第350話 メザミアと王女
「ここがメザミアか・・・・・・」
メザミアに辿り着いた影人はポツリとそう呟いた。目の前に広がっているのは、のどかな田舎町の風景だ。影人から見て左側には畑が広がっており、右側には質素な石造りの家々が見える。そして、奥には古びた遺跡があった。影人の勝手なイメージになるが、西洋の田舎という言葉がピッタリに思える。
「まあ、何て素敵な光景でしょう! 自然がいっぱいで気持ちいいです!」
影人と同じようにメザミアの風景を見たキトナは、興奮した様子だった。相変わらず、子供のような様子だ。
「ええ、素敵だわ。気持ちがのんびりとしてくるわね」
「確かに、どこか懐かしい光景ですね。ですが、私たちは休暇に来たのでも観光に来たのでもありません。その事は、忘れないように」
「分かっているわよ。じゃあ、早速町の方に行ってみましょうか」
フェリートの小言に軽く頷いたシェルディアが街の方へと歩いて行く。影人、ゼノ、フェリート、そしてキトナもシェルディアの後へと続いた。
「そう言えば、皆さんは何をしにメザミアに来られたのですか? 先ほど、休暇でも観光でもないと仰っていましたが」
歩きながらキトナが軽く首を傾げ、そんな質問をしてくる。案外に耳ざとい。そう思いながら、影人はこう言葉を返した。
「・・・・・・別にあんたには関係ないだろ。そういうあんたこそ、どうしてここに来たかったんだよ?」
一応、この国の王を脅した一味の1人なので、少しぶっきらぼうな口調を影人は選択した。影人にそう言われたキトナは笑顔を浮かべこう答えた。
「私、ずっと遺跡という所に行ってみたかったんです。秘密基地みたいで楽しそうと思って。それで、メザミアには遺跡があると前に本で読んだ事があったので、私もここに来たいなと」
「・・・・・・ふーん。そうかよ」
キトナの答えを聞いた影人は自分から聞いたのに、あまり興味もなさそうに相槌を打った。恐らくだが、嘘はついていないだろう。そして、そうこうしている内に影人たちはメザミアへと到着した。
「町・・・・・・って言うよりかは村って感じだな」
「だね。住人の服装も質素だし、何か昔にタイムスリップしたような気分だ」
影人の呟きにゼノが同意を示す。往来にはメザミアの住人たちがおり日常を過ごしていた。大人たちは話をしたり買い物をしたり、子供たちは遊んだり走り回ったりと。
「ん? 何だあんたら? 見ねえ顔だな。それにそこの姉ちゃん除いて頭に耳もねえし・・・・いったい
影人たちがメザミアの入り口にいると、鍬のような物を持った中年の男性がそう言葉をかけて来た。男性の言葉からは、隠しきれない不審感が滲み出ていた。
「こんにちは。実は私たち旅中の吸血鬼でして」
「吸血鬼? それってあれか。血吸うっていう・・・・・・」
「確かに、吸血鬼はそういう生物ですが、皆さんの血を吸うような事はしません。ご安心ください」
フェリートがニコリと完璧な執事スマイルを浮かべる。それから、男性と少しの間言葉を交わしたフェリートは影人たちにこう言った。
「取り敢えず、この町の町長的な人に会わせてもらえるようになりました。後はその人に事情を話しましょう。ついでに、先程収穫出来たらしい野菜を頂きました。大根に似ていますが、こちらの世界ではダジンコと言うそうです」
「いや、打ち解けるの早すぎだろ。お前、どんだけコミュ力高いんだよ・・・・・・」
ダジンコなる野菜を見せて来たフェリートに、影人は引いたような顔になる。そんな影人に、フェリートは「交渉術は執事の基本ですからね」と当然のような顔を浮かべた。
「まあ、立派なダジンコ。そのダジンコ、私がお持ちいたしますわ。抱っこしてみたいんです」
「抱っこですか・・・・・・まあ、いいでしょう。では、お願いします」
両手を差し出して来たキトナに、フェリートは野菜を手渡した。先ほど、城で思い通りにならなければ泣き喚くキトナの姿を見たフェリートは、渡さなければ面倒になると思ったのだった。
「ありがとうございます。まあ可愛い! よちよち、いい子でちゅね〜」
フェリートから野菜を受け取ったキトナは機嫌が良さそうにそんな言葉を呟く。キトナの様子を見ていた中年の獣人族男性は「はあー、変わった姉ちゃんだな」と不思議そうな顔を浮かべた。
「さて、では行きますよ。この方が町長さんの家まで案内してくれるそうですから」
フェリートが音頭を取るように一同にそう言った。そして、影人たちは男性の案内の元、歩き始めた。
「・・・・・・お前凄えな。まさか、寝床まで確保出来るとは思ってなかったぞ」
影人たちがメザミアに到着して数十分後。影人たちは町外れの家の中にいた。影人にそう言われたフェリートは、窓を開けながらこう言葉を返した。
「先程も言ったでしょう。交渉術は執事の基本です。それに加えて事情もよかった。たまたまこの町に空き家があり、町長もいい人だった。結局は運がよかった。そういう事です」
「いや、それでもだろ・・・・・・」
影人が軽く呆れたようにそう言葉を漏らす。今の会話通り、メザミアの町長と会ったフェリートはその尋常ならざるコミニュケーション能力を存分に発揮し、メザミアの滞在中この空き家を好きに使ってもよいという許可を得たのだ。この世界で使える金がないので、正直今度こそ野宿を覚悟していた影人だったが、それはまた回避された。
「うん。埃は溜まっているけど、掃除をすれば全然使えるわね」
「また屋根があるところで寝られるなんてラッキーだなー」
「まあ、小さなお家。でも素敵です! うふふ、ワクワクが止まりませんわ!」
シェルディア、ゼノ、キトナも家の中を見回りそんな感想を漏らす。空き家は広い平屋で、町長の話だと2年ほど放置されていたようだが、それでも影人たちからすれば使えるだけラッキーというものだ。
「さて、メザミアに着いたわけだが・・・・・・フェルフィズの奴はまだ来てないみたいだし、しばらくはここに滞在する・・・・・・って事になる感じか」
家の中を掃除した影人たちは(主にフェリートが闇の力を使って掃除用具を創造し凄まじいスピードで掃除したが)、一息つくように、元々この家に残されていた4人掛けの簡素な木のテーブルに着いていた。イスも持ち運ぶのに不便なためか、そのまま残されていた。
ちなみに、テーブルに着いているのは影人、シェルディア、フェリート、ゼノの4人で、キトナは外だ。話をするからとキトナには少しの間散歩に行かせた。キトナは喜んで外に出て行った。
「そうね。まだここの軛が壊され、もしくは不安定になっていなければだけど。その辺りは分かるようになってるの影人?」
「ああ。シトュウさんにこの世界の次元の要所に異変があった時は念話で教えてもらうように言ってある。今のところその報告はないよ」
隣に座っているシェルディアの質問に影人が首を縦に振る。すると、次はフェリートが口を開いた。
「・・・・・・まあ、今は見の姿勢しか私たちには取れないでしょう。他の次元の要所に異変があれば、フェルフィズの目的も確定し、私たちはここで待ち伏せる事が出来る。壊されてマズイのは5箇所ですから、1箇所くらいなら必要経費と受け止められます」
「まあそうだね。取り敢えず、君が言ったみたいにしばらくの間はここに滞在でもいいんじゃないかな。焦って行動しても別にいい事ないしね」
フェリートの意見にゼノも同意する。2人の意見は現実的だった。
「やっぱそれが安牌だよな・・・・・・しゃあねえ、じゃあしばらくはここに滞在するって事でいいか?」
「ええ」
「はい」
「うん」
確認を取った影人にシェルディア、フェリート、ゼノの3人が頷く。こうして、影人たちはしばらくの間メザミアに滞在する事が決まった。
「ここに滞在するなら、居心地をよくしないとね。フェリート、影の中から色々家具とかを出すから設置するのを手伝いなさい」
「別に私はシェルディア様の執事ではないのですが・・・・・・はあー、分かりました」
シェルディアとフェリートが立ち上がる。どうやら、2人は家の内装を整えるようだ。
「俺はあの王女サマでも呼びに行くか。お前はどうするゼノ?」
「んー、俺も散歩したいし君に着いて行こうかな」
「あいよ。じゃ、俺たちは外に出てくるぜ」
シェルディアとフェリートにそう言って、影人とゼノは外に出た。この家は畑が広がっているエリアの方にあるので、周囲には田園風景が広がっている。畑には何人かメザミアの住人たちの姿が見えた。
「パッと見た限り、この辺に王女サマの姿は見えねえな。街の方に行ったか?」
「そうじゃない? あのお姫様子供っぽいから、町の子供たちと遊んでるんじゃないかな」
畦道を歩きながら影人とゼノがそんな言葉を交わす。ゼノはその琥珀色の目をずっと畑の方に向けていた。
「何だ畑が気になるのか?」
「うん。俺、土いじりは好きだから。異世界の土とか畑ってどんな感じかなって思って」
「へえ・・・・・・意外だな。だったら、お前はこの辺りにいるか? 俺は町の方に行ってくるし」
「いいの? だったらそうしようかな」
ゼノは立ち止まり畑を眺め始めた。影人はゼノを放って町の方に向かった。
「あはは、遅いぞキトナー!」
「こっちこっち!」
「うふふ、待ってくださーい!」
影人が町の方に到着すると、子供たちとキトナが追いかけっこをしていた。どうやら、ゼノの予想は当たっていたようだ。すっかり子供たちに馴染んでいるキトナに、影人は呆れたように軽く息を吐く。
「はあー、元気な事で・・・・・・感情面がマジで子供だな・・・・・・」
あれがこの国の王女だとは到底信じられない。メザミアの人々はキトナが王女とは気づいていないので、影人たちも説明はしていない。そのため、キトナは吸血鬼たちと旅をする獣人としか認識されていなかった。
「おーい、キトナさん。そろそろ戻るぜ」
子供たちの手前だったので、王女とは呼ばずに影人はキトナにそう声を掛けた。
「あ、影人さん。すみません、散歩をしていたら子供たちと遭遇してそのまま遊んでいました。分かりました。今戻りますね」
影人に気がついたキトナは少しバツが悪そうな顔でそう言ってきた。キトナの言葉を聞いた子供たちは不満そうな顔を浮かべた。
「えー、キトナもう帰っちゃうのかよ。つまんねえー」
「まだまだ遊びたいよー」
「ごめんなさい。また明日に遊びましょう」
「っ・・・・・・?」
子供たちとキトナのやり取りを見ていた影人は軽い違和感を覚えた。だが、その違和感の正体を考える前にキトナが影人の方へとやって来た。
「お待たせしました影人さん。では、行きましょうか」
「あ、ああ」
キトナにそう言われた影人は頷き、キトナを伴って自分たちの滞在先の家に向かって歩き始めた。
(さっきの違和感は結局何だったんだ・・・・・・?)
その心に疑問を抱きながら。
「・・・・・・すっかり夜か。早いもんだな」
窓を開けて外を見つめていた影人がそう呟く。窓の外は、周囲が田園のために暗闇が支配している。ただ、離れた所にある家々の方にはポツリと明かりが見える。キリエリゼしか例には出せないが、こちらの世界に電気、またはその技術はないと思うので、あの明かりが何の光かは分からない。ヘレナとハルの家は、魔法光という魔法の明かりで夜の家の中を照らしていたが、とにかくとして影人には分からなかった。
ちなみに、影人たちの家の中は電気タイプのランタンの明かりが照らしている。シェルディアが影の中に収納していたものだ。代わりの電池やランタンもまだまだあるとの事なので、存分に使っている。やはり、シェルディアはドラ◯もんだと影人は思った。
「わあー、綺麗な光。魔光筒と同じような形状ですが、中の光は違う感じですね。不思議ですわ」
キトナはランタンに興味津々といった様子で椅子に座りながら、テーブルの上のジッとランタンを見つめていた。相変わらず響斬と同じ糸目なので分かりにくいが、目をキラキラとさせている感じだ。
「では私たちは町の歓迎会に行ってきますが・・・・・・あなた達は本当に行かなくていいんですね?」
シェルディアの出した鏡で自分の格好を整えていたフェリートが影人とキトナにそう確認を取ってくる。実はフェリートのコミュ力により、影人たちの事をいたく気に入った町長がささやかな歓迎会を開いてくれる事になったのだ。どれくらいメザミアに滞在するか分からない以上、地元住民たちと親睦を深めておいて損はない。ゆえに、フェリートはその申し出を受け、ゼノとシェルディアも面白そうだからと出席する事になっていた。
「ああ、俺は嬢ちゃんが影から出してくれたパンと缶詰で十分腹が膨れたしな。それに、ちょっと天体観測もしたいし。悪いがパスだ」
「私も少し疲れてしまいましたので、すみません」
「分かりました。では、私たちだけで行ってきますよ。帰城影人、滅多な事はないと思いますが、留守は任せます」
「あいよ」
フェリートの言葉に影人が軽く手を振る。シェルディアは「じゃあ行ってくるわね」と手を振り、ゼノは「じゃ」と言って、フェリートと一緒に家を出て行った。家に残されたのは、影人とキトナだけとなった。
(本当、星が綺麗だな。俺たちの世界とは星の配列とか大きさとかは違うんだろうが、星の美しさだけは変わらない)
窓から息を呑むような星空を見上げながら、影人は静かに感動していた。これほどに星空が美しいと思ったのは、過去の世界でレイゼロールと一緒に暮らしていた時以来だ。
(さて、ちょうど2人になれたしそろそろやるか)
影人は視線を星空から外し室内のキトナに向けた。昼過ぎに感じた違和感の正体。影人はそれが何なのか分かったのだ。
「なあ、王女サマ」
「はい? 何でしょうか影人さん」
ランタンから目を離しキトナが影人の方に顔を向けてくる。影人は突然何の脈絡もなく、
「あんた・・・・・・その性格演じてるだろ」
そう言った。
「はい・・・・・・?」
影人にそう言われたキトナは意味がわからないといった様子で首を傾げた。
「ああ別に責めてるとか詰問するとかそんなんじゃない。ただ、俺は確かめたいだけだ。なぜあんたが俺たちに同行したいと言ったのかを。その理由が俺たちに害があるかないのか、それを確かめたいんだよ。害がないなら別にいい。あんたがその性格を演じている理由にも言及しない。だが・・・・・・害があるなら話は別だ」
影人が声音を冷たいものに変える。そして、影人はこう言葉を続けた。
「あんたが悪意を持って俺たちに近づいたのなら、俺はあんたを排除する。まあ、まだ害は出てないからキツい手段は取らないでやる。だから、素直に嘘をつかずその理由を教えろ。とぼけるなら、問答無用で排除だ。チャンスは1回。さあ聞くぜ。あんたが俺たちに同行したいと言った本当の理由は何だ?」
「・・・・・・」
キトナは途中から顔を俯かせ震えていた。急に訳の分からない事を言われ今にも泣き出しそうな雰囲気だ。しかし、
「・・・・・・はあー、観念するしかないようですね。初めてです。私の演技を見破った人は。物心ついた時からずっと演じて来ましたので、不自然さはなかったと思うのですが・・・・・・どうしてお分かりになったのですか?」
キトナはスッとその糸目を開き、困ったような顔を浮かべた。
「昼間あんたを迎えに行った時に違和感がしたんだ。その違和感は、あんたの聞き分けがよかった事だった。あんた、城で俺たちに同行したいって泣き喚いてただろ。あの時はガキみたいに聞き分けが悪かった。おかしくないか? 感情がガキと同じはずのあんたが、1回で俺の言う事を聞いた。しかも、遊んでいる最中にだ。本当にあんたの感情面がガキなら軽くぐずるようなところだろ。子供は遊んでいるのを邪魔されたくない生き物だからな」
「なるほど。それで色々と推論を重ね、私が子供のような性格を演じていると分かったという事ですか」
「そういう事だ」
「はあ、少し興奮し過ぎていて隙を見せてしまっていたようですね。反省しなければ」
キトナが戒めの言葉を口にする。そして、キトナは窓際にいた影人にこう言ってきた。
「それにしても、見た目からは想像も出来ない程に鋭い方ですね。普通、それくらいで違和感を覚えないと思うのですが」
「色々と経験してきたからな。その辺りは鍛えられてるつもりだ。で、本性を現したって事は理由を話すって事だよな? 早く教えろよ」
「乱暴ですね。さすがはお父様を脅した一味の1人ですわ」
「うるせえよ。早く言え」
影人が再度催促をかける。すると、キトナはその理由を話し始めた。
「あなた方に言った理由に嘘はありません。私は1度、本当にここに来たかったのです。遺跡に興味がありましたから。ですが、それは主な理由ではありません。私はこの機会をきっかけとして、城を出たかったんです」
「城を・・・・・・?」
「はい。私は物心ついた時からずっと外の世界に憧れていました。外の世界を自由に旅したい。それが私の子供の時からの夢。・・・・・・ですが、私は第1王女。言っては何ですが、昔から自由はありませんでした。だけど、私はその夢を捨てる事が出来なかった。城を飛び出したかった。しかし、私にそんな事が許されるはずがない。私は板挟みの状況の中考えました。そして、1つの方法を思いついたのです。それが、お荷物王女になるという方法でした」
「っ・・・・・・そういう事か」
キトナの説明で影人はキトナが子供のような性格を演じていた理由を理解した。
「ええ。感情面に欠陥を抱えた王女ならば、表には出せまんし結婚させる事も難しい。上手くいけば、城を出て行くように王女として廃棄されるかもしれない。私はそう考えました。だから、私は感情が子供から成長していない様子を演じ続けてきたのです。約15年ほどね」
「15年・・・・・・マジかよ。あんた今24歳なんだろ。だったら9歳の時からずっとって事か?」
「自分で言うのも何ですが、状況把握や考えを巡らせる事は昔から得意でしたので。演技も観察や本などを読んで出来ると思いました。結果は上手く行きました。お父様もお母様も、私の兄弟たちも私の本性は知りませんわ」
キトナは何でもないようにそう言った。どうやら、キトナは幼少期からかなり聡明だったらしい。天才と言っていいほどに。子供じみた王女が実は天才。よくある展開といえばよくある展開だ。まあ、当然実物を見たのは初めてだが。影人はそう思った。
「はっ、賢いならなまじ余計に恥ずかしかっただろ。子供を演じるのは」
「恥で夢が叶うものなら安いものです。まあ、結局お父様はお優しかったので、今でも私は廃棄されていませんが」
影人の皮肉混じりの言葉にキトナはただ笑った。
「話を元に戻すか。と言っても、結論は見えてるが。お前は俺たちをきっかけにしたんだな。城を出るための」
「ええ、その通りです。扉の外で聞き耳を立てていた私はこの機会を逃せば後はないと思いました。ゆえに、強引な手を使ってあなた方に同行したというわけです。あなた方が優しかった事、私の長年の演技も相まって今私はここにいる事が出来るというわけです」
キトナが影人たちに同行したいと言った真の理由。それを聞いた影人はこう言葉を述べた。
「・・・・・・嘘はついてなさそうだな。取り敢えず、その理由に納得はしてやるよ。そして、害もなさそうだ。あんたを排除しはしない。まあ、これは今のところだがな」
「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。ご迷惑は出来る限りお掛けしませんので」
キトナはホッとした顔を浮かべ笑った。そんなキトナに影人は軽く釘を刺す。
「ただし、嬢ちゃんが言ってたみたいにここを去る時にはあんたを城に返すからな。それが嬢ちゃんがあの王様に約束した事だ。その時は文句を言うなよ」
「ええ、もちろん。しかし、ふふっ不思議な方達ですね。王を脅したと思えば律儀に約束は守るなんて。あなた達はいったい何者なのですか?」
「言ったろ。ただの吸血鬼だ。それ以上知りたいなら、せいぜいご自慢の知力で俺たちが何者か推理してみるんだな」
影人はもうキトナには興味がないといったように、再びその前髪の下の目を星空に向けた。
「・・・・・・ああ、あと1つ。あんたの本性、嬢ちゃんとかにも明かしていいと思うぜ。3人とも他言はしないタイプだろうしな。あんたもそっちの方が楽だろ。それに・・・・・・明かしたら、あんたの夢も叶うかもしれないしな」
「? 最後の言葉の意味はよく分かりませんが・・・・・・ご助言ありがとうございます。考えてみますね。そして、お気遣いもありがとうございます」
独白するようにそう言った影人にキトナは感謝の言葉を述べた。影人は暗にキトナの本性は誰にも言わないと言ってくれたのだ。
「別に・・・・・・そんなつもりじゃねえよ」
影人はそう言葉を返すと、それ以降は口を開かなかった。キトナは「そうですか。では、そういう事にしておきましょう」と言うと、視線を再びランタンの光に戻した。
異世界の田舎の夜。王女は光を見つめ、影たる少年は星を見つめ、静寂な時間にその身を置いた。
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