第381話 異世界での決戦(2)

「ふはははっ! さて、楽しませてもらうとするか!」

「最近は多対1のような状況が多いが・・・・・・それだけ敵が強力だという事。不満がないと言えば嘘になるが全力で行かせてもらう」

 人竜形態になったゼルザディルムとロドルレイニはフェルフィズとイズに狙いを定めると、力強く地を蹴った。そして、一瞬にして距離を詰めるとゼルザディルムはフェルフィズに拳を、ロドルレイニはイズに向かって蹴りを放った。

「迎撃」

 イズは当然の如く2竜の神速の速度に対応し、ゼルザディルムに対しては再び機械の剣を召喚し、その剣でゼルザディルムの腕を切り落とした。ロドルレイニに対しては、左腕に装着されていた機械を流変させ光刃に変えると、それで以てロドルレイニの足を切り落とした。

「ほう! 我らの体を難なく切り裂くか」

「やりますね。だが・・・・・・」

 ゼルザディルムとロドルレイニは竜族の超再生で一瞬にして切り落とされた部位を元通りにすると、凄まじい連撃を繰り出した。

「迎撃を続行――」

 イズが連撃に対応しようとする。だがその時、イズに赤い雷と風の刃が迫った。対応出来ないと瞬時に判断したイズは全方位に障壁を展開した。

「むっ、硬いな。それと・・・・・・」

「ハバラナスと賢王ですか」

 攻撃を障壁に阻まれたゼルザディルムとロドルレイニがバックステップで距離を取り、赤い雷と風の刃を放った者たちに目を向ける。ロドルレイニの言葉通り、そこには人竜形態のハバラナスとレクナルの姿があった。

「ゼルザディルム様、ロドルレイニ様。あなた方とこうして共に戦える日が来ようとは・・・・・・このハバラナス、全力で助力させていただきます」

「魔機神・・・・・・その少女の姿をした者にほとんどの攻撃は効かん。いくら貴様たちといえどもな。情報を共有する。一旦、こちらに合流しろゼルザディルム、ロドルレイニ」

「ふっ、嬉しい事を言ってくれるなハバラナス。我もお前と共に戦えて嬉しいぞ」

「・・・・・・賢王がそう言うのならばそうなのでしょう。分かりました」

 ゼルザディルムとロドルレイニは、レクナルとハバラナスがいる方に飛んだ。

「攻撃を再開――」

 ゼルザディルムとロドルレイニが離れたの確認したイズが全方位に向けて攻撃を行おうとする。しかし、

『炎よ、水よ、雷よ、風よ、地よ。猛る暴威となりて我が敵を討て』

「星よ、私の敵に無数に降り注ぎなさい」

「ふん・・・・・・我が血よ。槍となり穿て」

 へシュナとシェルディアとシスがイズとフェルフィズに対して攻撃を行った。へシュナは5属性の奔流を放ち、シェルディアは再び星を落とし、シスは自身を自傷し血の槍を数百本放った。

「っ・・・・・・障壁、展開」

 フェルフィズを守らなければならないという都合上、イズはまたも障壁を展開した。結果、全ての攻撃はまたも障壁に阻まれる。

「つまらないわね。さっきからこれの繰り返し。というか、あの障壁は何なの? 普通はこれだけの攻撃ならとっくに壊せているはずよ」

「あの障壁も概念を無力化する力が備わっているのだ。しかも、面倒極まりない事に超速の再生持ちだ。アオンゼウの器と同様にな」

「アオンゼウの器と同様・・・・・・? それは、あの障壁もアオンゼウの体も絶対に不滅という事なの?」

 シスの答えにシェルディアは不可解げな顔を浮かべた。シェルディアの問いに答えたのは、シスではなくへシュナだった。

『障壁に関して言えば不滅というわけではありません。過去に私たちがアオンゼウと戦った時は、障壁が展開される前にアオンゼウの懐に飛び込むといった対処法を取りました。つまり、障壁はアイデア次第で対処可能です。ですが・・・・・・アオンゼウの器は現在のところ不滅と言わざるを得ません。私たちはどのような方法でも、器を滅する事は出来なかった』

「ふん、前に説明した時に言っただろ。アオンゼウの体だけはどうしても消し去る事が出来なかったとな。奴の意識は概念無力化の力も再生の力もなかった。ゆえに、俺様は奴の意識だけには死を与える事が出来た。だが、器は別だ。奴の器には概念無力化の力と超再生の力が備わっている。その2つが組み合わさっている事によって、奴の器は不滅の存在になっている。死を与える事が出来ない。・・・・・・本当に忌々しい事よ」

 へシュナに続きシスが不機嫌そうに顔を歪めそう言った。ちなみに、シェルディアたちが話をしている間、レクナルの指示の元にゼルザディルム、ロドルレイニ、ハバラナスの3竜がフェルフィズとイズに攻撃を仕掛けていた。

 それはシェルディアがシスやへシュナからアオンゼウの情報を聞くための時間を作るためだった。同時に、レクナルはゼルザディルムとロドルレイニにアオンゼウの情報を話している。全体の状況を理解し、今必要であろう手を打つ。賢王の名は伊達ではなかった。

「? 色々と腑に落ちないのだけれど・・・・・・器の概念無力化の力に死の概念は弾かれなかったの? あなたが精神面だけに死を与える方法を会得しているのならば分かるけど、どうせ使ったのは真祖の禁呪でしょ。それに、さっきから引っ掛かっていたけれど、アオンゼウの攻撃が概念を無力化する力を有しているのなら、どうして私たちは『死なない』の? 不死も概念でしょう」

 シェルディアが先ほどシスに聞こうとしていた疑問を交え、更なる疑問をぶつける。シスは少し長めの質問に面倒くさそうな顔を浮かべた。

「長い。へシュナに聞け。・・・・・・と言いたいところだが、いいだろう。寛大な俺様が答えをくれてやる。まず後者の答えだが、奴の概念無力化の力は『死』の概念だけは無力化出来ない。俺たちが死なないのはそれが理由だ」

「はあ? なら、どうしてアオンゼウの体を滅する事が出来なかったのよ」

 遂にシェルディアが意味が分からないといった顔になる。シスは「それを今から説明してやろうと思ったのだ。急かすな愚図」と再び不機嫌そうな顔になった。

「言っただろう。奴の器には概念無力化の力と超再生が備わっている。この2つが組み合わさっている事が問題なのだ。そもそも、奴の体は生命の鼓動を持たぬ機械。それは死が存在しないという概念だ。死は生命ある者に訪れる道理。そのために、アオンゼウの体に対してだけは、。それに加えて超再生だ。奴の体は、。ゆえに、禁呪でもどのような攻撃でも奴の器の破壊は叶わない」

「・・・・・・何だか頭が痛くなるような話ね」

「ふん、そこだけは同意してやる。俺様も最初賢王から説明を聞いた時は煩わしく思ったからな。そして先ほどの前者の答えだが、当然奴の体に禁呪は弾かれた。だから、俺様たちは奴の意識だけを狙って死を与えたのだ。それが俺様たちがアオンゼウを倒した方法だ」

「意識だけを狙って・・・・・・? どういう事?」

「見ていれば分かる。どうせ、賢王が前と同じ仕込みをするはずだ。俺様たちが動くのはその時だ」

 シスはジッとそのダークレッドの瞳でフェルフィズとイズを見つめた。その目は機を窺う目であった。











「そう言えば、君『終焉』は使わないの? 『世界』は今シェルディアが顕現してるし、前回の事もあるから使わないのは分かるけど」

 ゼノが隣の影人にそう質問する。影人はゼノの質問に対しこう答えた。

「・・・・・・『終焉』を使うには味方の数が多すぎる。あれは味方だろうが何だろうが、問答無用で死を与えるからな。例え仮死に設定していても、しばらくは戦闘に参加出来なくなるからな」

「ふーん・・・・・・ま、そうだね。君の言う事は分かったよ」

 影人の言い分にゼノが理解を示す。すると、近くにいたフェリートがこんな事を言ってきた。

「今は私たちは何もしない方がいいでしょうね。あの耳が長い方・・・・・・確か『真弓の賢王』レクナルでしたか。彼が何かを狙っていますから」

「ああ。1度アオンゼウを倒した奴が狙ってる事だ。なら、俺たちは今はけんの姿勢を保つ方がいい」

 フェリートの言葉に影人が頷く。影人たちが先ほどからほとんどフェルフィズとイズを攻撃していないのは、それが理由だった。

(・・・・・・あの者たち、私が何かを仕掛けようとしている事に気づいているな。だから私の邪魔にならないようにと観察の姿勢に徹している。優秀だな)

 レクナルはチラリと視線を影人たちの方に向けた。シスやへシュナ、その近くにいるシェルディアが動かないのは理解できる。シスやへシュナも前にアオンゼウを倒した時にレクナルと共に戦った。ゆえに、レクナルが倒すための準備をしていると分かっている。シェルディアは前回のアオンゼウ戦にはいなかったが、シスから何か聞いているはずだ。

 だが、影人たちは今日初めてレクナルと共に戦う。全くの他人だ。だというのに、レクナルの機微を察している。それは優秀な眼を持っている、優秀な戦士であるという証明だ。

「ならば、気兼ねなく動けるというものだ・・・・・・ハバラナス、ゼルザディルム、ロドルレイニ、男の方を狙い続けて波状攻撃だ」

「レクナル! ゼルザディルム様とロドルレイニ様に対して命令をするな!」

「よいよい。賢王の言葉なら従う価値がある」

「私たちを使うのです。間違えれば、覚えておきなさい賢王」

「ふん、誰に言っている」

 ハバラナス、ゼルザディルム、ロドルレイニはそれぞれそう反応しながらも、レクナルの言う通りフェルフィズに向かって波状攻撃を仕掛けた。

「障壁展開。製作者を守ります」

 イズは障壁を展開し、3竜の波状攻撃を凌いだ。障壁が展開されても3竜は嵐のような攻撃を行い続ける。結果として、イズとフェルフィズはその場に固定された。

「分かってはいましたが・・・・・・やはり私が足手纏いですね。迷惑をかけますね、イズ」

「問題ありません。この体の機能ならば、およそ戦力外の製作者でも庇いながら十分に戦えます」

「戦力外・・・・・・ははっ、はっきり言いますね」

 イズにそう言われたフェルフィズは苦笑を浮かべた。確かに、この面子の中ではフェルフィズは間違いなく戦力外だ。

「そうだ。そのままその場に固定し続けろ」

 レクナルは弓に魔力を込めた矢をつがえた。そして、矢継ぎ早に矢を放った。放たれた矢はバラバラに障壁の周囲の地面に刺さった。

「っ?」

 その光景を障壁内から見ていたフェルフィズが訝しげな顔になる。すると、レクナルはこう言葉を唱え始めた。

「矢よ、方陣を描き真実を顕せ。魔なる機神の内に潜むモノよ。貴様という意識を曝け出してやろう」

 レクナルの言葉が起動のキーだったのか、地面に刺さった矢たちが緑の光を放ち始めた。光はやがて地面を奔り、イズとフェルフィズを取り囲むように方陣を描き始めた。

「っ、体に異常を確認。意識が・・・・・・」

 イズが体に違和感のようなものを覚える。すると、イズの体から淡い光のようなものが立ち昇った。それらはやがてイズの胸の前に集まり、1つの小さな塊となった。

「お前の意識を表層に出現させた。貴様ら、準備は整ったぞ」

 レクナルがシスたちの方に顔を向ける。レクナルの言葉を聞いたシスは「ふん、やっとか」と待ちくたびれた様子でそう言った。

「仕掛けるぞ。シェルディア、精霊王。精霊王は前回と同じ役割だ。シェルディア、お前は禁呪を用意しておけ。奴の具現化した意識、あの淡い光に死を打ち込めばアオンゼウの中に入っている意識は消せる。それで俺たちの勝ちだ」

「命令しないで。気分が悪くなるわ。だけど、仕方ないわね」

『分かりました。全ては生きとし生けるモノのために』

 シェルディアとへシュナがシスにそれぞれ言葉を返す。そして、シスは離れた場所にいる影人たちに対しても命令を飛ばす。

「影人、お前たちも仕掛けろ。勝利条件は奴の胸の前の光に死を与える事だ。トドメは俺様かシェルディアが刺す。お前たちはあの障壁を壊せ」

「壊せって・・・・・・あの障壁、さっきから何やっても壊れてねえぞ。ちゃんと壊れるんだろうなアレ」

「知らん。前回は展開される前に勝負をつけたからな。任せたぞ」

「無茶苦茶だなおい・・・・だが、分かったよ・・・・!」

 影人はそう答えると地を蹴った。影人に続くように、ゼノとフェリートも地を蹴る。

「一応、壊すのは得意なんだ。壊してみせるよ、『破壊』の名に懸けてね」

「やってみせますよ。私は執事ですからね・・・・!」

 ゼノは全てを喰らう闇を解放し、フェリートも自身の肉体を最大限に強化する「五重奏」を使用する。

「イズ、今はまだ障壁を解いてはいけませんよ」

「了解しました製作者」

 フェルフィズの言葉にイズが首を縦に振る。そして、影人たちが障壁へと肉薄する。

「我が足よ、全てを蹴り砕け!」

「壊れろ・・・・・・!」

「ふっ・・・・・・!」

 影人が一撃を最大限まで強化した闇を纏わせた蹴りを、ゼノが極限の『破壊』の闇の拳を、フェリートが『破壊』を纏わせた手刀を放つ。その攻撃に合わせるように、

「合わせ技と行くかッ!」

「はっ!」

「砕けなさい」

 ゼルザディルムが炎を纏わせた拳を、ハバラナスが赤い雷を纏わせた拳を、ロドルレイニが氷を纏わせた蹴りを放つ。

『全ての者に精霊の加護を』

 へシュナは攻撃に参加する事なく、攻撃を行なっている者たちを援助した。へシュナがそう呟くと、影人、ゼノ、フェリートには薄い闇が、ゼルザディルム、ハバラナス、へシュナに淡い光が纏われた。それは闇の精霊と光の精霊が力を貸している証拠。その効力は言ってしまえば全体的な能力の大幅な底上げだった。

 そして、6人の攻撃が同時に障壁に激突する。その威力は凄まじいもので、衝撃だけで尋常ならざる暴風が吹き荒れた。余りの威力に、概念無力化と超再生の力を持つ絶対の盾である障壁が軋む。

「届きやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 影人が拳に力を込め続けそう叫ぶ。他の者たちも自身の最大限の力を一撃に込め続ける。その結果、6人の一撃の威力が超再生の速度を上回り――


 障壁は砕け散った。


「なっ・・・・・・」

 その光景を見たフェルフィズが驚いた顔を浮かべる。障壁が砕けた瞬間、シスとシェルディアが動いた。

「上出来だ貴様ら!」

「次は私たちの番ね」

 シスとシェルディアは右手に禁呪を纏わせた。禁呪を使うだけならば別に通常の形態でも使える。実際、前回のアオンゼウ戦ではシスは通常形態で禁呪を使用した。シスとシェルディアは一瞬でイズの前に移動すると、イズの胸部の前にあるイズの表層化した意識に手を伸ばした。

 これで決着。そう思われた瞬間、

「なんてね」

 フェルフィズがニヤリと笑った。すると次の瞬間、フェルフィズとイズの姿が消えた。結果、シスとシェルディアの禁呪は空を切った。

「っ!?」

 影人が思わず驚いた顔になる。他の者たちも急にフェルフィズとイズが消えた事に影人と同じような顔を浮かべる。一瞬、ほんの一瞬生まれた隙。それをフェルフィズは見逃さなかった。

「イズ、あなたの本体を使いなさい」

「了解。まずはこの空間を切り裂きます」

 2人はイズの短距離間転移で上空に移動していた。イズの翼に捕まりながらフェルフィズが指示をする。イズは異空間に仕舞っていた自身の本体、「フェルフィズの大鎌」を取り出した。

 既に、「繋ぎ合わせの道紐」の効果でフェルフィズとイズの間には見えない経路、繋がりができている。イズはその繋がりから、「フェルフィズの大鎌」の力を振るうのに必要な生命力をを供給した。つまりは、フェルフィズの無限の生命力を。意識するのは『世界』に注ぎ込まれる力の流れ。イズはそれを意識し大鎌を振るう。結果、シェルディアの『世界』は解除された。同時に、シェルディアの『世界』の住人であるゼルザディルムとロドルレイニの姿がフッと掻き消える。

「っ、これは・・・・・・」

 自身の『世界』が解除された事にシェルディアがハッとした顔になる。

「空間認識能力拡大。ターゲット同時捕捉完了」

 イズはアオンゼウの体の機能を使い、眼下の者たちを一斉に認識する。下準備は終わった。イズは再び大鎌に生命力を流し込んだ。

『っ、上です!』

 影人たちから離れた場所にいたへシュナが、影人たちの上空にいたフェルフィズとイズに気がつく。へシュナの忠告で影人たちが顔を空に向ける。

(ヤバい。何か、何かヤバい攻撃が来る・・・・・・!)

 影人がそう思った瞬間だった。フェルフィズはこう呟いた。

「もう遅い。イズ」

「はい」

 イズが地上に向けて大鎌を振るう。イズが今回意識したものは距離。影人たちとイズの距離が殺される。その結果、何が起きるのか。答えは簡単だ。


 全てを殺す一撃は不可避の刃となり、地上にいた影人たちを同時に襲った。影人たちは絶対死の斬撃をその身に受けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る