第205話 集う十の闇

 闇の穴を潜り、影人とレイゼロールは中国に行く前に集合した公園に再び戻って来た。レイゼロールがこの場所を転移先に選んだのに別に深い意味はない。ただ、パッと浮かんだ先がここであったというだけだった。

「・・・・・・取り敢えずは今日はこれで終いか」

「・・・・ああ。まさか光導姫と守護者だけでなく、あの『フェルフィズの大鎌』を持つ者まで現れるとは思っていなかったが・・・・・・・・」

 影人とレイゼロールはそう言葉を交わし合った。幸運な事にと言うべきか、周囲に人の姿は見えない。まあ夜もかなり深い時間だ。当然と言えば当然かもしれないが。

「そいつだが・・・・・・新しく左手に黒いガントレットを装備してた。多分ロンドンの時には着けてなかったはずだ。あのガントレットの効果だと思うが、俺はあいつに左手を向けられた直後に、体に凄まじい重力を感じた。まともに動けない程のな。まあ『破壊』の力で何とかその重さは壊せたが」

 レイゼロールの言葉に出た「フェルフィズの大鎌」を持つ者。その人物についての新たな情報を、影人はレイゼロールに伝えた。

「貴様が膝をついていたのはそれが原因か・・・・・恐らくは、何かしらの力が付与された防具だろう。『フェルフィズの大鎌』だけでも厄介だというのに、更に厄介な力を手に入れてくれたものだな・・・・」

 その情報を聞いたレイゼロールは、深刻な表情でそう呟いた。新たな力を得た黒フードの人物。それは全てが謎に包まれた黒フードの人物の危険度が、更に上がったという事だ。

「・・・・・・・・それで、テストの結果はどうなんだ。俺はしっかりと足止めをしていたと思うが・・・・・・ついでに、お前の命も助けてやったわけだが」

 これ以上黒フードの話題を続けてもあまり意味はないと思った影人は、レイゼロールにそう言った。

 レイゼロールは言った。影人が本当に信用に足るかどうか見極める機会にすると。その結果を、一応影人は聞いておこうと考えた。

「・・・・・・取り敢えずは合格と言っておこう。お前は我の命を助けた。それは事実だ。足止めに関しても、お前は充分に果たした。ゆえにな。・・・・だが、忘れるな。我とお前の間には、未だに確執があるという事をな」

「・・・・・・・・分かってるぜ、そんな事はな。お前も忘れるなよ。お前も俺が憎む神という種族だ。俺がお前の命を助けたのは、俺の目的のためだ」

 レイゼロールがスゥと冷たい目を向けてくる。影人も同じように冷めた目をレイゼロールに向けながら、そう言葉を返した。

「・・・・・・・・理解しているのならばいい。明日の夜9時。もう1度この場所に来い。理由は明日に話す」

「・・・・・・分かった。明日の夜9時だな」

「ああ・・・・・では、さらばだ」

 影人にそう伝えたレイゼロールは別れの言葉を述べると、自身の影に沈んだ。そしてその影も、夜の闇に溶けるように消えていった。

「・・・・・俺も帰るか」

 1人になった影人は、どこか少し疲れたようにそう呟くと自分も公園を去った。











「・・・・・・・・・・・・」

 10月5日金曜日、午後8時55分。昨日レイゼロールが指定した約束の時刻まであと5分。スプリガンに変身した影人は、再び昨日訪れた公園に来ていた。

「・・・・どうやら、時間はしっかりと守れるようだな」

 それからきっかり5分後。公園の木の影からレイゼロールが現れた。レイゼロールは影人の方へと歩いて来た。

「・・・・・・・・・・舐めるな、それくらいガキでも出来る。・・・・・で、これからどうするつもりだ? 俺をここに来させた理由を話してくれるんだろう。お前は昨日そう言った」

 現れたレイゼロールに影人はそう質問を飛ばした。影人の言葉を受けたレイゼロールは、「分かっている」と言ってこう言葉を続けた。

「・・・・・・スプリガン。お前を今日呼んだのは、お前の事をに紹介するためだ。一部の者・・・・あの時にあの場にいた、ダークレイ、シェルディア、キベリアたちは既に知っているようなものだがな」

「っ・・・・・! 奴ら・・・・・・・・最上位闇人どもか」

 ダークレイやキベリアの名前が出た事によって、影人はレイゼロールが言う奴らが誰であるのかを察した。

「そうだ。お前は奴らに会わなければならない。我の最高戦力である十の闇・・・・『十闇』にな。我と行動を共にする以上、それは絶対だ」

 レイゼロールは影人の推察を肯定した。そして、昨日と同じようにレイゼロールは闇の穴を創造した。

「この先は我の陣営その本拠地に続いている。そこに招かれるという意味を理解しろ。本当に貴様に覚悟があるというのならば、来い」

 レイゼロールはそう言うと、先に闇の穴を潜って行った。レイゼロールにそう言われた影人は、

「・・・・・ふん、愚問だな。そんなものは、とっくに出来ている」

 そう呟くと、自身も闇の穴の中に足を踏み入れた。











「ここは・・・・・・・・・・」

 穴を潜った先に広がっていたのは、ぼんやりとした闇だった。影人は周囲を見渡した。所々に篝火かがりびが設置されているが、ここがどういう場所かは見えないし分からない。唯一、影人が後方を見てみると石の玉座だけがあった。

「・・・・・・広間とでも言えばいいか。そういう場所だ。とにかく、ここはいい。『十闇』が集っているのは別の場所だ。我の後について来い」

 周囲を観察していた影人に、レイゼロールは軽くだがそう説明した。そして、レイゼロールはコツコツと靴の音を響かせながら正面の闇の中へと進んでいった。影人は素直にレイゼロールの後に着いていく。5メートルほど距離を空けながら。

 ギィと音を立てながら、レイゼロールが大きなドアを開けた。開けた先に広がるのは同じくぼんやりとした暗闇。だが、先ほどの広間と同じように等間隔で篝火が設置されており、扉を開けた先が廊下であるという事が分かった。レイゼロールは廊下を右に曲がり進んでいく。当然、影人もその後に追従した。

「・・・・・ここだ」

 それから5分ほどだろうか。幾度か廊下を曲がり、1階分ほどの階段をレイゼロールと影人は登った。その登った先の廊下を直進すると、下の階の広間と同じような大きさのドアが現れた。レイゼロールはそのドアの前で足を止めた。

「・・・・ここは?」

「・・・・ただの部屋だ。広めのな。重要な話をする時などにたまに使う。・・・・・・・・・・開けるぞ」

 レイゼロールはそう言うと扉を押した。そして、部屋の中へと入っていく。影人は内心で少しだけ緊張しながら自身も部屋の中へと歩を進めた。

 影人がその部屋に足を踏み入れた直後、 


 影人の喉元にナイフと手刀が両側面から突き付けられた。


「・・・・・・随分と手荒い挨拶だな」

 影人は特に驚いた様子もなく、チラリと自分の首元に視線を落としながらそう言葉を述べた。正直『十闇』、最上位闇人たちと会うと言われた時から、は予想していた。

「黙れ。よくものうのうと己たちの前に顔を出せたものだな・・・・・・!」

「・・・・あなたと会うのは随分と久しぶりだ。ですが、まさかこういった形で会うとは思ってもいませんでしたよ・・・・・・!」

 ナイフを突きつけた闇人、『十闇』第9の闇『殺影さつよう』の殺花と、手刀を突きつけた闇人、『十闇』第2の闇『万能』のフェリートは、それぞれ殺意を隠さないままに影人にそう言葉をぶつけて来た。

「・・・・そうだな。お前と会うのはかなり久しぶりだぜ、フェリート。会ってなかった期間はバカンスにでも行ってやがったのか?」 

「私がいない間に冗談を言うようになったんですね、スプリガン。しかし、冗談のセンスは全くないようだ」

 フェリートの言葉通り、久しぶりに会った因縁ある闇人に影人はそんな言葉を返した。影人の言葉を聞いたフェリートは、つまらなさそうにそう言葉を放った。

「・・・・・・・・よせ。殺花、フェリート。どちらもその首元に突き付けているものをどけろ。この場でスプリガンを攻撃する事は、我が許さん」

 影人たちの方を振り返りながら、レイゼロールは殺花とフェリートにそう命令した。主人であるレイゼロールにそう言われた2人は、本当に渋々といった感じでナイフと手刀を引っ込めた。安全を確認した影人は、それ以上殺花とフェリートに構わずに部屋の中心部へと歩き始めた。

 正確に何畳くらいかは分からないが、部屋は広かった。正方形の形をしており、天井からは星の光のような幻想的な輝きを放つシャンデリアがぶら下がっている。その光のおかげで、広間や廊下よりは部屋の中がよく見えた。

「ははっ! マジでスプリガンが来やがったぜ! 面白え!」

「全く以て、生きるというのは先の分からない劇ですねー。本当に何が起きるか分からない。まあ、それが面白いんですが」

「よう、スプリガンさん。あんたと会うのはこれで2回目だな。まあ、フェリートが言ったみたいにこんな形で会うとは思ってなかったがよ」

「うっ、何か腹部が・・・・・・ああ、そういやぼかぁ彼に思いっきり腹殴られたんだった。あれは痛かったなー・・・・・・・・」

「あんたなんかまだましよ。私なんかボロ雑巾みたいになるまで全身ボコボコにされたんだから・・・・」

「ふん・・・・・・・・・」

「ふふっ、賑やかね。楽しくなって来たわ」

「へえ・・・・・・彼が・・・・」

 部屋の中央には大きな円卓があり、そこには影人が見覚えのある者たちが座っていた。その者たち、冥、クラウン、ゾルダート、響斬、キベリア、ダークレイ、シェルディア、ゼノはそれぞれそんな反応を示した。ただ、影人はゼノと邂逅したのが初めてだったので、ゼノだけは内心で「誰だこいつ」と思った。

「殺花、フェリート、席に戻れ。スプリガン、貴様は空いている席に適当に掛けろ」

 レイゼロールは部屋の1番奥の上座の空席に腰掛けると、立っている3者にそう言った。殺花とフェリートは「はっ」、「了解致しました」と返事をすると、空いている空席の元まで歩きそこに座った。

(適当に掛けろって言われてもな・・・・・・・)

 一方、影人は心の内で困ったようにそう呟いた。円卓は簡素なイスが適当な感覚で置かれており、全部で14席ほどある。その内の10席は既に埋まっているので空席は4席だ。空いているのは、冥の左隣、フェリートの右隣、影人が今日初めて会った黄色に近い金髪の少年のような闇人の左隣、そして――

「どこに座るか悩んでいるのなら、私の隣にいらっしゃいな。取って食べたりはしないから」

 シェルディアの右隣。シェルディアは笑みを浮かべながら、影人にそう言ってきた。

「・・・・・・・・なら、あんたの隣に失礼させてもらおう吸血鬼」

 影人は仕方ないといった感じで軽く帽子を押さえながら1度瞬きすると、シェルディアの隣の席に腰を下ろした。影人の右隣に座っていたゾルダートは影人を見て軽くニヤついていた。

(ありがてえ。やっぱ持つべき者は嬢ちゃんだぜ・・・・・・・・)

 内心でホッと息を吐きながら、影人は内心でシェルディアに感謝した。隣に座った影人に、シェルディアは変わらず微笑みかけてくれたが、影人はここで笑みを浮かべる事は出来ないので、無視せざるを得なかった。

「・・・・・・全員席についたな。お前たちの中には色々と言いたい事がある者もいるだろう。だがその前に・・・・・・・・・こうしてお前たち『十闇』が揃ったのはおよそ100年ぶり。まずはその事を祝いたい。よく集まってくれたな」

 円卓に着いた影人を除く全員に視線を向けながら、レイゼロールはそう言葉を述べた。レイゼロールの言葉に反応した者もいれば、反応しなかった者もいた。その自由さ、いやバラバラ感とでも言うべきものが『十闇』という者たちの性格を示していた。

「第10の闇『道化師』のクラウン、第9の闇『殺影』の殺花、第8の闇『魔女』のキベリア、第7の闇『剣鬼』の響斬、第6の闇『狂拳』の冥」

 レイゼロールが席に着いている『十闇』を下の位から順々に呼んでいく。

「第5の闇『強欲』のゾルダート、第4の闇『真祖』のシェルディア、第3の闇『闇導姫』のダークレイ、第2の闇『万能』のフェリート、そして第1の闇『破壊』のゼノ」

 レイゼロールは『十闇』全ての者たちの2つ名と名前を呼び終えると、こう言葉を続けた。

「お前たちに告げる事がある。シェルディアの隣に座る黒衣の男・・・・・・スプリガンを我らの陣営に加える事になった。今日この瞬間より、

 レイゼロールはこの場にいる者たちに向かって、唐突にそう宣言した。












「・・・・・・さて、今ごろ影人はレイゼロールの本拠地ですか。シェルディアもいるので大丈夫だとは思いますが・・・・どうか、上手くやってくださいよ影人・・・・・・・」

 神界。その自身のプライベートスペースで、創った椅子に座りながら、ソレイユはそう言葉を漏らした。

(しかし、やはりレイゼロールの本拠地は厳重のようですね。影人が転移の穴を潜った瞬間に、影人との視聴覚の共有が切れた。恐らくは全ての繋がりを遮断するような結界を施しているのでしょうが・・・・・)

 自身の神力を影人に分け与えたソレイユは、影人との見えない繋がりがある。その繋がりがあるから、ソレイユと影人は念話が出来るし、ソレイユは影人の視聴覚などを共有できる。しかし、少し前にその繋がりは一時的にだろうが遮断されてしまった。

「・・・・・・・・昨日影人が光導姫と守護者を攻撃した事で、状況は変わりました。もう後には引けない。・・・・・スプリガンは、既に光導姫と守護者ののですから」

 ソレイユは今朝全ての光導姫たちに伝えたその事実を言葉に出しながら、神妙な顔を浮かべた。

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