第305話 歌姫、実家に来る
「いや、それは流石に無理だ。いや、無理ですって金髪さん・・・・・・今家には妹もいるし、母さんももう少ししたら帰ってくるし・・・・・・後は、そもそも家に同年代の女子を上げるなんて、陽キャっぽい事もしたくないし・・・・・・というか、家でそんな話出来るかよ」
影人はブンブンと首を何度も横に降りながら、ソニアが暗に言わんとしている事を拒否した。それはそれは激しく。だが、見た目とは裏腹に内心ではかなりブチギレているソニアは、ニコニコとした表情を崩さないままこう言ってきた。
「話は別に影くんの部屋ですればいいだけだよね? 後、人がいる事は気にしないから。むしろ、挨拶したいし」
「いや、機密性の問題・・・・・・なあ、頼むって金髪。それだけは勘弁してくれ。100パーセント、妹と母さんにからかわれる。後、お前有名人だから、その辺りも色々ややこしくなるんだよ。な? 埋め合わせはまたするから。だから、本当に勘弁してくれ」
影人は手を合わせ頭を下げた。だが、ソニアはムッとした顔になり、バッサリと影人の言葉を拒否した。
「ダメ。今回だけは絶対にそうしてもらうから。退かないよ私。影くんが止めても、昔からの友達ですって言って家に突撃するから」
「そ、そんな殺生な・・・・・・」
取り付く島もないといった感じのソニア。そんなソニアに、影人は絶望したような顔を浮かべた。
「・・・・・・・・・・・・はあー。分かった、分かったよ。何が面白いのか知らねえが、俺の家に上げてやるよ」
「本当!? もう最初からそう言ってくれればよかったのに♪ やったー!」
ガクリと肩を落とし、影人は大きなため息を吐いた。そんな影人とは裏腹に、ソニアは一転、上機嫌になると、明るい笑顔を浮かべた。
「ただしだ。やっぱり、万が一にも話は家族に聞かれたくないから、道すがら話す。それでももし、時間が足りない感じだったら外で話す。後、家にいる滞在時間は30分だけ。それが条件だ。呑まなきゃ俺も手を考えるぜ」
影人は喜ぶソニアにそう言葉を付け加えた。一応、建前としては話をするために帰城家に行きたいとソニアは言っているので、この条件は本末転倒気味なのだが、本音としてはなぜかソニアは帰城家に来たいようなので、影人はこの条件を提示したのだった。
「1時間! せめて1時間にして! それだったら、もう何も言わないから!」
「お前・・・・・・ちっ、分かったよ。なら1時間だ。その代わり、きっちり1時間だからな」
「
ソニアの言葉を仕方なく受け入れ、影人は時間制限を緩和した。ソニアは軽く跳び上がると、先ほどまでの様子はどこへやら、上機嫌も上機嫌で影人にそう言ってきた。
「現金な奴め・・・・・・それじゃ、家に向かいながら話すから。しっかり聞けよ」
「っ、うん」
ソニアと自宅に向かって歩きながら、影人がそう前置きする。ソニアは真面目な顔を浮かべると、コクリと頷いた。そして、影人は陽華や明夜に話したように、自分の事を忘れていた理由をソニアに説明した。
「・・・・・・ってな感じだ。まあ、想定外の事が起きてまた生き返ったわけだが、本当だったらお前らはずっと俺の事を忘れてたってわけだ。殴りたくなったら好きにしろよ」
家まで後もう少しといったところで、影人は説明を終える事が出来た。真面目なトーンで隣を歩くソニアに、影人はそう言った。
「・・・・・・・・・・・・そう、だったんだ」
影人から理由を説明されたソニアは、未だに衝撃を受け止めきれていないような声音でそう呟いた。そして、少しの間ソニアは黙り、数瞬してこう言葉を放った。
「・・・・・・でも、殴らない。確かに、君がした事は私たちからしたら許せない。だけど、影くんからしたら、それは最大限の君の優しさだったんだよね。それは分かるよ。だから、私は殴らないでいてあげる」
「・・・・・・そうか」
「でも、次こんな事したらその時は殴るから。君は本当、もっと人を頼らないとね。大事な事言わなすぎだし」
「安心しろ。流石にあんな事は2度としねえよ。人を頼れね・・・・・・よく言われるよ、それ」
「それだけ君が色んな意味で独りよがりって事だよ」
「別に独りよがりまでは行ってないと思うが・・・・・・まあ、分かったよ」
影人とソニアがそんな言葉を交わしていると、とあるマンションの前に着いた。影人やシェルディアなどが住んでいるマンションだ。いよいよ着いてしまった。
「ここが君が住んでるマンションだよね? よし、じゃあ早く入ろう! 楽しみだなー影くんのお家。どんな感じかなー♪」
「お前が何でそんな楽しそうなのかは、全く以て意味が分からんが、別に普通だ。期待し過ぎるなよ」
影人はそう言うと、マンションの中へと入った。ソニアも影人と共に中に入る。そして、階段を上がりまた少し歩く。
そして、
「・・・・・・着いたぞ」
2人は帰城家の家であるマンションの一室の前に辿り着いた。
「へえ、ここが君のお家かー。ねえ、早く早く。早く中入ろう!」
「だから何でそんなテンション高いんだよ・・・・・・ちょっと待て。いま鍵出すから」
子供のようにはしゃぐソニアを宥めつつ、影人は鞄から鍵を出した。そして、玄関のドアを解錠した。
「お、おじゃまします・・・・・・」
「何で次は緊張してるんだよ。ほら、さっさと入れ」
一瞬前のはしゃぎ様はどこへやら。急に緊張した様子に変わったソニアに、影人は疑問を抱きながらも家に入った。当然ソニアも。玄関のドアが閉まり、影人は鍵を掛けた。
「俺の部屋すぐそこだから、ドア開けて入ってろ。俺はちょっとトイレ行ってくるから」
「う、うん。分かったよ」
自分の部屋のドアを開けて、影人はソニアにそう告げた。影人にそう言われたソニアは素直に頷き部屋の中に入る。それを確認した影人は自分の部屋のドアを閉めると、軽く息を吐いた。
「ふぅ・・・・・・さて、今から1時間か。何とか穂乃影にバレないようにしないとな・・・・・・」
同年代の女子を部屋に連れ込んだなどという事が穂乃影や、まだ帰って来ていないが日奈美などにバレれば、間違いなくからかわれる。それに加えて、その連れ込んだ女子が、あのソニア・テレフレアとバレてしまっては、間違いなく2人は驚愕するだろう。それが原因で色々聞かれるのは本当に面倒なので、影人は家族にソニアを連れ込んだ事がバレないようにしようと考えていた。
「・・・・・・ん、おかえり」
「おう、ただいま」
影人がリビングに続く廊下を歩き始めると、リビングの方からそんな声が聞こえた。穂乃影だ。部屋着に着替えていた穂乃影は、イスに座りながらスマホをいじっていた。影人は穂乃影の声にそう言葉を返すと、トイレに入り用を足した。
「・・・・・・誰か連れて来たの? 何か違う声が聞こえた気がしたけど」
影人がトイレから出ると、穂乃影が突然そんな事を聞いて来た。穂乃影からそう聞かれた影人はドキリとしながらも、こう答えを返した。
「あ、ああ。ちょっと話が合った同じクラスの奴をな。1時間くらいだけ駄弁ろうって事になったんだ。そいつ、ちょっと恥ずかしがり屋だからさ。悪いけど、部屋にはしばらく来ないでくれ」
誰かを連れて来た事がバレているなら仕方がない。ここでそんな事はしていないと否定するのは、悪手になると思った影人は嘘の種類を変えた。
「ふーん・・・・・・あなたと話が合う人なんかいたんだ。絶滅危惧種だね」
「んなわけねえだろ・・・・・・とにかく、そういう事だから頼むぜ穂乃影」
「まあ、分かった」
穂乃影はそう言うと、視線を再びスマホへと移した。その様子を見た影人はホッと内心で息を吐いた。
(よし、この感じなら大丈夫だな。はあー、誰か連れて来たってバレた時はちょっと焦ったが、流石は俺だぜ。ピンチになればなるほど、アイデアが湧いて来やがる。ふっ、今回も何とか――)
勝ったな。影人がそう思ったのと同時に、
「ごめん影くん。私もちょっと
ソニアがこちら側に出てきてそう言ってきた。しかも、変装用の帽子とメガネを外した状態で。
「なっ・・・・・・!?」
「え・・・・・・・・・・・・?」
そんなソニアを見た影人は何でこのタイミングでといった感じで驚き、穂乃影は別の意味で驚いた。穂乃影には珍しい事に、その目を最大限まで見開き、呆然とした顔を浮かべていた。
「あ、この子が妹さん? うわー、可愛い!」
一方、ソニアは2人の反応を全く気にしていない様子で、リビングにいる穂乃影を見てそんな感想を漏らした。
「ソ・・・・・・ソニア・テレフレア・・・・・・?」
そして、穂乃影は震えたような声で、世界の歌姫の名前を呟いたのだった。
「――ちょっと穂乃影! ソニア・テレフレアが家にいるってどういう事なの!?」
それから数十分後。ドタバタとした感じで、日奈美がリビングへと現れた。よほど急いで来たのだろうか、日奈美のスーツはシャツが飛び出ていたりと、少し乱れていた。
「あ、お母さん・・・・・・」
そんな日奈美を見た穂乃影が未だに呆然としたような顔を浮かべながら、そう言葉を漏らす。日奈美の言葉からも分かる通り、ソニアの事を電話したのは穂乃影だった。穂乃影からなぜか家にあのソニア・テレフレアがいると聞いた日奈美は、超特急で家へと帰って来たのだった。
「あ、影くんのお母様ですか? 初めまして、ソニア・テレフレアと申します! お邪魔させて頂いてます♪」
日奈美の姿を見たソニアは、穂乃影と同じように座っていたリビングのイスから立ち上がると、弾けるような笑顔を浮かべ、ペコリと頭を下げた。そんなソニアを見た日奈美は、その目を大きく見開き驚愕したような顔になった。
「ほ、本物だわ・・・・・・本当に、本物のソニア・テレフレアが家にいるわ・・・・・・」
少しの間呆然としていた日奈美は、ハッとしたような顔になると、ソニアの隣に座っていた影人にこう聞いて来た。
「影人! これいったいどういう事なのよ!? 何であのソニア・テレフレアが家にいるの!? 意味が分からないわ!」
「い、いやその・・・・・・」
日奈美にそう問い詰められた影人は、何と言ったらいいのか分からないといった感じの顔を浮かべた。どうしよう、最悪だ。事態は最悪中の最悪になってしまった。影人がダラダラと冷や汗のようなものをかいていると、隣にいたソニアが再び席に着き、日奈美にこう言った。
「お母様。その事は私からお話させて頂きますね♪どうぞ穂乃影ちゃんの隣へ」
「あ、は、はい・・・・・・どうしよう、ソニア・テレフレアにお母様って呼ばれちゃったわ・・・・・・」
日奈美は未だに呆然としながらも、ふらふらといった感じで穂乃影の隣のイスに腰を下ろした。
そして、ソニアは影人と自分との関係について話した。小学生時代に関わりがあった事。そして、去年の夏頃にたまたま邂逅した事。それから、ソニアが活動拠点を日本に移してから、繋がりを持続させている事などを。
「・・・・・・ま、まさかウチの息子とソニア・テレフレアにそんな関係があったなんて・・・・・・」
「驚き・・・・・・」
ソニアの話を聞いた日奈美と穂乃影は、驚いた様子でそう言葉を漏らした。
「というか影人! あんた、ソニア・テレフレアと小学生の時から関わりがあったのなら言いなさいよ! あんたこの子がどれだけ有名人か分かってるの!?」
「しかも、初対面の時にソニア・テレフレアの歌に下手くそって・・・・・・やっぱりあなたは頭がおかしい」
次いで、日奈美と穂乃影が影人にそう言ってくる。2人の言葉を受けた影人は、どこか慌てたような様子でこう言った。
「し、仕方ないだろ。あん時の金髪は実際、マジで歌下手だったし・・・・・・それに、俺もあの金髪がソニア・テレフレアなんて分からなかったんだよ。分かったのは、こいつと再会した去年だったし・・・・・・」
「いや、だからってあんたね・・・・・・」
影人の言い訳を聞いた日奈美が呆れ切ったような顔になる。日奈美の隣の穂乃影も同じような顔だ。
「あはは、影くんらしいですよね。でも、影くんを責めないであげて下さい。彼はきっと、私をただの昔馴染みとして扱ってくれているだけですから。その気遣いも嬉しいんです」
影人を擁護するようにソニアが口を開く。ソニアのその言葉を気遣いと感じた日奈美と穂乃影が、申し訳なさそうな顔を浮かべる。しかし、そんなタイミングで、
「いや、単純に話すの面倒くさかっただけだぞ?」
全てをぶち壊すかのようにアホの前髪が、不思議そうにそう言った。瞬間、ソニアの笑顔がビシッと固まった。
「このバカ息子! ちょっとは空気読みなさい!」
「痛え!?」
日奈美が反射的に影人の頭を叩いた。まあ当然だ。日奈美に頭を叩かれたバカ前髪はそう声を漏らした。
「本当にごめんなさいね。ウチのバカ息子、ちょっとアレなところがあるのよ。昔はそうでもなかったんだけど・・・・・・はあー、こういうところだけ父親に似てきたのかしら」
「あ、あはは・・・・・・」
日奈美がソニアに謝罪の言葉を述べる。ソニアは流石に苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
「お詫びと言ってはなんだけど、よかったら晩ご飯をどう? お口に合うかは分からないし、もちろん嫌なら全然断ってくれてもいいんだけど・・・・・・」
「え!?」
日奈美の言葉を聞いたソニアが驚いた顔を浮かべた。日奈美の言葉をソニア同様に聞いていた影人は、頭をさすりながらこう言葉を述べた。
「いや、それは迷惑だって母さん。金髪の奴も忙しいし、そもそも金髪も嫌――」
「是非! 是非お願いします! やったー! 影くんと影くんの家族とディナーだ! 嬉っれしい♪」
だが、影人が言葉を言い終わる前に、ソニアは嬉しそうにそう返事を返した。ソニアの言葉を聞いた影人は「はあ!?」と悲鳴に近い声を漏らした。
「本当? ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいわ。よーし、なら腕によりをかけて作らないとね」
「うわ・・・・・・私、ソニア・テレフレアと一緒にご飯食べちゃうんだ・・・・・・これ、夢・・・・?」
一方の日奈美は笑みを浮かべそう言って、穂乃影はいっそのこと不思議そうに首を傾げていた。
こうして、ソニアは帰城家と夕食を共にする事になったのだった。
「はあー、美味しかった♪ それにすっごく楽しかった♪」
午後7時半過ぎ。夜の住宅街を歩きながら、ソニアは心の底から満足したようにそう言った。
「けっ、俺は最悪だったがな。針の
そんなソニアの感想に、隣を歩いていた影人はそう言葉を返した。
ソニアが夕食を食べるという事で、日奈美は気合いを入れてハンバーグを作った。ソニアもなぜか手伝うといって日奈美を手伝った。そして、4人で夕食を囲んだ。
ソニアは積極的に日奈美と穂乃影に話しかけ、最終的には2人とかなり打ち解けた様子になっていた。生来の華やかさというか明るさのためだろう。日奈美はソニアの事を大層気に入り、最終的にはソニアの事を「ソニアちゃん」と呼んでいた。そして、ソニアさえよければまたぜひ来てくれと言い、ソニアも嬉しそうに頷いた。これはまた絶対に来るなと影人は確信した。そして、影人は日奈美に言われてソニアを送っているというのが現在の状況である。
「ったく、お前のせいで俺は帰ってまた母さんや穂乃影からいらない事言われるんだ。頼むから、もう2度と俺の家には来るなよ」
「えー、でもお母様にまた来てって言われちゃってるし。それを断るのは出来ないよ♪」
「ちっ・・・・・・」
笑顔を浮かべるソニアに影人は舌打ちをした。そして、ソニアはこんな言葉を漏らした。
「ふふっ、やっぱり難攻不落の城を攻めるには、まず外堀からだよね。今日は本当いい日だったな♪」
「?」
影人にはそのソニアの言葉の意味は分からなかった。影人は大した事ではないだろうと思い、その言葉を無視すると、軽く息を吐いた。
「はあー・・・・・・だけど、お前のおかげで母さんと穂乃影が喜んでたのは事実だ。そういう面では・・・・・・ありがとうな」
「っ・・・・・・!?」
影人は少し照れたような顔になりながら、ソニアに感謝の言葉を述べた。前髪のツンデレ部分のデレである。普通は全く需要がない事で有名なのだが、影人にそう言われたソニアは驚いたような顔を浮かべ、次の瞬間頬を少し赤くさせ、ニヤニヤとした顔になった。
「あー、もう! ズルいなぁ・・・・本当ズルいよ君は・・・・・・でも、えへへ・・・・そういうところも、いいよね・・・・・・」
「あ? お前さっきから何言ってるんだ・・・・・・?」
「別に♪ 何でもないよ♪」
またもソニアの言葉の意味が分からなかった影人意味が分からないといった顔になり、ソニアは変わらずニヤけた顔のまま、べっと軽く舌を出した。
「? 変な奴・・・・・・」
影人は諦めたようにそう呟くと前を向いた。そんな影人を横から見つめながら、ソニアは内心こんな事を思った。
(ああ、好き。君の事が、君といる時間が。本当なら、今すぐにでも私のこの気持ちを君に伝えたい。もう2度と思いを伝えられないと思っていた君が、また私の前にいる。こんな奇跡、こんなチャンスを今度こそ逃しちゃいけないのに・・・・・・)
レイゼロールとの最後の戦いの時に、影人は1度死んだ。あの時、ソニアは影人に自分の恋心を伝えなかった事を激しく後悔した。戦いが終わり、影人が消えるまでに数日間の時間はあったが、ソニアは自分の気持ちを影人に伝える事が出来なかった。そういった事を考えると、本当はソニアは今すぐにでも影人に自身の気持ちを伝えた方がいいのだろう。
だが、
(でも・・・・・・まだ、まだもう少しだけ。もう少しだけ、この気持ちを味わわせて。臆病な私を許して。でも絶対、絶対、近い内には私のこの気持ちを君に伝えるから。例え、どんな結果になったとしても・・・・・・)
もう少しだけ恋する乙女でいさせてほしい。これはソニアの我儘だ。だけど、それくらいは今度こそ許されるだろう。でなければ、あまりにも世界は残酷過ぎる。
「ねえ、影くん。手、繋ごう?」
「はあ? 何でだよ?」
「いいから。ほら早く」
「嫌だ。断じて却下する」
「あー、そんな事言うんだ。私、まだ君に撃たれた時の事忘れてないんだけど。あれは痛かったなー」
ソニアが右手で軽く自身の左腕をさする。ソニアが言っているのは、アメリカでのカケラ争奪戦の時に、スプリガン時の影人に発砲された時の事だ。ソニアは影人が自分を躊躇なく撃った事にショックを受けていた。
「ぐっ・・・・・・いや、でもアレは仕方が――」
「痛かったなー。ショックだったなー」
影人が弁明の言葉を述べようとするが、ソニアは全く取り合わなかった。ソニアにそう言われた影人は、大きなため息を吐くと、ガクリと肩を落とした。
「はあー・・・・・・分かったよ。何で俺なんかと手繋ぎたいのか全く分からんが・・・・・・」
影人が自身の左手をソニアに差し出す。ソニアはその手を自身の右手で握った。
「ん、よろしい。えへへ、影くんの手あったかいね」
「そりゃ生きてるからな」
影人の手を握ったソニアが上機嫌に笑う。影人はいつもと変わらない様子で、ソニアにそう言葉を返した。
――こうして、ソニアの帰城家襲来イベントは幕を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます