第139話 芸術家ボンジュール(1)

「・・・・・・・・今回もはずれか」

 夜の闇に紛れるような西洋風の喪服を纏った白髪の女性――レイゼロールは、目の前の円柱の上に立つ男の像を闇で強化した眼でジッと見つめると、そんな言葉を漏らした。その言葉と同時に、レイゼロールのアイスブルーの瞳に宿っていた闇も消えた。

 9月5日水曜日、午後8時過ぎ。人気のない広場の中心近くにレイゼロールはいた。吹く風はカラリと乾いていて、ほんの少しだけ冷たさをはらんでいた。

(これで4件連続・・・・・・しかし、響斬を責める事は出来ないな。響斬はただカケラに関する全ての噂を我の為に探し伝えてくれているだけだ。情報がないよりはまし。真偽も我が確かめればよいだけだ)

 ――ヴァンドーム広場のナポレオン像の右目には黒い宝石が埋め込まれている。

 レイゼロールがこの広場に現れた理由は、響斬からもたらされたその情報が原因であった。3日ほど前、またシェルディアを経由して響斬からカケラに関する噂、その情報がもたらされた。レイゼロールはこの3日間の間、世界各地を回りその情報の真偽を確かめていたのだが、今までの情報は全てはずれであった。

 そして、レイゼロールがいま視力を強化してその像を確認してみたところ、円柱の上の像の右目には黒い宝石どころか何も埋め込まれてはいない。所詮は噂だったようだ。

(・・・・であれば、もうここにいる必要はないな。この街は、色々と街だ。敏感な者なら・・・・・・・・ソレイユなどには、いま我がこの場所にいる事がバレている可能性がある)

 レイゼロールは自分の体に一瞬視線を落としながら、周囲を見渡す。この街、正確にはこの都市は釜臥山のように気配隠蔽の力が安定しない。釜臥山のように、そこに入れば完全に気配隠蔽が解除されるという程ではないが、この都市は気配隠蔽の力が一瞬解除されたりする事がある。まあ多くの場合はすぐに効果が復活するが。

 この都市がなぜそのように力が安定しないのかは、レイゼロールには分からない。ただ言えるのは、世界にはそのような場所がけっこうな数存在するという事だけだ。そして、この都市もまたそんな場所の1つだというだけだ。

「っ・・・・・・!?」

 響斬の情報がはずれだと分かったレイゼロールは、すぐに転移をしようとした。この都市は気配に関する力こそ不安定になるが、移動に関する力は安定している。ゆえに釜臥山とは違い転移は可能だった。

 しかし、レイゼロールがこの場を去ろうとした時にある人物がこの広場へと現れた。レイゼロールの目の前に、疾風はやてのような速度で駆けながら。

 そしてその人物はレイゼロールの姿を確認すると、レイゼロールから少し離れた場所に立ち止まった。その金の瞳を、レイゼロールに向けながら。

「・・・・・スプリガン」

「・・・・・・・・よう、レイゼロール」

 レイゼロールの目の前に現れたのは、金眼の黒い外套を纏った怪人だった。レイゼロールから忌々しげに名を呼ばれたその男は、レイゼロールの名を呼び返した。

「・・・・・あの山以来だな。お前が我の前に現れたのは。2度と見たくはなかったな、貴様が生きている顔は」

「・・・・・・俺の死に顔なら見たかったってか。残念だが、お前が俺の死に顔を見る事はない。永遠にな」

 広場で邂逅した2人の黒が物騒極まりない言葉を交わす。レイゼロールとスプリガンの目に宿るのは、ただただ冷たさのみだ。

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 2人の間に沈黙が横たわる。そして次の瞬間、その片方――スプリガンが瞬時に右手に闇色のナイフを創造しながら、神速のスピードでレイゼロールへと切りかかった。『加速』と瞬間的な身体能力強化の力だ。

「ふん・・・・・」

 しかし、影人の一撃がレイゼロールを切り裂く事はなかった。

「ッ・・・・!?」

 なぜならば、ナイフはレイゼロールの肉体を霧のように、煙のようにすり抜けてしまったからだ。そう、まるで幻影のように。

 レイゼロールは、陽炎のように揺蕩いながらその場から流れた。そして、レイゼロールは影人から離れた位置に移動し再び現れた。

「・・・・・・あの女の闇人の技か」

「・・・・・幻影化。殺花の奥の手の1つだ」

 ナイフを持ちながらレイゼロールを睨みつける影人に、レイゼロールはそう言葉を返した。

「・・・・カケラもないのに貴様とやり合う気はない。さらばだスプリガン。いずれ死すべき者よ」

 レイゼロールは続けて影人にそう言うと、自身の影に沈みその姿を消した。その後、レイゼロールが沈んだ影も消える。

「ちっ・・・・・・逃げやがったか」

 影人はナイフを虚空に溶かしながら軽く舌打ちした。別に影人もレイゼロールと本気でやり合うとは思っていなかったが、こうも拍子抜けだと舌打ちの1つもしたくなる。

『お疲れ様です影人。怪我などはないですか?』

 レイゼロールが姿を消すと、影人の脳内にソレイユの声が響いた。

(見てたなら分かるだろ、大丈夫だ。それより、レイゼロールの奴はすぐに引いたがこれでよかったのか?)

 影人は自分の視覚と聴覚を共有していたであろうソレイユに、声に出さずにそう言葉を返した。影人の言葉にソレイユは『はい』と影人の確認を肯定した。

『どうやらレイゼロールは何かを探しているようですが、レイゼロールの言葉と反応からするに、今回は目的物はなかったようです。ならば、レイゼロールの阻害という私たちの目的は果たされた事になりますから』 

 やはり影人の視聴覚を共有していたソレイユが、影人に対してそう答えを返した。影人はソレイユのその返答に頷くと、今度は肉声でソレイユにこう言った。

「・・・・・了解だ。だが・・・・レイゼロールの奴はこんな場所で何を探してやがったんだろうな? あいつはカケラがどうのって言ってたが・・・・・・・だってここ・・・・・・・パリだぞ?」

 影人は周囲を見渡した。なぜか人の姿は見えないがここはフランスの街中、かの有名な芸術の都――パリだ。正確には、パリ1区にあるヴァンドーム広場。円柱の上に立つナポレオン像が有名なこの広場が、影人が今いる場所だ。

『さあ、そればかりは私にも分かりません。ただ、レイゼロールは何らかの情報を元に、この広場を訪れたのでしょう。ですが、その情報が不確かであったため、すぐに退却した・・・・・・それ以上の事は分かりません』

「そうか・・・・・・・それはそれとして、俺何気に今日初めて外国に来たんだよな。しかも転移で来たからその実感はねえし・・・・初めて訪れた外国の地がパリ。しかも不法入国と来たもんだ。こいつは一生忘れない記憶になるぜ・・・・・」

 ソレイユの声に頷きつつも、影人はそんな事を呟いた。影人はソレイユから「レイゼロールがパリに出現したから、スプリガンとしてレイゼロールの邪魔をして欲しい。もしかしたら、また何か目的物を探しているのかもしれない」と言われ、パリに転移した。なので影人からしてみれば、10分ほど前まで日本にいたのに今はフランスにいるという状況なわけで、今パリにいるという実感がないのだ。ただ、日本とは明らかに違う西欧的な美しい街並みがこの場所が日本ではないという事を示している。

『あ、そうでしたか。それは初めての感動を奪ってしまいましたね。すみません』

「いや、そういうんじゃなくてだな・・・・・まあ、いいや。取り敢えず今日の仕事も終わったし、さっさと転移させてくれ。明日も普通に学校だし、朝早いんだよ」

 周囲に人がいないという事もあり、影人は普段通りの口調でソレイユにそうリクエストした。影人のその言葉に、ソレイユは申し訳なさそうにこう言葉を述べた。

『すみません影人。もう少しだけ待ってください。長距離間の転移は準備に少し時間が掛かるんです。フランスから日本。これほど離れた距離の転移はかなりの力を消費するので』

「そうなのか? ああ、もしかしてその国にいる光道姫が基本的にその国で戦うのはそれが理由か? 前から軽く疑問だったんだよな。何で闇人どもの相手とかに、例えば1位の聖女サマとかが出てこないのかって。だって聖女サマは最強の持ち駒だろ? こっち側の最強を闇人どもにぶつければ、勝率は1番高いじゃねえか。なのに何でそうしないのかってよ」

 その説明を聞いた影人は、1人でにそう納得した。なるほど、長距離間の転移にそれほど力を消費するなら(といっても、影人はソレイユのその辺りの事情は分からないが)、その疑問にも説明がつく。

『そうですね。基本的に国を超えるような転移はいま言ったようにかなり力を消費します。私でも1日に2回くらいが限界です。しかもそれを行うと普段の距離間の転移も出来る回数が減るので、私は滅多に長距離間の転移はしません。あなたの推察の通りです』

 ただし、ヨーロッパのように国の距離が近い場合は転移の距離間はそれ程ではないので、普通の転移とあまり変わらないという例外もある。逆に日本やイギリスといった島国の場合は更に力の消費が激しい。と、ソレイユは付け加えた。なるほど、であるならば日本からフランスへの転移に、ソレイユはかなりの力を使ったのだろう。

「事情は分かった。なら、俺は異国の光景をこの目に焼き付けて――」

 ソレイユの転移の準備が整うまで、影人がこの美しい広場の光景に意識を向けようとすると、足音が聞こえてきた。音からするに2人分だ。

「――おや? てっきりレイゼロールがいるものかと思ったが、違う人物だね」

「ッ!? なあ『芸術家』、あの男の出立ち・・・・・あいつが例のスプリガンって奴じゃないか?」

 現れたのは影人と同じくらいの年の少女と少年だった。スプリガンの事を知っている様子からするに、おそらく光導姫と守護者だろう。

「おおなるほど。確かに聞いていた特徴と彼の特徴は一致しているね。では、まずは初対面の彼にご挨拶しないとだ。ボンソワールこんばんは、スプリガン。私はしがない光導姫、名を『芸術家』という。以後、お見知り置きを」

 少女が少し芝居がかった感じでそんな挨拶をしてきた。長髪の髪の色は水色だが、一部分が白色に染められている。好奇心渦巻く瞳の色は薄い青で、その顔立ちはかなり整っている部類だ。

 格好は頭にペレー帽を被り、上半身は白色のシャツ、腰には3本ほど筆が収納された黒の腰エプロンを装着している。ズボンはピタリとした水色のズボンで足元は絵の具か何かで汚れたスニーカーを履いている。その格好も相まってか、スタイルもかなりいい。

「光導姫・・・・・・・2つ名って事は、ランキング10位内の最上位クラスの光導姫か」

「おや、よくご存知だね。確かに私はランキング7位だよ。まあ、その位置に私がいるのは違和感しかないんだけどね」

 自らの事を『芸術家』と名乗った光導姫は、影人の言葉に軽く拍手を送りながらそう言った。

(なるほどな。周囲に人の姿が見えなかったのは、光導姫がここに向かって来てたからか。つーか、この光導姫もどっかで見た事あるな・・・・・)

 光導姫は変身すると同時に人避けの結界のようなものを自分の周囲に展開する。その範囲までは正確には影人には分からないが、人避けの結界を展開した人物がこの場に近づいて来ていたならば、周囲に人がいなかった理由も納得がいく。そんな事を考えながらも、影人は『芸術家』と名乗る光導姫にどこか既視感を覚えていた。

『影人、その光導姫『芸術家』はファレルナやソニアのように有名人です。彼女の名前はロゼ・ピュルセ。世界に名だたる芸術家です。あなたが彼女に既視感を覚えたのは、おそらく何らかのメディアで彼女の姿を見たからでしょう』

(ああ、そうだ。確かテレビのニュースで見た記憶があるぜ)

 この場に光導姫を派遣したソレイユが、そんな事を影人に伝えて来た。ロゼ・ピュルセ。去年の芸術賞で数々の最優秀賞を受賞した天才芸術家、とテレビでは言っていた気がする。

 それにしても、光導姫というのは存外に有名人が多いものだ。あの天才芸術家が光導姫。普通ならば多少は驚くべきところだが、影人は既に何回も似たような経験をしているので、そういう事ではもう驚かなくなってしまった。慣れとは恐ろしいものである。

「『芸術家』、もっと警戒した方がいい。奴は怪人だ。いったい何をしてくるか分からないぞ・・・・」

 影人が心の内でソレイユと会話したり思考していたりすると、守護者と思われる少年が最大限に警戒したような視線を影人に向けて来た。茶髪の短めの髪のその守護者は、両手に短剣を構えている。

「そう身構えるものではないよ君。彼が私たちを攻撃してこない限りは、彼は理解すべき友なのだからね。それにしても・・・・・・・・君の中は凄いねスプリガン。ただ真っ黒な闇だけが広がっていて、何も見えない。こんな事は初めてだよ。いいね、いいねえ! 君に興味が出て来たよ!」

「ッ・・・・・?」

 光導姫『芸術家』は唐突に影人にギラついたような視線を向けて興奮しだした。先ほどのどこか大人な態度と雰囲気はどこのその。影人は急に雰囲気が豹変し訳の分からない事を言い出したロゼに、一瞬戸惑ったような表情を浮かぶた。

「君のその闇を描けばその先が見えるのかな? ああうずうずして来たよ! こうしちゃいられない! すぐに君という存在の本質を描かねば! 来たまえ、私のキャンバストワール!」

 ロゼが変わらずに興奮したようにそう声を震わせると、虚空から突然四角形の白い何かが現れた。ロゼはその白い何かを左手で引っ掴むと、腰エプロンに収納されていた筆を一筆右手で引っ張り出した。

「『クルール』、ノワール!」

 ロゼがそう言うと、右手の筆に黒い光が宿った。これでロゼの筆の色は黒となった。ロゼは右手の筆を、左手に持っていた白い何かに走らせていった。

「ふふふふふッ! ああいくら見てもいくら描いても見えないよ! 楽しいな! 創作意欲が湧くなぁ!」

(な、何だこいつ・・・・・・? 何か薬でもキメてんのか? 完全にヤバい奴じゃねえか・・・・・・・・)

 ロゼの様子を見た影人は内心完全に引いていた。今のロゼは興奮した感じで鼻息も荒くしており、影人と左手に持っている何かを交互に見つめながら筆を走らせている。ぱっと見、ただの変態にも見えなくはない。

「お、おい『芸術家』? 急にどうしたんだ・・・・・・・・?」

 そんなロゼの様子に疑問を覚えたのはどうやら影人だけではなかったようだ。ロゼの近くにいた守護者の少年がそうロゼに問いかけた。その表情はけっこう引き気味だ。

「悪い少し黙っていてくれないか? 今は集中してるんだ」

 しかし、けんもほろろといった感じでロゼは守護者の少年にそう言葉を返しただけだった。ロゼは一心不乱にただ影人に集中し何かを描いている。

『影人、転移の準備が整いました。ロゼは・・・・・って興奮モードに入ってますね・・・・・・・影人、悪い事はいいません。その場から逃走してください。あの状態のロゼは正直制御不能です。逃げ切った所であなたを転移させますから』

(何が何だか分からんが・・・・・それは分かった!)

 何かを諦めたようなソレイユの声を聞いた影人は心の中でそう言葉を返すと、右手を虚空へとかざした。すると闇色の四足歩行の生物――闇で創造した馬が出現した。影人はその馬に跨り手綱を握ると、馬を走らせた。

「なっ・・・・・・!? 待てスプリガン! まだ私は何も君を表現できてはいない! そんな事は許されない! 待ちたまえ、待ちたまえよッ! モデルマヌカンが逃げるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 逃走した影人に激怒したのか、ロゼが左手に持っていた白い何かを地面に落としながら影人を追いかけてくる。しかし、影人が乗っている馬のスピードが凄まじいという事もあり、ロゼと影人の距離はどんどん離れていった。そして、ロゼの姿は遂には見えなくなった。

「怖え・・・・・・いったい何だったんだよあいつ・・・・」

 チラリと後方を見た影人は、ついそんな言葉を漏らした。正直に言って、『芸術家』は理解に苦しむ人物だった。ちなみに、影人が馬に乗るのはこれが初めてだが、今のところコントロールに問題はない。この馬はあくまで影人が創造したものなので、影人の言う事は絶対に聞くからだ。落馬などの心配も、スプリガンの身体能力があれば何の心配もない。

『ロゼは光導姫としての能力もそうなのですが、本人も少々特殊な子なんです。普段は大人びているのですが、時折りああいう感じになったりします』

「天才って奴はよく分からないな・・・・・・まあ、理解する気もねえんだけどよ」

 ソレイユから軽くロゼの事を聞かされた影人は、そんな当たり障りのない感想を漏らした。周囲には人払いの結界の効果が切れたのか、チラホラと人の姿が見え始めた。なら、そろそろいいだろう。

「よっと・・・・・」

 影人は馬に止まれと念じて馬を止めさせると、その闇色の馬を虚空へと消した。そして近くの暗がりの路地へと身を隠す。

「いいぜ、ソレイユ」

『了解しました。では転移を開始します』

 そんなやり取りの数秒後、影人の体が光に包まれ始めた。

『そう言えば、なぜわざわざ馬で逃げたのですか? いつもは普通に走るのに』

 転移が完了するまでの間に、ソレイユが少し気になったという感じでそんな事を聞いて来た。

「ん? ああ、せっかくヨーロッパに来たから多少の思い出作りにだ。パリの街並みの中、馬で走るってそれっぽいだろ? それ以上の理由はねえよ」

『なるほど。それで、ちゃんと思い出にはなりましたか?』

 あと少しで転移が完了する。その前に影人はこう答えた。

「はっ、余裕で一生もんだ」

 影人は軽く笑みを浮かべた。

 転移の光が完全に影人を包む。そして、影人は光の粒子となって異国の地から完全に姿を消した。













「ああなんて事だ! あれ程のモデルを逃すとは・・・・・・! 絵も全く完成していない! 今日はなんて幸運で不幸な日なんだ!」

 一方、ヴァンドーム広場に残されたロゼはというと天を仰ぎ嘆いていた。そんなロゼの姿を見た守護者の少年は、「あ、ダメだこいつ。ヤバい奴だ」といった感じの顔を浮かべ、「じゃ、じゃあ俺は帰るから」と言って即座に変身を解除しその場から離れた。

「だがしかし、あの深淵の先に何があるのか。私はそれが気になる。スプリガンという存在の本質を描かねば私は気が済まない! ならば行かねばならない! あの怪人が最も多く現れた場所に!」

 ロゼはグッと右手を握ると、自分以外誰もいないヴァンドーム広場で高らかにそう宣言した。そうだ。自分はあの怪人にまた会わねばならない。であるならば、スプリガンと最も多く邂逅する可能性のある場所に行く必要がある。

「ならばよしッ! では行こうじゃないか! 日本へ! その首都たる東京へ! 待っていたまえスプリガン! 今度は絶対に逃がさない! 君の全てを描き終わるまでな! ははっ、はははははははははははははははははははははははははははははははははッ!」

 ロゼの高笑いが広場に響く。光導姫『芸術家』、ロゼ・ピュルセ。彼女はその宣言通り、その2時間後の日本行きの飛行機に乗り、東京へと降り立つ事になる。

 ――スプリガンを追う者として。

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