第124話 歌姫オンステージ(11)
時は少し戻り、レイゼロールと影人がまだ戦っていた時。シェルディアと邂逅した風音、真夏、刀時も戦闘に入っていた。
「見た目が子供だからって容赦はしないわ! 行きなさい呪符たちよ!」
真夏が服の袖から大量の呪符を取り出し、シェルディアに向かってそれらを飛来させた。
「ふふっ、まずはサービスよ。動かないでいてあげる」
だが、シェルディアはそれらの呪符を避けようとはしなかった。
そして、真夏の放った呪符たちは全てシェルディアの体に貼り付いた。
「随分とナメてくれるじゃない。なら、そのまま呪ってやるわ、ガキンチョ!」
シェルディアの言葉を聞いた真夏は、キレたように声を荒げ、シェルディアに貼り付いた呪符に力を流し込んだ。
「あら? 動けないわ。ふふっ、あなた不思議な力を使うのね」
全身が呪われた事により、体が動かせなくなったシェルディアは、ただ笑みを浮かべるだけだった。
「風音、剱原。これであのロリは動けないわ。後は煮るなり焼くなり好きに行くわよ」
「それはありがたいけどよ・・・・・・お前、マジで色々躊躇ないな。一応、見た目は子供だぜあの子」
「相変わらずあんたはアホね剱原。流石、さっき殺されかけてたアホが言う事は違うわ。こういうのはね、本気でぶっ倒しにいかないと、負けるか死ぬかって相場が決まってんのよ」
真性のアホを見るような目を刀時に向けながら、真夏はそう言葉を述べた。
「どこの相場だよ・・・・・・・でも、確かにそうだな。ここは戦場であの子は敵。なら、容赦しないのが普通だ。悪りぃ、ちょっと見た目に絆されてた」
真夏の言葉に軽くツッコミを入れながらも、刀時は自分の言葉が甘かった事を認めた。真夏のどこまでも正直な言葉が耳に痛い。
「剱原さん、先ほども言いましたが容赦は本当に無用です。本気の本気で行かなければ、私たちは死にますから」
「・・・・りょーかい。本気って言うなら、風音ちゃんは『光臨』しないのかい? さっきやりかけてたけど」
「・・・・・たぶん、しません。『光臨』は確かに強力で、さっきのアイティレのように時間を区切って使用する事も出来ますが、力の消費が凄まじいです。この状況、本当は出し惜しみはしていられないんですけど、残りの力の量を考えると・・・・・・・・・」
「そっか・・・・・・・」
刀時の問いかけに、風音はそう答えを返す。風音が『光臨』を使用しない理由は確かに、残りの力の関係もあった。風音もこの山に入ってから、ずっと戦いっぱなしだからだ。
だが、風音が『光臨』を使わない理由は実はもう1つあった。
(・・・・・・弱っているであろうキベリアとあのジャージの闇人だけなら、『光臨』を使えば確実に浄化できる自信があったけど・・・・・・・・・アレが相手となると、『光臨』しても勝てるかどうか・・・・・・)
そう、それが2つ目の理由。いま目の前にいる少女の姿をしたモノに、風音は『光臨』を使っても勝てる気はあまり、いやほとんどしなかった。それは、シェルディアの力の一端を感じた事のある風音だからこそ、またシェルディアが内に秘めている力の一部を見る事が出来るゆえの理由だった。
であるならば、リスクが高すぎる『光臨』を使う必要はない。風音はそんな風に考えていた。
「どうでもいいけど、さっさと攻撃するわよ。私の呪いであのロリは動けないし、なんか後ろの闇人どもも、あのロリが現れた途端攻撃してこなくなったけど、ここは戦場なんだから」
真夏がチラリと後方に視線を向ける。あの豪奢なゴシック服を纏った少女が現れてからというもの、真夏たちの背後にいるというのに、攻撃を行なってくる気配はない。その理由は正直分からないが、攻撃して来ないなら、今は放置していても問題はないだろう。
「そう、ですね。榊原さんが動きを縛ってくれている間に・・・・・・全力で攻撃します。剱原さん、私の攻撃と同時にお願いします」
「あいよ。じゃあ・・・・・・斬るかね!」
「第1式札から第10式札、光の矢と化す!」
風音が全ての式札から光線を発射する。それと同時に刀時も駆け出した。
「あらあら、恐いわ」
10条の光線と刀を持った守護者が近づいているというのに、シェルディアはまだ変わらず笑みを浮かべている。何も知らない人間がいれば、シェルディアが狂っているようにしか見えないだろう。
10条の光線がシェルディアに直撃した。シェルディアの体に10の穴が空く。光線に貫かれた穴からは血が出ない。レーザーは超高温。そのため、傷口は火傷のようになるからだ。
(剱原流剣術、『
シェルディアに接近した刀時は、シェルディアの首目掛けて自分の刀を真一文字に振るった。
剱原流剣術『装斬』は、ただの大振りな一撃の斬撃だ。全ての力を込めて、対象をぶった斬る剛剣。そのため、隙はかなりでかい。
放つ角度は正直どこでもいい。真一文字だろうが、右袈裟だろうが、左袈裟だろうが、兜割りでもどこでも。要は力を入れやすければ。
『装斬』は元はといえば、鎧の上からでも敵を斬れるように、刀時の先祖の1人が編み出した技であるらしい。そして、実際にその先祖は敵を鎧の上からぶった斬ったという。剱原家の巻物にそう書いてあると、刀時の祖父が言っていた。
この話を聞いた時、刀時は「ウチの先祖はゴリラかよ」と思った。明らかに人間の所業ではないだろう。
だが、守護者形態の刀時の『装斬』はその先祖以上のものだ。守護者の高い身体能力から繰り出される刀時の『装斬』は、鎧より硬いものもほとんど全て斬れると確信していた。
そんな全てをぶった斬る剛剣がシェルディアの首に迫る。『装斬』を喰らえば、間違いなくこの少女の首は飛ぶ。先ほどの響斬と同様に、刀時にはそのビジョンが見えていた。
そして、刀時の刀はシェルディアの首を呆気なく斬り飛ばした。
「え・・・・・・・・・・?」
その余りの呆気なさに、風音はついそんな声を漏らす。刀時の一撃が強烈なものだっただけに、シェルディアの首は天高く舞い、首の切断された断面からは、大量の赤い鮮血が噴き出していた。
「はー、普通に首飛んだわね。なんだ、生意気言ってた割には存外大した事ないじゃない。まあ、私が呪ってて動けなかったから当然か。さすが、私!」
「血が赤い? え、この子闇人じゃなかったのか? じゃあ、これで終わり?」
風音が呆気に取られていると、真夏と刀時がそんな言葉を呟いていた。真夏は真夏らしい反応で、こんな時だというのに、自分を褒めるように笑みを浮かべている。正直敵とはいえ、見た目少女のモノの首が飛んで笑っている真夏は、ちょっとどうかと思うが、まあ真夏なのでそこら辺は考えても無駄だろう。
一方、刀時はどちらかと言うと風音と同じような反応を示していた。呆気に取られているか、肩透かしをくらったとかそんな風な反応だ。少女が撒き散らした血の色は赤。それは闇人ではないという証拠だ。闇人は浄化以外では、例え首を斬られても死なないが、闇人以外となると首を切断されれば普通は死ぬ。それはこの少女も例外ではないはずだ。
「じゃあ、なんかよくわかんないロリはぶっ倒したし、普通にこいつらの相手に戻るわよ。風音、剱原。剱原は早くこっち戻って来なさい」
「え? あ、ああ・・・・・・」
キベリアと響斬の方を向いた真夏が、そう言葉をかけた。真夏の言葉を聞いた刀時は、振り向いてそう声を漏らす。確かに真夏の言う通りだ。敵はまだ残っている。
「ふはっはっは! 残念だったわね、闇人ども! あんたらの希望は潰えたわ! さあ、観念しな――」
「アホね、あんたら」
真夏が、蝙蝠扇子をビシリとキベリアたちに突きつけながら、高笑いを浮かべていると、キベリアがため息を吐きながらそう言葉を割り込ませてきた。
「は? 誰がアホですって?」
キベリアにアホ呼ばわりされた事に苛立ったのか、真夏が表情を真顔に変える。
「アホはアホよ。私たちでも首を斬られたくらいじゃ死なないのに、その方が首を斬られて、体に穴を空けられたくらいで死ぬわけないじゃない」
「ははっ、違いない」
キベリアは当然の言葉のように、真夏に向かってそう説く。キベリアの言葉に、隣の響斬も笑って頷いた。
「? どういう事よ、あのロリの血は赤かった。なら、闇人じゃない。闇人じゃないのに、首刎ねられて死なないって、そんな訳――」
「・・・・・榊原さん、おかしいです」
真夏が意味がわからないといった感じの表情を浮かべていると、風音がそんな事を言ってきた。
「おかしいって・・・・・・何がよ?」
「私はさっきからずっとあの剱原さんの方向の方を、【あちら側の者】を見ていました。首が飛んで、宙に舞い、首はそのまま真っ直ぐに下に落ちていったはずなのに・・・・・頭が落下した音が聞こえないんです」
「っ!?」
風音の抱いた疑問。それを聞いた真夏の表情が驚愕へと変わった。
シェルディアの切断された首は、刀時の一撃が強烈だった事もあり、天高く宙に舞った。当然舞った首は地上へと落ちてくる。風音はシェルディアの首をずっと見ていた。刀時が振り返った辺りで、シェルディアの首は落下の軌道を描いた。首は真っ直ぐ下に落ちてきたが、風音の位置からは刀時が邪魔で地面に落下するところまでは見えなかった。
それでも高度から落ちたならば、それ相応の音はするはずだ。ましてや、人間と同じ首。おそらく5キログラムくらいの重さはあったはずだ。ならば、ドサッとしたような音がしなければおかしい。
だというのに、そのような音は未だに全く響いてはいないのだ。
「剱原! 今すぐ後ろを確認しなさい!」
真夏が刀時に向かって叫ぶ。刀時はまだ先ほど首を斬った位置から動いていない。つまり、まだシェルディアのすぐ近くにいるのだ。
「後ろ・・・・・? あんまり首がない死体みたくないんだけどよ・・・・・・・・」
「いいから見なさい! そうか、位置ずれろ! こっからじゃ、あんたが邪魔でロリが見えないのよ!」
「分かった、分かったって! ったく、子供の首なし死体なんかマジマジ見たら、夢に出そうだからあんまり見ないようにしてたんだけどな・・・・・・・」
叫ぶ真夏にそう言葉を返しながら、刀時は仕方なく後ろを振り返った。そこにあるのは、少女の首なし遺体だけ。それだけのはずだ。
だが、
「ばぁ」
「ッ!? う、うおおおおッ!?」
振り返ってみると、そこには自分の首を持ったシェルディアが刀時を驚かすように立っていた。その普通はありえないホラーな光景を間近に見た刀時は、思わず後ずさった。
「ふふっ、いい驚きっぷりだわ。首を斬られた甲斐があったかしら」
シェルディアは生首だけの状態で、ニコニコと笑いながらそう言うと、自分の頭を切断された箇所に戻した。すると、まるで嘘のように傷口が塞がり、首は元通りに繋がった。
「は、はあ!? あのロリの体はどうなってんのよ!? ビックリドッキリ化け物ロリか!?」
「ッ、やっぱり首を刎ねた程度じゃ・・・・・」
信じられないものを見るような真夏と、あまり驚いてはいない風音。2人の視線は再びシェルディアへと釘付けになる。
「あら、服に穴が空いてるわ。ああ、そっか。さっきの光線のせいね。随分と久しぶりに攻撃を受けた、受けてあげたから、その事は失念してたわね」
シェルディアは自分の服を見て、軽くため息を吐いた。ゴシック服には10個の穴が空いている。自分の穴を空けられていた部位は、もう完全に再生されているが、服まではそうはいかない。久しぶりすぎて、シェルディアはその事を忘れていた。
「風音の攻撃も完全に治ってるし・・・・・ていうか、あんた何で普通に動けてんのよ!? 私の呪符はまだ機能してるはずなのに!」
「ああ、動けないって言ったのは嘘よ? この程度の呪いで私が動けないなんて事はないわ。さっき言ったでしょ、動かないでいてあげるって」
真夏の呪符は変わらずにシェルディアの全身に貼り付いている。
だが、真夏の問いかけに、シェルディアは首を傾げながらそう答えた。それがまるで当然の事であるかのように。
「な、何なんだよ・・・・・・お前はいったい、何なんだ・・・・・・・・・!?」
シェルディアの近くにいた刀時が、警戒と恐怖を綯い交ぜにしたような表情を浮かべる。警戒から刀を構え直した刀時に、シェルディアは優然とした笑みを浮かべてこう言った。
「ただの不老不死者よ、こちらの世界ではね。それより、やっぱり面白くはないから、終わりにさせてもらうわ」
「ッ、来るなら来やがれ! 死なないなら、死ぬまでぶった斬って――」
刀時は気迫のある声でそう言おうとした。
だがしかし、刀時が最後まで言葉を述べる事は出来なかった。
「うるさいわね、寝てなさいな」
シェルディアはほとんど視認できない速度で、刀時との距離を詰めると、刀時の腹部に右の拳を放った。
「がっ・・・・・・!?」
ドンッと鈍い音が響き、刀時がその場に崩れ落ちる。崩れ落ちた刀時はその一撃で気を失った。そして気を失った事により、刀時の変身は解除された。
「剱原!?」
「剱原さん!?」
倒れた刀時の心配をするように、真夏と風音が声を上げた。
「そんな声出さなくても殺してないわよ。ただ、気絶させただけだから。私が光導姫と守護者を殺すのはフェアじゃないし」
心配する2人に、シェルディアはそう言った。シェルディアの殺す云々がフェアじゃない発言は、2人には意味が分からなかったが、とりあえず2人はホッと息を吐いた。
「ごめん、風音。あんたの言う通り、あのロリやばいわ。剱原が一撃でやられたし・・・・・気合い入れなおすわ」
真夏の表情が真剣なものに変わる。刀時は守護者ランキング3位の実力者だ。その刀時が一言で気絶させられた。相当以上の実力者でなければ、そんな真似は不可能だ。
「はい。榊原さん、こうなったら大技で一気に攻撃しましょう。この状況、私たちの力の残量的に、チマチマ戦う方が負け濃厚です」
「まあ、それが1番いいか・・・・・・分かったわ。風音、合わせるわよ!」
「はい!」
風音の作戦に真夏は頷いた。2人はそれぞれ、自身の力を練り上げていく。
「全式札、寄り集いて龍神となる!」
「我が呪よ。我が
風音の10の式札が全て集い、荒ぶる龍が顕現する。真夏の後ろに黒い門が顕現し、その中から巨大な骸骨の妖怪が現れる。龍神は荒い息を吐き、巨大な骸骨はカタカタと音を鳴らしながら、その眼窩をシェルディアへと向けた。
「龍神の息吹よ!」
「がしゃ髑髏、
風音と真夏の命令を受けて、荒ぶる龍神と巨大な骸骨がその顎門を開ける。龍神の口元には白い光が、巨大な骸骨の口には黒い光が集まっていく。
「綺麗な光ね。白と黒のコントラストも素敵よ」
龍神とがしゃ髑髏の光を見たシェルディアは、危機感の欠如した声音でそんな言葉を漏らす。シェルディアがそう呟いている間にも、全てを消し去る光は大きくなっていく。
そして、その黒と白の光は最大限の大きさとなった。
「「行けッ!!」」
風音と真夏、2人の掛け声と同時に龍神と巨大な骸骨の光は放たれた。放たれた白と黒の浄化の力を宿した奔流は、真っ直ぐにシェルディアへと向かっていた。
光導十姫2人による、最大浄化技クラスの大技。おそらく、最上位闇人とてまともに受ければ8割型浄化されるだろう。
「いい光の力だわ。あなたたち、気配でもある程度分かってたけど、強いみたいね」
放たれた光の余波によって世界が揺れる。そんな光の奔流が迫って来ても、シェルディアはただ優然と、超然とした態度のままだ。
シェルディアに迫る白と黒の2つの光の奔流。もうシェルディアは光に飲み込まれる、そう思われた。
「――まあ、人間にしてはだけど」
しかし、結果はそれとは全く違うものに、ありえない光景を世界に映す。
シェルディアは両手を前方に突き出し、左右それぞれの手を白と黒の光の奔流に当てた。
シェルディアはそれらを掴んだ。
そして、その掴んだ光の奔流を、握り潰した。
風音と真夏が放った光の奔流は、綺麗さっぱりに消滅した。
「は・・・・・・・・・・?」
「え・・・・・・・・・・?」
ふざけた光景に、真夏と風音の口からついそんな声が漏れる。こんな時、戦場だというのに、2人の口はポカンと開いていた。
「ふふっ、ちょっとヤンチャしちゃったかしら」
「「ッ!?」」
意味の分からない事に次の瞬間、風音と真夏のすぐ後ろから、シェルディアの声が聞こえてきた。1秒前まで確かに自分たちの視界にいたシェルディアが、いつの間にか視界から消えている事に、2人はいま気がついた。
「ちょ、訳が――!?」
真夏は混乱していた。だが、敵が自分の背後にいるならば、振り向かなければならない。真夏は反射的に振り向こうとしたが、
「あなたもお休みなさい」
それより速く、シェルディアは真夏の首元に神速の手刀を当てた。
「あ・・・・・」
そして、その手刀により真夏も気絶し地面へと倒れ伏せた。気を失った真夏は、刀時と同じく変身が解除され、真夏によって召喚された巨大な骸骨も、光の粒子となって消え去った。
「榊原さん!? くっ、龍神よ、我が敵を討て!」
ついに1人になってしまった風音が、龍神に攻撃の命令をする。風音の命令を受けた荒ぶる龍神は、その凶悪といっていいほどに鋭い爪をシェルディアに向かって振るった。
「無駄よ、この間合いならわざわざそんな子を相手にする必要もないわ」
シェルディアはひらりと龍神の爪を避けると、再び姿を消した。
「だって本体を叩いた方が早いもの」
「ッ!?」
シェルディアは風音の後ろに出現すると、風音の背中に組みついた。
「これで詰みよ。あなたはもう何も出来ない。あなたが攻撃の素振りを見せる前に、私があなたをどうとでも出来るから」
「くっ・・・・・・・・・!」
風音はシェルディアの言葉に悔しげな表情を浮かべた。全くもって、シェルディアの言う通りだったからだ。龍神も風音の後ろにシェルディアがいるため、攻撃する事は出来ない。よしんば攻撃しようとしても、その前に風音は気絶させられるだろう。
「ふふっ、大丈夫よ。殺しはしないって言ったでしょ? まあ、本当に気に入らない人間がいたら殺すんだけど、あなたたちはそこまではいかないし。でも、対価はいただくわ」
「た、対価・・・・・・・?」
「ええ、赤い甘美な液体をね」
シェルディアは風音の首元に自分の顔が来るように(2人には中々の身長差がある)、風音の体を自分にもたれかかせるように調整した。
そしてシェルディアは普段は隠している鋭い犬歯を剥き出した。
「知ってる? 神職の血を引く女――巫女の血は、普通の人間の血より摂取できるエネルギーの量が多いの。だから、ちょっとだけあなたの血を頂くわ」
「私の血・・・・・・? ッ・・・・・・・ま、まさか、あなたの正体は・・・・・・・・・・!」
シェルディアの今の発言。それに普通の人間より遥かに鋭い歯。不老不死。それらのキーワードから連想される怪物は1つしかない。
すなわち――
「吸血鬼・・・・・・なのッ!?」
「ふふふふっ、それもこちらでの私の名の1つね。じゃあ、そろそろ頂こうかしら」
少女の姿をしたモノは、風音の言葉を肯定すると、その牙を風音の首元へと埋めた。
「うっ・・・・・・・・・・」
首元に牙を突き立てられた風音は、一瞬痛みを感じたが程なくして気を失った。
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