第299話 デートと女子高生たちは賑やかに

 次回予告はブラックホールの彼方に消え去った。


「朝宮に月下・・・・・・? お前ら、こんな所で何やってるんだよ?」

 2人揃って地面に倒れている陽華と明夜を見た影人は、スチャッとサングラスを上げながら、そう言った。サングラスを上げても出てきたのは、前髪野郎を前髪野郎たらしめている前髪。意味不明である。

「あ、あははは・・・・・・」

「き、奇遇ね帰城くん。さっきぶりだわ・・・・・・」

 影人にそう聞かれた陽華は苦笑いを浮かべ、明夜も似たような表情を浮かべながら、そう言葉を述べた。

「ふん、やはりお前らだったか。コソコソと我と影人の跡をつけていたのは」

 一方、そんな陽華と明夜を見たレイゼロールは、ピン留めを外しながらそう呟いた。その顔は呆れと少しの不機嫌さが混じっているように見えた。

「朝宮と月下が俺たちをつけてた? おいおい、マジかよ。ていうか、その口ぶりだとお前気づいてたのか?」

「まあな。だが、悪意は感じなかったのでそのままにしていた。2人という人数と、知ったような気配なので、大体の見当はついていたからな」

 影人の問いかけにレイゼロールは頷いた。レイゼロールの言葉を影人同様に聞いていた陽華と明夜は、気まずい顔になる。

「ご、ごめんなさい・・・・・・実は私たちもここに遊びに来てて、このモール内でたまたま2人を見かけて・・・・・・それで、気になって尾行してました・・・・」

「ごめんなさい。好奇心と乙女心に勝てなくて・・・・・・」

 立ち上がった陽華と明夜は自分たちの行為を認め、影人とレイゼロールに謝罪した。

「へえ、そうだったのか・・・・・・まあ、確かにレイゼロールと俺が2人でこんな所にいたら気になるわな。気にすんなよ朝宮、月下。別に俺は何も気にしてないし」

 2人の気持ちに理解を示した影人は、軽い感じでそう言った。その影人の言葉を聞いたからか、レイゼロールも「ふん・・・・・・」と声を漏らし、こう言葉を続けた。

「別に謝罪などいらん。見られて困るような事など・・・・・・いや、やはり・・・・・・」

 途中で自分と影人が手を繋いでいた事を思い出したレイゼロールは、少し恥ずかしげな顔になると、2人にこう言った。

「1つだけ約束しろお前たち。我と影人がその・・・・て、手を繋いでいた事は誰にも言うな。特にソレイユやシェルディアには。分かったな?」

「わ、分かりました・・・・・・」

「ぜ、絶対誰にも言いません・・・・・・」

 レイゼロールのアイスブルーの瞳に睨まれ、そう言われた陽華と明夜は、コクコクと何度も頷いた。レイゼロールは口にこそ出さなかったが、無闇に人に話せばどうなるか、その目が物語っていた。

「・・・・・・ならばいい」

 2人の言葉を聞いたレイゼロールは、フイッと顔を背けそう言った。取り敢えずは、レイゼロールも2人を許したようだ。

「しっかし、まさかまたここでお前らと会うとはな。まあ、ここらの学生が休日にどこに行くか、考えてる事は大体同じか・・・・・・ああ、そうだ」

 影人は何かを思いついたような顔になると、陽華と明夜にこう言った。

「せっかくだから、お前らも一緒に行動するか? 一応、今こいつと遊んでんだよ。て言っても、俺金ないから、モールぶらぶらしたり、冷やかしたりしてるだけなんだがよ」

「「え!?」

「っ・・・・・・」

 影人にそう聞かれた陽華と明夜は驚いたような顔を浮かべた。まさか、そんな提案をされるとは思っていなかったからだ。一方影人の隣にいたレイゼロールは、どこかショックを受けたような顔を浮かべた。

「そ、その私たちは正直に言えば一緒に行動したいけど・・・・・・」

「その、レイゼロールは・・・・・・」

 陽華と明夜がチラリとレイゼロールに目を向ける。影人はそう言っているが、レイゼロールは自分たちも一緒に行動する事を良しとしてくれるのだろうか。当然、レイゼロールと2人の間には、様々な因縁があったからだ。

「・・・・・・ふん、別に好きにしろ。お前たちがそうしたいのならばな」

 そして、陽華と明夜に視線を向けられる中、レイゼロールはつまらなさそうに、そんな答えを述べた。一見すると、いつものレイゼロールと変わらないが、その表情には、どこか、どこかほんの少しだけ、残念そうな、拗ねたような色があった。

「って事らしいぜ。どうするお前ら?」

 だが、前髪バカ野郎はその事に気がつかなかった。勘がいいのならばそこは気づいてやれ。だからお前は前髪野郎なのだ。アホの前髪は、再び陽華と明夜にそう問うた。

「え、本当に!? だったら、あの・・・・・・一緒に遊びたいです!」

「わ、私も! ありがとう帰城くん、レイゼロール!」

 影人にそう聞かれた陽華と明夜は、嬉しそうな顔になると影人の問いかけに是を示した。

「おうよ。さて、ならここからどうするかね。朝宮、月下。お前らどっか行きたい所とかあるか?」

 売り物のサングラスを売り場に戻した影人が、2人にそう聞く。影人にそう聞かれた2人はそれぞれこう言葉を返した。

「うーん、私は今は明確に行きたい場所はないかな」

「私はちょっと服見てみたいかも。春用の私服がちょっと欲しいのよね」

「おー、女子だな。いいぜ、じゃあ最初は服屋に行くか。月下、買うやつとか、買う店とかは決まってるのか?」

「ごめんなさい。それはまだ決まってないの」

「了解だ。なら、適当に服屋回るか」

 明夜の答えに頷いた影人が雑貨屋を出る。影人に続き、レイゼロール、陽華、明夜も雑貨屋を出た。

「あの・・・・・・あれから大丈夫だった? その、あなたや闇人たちの処遇については・・・・・・」

 陽華が心配そうな、それでいて意を決したような顔を浮かべ、レイゼロールにそう聞いた。あの戦い以降、レイゼロールたちの処遇は神界の神々に委ねられる事になると、陽華たち光導姫は、ソレイユに聞かされていた(守護者はラルバから)。逆に言えば、それくらいしか聞かされていなかった。

 と言っても、それはまだレイゼロールの処遇が正確に決まっていなかったため、仕方がない事ではあったが。

 ちなみに、あの光と闇の最後の戦いが終わった後、ソレイユやラルバは全ての光導姫や守護者たちに、自分たちが今まで隠していた事を全て話した。すなわち、レイゼロールが実はソレイユとラルバの幼馴染であり、自分たちはずっとレイゼロールを救いたがっていた事。そのために、光導姫や守護者を利用していた事。

 だが、ラルバが実はレイゼロールを殺そうとしていた事だけは伏せられた。これは、別にラルバの名誉を守るためだとか、そんな理由からではない。あくまで、光導姫や守護者がそれ以上混乱しないために、という理由からだ。ラルバのやろうとしていた事は許される事ではないし(それを言うのならば、ソレイユが光導姫を利用してきた事もだが)、ラルバは一生その罪を背負わなければならない。むろん、半分背負うと決めたソレイユも。

 ソレイユとラルバからその事を聞かされた光導姫と守護者たちは、当然の事ながら納得しない者たちも大勢いた。激しく批判する者たちもいた。よくも騙したなと、自分たちの都合のために人間を利用して、と。

 それは当たり前の糾弾だった。命を懸けて戦っていたのに、嘘をつかれていたのだから。ソレイユとラルバは、糾弾の言葉をただ受け入れた。

 しかし、中にはソレイユとラルバたちに同情する者たちもいた。陽華や明夜などの一部の光導姫のように。結局、光導姫や守護者たちは、同情や批判などの気持ちを抱きながらも、その力をソレイユとラルバに返還したのだった。

「・・・・・・色々と説教をされたり、制約を結ばされたりもしたが、我が今ここにいる事が全てだ。闇人たちも2度と無闇に力を使わない限り、その生存を許された」

「そう・・・・・・それなら、よかった」

 レイゼロールの言葉を聞いた明夜が、そんな感想を漏らす。以前「しえら」でシェルディアに聞いた時に、大体の事は分かっていたが、レイゼロールの口から直接そう聞いたので、明夜は安心したのだった。陽華も、明夜と同じような顔になっている。

「・・・・・・ふん、変わった奴らだ。命を懸けて戦ったかつての敵にそう言うか。本当に、余程のお人好しらしいな、貴様らは」

「別にそんな事は・・・・・・」

 レイゼロールの呟いた言葉に、陽華がそう言葉を返した。だが、レイゼロールは「いいや、やはりお前たちはお人好しだ」と言って、こう言葉を続けた。

「約2000年ばかりか、それ程の長い時間、我は光導姫や守護者たちと戦い続けてきた。むろん、時期に誤差はあるが闇人たちもな。その間に、我たちが光導姫や守護者を殺さなかったと思うか? 答えは否だ。我や闇人たちは、もう数え切れないほどに人間の命を奪って来た。敵、だからな。ゆえに、後悔や懺悔の気持ちはない。我らは自分が殺して来た者たちに、何の情も抱かない」

「「っ・・・・・・」」

 その言葉を聞いた陽華と明夜は、ショックを受けたような顔になった。そう。本来、かつての光サイドと闇サイドの間には決定的な溝があるのだ。埋められない程の深い溝が。レイゼロールは、改めて2人にその溝を突きつけた。

「で、でも・・・・・・」

「それでも、それでも私たちは・・・・・・」

 陽華と明夜が何かを訴えかけるような目をレイゼロールに向ける。すると、ちょうどそんな時、今まで黙ってその話を聞いていた影人が、少し呆れたようにこう言葉を挟んできた。

「はあー、お前らさっきから聞いてりゃ、何をそんな真面目な話してんだよ。いやまあ、お前らの間柄、シリアスな話になっちまうのは分からんでもないがよ。だけど、今は遊んでんだぜ? 真面目で難しくて、暗い話は今はいいだろ。多少取り繕ってでも楽しんで遊べよ」

「「っ・・・・・・!?」」

 影人の言葉を聞いた陽華と明夜はハッとした顔を浮かべた。

「・・・・・・ふん、我はただ・・・・・・」

「分かってるよ。朝宮と月下は優しいって事をお前は言いたかっただけだろ? だけど、お前の言い方は難しいんだよ。ずっと人とまともに話してなかったからだろうが、お前コミニケーション能力かなり低いぜ?」

「なっ・・・・・・!? わ、我の伝達能力が低いだと・・・・・・! 我を侮辱するな!」

「いや、侮辱っていうよりかは普通に事実を伝えただけなんだが・・・・・・」

 自分にギロリとした目を向けて来たレイゼロールに、影人は困ったような顔を浮かべた。どうやら、自覚はないらしい。影人は陽華と明夜の方を向くと、こう言葉を述べた。

「悪いな朝宮、月下。こいつにあんまり悪意はないんだ。ただまあ、こいつが言ったみたいに、そういう事実があるのは確かだ。その辺りは、消せない事だし、消しちゃならない事だろう。だけど、まあ・・・・・・」

 影人は軽く頭を掻くと、少し真剣な顔を浮かべた。

「それでも、歩み寄る事は、歩み寄ろうとする事は出来る。少なくとも、人間はそうしてきたわけだしな。お前らは、それを言おうとしてたんだろ? 朝宮、月下」

「え、う、うん・・・・・・」

「た、確かに私たちは、今帰城くんが言ったような事を言おうとしたけど・・・・・・よく分かったわね」

 影人にそう振られた陽華と明夜は驚いたように、そう言葉を漏らした。明夜にそう言われた影人は、「まあな」と呟いた。

「善人のお前らが言いそうな事くらいは分かる。それに、俺はずっとお前らを影から見て来たしな。って、何かこの発言ストーカーみたいで嫌だな・・・・」

 自分で自分の言葉にショックを受けつつも、影人はこう言葉を続けた。

「その歩み寄りのためにも、俺たちは今日一緒に遊ぶんだよ。最初は多少取り繕ってもでいいから、姿勢を示すんだ。分かったか、レイゼロール?」

「・・・・・・ふん、勝手な事を。・・・・・・馴れ合う事はせんぞ」

「ああ、別にそれでいい。よし、なら今度こそしけた話は終わりだ。お前らもいいな?」

 レイゼロールの言葉に頷いた影人が、陽華と明夜に改めて確認を取る。影人にそう言われた2人は、明るい顔で頷いた。

「うん! ありがとう、帰城くん!」

「重たい空気を整理してくれてありがとう。帰城くん気遣いできるのね、意外だったわ」

「しばくぞ月下てめえ。一言余計だ。ったく」

 影人は軽く息を吐くと、再び歩き始めた。陽華、明夜、レイゼロールも影人に続く。その間には、もはや先ほどまでの重たい空気は存在していなかった。













「わあ、これ可愛いわね! ねえねえ、どう思う陽華?」

「うん、凄くいいと思う! あ、でも値段がちょっと高いかな」

 数分後。1階のとある服屋で明夜と陽華がキャッキャとそんな言葉を交わし合っていた。明夜の手には薄い青色のワンピースが握られていた。

「・・・・・・女子だな。俺は服なんざ正直どうでもいいから、あそこまではしゃげないが」

 その様子を見ていた影人は小さな声でそう呟いた。影人は自分の見てくれに興味はないので、服も基本的には動きやすい物しか着用しない。そのため、服に対して思うところが基本ないのだ。

「ふん、よくもまあ服程度であれだけはしゃげるものだな」

 影人の隣にいたレイゼロールも、影人と似たような感想を漏らした。

「俺としては、お前も多少はしゃいでもらいたいがね。大体、お前はいつも仏頂面だからな」

「余計なお世話だ。大体、それを言うなら――」

 レイゼロールが少しムッとした顔で影人に言葉を返そうとすると、陽華と明夜の方から突然こんな声が聞こえて来た。

「あ! この服、レイゼロールに似合うんじゃない!?」

「そうね。あれだけの美人なら絶対似合うわ。ねえ、レイゼロール。ちょっとこっちに来て、これ試着してみてくれない?」

「・・・・・・・・・・・・は?」

 明夜にそう言われたレイゼロールが、意味が分からないといった顔を浮かべる。そんなレイゼロールを見た影人はニヤニヤとした顔になると、レイゼロールの背を軽く陽華と明夜の方に向かって押した。

「ほれ、言われてるんだ。さっさと行って来いよ」

「っ、影人。貴様・・・・・・!」

 影人に押されたレイゼロールが、ギロリと影人を睨んでくる。だが、影人は知らぬ存ぜぬといった感じでその視線を無視した。

「ほら早く来て!」

「うんうん! 大丈夫、絶対に似合うから!」

「き、貴様ら・・・・・・! ええい、離せ!」

「「いいから、いいから」」

 そうこうしている内に、明夜と陽華がレイゼロールに近づき、ガッシリとレイゼロールの両腕を握る。レイゼロールは軽い悲鳴を上げながらも、陽華と明夜に試着室に連行されていった。

「ははっ、凄え光景。ちょっと前までなら、考えられなかった光景だぜ」

 その光景を見ていた影人は、どこか嬉しそうに小さな笑みを浮かべた。あのレイゼロールが、陽華と明夜に試着室に連行されている。何とまあ、不思議な光景だろうか。レイゼロールも本気で嫌ならば、少し力を出せばすぐに逃れられるだろうに。それをしないと言う事は、レイゼロールにも人間に対する少しの譲歩があるという事だろう。もしかしたら、違うかもしれないが。影人はそう思う事にした。

「・・・・・・見てるか、レゼルニウス。あいつは元気でやってるよ。だから・・・・・・安心して、これからも見守ってやれ」

 影人はポツリとそう呟くと、暖かな表情で3人を見つめた。


 それから、

「きゃー可愛い! ほら、レイゼロール次はこれ着てみて!」

「なっ・・・・・・!? や、やめろ。我は着せ替え人形では――」

「いいから、いいから!」

 レイゼロールは明夜と陽華に色々服を着せられたり、

「負けないよ!」

「それはこっちのセリフよ陽華! 最速の女こと月下明夜とは私の事よ!」

「はっ、真の最速が誰か教えてやるよ。スト◯イト・クー◯ーを受け継ぐ男、『影速の疾走者』とはこの俺帰城影人だって事をな!」

「おい、待て。これはどうやって動かすのだ?」

 陽華、明夜、影人、レイゼロールの4人でレースゲームをしてみたり、

「ほら、レイゼロール! スタンプ貯まってたから、クレープ奢るよ! ここのクレープとっても美味しいんだから!」

「ふむ・・・・・・確かに美味いな」

「まあ、食いしん坊の陽華のお墨付きだからね」

「ちょっと明夜! 言い方!」

 陽華と明夜の2人がレイゼロールにクレープを食べさせたりと、色々遊んだ。


「あー楽しかった!」

「本当にね。いい服も買えたし、今日は大満足だったわ」

 そして約2時間後。遊びを満喫した陽華と明夜は、ニコニコとした顔でそんな感想を漏らした。陽華、明夜、影人、レイゼロールの4人はショッピングモールの外に出ていた。

「はあ、はあ・・・・・・なぜ我がこんな事を・・・・・・」

「人生は何が起きるか分からない。まあ、そんな事もあるだろうぜ」

 一方のレイゼロールは疲れたような顔を浮かべ、そんなレイゼロールに影人はニヤニヤとした顔でそう言った。

「で、今日はどうだった? 多少は楽しかったか?」

 影人は続けてそう聞いた。影人の問いかけに、レイゼロールは一瞬押し黙っていたが、やがてこう答えを述べた。

「・・・・・・ふん。楽しいなどとあったものか。だが・・・・・・悪くはなかった」

「「っ!」」

「うん・・・・・・そうか」

 レイゼロールの答えを聞いた陽華と明夜は驚いた顔を浮かべ、影人は暖かな顔でそう呟いた。

「え、えへへ! そう言ってもらえると嬉しいな!」

「ええ。今日は本当に楽しかったわ。ありがとうね、レイゼロール」

「ふん・・・・・・」

 嬉しそうな顔でそう言った明夜と陽華。2人からそう言われたレイゼロールは、軽く顔を背けた。

「じゃあ、私たちはこの辺で! バイバイ、レイゼロール、帰城くん!」

「また会いましょ!」

 陽華と明夜は元気いっぱいに手を振りながら、人はどこかへと歩いて行った。

「おう、じゃあな。さて、もう夕方だし・・・・・・俺らも適当に散歩したら解散するか」

「・・・・・・任せる」

 影人とレイゼロールは、並んで夕方の街を歩いた。春特有の暖かな風が吹き、その風が影人とレイゼロールを揺らす。その心地いい風を感じながら、2人は互いに無言で歩く。しかし、その沈黙は決して重苦しい空気を生まなかった。

「・・・・・・あの2人を誘ったのは我のためか、影人。お前の事だ。どうせ、我に分かりにくいお節介を焼いたのだろう。自分以外の人間とも、触れ合ってほしいとか、そのような感じのな」

 沈黙を先に破ったのはレイゼロールだった。レイゼロールは影人の顔を見ないまま、突然影人にそう言って来た。

「何だ、バレてたか」

 そして、レイゼロールにそう言われた影人は、あっさりとその指摘を認めた。

「舐めるな。今日奴らと出会ってから、お前は無駄に明るく振る舞っていた。無駄にな。お前の振る舞いは怪しい以外の何者でもなかったぞ」

「無駄にって2回も言うなよ・・・・・・でもまあ、お前の言う通りだ。今日はちょっと明るく振る舞ってた。はっ、やっぱキャラじゃなかったか」

「当然だ。ハッキリ言うと、少し気持ち悪かったぞ」

「いや、それは言い過ぎじゃねえか・・・・・・?」

 レイゼロールからそう言われた影人は少しショックを受けたような顔になった。

「・・・・・・我が言いたいのは、別にお節介などいらんという事だ。つまりは、余計なお世話だ」

「また大分とハッキリ言うな。・・・・・・まあ、お前の気持ちは分かるぜ。俺もどっちかって言うと、お前側だし。でもな、レイゼロール」

 影人はそこでレイゼロールの方を見ると、自然と笑みを浮かべながらこう言葉を述べた。

「お節介を焼くのは、お前が大事な奴だからだぜ。じゃなきゃ、誰がお節介なんて面倒なもん焼くかよ。お前の気持ちも分かるが、まあちょっとは俺の気持ちも汲んでくれよ」

「っ・・・・・・!?」

 影人にそう言われたレイゼロールは、どこか衝撃を受けたような顔になると、顔を俯かせた。

「・・・・・・分かっている。お前のその気持ちは、正直に言うと・・・・・・嬉しいのだ。本当に。ただ、我はまだ素直に中々そう言えなくて・・・・・・」

 レイゼロールは恥ずかしそうに、小さな声でそう言うと、意を決したように顔を上げ、こう言った。

「だから・・・・・・ありがとう、影人。今日は・・・・・・楽しかった」

「はっ、あいつらにも素直にそう言ってやりゃよかったのによ。だけど、今はそれで充分だな。ああ、そいつはよかった。俺も楽しかったぜ」

 影人は笑みを浮かべ、レイゼロールの言葉を受け止めた。影人の笑みを見たレイゼロールは、自身も自然と笑みを浮かべていた。

 美しい夕日が2人を照らす。夕日に照らされ中、影人とレイゼロールは肩を並べ合い、ただ歩き続けた。その2人の後ろ姿には、確かな絆が見て取れた。

 ――レイゼロールと影人のデートは、こうして幕を閉じた。

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