第237話 カケラ争奪戦 ロシア(2)

「っ、我とスプリガンの気配隠蔽は解除されていない・・・・・・・・だというのに、また現れたか光導姫、守護者・・・・」

 アイティレとイヴァンの姿を見たレイゼロールがどこか忌々しそうに言葉を漏らす。まただ。また気配隠蔽の力が機能しているのに、光導姫と守護者が現れた。レイゼロールはその事に疑問と苛立ちを覚えた。

(まあロシアって事で『提督』を思い浮かべたのは事実だが・・・・・・まさか日本にいた『提督』がマジで来るとはな。超長距離転移を使ったのかソレイユ?)

『いえ、アイティレはたまたまロシアに戻っていたようだったので、超長距離転移ではありませんよ。だから、力はあまり消耗していません』

(そうかい。そいつは幸運だったな。それはそうとして、俺も気張らないとな。ここが最後のチャンスだ。俺はこの戦いで、レイゼロールから最後のカケラを奪取する)

 ソレイユの答えに内心でそう言葉を返しながら、影人は決意の言葉を続けて呟いた。そう。このカケラを巡る戦いはこれが最後。影人はこの戦いで、レイゼロールを裏切る。これは決定事項だ。

(だがまあ、カケラが見つかるまでは今まで通り、光導姫と守護者と戦ってやるよ)

 影人は視線をアイティレとイヴァンに向けながら、こう言葉を発した。

「・・・・・・・・よう『提督』。お前と会うのはけっこう久しぶりだな。隣の守護者は知らないがな」

「・・・・ああ、そうだな。貴様とこうして会うのは久しぶりだ。そして、その間にお前は正体を現した。やはり、お前はレイゼロールの闇サイドに与する悪しき者だったようだな」

 アイティレは厳しい目を影人に向けながら、そう言葉を返して来た。今にも襲い掛かって来そうな、そんな気迫だ。

「あー、『提督』あの真っ黒な男と知り合いなんだ。知り合いなら、俺みたいな邪魔者は消えた方がいいよね。じゃあ、そういう事で。バイバーイ」

 アイティレと影人が言葉を交わしていると、アイティレの隣にいた人物、守護者ランキング5位『凍士』のイヴァン・ビュルヴァジエンが、気怠げそうにそう言葉を呟いた。そしてイヴァンは、なぜか影人とレイゼロールに背を向けどこかへと歩き始めようとした。

「待て。ふざけるな『凍士』。どこへ行く気だ。お前もしっかりと戦うのだ」

 だが、アイティレはイヴァンの首根っこを掴み、イヴァンを逃がさなかった。

「ぐえっ! えー、やっぱり戦わないとダメなのかよ。面倒くさい・・・・・・はあーーー、本当に最悪・・・・」

 アイティレからそう言われたイヴァンは大きくため息を吐くと、言葉通り面倒くさそうに再び影人たちの方に振り向いた。同じ面倒くさがり屋の影人には分かるが、あれは本気で戦いを面倒くさがっている顔だ。少し妙な親近感を抱きつつも、影人はイヴァンに警戒感を抱いた。

(守護者にしては珍しいタイプだな。だが、ここにいるって事は、こいつも最上位の守護者のはずだ。あれだけやる気がなさそうな奴が、最上位の守護者・・・・・・・・侮らない方がいいんだろうな)

 そこまで考えた影人は、一歩前に出て固い雪を踏むとレイゼロールにこう言葉を伝えた。

「レイゼロール。こう言うのは慣れたみたいで少し嫌だが、いつも通りだ。お前は最低限の注意だけしてカケラの位置を探れ。俺はお前を守る。なぜまた光導姫と守護者が、気配隠蔽の力を使っている俺たちの場所に現れたのか疑問だが、今はその疑問は忘れろ。もう、こうなっちまったんだからな」

「・・・・・・・そうだな。お前の言葉は合理的だ。ならば、任せたぞスプリガン」

 影人の言葉に頷いたレイゼロールはスッと目を細め集中し始めた。

(ああ、任せろよ。お前は絶対に、死んでも俺が守ってやる)

 影人は心の内で再びそんな言葉を呟いた。過去から戻って来た影人にとって、レイゼロールは既に命を懸けて守るべき存在になっていた。

(さて、ざっと体感1か月ぶりの戦いだな・・・・・・・・はっ、上等だ。気張って行くぜ、イヴ!)

『けっ、俺からしてみりゃ10日だがな。だが暴れるのは好きだ。それに、前の戦いは『聖女』のせいで満足に戦えなかったからな・・・・いいぜ、派手にやりやがれ影人!』

 相棒イヴの声を聞いた影人は少しだけ口角を上げると、自身の体に身体強化の闇を纏わせた。影人の体に闇が纏われたのを見たアイティレとイヴァンも、臨戦態勢へと移行した。

「来るぞ、『凍士』」

「みたいだね。はー、ダルいけど死にたくはないし・・・・・やるか」

 アイティレは両手の拳銃を構え、イヴァンはポケットから両手を出すと、虚空に右手を向けた。すると、イヴァンの右手の先に白い持ち手のナイフが出現した。薄いただのナイフではない。いわゆるコンバットナイフと呼ばれるような、高い殺傷能力があるナイフだった。

「いつかの決着をつけようぜ、『提督』」

「そうだな。今日この場所であの時の決着をつける。悪しき者よ、私が貴様を浄化してやる」

 スプリガンの言葉にアイティレが言葉を返す。2人が今思い出しているのは、フェリートが乱入してくる前の日本での戦いだ。初めてスプリガンと『提督』が激突したあの時の戦い。結局、フェリートの乱入で決着はつかなかった。まあ、影人からすれば、あの時はアイティレの目的を確かめるのが目的だったので、つける必要はなかったのだが、とにかく、その戦いの続きを影人とアイティレは今から行うのだ。

(まあ、そうは言っても俺は時間稼ぎに徹して、お前を倒したり殺したりはしないんだがな・・・・・・・)

 影人は右手に闇色の拳銃、左手に闇色のナイフを創造しながら内心で軽く自嘲した。正直影人は言ってみたかっただけだった。やはりどんな時もこのバカ前髪は変わらないようである。台無しじゃねえか。締まらねえのである。今すぐに真夜中の海にダイブしろ。

「・・・・行くぜ」

「・・・・来い」

 影人とアイティレは最後にそう言葉を交わすと、互いに相手へと向かって駆け始めた。アイティレの横にいたイヴァンもアイティレと同時に、スプリガンへと向かって駆ける。

 極寒の真夜中、美しいオーロラの下でカケラを巡る最後の戦いが始まった。














「ふっ!」

 影人の方に向かって走りながら、アイティレが両手の拳銃を発砲した。マズルフラッシュが瞬き、浄化の力を宿した弾丸が発射される。影人はその弾丸を身を捩って避けながら、自身も右手の拳銃の引き金を引いた。闇色の弾丸が、夜に溶けるように進んでいった。

「ふん・・・・・」

 アイティレはその弾丸を影人と同じように回避した。そして、アイティレは2丁の拳銃を影人に乱射した。

(はっ、そんなもん・・・・・・・・)

 影人は眼を闇で強化した。影人の金の瞳に闇が瞬く。瞬間、影人の視界に映る光景がスローモーションになった。自分の方に向かって来る弾丸が全て分かる。

 影人は自分に当たる弾丸にだけ銃の引き金を引いた。影人が放った銃弾はアイティレの弾丸を弾く。そして影人は安全に、真っ直ぐにアイティレとイヴァンへと近づいた。

「・・・・・止まって見えるぜ」

「っ!」

「うわ、マジかよ」

 無傷で真正面から突破してきた影人が格好を付けた言葉を吐く。銃弾を銃弾で弾き正面から抜けて来た影人に、アイティレとイヴァンは驚いたような顔になった。

「さて、次はこいつだ。守護者、お前の実力を見せてみろ」

 影人はイヴァンに顔を向けると、左手のナイフを振るった。武器から見たところ、この守護者はナイフを主体に戦う守護者だ。どれくらいの力があるのか、影人は自分もナイフを使って見極めようとしていた。

「いや、普通に勘弁してくれよ」

 イヴァンはげんなりとした顔でそう呟くと、右手のナイフで影人のナイフを受け止めた。そしてイヴァンは、影人のナイフを巧みに受け流し影人の左腕を切ろうとしてきた。

「ふん、切れると思うかよ」

 だが影人は左腕の部分に黒騎士形態の装甲を一部顕現させた。その結果、イヴァンの斬撃は黒い装甲に弾かれる。イヴァンは「はぁ!?」と驚いたような声を上げたが、影人はそれを無視してイヴァンの胴体を左足で蹴飛ばした。

「ぐっ・・・・!?」

「『凍士』!」

 蹴飛ばされたイヴァンにアイティレが声を掛ける。そんなアイティレに影人は左手のナイフを振るい、右の銃を至近距離から発砲した。

「ちっ!」

 アイティレがその攻撃を視認する。すると、アイティレに向かって放たれた弾丸が凍った。凍った弾丸は地面に落ちる。そして、アイティレに振るった影人の左手も凍る。アイティレの半径1メートル以内の物質を凍らせる、「凍域とういき」だ。アイティレは半径1メートル以内に限り、自身が認識したものを凍らせる事が出来る。それがアイティレの光導姫としての能力だ。

「相変わらず厄介な力だが・・・・無駄だ」

 凍った左手を見た影人は自身の左手に『破壊』の力を付与させた。次の瞬間、影人の左手とナイフを覆っていた氷が砕け散る。左手が自由になった影人は、変わらずにアイティレに向かってナイフを振るう。

「くっ・・・・!」

 回避出来ないと悟ったアイティレは、右手の拳銃でナイフを受け止めた。無理にナイフを受け止めたので、アイティレの体勢が少し崩れる。影人は右足に『加速』の力を付与させると、神速の蹴りでアイティレの腹部を蹴り抜いた。その蹴りはアイティレの反応の上を行く蹴り。アイティレは「凍域」を発動する事が出来なかった。

「がはっ!?」

 重い蹴りがアイティレを吹き飛ばす。反射的に吐いてしまいそうな衝撃と痛みを感じたアイティレは、そのまま15メートルほど先の雪原に背中から落ちた。

「・・・・・・・・・・通常形態のお前のその凍らせる技は厄介だが、お前が認識しなければ発動する事は出来ない。なら、お前の反応出来ない攻撃を繰り出せばいいだけだ。それだけで、お前の能力は意味を成さなくなる」

 吹き飛んだアイティレに向かって、影人はアイティレの能力の弱点を指摘した。前回の冥・殺花戦の後、実は影人はソレイユにアイティレの能力がどのようなものか聞いていた。もちろん光臨後の能力も。それは影人がアイティレとだけは、いずれまた戦う事になるだろうとずっと考えていたからだ。影人はアイティレの正確な目的を知らないが、アイティレが自分を狙っているという事だけは知っている。

「・・・・・・・・・・俺は以前お前と戦った時よりも格段に強くなった。力の解釈も拡大した。お前は以前の俺とは通常形態でも互角に戦ってたが、今はこれが現実だ。お前は確かに強いが、俺には勝てない」

 ハッキリと雪原に倒れたアイティレに向かって影人はそう宣言した。今影人が言ったように、アイティレは強い。通常形態の力も、光臨後の能力も相当に凄まじいものだ。アイティレの能力と戦闘センスは、戦闘能力なら光導姫最強という評価が妥当なものであると納得もさせられる。

 だが、影人はアイティレの能力に問題なく対処できる。ソニアの時もそうだったが、基本的に影人はどんな状況、どんな能力にも対応する事が可能なのだ。例外はおそらく『聖女』くらいだろう。影人は過去に飛ばされる前に初めてファレルナと戦ったが、あれは別格だった。

 しかし、ファレルナを抜きにすれば、影人は光導姫相手に負ける事は絶対にないと自負していた。影人が与えられた力はそれ程のものだ。

「っ・・・・言って、くれる・・・・・・・・まだ戦いは始まったばかりだというのにな・・・・」

 影人に腹部を蹴り抜かれたアイティレは銃を持った左手で腹部を押さえながら、ヨロヨロと立ち上がった。腹部はまだ痛む。常人ならば内臓が破裂していてもおかしくはない蹴りだった。常人よりも遥かに頑丈である光導姫形態であるとはいえど、アイティレもかなりのダメージを受けた。

「あー、嫌だ。反応が化け物じゃないかあいつ・・・・それに、君がこんな軽くあしらわれるとか無理じゃん。あいつの言う通り勝てないよこれ」

 アイティレと同じように影人に蹴り飛ばされたイヴァンが、首を軽く横に振る。イヴァンはアイティレよりもダメージが軽いが、戦意は早くも喪失しかかっていた。

「ふん、勝てないと思ったならば、勝つ事などは不可能だ。腑抜けるな、『凍士』。守護者である以上、お前には戦う義務がある」

「いや、俺の場合は親父からやれって言われたから半ば無理やり守護者にならされたんだけど・・・・・・まあでも、納得は出来ないけど正論っちゃ正論だよな。はあー、やっぱ正論は嫌いだな・・・・・・」

 アイティレからそう言われたイヴァンは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべると、一歩前に出た。そしてアイティレにこう言葉を述べた。

「取り敢えず、君は少し休んでなよ。余裕そうに見えるけど、まだダメージ回復してないだろ。死ぬ気で何分か時間稼ぐから、その間に満足に戦えるようにしといて」

「・・・・戦闘眼は健在か。ならば、頼む。回復し次第、私も仕掛ける。

「・・・・・・なるほど、短期決戦か。まあ、それしかないだろうし・・・・了解。じゃ、行くか・・・・・・!」

 イヴァンはそう言うと、真っ直ぐに影人の方へと向かって来た。どうやら1人で影人と戦おうとしているようだ。向かって来るイヴァンを見た影人は、右手の銃を虚空に消し、左手のナイフを右手に持ち替えた。

「・・・・ふん」

「ありがとうよ。わざわざ合わせてくれて・・・・!」

 影人の意図を悟ったイヴァンはそう呟くと、ナイフを逆手に握り一閃、影人に振るった。影人はその一撃を避けて、イヴァンの胴体を穿とうと右手のナイフを突き出した。

「っ・・・・」

 イヴァンはその突きをギリギリで回避し、再びナイフを振るうモーションを取った。影人は次のナイフの一撃を意識した。だが、イヴァンのその行動はフェイントで、イヴァンは体を捻って左足で蹴りを放った。

(っ、そっちか)

 影人はその蹴りを視認すると体を逸らした。普通なら避けるのが難しい蹴りだ。だが、影人は今眼を強化している。避ける事は難しくなかった。

「シッ・・・・・・!」

 イヴァンは続けて左の拳打を放つ。影人はそれを回避し、イヴァンの右足に左足で足払いを掛けた。不意をついたつもりだったが、イヴァンは警戒していたのか影人の足払いで体勢を崩しはしなかった。イヴァンは足払いには目もくれず、ナイフによる乱撃を影人へと浴びせて来た。

(っ、こいつ・・・・・・)

 イヴァンのナイフの乱撃を回避し、時には右手のナイフで受け止める影人。影人はこの攻防で、イヴァンが超一流のナイフと体術使いである事を理解した。中国で戦った棍を使う守護者、タイプ自体はそれと同じだ。

(近接戦闘が尋常なく強いタイプだな。だが、そんな奴でも俺の敵じゃない)

 影人は全身に『加速』の力を施した。そして、影人はイヴァンの乱撃を全て回避しながら、お返しとばかりに自身もナイフの乱撃を放った。

「っ!?」

 急に段違いに速度が上がった影人の神速の乱撃に、イヴァンはまともに反応する事が出来なかった。イヴァンの全身に切り傷が生じ、白いコートには赤い血が滲んだ。

「反応できないだろ。だが、まだまだ行くぜ」

 影人はそう呟くと、ナイフによる斬撃と左拳と蹴撃による格闘の打撃を浴びせた。イヴァンは全く反応出来ずに更に切り傷を増やし、強烈な打撃を喰らってしまった。

「ぐっ・・・・!?」

 イヴァンがダメージからよろける。影人は殺さないように注意しながらも、そろそろイヴァンを再び吹き飛ばそうと思い、イヴァンの腹部に左手で裏拳を放とうとした。

 だが、

「あー、ちきしょう・・・・・・・・やっと慣れて来た」

 イヴァンは冷静にそう呟くと、影人の裏拳を回避した。そしてカウンターで、ナイフを影人に振るった。まさか回避されてカウンターまでされると思っていなかった影人は、闇で眼を強化しているのにもかかわらず、左頬を薄くだが切り裂かれてしまった。

「っ、てめえ・・・・・・」

「本当やめてほしい。あんたの速度と反射速度、普通に無理だから。化け物かよ」

 驚いた顔を浮かべる影人に、イヴァンは呆れたような声を漏らす。イヴァンの言葉を聞いた影人は不可解さを感じつつも、再び神速のナイフの乱撃を放った。

 しかし、

「シッ!」

 イヴァンはまるで見えているかのように、影人の神速の乱撃を回避し、その隙を突いて再びナイフを振るって来た。影人はイヴァンのナイフを、自身のナイフで受け止めた。

「・・・・・・・・どうやってやがる。俺の速度に、守護者が反応できるはずがない」

「当たり前だろ。あんたの速度に反応できる奴なんかそもそも皆無だろ」

 ナイフで鍔迫り合いながら、影人とイヴァンが言葉を交わす。イヴァンに不可解さを抱いていた影人は、続けてこう言葉を放った。

「はっ、なら何でお前は反応できてやがるんだよ」

「俺のは反応じゃない。ただの勘さ。俺にとっては最悪だけど、昔から観察するのが得意でさ。あんたの動きはある程度観察できてたから、それを参考にしてあんたの動きを予想した。それだけだよ」

「・・・・・・・・よく言う。お前も化け物じゃねえか」

 イヴァンの言葉の意味を理解した影人は、ついそう言葉を漏らした。つまりイヴァンは、影人の『加速』した動きを、予想して予め動いていたのだ。そしてその上でカウンターさえ仕掛けてきた。何の能力もない守護者が。影人はその事を加味した上で、イヴァンを化け物と評したのだった。

「ふざけるなよ。あんたには負けるさ・・・・・!」

 イヴァンは力を受け流して鍔迫り合いを終わらせ、後方へと飛んだ。そのタイミングで、イヴァンは自分の後方にいたアイティレにこう言葉を叫んだ。

「悪いけどもう限界! 後は頼むぜ『提督』」

「ああ、感謝するぞ『凍士』では――行くぞ」

 イヴァンの言葉にアイティレが頷く。イヴァンのおかげでアイティレの腹部の痛みはかなり引いた。これならば満足に戦える。

 そして、アイティレは覚悟を決めたような顔を浮かべる。すると、アイティレに水色のオーラのようなものが纏われた。辺りはマイナス20度の世界だが、アイティレの周りの温度は更に低くなり始めた。

「我は光をのぞむ。力の全てを解放し、闇を浄化する力を」

 力ある言葉を紡いだアイティレは、その言葉を口にした。

「光臨」

 次の瞬間、アイティレを中心に世界が眩く輝いた。そして、光が収まるとそこには少し姿が変わったアイティレがいた。水色がかった銀髪に、マントのように羽織った軍服。そして、纏われた水色のオーラ。それはアイティレの光臨した姿。『氷河総べる大提督』と呼ばれる姿であった。

「戦いはここからだ。10分。この時間の間に、私は貴様を倒す。スプリガン、貴様をな」

「・・・・・・・・やってみろ。お前の光じゃ、俺という闇は晴らせない」

 光臨したアイティレを確認した影人は目を細めそう言葉を述べる。影人の言葉を聞いたアイティレはその赤い瞳で真っ直ぐに影人を見つめた。

「いいや、晴らしてみせるさ。私の正義にかけて」

 そして、アイティレは右の拳銃を影人へと向けた。

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