すぐさま両手を下ろす。
「ですが、現実は感動的な物語のようにはいきません。ハッピーエンドとはいきませんよ。何でもかんでもハッピーエンドという展開が私は1番嫌いですからね」
「・・・・・・製作者。この亀裂の近くにも闇の気配が生じました」
「ふむ。影人くんは闇の力を扱いますが、気配隠蔽の力を持っていますからね。なら、ここに現れたのは闇人ですかね」
フェルフィズは適当にそう予想をつけた。たかが闇人如きでは役者不足だが、来たからには丁重に迎えるべきだろう。
「っ・・・・・・製作者。災厄の残滓がすぐ近くに移動して来ました。間違いなく・・・・・・」
「スプリガン。来ましたか彼が。くくっ、なら全てのピースは揃いましたね。せっかくです。一応宣言しておきましょうか」
フェルフィズは口元をニィと歪ませると、虚空に向かってこう言葉を放った。
「勝つのは私たちか、あなた達か・・・・・・これが本当に最後の戦いです。さあ、未来と滅亡を懸けた・・・・・・狂宴を始めましょう!」
「・・・・・・何だこいつは」
月が照らす夜の中、日本の亀裂にやって来た影人は正面にある建築物を見てそう呟いた。
町外れの寂れた景色の中、場所には似合わない大きな建物が聳え立っている。闇夜に紛れるような黒を基調としたその建築物は、ギリシャ風の神殿に西洋風の城や日本風の城が混ざったような、一目で異質と分かる建物だった。大きさや高さも、シスが住んでいた城よりも一際大きい。俗な言葉で形容するならば、それはラスボスのダンジョンだった。
『悪趣味な建物だなおい』
イヴもそんな感想を漏らす。影人は少しの間、どこか凶々しさを感じさせるその建物を見つめ続けた。
「・・・・・・RPGは嫌いじゃないが、時間も限られてるんだ。せっかくのラストダンジョンだろうが・・・・・・ぶっ壊してやる」
わざわざこの中に入ってフェルフィズとイズの所まで行く必要はない。この建物を壊してフェルフィズとイズ、そして恐らく建物の中にあるであろう亀裂を引き摺り出す。影人は即座にそう考えると、建物を全壊させるべく闇の力を練り始めた。
「・・・・・・やめなさい、そこのバカ。全く、あいつの言った通りね」
すると、影人の背後からそんな声が聞こえてきた。気配で既にその人物が背後にいると分かっていた影人は、振り返り、チラリとスプリガンの金の瞳を声の主に向けた。
「・・・・・・意外だな。お前がここに来るとは考えてなかったぜ。・・・・・・ダークレイ」
「ふん、私も来たくて来たわけじゃないわ」
ダークレイがつまらなさそうに鼻を鳴らす。影人は練り始めた闇の力を1度霧散させた。
「そうかよ。しかし、いきなりバカとはご挨拶だな。俺はただ、効率的な方法を選択しようとしただけだ」
「物は言いようね。でも、あんたが野蛮でバカな事には変わりはないわ」
「はっ、相変わらずキツイな。で、何の用だ。わざわざ俺に小言を言いにきたのか?」
「そんなわけないでしょ。本当、色々とセンスがないわあんた」
呆れ切ったように、または少し苛ついたように、ダークレイがトントンと右の人差し指で、組んでいた腕を叩く。ダークレイは紫がかった黒の瞳で影人を見つめ返す。
「癪だけど、非常に癪だけど、レイゼロールの奴に頼まれたのよ。あんたが無茶をしないか見張っておけってね。敵はあんた1人じゃどうにもならない相手なんでしょ。だけど、あんたは早速この建物を壊して1人で、最短で最終決戦を始めようとしてた。これをバカと言わずして何と言うのよ」
「・・・・・・別にどうにもならないわけじゃねえよ。ただ、倒せないってだけだ」
「それがどうにもならないって事でしょ。敵を倒す方法もないくせに戦いを挑むなんてバカのやる事よ。せめて、倒せる方法を思いつく、倒せる方法を持った仲間が来るまで待ちなさい。まあ、あんたはバカだから分からなかったんでしょうけど」
「・・・・・・さっきからバカバカうるせえな。分かったよ。ある程度他の奴らが来るまでゆっくりしてりゃいいんだろ。ったく、俺は別にイズの奴を倒すために戦うわけじゃねえんだがな・・・・・・」
影人がため息を吐きながら軽く頭を掻く。倒すために戦うわけではないという影人の言葉を聞いたダークレイは、不快げに顔を歪ませた。
「フェルフィズの大鎌の意思を救うってやつ? はっ、甘いわね。甘すぎて吐き気がするわ」
「お前の言葉は分かるぜ。だが・・・・・・俺はもう決めたんだよ。決めたならやり遂げるだけだ」
「・・・・・・ふん。せいぜい、その甘さに足元を掬われない事ね」
「何だ。心配してくれるのか?」
「冗談にしてはタチが悪いわよ。次言ったらあんたの顔面を砕くわ」
「マジ顔で言うなよ・・・・・・」
影人が少し恐怖したように言葉を返す。すると、影人の中にソレイユの声が響いた。
『影人!』
「どうしたソレイユ。何かあったか?」
影人は肉声に出してそう聞き返した。いきなりそんな事を言い始めた影人に、ダークレイは「ソレイユ?」と訝しげな顔を浮かべた。
『はい。今、ラルバと共に光導姫や守護者を各亀裂に送ったのですが、ほんのつい先ほど各亀裂、そして、世界各地で動きがありました』
「・・・・・・やっぱり何か仕込んでやがったか」
即座にフェルフィズの事を思い浮かべながら、影人は顔を真剣なものに変えた。
『はい。まず、あなたのいる日本の亀裂と、レールのいるロシアの亀裂を除いた、イギリス、アメリカ、南アフリカ、アルゼンチンの亀裂についてですが、亀裂を守るように、それぞれ1体の人形が現れました。その姿は、あなたが言っていたイズの姿に酷似しています』
「なっ・・・・・・マジかよ。あの野郎、まさかイズの量産機でも作りやがったのか・・・・・・」
『それは分かりません。ですが、現在光導姫と守護者、そして闇人たちが協力して戦いを開始しました』
「そうか・・・・・・まあ、あいつらが協力するんだ。そう簡単に負けはしねえだろうが・・・・・・で、世界各地の動きは?」
『はい。世界各地で大量の機械人形が突如として出現し暴れ始めました。こちらの人形は亀裂の周囲に現れたタイプとは違い、簡素なタイプです』
「いつかのレイゼロールが使った方法だな。戦力を分散させるのと混乱させるのが目的か」
『恐らくは。なので、前回と同じように、それを収めるのは他の光導姫と守護者にお願いしました』
「分かった。また何かあったら情報を頼む」
『もちろんです。影人、あなたも無茶だけはしないでくださいね』
「ああ」
『では』
ソレイユとの念話が終了する。すると、ダークレイが影人にこう声を掛けてきた。
「あんた、ソレイユと話してたの?」
「ああ。どうやら、状況は一筋縄じゃいかないようだぜ」
影人は今ソレイユから聞いた話をダークレイに話した。
「・・・・・・用意周到ね。ここに戦力が集まるのは先のことになりそうね」
「そうだな。仕方ねえ。しばらくの間、様子を見て――」
影人が帽子を押さえる。すると、建造物の門が突如として開いた。そして、
「・・・・・・」
中から大量の機械人形が現れた。それは向こう側の世界でイズが呼び出したものと全く同じだった。機械人形は影人たちの姿を確認すると、どこからか武器を取り出し影人たちの方に襲い掛かってきた。
「ちっ、流石に気づかれてたか。おい、いつかの時みたいに守ってやろうか?」
「私、言ったわよね。次にタチの悪いこと言ったらあんたの顔面砕くって。あいつらの前にあんたを砕いてやるわ」
「冗談だから許せよ。それじゃあまあ、準備運動がてらの共闘といくか。なあ、闇導姫さんよ」
「ふん、足を引っ張ったら殺すわよ」
ダークレイは影人を軽く睨むと、自身の闇の力でかつての光導姫としての姿を再現し、闇導姫へと変身した。
「行くわよ、怪人」
「名前の意味的には妖精なんだがな。まあ、そっちも気に入ってるからいいか」
ダークレイが拳を握り、スプリガンが小さく笑う。そして、2つの闇は襲い来る機械人形の群れを迎撃した。
「・・・・・・来たね」
ロシアのとある氷原。場所が西側のためか、こちらはまだ日本とは違い日が出ていた。氷原にある大きな亀裂の前に佇んでいた黒いフードを被った人物は、ポツリとそう呟いた。
「・・・・・・」
氷原に現れたのは美しい白髪にアイスブルーの瞳が特徴的で、西洋風の喪服を纏った闇の女神、レイゼロールだった。レイゼロールは黒いフードで顔を隠した人物をジッと見つめた。
「・・・・・・わざわざ分かりやすいように呼び出してくれた事に感謝する」
「いや、感謝を言うのはこちらの方だよ。わざわざ1人で来てくれてありがとう」
レイゼロールの言葉に黒フードの人物は優しげな声でそう言った。怪しい見た目だが、その人物――声からするに男――は柔らかい印象だった。
「・・・・・・色々と、本当に色々と言いたい事はあるが、まずはしっかり顔を見せてほしい」
「ああ、そうだね。ごめん。気が回らなかったよ。どうやら、僕は随分と浮き足立っていたみたいだ。今取るね」
男は軽い調子でフードを取った。現れるのはレイゼロールと同じ美しい白髪。そして、同じくアイスブルーの瞳。整った中性的な顔を喜色に染めたその男は優しい口調でレイゼロールの名を呼んだ。
「久しぶりだね。僕の愛しい妹、レイゼロール」
「・・・・・・そうだな。本当に・・・・・・本当に久しぶりだ。・・・・・・兄さん。いや、我が兄レゼルニウス」
そして、レイゼロールもその男――自身の兄であるレゼルニウスの名を呼んだ。
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