第309話 彼の者は闇に堕つる
「・・・・・・」
マンションを出た影人は、零無がいると感じる方角に向かって歩いた。
(・・・・・・否が応でも思い出すな。7年前の事を)
歩きながら、内心で影人はそんな事を思った。そう。7年前の自分も、覚悟を決めて1人で零無に会いに行った。まあ、零無はあの時の事を再現しているので、影人がそう思うのもある意味必然なのだが。
(だけど、あの時と明確に違うのは俺には力があるって事だ。あいつを封じる力じゃない。あいつを殺す力が。この力を・・・・・・)
影人は無意識に奥歯を噛み締めるとこう呟いた。
「お前に突き立ててやるぜ・・・・・・零無」
影人は、変わらずに目的地に向かって歩き続けた。ユラリユラリと、幽鬼の如く。
そんな影人は、目的地を半分ほど過ぎた時、とある事に気がついた。
(っ・・・・・・人がいない?)
今影人が歩いているのは、普通の住宅街ではあるが、この時間なら人の姿くらいは見える。そのはずなのに、影人はつい先ほどから自分以外の人の姿を見かけてはいなかった。
「こいつは・・・・・・」
不自然といえば不自然な状況。影人はこの状況に覚えがあった。スプリガン時代、何度も関わった事のある光景だったからだ。
(人払いの結界・・・・・・展開してるのは零無か? あいつが周囲の人間が巻き込まれないように結界を展開するなんて事は考えられないが・・・・・・)
だが、零無以外に結界を展開している人物は思い浮かばない。影人は少しの違和感をを覚えながらも、道を進み続けた。
そして、広場のような少し開けた場所に辿り着く。後もう少しで目的地といったその場所で、
「――あら奇遇ね。こんな素敵な春の夜に、あなたはたった1人でどこに行くつもりなのかしら。ねえ、影人」
影人の前に1人の少女が現れた。影人の名を呼んだその少女は、影人の隣人であるシェルディアだった。
「っ!? 嬢ちゃん・・・・何で君がここに・・・・・・」
シェルディアの姿を見た影人は驚愕し、どこか呆然としたようにそう言葉を漏らした。
「何で? 決まっているわ。あなたの力になるためよ。ねえ、影人。あなた、今から零無と戦いに行くんでしょう」
シェルディアが影人の漏らした言葉に対し、そう言葉を返す。そのついでに、影人が誰にも言っていない秘密を言い当てながら。
「何でそれを・・・・・・」
「勘よ。今日のあなたは、一見するといつもと変わらないあなただったけど、少しだけ何かが違った。何か昏い感情を無理矢理に隠しているような、そんな気がしたの。そして、あなたをいつもと違うものにしているものは何なのか。それは、今の状況を考えると零無の事以外にはあり得ないわ」
再び、影人の漏らした言葉に答えを返すシェルディア。シェルディアは言葉を続けた。
「だから、私は今日常にあなたの気配に気を張っていた。すると、少し前にあなたが1人で急に家を出た。その時、私は思ったわ。どういう背景からかは分からないけど、あなたが1人で零無と決着をつける気だって」
「それで先回りして人払いの結界を張ったのか・・・・・・流石の洞察力だな、嬢ちゃん」
ようやく驚きから立ち直った影人がそう言葉を述べる。影人の様子(しかも上手く隠していたのに)だけからその答えに辿り着き、こうして影人の前に現れるとは。それに、先ほどの疑問も解消された。人払いの結界を張ったのは、零無ではなくシェルディアだったのだ。
「影人、何があったの? きっかけ自体は昨日のシトュウの無力化なんでしょうけど・・・・・・」
シェルディアが心配そうな顔を浮かべ、影人にそう聞いた。シェルディアには具体的に何があって、影人が行動を決めたのかは分からなかったからだ。
「・・・・・・なあ嬢ちゃん。悪い、何も聞かずにそこをどいてくれないか。それで、家に帰って夜風にでも当たって茶を飲めばいい。きっと、そいつがいいぜ」
シェルディアの問いかけに、影人は答えを返さずにそんな言葉を放った。影人にそう言われたシェルディアは少しだけ怒ったように、その目を細めた。
「真面目に答えて影人。冗談を言う場面じゃないわ」
「冗談なんかじゃない。俺は大真面目だぜ。頼むよ嬢ちゃん。事情が、情勢が変わったんだ。俺は1人で零無に会いに行く。そうしなきゃならないんだ」
影人は真剣な表情でシェルディアの言葉を否定した。そう。先ほどの言葉は影人の心の底からの言葉だ。シェルディアにはここで帰ってもらいたい。でなければ、きっと。
「――バカ者だな。普段のお前もバカ者はバカ者だが、今のお前は本当に心の底からの大バカ者だ」
「っ!?」
そんな時、急に第三者の声が響いた。その声に影人が再び驚いた顔になる。すると、シェルディアの横の空間に、その人物は突然現れた。まるで、今まで透明にでもなっていたように。
「レイゼロール・・・・・・お前もいたのか・・・・・・」
長い白髪にアイスブルーの瞳。現れたのはレイゼロールだった。レイゼロールは影人をジロリと見つめると、こう言葉を放った。
「我だけだと思うか? ふん、だから貴様は愚か者なのだ」
「っ?」
レイゼロールの言葉を聞いた影人が意味が分からないといった顔になる。すると、
「――ええ。レールの言う通り、今のあなたは愚か者ですよ影人」
「・・・・・・俺はノーコメントかな。何も言える立場じゃないからね」
レイゼロールと同じように、レイゼロールとシェルディアの横に更に2人の人物が現れた。桜色の長い髪の女性と金髪碧眼の男性、ソレイユとラルバだ。
「お前らもかよ・・・・・・」
新たな2人の登場に、影人が思わずそう言葉を呟く。という事は――
「――私もいますよ」
「・・・・・・だろうな。シトュウさん」
ソレイユとラルバの隣からオッドアイの女性、シトュウが現れた。透明化していたという事は、恐らくレイゼロールの力によるものだろう。
「まずは謝罪を。申し訳ありません帰城影人。私のせいで、事態は非常に厳しいものとなりました。そして、そのせいで零無は何らかの方法をとってあなたに連絡を取った。そうでしょう?」
「・・・・・・」
「その結果、あなたは今から1人で零無と戦いに行く。全ては、私の責任です」
影人の無言を肯定と取ったシトュウが言葉を続ける。その言葉に影人はこう言葉を返した。
「気にするなよ。こうなっちまったもんはもう仕方がねえんだ。・・・・・・取り敢えず、どいてくれよ。俺は先を急いでるんだ」
「どきませんよ。あなたが1人で零無の所に行こうとしている限り。行くならみんなでです。影人、私たちは言ったはずですよ。今度はあなたの力になると」
ぶっきらぼうな口調の影人に、ソレイユが毅然とした態度でそう言葉を返す。ソレイユの言葉は、大方のこの場にいる者の総意だった。
「・・・・・・そうだな。お前らはそう言ってくれた。あの時の俺も、それをありがたいと思って受け入れた。素直に心強いって思えたよ」
「だったら・・・・・・!」
影人の言葉を聞いたソレイユが言葉を挟もうとする。だが、それよりも早く影人は言葉を述べた。
「だけどな、状況が変わっちまったんだよ。俺は1人で零無と戦う。それが俺が決めた事だ。悪いが、俺は1度決めた事は基本的には曲げねえぞ。それは、お前が1番よく知ってるだろ。ソレイユ」
「っ、影人・・・・・・」
ソレイユがなぜといった顔を浮かべる。今の影人はソレイユが知っている影人ではない。確かに、影人は少し常人とは違う感覚を持っているし、基本は1人で行動する人間だ。
しかし、その奥底には常に善意と人を理解する精神を持っている。普段の影人ならば、渋りはするかもしれないが、頭を下げて一緒に戦ってほしいと言うはずだ。それがなぜこれほどに悪い意味で頑ななのか。ソレイユには分からなかった。
「・・・・・・無駄だソレイユ。恐らく、今のこいつには何を言っても通じん。今のこいつは・・・・・・感情の闇に捉われている。少し前までの我のようにな」
「・・・・・・そうね。レイゼロールの言う通りだわ。今の影人には残念ながら、言葉は通じないでしょうね」
影人の様子を見たレイゼロールとシェルディアがその事を悟る。それ程までに、影人は頑なだった。
「・・・・・・ならば、方法は1つだけだ。このバカに力づくでも我たちの価値を教えてやる」
レイゼロールがスッとその目を細め、その身から闘気を放つ。その闘気を感じ取ったシェルディアが軽く目を瞑る。
「・・・・・・悲しいけれど、道はそれしかないようね。残念だわ。あなたとこういう形で戦うような事は2度とないと思っていたけれど・・・・・・」
シェルディアも自身の重圧を解放した。途端、圧倒的な強者としての波動が放たれる。2人のその様子にソレイユは戸惑った表情を浮かべた。
「ま、待って下さい2人とも! 本気で影人と戦う気ですか!?」
「ああ。それしか方法はないからな。バカ者は殴って正気に戻してやるに限る」
「そういう事よ。何、決着は一瞬でつくわ。今の影人はスプリガンではない。ただの、一般人なのだから」
「そ、そんな・・・・・・」
既に覚悟を決めた2人の言葉を受けたソレイユが、どこか呆然とした顔になる。まさかこんな事になるとは。もう自分たちが戦い合う理由なんて何もないはずなのに。ソレイユはその事が悲しくて、悲しくて堪らなかった。
「ところでだ影人。お前はこの場にいるのが、我たちだけだと思っているようだが・・・・・・それは間違いだ」
レイゼロールはそう言うと、パチンと右手を鳴らした。すると、
「――やっとかよ。だが、はっ、面白い事になって来たじゃねえか」
「――ははっ、同意するぜ」
「――ふん」
そんな声がどこからか聞こえて来た。声と同時に、レイゼロールの周囲、或いは上空に複数人の男女が現れた。その数は全部で9人。今声を発したのは、その中の道士服の男と赤みがかった黒髪の男、そして紫紺の髪の少女だった。
「っ、お前らは・・・・・・」
その9人に見覚えがあった影人が前髪の下の目を軽く見開いた。そう。彼・彼女らはかつての影人の敵。全員と直接戦ったわけではないが、その実力が尋常ではない事を影人は知っていた。
「最上位闇人ども・・・・・・『十闇』か」
「ええ、そうです。お久しぶりですね、スプリガン。いえ、今のあなたの名前は帰城影人でしたか」
影人の呟きに執事然とした男、「十闇」第2の闇『万能』のフェリートが頷いた。フェリートは軽く口角を上げた作り笑いを浮かべると、影人の名前を呼んだ。
「・・・・・・はっ、お前らまで揃いに揃ってかよ」
「うん。でも、俺たちだけじゃないよ。ここに、君のために集ったのは」
影人の少し呆れたような、困ったような言葉に、今度は黄色に近い金髪に一部が黒髪の少年、「十闇」第1の闇『破壊』のゼノがそう言葉を返して来た。
「っ?」
「ほら、レール。全員の透明化を解いてあげなよ」
意味が分からないといった顔を浮かべる影人。そんな影人を見てか、ゼノはレイゼロールにそう言った。
「ああ、分かっている」
レイゼロールが再び右手を鳴らす。それも2度。すると、ソレイユとラルバの周囲にまた複数人の人間たちが現れた。
「っ!?」
更に新たに現れた複数人の男女。その人物たちの姿を見た影人は再びその前髪の下の両目を見開いた。
「何で・・・・・・お前らの、その姿は・・・・・・」
その男女たちにも影人は見覚えがあった。ただ、影人が真に驚いたのは彼・彼女らの纏うその装束だった。コスチュームのようだったり、軍服のようであったり、和装のようであったり、彼・彼女らの纏うその装束は、いわゆる普通の服とはどこか違っていた。
「光導姫、守護者・・・・・・」
そう。それはかつてレイゼロール率いる闇側の勢力と戦っていた者たち。レイゼロールとの最後の戦い以来、この世界から消えたはずの者たち。その者たちが、どういうわけか今影人の前に現れた。
「帰城くん・・・・・・事情は全部ソレイユ様から聞いたよ」
「まさか、帰城くんが蘇った背景にそんな事情が絡んでいるなんて、分からなかったわ・・・・・・」
影人が驚いていると、光導姫としてのコスチュームを纏った2人、朝宮陽華と月下明夜が真面目な顔で影人にそう語りかけて来た。2人の反応からも分かるように、影人は自分が蘇った事に零無という存在が絡んでいる事を、事情を述べた者たち(陽華や明夜、ソニアなど)に言っていなかった。要は、ぼかしていたのだ。
「うん。君が私たちに蘇った理由をぼかしたのは、私たちを気遣っての事だって分かるよ。でも、私言ったよね。もっと人を頼ってって。だけど、君はまた1人で全部背負うとしてる。私は今度はそれを見逃せない」
陽華と明夜に続くように影人にそう言ったのは、学生服を改造したような日本のアイドル然とした衣装を纏った、オレンジ色に近い金髪の少女。元光導姫ランキング2位『歌姫』のソニア・テレフレアだった。ソニアもどういうわけか光導姫としての姿だった。
「そうだよ帰城くん。今度は僕たちが君の力になる番だ。それが強力な敵なら尚更の事。1人でも出来ない事も、みんなでなら出来る。ましてや、これだけの人数に、かつて敵であった光と闇が手を組むんだ。どんな者にだって、そう簡単に負けやしないよ」
白を基調とした王子然とした衣装に身を包んだ男、元守護者ランキング10位『騎士』の香乃宮光司も、影人にそんな言葉を掛けてきた。光司の姿もかつての守護者としてのものだ。
「・・・・・・どういうわけだ。何で、お前らが光導姫と守護者に戻ってやがる。お前らのその力は、既に失われたはずだろ」
疑問を抱いた影人がそう言葉を呟く。影人のその呟きに答えたのは、ラルバだった。
「簡単な話だよ。再びここにいる者たちに、俺とソレイユが力を与えたのさ。守護者と光導姫の力をね。その許可は、シトュウ様が長老を通じて与えてくださった」
「影人。ここに集った皆は、あなたのために再び戦う事を決めてくれた者たちです。そんな者たちを前にしても、あなたはまだ1人で戦うと言うのですか」
ラルバの言葉を引き継ぐように、ソレイユが影人にそう訴えかける。
「まあ、そういう事だよ帰城くん。私を始め、ここに集った諸君は君のために集った、いわば兵隊さ。まあ闇人たちはレイゼロールの命令という側面が大きいようだがね」
そう言ったのは、水色の長髪に一部分が白色の髪の少女。元光導姫ランキング7位『芸術家』のロゼ・ピュルセだった。ロゼは少し芝居がかった仕草で手を広げた。まるで、ここにいる一同を紹介するかのように。
「・・・・・・」
影人は改めてここに集った者たちを見渡した。
まずは影人が零無の話をした5人。
シトュウ。
ソレイユ。
ラルバ。
レイゼロール。
シェルディア。
次に最上位闇人たち。
第1の闇『破壊』のゼノ。
第2の闇『万能』のフェリート。
第3の闇『闇導姫』のダークレイ。
第5の闇『強欲』のゾルダート。
第6の闇『狂拳』の冥。
第7の闇『剣鬼』の響斬。
第8の闇『魔女』のキベリア(キベリアだけ箒に乗って宙に浮いていた。すごく嫌そうな顔を浮かべながら)。
第9の闇『殺影』の殺花。
第10の闇『道化師』のクラウン。
全員揃い踏みだ。
次に守護者たち。
元守護者ランキング1位『守護者』プロト・ガード・アルセルト。
元守護者ランキング2位『傭兵』ハサン・アブエイン。
元守護者ランキング3位『侍』剱原刀時。
元守護者ランキング5位、『凍士』イヴァン・ビュルヴァジエン。
元守護者ランキング6位『天虎』練葬武。
元守護者ランキング7位『銃撃屋』エリア・マリーノ。
元守護者ランキング8位『狙撃手』ショット・アンバレル。
元守護者ランキング第9位『弓者』ノエ・メルクーリ。
そして、元守護者ランキング10位『騎士』香乃宮光司。
元守護者ランキング4位『死神』の案山子野壮司以外の最上位守護者たち9人がいた。
最後に光導姫たち。
元光導姫ランキング1位『聖女』ファレルナ・マリア・ミュルセール。
元光導姫ランキング2位『歌姫』ソニア・テレフレア。
元光導姫ランキング3位『提督』アイティレ・フィルガラルガ。
元光導姫ランキング4位『巫女』連華寺風音。
元光導姫ランキング5位『鉄血』エルミナ・シュクレッセン。
元光導姫ランキング6位『貴人』メリー・クアトルブ。
元光導姫ランキング7位『芸術家』ロゼ・ピュルセ。
元光導姫ランキング8位『閃獣』メティ・レガール。
元光導姫ランキング9位『軍師』胡菲。
元光導姫ランキング10位『呪術師』榊原真夏。
そして、ランキング外ではあるが、レイゼロールを浄化した光導姫、レッドシャインこと朝宮陽華。ブルーシャインこと月下明夜。計12人。
つまり、影人を除いて35人もの者たちが集っていた。
「はっはっは! 久しぶりね帰城くん! この私が助けに来て上げたわ! ちなみに今は大学1年よ!」
「お兄さん。また会えて嬉しいです」
「けっ、面倒だがてめえには世界を救ってもらった恩があるからな。借りを返しに来てやったぜ」
「同じく私もですわ」
「・・・・・・私は贖罪のためにだ」
「私も今まであなたに受けた恩を返すために」
「私は何か人が困ってるようだから来たよ」
「私もだぞー!」
真夏、ファレルナ、菲、メリー、アイティレ、風音、エルミナ、メティたち光導姫は影人にそう言って来た。
「そういうこった。スプリガンさん、あんたにこの世界を救われた以上、俺たちはあんたに返しきれないくらい大きな借りがあるのさ」
「ふん、普通なら報酬をもらうところだが、今回だけ特別にタダで働いてやる」
「お前は真の一流だ。俺は真の一流には敬意を払う。そして、力にもなろう」
「ま、俺も皆さんと同じ理由だなー」
「俺もまた戦うのなんて面倒くさいし死ぬほど嫌だけど・・・・・・まあ、ここで断るほど人間堕ちちゃいないから」
「何でか知らないけど、メルクーリ家には『前髪が長すぎて顔の上半分が見えない奴は助けろ』って家訓があるんだよ。だから、嫌だけど助けてやる」
「戦いがあるから来た。以上だ」
「帰城影人さん。微力ながら、僕もお力添えをさせていただきます」
刀時、ハサン、エリア、ショット、イヴァン、ノエ、葬武、プロトたち守護者も影人にそう言ってきた。
「まあ、レイゼロール様の命令ですがお助けに来ましたー。こんなピエロが力になるのは難しいかもしれませんがね」
「嫌だけど、本当に死ぬほど嫌だけど、レイゼロール様とシェルディア様の命令だから戦ってあげるわよ」
「己はあの時レイゼロール様を救っていただいた恩義を返しに」
「僕もそういう理由かな」
クラウン、キベリア、殺花、響斬たち最上位闇人も影人にそう言って来た。
非常に多くの者たちからそんな言葉を送られた影人は、驚いた顔になりながらも、フッとその口元を少しだけ緩ませた。
(ったく、こいつらは。本当に揃いも揃ってよ・・・・)
お人好しで、俗に言えばいい奴ら。影人はそんな感想を胸の奥で呟いた。
(正直に言えばありがたい。これだけの奴らが力になってくれるなら、零無に勝てる可能性も上がるかもしれない。だけど・・・・・・だからこそ・・・・・・)
影人はここにいる者たちを死なせたくはなかった。ただ単純に、自分の為に戦ってくれた誰かが死ぬのは気分が悪いから。
ゆえに、
「・・・・・・邪魔だてめえら。どんな奴だろうが、今の俺の道を阻む者に俺は容赦はしねえ。今すぐにどきやがれ」
影人は冷たい声で全員に対してそう言った。
そして更に、
「そうしないって言うなら・・・・・・俺は無理やりにでもそこを通るぜ。てめえら全員を叩き潰してでもな」
影人はこの場にいる全員にそう宣言した。
――彼の者は闇に堕つる。深く昏い、優しさゆえの闇の中に。
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