第243話 開幕、最後の戦い

「・・・・・・・・時は来た」

 この世界のどこか。辺りが暗闇に包まれた場所。石の玉座に腰掛けていたレイゼロールは、ポツリとそう言葉を呟いた。そして、自身の懐から拳1つぶんくらいの大きさの真っ黒な石のような物を取り出した。その石のような物は、完全に完璧に真っ黒に染まっていた。

(兄さんを復活させるのための「死者復活の儀」。それに必要なエネルギーは全て集まった。カケラを全て取り戻した事によって、兄さんとの繋がりである『終焉』の力も我に戻った。・・・・・ようやく、ようやくだ。我の長すぎる時の目的、それをようやく実行できる・・・・・・・・)

 レイゼロールは左手で闇のエネルギーを蓄積させた石、もしくは水晶玉のような物を持ちながら、右手をギュッと握りしめた。全ての条件はクリアされた。

「・・・・フェリート、いるか?」 

「はい、ここに」

 レイゼロールがそう呼びかけると、周囲の暗闇の中から1人の男が姿を現した。怜悧な顔に単眼鏡モノクルを掛け、髪を綺麗に撫で付けた青年だ。燕尾服、もしくは執事服のようなものを纏ったその男は、「十闇」第2の闇、『万能』のフェリートだった。

「ここにいる全ての闇人を、この場に集めろ。ここにいないキベリアとシェルディアは、我が招集をかける。時は来た。我はこれより、とある場所にて『死者復活の儀』を執り行う」

「承りました、我が主人。いよいよ、レイゼロール様は目的を遂げられるのですね。下僕の身ではありますが、心からの祝辞を申し上げます」

 レイゼロールからそう言われたフェリートは、スッと頭を下げそう言葉を返した。そして顔を上げ、笑みを浮かべた。

「ふん。この儀式が失敗すれば、世界の全ての生命が死に絶えるというのに、よくもそう言えるものだな」

「そうなれば、それが世界の命運だったというだけです。私はただ、死すべき最後の時まであなた様にお仕えするだけ。メルヴィ様を・・・・私の前の主人を失ったあの日から、私が最後に仕える主人はあなた様だけと決めていますから。レイゼロール様」

 闇人になる前の事を思い出しながら、フェリートは微笑んだ。その微笑みを見たレイゼロールは、軽くその目を伏せた。

「・・・・・・・・そうか。ならば何も言うまい。フェリート、せいぜい我のために動け」

「御意に」

 フェリートはレイゼロールに頭を下げると、再び闇の中へと消えて行った。

「・・・・・・・・今日が運命の日になる。我にとっても、この世界にとってもな」

 レイゼロールはそう呟くと、シェルディアに連絡する事を決めた。

 そして、それから数時間後、


 世界に凄まじい闇の力が放たれた。













「っ!? この凄まじい闇の力は・・・・・・!」

 1月8日火曜日、午後2時過ぎ。ソレイユは影人たちが住む世界に、凄まじい闇の力が放たれたのを感じた。それはレイゼロールが最後のカケラを吸収した時か、もしくはそれ以上の闇の波動だった。

「この凄まじい闇の力は、おそらく『死者復活の儀』が開始されたという事・・・・くっ、分かってはいましたがやはり急ですね。この時のために、準備は進めて来ましたが・・・・・・いえ、今はそれよりもやる事がありますね。まずは、力の発生した中心地域がどこか調べないと・・・・!」

 ソレイユは空間に浮かぶディスプレイのようなものを操作しながら、力の発生場所を調べた。そして、ソレイユは突き止めた。闇の力がどこから発生しているのかを。

「っ、この場所は・・・・・・・・そうですか、レール。あなたはそこで儀式を・・・・」 

 場所を特定したソレイユが、何かを悟ったような顔を浮かべる。その場所を、ソレイユはよく知っている。その地はある意味では、始まりの場所だ。このソレイユ・ラルバの光サイドと、レイゼロールの闇サイドとの戦い。その全ての原因が起こった、様々な因縁のある場所。レイゼロールにとって、出会いと別れの起きた場所。

 その場所の名は――

「ギリシャ・・・・・・・・レール、あなたはこの場所でレゼルニウス様を・・・・・・・・・」

 ソレイユは最終決戦の地の名を呟いた。その場所は、レイゼロールがレゼルニウスと影人を失った場所だった。












「・・・・・これより儀式を開始する」

 ヨーロッパに位置する国、ギリシャ。かつてアテナイという都市国家が存在した場所。アテナイというのは古代ギリシャ語で、現在ではアテネと名を変えギリシャの首都となっている。だが、レイゼロールが儀式を行う場所はそこではない。アテネは邪魔な人間や建造物が多いからだ。レイゼロールはギリシャのとある田舎地域、周囲に山と森しかないような広くひらけた場所で儀式を行い始めた。

「――闇の女神レイゼロールの名の元に、死者の復活を希う。復活を願う者の名は、レゼルニウス。今は死した終焉を司る神たる存在・・・・・」

 闇で出来た祭壇。その周囲には複雑な陣が刻まれていた。レイゼロールはその祭壇の前に立ち、厳かに言葉を唱え始めた。

「死者と関わりのある供物を捧げる。その供物の名は『終焉』。レイゼロールとレゼルニウスしか持ち得ない、全てを終わりに導く力である」

 レイゼロールは祭壇に向かって右手を伸ばした。そして右手の先に『終焉』の闇を顕現させた。球状に顕現した『終焉』の闇は、祭壇へと向かう。そして、祭壇中央部にある平台の上へと留まった。これで儀式に必要な「死者と関わりのある物」は設置された。

「以上の供物を捧げ、レイゼロールは宣言する。『死者復活の儀』を執り行うと」

 レイゼロールはそう唱えると、懐から闇のエネルギーが貯蓄された球状の物を取り出した。そして、レイゼロールはその貯蓄物を片手で握り潰した。

 すると次の瞬間、貯蓄されていた全ての闇のエネルギーが世界へと放たれた。レイゼロールが約2000年ほどかけて、人間を闇奴に変え集めた闇のエネルギー。その全てが解き放たれたのだ。溢れ出た闇は晴れ渡った空を闇色に覆わんばかりであった。

 だが、その溢れ出た闇のエネルギーは全て地面に刻まれた方陣へと吸収され始めた。方陣は黒い輝きを放つ。

「『死者復活の儀』・・・・・・・・執行」

 レイゼロールは厳かに、儀式を実行する言葉を述べた。その言葉をレイゼロールが述べると同時に、祭壇と方陣がドクンと脈打つように胎動した。そして祭壇から闇色の柱が天へと向かって伸びた。それに伴い、周囲の空は薄紫に色を変えた。

「・・・・儀式は始まった。これより約1時間と少しほど儀式は続く。我は儀式の経過を見守る。どうせあと少しばかりすれば、ソレイユとラルバが光導姫と守護者を送ってくる。我はしばらく戦えん。ゆえに、奴らの相手はお前たちに任せるぞ」

 後方に振り返ったレイゼロールはそこにいた者たち――全ての「十闇」のメンバーにそう告げた。

「はい、我が主人。全力を尽くしてその命令を遂行いたします」

「己も同じく」

 レイゼロールの言葉にいち早く反応したのは、まず「十闇」第2の闇『万能』のフェリートと「十闇」第9の闇『殺影』の殺花だった。2人はレイゼロールに頭を下げ、その命令を素直に了承した。

「はっ、強い奴らと戦えりゃ俺は何でもいいぜ」

「まあ、闇人にしていただいた分の恩は返しますよ。例え今日世界が終わるかも知れないともね。くくっ、面白い日になりそうだなぁ今日は」

 「十闇」第6の闇『狂拳』の冥と「十闇」第5の闇『強欲』のゾルダートはニヤけたような顔でそんな反応を示した。戦闘狂らしい反応だ。

「ふふっ、仕方がないから今日だけは頼まれてあげるわ。ねえ、キベリア?」

「何でそこで私に振って来るんですか・・・・・・・いやまあ、私も勿論やりますけど・・・・」

 「十闇」第4の闇『真祖』のシェルディアは軽く微笑みながら、隣にいた「十闇」第8の闇『魔女』のキベリアにそう振った。突然そう振られたキベリアは、困惑したような顔を浮かべながらも軽く頷いた。

「ふん、こんな世界さっさと終わればいいのよ」

 「十闇」第3の闇『闇導姫』のダークレイはレイゼロールから軽く顔を背けながら、ボソリとそう呟いた。

「ははっ、頑張りますよぼかぁ。久しぶりの大戦おおいくさ、武功にあまり興味はなかったですけど、今日くらいは上げて見せますよ」

「ワタクシめも頑張らせていただきますー。ワタクシ、ただの道化師ですが賑やかしくらいにはなりましょうから」

 「十闇」第7の闇『剣鬼』の響斬と「十闇」第10の闇『道化師』のクラウンは2人らしい、どこかのんびりとした顔でそう言った。ちなみに、響斬は本人が言った大戦だからか、服装がジャージではなく和装へと変わっていた。

「大丈夫。レールの敵は、俺が全部倒すよ」

 そして最後に、「十闇」第1の闇『破壊』のゼノはそう言ってぼんやりとした笑みを浮かべた。

「・・・・・一応、礼は言っておくぞお前たち。しかし、儀式までに奴を・・・・スプリガンを始末出来なかった事だけが口惜しいな」

 レイゼロールは金眼の怪人の名を口にした。スプリガン、ソレイユから神力を与えられた者。スプリガンに関しては、まだまだ分からない事の方が多いが、スプリガンが敵であるという事は確定している。スプリガンがレイゼロールを裏切って以来、スプリガンは戦場に姿を現していないが、あの怪人は必ず生きているはずだ。そして、この最後の戦いの地へと現れる。レイゼロールはそう確信していた。

 ちなみに、不安要素としてスプリガン以外にも『フェルフィズの大鎌』を持つ者、つまり壮司の存在があるが、レイゼロールは以前よりも壮司の事を脅威には思っていなかった。それは『終焉』の力を取り戻した事に起因している。その考えで行くと、スプリガンも脅威ではないのではと言えるかもしれないが、スプリガンは神力を持ち『世界』を顕現させた存在だ。その事実は、今のレイゼロールにとっても脅威となる。

「ああ、ごめんなさいね。スプリガンがあなたを裏切ったという後から、彼とは連絡がつかないの。彼の気配は、私にもどういうわけか掴めなかったし」

「別に貴様を責めているつもりはない。ただ、事実を口にしただけだ」

 笑いながら謝罪の言葉を述べたシェルディアに、レイゼロールはそう言葉を返した。

「それに、どうせ奴はこの場へと現れる。その時に殺せばいい。ここで、全ての因縁は絶つ」

「そう・・・・・・・・さて、そろそろ来る頃かしらね。ソレイユとラルバの剣、光導姫と守護者たちが」

「ああ、あと少しで来るだろうな。奴らは最大戦力を投入してくるはずだ。出来るかどうかは知らんが、全ての光導姫と守護者をな。・・・・しかし、そうはさせん」

 レイゼロールはそう言うと、右手に闇を纏わせた。そしてパチンと指を鳴らす。それはある合図だった。レイゼロールがこの日のために行っていた、を実行させるための。

「・・・・・・・これでいい。今ごろ、ソレイユとラルバの奴らは焦っているだろう。絶対に、この儀式はやり遂げる。お前たちの思い通りにはさせんぞ。ソレイユ、ラルバ」

 レイゼロールはそう呟くと、冷たい笑みを浮かべた。






 




「なっ!? 全世界各地で闇奴の反応が!? これはいったいどういう事ですか!?」

 神界で最後の戦いの準備を行なっていたソレイユは、急に世界各地で発生した闇の気配に驚いたような顔を浮かべた。

『ソレイユ! これは!』

「っ、ラルバ・・・・・ええ、全世界に急に闇奴が同時発生しました。しかもこの数・・・・・・・ざっと1000体はいます。いったい何が起こったのか・・・・」

 ソレイユが驚いていると、テレビ電話のようにソレイユの右の方にディスプレイが出現し、ラルバの姿と音声が聞こえてきた。2人とも神界にいるので、連絡を取り合う事は可能だ。ラルバの姿を確認したソレイユは、訳がわからないといった顔を浮かべそう言葉を発した。

『そうだね。こんな事態は今まで起こった事がない・・・・考えられる可能性としては、全ての力を取り戻したレイゼロールが、闇奴を同時発生させるような力を得たか・・・・・それくらいしか思いつかない。とにかく、俺たちはこの問題に対処しないといけない。光導姫でなければ、闇奴を浄化できないしね』

「そうですね・・・・ですが、これだけの数です。こちらに光導姫や守護者などの転移などの対応をすれば、レイゼロールを放っておく事になります。『死者復活の儀』が正確にどれくらいの時間で完了するのかは分かりませんが、対応は早いに越した事はありません」

 ラルバの言葉を聞いたソレイユは難しい顔を浮かべた。どういった方法でレイゼロールが世界中に闇奴を発生させたのか分からないが、これは、儀式にソレイユとラルバ側の戦力を集中させまいとする、レイゼロールの策略だ。ソレイユとラルバはこの日のために、大人数の光導姫と守護者を超長距離転移させる力を、貯蓄装置のような物に蓄えていたが、この力の全てをレイゼロールの場所に送る事は、かなり難しくなった。

「ラルバ、こうしましょう。元々の予定は、光導姫と守護者全てをレイゼロールの場所に派遣する予定でしたが、レイゼロールの場所に送るのは『光導十姫』、『守護十聖』。最高戦力のみを送るのです。全世界の闇奴の数的にも、レイゼロールの元へ送れるのは、これが限界ギリギリです。残りの光導姫と守護者は、闇奴の対応に当たらせましょう」

『そうだな。それが1番丸いか・・・・・・・分かった。そうしよう。なら、まずは先にレイゼロールの所に戦力を送ろう。それでその後に、闇奴の対応だ』

「分かりました。では」

 ソレイユはそう言うと、ラルバの映ったディスプレイを遮断した。急だが、対応は決まった。後は迅速に行動するのみだ。

「まずは『光導十姫』をここに集め、手短に状況を伝えねばなりませんね。その後に彼女たちを転移させて、その後に全世界の闇奴の対応、さらに各国政府に状況を伝えなければ・・・・・・・・」

 ソレイユはぶつぶつと言葉を呟きながら、対応を始めた。そして内心でこんな事も考えた。

(私の2つの切り札・・・・・陽華と明夜、そして影人。3人にも動いてもらいましょう。陽華と明夜は、「光導十姫」ではありませんが、『光臨』を取得し、ダークレイを後一歩のところまで追い詰めた存在。2人はレイゼロールの場所へと向かう資格がある。2人もここに呼ばせてもらいましょう)

 ソレイユは陽華と明夜をレイゼロールのいる場所に派遣する事を決めた。陽華と明夜はかなり力をつけた。今では光導姫ランキング上位の光導姫や、「光導十姫」とも遜色ないレベルの光導姫へと成長した。だが、まだ『光臨』を超えた力は習得できていないようだが。しかし、2人には可能性がある。ソレイユは勝手な考えだが、2人に期待していた。

(後は影人ですね。レイゼロールが全ての力を取り戻してから、シェルディアにずっと『世界端現』の方法を師事し修行していましたが・・・・・・・結局、今日に至るまで『世界端現』は習得出来ていない。それは残念ではありますが、今この状況に至っては影人の力も当然必要です。影人にも連絡しなければ)

「影人――」

 ソレイユはそう決めると、影人に念話を試みた。自分の力を分け与えた、影なる少年に。


 こうして、最後の戦いの幕は開かれた。

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