第271話 始まりの記憶(2)
「私たちが・・・・・・・・」
「光導姫に・・・・・・・・」
ソレイユからそう言われた陽華と明夜は、未だに言葉を受け止めきれないような様子で、そう言葉を漏らした。
「はい。もちろん、この願いは断ってもらっても構いません。光導姫は命懸けの仕事をする存在です。時間も不定期に奪われます。だから――」
ソレイユが真剣な顔で2人に言葉を紡いでいる時だった。陽華と明夜は一瞬、互いの顔を見る。そしてその顔を真剣なものにすると、2人同時にソレイユの方を向いてこう言った。
「「やります!」」
「・・・・・・・・え?」
「・・・・・・・・は?」
その言葉を聞いたソレイユは途中で言葉を切り、柱の裏にいた影人も思わずそう声を漏らしてしまった。あまりにも2人の決断が早かったからだ。
(い、いったい何を考えてやがるんだあいつら・・・・・・・・? 意味分かってるのか? あのソレイユって奴が言ってる事はつまり、無償で何の見返りもなく命を懸ける仕事をしろって事だぞ・・・・・・)
それは、よく言えばいわゆる正義の味方。多くの子供が憧れるような存在。だが、言い方を変えれば、それはただの都合のいい正義の奴隷だ。歳を重ねれば、誰しもが自ずと理解する。それは辛い道で、自己を殺してただ正義のために奉仕する、とても「人間」に務まるようなものではないと。
そこにあるのは、概念と人々の望みだけ。今時、そんな存在になりたがる者は少ないはずだ。あまりにも、自分にメリットがなさ過ぎる。少なくとも、影人は絶対にそんな存在にはなりたくなかった。
(それに、人を助けたり守ったりする事がどれだけ難しいか・・・・・・あいつらは、その事を知ってるのか?)
大切な人ですら、人間は守る事が出来ない。或いは、凄まじく難しい。ましてや、思い入れがない他人なら尚更。人を助け守る事には、鋼をも超えるような固い覚悟が必要なのだ。影人は過去のとある経験から、この歳で既にその事を知っていた。
「その・・・・・本当にいいのですか? お願いした私が言うのもあれですが・・・・・」
ソレイユも少し戸惑ったように陽華と明夜にそう聞いた。こんなに早く光導姫になる事を決断した少女たちは今までいなかったからだ。
「はい。正直、私たちにそんな存在が務まるのか自信はありません。それに・・・・・」
「・・・・・闇奴に対する恐怖感もあります。私たちはソレイユさんに助けてもらうまでは、恐怖で動けなかった。そんな人間が、光導姫っていう人々のために戦える存在になるのか分かりません。でも・・・・・」
陽華と明夜は不安そうな顔で、自分たちの正直な気持ちをソレイユに吐露した。2人の体は先ほどの闇奴の事を思い出してか少し震えていた。
「私たちに人を助ける事が出来るなら、守る事が出来るなら! 私たちは光導姫になります!」
「震えてばかりではいられないんです! 私たちの知らないところで、そんな事が起きていたと知ったのなら! だから、私たちは戦います!」
「っ・・・・・・・・・・」
陽華と明夜の決意の言葉を聞いた影人は、その言葉に2人の覚悟を見た。あれは本気だ。本気の言葉だ。影人はそう思った。
(なぜだ。なぜ、他人のためにそこまでの覚悟を持てる・・・・・? お前たちは何で・・・・・)
偽善と呼ぶには、あまりにも覚悟がいる行為。お人好しにも程がある。影人は陽華と明夜の決意を理解出来なかった。
「あなた達は・・・・・」
一方、2人の覚悟を伴った目を見たソレイユは、2人に人の善意を、その光を見た。それは、ソレイユが今まで見た人間の中で、最も強い輝きを放っていたように思えた。
(もしかしたら、この子たちなら・・・・・)
レイゼロールを浄化出来るかもしれない。光導姫の力は、人の正の感情。見ず知らずの誰かのために命を懸ける事も厭わずに、これほど真っ直ぐで強い光り輝くような思いを持つこの2人ならば。ソレイユは、2人にその可能性を見た。
「・・・・・・・・あなた達の思いはよく分かりました。ありがとう。本当にありがとうございます」
ソレイユは陽華と明夜に感謝の言葉を述べると、こう言葉を続けた。
「では2人とも。ええと、あなた達の名前は・・・・」
「陽華です。
「明夜。
「陽華、明夜ですね。親しみと感謝を込めてそう呼ばせていただきます。それでは陽華、明夜。この光に触れてください。そうすれば、あなた達は光導姫としての力を得ます。闇を浄化するための、光の力を。私が与えるのは力だけ。それがどのような力になるのかは、あなたたちの性質に依存します」
2人の名を呼びながら、ソレイユは自分の右手の光に触れるように陽華と明夜に指示した。陽華と明夜は、真剣な顔でその光に手を伸ばし、
――その光に触れた。次の瞬間、眩い光がこの空間を照らした。
こうして、陽華と明夜は光導姫になった。
「・・・・・・・・・」
柱の裏にいた影人はただジッとしていた。陽華と明夜はあのソレイユという女の光に触れ、光導姫という存在になったらしい。陽華と明夜が光に触れた次の瞬間、2人の前に、赤い宝石のついたブレスレットと青い宝石のついたブレスレットが出現した。ソレイユはそれが光導姫に変身するためのアイテムだと2人に説明し、触れれば力についての知識がその身に流れると言い、2人は空中に浮かんでいたそのブレスレットに触れた。
そして、2人は今地上、影人たちが元いた世界に帰った。ソレイユが転移させたのだ。闇奴というあの怪物を浄化するために。正義の味方、光導姫として。影人には、2人が光導姫になった事が未だに理解出来なかった。
(さて、俺は取り敢えずどうすればいいんだろうな。この感じだと、あいつらのついでに気づかれずにここに転移させられた感じだよな、俺。俺も元の世界に帰りたいが、普通にあいつの前に出て行けばいいのか?)
だが、影人は明らかに知ってはいけない事を知ってしまった。果たして、素直にあのソレイユとかいう女神は影人を帰してくれるのか。影人はその事が気になっていた。
「・・・・・そこの柱の裏にいる方。お待たせしました。どうぞ出てきてください」
「っ・・・・・」
影人がそんな事を考えていると、ソレイユがそう言った。どうやら、最初から影人の事には気がついていたようだ。影人は少し緊張しながらも、柱の裏から出た。
「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・? う、嘘・・・・・そんな、そんなはず・・・・・」
「っ・・・・・?」
柱の裏から出てきた影人の姿を見たソレイユは、なぜか呆然としていた。初対面のソレイユが、なぜ自分を見て呆然としているのか影人には全く分からなかった。もしかしたら、前髪が人よりも長い事に驚いているのだろうか。
「あの・・・・・俺の姿が何か?」
「あ、いえ・・・・・すみません。余りにも、その・・・・・知っている方に瓜二つだったもので」
影人はソレイユの驚き様についそう聞いてしまった。影人からそう言われたソレイユは、ハッとした様子でそう言った。
「そうよ、彼のはずがない・・・・彼はもう既に・・・・」
ソレイユはボソリとなぜか悲しそうな表情でそう呟いたが、影人にはその意味は分からなかった。
「・・・・・・・・・取り乱してしまい申し訳ありませんでした。知らない人間をこの場所に転移させる時、私には基本的にその人間の性別、年齢くらいしか分からないもので・・・・」
「はあ・・・・・」
ソレイユの言葉は変わらず普通の人間である影人には分からなかった。
「・・・・・それで、ソレイユさん。あの、俺は元の世界に帰してもらえるんですか? もちろん、あなたやあいつらの事は誰にも話しません。絶対に」
影人はソレイユにそう言った。ちゃんと自分はその事は分かっていると。影人の言葉を聞いたソレイユは、「ええ、それはもちろんです」と言って頷いた。
「私があなたを転移させたのは、単純に闇奴から助けるためです。もちろん、あの2人もそのつもりで助けました。・・・・・光導姫になってほしい話もするつもりでしたが」
「・・・・・だけど、男の俺は光導姫にはなれませんよ。だから、早く返してもらえると助かります」
先ほどのソレイユの説明を聞いていた影人は、ソレイユにそう言った。
「・・・・・・・・・もしかしたら、これは運命なのかもしれませんね。彼と同じ姿の人間がたまたま、私の前に現れた事は・・・・・」
「?」
ジッと影人を見続けていたソレイユが、ボソリと何か言葉を呟いた。影人はその呟きの正確な内容は聞こえなかった。
「お名前を伺ってもいいですか?」
「俺の・・・・・ですか?
唐突にソレイユに名前を聞かれた影人は、疑問を抱きながらも自分の名前を述べた。
「帰城影人さん、あなたは陽華と明夜と同じ服を着ていますね。彼女たちとは知り合いなのですか?」
「いや、ただ通ってる学校が同じってだけで、知り合いではないですが・・・・・・・・・一応、俺が一方的に2人を知っているだけです。彼女たちは、俺の学校では有名ですから」
「そうですか・・・・・」
「・・・・・あの、この質問に何の意味が・・・・・?」
さっさと帰してほしい影人は、ソレイユとの会話など望んではいなかった。その事を暗に言葉に込めながら、影人はソレイユにそう聞いた。
「すみません、一応聞いておきたかっただけです。それで帰城影人さん。あなたを地上に帰す前に、少しだけ私の話を聞いていただけませんか?」
「っ・・・・・!」
ソレイユのその言葉を聞いた影人は、なぜか嫌な予感がした。
「どうぞ、こちらに」
「・・・・・・・・・あくまで、聞くだけです」
「ええ、分かっています」
警戒した影人の声にソレイユが頷く。影人は仕方なくソレイユの前まで移動した。
「・・・・・それで、何ですか。話って」
「・・・・・帰城影人さん、あなたには守りたい大切な人や物がありますか?」
「は? ・・・・・いや、それは一応ありますよ。何の面白味もないですが、家族とか・・・・・」
ソレイユの質問に面食らった影人は、ボソリとそう答えた。影人が唯一守りたいものがあるとすれば、それは1番身近な人間、家族だけだ。まあ、影人のような答えを述べる人間は、それほど珍しくはないだろう。ただ、影人の場合はその思いが表には出さないがかなり強いが。そこには、父親と交わしたある約束があった。
「そう。人間には多くの場合、守りたいものがありますよね。平和な日常。人間は基本的にはそれを望んでいる・・・・・」
「それは、まあ・・・・」
「・・・・そんな平和な日常を壊すのが闇奴、そしてそれを生み出すレイゼロールです。人間の平和な日常はいつ壊れるのか分からない。それは全ての人間に対して言える事です」
「・・・・・・・・あなたは結局、何が言いたいんですか」
少し苛立ったように影人がそう聞いた。影人の言葉を受けたソレイユは、真っ直ぐに影人を見つめてきた。
「では、率直に言いましょう。帰城影人さん・・・・・・・・あなたも彼女たちと同じように戦ってくれないでしょうか?」
そして、ソレイユは影人にそんな願いをしてきた。
「・・・・・・おい、光導姫は女しかなれないはずじゃなかったのかよ」
影人は言葉と態度を一変させると、ソレイユにそう言った。
「ええ、光導姫は10代の女性しかなる事は出来ません。それが、私の眷族としての条件ですから。ですが、あなたに光導姫と同じような闇と戦う力を授ける事は出来ます」
「ふざけるなッ! いるかよそんな力! 何で俺が見ず知らずの他人のために戦わなきゃならないんだ!?」
ソレイユの言葉に怒りを覚えた影人はそう吠えた。ソレイユが言っている事は先ほど陽華と明夜に言っていた事と同義だ。自分に命を懸けて正義の奴隷になってほしいと、そういう事。人間を辞めろという事だ。
「戦うのならてめえで戦えよ! 神なんだろお前!? なら人間なんかに頼ってるんじゃねえ! 大体、誰かを助けて守る事がどれだけ大変なのか分かってないからそう言えるんだ! 人1人、数人でもどれだけ大変か! だっていうのに、大勢の他人のために戦えだ!? ふざけるのも大概にしろよ!」
影人は怒りのままに続けてそう言葉を吐いた。口調は乱暴なものだが、影人の言っている事はどこまで言っても正論だった。
「・・・・・・・そうですね。あなたの言う事は尤もです。私にレイゼロールや闇奴と戦える力があれば、戦っていました。ですが、神は地上ではその力を振るえません。神は地上では無力な存在なのです」
「はっ、だから人間に力を与えて戦ってもらうってか? あんたの葛藤は知ったこっちゃねえが、都合のいい話だな」
吐き捨てるように影人はそう言った。そして、影人はすっかり崩れた口調でこう言葉を述べる。
「俺の答えはノーだ。絶対にな。いいからさっさと俺を帰せ」
「・・・・・・・あなたの意志がそこまで固いのなら、私はもう何も言いません。ですが、これだけは覚えていてください。レイゼロールがいる限り、闇奴は生み出され続け、世界や日常には危機が訪れる。それはもしかしたら、あなたの大切な人にも訪れるかもしれません。あなたの大切な人が、闇奴に襲われる可能性も、闇奴になる可能性もゼロではないのです」
「っ・・・・・・・!?」
その言葉を聞いた影人は一転、どこかショックを受けたような顔になった。
「光導姫になった2人も、死の可能性が常に付き纏います。あなたは彼女たちと同じ学校に通っていると言いましたね。ならば、もしいつか不幸な事があれば・・・・・・・彼女たちの訃報を聞く事になるかもしれませんね。その時、彼女たちが光導姫と知っているあなたは、何を思うのでしょうか」
「お前・・・・・・・俺を脅す気か」
淡々とそんな事を言うソレイユに、影人は怒りと恨みの込もった声音でそう言葉を漏らした。
「何が神だ。この卑怯者が・・・・・・・!」
「私はあくまで可能性の忠告をしただけです。それでは、あなたを地上に転移させましょう」
影人は前髪の下の両目でソレイユを睨み付けた。そんな影人を無視するように、ソレイユは淡々とした態度を崩さない。
普通ならば、ソレイユはこんな真似はしない。だが、影人の見た目がレイゼロールにとって大切だった人間の見た目に瓜二つだった事。それに、ずっと
「では、数十秒後に転移させます」
「っ・・・・・・・」
ソレイユがそう言うと、影人を暖かな光が包み始めた。先ほど陽華と明夜が転移された光景を見ていた影人は、その光が転移の光だと知っていた。
(ちくしょう、クソッタレが・・・・・・・! あんな事を聞かされて戻るだと? ふざけんなよ、俺はこれから、闇奴やレイゼロールとかいう奴の脅威に怯えて生きなきゃならないのかよ・・・・・!)
影人はギリッと奥歯を噛み締めた。影人の家族が闇奴やレイゼロールに危機に晒される可能性は低いと言えば低いだろう。だがゼロではない。その可能性が影人の心に棘を残す。
(朝宮と月下の事は別にいい。あれはあいつらが決めた事だ。あいつらには覚悟があった。その決断の果てにあいつらが死んでも、それはあいつらの選択。俺が悲しむ資格も理由も・・・・・ないはずだ)
少しだけ引っかかりを覚えつつも、影人は自分をそう納得させた。そう。2人の死は自分には関係ない。関係があるのは、家族の危機についてだ。
(俺は・・・・・俺には父さんとの約束がある。家族を自分の代わりに守ってくれっていう約束が。俺はこの約束だけは絶対に果たさなきゃならない。絶対に)
だから、影人はソレイユが言った可能性を無視できない。いつか、自分の家族があの闇奴という化け物に襲われるのではないか。闇奴にさせられるのではないか。影人の脳裏に先ほど見た光景が蘇る。男が苦しみながら化け物になったあの光景が。もし、影人の母親や妹があんな怪物になったら。
(クソッ、こんなのほとんど強制的じゃねえか! 本当は力なんて欲しくない。俺は非日常なんざごめんだ! だけど・・・・・だけど・・・・・!)
現実問題として、約束を守るためには力が必要だ。家族を化け物から、唐突な悪意や事故などから守れる力が。例え、影人がその力を得る事を望んでいなかったとしても。それを得られなければ、あの化け物たちから家族を守る事など出来ない。影人に残された道は、1つしかなかった。
「・・・・・・・・・・ああ、分かったよ! 戦ってやるよ! 俺の大切なものを守るために! てめえの願いという名の脅しを聞いてやる! だから寄越せよ! 俺に力をッ!」
光があと少しで影人の全身を包まんとした所で、影人はソレイユにそう叫んだ。影人は半ば強制的とはいえ、最後は自分の意志でそう決断した。
「っ・・・・・そうですか。ありがとうございます。あなたのその決断に、心からの感謝を」
ソレイユは影人に感謝の言葉を述べると、転移を中断した。影人を包んでいた光が消え始める。
「では、私の方に近づいてください。これからあなたに、力を授けます。特別な力を」
「っ、クソッ・・・・・・・・」
影人はそう呟くと仕方なしにソレイユの方へと近づいた。
「それでは・・・・・」
ソレイユは両手を自身の胸に当てた。そして、少し力を込めるようにギュッと手に力を込める。「ん・・・・・」と少し苦しそうな顔をソレイユは浮かべた。すると数秒後、
「ふっ・・・・・・・・・!」
ソレイユの胸から無色透明の光が出てきた。それは先ほど陽華や明夜が触れた光とは、どこか違うものだった。そして、ソレイユはその光を両手で持って影人の方へと差し出してきた。
「この光に触れてください。そうすれば、あなたは力を得ます。私が与えるのは力だけ。それがどのような力になるのかは、あなたの性質に依存します。ですが、いずれにせよそれは特別な力です」
ソレイユが影人に差し出した光は、自身の神力。文字通り神の力。この方法ならば、ソレイユは男性にも力を与える事が出来る。ただし、これは禁忌。人間に神力を与える事は神にとっての禁忌。他の神にバレれば、ソレイユには罰が待っている。だが、ソレイユはそんな禁忌を犯してでも、影人に自分の力を与えようとした。
「・・・・・ああ、そうかよ。特別なんてクソ喰らえだ。本当はそんなものになりたくはねえ。だけど・・・・・なってやるよ。その特別ってやつに!」
そして、影人はその光に自身の手で触れた。その瞬間、光は透明の輝きを放った。
こうして、影人はソレイユから力を与えられ、宝を守る妖精――スプリガンになった。
「・・・・・・・・・・俺がスプリガンになったのは、家族を、俺の大切なものを守るためだった。唐突に知った脅威から、守るための力を得るためだった」
あの日の事を思い出しながら、影人は男にそう言った。フッと自然に笑みが溢れる。元々、影人は陽華や明夜たちと共に戦うはずだった。ソレイユはそのつもりで影人に力を与えた。
だが、影人に発現した力は闇の、暗躍するのに打ってつけの力だった。影人があの光に触れた時、影人とソレイユに力の知識が流れた時には驚いたものだ。そこから、怪人としてのスプリガンが誕生した。
「・・・・だけど今思えば、光導姫になる事を決めたあいつらの事も気になってたんだろうな。大勢の他人を守る覚悟をしたあいつらの事を。俺はあいつらの中に・・・・人の善意を見た。美しく輝くような善意を。その善意を失くしたくないって、守らなきゃならないって、俺は傲慢にも思ってたんだろうな」
戦う2人を誰が守るのか。あの時の影人は、無意識にその役目を自分がしなければならないと思っていた。まあ、結局光導姫はあの2人だけでなく、守護者もいたのだが。
「そう、だったのか・・・・・・・・ありがとう教えてくれて。ただ、君がそこまで素直に教えてくれたのは意外だったよ」
影人の原初の戦う理由を知った白髪の男は、真剣な顔で頷くと、軽く笑みを浮かべながらそう言ってきた。
「はっ、知らねえのか? 俺はいつだって素直だぜ」
影人は男に笑いながらそう言った。まあ嘘だ。影人は他人に本来ここまで素直に自分の気持ちを教えない。教えたのは、男に対する礼のようなものだった。
「じゃ、俺は今度こそ行くぜ」
「ああ、行ってらっしゃい帰城影人くん。どうか・・・・・・・・僕の妹の事をよろしく頼む。そして、彼女に教えてやってくれ。『終焉』の力は、本当はどこまでも優しい力だという事を」
白髪の男――レイゼロールの兄の神である、レゼルニウスからそう言われた影人は、扉の方を振り返り、右腕を伸ばし、右手の親指を上げた。いわゆるサムズアップの形だ。
「任せろよ。今度こそ、俺がハッピーエンドにしてやる」
そう言って、影人は生者の世界へと続く門を開いた。
瞬間、光が差した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます