第220話 カケラ争奪戦 イタリア(6)

「コロッセオ・・・・・・・・・? それはまた何というか・・・・・有名な場所だな」

 レイゼロールから教えられたカケラの気配を感じるという場所。その場所の名前を聞いた影人は、ついそんな感想を漏らした。

「へえ、コロッセオにあるのか。あそこには昔何回か行ったことがあるけど、知らなかったな」

 ゼノも呑気にそう言った。影人とゼノ、2人の感想を聞いたレイゼロールはこう言葉を述べる。

「とにかくそういう事だ。移動する。だが、転移は出来そうにない。『聖女』の光のせいで、我も弱体化し、少し力が不安定になっている。転移は力のコントロールが繊細だからな。そのような状態では色々と難しい。ゆえに、駆けるぞ」

 レイゼロールはそう言うと、身を翻しコロッセオの方へと凄まじいスピードで駆け出した。あの速さは間違いなく『加速』の力を使用している。

「は・・・・・? ったく、急すぎるだろ・・・・!」

「レールたまにああいうところあるからね」

 既にかなり先に進んでしまったレイゼロールに、影人とゼノはそれぞれの反応を示す。そして、影人とゼノもレイゼロールの後を追うべく走り始めた。

「っ? 逃走した・・・・? いや、これは――」

(カケラの場所をどこか特定しやがったか!)

 レイゼロールたちの行動を見てそう直感したのは壮司だった。エリアも、ここに来る前にラルバに聞かされた事を思い出し、レイゼロールが何かを見つけたと考えた。そして、それは宙に浮かぶファレルナも同様だった。

「思い通りにはさせません・・・・!」

 ファレルナは翼を羽ばたかせレイゼロールたちを追った。チラリと後方を振り返り、ファレルナが追って来るのを見た影人はゼノにこう聞いた。

「おい、お前もっと速く走れないのか? このままじゃ途中で追いつかれるぞ」

「悪いけど難しいな。俺、身体能力上げるような力は持ってないし。これでもけっこう全力だよ」

 ゼノの速度はかなりのものだが、それは所詮闇人として身体能力のみの速さだ。当然普通の人間の速度とは比べ物にならないが、レイゼロールや影人の最高速度には遠く及ばない。影人は今ゼノにスピードを合わせているが、このままだとファレルナに追いつかれるのは間違いない。

「ちっ、なら仕方ねえか。・・・・・・・・おい、ゼノ。1回その纏ってる闇を引っ込めろ。後、全身の『破壊』の力も解除しろ。癪だが俺がお前を運ぶ」

「え、嫌だよ?」

「言ってる場合かてめえ! さっさとしやがれ!」

「えー・・・・・はあー、分かったよ」

 ゼノはため息を吐くと、自分の力を全て解除した。途端、ゼノの全てを破壊し喰らう闇が解除され、ゼノから噴き出し、吸収されていた闇も消える。そしてその闇で構成されていた偽腕も消え、ゼノは隻腕に戻った。左の黒腕も普通に戻り、髪の色も元に戻る。

「運ぶ格好に文句は言うなよ。俺も嫌なんだからな・・・・・・!」

 影人はどこか覚悟を決めたような顔になると、右手をゼノの背中に、左手をゼノの太腿辺りに伸ばした。

 そして、影人はゼノを両手で抱え、地を蹴り空を飛んだ。走るよりもファレルナのように飛んだ方が速いと思ったからだ。

「・・・・・・・・・・ねえ、これってさ・・・・・」

「言うな。それ以上は言うんじゃねえ。咄嗟に出来るのがこの方法しかなかったんだ・・・・!」

 ジッと影人の顔を見つめて来るゼノに、影人は嫌そうな、どこか恥ずかしそうな声でそう言葉を絞り出した。

 要は、影人がゼノを抱えている格好が、いわゆるお姫様抱っこというものだからだ。まあ、それはそういう空気になるというものだろう。普通に気まずいし恥ずかしい。

「光よ!」

 なんとも言えない空気になっている事などお構いなしに、ファレルナは影人たちに向かって光の帯のようなものを複数飛ばしてきた。

「はっ、遅え。そんなもんに当たるかよ」

 ゼノを抱えている事を一瞬忘れようと決めた影人は、いつも通りそんな事を呟くと、向かって来る光の帯を変幻自在に回避してみせた。

「うーん、酔いそうなんだけど」

「黙ってろ。せっかくお前抱えてるの忘れてたのによ・・・・・少し飛ばすぞ。今みたいに文句は言うなよ」

 そう言うと、影人は言葉通りスピードを上げた。弱体化しているが、今の影人は全身に『加速』の力を施している。普段通りの全開とは言わないが、それでも凄まじい速度だ。

「くっ・・・・」

 一方、飛んでいるとは言っても影人のように速度を上げる力がないファレルナは、どんどん影人との距離を離される。

 そしてそのスピードの甲斐もあってか、影人とゼノはコロッセオに到着した。影人はゼノを抱えたまま地上に降りた。

「来たか。それはそうとして・・・・・・・・お前たち、それはどういう状況だ?」

 先に到着していたレイゼロールは影人とゼノに視線を向け、そしてスプリガンにお姫様抱っこされているゼノを見て、珍しく戸惑った顔でそう質問した。

「どうもこうも見たまんまだ。説明は面倒だから後でしてやる。おい、そろそろ降りろ」

「急に抱えた割には勝手だなぁ・・・・・・まあ、いいけどさ」

 影人からそう促されたゼノは、不満顔を浮かべるもひょいと地面に着地した。

「で、カケラは見つけたのか?」

「まだだ。コロッセオの中にあるようだからな。今から回収する」

 レイゼロールはそう言うと、黒い翼を生やしコロッセオの崩れた外周部の壁を越えた。レイゼロールは中に侵入したようだ。

「・・・・・ねえ」

「・・・・・・・・・・分かってるよ。はあー・・・・・」

 その光景を見ていたゼノが影人の方を見つめてきた。ゼノの言わんとしている事を察した影人は、ため息を吐くと再びゼノを抱えて飛んだ。












「ここがコロッセオか・・・・・」

 飛んでコロッセオの内部に入った影人はついそんな言葉を漏らした。外から見た時はライトアップされていて幻想的な美しさだったが、内部も中心部の遺跡部分が美しい。ライトが何個か点灯しているので、暗いという事はあまりない。本当はこんな状況で見たくはなかったが、見た以上は一生の記憶にしようと影人は思った。

「君は来るのが初めてみたいだね。しかしまあ・・・・かなりボロくなったなあ。でもまあ、まだあるだけでもすごいか」

 地面に降りたゼノはコロッセオを見渡しながらそう言った。昔に何度か来たことがあると先ほど言っていたから当時の記憶でも思い出しているのだろうと影人はゼノを見て思った。見た目のせいでたまに忘れそうになるが、視界に映るこの闇人は、影人よりも遥かに長い時を生きてきた存在なのだ。 

「おい、ゼノ。今は近くに『聖女』もいない。せっかくだから、治してやるよ」

 ゼノの隻腕を見た影人は、近くにいるゼノに右手を向けた。すると影人の右手から暖かな闇が流れ出し、その闇はゼノの失われた右腕の場所へと向かった。

 影人は現在ファレルナの弱体化の影響を受けていない。ゆえに無詠唱でいつも通りの出力での力の行使が可能だった。その結果、

「え? うわ、すごい。もう戻った」

 ゼノの右腕は約3秒ほどで元通りに治された。

「ありがとう。うん。やっぱり君はいい奴だね。フェリートとか殺花は君の事を嫌ってるけど、俺は君の事やっぱりけっこう好きだな」

「ふん。別にお前の俺に対する好感度はどうでもいいんだよ。・・・・・ただ気になっただけだ」

 笑顔でそんな事を言ってきたゼノに、影人は顔を逸らした。別に恥ずかしいからとかではない。本当は敵であるはずの人物から、礼を言われるのが気持ち悪いだけだ。

「それよりもレイゼロールの奴はどこだ? 視界内には見えないが・・・・・・・・」

 影人は周囲を見渡した。周囲の崩れた観客席であったであろう場所にも、真ん中の半分舞台のようになっている場所や、中心の遺跡部分にもレイゼロールの姿は見えなかった。すぐに後を追ったはずなのにだ。

「さあ? でも、レールがカケラを見つけたらすぐに分かるはずだよ。だって――」

 ゼノが言葉を紡いでいる途中だった。2人は突然、凄まじい闇の力が世界に奔ったような感覚を感じた。

「今みたいに俺たちは感じるからね」

「・・・・・そうだな。これでレイゼロールが吸収したカケラは8個目か・・・・」

 ゼノの言葉に影人は頷いた。ファレルナは残念ながら間に合わなかったが、まだ焦る時ではない。影人の本命は次の9個目のカケラか、最後の10個目のカケラだからだ。

 影人とゼノがそんな話をしていると、中心部の遺跡部分からレイゼロールが黒い翼を羽ばたかせ飛び出してきた。

「どうやら、首尾よくいったみたいだな。どこ行ってたんだ?」

「地下だ。石柱に埋め込まれていた。用事は済んだ。『聖女』が来る前に帰るぞ」

 影人の問いかけにレイゼロールは素直にそう答えた。レイゼロールは影人とゼノの前に降り立つと、そう言って虚空に手を向けようとした。

 だが、

「もう逃がしはしませんよ」

 不幸な事にそのタイミングで、ファレルナがコロッセオ内の空に現れた。

「ちっ・・・・・・・・」

「・・・・そう全てが上手くはいかないみたいだな」

「そうみたいだね」

 ファレルナを見たレイゼロールは舌打ちをし、影人とゼノはそんな言葉を呟いた。ファレルナの身に纏う白い光が再びレイゼロールたちを照らす。闇を扱う3者は再び弱体化の影響を受けた。レイゼロールも先ほど言っていたように、この状況下では繊細な力のコントロールを伴う転移は使う事が出来ない。

「これ以上逃げられても困るので、ここで勝負を決めさせてもらいます」

 ファレルナは上空からレイゼロール、影人、ゼノを見下ろし揺るぎない口調でそう言うと、両手を合わせ、目を閉じ、祈るような形になった。

「主よ、光よ、私は祈りを捧げます。私に出来る事はただ祈る事だけ。願う事だけ。遍く罪を、闇を照らす暖かな光。この身に宿る全ては贖いのために」

 ファレルナが言葉を唱える。すると、ファレルナの3対6枚の羽が大きく広がり、信じられない事に天からファレルナに向かって光が差した。夜だというのに、天から光が差す。太陽の光ではない。尋常ならざるその光景はまさに奇跡のようであった。

「「「っ・・・・・・・・・!」」」

 レイゼロール、影人、ゼノは急激にこの場の浄化の力が高まっている事を感じた。その証拠に、ファレルナの纏う白い光はその輝きが更に増した。

「全ては平等に救われる。例え闇に染まった者でもそれは変わらない。それが光の慈愛」

 ファレルナの纏う白い光が、ファレルナを中心に美しい円形へと形を変えた。かなり大きな円形だ。

「慈愛の光はいま開く。主の奇跡の一端をいまここに」

 天からの光。ファレルナの周囲の円形の光。それらが夜を照らす。ファレルナの浄化の力が最高潮にまで高まる。

「これは・・・・・本当にダメなやつだな」

 ゼノは真剣な顔でそう呟くと、再びあの力を使用した。ゼノの全身から闇が噴き出し、周囲の物質が壊れ始め闇の粒子となってゼノに吸収されていく。そして、髪も半分ほど黒色に染まった。

光世万誕ルークスムンドゥス・オルトゥス

 ファレルナがそう言うと、

 円形に広がった光から、尋常ではない純白の光の奔流が放たれた。それは全てを光に染め上げる究極の光であった。

「全てを喰らって全てを破壊しろ。――破壊の闇ディアプトラ・スコトス

 究極の光の奔流、光臨したファレルナの最大浄化技に対抗するように、ゼノも自身の闇の出力を全開にした。そして、その全てを自身の右腕に集約させ、その闇に染まった腕を光へと向けた。すると次の瞬間、ゼノの右手の先から濃密な闇の奔流が放たれた。闇の奔流は光の奔流と激突した。

 途端、その衝撃から尋常ならざる衝撃波が発生した。

「っ! なんていう余波だよ・・・・!」

「っ・・・・・・・・」

 影人とレイゼロールはそのあまりの余波の強さに顔を歪めた。大気が哭く。空間が歪む。究極の光とゼノの最大出力の闇。それらがコロッセオの上空でぶつかり合っているのだ。その衝撃の余波の凄まじさは、ファレルナとゼノがいかに規格外の存在なのかを示している一種の証明であった。

「っ、これは・・・・・・・・!」

 ファレルナの視覚を通したソレイユからの情報で、ラルバはエリアをコロッセオ内に転移させた。だが転移のタイミングが悪かった。エリアは現れた瞬間に、影人たち同様衝撃の余波に晒される事になった。

(ヤバ過ぎんだろ・・・・!)

 転移されたのは壮司も同じだった。壮司はコロッセオの崩れた観客席で衝撃の余波に耐えていた。

「っ、まだ抗いますか・・・・・・!」

「本当に嘘みたいに強い光だな・・・・!」

 互いに自身の最大出力の技を繰り出しているファレルナとゼノは、力を振り絞りながらそんな言葉を漏らした。

「光の浄化を受け入れる時です!」

「お前こそいい加減に壊れろよ・・・・!」

 ファレルナとゼノは互いに想いを燃やしながら、更に力を高めた。

 光と闇の奔流は互いに更に激しさを増した。大気は軋むようにその哭き声を大きくし、空間の歪みも同様に大きくなる。衝撃の余波も更に強くなり、コロッセオも徐々に崩れ始めた。

 互いが互いに極限の力をぶつけ合う。先に敗北の慟哭を上げるのはどちらか。だが、先にその慟哭を上げたのはファレルナでもゼノでもなかった。



 ――慟哭を上げたのは、だった。


 突如として、光の奔流と闇の奔流がぶつかり合っている中間地点、その箇所に黒い大きなひずみが発生した。その歪みはまるで宇宙にあるというブラックホールのように、凄まじい引力を発生させた。

「「「「「「っ!?」」」」」」

 その予想外の出来事に、ファレルナ、ゼノ、影人、レイゼロール、エリア、壮司のこの場にいる全員が驚いたような表情を浮かべた。

(おい、どういう状況だよこりゃ!? なんだよあの向こう側が見えない歪みは!?)

 何かとてつもない危機感を感じながら影人は内心で叫んだ。影人の叫びに反応したのは、ソレイユとイヴだった。

『影人マズイです! あの歪みは時空の歪み。強すぎる光と闇の力のエネルギーに世界が悲鳴を上げたのです!』

『あの歪みの先がどこに繋がってるのかは誰にも分からねえ! 吸い込まれたら終わりだと思え! この世界に2度と帰っては来れないぞ!』

(マジかよ・・・・・!)

 2人の説明を聞いた影人は冷や汗を流した。それではブラックホールとほとんど同義のものではないか。影人はその事実に戦慄した。

「っ、これは本当にマズイね・・・・・!」

「くっ・・・・・!」

 ファレルナとゼノも予想外の出来事に、力の放出を止めた。ファレルナは翼を必死に羽ばたかせ引力に抗い、ゼノも必死に地面を踏ん張った。当然、影人やレイゼロール、エリアや壮司も必死に踏ん張り、黒い歪みに吸い込まれないように努めた。

『何とか耐えてください影人! 歪みはもう少しすれば収束するはずです!』

(分かった!)

 ソレイユの必死な言葉を聞きながら、影人はただひたすらに耐える。力を使う暇もないほどの圧倒的な引力。今は誰も彼もがただ耐えるしかない。

 幸い今のところ、影人を含め全員が何とか耐えている。あと少しすれば――

「きゃっ!」

「っ・・・・」

 だが、今の攻防で力を大いに消費したためか、ファレルナとゼノは引力に耐えきれずに、吸い込まれようとしていた。ファレルナは上空から歪みに吸い込まれ、ゼノは地上から浮き上がり歪みへと吸い込まれる。

「ゼノ!?」

「『聖女』!?」

 レイゼロールとエリアがそう叫んだ。しかし、いま2人に助ける術はない。ファレルナとゼノはこのまま黒い歪みに――

「っ・・・・! ちきしょうがッ!」

 しかし、それをどうにかしようとする者がいた。影人はそう叫ぶと、踏ん張るのを止め、自身も歪みの方へと吸い込まれていった。

『影人!?』

『おいバカ何やってんだ!?』

 ソレイユとイヴがそんな声を上げたが構うものではない。影人は自分よりも先に吸い込まれるであろう2人よりも速く歪みに到達するために、『加速』して歪みへと向かった。

(チャンスは1度きり。タイミングはクソシビア! だがやるしかねえ!)

 同時に眼を強化した影人。ファレルナの光がないので世界はいつものようにスローモーションに映る。影人は自分の歪みに向かう到達タイミングと、ファレルナとゼノが歪みに向かうタイミングをどうにか合わせようとした。

「スプリガンさん!?」

「何やってんだ君は・・・・!?」

 ファレルナとゼノが影人に気づきそんな反応を示す。だが、そんな反応などはどうでもいい。

「うるせえよ! こいつは、なんだよ!」

 影人はやけくそ気味に叫ぶ。そうこれはやらなければならない事なのだ。ソレイユは先ほどファレルナを助けてほしいと言った。ならば、影人はその願いを実行するだけだ。それがスプリガンとしての影人の仕事だ。

 そして影人がタイミングを調整した甲斐もあり、歪みの前に丁度、影人、ファレルナ、ゼノの3人が揃った。第1関門はクリアだ。

(やってやる、やってやるぜ!)

 スローモーションに映る世界の中、影人は右手でファレルナの左腕を、左手でゼノの右腕を掴んだ。

「はっ、さっき治しといてよかったな・・・・!」

 影人は自然とそんな言葉を吐き出した。正直、ゼノを助ける意味はない。なんなら助けない方がいい。しかし、ファレルナのついでだ。助けてやろうと影人は思った。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 飛びやがれッ!」

 影人は両腕に渾身の力を込めた。振り絞った。そして思い切りファレルナとゼノの腕を掴んでいた両腕を振るった。肩が脱臼するほどの力で振り飛ばされた2人は、引力を振り切り真っ直ぐに地上へと向かっていく。

「ぐっ!?」

「あっ!?」

 飛ばされたゼノとファレルナは脱臼の痛みに顔を歪めつつも、何とか受け身は取れたようだった。

「はっ、さすが俺だぜ・・・・・・・・」

 やり切ったような顔で最後にそう呟いた影人は、既に歪みへと吸い込まれていた。

『影人! ダメです、ダメです! 戻って来てください! 私はまだあなたに何も――!』

『ちきしょうこんな最後かよ! てめえと心中なんざ――!』

「ははっ、悪い・・・・・」

 歪みの中からついさっきまで自分がいた世界が見える。これが最後の光景か。そんな事を思いながら、影人は2人に謝罪の言葉を述べた。


 そして歪みは徐々に閉じていき、やがて完全に影人は元いた世界から切り離された。


 ――この日、この瞬間、帰城影人はこの世界から完全に姿を消し、消えた。

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