第236話 カケラ争奪戦 ロシア(1)

「はあー、ったくマジで久しぶりだぜ。学校に行くのなんてよ・・・・・・・・・・」

 11月5日月曜日、午前8時過ぎ。風洛高校の制服に身を包んだ影人は、学校を目指しながらそう呟いた。

(いやーしかし、昨日はありえん怒られたな。間違いなく今までの人生で1番怒られた)

 久しぶりの通学路を歩きながら、影人は昨日の事を思い出した。昨日、ソレイユに地上に送ってもらった影人は真っ直ぐ自分の家へと帰った。

 自宅の鍵を持っていなかった影人は自宅のインターホンを鳴らした。そしてインターホンで影人の姿を確認した影人の母親と穂乃影は、当然の事ながら驚いたように玄関のドアを開け影人を迎えてくれた。久しぶりにあった家族に、影人は珍しく感傷的になった。

 だが、そんな気分になったのは一瞬だけだった。その後すぐに、影人は母親と穂乃影から烈火の如く怒られた。母親は全力でキレ、穂乃影は氷のような冷え切った感じで。精神が無駄に強い前髪野郎が泣きそうなレベルだった。

(でもまあ、ソレイユが可能性を示唆してたように、嬢ちゃんが母さんや穂乃影にそれらしい事を伝えてくれてた分、それでもマシだったんだろうな・・・・・・本当に嬢ちゃんには頭が上がらないぜ)

 シェルディアはどうやら、影人の家族に「影人は急に自分探しの旅に出た」と、奇しくも影人が言い訳に使おうと思っていた嘘を伝えてくれていたようで、その内ふらりと帰ってくるとも言ってくれていたらしい。だから、影人の家族は心配の感情よりも、「あの世紀の大バカは本気で許さん」的な怒りの感情の方が勝っていたらしい。影人としては喜ぶべき事なのだが、正直あれだけ怒られたので素直に喜ぶのは難しかった。複雑な気持ちである。

(嬢ちゃんの方は怒るとかではなく、ただひたすら心配してくれてたみたいだが・・・・・・・流石に過去に飛ばされてレイゼロールと一緒に暮らしてたって言った時は驚いてたな。嬢ちゃんのあんな驚いた顔は初めて見たぜ)

 次に影人は隣人であるシェルディアの反応を思い出した。家族にこってりと絞られた後、影人は隣のシェルディア宅を訪れた。ソレイユから事情を伝えられていたシェルディアは、影人の姿を見るや否や、影人に抱きついてきた。影人はその事に驚いたが、「本当に、心配したんだから・・・・・・・・」という言葉を聞き、影人は「ごめん・・・・」と言葉を返した。しばらくの間、シェルディアは影人から離れなかった。

 そんなシェルディアに、影人は自分が今までどうしていたのかを話した。シェルディアの家には、キベリアがいたので外で。影人の話を聞いたシェルディアは本当に驚いたような顔を浮かべていた。取り敢えず、詳しい話はまた後日という事で話はそこで切り上げたが。

 ちなみにではあるが、影人はシェルディアのあれ程驚いた顔は初めてだと心の中で述べたが、それは間違いである。シェルディアが1番衝撃を受け驚いた顔を浮かべたのは、影人がスプリガンだと知った時だ。まあ、あの時影人は意識を失っていたので、そう勘違いしても仕方がないのだが。

(後はスマホには金髪とか暁理とかからのメッセージとかも溜まってたから、また連絡しないとな。適当な言い訳添えて。そんでもって、現代に帰って来て思ったのは・・・・・・・・生活が便利すぎる。マジで生きるのが楽過ぎるんだよなー)

 過去に飛ばされるまでは深く考えた事はなかったが、本当に現代の生活は凄いものなのだなと、影人は実感した。食事は勝手に出て来るし死ぬほど美味しいし、フカフカのベッドもあって空調設備もあって、トイレはあるし服はあるし靴はあるしで、良いところを挙げればキリがない。影人は過去での生活を経験して、本当に現代に生まれた事を感謝した。

「まあ、この堅苦しい服には慣れなくなっちまったがな・・・・・・・・・・」

 風洛の制服に視線を落としながら影人は苦笑した。今は冬なので影人はブレザーを着ている。ブレザーもそうだが、ワイシャツやネクタイ、ベルト付きのズボンは、過去でずっと緩やかな服を着ていたので、どうにも動きづらい。違和感のようなものさえ感じる始末だ。

「ふっ、だが感じる方が幸せってやつか・・・・・」

 影人がどこか感慨深げにそう呟いた時だった。影人は後方から自分の名前を呼ぶ2つの声を聞いた。

「影人!」

「帰城くん!」

「げっ・・・・・・・・」

 その声は2つとも影人の聞き覚えのある声だった。振り向きたくないという気持ちを抱きつつも、仕方なく影人は後方に振り向いた。

「・・・・何か用か。暁理、香乃宮」

 振り向いた影人は自分に声を掛けて来た2人にそう聞いた。走って影人の近くまで来たのは、影人の数少ない友人である早川暁理と、なぜか影人によく絡んでくる風洛きってのイケメン、香乃宮光司だった。

「何かって、それはこっちのセリフだよ! ずっと学校休んでどうしたのさ!? 電話もメールもしたのに何の反応も返してこないし!」

「僕も君の事が心配で・・・・・・・・何かあったのかい? いや、プライベートを詮索するつもりはないんだ。ただ、僕に出来る事があれば力になりたいなって・・・・ごめんね、急にこんな事。でも、君の姿を見たらつい・・・・・・・・」

 暁理と光司が心配そうな顔で影人にそう言った。影人は「別に大した問題じゃねえよ」と言って、こう言葉を続けた。

「単純に季節性の風邪に罹ってただけだ。だから、しばらく学校を休んでた。ちょっとキツかったから、スマホも触れなかった。それについては悪かったよ」

 影人は母親が学校側に伝えていた嘘の答えを述べた。影人の母親はシェルディアから突然自分探しの旅に出ると伝えられ、まさかバカ正直にそんな事を言えるはずがないと、学校側にそんな当たり障りのない理由を伝えていたのだった。影人の母親には心から同情するところである。

「っ、ま、まあそんな理由だったらしょうがないけどさ。でも、本当に心配したんだからな!」

「そうだったのか・・・・・・・それは辛かったね。でもよかったよ。風邪が治って」

 暁理と光司はホッとしたような顔を浮かべ、それぞれそう言葉を述べた。当たり前だが、2人は影人の嘘の答えに納得しているようだった。

「そういう事だ。風邪はもう治ったが、一応病み上がりだからあんまり構ってくれるな。じゃあな」

 影人は暁理と光司にそう言うと再び歩き始めた。

「じゃあなって、待てよ影人! せっかくだから、普通一緒に行こうってならない? 本当、そういうところだよ君・・・・」

「あ、僕も出来れば一緒に・・・・・・・・・・」

 暁理と光司は影人の隣に並んだ。2人に挟まれた影人はため息を吐いた。

「はあー、本当にお前らは人の話を聞かねえな・・・・つーか、この状況既に俺に拒否権ねえじゃねえかよ・・・・・・・・」

 影人はそう言葉を漏らした。久しぶりに会う暁理や光司に対して感慨がないわけではない。2人とも、2度と会えないかもしれないと思っていた人物たちだ。だが、今の影人は喧騒よりも静かにこの世界に思いを馳せていたかった。後はまあ、暁理だけではなく普段避けている光司もいたので、一緒に登校したくなかったという理由もあるが。

「ちっ、今日だけだぞ。明日以降は付き合わねえからな。特に香乃宮。分かったな?」

「あ、うん。分かってるよ。ありがとう帰城くん。君と一緒に登校できて、僕はすごく嬉しいよ」

 影人が舌打ちをして光司の方を向く。前髪から舌打ちをされるという、この世で尤も屈辱的な事をされたというのに(普通ならキレ散らかして前髪に絞首刑を求刑するレベル)、人が出来すぎた光司は本当に嬉しそうに笑った。おお聖人よ。前髪には勿体なさ過ぎる男である。

「君さ、何で香乃宮くんにはそんなにキツく当たるのさ? 何かあったの?」

「別に。単純にこいつの存在が気に入らねえだけだ。後、構うなって言ってるのに構って来るのが普通に無理だ」

 影人の光司に対する態度に不審感を抱いたのか、暁理が影人にそんな質問をした。それに対し影人は光司が隣にいるにもかかわらず、そんな答えを返した。

「え? いや、それ本人がいる前で言うかい? ごめん、正直今まで1番引いたかも。君、人間じゃないよ」

「誰が人外だアホ。俺は正直にお前の質問に答えただけだ」 

「うわー・・・・・・・・・・香乃宮くん、悪い事は言わない。こんな化け物に関わらない方がいいよ。いや本当に」

 影人にドン引きした暁理は光司にそう言った。暁理にそう言われた光司は、ニコニコとした顔でこう答えた。

「いや、帰城くんが言うように悪いのは全部僕なんだ、早川さん。帰城くんに拒絶されているのに、何度も帰城くんと関わろうとしている僕が。僕がどうしても帰城くんと友達になりたいのを諦めきれなくて。だから、帰城くんの言う事は正しいんだよ。むしろ、こんな迷惑な僕に手をあげない帰城くんは優しすぎるくらいで・・・・・・・・」

 それから光司はいかに影人が悪くないかをペラペラと喋り続けた。光司の言葉を聞いた暁理はポカンとしたような顔を浮かべていた。それは、暁理の理解を超えた言葉だった。

「気にするな暁理。こいつ、性格が完璧過ぎるせいか、ちょっとこういうところがある。そんだけ――」

 影人が暁理にそう言った時だった。影人のズボンのポケットに入っていたスマホが震えた。誰だ。こんな朝っぱらから。影人はポケットからスマホを取り出し、自分に電話を掛けて来た人物が誰か確認した。

(っ、嬢ちゃん・・・・・・・・・・?)

 影人に電話を掛けて来たのはシェルディアだった。シェルディアから電話が掛かって来る。それは即ち――

「・・・・・・・・すまん、家から電話だ。どうやら何か忘れた疑惑がある。お前らは先に学校行ってろ」

 影人は適当に嘘をつくと、学校とは反対側に向かって駆け出した。

「え、ちょっと影人!?」

「帰城くん、急ぎすぎて転ばないようにねー!」

 突然走り去っていった影人に、暁理は驚き、光司はまるで母親のような言葉を送った。

「ったく、久しぶりの学校は大幅に遅刻だなこりゃ・・・・・・・・」

 影人は走りながらそう言葉を漏らすと、電話のボタンを押した。














「・・・・・・・・・・」

 午前8時30分過ぎ。誰もいない公園に1人の女がいた。西洋風の黒い喪服を身に纏い、長い白髪のアイスブルーの瞳が特徴的な女性だ。彼女の名はレイゼロールといった。

「――よう、久しぶりだな」

 レイゼロールに対しそう声を掛けたのは、黒衣の男だった。どこからともなく現れたその男――スプリガンはレイゼロールに近づき、その金の瞳を向けた。

「スプリガン・・・・・・本当に生きていたのか。昨日、シェルディアからお前が帰って来たという情報を伝えられた時は驚いたぞ」

「・・・・・・まあな。俺も流石に時空の歪みに呑み込まれた時は終わりだと思ったが・・・・・・色々あって何とかこの世界に戻って来る事が出来た。そういう事だ」

 自分の姿を見つめてくるレイゼロールに、影人はそう答えを返した。詳しい事はレイゼロールには言えない。そう彼女にだけは絶対に。

(レイゼロール・・・・・・ああ、今のお前を見てると何だか感慨深いぜ。過去に行って、お前と暮らすまではこんな感情は抱いた事がなかったのにな・・・・)

 現在のレイゼロールの姿を見た影人の中に様々な感情が溢れて来る。そして、過去での記憶も。子供のような姿だったレイゼロールと、今の成長したレイゼロールが影人には重なって見えた。

(・・・・正直今すぐにでも、お前には俺があの時の人間だって、エイトだって伝えたい。孤独と絶望の闇に沈んだお前の感情を引き上げてやりたい。でも・・・・・・それをするのは今じゃないんだよな)

 影人はレイゼロールに対する感情を悟られないように、帽子の鍔を引いた。そして影人は誤魔化すようにレイゼロールにこう言葉を投げかけた。

「それよりも・・・・・・お前が俺を呼んだ理由はカケラ関連でいいんだよな? シェルディアから聞いたが、お前9個目のカケラは既に吸収したらしいな。つまり、今から向かうのが最後の10個目のカケラの場所って事か?」

「ああ、その理解で合っている。9個目のカケラはつい4日前に南アフリカで吸収した。お前が言うように、我の最後のカケラの場所に今から向かう。だがその前に1つだけ聞いておきたい事がある」

 レイゼロールは影人の言葉に頷くと、右手に闇色の剣を創造し、それを影人の喉元に突きつけて来た。

「お前は時空の歪みに呑み込まれる前にゼノと、『聖女』を助けた。いや、2人を助けるために呑み込まれたという方が適切か。ゼノを助けたのは分かる。感謝もしよう。だが、なぜ敵であるはずの『聖女』を助けた? お前は我の陣営に加わったのではなかったのか? 答えろ、スプリガン」

(やっぱり覚えてやがったか。まあ、そう来るわな)

 レイゼロールから剣を突きつけられた影人は、内心でそう思った。そう。影人は時空の歪みに呑み込まれる前に『聖女』を、ファレルナを助けているのだ。表向きはレイゼロールの味方になったにもかかわらずに。それは問題だった。

「・・・・・・別に大した理由はない。ただの気まぐれだ。ゼノを助けるついでだった。それに、『聖女』と一緒に時空の歪みに呑まれるのは嫌だった。それ以外に理由はない」

 レイゼロールの質問に対し、影人は何でもないように答えを放つ。本当の理由は無論違うが、それをレイゼロールに言うわけにはいかない。言い訳としては少し苦しいが、影人は堂々と嘘の答えを吐いた。

「・・・・・・・・・・信じると思うか?」

「信じるも信じないも好きにしろ。それを決めるのはお前だ」

 真っ直ぐにアイスブルーの瞳を向けて来るレイゼロール。影人も金の瞳で真っ直ぐにレイゼロールの目を見つめ返す。そして数秒間、2人の間に沈黙が流れた。

「・・・・・・・・・・ふん。いいだろう。1度だけ信じてやる。ただし次に同じような行動をすれば・・・・・・分かっているな?」

「ああ、分かったぜ」

 レイゼロールは剣を虚空に消した。影人はレイゼロールの言葉にコクリと1回頷いた。

「よし、では話は終わりだ。現場へと向かうぞ」

 レイゼロールはそう言うと、右手を虚空に向け闇色のゲートを創造した。そして、影人にこう聞いて来た。

「ところでスプリガン。お前は体温の調整が出来るか?」

「急に何だ?」

「なに、今から行く場所は凍るように寒いからな。聞いただけだ」

 不審な顔の影人に、レイゼロールはただそう言っただけだった。















「・・・・・・中々寝付けんな」

 深夜2時過ぎ。ロシアの首都、モスクワ。ベッドに入っていた少女――光導姫ランキング3位『提督』のアイティレ・フィルガラルガはその赤い瞳で部屋の天井を見つめながら、ポツリとそう呟いた。ここはアイティレの実家だ。アイティレは昨日、自分の母国であるロシアに帰って来ていた。 

 アイティレが本国に招集されたのは、スプリガンに対する任務の中間報告のためだった。アイティレが日本に留学して既に約5ヶ月。けっこうな時間が経過している。アイティレに極秘の任務を与えたロシア政府上層部は、直接アイティレの口から任務の現状を聞きたかったのだろう。アイティレは今日の昼間、アイティレに任務を伝えた光導姫・守護者の政府機関のトップの男に、今までの事を報告した。

(依然任務を継続。私は明日には再び日本に戻る。父さんは寂しがっていたが、そこは許してもらおう)

 アイティレの実家。ここには現在アイティレの父親が1人で暮らしている。アイティレも留学する前はここで暮らしていた。だから、アイティレが久しぶりに帰って来た事に父親はとても喜んでくれた。

(久しぶりに母さんの顔も見れた。やはり、母国はいい。だが、私にはやらねばならぬ事がある。だから、私はその時にまた戻って来るよ母さん・・・・)

 病院のベッドで眠り続けている母親の顔を思い浮かべながら、アイティレは内心でそう呟いた。

「・・・・・・・・ダメだな。早く寝なければならないのに、考えが止まらない。いっそ、暖かい紅茶でも――」

 アイティレがベッドから半身を起こし、そう呟こうとした時だった。アイティレの脳内にある音が響いた。

 キィィィィィィィィィィィィィィィィン

「っ! ・・・・・・・・ふっ、丁度いいというべきか。せっかくだ。少し体を動かすか」

 アイティレは小さく笑うと、ベッドの側の棚の上に置いていた自分の変身媒体である、赤い小さな偽物の宝石を持って部屋を出た。















「・・・・・なるほど。確かにこいつは凍るように寒いな」

 周囲の雪原と北極圏の海を見つめながら、影人はそう言葉を漏らした。今の影人は闇の力で体温調節をしているので少し寒いと感じるくらいだが、ここに来た時は今までの人生で1番寒いと感じた。

「ここはロシアの最北に位置している場所だからな。マイナス20度ほどはあるだろう。体温調節の力を使えなければ、お前でもここにいる事は厳しかったはずだ」

 影人の呟きにレイゼロールがそう答えた。レイゼロールが言った通り、2人がいるのはロシアの最北に位置する場所だった。周囲には民家の一軒すらない雪原だけが広がり、視界内には真っ暗な海が見える。日本は朝だったが、こちらはまだ夜のようだ。影人やレイゼロールは正確な時間を知らないが、こちらはまだ深夜2時過ぎの真夜中だった。

 ちなみに、2人がいる場所はロシアのムルマンスク州と呼ばれる場所だった。ロシアは広大な土地の国のため、場所によって時間がかなり違う。例えば影人がいた東京とこのムルマンスク州の時差は約6時間で、東京の方が進んでいる。だが、ウラジオストクと東京の時差は1時間で、ウラジオストクの方が1時間早い。ヤクーツクという都市に至っては、東京との時差はない。それほどまでに、ロシアという国は場所によって時間が違うのだ。

(いや、マジで体温調節使えてよかったぜ。イヴとの契約以来、使えるようになって夏なんかは、スプリガン時は実はずっとこっそり使ってたからな。まあ冬になってあんまり使わなくなったが。だが、流石にこれは使わないと死ぬ。そんくらい寒い場所だぜここは。でも、そんくらい寒いおかげだよな。今、この夜空に広がってるが見れたのは・・・・・・・・・・)

 影人は夜空に浮かぶ淡いカーテンのような光を、オーロラを見つめた。緑色のような幻想的な光だ。その光はとても綺麗で儚かった。

「・・・・幸運というべきなんだろうな。これが見れたのは」

「オーロラか。確かに滅多に見られるものではないな。見たのは初めてか?」

「ああ」

「ふん、ならせいぜいその目に焼き付けておけ。これが自然の美しさだ」

 影人とレイゼロールは夜空を見上げながらそんな言葉を交わした。自然の美しさ。その通りだ。それがこれほど可視化されているのは、奇跡みたいなものだなと影人は思った。

「余計なお世話だ。それよりも、お前はさっさとカケラを探知しろ。ここに来たのはそのためだろ」

「その言葉、そっくりそのままお前に返すぞ。それこそ余計な世話だ。言われなくとも、やるつもりだ」

 影人の言葉に、レイゼロールは少し不機嫌そうにそう言葉を返すと、集中するために瞳を細めようとした。だが、その前に、


「――見つけたぞ。レイゼロール、スプリガン」


 どこからか、そんな声が聞こえてきた。それは女性の声だった。

「っ!?」

「・・・・・・・ちっ、ここでお前が来るか」

 その声が聞こえて来た方向に、レイゼロールと影人は顔を向けた。影人とレイゼロール、2人から30メートルほど離れた先に、オーロラに照らされた1人の女と1人の男の姿が見えた。

 女の方は白を基調とした軍服のような服を纏い、軍帽のようなものを被っていた。特徴的な長い銀髪を揺らし、赤い瞳を影人とレイゼロールに向けている。両手には拳銃が握られていた。

「はあー、ダル・・・・・・・そして眠い・・・・」

 男の方は燻んだ銀髪に薄い灰色の瞳が特徴的で、白いコートのような服を纏っていた。両手はそのコートのような服に突っ込んでいる。全体的にどこか怠惰な雰囲気の男だった。 


 ――影人とレイゼロールの前に現れたのは、光導姫ランキング3位『提督』のアイティレ・フィルガラルガと、守護者ランキング5位『凍士』のイヴァン・ビュルヴァジエンであった。

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