第204話 カケラ争奪戦 中国(4)
「頭兵、及び黒兵1、2、スプリガンを攻撃。白兵1、私を守れ。白兵2、矢を準備しろ」
菲は落ち着き払った声で人形たちにそう指示した。指示を受けた人形たちはその指示通りに行動を開始した。
「多数対1ではあるが・・・・・・・・・貴様クラスの強者、これを卑怯とは言うまい!」
それと同時に、影人の背後の葬武も影人に近づき棍を振るって来た。
「別に卑怯とは思わないが・・・・・お前の武人としての精神面はどの程度か知れたな」
葬武の棍の一撃を簡単に避けながら、影人は葬武に挑発するようにそう言って嗤った。そして、そのまま後ろから攻撃してくる黒兵たちと頭兵の攻撃を避けるため、影人は地を蹴り空に舞った。
「はっ、バカが。白兵2、スプリガンに矢を放て!」
スプリガンが空中に逃げた事を見た菲は、いつでも矢を撃てるように待機させていた白兵にそう言った。いかに凄まじい力を持った怪人といっても、空中でろくに身動きは取れないだろうと考えたからだ。菲の指示通り、白兵は宙に舞うスプリガンに矢を放った。
「・・・・・バカはてめえだ」
だが影人はそう呟くと、空中で軽く横に動きながら放たれた矢を回避した。影人は空中を縦横無尽に動き回る事が可能だ。
「はあ!? 空まで飛べんのかよ! ふざけやがって!」
スプリガンが空を飛べる事を知らなかった菲はそう悪態をついた。影人は菲のその言葉に内心で「俺もそう思う」と呟きながら、次なる力を行使した。
「来いよ、闇に堕ちしモノども」
気分的に声に出してそう呟くと、影人の周囲の空間から、影人の下の地面から様々な闇のモノたちが出現した。それは闇色の騎士のようなモノであったり、異形の怪物たちであった。その数はざっと50体ほどだった。
「っ!? 本当にふざけた奴だなおい・・・・・・・・!」
「『軍師』と似たような力か・・・・・」
影人が召喚したモノたちを見た菲と葬武はそんな反応を示した。影人に召喚された闇のモノたちは宙から、地面から菲と菲の人形、葬武を取り囲んだ。
「・・・・やれ」
ボソリと上空で影人がそう呟くと、闇のモノたちは一斉に菲や葬武たちを攻撃し始めた。
「クソが・・・・・! 頭兵、黒兵1、2、白兵2、こいつらを攻撃しろ! 『天虎』! てめえも手伝えよ!」
「・・・・・仕方ないな」
菲が葬武にそう言葉を放った。菲の言葉を受けた葬武は自分に向かって来た、鳥のような怪物を棍で打ち払った。菲の人形たちも、襲い来る闇のモノたちをそれぞれ迎撃していく。
(さて、こっからどうこいつらを倒していくか。まあ本当のフルスピードで攻撃したり、『破壊』の力を使えば、多分余裕でどっちもすぐに倒せるんだが・・・・・・・それだと色々困るしな。それらしい演出で、本気を出しすぎずにどう倒すかってのは、意外に難しいもんだな・・・・)
少しゆっくり思考する時間が出来た影人は、地上の菲と葬武を見つめながらそんな事を考えていた。実は、影人はこの戦いが始まってから1度も、本当の意味での本気を出していなかった。
(そう言えば、レイゼロールの奴はまだ気配を探ってんのか・・・・・・・・?)
何とはなしに、影人はレイゼロールの方に一瞬だけ視線を向けた。この戦いが始まって既に15分ほどは経っている。レイゼロールはまだカケラがどこにあるのか特定できないのだろうか。
影人がその金の瞳を地上にいるレイゼロールに向けると、レイゼロールはまだ最初にいた定位置から動かずにジッとしていた。
(・・・・・・・・ん? 何だ? レイゼロールの背後の闇に何かいる。闇に同化するみたいに、レイゼロールに近づいている・・・・・・・・)
スプリガンになり視力が向上しており、更に闇で眼を強化した影人は、レイゼロールの背後に何者かが近づいているのを見た。黒い布のようなものを全身に纏っており、顔は見えない。そして、その男は右手に何か大きな、黒い物を持っていた。影人はその黒い物が何なのかを確かめるために、少し目を凝らした。
(っ!? あれは・・・・・・・・・・!)
影人はその黒い人物が右手に何を持っているのか見た。その人物が持っていたのは、黒い大鎌だった。刃までもが黒く染まった凶々しい大鎌だった。
(「フェルフィズの大鎌」! あいつか・・・・・! レイゼロールの奴は気づいてないのか!?)
釜臥山で影人を襲い、ロンドンにも出現した謎の人物。神殺しの忌み武器を持つその人物は、レイゼロールに近づき、そして鎌のリーチ内にレイゼロールを捉えたのだろう。フェルフィズの大鎌を両手で持ち、ゆっくりとそれを振りかぶった。レイゼロールはよほど集中しているのか、まだ背後の事態に気づく様子はない。
「ちっ・・・・・・・・!」
影人はレイゼロールを助けるべく、レイゼロールと自分の対角線上に闇色のゲート、「影速の門」を展開させた。そしてフルスピードでその門に向かって空を駆ける。影人がその門を潜ると、影人のスピードは更に加速した。
「・・・・・・・・・」
黒フードの人物が、レイゼロールの首めがけて大鎌を振るった。そのままレイゼロールの首を切り飛ばす魂胆だろう。レイゼロールは不老不死の神。普通ならば首を切り飛ばされたとて死にはしない。しかし、神殺しの武器である「フェルフィズの大鎌」だけは話が別だ。あの鎌に首を切られれば、レイゼロールも死ぬ。
「やらせるかよ・・・・・!」
影人は神速の速度でレイゼロールの元に辿り着くと、その速度のままレイゼロールの腰に右手を回し、レイゼロールを攫った。影人がレイゼロールを攫った瞬間に、死の大鎌はレイゼロールが今いた場所を裂いたのだった。
「っ・・・・・・・・・!?」
「ッ・・・・!? スプリガン・・・・・・・? 貴様、これはいったい・・・・・・」
大鎌を振るった黒フードの人物は、確実に仕留め切れると思っていたレイゼロールが急に消えた事に驚いた。一方、影人に突如抱き抱えられたレイゼロールは、未だに何が何だか分かっていないようだった。本当にいったいどこまで集中していたんだよ、と影人は内心でつい呆れてしまった。
「・・・・正直、お前がこれほど抜けていたとは思わなかったぜ。集中するのはいいが、ここは戦場だ。最低限の警戒の意識だけは常に残しておけよ」
そのままの勢いで攫ったレイゼロールと共に地面に着地した影人は、今レイゼロールがいた場所に左の人差し指を向けながらそう言った。
「なっ、奴は・・・・・・!? そうか、我は奴が近づいて来ていた事に気がつかずに・・・・・・・礼を言うスプリガン。お前が助けてくれなければ、我は今ごろ死んでいただろう」
影人の指差した方に目を向けたレイゼロールは、黒フードの人物がいる事にようやく気がついた。そしてレイゼロールは事態を理解し、スプリガンに感謝の言葉を述べた。まさかレイゼロールに感謝の言葉を述べられると思っていなかった影人は、少し驚いたような表情を浮かべた。
「・・・・・ふん。気にするな。ここであんたに死なれちゃ俺が困るってだけだ。それよりも、あれだけ集中してたんだ。カケラの場所は分かったのか?」
「・・・・まだだ。あと3分ほど集中すれば、完全に特定できるとは思うが・・・・・・・・・それはそれとして、そろそろ我を下ろせ。もう必要はないはずだ」
「・・・・・それはそうだな」
少しだけどこか恥ずかしげにそう言ったレイゼロールに、影人も自分がレイゼロールと密着しているという状況を認識した。今になってレイゼロールの細い腰の感触や、少し冷ための体温を影人は右腕に感じた。影人も内心でこの状況に少し恥ずかしさを覚え、レイゼロールを地面へと下ろした。
「・・・・・・・・・・」
不意をつきレイゼロールを殺せなかった黒フードの人物は、鎌を右手で持ちながら影人たちの方を見つめて来た。顔の上半分はフードで見えないが、確かに見ていると、普段前髪で顔の上半分が隠れている影人は理解していた。
「ちっ、手間取らせやがって。私はさっさと仕事終わらせて帰りたいってのによ」
「・・・・・・・」
そのタイミングで、影人が召喚した闇のモノたちを全て片付けた菲と葬武も影人たちの方に近づいて来た。だが、影人たちに近づいて来た事によって、菲と葬武も黒フードの人物に気がつく事になった。
「ああ? 誰だあの黒フード野郎は?」
「・・・・・さあな。だが、味方ならば何か言ってくるはずだ」
菲はその顔色を疑問に染め、葬武はどこか警戒したような目を黒フードの人物に向けた。黒フードの人物は、菲たちには何の反応も示さなかった。
「・・・・・・・・レイゼロール。あと3分だったな。とりあえずその時間は稼いでるやる。だがお前も少しだけ手伝え。造兵を何体か召喚しろ」
「・・・・・分かった」
影人はボソリとレイゼロールにそう告げた。予想外の事態になったが影人がやる事は変わらない。レイゼロールは影人の言葉に頷くと、骸骨兵を20体ほど召喚した。
「・・・・・俺は主にあの黒フードを見る。だから、お前は意識を少しだけ光導姫と守護者に向けとけよ」
「・・・・ああ」
影人はレイゼロールに小さな声でそう言葉を続けると、闇のモノたちを再び召喚した。今度は100体ほどだ。そして、続けて他の闇のモノたちよりも強力な個体を2体レイゼロールの側に召喚した。ゼルザディルムとロドルレイニ戦で召喚した、闇色の甲冑を纏い剣と盾を装備した騎士たちだ。ただし、剣に『破壊』の力は付与していないし、爆発の小細工なども施していない。
「さて・・・・・・・ロンドン以来だな、黒フード。そろそろお前の素顔でも拝ませてもらおうか」
「・・・・・・」
黒フードの人物に影人がそう言うと、黒フードの人物はスゥと影人に左手を向けて来た。
(っ、何だあの左手・・・・・・・・?)
黒フードの人物の左手を見た影人はそんな事を考えた。注視していなかったので今まで気づかなかったが、黒フードの人物の左手は前に見た時とは違っていた。
その左手は前は普通に肌が露出していたはずだが、今は黒い凶々しいガントレットに覆われている。ガントレットの手首付近には、燻んだ銀色の鎖が巻き付いていた。
凶々しいガントレットが黒いオーラのようなものを放つ。すると次の瞬間、
「ッ・・・・・・・・・・!?」
影人の体を凄まじい重力が襲った。その余りの重さに、影人は片膝を地面につけてしまった。
(何だこれは!? とてつもなく体が重い・・・・・! 今にも潰れそうなほどに・・・・!)
理解が追いつかない事態に影人は混乱した。
「・・・・・・!」
決定的な隙を晒すスプリガン。そこを狙うかのように、黒フードの人物のガントレットに巻きついていた鎖が、まるで意志を持つかのように影人の方へと伸びて来た。影人はその場からすぐには動けずに、左腕を鎖に縛られてしまった。
「ッ、スプリガン・・・・・?」
「気にするな・・・・・! お前はさっさと気配を探り続けろ・・・・・・・・!」
影人の異常に気がついたレイゼロールがそう声を掛けて来た。だが、影人はレイゼロールにそう言葉を返すと、自分が召喚したモノたちに菲と葬武を襲うように内心で指示した。
それと同時に、黒フードの人物は左手を思い切り引き、影人を自分の方へと手繰り寄せた。凄まじい重力で碌に身動きが取れない影人は、素直に黒フードの人物の元へと引き寄せられてしまった。
「・・・・・!」
黒フードの人物は右手で大鎌を構えた。このまま引き寄せた影人を切り裂くつもりだろう。
(ちくしょう体の重さが消えねえ! 範囲じゃなく俺個人を対象にしてんのか・・・・・!? 何にせよ、このままじゃお陀仏だ・・・・・・・!)
どうしようもない程に危機を感じた影人は、どうやってこの状況を打開するか高速で頭を働かせた。
「クソッタレが! 今度は倍くらい増えやがったぜ。本当にどうしようもねえなおい!」
「雑兵ばかり呼び出した所で・・・・・!」
一方、影人とレイゼロールの造兵たち合計約120体を一気にぶつけられた菲と葬武は、また造兵たちの相手をせざるを得なかった。その間に、影人の2体の闇の騎士たちに守られたレイゼロールは、最低限の意識を光導姫と守護者に向けながら、再びカケラの気配を探るべく集中した。
(俺自身にこの重さが掛かっているというのなら・・・・・・・・!)
変わらずにピンチの影人は、1つだけこの状況をどうにか出来る方法を思いついた。それはシェルディアの無限に追尾してくる血の槍を破った時と同じ方法――
(この重さを破壊するッ!)
引き寄せられた影人に向かって、黒フードの人物が右手の大鎌を振るう。それは既に、影人が鎌の届く範囲まで引き寄せられてしまったという事。満足に動かせない中での、傷を負えば死に誘われる大鎌の一撃。普通ならば、それは詰みの状況だ。
だが、今まで幾度もそんな状況に追い込まれ、その度にそんな状況を打開してきた影人は、右手に『破壊』の力を纏わせ、文字通りこの状況を破壊した。
「悪いがまだ死ぬ予定はないんでな・・・・・!」
「っ・・・・!?」
右手に『破壊』の力を纏った事によって、影人は自身に付与されていた重力を破壊した。影人のその試みは見事に成功し、自身を襲っていた重力は綺麗さっぱりに消え去った。影人は
「シッ・・・・!」
黒フードの人物の懐に潜り込んだ影人は、右手の『破壊』の力を解除し、右手にナイフを創造した。そして、それを逆手に持ちながら切り上げるように斬撃を繰り出した。
「っ・・・・・!」
黒フードの人物はその斬撃を何とか回避した。そして、影人に向かって再び左手を向けようとする。
「やらせるかよ・・・・!」
まだ詳細な条件までは分からないが、黒フードは再び左手を影人に向ける事によって、影人の体を重くするつもりだろう。そう考えた影人は、その前に黒フードの人物の左手を右足で上方向に蹴飛ばした。そして、左手で黒フードの人物の胴体に触れ、左手と胴体の間に衝撃波を起こした。闇の風の力の応用だ。
「っ!?」
「飛んでけ・・・・!」
衝撃波の威力はそれほど強くは設定していない。その代わり、風圧を高く設定した。今の影人の役目は黒フードの討伐ではなく、時間稼ぎだからだ。その結果、黒フードの遥か後方へと飛ばされた。風に飛ばされた黒フードの人物は、その顔だけはよほど明かしたくはないのか、左手でフードを強く掴んでいた。
(よし、30メートルくらいは飛びやがった。後は、これくらいの距離を出来るだけ維持だ。あと少しの時間、死ぬ気で嫌らしく時間稼ぎさせてもらうぜ)
影人は闇色の炎、闇色の氷、闇色の雷を自分の周囲に顕現させた。それらはそれぞれ竜の姿へと変わる。ロンドンで使った3態の竜、ヒドラだ。竜たちは離れた黒フード目掛けて飛んで行った。更に、影人は3度目となる闇のモノたちを召喚し、闇のモノたちを黒フードへと向かわせた。
「っ・・・・・・・・!」
黒フードの人物は自分を攻撃してくるヒドラたちや、闇のモノたちを迎撃すべく全てを殺す鎌を振るった。鎌に切り裂かれた炎の竜は一瞬で闇の粒子となって消えていった。そしてそのまま、黒フードの人物は向かって来る闇のモノたちを次々に切り裂き殺し続けた。そう。「フェルフィズの大鎌」を持つ黒フードの人物に造兵たちはほとんど意味を成さない。
(はっ、もうちょっとそうしてろよ・・・・・!)
だが、影人は力を惜しみなく使い続け闇のモノたちを召喚し続けた。全ては時間を稼ぐために。そうして、影人は安全に時間を稼ぐのだった。
そして、影人は宣言通りに3分間しっかりと時間を稼いだ。
「・・・・・・・・・・特定した」
影人が時間を稼いでいる間、集中し気配を探り続けていたレイゼロールは、遂にカケラがどこにあるのか分かった。
「・・・・そこだ」
レイゼロールはそう呟くと、視界の中に映る細長い岩石たち、その内の1本を見つめた。その岩石は、レイゼロールがいる位置からざっと100メートルほど離れた場所にある。レイゼロールは自身の体に黒い翼を生やし、『加速』の力を使用し、凄まじい速度でその岩石めがけて飛んだ。
「あん? レイゼロールの奴、いったい何をしやがる気だ?」
レイゼロールの行動に疑問を覚えたのは、人形を指揮する都合上視野が広い菲だけだった。しかし、疑問を覚えたところで既に遅い。レイゼロールはもう岩石の元に辿り着いてしまったのだから。
「ふん」
岩石は全長15メートルほどだった。レイゼロールはその岩石の1メートルくらいの場所を、『硬化』させ一撃を強化した拳で穿った。レイゼロールの拳に穿たれた岩石は、派手な音を立ててレイゼロールと反対の方に倒れた。
「これで6個目・・・・・・・・・・」
岩石の中に埋まっていた、拳1つ分くらいの黒いカケラを見たレイゼロールは、そのカケラを手に取った。間違いない。これはレイゼロールの力の結晶であるカケラだ。自分の中の力が、このカケラを求めている。
「・・・・さあ、我に還れ」
レイゼロールは右手でそのカケラを砕いた。すると、砕かれたカケラが闇となりレイゼロールへと吸収されていく。全ての砕かれたカケラが吸収し終えたタイミングで、レイゼロールから闇の波動が放たれた。
(っ、この気配・・・・・・・・・・カケラを見つけて吸収したのか、レイゼロール)
この中で唯一闇の力の気配を感じ取れる影人は、レイゼロールの姿を探した。すると、レイゼロールは100メートルほど離れた場所に移動していた。
「・・・・なら、仕事は終わりだな」
影人はそう呟くと、闇のモノたちを召喚するのを止めた。そして、レイゼロールの場所を確認すると、転移用の闇の渦を創り、その渦の中に体を滑り込ませた。
「・・・・・・・・カケラは吸収できたみたいだな」
「ああ。・・・・正直に言って、今回は貴様に助けられた。礼を言う」
レイゼロールの隣に転移した影人は、闇の女神にそう言葉を投げかけた。レイゼロールはいきなり隣に現れた影人に驚く様子もなく、淡々とそう言葉を返した。
「・・・・・・・・・・礼はいい。俺は俺の目的のために動いてるだけだ。そのためにお前に力を貸しているに過ぎない」
「・・・・そうか。貴様がそう言うのならば、これ以上は何も言うまい。用は済んだ。ここから離れるぞ」
レイゼロールはそう言うと左手を側面にかざし、ここに来た時と同じ長距離転移用の闇色の穴を創造した。
「ちっ、奴ら逃げる気か・・・・・! だが雑魚どもはまだいやがるし・・・・・・・『天虎』! お前だけでも追えねのか!?」
「・・・・・・・・無理だ。距離が離れ過ぎている」
レイゼロールとスプリガンが撤退する事を悟った菲は、葬武にそう言葉を飛ばした。影人の召喚した造兵を棍で屠っていた葬武は、難しい表情で菲にそう返答した。
「っ・・・・!」
黒フードの人物も影人が召喚した残りの闇のモノたちを殺し続ける中、レイゼロールとスプリガンが撤退しようとしているのを確認した。黒フードの人物はどこか焦ったように急いで道を塞ぐモノたちを全て切り裂き、影人たちの方へと駆けていく。
「・・・・行くぞ」
「ああ・・・・」
だが、黒フードの人物が追いつく前にレイゼロールと影人は闇の穴へと足を踏み入れた。2人が闇の穴の中へと消えていくと、闇の穴は自動的に虚空へと消えた。
「ッ・・・・・・・!」
闇の穴が消え、駆けるのをやめた黒フードの人物は、口を少し悔しげに歪ませると、再び駆け始め夜の闇の中へと消えて行った。
「・・・・・・分からねえ。結局、この戦いは何だったんだ・・・・?」
2分後。全ての闇のモノたちと骸骨兵を全て倒し終えた菲は、ポツリとそう呟いた。この戦いは色々と奇妙だった。そして、混沌としていた。
「・・・・・知らん。だが、どこか不完全でつまらぬ戦いだった。強者と出会えた事のみ以外、そうとしか俺は言えん」
「クソの役にも立たねえ答えだな。・・・・・・・だが気にしても仕方ねえか。私はただ言われた仕事をやるだけ。それ以上深く知ろうとしちゃ、基本はロクな事がないしな。さっさと帰って寝よ」
菲はへらりと笑いそう言うと、変身を解除した。葬武も同じように変身を解除する。それから数十秒後、2人は光に包まれどこかへと消えて行った。
――こうして、中国でのカケラを巡る戦いは終わった。
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