第196話 光と闇の想い

(・・・・・闇臨した私の攻撃をどうにか凌いだ。・・・・・・・やっぱり急激に強くなってる。私との、この戦いの中で・・・・)

 左手に握っていた杖を片翼の形態に戻しながら、ダークレイは内心でそう呟いた。

 闇臨をすれば再び圧倒できるとダークレイは考えていた。だが、実際は圧倒しているとは言えない。いや、確かにダークレイの方が余裕があるが、対峙しているこの2人は闇臨したダークレイに食い付いている。

 戦っているダークレイには分かる。陽華と明夜がこの戦いを通して成長している事が。強い正の感情、正の想い、それが2人を強くしている。光臨への道を開き、闇臨したダークレイと戦えるほどに。

「・・・・・・・・気に入らないわね」

 ボソリと忌々しそうにダークレイが声に出して呟く。どこまでも正の想いを、自分が既に失ったその想いを以て自分に食らい付いているという事実に、ダークレイは苛立ちを覚えた。

「・・・・いいわ。あんた達のその想いより、私の想いの方が強いって証明してやる」

 それは自然に漏れたダークレイの闘志を示す言葉だった。無自覚ではあるが、ダークレイは小さな笑みを浮かべていた。

「闇技発動、ダークブレイザー・セカンド」

 ダークレイは片翼から拡散した闇の光を放った。拡散した闇の光は陽華と明夜に襲いかかる。

「くっ・・・・・!」

「ッ、水の障壁よ!」

 身体能力に自信がある陽華はその攻撃を自身の反応速度を以て回避した。避けきれないと悟った明夜は自身の前に水の障壁を創造し防御した。

「明夜! ここからは積極的に攻めるよ!」

「分かった! やるわよ陽華!」

 ダークレイの攻撃を回避した陽華が明夜にそう言った。陽華と明夜の残り戦闘時間は5分ほど。ここから焦らなければならない。悪い意味でなく、いい意味で。その姿勢の反映が、いま陽華が言った積極的な攻めだ。

「水龍と氷龍よ! 混じり合い、我が敵を討て!」

 明夜が杖を両手で握り締めながら新たなる魔法を詠唱する。すると、明夜の右手の空間に水の龍が、左手の空間に水の龍が出現した。2体(態とも言うが)は明夜の頭上の空間で螺旋を描きながら混じり合い、やがては1体の大きな水氷の龍へと変化した。水氷の龍はダークレイに顎を開きながら向かっていった。

「光炎よ! 我が手に纏え!」

 それと同時に陽華は自身の両手に輝く炎を纏わせた。そしてダークレイの方へと駆ける。明夜の攻撃と同時に陽華も攻撃を行う算段だ。

「闇技発動、ダークアンチェイン・セカンド・スピードモード」

 自分に向かって来る水氷の龍と陽華を見たダークレイは、しかし余裕そうに自分の身体強化の力をスピード特化に振り分けた。

 次の瞬間、影すら残さずにダークレイの姿が世界から消えた。

「えっ!?」

「消えた!?」

 陽華と明夜が驚いた表情になる。先ほどから消えたと錯覚する程のスピードを誇っていたダークレイだが、今回はそれとは訳が違う。2人の目にはダークレイは本当に忽然と消えたように見えた。

(上か)

「上ね」

(上だな)

 しかし、レイゼロール、シェルディア、影人の3者はダークレイがどこに消えたのか分かっていた。

「――闇技発動、ダークブレイド」

 実力者である3者の眼はダークレイの神速のスピードを正確に捉えていた。ダークレイは空中に跳び上がると、闇技を発動させた。ダークレイの右手に纏われた闇が変質する。剣のように伸びて。闇臨した闇導姫は、その右手を水氷の龍に向かって振り下ろした。

 ダークレイの振り下ろした右手が、水氷の龍の頭を綺麗に両断した。

「上!?」

「はあ!? 私が丹精込めて創った龍が気付かない内にやられた!?」

 水氷の龍が無力化されたタイミングで、ダークレイの居場所に気がついた陽華と明夜。陽華はハッとしたような顔を浮かべたが、明夜はいつも通りというべきか、どこかズレたような反応をした。

「ッ・・・・・闇技解除。闇技発動、ダークアンチェイン・セカンド」

 水氷の龍を無力化したダークレイは一瞬厳しいような顔を浮かべると、身体能力強化をバランスモードに戻した。

(やっぱり、セカンドのスピードモードはキツイわね。余りのスピードのせいで、単発的な使用しかできない。連続的に使えば、スピードに振り回されて体が壊れる)

 ダークレイが自身のモードをすぐに戻した理由はそれだった。闇臨状態の身体能力強化のスピード特化形態は神速の速度を発揮する事が可能だが、単発的にしか使用できないという弱点がある。

 一言で言ってしまえば強力過ぎるのだ。速度にダークレイの体がついてこない。闇人であり、闇臨したダークレイの肉体ですら、今の動きだけで全身の骨が軋んだ。

 ちなみにではあるが、ダークレイの動きを見切っていた、レイゼロール、シェルディア、影人の3者はダークレイと同等のスピードで連続的に動く事が可能だ。レイゼロールと影人に関しては、一言で言えば神力がそれ程までに強力だからであり、シェルディアに関して言えば、規格外の力を持つ怪物だからだ。

「フッ・・・・・!」

 ダークレイは再び今の自分が連続的に動ける最高速度になると、片翼を羽ばたかせ空中から地上にいる陽華へと強襲した。

「ッ!」

 ダークレイは上空から蹴りを放って来た。陽華はその蹴りをサイドステップで回避した。地上に降りたダークレイはそのまま腰だめに構えた右拳を放った。陽華はそれも体を逸らして回避した。

「はぁッ!」

 回避した陽華は、燃える左拳をダークレイに放った。ダークレイはその左拳を華麗に避け、陽華に闇纏う右拳を打つ。陽華はその拳をしゃがんで身を躱した。

「もらいッ!」

 身を屈めた陽華は右足でダークレイの足元に足払いを掛けた。急な足元への攻撃。この戦いでダークレイに陽華がやられた事だ。

「甘いわ」

 しかし、その程度の攻撃を受けるダークレイではない。ダークレイは両足で地を蹴り、足払いを回避した。

(地上から離れた! 空中で身動きは――!)

 陽華はダークレイのその行動をチャンスと捉え、燃える拳で昇拳を放とうとした。だが、ダークレイはそんな陽華の行動に対して小さな笑みを浮かべた。

「バカね。私にこれがあるのを忘れたの?」

 陽華がしゃがんだ姿勢から昇拳を放った瞬間に、ダークレイは片翼をはためかせた。その結果、陽華の昇拳はダークレイに当たらずに、決定的な隙を晒してしまった。

「っ!? しまっ――」

 陽華がそう言おうとした時には既に遅かった。ダークレイは片翼の勢いを使って空中で身を捻り、陽華の胴体に蹴りを叩き込んだ。

「ぐっ・・・・!?」

 まともにダークレイの蹴りを受けた陽華は苦痛に顔を歪め、その勢いで後ろに飛ばされた。

「闇技発動、ダークプリズムレイション」

 ダークレイは片翼を無数の闇の光へと変えた。無数の闇の光は陽華の方へと向かっていく。

「陽華! くっ、氷の――!」

 陽華のピンチを助けようと明夜が魔法を行使しようとする。だが、ダークレイはその明夜の行動を読んでいた。

「闇技発動、ダークアンチェイン・セカンド・スピードモード」

 ダークレイは再びスピード特化の形態へと切り替えた。そしてそのスピードを以て、一瞬で明夜の懐へと近づいた。

「あっ・・・・・・・・」

「ッ、シッ・・・・!」

 急激なスピードに再び顔を顰めつつも、ダークレイは明夜へ右拳で攻撃を行った。

「あぐっ!?」

 明夜はダークレイの拳を右肩に受けた。ダークレイの破壊力ある拳は明夜の右肩の骨をやすやすと砕いた。そして拳の衝撃から地面を転がった。

「闇技解除。闇技発動、ダークアンチェイン・セカンド」

 ダークレイは追撃は行わなかった。いや、行えなかったという方が正しいか。2度目のセカンドのスピードモードのガタがダークレイを襲い、ダークレイは追撃出来なかった。

「っ、明夜!」

 一方、ダークレイに蹴り飛ばされ闇の光の攻撃を受けていた陽華は、闇の光の1つを左肩に受けダメージを負っていた。左腕は上がらない。たぶん、この戦いが終わるまではまともには使えないだろう。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 だが、陽華は気合いの雄叫びを発しながら、ダークレイの方へと駆けた。闘志を依然燃やし続けながら。右手の拳を握り締めて。

「闇技解除」

 自分の方に向かって来る陽華に視線を向けながら、陽華を襲わせていた闇の光を翼へと戻した。そして、向かって来る陽華に対して、自分からも陽華へと近づいた。

「光炎よ! 我が手に宿れッ!」

 右手のガントレットに装着されていた円型の装置のようなものが開く。陽華の右手に纏われていた炎が、渦巻くようにその中にあった無色の宝玉に吸収されていく。ガントレットは陽華が闇臨前のダークレイに一撃を浴びせた時と同じように、ガントレットの色がクリスタルレッドへ、宝玉が紅玉へと変化する。そして最後に円型の装置の周囲に、輝く光の輪が出現し、陽華の最大の威力を誇る拳は完成した。

「この拳で決める! 今度こそッ!」

 ダークレイに陽華が必殺の拳を放った。陽華の放った拳は真っ直ぐにダークレイへと向かっていく。この拳が通れば、ダークレイは大ダメージを受けるか、浄化されるはずだ。

「闇技発動、ダークアンチェイン・セカンド・パワーモード。闇技発動、ダークブレット・セカンド。やれるものならやってみなさい」

 ダークレイも自身の身体能力強化の形態をパワー特化の形態にしながら、闇を纏っている拳に力を込めた。そして、その右の拳で陽華の拳に激突させた。

「はぁッ!」

「ふっ・・・・・!」

 拳と拳を突き合わせた威力が、衝撃となって世界に奔る。2度目の拳合わせ。1度目は結果的に陽華がダークレイにその一撃を浴びせた。果たして、2度目もそうなるのか。

「ぐっ・・・・・」

 しかし、1度目とは違う点が2つだけあった。1つは陽華が左肩にダメージを受けているという事。力を全身に込めた結果、陽華はその傷が激しく痛むのを感じた。その結果、陽華の集中力や全身に込めた力が僅かだが阻害された。

「・・・・1回目の時より力が落ちてるわよ」

 2つ目は、ダークレイが闇臨しているという事。ダークレイは闇臨した事により、パワー特化形態も強化されている。当然、1度目の時より拳を押し込む力は上がっている。

「っ!?」

 その結果、陽華の拳はダークレイに押し切られ弾かれてしまった。

「・・・・・私をここまで追い込んだ褒美よ。せめて一緒に、同時に逝かせてあげるわ」

 ダークレイは陽華に向かってそう言うと、陽華の胸ぐらを右手で掴んで、自分の後ろへと放り投げた。

「ぐっ・・・・・!」

 ズサっと音を立てながら、陽華が地面に落ちた。無造作にけっこうな距離を投げられたので、落ちた衝撃はかなりのものだった。

「だ、大丈夫、陽華? 私は右肩の辺りの骨を砕かれて話すのもやっとって感じだけど・・・・・」

「わ、私も左腕使えなくなったからかなりヤバい感じ・・・・でも、まだ戦えるのは戦えるよ、明夜」

 飛ばされた先には、左手で杖を持ちながら痛みに顔を歪ませた明夜がいた。明夜の問いかけに、陽華は立ち上がりながらそう答えを返した。

「レッドシャイン、ブルーシャイン。あんた達はよくやったわ。土壇場での『光臨』の取得、そこからの健闘・・・・・・・闇臨をした私にもここまで食らい付いた。私にまだこんな気持ちが残っていたのには驚いたけど・・・・私はあんた達に敬意を抱くわ」

 負傷した陽華と明夜に、離れた位置からダークレイがそう言葉を投げかけた。ダークレイ自身も自分がこんな言葉を2人に送るなんて思っていなかった。だが、気がつけばそんな言葉が半ば自然と出ていたのだ。

「だから、その意を表して2人同時に痛みを感じさせる間もなく死なせてあげる。闇臨した私の最大闇技で。闇技全解除」

 ダークレイは続けて2人にそう言うと、自分の全身と拳に纏われていた闇を解除した。

「翼よ、我が両手に纏え」

 ダークレイの片翼がその言葉を受け、1人でに動き出す。片翼はそれぞれパーツごとにダークレイの両手に合体していく。合体したその両手は、どこか凶々しかった。

「闇よ、翼となって我を支えろ」

 次にダークレイの背から闇色のエネルギーが両翼のように展開された。そしてダークレイは両手を陽華と明夜の方へと突き出した。まるで、狙いを定めるかのように。

「我が闇よ、全てを焦がせ。全てを消し去れ。全てを堕とせ。この手に集え、我が全ての闇よ」

 ダークレイがそう詠唱すると、ダークレイの両手に凄まじい闇が集まり始めた。大気が震えるほどの闇のエネルギーが。

「あ、あのエネルギーは・・・・・マ、マズイ・・・・・!」

 ダークレイに集まっていく闇の力を見た光司が、震えたような声でそう呟いた。未だに光司の体は全く動かない。光司はただ、この戦いを見守る事しか出来ていなかった。

(今までけっこう危ないところはあったが・・・・この攻撃が通れば本当にヤバいな。これが通りそうになった時が、朝宮と月下を助けるタイミングだな)

 同じくずっと戦いを見ていた影人もそんな事を思った。今までも助けに入るべきタイミングはあった。だが、影人はそうしなかった。もちろんという事もある。しかし、それ以上にこの戦いの中で急激に成長している2人に、魂と命を削りあっている戦いに出来るだけ介入したくない。影人はそんな事を思っていた。

(さあ、どうする朝宮、月下。どちらも負傷したこのタイミングでこの攻撃。お前たちは一体どうする? 見せてみろよ。お前たちの決断を、力を、この俺に)

 金の瞳をジッと陽華と明夜に向けながら、2人を見守り続けて来た怪人は、内心でそう呟いた。

「み、明夜。左手は生きてるよね?」

「え、ええ。そういう陽華こそ、右手は使えるのよね?」

「うん。・・・・考えてる事は、同じみたいだね」

「全く以て、そうみたいね・・・・」

 ダークレイに集まっていく闇の力の凄まじさを感じながら、陽華と明夜はお互いにそう言葉を交わし合った。2人とも負傷した傷が痛むが、それでも何とか強気な顔を浮かべながら。

「なら、かましてやりましょ陽華。私たちのありったけの想いを・・・・・・・・!」

「そうだね・・・・! やろう明夜! これが、私たちの最後の攻撃・・・・・・・・!」

 2人は無理矢理に笑顔を浮かべると、それぞれ片手を前に、ダークレイの方に突き出した。陽華は右手を、明夜は左手を。

「輝け、私のこの想い。全てを明るく照らす太陽のように――」

「輝け、私のこの想い。全てを優しく照らす月のように――」

 陽華と明夜がそれぞれ言葉を唱え始める。すると、陽華と明夜の全身にオーラが纏われた。陽華は透明感のある赤、いわゆるクリスタルレッドの。明夜は透明感のある青、いわゆるクリスタルブルーの。

「この右手に宿れ、我が光よ。我を支えろ、光の片翼よ――」

 陽華の両手のガントレットが光となって陽華の右手に宿る。そして陽華の左半身、その背に光り輝く片翼が顕現した。

「この左手に宿れ、我が光よ。我を支えろ、光の片翼よ――」

 明夜が地面に突き刺していた杖が光となって明夜の左手に宿る。そして明夜の右半身、その背に光り輝く片翼が顕現した。そして、2人は光が宿った手をお互いに重ね合わせた。


 そして、奇しくもダークレイと2人のその準備は同時に完全に整った。


「最大闇技発動、ダークデスペレイション・ストリーム!」

「「届け! 私たちの浄化の光! いっっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」

 ダークレイがそう叫びを上げると、ダークレイの両手から凄まじい闇の光が奔流となって放たれた。対して、陽華と明夜がそう叫ぶと、2人の重なった手から凄まじい光の奔流が放たれた。

 白と黒、2つの光の奔流はやがて激突した。その瞬間、大気が軋み大地が震えるほどの衝撃が世界を襲った。凄まじい衝撃波が発生し、風が荒れ狂う。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」」

 ダークレイ、陽華と明夜は絶叫に近い声を上げながら、必死に力を込め続けた。そのせいか、黒い光と白い光は拮抗していた。

「こんなものじゃ、こんなものじゃないでしょう! 私の絶望、私の闇! こんな光に負けるような、そんな想いじゃ絶対にないはずでしょ!? もっと、もっと燃えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 ダークレイが自身の絶望と闇を燃やす。これまで以上になく、本当に全てを込めて。その結果、ダークレイに闇の力が漲り、その闇の力は奔流を強めた。

「「っ!?」」

 拮抗の天秤が傾く。黒の光が優勢に。白い光は徐々に黒の光に押され始めた。

「負けない・・・・・絶対に、絶対にッ! 私の、想いは!」

「私たちの想いは2人ぶん! 1人の想いには負けはしないのよッ!」

 だが、負けじと陽華と明夜も自分たちの想いを燃やした。不屈の闘志と輝くような意志を。

「「負けるもんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 その意志が光の力となって、白の奔流を強めた。押し込まれていた白い奔流が、黒い光を押し戻していき、再び拮抗の状態に戻る。先ほどよりも強くなった奔流同士がぶつかる事によって、衝撃波の強さも、巻き起こる風も更に凄まじくなった。

 少しの間再び続いた拮抗状態。だが、

「ぐっ・・・・!」

「くっ・・・・!」

 ここに来て元々の力の差が出たのか、ダークレイの闇の奔流がジリジリとまた白い光の奔流を押し込み始めた。

「終わりよ・・・・! この戦い・・・・・・私の勝ちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 ダークレイが更に闇の力を込め、一気に闇の奔流を押し込んだ。黒と白の光の対比、先ほどまでの均衡状態を5対5とするならば、今は7対3ほどまでに黒の光が白の光を飲み込んでいた。

「「ッ・・・・・・・!?」」

 一気に押し込まれた陽華と明夜の顔が様々な感情を含んで歪む。自分たちはこのまま負けて死んでしまうのか。2人の心にそんな思いがよぎる。

(私たち、負けちゃうのかな・・・・死んじゃうのかな・・・・やっぱり、今の私たちじゃ最上位闇人には・・・・・・・)

(世の中そんなに甘くはないって事か・・・・いや、私たちの想いが、彼女ダークレイの想いよりも・・・・・・・)

 少しの諦観のようなものが、陽華と明夜の心に影を落とした。やはり、光導姫になりたての自分たちでは、ダークレイの力や想いにも・・・・・・・・

 そんな2人の心を表すように、奔流が更に押し込まれる。今やその対比は8対2までになっていた。

 いよいよか。そう思われたその時、


「頑張れ」


 不思議な事に、陽華と明夜の耳にそんな声が聞こえて来た。男の声だった。まるで鈴の音のように、その声ははっきりと陽華と明夜の耳に入った。

「「え・・・・・・・・」」

 それは幻聴かもしれなかった。なにせ、ここにいる男は光司しかいない。だが、その声は光司の声ではなかった。

 だが、その声は確かに2人が聞いた事のある声だった。状況が状況だけに、思い出すという事は出来ないが。 

 しかし、なぜだろうか。その声は諦めかけていた2人の心に勇気を、それこそ100倍の勇気をくれた。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 陽華と明夜は叫んだ。自分たちの弱い心をなくすために。湧いてくる勇気のままに。あらん力の限り、2人は叫んだ。

「諦めない! 諦める事だけはしないんだッ! もう2度と諦めたりなんかしないッ!」

「燃え尽きるほどに燃えろ! 私たちの全ての想い! 私たちは勝つんだッ!」

 再び2人の心に希望の光が灯った。その光は消えかかる前よりも遥かに強く灯っていた。

 光の力は正の心の力。2人のその想いが凄まじい光の力となって奔流へと流れ込んだ。

「っ・・・・・!?」

 押し込まれていた白の光が急激に黒の光を押し戻していく。一気に均衡状態に。そして、黒の光を逆に押し込んでいくほどに。ダークレイはその事実に驚いたような顔を浮かべた。

「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」」

 白の光が黒の光を圧倒する。今や白の光と黒の光の対比は8対2に逆転している。

 そして遂に、その対比は9対1にまでになった。

(ああ・・・・・ここまでか。もしかしたら、もしかしたらという予感はあった。この2人が光臨をして、闇臨した私に食らい付いて来た時から・・・・)

 何かを悟ったような顔でダークレイはそんな事を思った。

(私はここで負ける。結局、私は何がしたかったんだろう。光導姫になって、エイルと友達になって、そしてエイルが殺されて、ソレイユの本当の目的を知って、私は闇に堕ちた・・・・・)

 負けるという確信が、ダークレイにはあった。この光を受ければ、自分は浄化される。それは長い時を生きる闇人にとっては死を意味する。そのためか、ダークレイはまるで走馬灯のように、今までの自分の記憶が内に溢れ出て来た。

(・・・・・・・・・ごめんね、エイル。あなたに誇れない私になってしまって。あなたとはきっと違う所にはなるけれど・・・・・・・・今、私もそっちの世界に逝くから・・・・・)

 ダークレイは淡い笑みを浮かべた。これから自分は死ぬというのに、なぜか晴々とした気分だ。理由は本当にわからないが、心の底から晴々としている。

 そして、黒の光はやがて完全に白の光に呑み込まれ始め――

(ッ、マズイ・・・・・・! ここでダークレイを失うわけには・・・・・!)

 ダークレイがやられてしまうと悟ったレイゼロールは、ダークレイを助けようと動こうとした。自分ならば、まだ助けに入れるかもしれない。ダークレイは最上位闇人だ。絶対にやらせるわけにはいかない。

「ッ!?」

 しかし、レイゼロールが助けに入る前に、


 1条の流星のような黒い影が、ダークレイの元へと奔った。

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