第171話 竜殺しの妖精
「仕込みは・・・・・・こいつだけ先にやっとかないとな」
影人は爆発によって出来た僅かな時間を逃さずに、ゼルザディルムとロドルレイニに仕掛ける最後の攻めのために、ある準備をした。影人は右手に持っていた狙撃銃の形状を変化させ、闇色の小型の機械のようなものに作り変えた。そして、自分の半径1メートル程の短い距離に遮音フィールドを創造し、影人はその機械のようなものにある言葉を吹き込んだ。
「――。よし、これで仕込みは終わりだな」
影人はそう呟きその小型の機械のようなものを、外套の右ポケットに突っ込むと遮音フィールドを解除した。
(イヴ、力を練るのに後どれくらいかかる?)
影人は最後にイヴにそう質問する。影人のプラン通りに事が進んでも、実際にゼルザディルムとロドルレイニを殺す力が整っていなかったでは話にならないからだ。
『大体残り30秒ありゃいける。お前がどんなプラン考えてるのか、思考までは俺は読めないからあれだが、30秒くらいは流石に持つプランだよな?』
(ああ、お前の言う通り今から30秒は余裕で大丈夫だ。よし、じゃ全部のお膳立ては済んだな)
影人はイヴの答えに頷くと、自分の周囲に浮かんでいた残り2本の『破壊』の力を宿した剣を両手で掴んだ。
爆破の余波や爆風がようやく収まる。影人は自分からかなり離れた直線上の距離にいるゼルザディルムとロドルレイニの姿を確認すると、自ら2竜のいる場所目指して走り出した。
「さあ、竜殺しの妖精と相成ってやるか・・・・・・!」
「ッ、いったいどういう風の吹き回しだ・・・・・?」
爆風が収まり視界がクリアになったゼルザディルムは、突如として自分たちの方に近づいてくる影人を見てその顔を疑問に染めた。
「わかりませんね・・・・・しかし、彼は無策で突っ込んでくるような人物でないという事だけは確か。気を張るぞ、ゼルザディルム。彼には何か策がある」
ロドルレイニがその目を警戒から細める。そしてロドルレイニはゼルザディルムにこう言葉を投げかけた。
「何にせよ、これは私たちが望んでいた展開。こちらからも近づくぞ」
「まあ、そうだな。油断だけしないでおくか」
ロドルレイニとゼルザディルムはそう言葉を交わし合うと、自分たちも影人の方へと向かって駆け始めた。
2竜と1人の人間は互いに近づき合う。そして、お互いの距離が100メートルを切ったところで、ロドルレイニはこう言葉を紡いだ。
「氷よ、世界を閉ざせ」
ロドルレイニがそう言葉を発すると、地面に氷が奔り始めた。氷は円形に奔りロドルレイニとゼルザディルム、そして影人をその内に止めると、空中へと登り始めた。
氷は弧を描いて頂点部分へと収束し、やがて完全にドーム状に2竜と影人がいる空間を覆った。
(ッ、氷のドーム・・・・・・完全にもう俺を逃がさない気だな)
ロドルレイニが作った氷のドームの意図を影人は正しく理解していた。だが構うものではない。影人はもう逃げはしないのだから。
「ほう。なら、我もやっておくか。炎よ、地を舐めろ」
2竜と影人の距離が50メートルを切った辺りで、ゼルザディルムがそう言葉を唱える。すると、ロドルレイニの氷と同じように炎が地を舐め、やがて円形になり激しく燃え盛った。意図はロドルレイニの氷のドームと同じだろうが、こちらはドームとは違い天を覆うという程ではない。こちらはさしずめ、炎のリングといったところか。
(どうでもいい。好きなだけやりやがれよ)
これで影人は氷のドームと炎のリング、二重に逃げ場をなくされたわけだが、影人にとってそんな事はもはや意味をなすものではなかった。
2竜と影人の距離が更に近づいていく。残りの距離は、40メートル、30メートル、20メートル。そして遂にゼルザディルムとロドルレイニ、影人の距離が10メートルを切った。その瞬間、影人は仕掛けた。
(ここだ・・・・・!)
影人は右手の剣を一旦離し、右手にある物を創造すると、それを地面へ向かって叩きつけた。すると、突如として凄まじい量の煙がそこから広がった。
「ッ!? 煙幕か・・・・・!」
「小癪な事を・・・・・!」
そう、影人が地面に叩きつけたのは煙玉だった。しかも、影人が煙幕の濃度を濃いめに設定していた事もあり、周囲は一瞬でホワイトアウトするレベルだった。
「しかし、この程度の目眩しで私たちに隙を作れると思うな・・・・!」
ロドルレイニは周囲を警戒しながら両手を振るった。すると、凍てつく風が吹いた。その風を受け、煙は徐々に晴れていく。しかし、正面にスプリガンの姿は見えない。
「「ッ・・・・・・・・!」」
その事を半ば予想していたゼルザディルムとロドルレイニはすぐさま後方を振り返った。スプリガンは煙幕を使って、自分たちの後方に回り込んだのではないかと考えたからだ。こういう場合、背後を取るのが定石である。
しかし、自分たちの後方にもスプリガンの姿は確認できなかった。
そして、ゼルザディルムとロドルレイニが自分に背中を晒したその隙を、影人は見逃さなかった。
「てめえらの弱点は・・・・・!」
「「ッ!?」」
なぜか自分たちの背中側から聞こえて来たスプリガンの声。その事実に、意味がわからないまま驚愕したゼルザディルムとロドルレイニが再び振り返る。いや、この場合正面に向き直ったという方が正しいか。
すると、そこには先ほどは確かにいなかったはずの影人の姿があった。しかもかなりの至近距離だ。影人は両手の闇色の剣を、ゼルザディルムとロドルレイニのある箇所目掛けて突き刺そうとしていた。
2竜にはなぜ影人が正面にいたままだったのにその姿が見えなかったのか分からないだろう。それは影人が2竜に対してまだ見せていなかった力、透明化が関係している。いや、関係しているというよりはそれ自体が答えだ。影人は煙玉を地面に打ちつけ、透明化を使いゼルザディルムとロドルレイニに正面から接近していた。
繰り返しになるが、ゼルザディルムとロドルレイニは影人の透明化をまだ1度も見ていなかった。ゆえに、影人が消えたまま正面にいたとは考えもつかない。先に影人が透明化を2竜に見せていれば、2竜はその事を踏まえて警戒していただろう。
つまり、これは1度切りの完全な奇襲だ。影人が2竜を殺し切るための初見殺しの奇襲だった。
「やはり胸部! その位置にある心臓だ!」
そして影人はそう叫びながら、隙を晒しているゼルザディルムとロドルレイニの胸部中央部、人間の心臓のある箇所と同じ所を両手の剣で突き刺した。
「がっ・・・・・・!?」
「ぐっ・・・・・・!?」
『破壊』の力を宿した剣が無慈悲に胸部に突き刺さり、2竜が驚きと苦悶が混じったような声を漏らす。多量の血が、2竜の胸部から流れ出す。
「この戦い、俺の勝ちだ・・・・・!」
その光景を金の瞳でしっかりと確認した影人は、そう勝利宣言をした。
だが、
「いいや、この戦い――」
「――勝ったのは私たちです」
その次の瞬間、ゼルザディルムとロドルレイニは笑みを浮かべると、胸を貫かれている事などお構いなしに、ゼルザディルムは左手に炎を纏わせ、ロドルレイニは右手に凍気を纏わせ、影人の胸部を貫手で穿った。
「がっ・・・・・!?」
影人の胸部に2つの穴が開く。2竜の燃える手と凍る右手は、影人の心臓を破壊し体を貫通していた。血が派手に周囲へと飛び散った。
「な・・・・何で・・・お・・・・・お前らの、弱点は・・・・・・そこの・・・・・はずじゃ・・・・」
影人が信じられないものを見るような目で自分の胸を見下ろし、次にゼルザディルムとロドルレイニにその顔を向ける。影人の今際の際の言葉を聞いた2竜は、空いていた手で自分たちの胸に突き刺さった剣を引き抜きながら、こう言葉を返した。
「残念ながら、お前のその予測は間違っている。お前は、我がロドルレイニの胸部への攻撃を助けたからそう考えたのだろうがな」
「ええ。どうやらあなたは私たち竜族に弱点があると考え、それを探っていた様子。確かに、我ら竜族も生物。弱点はあります。しかし、私たちの弱点はここにはない」
2竜は引き抜いた剣を念のために手で握り潰した。2竜の胸の刺し傷は、これまでの傷と同様にすぐに修復された。
「な、なら・・・・お前らの・・・・弱点は・・・・・・いったい・・・どこに・・・・・・・?」
2竜の言葉を聞いた影人が、数秒たってそんな言葉を漏らした。それは影人の最後の問いかけだった。もはや、この状態では闇の力で回復を使っても心臓は治せない。2竜の手が心臓を貫いた状態だからだ。この状態では心臓を修復できない。それはゼルザディルムとロドルレイニも分かっている。だから、2竜は影人が死ぬまで手を影人の体に突き刺しているのだ。
つまりスプリガンは、帰城影人はあともう少しで確実に死ぬ。それは確定事項だ。それは影人にも、ゼルザディルムとロドルレイニにも分かっていた。
「・・・・・いいだろう。お主は間違いなく我らと対等に戦った敵であり、勇気ある者。死にゆく土産に、最後に我らの弱点の位置を教えてやろう。いいな、ロドルレイニ」
「ええ、構いません。彼にはその資格があります」
ゼルザディルムがロドルレイニにそう確認を取る。その確認に、ロドルレイニは首を縦に振った。
「ならば知るがいい、スプリガンとやら。我ら竜族の弱点はただ1つ。それは心臓よ。竜の心臓。それだけが、我ら竜族の弱点」
「そして、その心臓の位置は――ここです」
ゼルザディルムの言葉に続くようにロドルレイニはそう言うと、左手で自分の肉体の真ん中――ちょうど
「我らの元の姿とこの姿で心臓の位置は多少異なるが、この姿の時はロドルレイニが示しているようにそこに心臓は位置している。この位置を剣で貫かれていれば、負けていたのは我らの方だった」
「・・・・普通は弱点といっても弱点にはなり得ないのですがね。竜の鱗はほとんどあらゆる攻撃を受け付けぬ絶対の鎧。私たちの鱗を貫く攻撃をして来たのは、シェルディアとあなただけです。つまり、私たちに傷をつけたのはあなたを入れて史上2者しかいない」
ゼルザディルムとロドルレイニが、死にゆく影人に向かってそう語る。2竜の言葉は心の底からのものだった。2竜はここまで自分たちを追い込んだ影人に対して、敬意を抱いていた。
「お前はよくやった。我は素直にお前を賞賛する。・・・・さらばだ。2竜の竜王と対等に戦いし者、スプリガンよ」
「死したあなたの魂に安息がある事を願います」
「・・・・・・・・」
2竜は既に事切れている怪人の胸部から、手を勢いよく引き抜いた。もう既に魂と命が失われた黒衣の怪人は、1歩2歩と後ろによろけると、仰向けに斃れた。
「・・・・・結局、殺してしまったな。まあ、分かり切っていた事ではあるが。手加減が出来る相手ではななかった」
「どちらかが死ぬか。これは本当の意味での戦いでした。手加減など、出来るはずがなかった」
ゼルザディルムとロドルレイニは斃れた怪人の姿を見つめながら、そう言葉を呟いた。シェルディアの命令はスプリガンを戦闘不能にすること。出来れば殺さないようにとの事だった。しかし、それはやはり不可能だった。こればかりは仕方がなかった。
「・・・・さて、夜の主のところに戻るか。一応、亡骸を抱えて」
「そうですね。それが証明となるでしょう」
ゼルザディルムとロドルレイニは斃れているスプリガンに近づこうと1歩を踏み出そうとした。
しかし、2竜がその1歩を刻む事はなかった。
なぜなら、
唐突に背後から何者かによって、背中から鳩尾の辺りを手で貫かれてしまったからだ。
「は・・・・・・・・・・・・・?」
「え・・・・・・・・・・・・・?」
自分たちの腹部付近から手が突き出ている。その余りに意味が分からない光景に、ゼルザディルムとロドルレイニは呆けたような声を漏らした。
「――まあ、やっぱりそこだよな。予想はついてたが。ありがとよ、お前らのおかげで確証が持てたぜ。だから、安心して殺せた」
声がした。それはいま自分たちが殺した男の声と同じだった。ゼルザディルムとロドルレイニは一体何が起きているのか理解できなかった。
ただ、反射的に2竜は顔を後ろへと向けた。するとそこにはやはり、
金の瞳に黒衣を纏った男、スプリガンの姿があった。
「な、なぜだ。き、貴様は確かに我らが今・・・・・・」
「い、いったい、何が起きて・・・・・・」
自分たちの後方にスプリガンの姿を確認したゼルザディルムとロドルレイニは、そんな言葉を漏らしていた。2竜からしてみればその言葉は当然のものだった。ゼルザディルムとロドルレイニは確かに今スプリガンを殺したはずだったのだから。
「・・・・・ま、ちょっとした仕掛けをしただけだ。前を見てみろよ。お前らが俺だと思って殺した奴の正体が分かるぜ」
影人はゼルザディルムとロドルレイニが万が一何かをしないか警戒しながら、2竜にそう言った。まあ、高密度の『破壊』の力で竜の弱点である心臓を貫き続けているので大丈夫だとは思うが。もしかしたら、先ほどの自分のような事もあるかもしれないので、影人は警戒をしただけだ。
「正体だと・・・・・?」
ロドルレイニが訝しげに目を細める。ロドルレイニとゼルザディルムは、影人の言葉通り首をゆっくりと再び前に向けた。そこにはスプリガンが斃れているはずだった。しかしそこにいたのは、
「なっ・・・・・・・・」
「これは・・・・・・・」
胸部を貫かれた等身大の闇色の人形だった。
「お前たちが俺だと思っていたのは、あの人形だ。お前たちがあの人形を俺だと思うように、色々と力と知恵は使ったがな」
影人は呆然としているゼルザディルムとロドルレイニに向かってそう答えを告げた。そう。今のこの状況を作り出す事が、影人のプランだった。
しかし、いったい何が起こったのか。影人のプランとはいったい何だったのか。その説明をしなければならないだろう。影人のプラン、その全貌はこうだ。
まず影人が地面に煙玉を投げつけ、煙幕を使ったところから影人のプランは始まった。影人はすぐさま自分と等身大の闇色の人形を創造し、その人形に自分が持っていた『破壊』の力が付与されていた剣を2本両手に持たせた。
そして、幻影の力を使い闇色の人形にスプリガンの姿を被せた。この時点で、ゼルザディルムとロドルレイニは影人が幻影の力を使うとは知らない。ゆえに、スプリガンの幻影を纏った人形が、影人だとは気が付かない。幻影は闇色の人形と全くズレがなく、それが幻影だと初見で気づくのは、ほとんど不可能だ。
これでそっくりのスプリガン人形は偽造された。しかし、これだけではまだ足りない。影人は胸部か頭を貫かれると予想し、血糊を創造し、そこに多量の血糊を仕込んだ。でなければ、ゼルザディルムとロドルレイニの攻撃を受けた時に偽物だとすぐに分かるからだ。
問題はまだある。それは声の問題だった。人形は声を発せない。しかし、実際に影人を模した偽物は音声を発していた。もちろん影人の声だ。では、それはどういう事だったのか。
そこで、影人が遮音フィールドを張って小型の機械のようなものに、何か言葉を吹き込んでいたのを思い出してもらいたい。実はあれは録音機で、影人は予め声を吹き込んでいたのだ。それを人形の中に入れた(唇に関しては、幻影でどうとでも出来る。更に、その時は重傷だという事も分かっていたので、多少唇と声が合わなかったとしても大丈夫)。ゼルザディルムとロドルレイニとの会話、またその時の状況は容易に予想できていたので、矛盾しないように音声を入れるのは簡単だった。
影人の偽物は奇襲する時にわざわざ声を発していた。あれは、万が一にも人形が偽物だとバレないようにするためだ。そして、影人が音声を使って仕掛けた事はもう1つある。それは、ゼルザディルムとロドルレイニの弱点を喋らせて、その弱点を確定させるという事だった。
イヴはゼルザディルムとロドルレイニの弱点が鳩尾の辺りだと分かっていた。それは、2体の闇の騎士が爆発した時に、反射的に2竜が腹部を防御していたからだ。それを見ていたイヴは、そこが弱点だと予想した。しかし、確証はなかった。ゆえに、影人は人形にあえて胸部を攻撃させ、答えを喋らせた。あの2竜は誇り高いので、今際の際なら(偽物だが)答えてくれると踏んでいた。
後は簡単だ。精巧に作られた人形を透明化で消し、影人自身も透明化。影人自身は足音を消し2竜に接近。後はロドルレイニが煙幕を吹き飛ばし、後ろを振り返った瞬間に人形に攻撃させ、録音機を再生した。透明化は攻撃の時には自動で解けるし、録音機は影人が作ったものなので、遠隔再生可能だ。
ちなみに、『破壊』の力を持った人形が透明化出来る事。それは『破壊』の力の「概念の力は、『破壊』の力と両立できない」という事に関して疑問があるかもしれないが、そこに矛盾はない。この場合、透明化を受けるのは人形自身で、『破壊』の力は既に剣に付与されていた。つまり、力の付与されている物質が違うのだ。ゆえに、矛盾は起こらない。剣も透明になっていたのは、その矛盾が起こらないという事に起因している。このような場合のみ、『破壊』の力と他の概念は両立させる事が出来るという、一種の裏技のようなものだ。まあ、これはイヴの知識でありその受け売りだが。
「あんたらが俺の偽物を視認して、胸部を狙っていると分かった段階で、あんたらがその攻撃をワザと受けるのは分かっていた。そうすりゃ、あんたらは必ず俺を殺せるからな」
影人は背後からゼルザディルムとロドルレイニにそう言った。淡々と説明するかのように。
「俺は透明に消えて、俺の偽物とあんたらのやり取りを一部始終見てた。で、弱点の確証が得られたからあんたらの背後に回って、完全にあんたらの気が緩んだ所を狙って、こうやったってわけだ。背骨だとかそういうのも、俺には関係ないからな」
それが影人のプランの全貌だった。そして、影人のプランを掻い摘んで聞かされたゼルザディルムとロドルレイニは驚愕したようにその目を見開き、やがてフッと諦めの笑みを浮かべた。
「大した・・・・大した、者よ。納得した・・・・・お主に我らが負けたのをな・・・・・・・」
「全て・・・・あなたの手の平の上・・・・・だったわけですか・・・・・・・やはり、あなたは・・・・・・・称賛に、値する人物です・・・・・」
2竜の体が影人によって手で貫かれている箇所を起点としてヒビ割れていく。そのヒビは全身へと広がっていき、やがて徐々に2竜の体は崩れていった。
「・・・・別に、俺はあんたらに称賛されるような奴じゃない。あんたらからすりゃ、卑怯にも背中から止めを刺したわけだしな。まあ、こうでもしなきゃあんたらには勝てなかったがな・・・・・」
影人は2竜のその言葉を否定した。誇り高い竜たちに自分がそう評せられたのは、違うと影人は正直に思ったのだ。
「ふっ、何を言う・・・・・お前は我らの言葉通り・・・・全てを使って・・・・・・本当に全てを使って、勝ったのだ・・・・卑怯などでは、決してない・・・・・」
「ええ・・・・・あなたと戦えたのは・・・・むしろ、私たちの・・・・・・・誇りです・・・・」
だが、ゼルザディルムとロドルレイニは逆に影人の否定を否定した。2竜の体が更にヒビ割れ崩れていく。もうあと数秒で、2竜の体は完全に崩壊するだろう。影人の勝利はもう本当に確実だ。
「心躍った戦いだった・・・・お主に」
「満足です、例え2度目の死でも・・・・・あなたに」
そして、2竜は最後に影人にこう言った。
「「感謝を――」」
その言葉を最後にゼルザディルムとロドルレイニの体は完全に崩壊し、砂のようになって地へと還った。
「・・・・・感謝か。・・・・・・・・・仕方ないから受け取っとくぜ。それを否定するほど・・・・・俺は堕ちちゃいないからな」
影人は2竜の血に塗れた両手を見て、グッと両手を握りしめた。
「・・・・・・・・・あばよ。誇り高い竜たち。ゼルザディルムとロドルレイニ」
影人は地に還った2竜にポツリとそう呟くと、踵を返し歩き始めた。そう影人の戦いはまだ終わってはいないのだ。
「・・・・・・・・待ってやがれ、シェルディア。今度はお前の番だ」
影人は幽鬼のような表情で、凍りつくような声でそう言葉を漏らした。
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