第363話 風天を穿て
「っ、ソラいったいどこに・・・・・・!」
時はほんの少しだけ遡る。影人はどこかに走り去っていったソラを捜すために、シザジベルの町を駆け回っていた。
(何で急に嘘がバレたのかは分からない。だけど、俺はソラに謝らなきゃならない。嘘をついていてごめんって。例えあいつに拒否されたとしても。許されないとしても・・・・・・!)
これは分かり切っていた結末だ。嘘は多くの場合いつかはバレる。その上で影人はソラに嘘をついた。そのはずだ。
だから、影人には責任がある。嘘をついた責任が。影人はその責任を果たすためにも、必死でシザジベルの街を走っていた。
そして、そんな時シザジベルの町の中央部から突如として光の柱が立ち昇った。
「っ!? あれは・・・・・・嘘だろ、このタイミングでかよ・・・・・・!」
その光景を見た影人は、感情を処理しきれずその顔を歪めた。その光景が何を示すのか、影人はよく知っているからだ。
「ふざけやがって・・・・・・! やっぱりてめえは最低最悪の神だぜフェルフィズ・・・・・・!」
悪魔的に最悪なタイミングでその事態を引き起こした忌神に、影人はそう毒づかずにはいられなかった。影人は優先事項をソラの捜索から、光の柱。それから出てくるモノの対処に変更せざるを得なかった。影人は、光の柱へと向かって駆け始めた。
「な、何だよこれ・・・・・・」
そして、時は現在に戻る。フェルフィズに言われた場所、シザジベル中央に位置する英雄カルタスの石像の根本。そこにフェルフィズから受け取ったナイフを軽く刺したソラは、次の瞬間にそこから吹き出したように出現した少し緑がかった光の柱を見て、呆然とした顔を浮かべた。
「な、何だ・・・・・・?」
「光の・・・・柱・・・・・・?」
周囲にいたシザジベルの住人たちもソラと同じような顔を浮かべていた。
「・・・・・・」
そして少しの時間が経過すると、その光の柱の中から地面を透過し、ソレは浮上してきた。高密度の大気を圧縮したような透明に近い不思議な体。ソレは男女どちらとも分からない中性的な顔立ちをしていた。髪のような部分は首にかかるくらいで、その目は閉じられていた。そして、ソレの背には特徴的な大きな大気の翼が生じていた。
(なん・・・・だ・・・・あれ・・・・・・分かんない。分かんないけど・・・・・・何か・・・・・・何かとてつもなく危険な気がする・・・・・・)
ソレを見たソラは自然と体が震えていた。それは本能で感じ取った恐怖から来る震えだった。
「・・・・・・」
ソレがスッとその目を開く。その両の目には複雑で美しい紋様が刻まれていた。
「・・・・・・状況を確認。僕が復活した原因、封印されていた霊地の境界が不安定になったから。理解。その他の諸々の情報・・・・・・理解」
目覚めたソレ――かつてこの世界を襲った4つの災厄の1つ、その風の災厄、『
「この土地、そして上空の浮島に大多数の翼人族の生命を確認。僕の使命に従い、対象の生命を破壊する行動に移ります」
セユスはそう呟くと右手を上空へと掲げた。すると、セユスの右手の先に大気が集まり始めた。風は流れを無視して、全てそこへと向かい始める。
やがて、右手の先に集められた大気は、セユスの体と同じように目に見える形にまで濃くなった。
「ヤ、ヤバい。何かヤバいぜ・・・・・・」
「あ、ああ・・・・・・」
周囲にいた者たちが危険を察知し、ジリジリとセユスから離れるように後退する。大気は尚もセユスの右手の先に集められ、やがて巨大な球体状になった。吹き荒ぶ風も強くなり、暴風がシザジベル中央部を支配した。
「に、逃げろ!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
誰かがそう叫び、シザジベルの町の住人たちはその場から逃げ始めた。恐怖は伝染し、やがてその場に留まる者は誰1人いなくなった。
「ひっ・・・・・・あ・・・・・・」
恐怖と混乱から体が動かなかったソラを除いて。ソラは体に力が入らず尻餅をつき、暴風の中台風の目のように浮かぶ超常の存在をただ見つめる事しか出来なかった。
「・・・・・・この町を全壊する大気の集積を完了。圧縮作業開始」
セユスがそう呟くと、巨大な大気の球体が徐々に小さくなり始めた。大気の球体はどんどん小さくなっていき、やがてセユスの右手に収まるレベルにまで小さくなった。
「圧縮完了。これより、この町にいる全生命を破壊します」
セユスはチラリと地上にいるソラを見た。セユスは生命を破壊する者の使命からか、圧縮した大気の爆弾とでもいうべきものの着弾地点にソラを選択した。そして、右手をスッとソラの方に向かって下ろした。圧縮された大気は緩やかな速度でソラの方へと向かってきた。
「っ!?」
自分に向かってくるそれに触れれば、自分は簡単に死ぬだろうという事をソラは何となくだが理解していた。だが、それでもソラの体は凍りついたように動かない。その間にも、圧縮された大気の球はソラに近づいていた。
「た、助けて・・・・・・影人兄ちゃん・・・・・・!」
死を身近に感じ取ったソラが最後に出せた声は、ここ数日自分に寄り添ってくれた前髪の長い少年に助けを求めるものだった。
「――ああ、任せろよ」
すると、どこからかそんな声が聞こえ、ソラの前に黒い影が割って入ってきた。
「え・・・・・・?」
「『世界端現』。影闇の鎖よ出でて我が足に纏え」
影がそう唱えると、男の周囲から闇色の鎖が出現しそれらが男の右足に纏われた。影はその鎖纏う右足で、圧縮された大気を蹴り上げた。
普通、そんな芸当は不可能なのだが、影の足に纏われた鎖は概念すらも縛る鎖。結果、その鎖に纏われた足は大気へ触れる力を獲得していた。
蹴り上げられた大気は上空へと駆け上がるように昇って行く。大気の蹴り上げられた直線上には浮島は存在せず、大気はどこまでも昇っていき――
バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
やがて破裂した。その結果、凄まじい音が響き風が球体状に放たれる。その風は全てを蹴散らす暴風で、離れていた浮島すらも激しく揺らした。その暴風は周囲にあった雲すらも引き裂いた。解放された暴風はシザジベルの町に直撃していれば、間違いなく町を全て破壊出来ただろう。それだけの威力をその暴風は有していた。
「っ・・・・・・」
「え・・・・・・」
その光景を見たセユスとソラが驚いた顔になる。そして、その影――いや男はその金の瞳をチラリと自分の後ろにいるソラに向けた。
「よう、大丈夫だったか・・・・・・ガキンチョ」
「う、うん・・・・・・」
謎の黒衣に身を包んだ男にそう聞かれたソラは、コクリとその首を縦に振った。ソラはその男の事を知らなかった。だが、なぜだろうか。その男にソラは安心感のようなものを抱いた。
「っ、『地天』と『火天』を討った・・・・・・? それにそれ以外の情報が読み取れない・・・・・・何者ですかあなたは?」
セユスが男に対し疑問の言葉を投げかける。セユスの問いに、その男はいつも通りこう答えた。
「・・・・・・スプリガン。それが俺の名前だ」
「スプリガン・・・・・・」
ポツリと男の名を呟いたのはスプリガンの後ろにいたソラだった。その名前はソラの記憶の中に忘られぬ名前として刻み込まれた。
「――あれが今回の災厄か。見た感じ風の災厄って感じだね」
そして、その場に新たに現れた者がいた。黄色に近い金髪に一部が黒に染まった少年の見た目をした者、ゼノだ。ゼノは空に浮かぶセユスを見てそう呟いた。
「っ、ゼノ!」
「やあソラ、こんにちは。まさか君がここにいるなんてね」
ゼノはソラに軽く挨拶をした。そして、スプリガンに変身している影人にこう聞いた。
「もう言った?」
「・・・・・・いや、まだだ」
ゼノのその言葉の意味は、ソラに正体を告げたのかという意味だった。その言葉の意味を理解していた影人は、否定の言葉を口にした。
「ん、分かった。一応、端的に状況報告するよ。フェリートとシェルディアはフェルフィズ捜索中。キトナは避難済み。俺は君の援護」
「・・・・・・了解だ。取り敢えず、そいつの避難を頼む」
影人はゼノにソラの事を頼んだ。ゼノは影人の頼みを了承し頷いた。
「うん。ソラ、ここは危ないから離れるよ。俺に着いてきて」
「そ、それは分かったけど・・・・・・ゼ、ゼノはこの黒いお兄ちゃんと知り合いなの?」
ソラが差し出されたゼノの手を握り、恐る恐るといった様子の顔を浮かべる。ゼノは再び頷いた。
「そうだよ。大丈夫、安心しなよ。彼は強いから。きっと、君が心を許している人のように」
「?」
ゼノがぼんやりと笑う。ソラはゼノの答えの意味が分からず、不思議そうに首を傾げた。
「さっさと行け」
「分かってるよ。行くよソラ」
影人がセユスに注意を払いながらゼノにそう促す。ゼノはソラの手を引きこの場から離脱した。
「さて・・・・・・じゃあ戦るか。風の災厄。一応聞いとくが、お前の名は?」
「・・・・・・セユス。『風天』のセユスです」
「セユスか。一応、刻んどくぜその名前。そして、悪いな。お前はもう終わりだ」
影人はセユスにそう言うとこう言葉を続けた。
「『世界』顕現、『影闇の――」
影人が文字通り必殺技を発動させようとする。だが、影人が言葉を紡ぎ切る前に、
「・・・・・・いいえ、終わりませんとも」
セユスはフッとその場から姿を消した。
「なっ・・・・・・」
影人がその顔を驚いたものに変える。どういう事だ。影人がそう考えていると、影人の中にイヴの声が響いた。
『バカ、消えたんじゃねえ! 消えたと錯覚した速度で奴が逃げただけだ! 眼の強化をしろ! 奴が逃げた方向は左方向だ!』
「っ、マジかよ・・・・・・! 普通、初手で逃げるかよ・・・・・・! 災厄が聞いて呆れるぜ!」
イヴの言葉を聞いた影人はすぐさま自身の目を闇で強化、加えて身体能力の強化と『加速』の力を発動した。そして、影人は浮遊しイヴの言った方向に飛んで行った。
「っ、いた・・・・・・!」
影人が神速の速度で空中を飛行していると、先の空間にセユスの姿が見えた。セユスはまだ影人が追って来ていると気づいてはいないようだった。
「逃がすかよ・・・・・・!」
影人は自身の前方に「影速の門」を創造した。その門を潜り、爆発的に加速した影人はセユスとの距離を一気に縮めた。
「っ・・・・・・」
セユスがそこでやっと影人に気づく。影人は周囲に「影闇の鎖」を召喚し、それらをセユスへと向かわせた。
「お前らの使命は命の破壊なんだろ? だったら、俺の命も壊してみせろよ! 少なくとも、エリレとシイナは逃げなかったぜ!」
「それはあなたに対する情報がなかったからでしょう。少なくとも、僕は僕に追いつき死なないはずの災厄を2つも滅したあなたとは戦う必要がないと感じただけです」
セユスは3次元的な動きで影闇の鎖を回避した。本来セユスの体に鎖などが触れられるはずがないのだが、相手は概念すら殺す存在だ。何があるか分からない。ゆえに、セユスは回避に徹した。
「それに、この世界にはあなた以外の生命も多数存在する。まずは、そちらを壊す。それが最も効率的です」
セユスは回避しながら風の刃を影人に飛ばして来た。影人はそれらを回避し、セユスへの接近を試みる。
「お前からすれば確かにそうだろうな。だが、させねえよ!」
「・・・・・・風の化身たる僕にこれ程近づけるのは流石です。ですが・・・・・・まだ僕の方が速い」
セユスがそう呟くとセユスは超速の速度で影人から離れた。
(っ、まだ速くなるのか!?)
その速度は今の眼が強化された影人を以てしても速いと感じるものだった。ギリギリ目で追えるか否かといったスピードだ。エリレやシイナのスピードとは明らかに違う。流石は風の災厄といった感じだ。
(ちっ、何とか視界内に入れたから『世界』は顕現出来る。だが、顕現してもセユスを捉えきれるかは分からない。それは『終焉』も同じだ)
『影闇の城』は基本的には何者をも殺す最強のジョーカーだが、唯一の弱点はその顕現時間の短さだ。顕現時間目一杯まで逃げられれば、逆に影人が負ける。『終焉』も無敵だが、対象が速すぎれば捕捉は難しい。
(やっぱり今の俺の課題はスピードだな。だが、今はそれどころじゃない。どうすればあいつを捕捉し殺し切れるか。その方法を考えろ)
影人はセユスを追いながら、今自分が持っているカードで、どうすればセユスを滅し切れるかを考えた。今までの経験と記憶を呼び起こして。
(っ、そういえば・・・・・・これしかないな。俺の練度じゃまだそこまでは難しいだろうし・・・・・・あいつと合流するしかない)
その結果、影人は1つの方法を思いついた。これならば速度に関係なく、必ずセユスを斃せる。
「取り敢えず、まずはセユスの奴をシザジベルの方まで何とか戻さねえとな・・・・・・!」
影人は小さく笑みを浮かべると、まずはセユスに再び追いつくために自身の前方に「影速の門」を再び創造した。だが、今回は1枚ではなく2枚だ。影人は2つの門を潜り、もはや星のような速度になった。
「っ、体が・・・・・・だが、追いついたぜッ!」
その速度はスプリガンの強化された肉体を以てしても骨が軋むような速さだった。影人は全身に激しい負荷を感じつつも、セユスに追いつき、いや追い越す事に成功した。
「っ!?」
「『世界端現』。影闇の鎖よ、我が四肢に纏え!」
セユスがその目を見開き驚きを露わにする。影人は自身の手足に影闇の鎖を纏わせると、右の拳でセユスの顔面部分を穿った。結果、セユスは後方に大きく飛ばされた。
「概念である僕を殴ったところで・・・・・・!」
「痛みはないってか。そんなのは百も承知だ。俺の目的はお前を運ぶ事だ!」
影人は「影速の門」を創造し潜り、飛ぶセユスに反撃または離脱の隙を与えさせずに次は左の前蹴りを叩き込んだ。結果、セユスはまた大きく飛ばされる。
(イヴ! シザジベルはどっちの方角だ!?)
『ああ? 一応、南東の方角だが・・・・・・お前、まさか殴ってそいつをシザジベルまで運ぶ気か?』
(ああ、そうするしかねえだろ! 『終焉』は発動に一瞬ラグがあるしその間に逃げられる。だから、やっぱり俺の考える方法でやるしかない。その第1段階はシザジベルに戻る事だ!)
『脳筋ってレベルじゃねえぞおい。相変わらず発想がイカれてんな。だけどまあ・・・・・・はっ、それでこそお前だ。せいぜい、俺を楽しませろよ』
「応よ・・・・・・!」
最後は肉声で答えながら、影人はセユスを殴り或いは蹴り、そして「影速の門」を創造し、また殴る蹴るという事を繰り返した。もちろん、イヴの教えてくれたように南東に位置を調節して。その結果、
(っ、見えた。シザジベルだ!)
影人は視界内にシザジベルの町を捉えた。
「後は微調整だけだな・・・・・・!」
影人は右足で少し軽めにセユスを蹴り飛ばした。そして、門を2つ創造しそれを潜り飛ばされるセユスを追い越すと、両手のハンマーパンチでセユスを真下へと叩き落とした。セユスが落とされた場所はセユスが蘇った場所、シザジベルの中央部だった。
「ここは最初の・・・・・・」
地面に落下しても物理的には肉体を有していないセユスは、地上に立つと周囲を見渡しそう呟いた。
「・・・・・・何で俺がお前をここに戻したか分からないって顔だな。その理由はすぐに分かるぜ」
同じように地上に降り立った影人。影人はセユスが逃げないように、シザジベル中央部を包むように障壁を展開した。そして、影人はその場所にいた自分たち以外の者を確認し、ニヤリと笑った。
「あ、戻って来たんだ。ソラを避難させて戻ってきたら君たちいなかったから、違う場所にでも行ってると思ってた」
「実際さっきまでは違う場所にいた。だが、今回はお前の力がいるって分かったな。お前、俺を援護にしきたんだろ。だったら、力を貸せよ――ゼノ」
「いいよ。俺に出来る事ならね」
影人のその言葉にゼノはぼんやりと笑った。
「さあ、俺が勝つためのピースは揃った。今度こそ、お前はもう終わりだ『風天』のセユス」
影人はセユスにそう言うと、ゼノとセユスを視界内に収め自身に認識させ、力ある言葉を放った。
「『世界』顕現、『影闇の城』」
影人の背後から闇が現れ世界を侵食する。そして、その闇は新たなる世界を構築した。すなわち、帰城影人の本質たるとある城内へと。
「っ、これは・・・・・・」
セユスが変化した風景を見てそう呟く。そんなセユスに影人はこう言った。
「お前はこの閉じた世界から逃げられない。俺を殺さない限りな。そして、この城内でなら俺はお前を殺せる。灯っているお前の魂、それに死の決定を下せばな」
「っ・・・・・・ならば、その前にあなたの命を壊すだけです」
影人にそう言われて仮初の肉体の胸部に白い揺らめきを見たセユスは、影人と影人の隣にいたゼノに向かって荒れ狂う風の奔流と、全てを切り裂く風を放った。
「ああ、言うのを忘れてたが無駄だ。この城内にいる者は全員俺が決定を下さない限りは不死みたいなものだからな」
「本当、反則だよね君のこれ。まあ、俺も元々不死みたいなものだけど」
影人とゼノは風による攻撃を受けても平気な顔を浮かべていた。全てをバラバラに吹き飛ばす風も、全てを切り裂く風も、2人の体を陽炎のように揺らすだけだった。
「っ・・・・・・」
「理不尽だって顔だな。まあ、気持ちは分からなくもない。俺がお前の立場ならそう思うだろうしな。だが、忘れてねえか? 理不尽なのはお前もだぜ」
影人の体が影闇に覆われ始める。そして、影人の姿は完全に影闇の怪人と化した。それは『影闇の城』での城主としての影人の姿だ。
『理不尽が理不尽に対して理不尽を感じる。そういう時が1番スカッとするよな』
「性格悪いね」
『うるせえよ。ったく、締まらねえな』
隣のゼノの言葉に影人が影闇に染まった顔でそう言った。
「くっ、ですがあなたは本気の僕には追いつけない。僕の真の速度は感知すら出来ない。先ほどあなたに追いつかれたのは、単なる情報の不足に過ぎません」
『そうかもな。だが、もはや速さは関係ないんだよ』
セユスの言葉に影人は素直に頷いた。そして、隣にいるゼノにこう言った。
『おいゼノ。「聖女」との戦いの時にやってた敵との空間を縮めるやつ。あれをやってくれ。そのためにわざわざお前を俺の「世界」に取り込んだんだ』
「ああ、空間を壊すやつ? いいよ」
影人にそう言われたゼノはスッとセユスに向けて右手を突き出した。
「っ!」
その仕草に危険を感じたセユスは神速の速度で影闇の城の中を縦横無尽に動き始めた。
「うわ、見えないや。これじゃどの空間を壊したらいいか分からないな」
『じゃあ、これならどうだ?』
影人はゼノに向かって左手を伸ばしある力を付与した。次の瞬間、ゼノの琥珀色の瞳に闇が揺らめいた。
「っ、急に見えるようになった」
『お前の目を闇で強化した。どうだ、これならギリギリ見えるだろ?』
「うん。これなら大丈夫だ」
ゼノは小さく笑うと、空間を壊す『破壊』の力を発動させた。次の瞬間、ゼノたちとセユスの間の空間が壊される。結果、セユスはゼノたちの目と鼻の先の距離にまで移動した。
「っ!?!?」
セユスが訳がわからないといった顔を浮かべる。影人はゼノに感謝の言葉を述べた。
『ありがとよ。これで終わりだ』
そして、影人はセユスの魂に触れ死の決定を下した。
「あ・・・・・・」
影人に死の決定を下されたセユスはその場から消滅した。それを確認した影人は『世界』を解除した。
「終わったね。後はシェルディアとフェリートとの報告待ちかな。でもまあ、結果は暗いだろうけどね」
「・・・・・・だろうな」
影人がゼノの言葉に頷く。フェルフィズを捜してくれている2人には悪いが、恐らく今回もフェルフィズを捕まえる事は出来ないだろう。
「・・・・・・ソラにちゃんと謝らないとな」
そして、自分が傷つけてしまった少年を思い浮かべながら、影人はポツリとそう呟いた。
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