第317話 打ち上げパーティーをしよう
「何でですって? 決まっています。愚か極まりない、まあ率直に言えばバカですが。そんなバカのあなたに用事があるからです。言ったでしょう。こちらも方法を考えると」
ソレイユは両手を組みながら、ふんと鼻息荒くそう言うとこう言葉を続けた。
「その方法が、説得者を増やす事です。数の力は偉大ですからね。という事で、先ほどあなたにした提案をレールとシェルディアに話しました。すると、2人も賛成という事だったので、こうしてあなたを待ち伏せていたというわけです」
「そういう事よ」
「そういう事だ」
ソレイユに続くように、シェルディアとレイゼロールも頷く。その言葉を聞いた影人は軽く頭を抱えた。
「こんちくしょうが・・・・やっぱり嫌な予感が当たりやがった・・・・・・やりやがったな、ソレイユてめえ・・・・・・」
「ふふん、あなたとの付き合いもまあ長いですからね。あなたの嫌がる事は大体分かりますよ」
恨みがましい声でそう言った影人に、ソレイユは得意げな顔を浮かべた。
「ていうか、悪戯好きな嬢ちゃんはともかくとして、何でお前まで了承したんだよレイゼロール。お前、俺と同じでそういうのは嫌いだろ」
「勝手にお前と同じにされている事は少し苛立つが・・・・・・確かに、我もそういうものはあまり好かん」
「だったら・・・・・・」
「だが、区切りは時に必要だ。そして、そういうものは1つの区切りになる。影人、今のお前にはその区切りが必要だ。ゆえに、あまり気は進まんが今回はソレイユの話に賛成してやった」
「・・・・・・ああ、そうかよ」
レイゼロールの言葉を聞いた影人は、何とも言えない顔でそう言葉を漏らした。それは、純粋に影人を思っての言葉だったからだ。ゆえに、影人はそれ以上レイゼロールに何も言う事が出来なかった。
「ふむ、話が見えないな。影人、こいつらは何の話をしているんだ?」
そのタイミングで、今まで話を聞いていた零無が影人にそう聞いて来た。確かに、零無からしてみれば話が全く分からないだろう。
「別に大した事じゃねえよ。ただ、せっかくお前との戦いも終わったし色々落ち着いたから、ソレイユが打ち上げパーティーしようって言って来ただけだ。それで、俺はそういうの嫌いだから断った。それだけだ」
事情を知らない零無に対し影人が説明した。そう。昼頃にソレイユが影人に提案して来たのは、打ち上げパーティーをやろうという事だった。そして影人はそれを一瞬で断り、ソレイユと口喧嘩をして今のこの状況に至るというわけである。
「へえ、パーティーか。いいじゃないか影人。吾とお前の仲直り記念も含めてやろうぜ」
「仲直りはしてねえよ。馴れ合う気はねえって昨日言っただろ。もう忘れてんじゃねえよ」
ニコニコと笑う零無に対し、影人は軽くため息を吐きながらそう言った。影人の言葉を聞いていたソレイユは不思議そうな顔を浮かべた。
「影人、先ほどから誰と話されているんですか? イヴさんと話されている感じではないですが・・・・・・」
「誰って・・・・・・ああ、そうか。お前らには見えてないのか。ここに零無がいるんだよ。だから、こいつと話してたんだ」
自分の左斜め辺りの空間を指差しながら、影人はソレイユたちにそう説明した。影人の言葉を聞いたソレイユは「ああ、そうだったんですか」と言って納得した顔になった。
「零無さんの姿はあなただけに見えているんですか? 昨日の夜には幽霊になった零無さんの姿を私たちも見る事が出来ましたが・・・・・・」
ソレイユが軽く首を傾げる。昨日影人と和解した際(影人は和解とは認めないだろうが)、零無の姿はソレイユたちにも見えていた。ゆえに、ソレイユは疑問を抱いたのだ。
ちなみに、なぜ昨日は零無の姿がソレイユたちにも見えていたのかというと、それは幽霊になったばかりでチャンネルの調整が上手くいっていなかった、という理由からだった。
「ああ、見る事は出来るぜ。ただ、今は零無が俺にしか見えないようにしてるみたいだ。零無、3人にだけ姿を見せてやれる事は出来るか?」
「うん? ああ、容易いよ」
「じゃあ見せてやれ。その方が混乱しない」
影人が零無に許可を出す。影人にそう言われた零無は「分かったよ」と言って頷くと、自身の存在のチャンネルを軽く弄った。瞬間、ソレイユ、レイゼロール、シェルディアの視界内に零無の姿が現れた。
「これで見えてるだろ」
「あ、はい。こんにちは零無さん。しかし、いつでも消えたり現れたり出来るなんて、幽霊というよりかは任意式の透明人間みたいですね・・・・・・」
確認を取る零無の言葉にソレイユが頷く。すると、零無の姿を見たレイゼロールが少し嫌悪感を露わすようにこう呟いた。
「ふん・・・・・・貴様のような奴が、影人の守護霊のつもりか・・・・・・」
「何だ嫉妬かレイゼロール? ははっ、可愛いところがあるじゃないか」
「っ・・・・・・」
レイゼロールの言葉を聞いた零無はニヤニヤとした顔でそう言った。零無にそう言われたレイゼロールは不快そうに軽く顔を歪めた。
「さて、そろそろ本題に入りましょうか。立ち話もなんだし、みんな私の家に上がりなさい。話はそこでしましょう」
シェルディアがパンと軽く手を叩きそう言った。シェルディアの言葉を聞いた影人は、露骨に嫌そうな顔になった。
「な、なあ嬢ちゃん。それは話をする事でもないと思うんだ。ほら、俺はもう嫌だって断ったわけだし・・・・・・」
「あら、私は話をしたいのだけれど。もちろん、来てくれるわよね?」
ニコリとシェルディアが笑みを浮かべる。その笑みは一見すると普通の笑みのようであったが、その笑みには凄みがあった。具体的に言うと、「断ったらどうなるか分かってるよな?」的な感じの凄みが。それを察した影人は、気づけば「あ、はい・・・・・・」と頷いてしまっていた。
「なら決まりね。あなた達、着いていらっしゃい」
シェルディアは軽く頷くと影人、レイゼロール、ソレイユ、零無を伴ってマンションの中へと入って行った。
「へえ、ここがあなたの住んでいる場所ですか・・・・・・素敵な所ですね」
帰城家が住んでいる部屋の隣のシェルディア宅。そのリビングに招かれたソレイユ達。ソレイユは座りながらリビングを見回すと、そう感想を漏らした。
「ふふっ、それはどうもありがとう。少し待ってね。今お茶を用意させるから」
シェルディアがパンと軽く手を叩くと、リビングに面していた襖が開けられた。すると、そこから水色と縞々パンツを履いた白いネコのようなクマのようなぬいぐるみが現れた。ぬいぐるみはテクテクと歩いてシェルディアの足元までやってくると、ジッとシェルディアを見上げた。
「飲み物の用意をお願い出来るかしら。私は紅茶、影人は確か水だったわよね。ソレイユ、レイゼロール、あなた達は何にする?」
「え!? え、ええと・・・・・・で、では、わ、私も紅茶で・・・・・・」
「アイスコーヒーだ」
ソレイユは突如現れた動くぬいぐるみに驚きながらも、レイゼロールはいつも通りの様子で、自身の注文を述べた。
「分かったわ。じゃあ、それでお願いね」
「!」
シェルディアにそう言われたぬいぐるみは、「分かったよ!」といった感じで頷くと、テクテクと台所へ向かい、飲み物の用意を始めた。
「シェ、シェルディア。な、何なんですかあのぬいぐるみは・・・・・・何か普通に動いているんですが・・・・・・」
「ああ、あの子は私が影人から貰ったプレゼントなの。それで、私が命を与えたのよ。ただそれだけよ」
「え、ええ・・・・・・そんな無茶苦茶な・・・・・・」
シェルディアの説明を聞いたソレイユは引いたような顔を浮かべた。物質に命を与えるという、生命創造の御業を何でもないように言ってのける。やはり、シェルディアも荒唐無稽な存在なのだなと、ソレイユは再認識した。
ちなみに、影人が驚いていない事からも分かる通り、影人は既に自分が贈ったぬいぐるみが自我を得ている事を知っていた。シェルディアに影人がスプリガンだとバレて以降に、シェルディアの家に招かれた時に影人はぬいぐるみの存在を知った。無論、初めは影人も驚いたが、今ではたまに一緒に遊んだりする中なので、ぬいぐるみが動いている事はあまり気にならなくなっていた。
「ふん、そうかプレゼントか。そうか、そうか」
「おいおい、いいご身分だな吸血鬼。なあ影人。吾にもプレゼントくれよ」
「何なんだよお前ら・・・・・・ていうか、お前は調子に乗るな零無」
なぜかつまらなさそうな顔になったレイゼロールと、拗ねたような零無。そんな2人を見た影人はよく分からないといった顔を浮かべた。
「ふふっ、気分が良いわね」
そんな2人の様子を見ていたシェルディアは、言葉通り気分が良さそうにニコニコと笑った。そして、それから少ししてぬいぐるみが各自の飲み物をトレーに乗せて運んで来た。
「ありがとうね」
「ありがとうな」
ぬいぐるみからトレーを受け取ったシェルディアが感謝の言葉を述べ、シェルディアの隣に座っていた影人も感謝の言葉を口にする。2人にそう言われたぬいぐるみは「うん!」とでも言うように、右手を上げた。そして、ぬいぐるみはテクテクと歩いて再び襖をピシャリと閉めて、自分の部屋に戻って行った。
「それじゃあ本題について、打ち上げパーティーについて話し合いましょうか」
シェルディアが隣に座っている影人、対面に座っているレイゼロールとソレイユを見渡し、そう宣言した。ちなみに、零無は影人の横の空間に浮いていた。
「い、いやだからな嬢ちゃん。俺はそんなもんは――」
「まずは賛成かどうか、改めてあなた達の意見を教えてちょうだい。賛成なら挙手、反対ならそのままよ」
影人が言葉を述べる前に、シェルディアは各自にそう問うた。すると次の瞬間、ソレイユ、レイゼロール、零無、そしてシェルディア自身がその手を挙げた。
「オーマイガー・・・・・・」
その光景を見た影人は反射的に天を仰いだ。分かってはいた。分かってはいたが、そう言わずにはいられない気分だった。
「ふふっ、という事だけれど、それでもあなたは嫌だと言うのかしら? 影人」
シェルディアが隣に座る影人を見つめながらそう言ってきた。この場にいる5人中4人が賛成だというのに、それでも意見を変えないのかとシェルディアは暗に脅しているのだ。
「ぐっ・・・・・・だが、あまり俺を舐めるなよ嬢ちゃん。俺は孤高の一匹狼。人の意見程度で、賛成派が多いからといって意見は変わらない。マジョリティに俺は屈しないぜ・・・・・・!」
しかし、相手はバカの前髪野郎である。バカの前髪は、アホの理屈で格好をつけながら、そう言葉を述べた。相変わらず救えない奴である。
「うわ、出ましたよ。アホモード全開の影人が・・・・・・」
「お前・・・・・・いったい何を言っているんだ?」
「うーむ、本当に吾を封印した後にお前に何があったんだ?」
前髪の言葉を聞いたソレイユ、レイゼロール、零無がそれぞれそう言葉を漏らす。反応はそれぞれ違ったが、1つ共通していたのは3人全員軽く引いていた事だった。
「はあー、仕方ないわね。あなたが素直に頷いてくれていたのなら、それで終わりだったのだけれど・・・・・・あなたがそう言うなら、説得するしかないようね」
シェルディアはため息を吐きそう呟くと、ニコリと笑みを浮かべながら影人にこう言った。
「ねえ影人。あなたは昨日私たちに何をしたのかしら? せっかくあなたの力になろうと集った私たちを、あなたは無下に扱ったわよね? しかも、仮死とはいえ全員を1度は殺して。更に、卑劣な感情を利用する手を使って」
「うっ・・・・・・」
シェルディアにそう言われた影人の顔が、気まずそうに申し訳なさそうに歪む。シェルディアは変わらず笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「そうまでして1人で零無と戦ったあなただけど、結果はあの様よね。正直、情けないわ。私たちが来なかったら、あなたは今頃ここにはいないわよ。別に押し付けるつもりはないけれど、あなたに多少でも罪悪感や私たちに対する感謝の気持ちがあるのなら、普通は断れないと思うのだけれど。ねえ、どうかしら?」
シェルディアの言葉は確かに説得ではあったが、ある意味で一種の言葉の暴力だった。その言葉の暴力にボコボコにされた影人は、完全に項垂れてこう言葉を漏らした。
「あ、はい・・・・・・その、本当それはすいませんでした・・・・・・あの、謝って許される事じゃないのは分かってます・・・・・・」
「分かっているのなら、少しでも贖罪をしようと思うのが人心というものよね? ねえ、そうでしょう? 私、間違った事言っているかしら」
「いえ、そうだと思います・・・・・・」
「そうよね。だったら、あなたはどう言うべきなのかしらね影人」
詰めるように有無を言わさぬように、シェルディアがそう言葉を放つ。シェルディアは笑っているが、シェルディアからはかなりのプレッシャーが放たれていた。
「あ、そ、その・・・・・・」
「な・に・か・し・ら?」
言葉を詰まらせる影人に、シェルディアが更に畳み掛ける。頷かなければ終わらないと悟った影人は、諦め切ったようにこう言葉を漏らした。
「つ、謹んで了承したいと思います・・・・・・あの、こんな私のために、パーティーを計画してくださってありがとうございます・・・・・・」
「ん、よろしい」
前髪野郎の実質的な敗北宣言を聞いたシェルディアは、気分が良さそうに軽く頷いた。
「うわぁ・・・・・・あの影人が完璧に叩きのめされましたよ・・・・・・」
「最初からそう言えばいいものを・・・・・・全く世話が焼ける奴だ」
「ははっ、正論で殴られてやんの」
その様子を見ていたソレイユ、レイゼロール、零無がそれぞれそう言葉を漏らす。
「ふぁ〜あ・・・・・・お菓子、お菓子・・・・・・」
すると、そんなタイミングでリビングに1人の女性が現れた。深緑の長髪に、可愛らしいプリントが施された寝巻き――実質的に彼女の部屋着とも化している――を纏ったキベリアは、リビングにいたシェルディア以外の者たちの姿を見ると、凄まじく驚いた顔を浮かべた。
「え、レイゼロール様!? それに光の女神に帰城影人に昨日の奴もいるし・・・・・・え、ど、どういう事・・・・・・!?」
「キベリアか・・・・・・その、なんだ。お前、随分と可愛らしい服を着ているな・・・・・・」
キベリアの姿を見たレイゼロールは、反応に困ったような顔になりながらそう言った。レイゼロールの言葉を聞いたキベリアは「ひゃ!? あ、あわわ・・・・・・!」と自分の姿を確認して、その顔を赤面させた。
「ああ、ちょうどいいところに現れたわね。キベリア、詳しい事はまだ決まってないけど、パーティーをする事になったわ。取り敢えず、あなたは参加確定ね」
「え、パ、パーティー!? 何のですか!? しかも私は何で参加確定なんです!? 意味分からないんですけど!?」
シェルディアの言葉を聞いたキベリアが絶叫し、その声がリビングに響き渡る。キベリアの絶叫を聞いたシェルディアは「うるさい子ね、あなたは・・・・・・」と呆れたような顔を浮かべていた。
そんなこんなで、打ち上げパーティーをする事が決まったのだった。
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