第119話 歌姫オンステージ(6)

「4の氷、氷弾へと変化する!」

 自分に近づいて来るアイティレと光司に向かって、キベリアは氷の弾丸を複数発射した。

「私に氷を使うか。だが・・・・・!」

 アイティレは自分に向かって来る氷の弾丸を両手の銃で迎撃した。弾丸と氷弾は激突し、それぞれ軌道が逸れていく。

「これくらい・・・・・・・・!」

 光司も自分の剣で氷弾を迎撃していく。2人とも駆けながら氷弾を迎撃しているので、キベリアとの距離は更に縮まっていった。

「ちっ、行きなさい!」

 キベリアは箒に乗って距離を取りながら、鋼鉄の飛竜を2人へと差し向けた。鋼鉄の飛竜は金属が軋むような鳴き声を上げながら、アイティレと光司へと襲い掛かった。

「無駄だ。氷でないのならば――」

 飛竜が鉄の顎を開ける。アイティレか光司を食い千切ろうという魂胆だろう。そんな飛竜に向かって、アイティレはあえて一歩を踏み出した。

 鋼鉄の飛竜の顎がアイティレから半径1メートル以内の距離に入る。

 その瞬間、鉄の飛竜は何の前触れもなく凍った。

「ッ!?」

「私の距離に入ったモノは全て凍る。仲間の闇人から聞いていなかったのか?」

 驚くような表情を浮かべるキベリア。アイティレはチャンスとばかりにキベリアに銃撃を行う。

「聞いてないわよ・・・・・!」

 キベリアは銃撃から逃れるために、箒を縦横無尽に踊らせた。キベリアの巧みな箒捌きもあり、銃弾はキベリアの肉体には当たらない。しかし、このままではジリ貧だ。

(全くあの飛竜創るのにけっこう魔力使ったっていうのに・・・・・・・・! 響斬の方は・・・・・・・・ダメね、当たり前だけど、あの守護者の相手で精一杯って感じだわ)

 銃弾を空中で避けながらキベリアはチラリと響斬の方に視線を向ける。響斬はかなり劣勢といった感じで、変わらずに和装の守護者の相手をしていた。正直、10秒くらいでやられると思っていたので、かなり粘っている方だろう。

「はああっ!」

「ッ、邪魔よ!」

 キベリアがアイティレの銃撃を必死に回避していると、光司が跳躍してキベリアへと斬りかかってきた。キベリアは光司の斬撃を紙一重で避けると、右足で蹴りを1発光司にお見舞いした。しかし、光司はキベリアの蹴りを左腕で受け止める。そのためダメージをほとんど受けずに光司は、地面へと落下していった。

「第1式札から第8式札、光の矢と化す!」

攻撃の歌ストライクソング――」

「爆呪符、散!」

 キベリアが光司に蹴りを防がれた次の瞬間、キベリアに向かって8条の光線が、不可視の衝撃を与える歌が、6枚の呪符が突如として飛来した。

「なっ・・・・・・!?」

 その攻撃にキベリアの表情が驚愕と焦燥に歪む。その攻撃を行なって来たのは、騎士や鳥たちに相手をさせていた3人の光導姫だ。まさか、自分が召喚したモノたちがもうやられたというのか。

「9の闇、全てを飲み込む暗穴へと変化する!」

 キベリアは反射的に右手を前方に突き出し魔法を使った。キベリアの右手を基点として、人が1人収まるようなサイズの暗穴が出現する。その暗穴は、8条の光の光線も、不可視の衝撃も、6枚の呪符も全てを吸い込み飲み込んだ。

(今のは危なかったわ・・・・・・・・でも、やっぱりあいつらが攻撃して来たって事は・・・・ああ、クソッ。流石は最高位クラスの光導姫どもね。私の上位クラスの持ち駒がもうやられてるわ)

 内心キベリアは舌打ちをする。戦場全体を見てみると、キベリアが呼び出したモノたちは全て消失していた。

「――そうら、お手手とお別れしなよ」

 ザシュ、と何かを斬るような音が響いた。キベリアは視線をその音の発生した場所、刀時と響斬の方へと向ける。

「っ〜〜!? 痛っって・・・・・!『装斬そうき』の方だったか、択ミスッたなー・・・・・・・!」

 見てみると、響斬は左腕を和装の守護者に切断されていた。響斬の前腕辺りが地面に転がっている。どうやら先ほどの音は響斬の腕が斬られた音だったようだ。

「ッ・・・・・? 何で俺の技の名前を知ってるんだ? あんた、そういえばさっきから俺の技にギリギリで反応してたが・・・・・・・・」

「さ、流石に今の状況で答えはしないかな・・・・!」

 響斬は黒い血を腕部から噴き出しながら、全力のバックステップで刀時から距離を取った。

「情けないわねあんた。腕落とされてるじゃないのよ」

「キ、キベリアくんは鬼畜だなぁ・・・・・そ、そんな事より腕治してくれないかい? 本当、めちゃくちゃ痛い・・・・・・・」

 響斬が刀時や光導姫たちから距離を取った場所に、キベリアは箒で移動した。

「ちっ、あんたに私の貴重な魔力なんか使ってやりたくはないけど、仕方ないわね。――8の生命、彼の者の腕を治癒せよ」

 キベリアは舌打ちをしながらも、魔法を行使する。キベリアが左手を響斬の左腕へと向けると、暖かな黒い光が響斬の切断された左腕を包んだ。すると3秒後、響斬の左腕は刀時に切断される前の状態に戻っていた。

「ありがと、キベリアくん。腕が斬られたくらいじゃ僕らは死なないけど、やっぱり戦力は大幅に下がるからね」

 響斬はキベリアに感謝の言葉を述べながら、両手で刀を握りしめた。闇人は力を封印されている状態でも浄化以外で死にはしない。それは力を封印されていても、闇人は闇人というカテゴリーに属するからだ。何なら、力を解放した状態よりもかなり時間は掛かるが、自然治癒で切断された腕も生えて来る。だが、戦いの場でそんな時間は取れないし、片腕だけでは満足に戦う事も出来ない。そういった理由から、響斬はキベリアに治癒を依頼した。

「死ぬ気で私に感謝しなさいよ。と言っても、状況は変わらず尋常じゃないくらい劣勢だけど・・・・・」

 キベリアは厳しい視線を光導姫たちへと向ける。自分の上位クラスの持ち駒はもう既に倒され、その他の魔法の行使などもあり、キベリアの魔力はもう半分ほどになっている。今の調子で魔法を使い続ければ、キベリアの魔力はすぐに尽きるだろう。そうなれば、いよいよ自分たちは終わりだ。

「『侍』、『騎士』、もう1度突撃するぞ。『巫女』、『歌姫』、『呪術師』は今度はサポートを頼む。この人数差、加えてあの男・・・・・恐らく闇人だろうが、奴はそれ程強くはない。この攻防でキベリアとあの男の闇人を浄化し、レイゼロールを追う」

「2度もリーダー面しないでよ。まあ、作戦に異論はないから従ってあげるけど」

 アイティレの指示に真夏だけは相変わらず不服そうな顔を浮かべたが、結局はアイティレの指示に頷いた。もちろん他の4人は先ほどと同様アイティレの指示にすぐに了解の意を示す。

(・・・・・・本気でどうする? さっきみたいに騎士を召喚したところで、オチは見えてる。それこそさっきと同じよ。ただただ、魔力が減っていくだけ。くそ・・・・・・・せめて、せめて人数差がもう少しマシになれば――)

 キベリアが内心そう思考していた、そんな時だった。

 ザッザッザッザッ、と何かが歩いて来るような音が聞こえて来た。

「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」

 その場にいた全員が音のする方向に顔を向ける。音は釜臥山の上の方向から聞こえて来る。

 そして月明かりがその音の発生源――レイゼロールによって創造された無数の闇色の骸骨兵の姿を明らかにさせる。骸骨兵たちは光導姫や守護者たち、キベリアや響斬の方に近づいて来るにつれ、ケタケタとした歯を鳴らすような不快な音を響かせた。

「ッ!? あれは・・・・・!」

「レイゼロール様の造兵・・・・・・・・・! さっすがレイゼロール様だわ。あの無茶苦茶な見た目詐欺ゴリラとは違って、部下思い・・・・・!」

 その骸骨兵を1度見た事があり知っている光司と、元々骸骨兵の事を知っていたキベリアが1番に反応を示す。なお、キベリアの言葉を聞いていた響斬は「いや、キベリアくん。安心からだろうけど、今きみマジでヤバい言葉口走ってるぜ・・・・?」と言って、血の気の引いたような顔を浮かべていた。

「皆さん! あれはレイゼロールの召喚する闇のモノです! 僕は前回見たことがあります!」

「ちっ、レイゼロールめ・・・・・・・・! 妨害をして来たか!」

 光司は仲間たちに骸骨兵の正体を伝える。光司から骸骨兵の正体を聞いたアイティレは注意を骸骨兵たちの方に向けた。

「!」

 敵の姿を視認した骸骨兵たちは(目がないのに視認とは表現としては正しくはないかもしれないが)、各々武器に明確な殺意を乗せながら、アイティレたちに襲い掛かっていった。

「はあ!? 何なのよこいつら! 何かいい感じの見た目してるのが腹立つ! ええい、邪魔よ雑魚ども!」

「キレるところそこかよ!? ったく、やっぱりお前はよくわからねえな榊原!」

 襲いかかって来る骸骨兵たちに対処するために、真夏は呪符を飛ばし、刀時は刀を振う。そんな2人に続くように、残りの者たちも迎撃行動に移った。

「どけ、貴様らに構っている暇はない!」

「第1式札から第10式札、光の矢と化す!」

攻撃の歌ストライクソング――!」

「はあああああッ!」

 アイティレの浄化の力を宿した銃弾が、風音の10条の光線が、ソニアの不可視の衝撃を対象の敵に与える歌が、光司の斬撃が骸骨兵たちを屠っていく。

「って、こいつら見た目雑魚の癖にしぶとっ!? 中々死なないだけど!」

「つーか、普通に1体1体まあまあ強いのもあるな! かーっ、厄介な事この上ねえ!」

 だが真夏や刀時が愚痴ったように、この骸骨兵は見た目の割には1体1体がかなり硬く強い。どこぞの怪人は、レイゼロールとの戦いの時にこの骸骨兵を文字通り雑魚のように処理していったが、それはあの怪人野郎が少しおかしかっただけである。

「よし、これなら・・・・・・・・多少は私たちが生き残れるっていう、勝ちの目が出てきたわ」

「ああ、そうだね。ぶっちゃけ、この援軍がなかったら僕ら浄化されてただろうね。やっぱり、シェルディア様の言った事は無茶だったなー・・・・・」

 1体1体が強固な骸骨兵の軍団。その登場により、光導姫と守護者のロックが外れたキベリアと響斬は、とりあえずホッと一息ついた。

「でも、このままあの造兵に任せっきりってわけにはいかないよね? 僕たちの役割はあくまで時間稼ぎ。レイゼロール様が探し物の確認を行うまでは、僕たちはここであいつらを引き留めなきゃならない」

「分かってるわよ。あいつら寄ってたかって私1人苛めるもんだから、どいつか1人くらい殺したいけど・・・・・・」

「いや、君そんなにいじめられてないじゃん。それ言うなら僕1回左腕落とされてるんだぜ・・・・・?」

「そんなんは知らないわよ。うーん、殺すなら光導姫よりも守護者の方が楽だけど・・・・・・・・あ、そうだ」

 キベリアは何かを思いついたように、響斬の方を見てきた。響斬は何故か嫌な予感がした。

「響斬、あんたあの和装の守護者との身体能力差どれくらいまで縮まれば殺せそう? 同倍率とかの答えはなしね」

「・・・・・・・・・そのニコニコ顔が恐いぜキベリアくん。でもそうだな・・・・・・・あの剱原流の守護者くん、腕はかなりのものだし、実戦慣れもしてる。だから強いって話なんだけど・・・・・・・・真剣同士のやり合いはまだ慣れてない。まあ、そればっかりは仕方ないと思うけどね」

 響斬は刀時に対する分析を行いながら、その目を軽く見開く。

「――3倍。僕の身体能力があと3倍上がれば、今の腑抜けた僕でも殺れる可能性がある。それが身体能力差の最低倍率だね」

「ふーん、そう。なら、私の貴重な魔力を使ってあんたの身体能力を3倍まで上げてあげるわ。この状態なら、あんたが1人あの守護者に斬りかかっても、そんなに邪魔はしてこないでしょうし」

 キベリアはそう言うと、自分の左手を響斬へと向けた。

「8の生命、彼の者の身体を活性化させる」

 キベリアの左手から放たれた黒い光が響斬の体を包み込む。響斬は自身の身体から力が湧き上がってくるのを感じた。

「きっかり3倍、あんたの身体能力を上げたわ。私は後方からチビチビ攻撃しとくから、行って来なさい」

「ありがとう。ところで1つ思ったんだけど・・・・・・最初から僕の身体能力上げといてくれればよかったんじゃないかい?」

 響斬が最もな疑問をキベリアにぶつけた。するとキベリアは心底嫌そうな顔を浮かべた。

「はあ? 何で私の魔力を最初っからあんたにやらなきゃいけないのよ。今はあの光導姫と守護者どもに腹立ったから、特別に魔法を掛けてあげただけよ」

「わーお、理由がひどい・・・・・なっ!」

 響斬はそう言葉を返すと、刀を右手で持ちながら骸骨兵と戦っている光導姫と守護者の方へと駆けて行った。

「我流、剣術。『臥斬がざん』」

 そして響斬は骸骨兵たちと戦っている刀時の背後から、低姿勢から右の逆袈裟の剣撃を放った。

「ッ!?」

 背後からの殺気に気がついた刀時は咄嗟に体を反転させて響斬の一撃を刀で防いだ。

「剱原さん!? 待ってください私も援護に!」

「手出しは無用だ風音ちゃん! この闇人のレベルはたかが知れてる! 俺1人でも対処は可能だ!」

 骸骨兵を捌きながら、刀時の方に合流してこようとする風音に、刀時はそう声を張り上げる。そんな刀時に響斬は軽い笑みを浮かべながら、こう言葉を放った。

「言ってくれるね。確かに今のぼかぁたかが以下のレベルだけど・・・・・・・・こいつは戦いだ。舐めてると何が起こるか分からないぜ?」

「ご忠告、どうもありがとうよッ!」

 刀時は響斬の刀を弾くと、左足の蹴りを響斬に放った。しかし、響斬はその蹴りを読んでいたようにその蹴りを回避する。

「全く、古流はやっぱり足癖が悪いな。まあ、僕も人の事は言えないけど」 

「・・・・・・あんたさっきから色々と気になること言ってるが・・・・・・・・・・って、やっぱ邪魔だなこいつら!」

 自分に襲いかかって来る骸骨兵を斬り伏せながら、刀時はそう愚痴をこぼす。一瞬骸骨兵たちがやって来た山の上部を見てみると、骸骨兵たちはまだまだこちらへと向かってくる。最悪だなと刀時は思った。

(この場にいる全員は一応最上位だから、骸骨兵どもが強いっていってもぶっ倒せてる。だけど、骸骨兵どもの物量が多すぎる。このままだとレイゼロールを追う事なんて出来ないぞ)

 焦燥の気持ちが刀時の内から浮かび上がる。刀時たちの本来の任務は、レイゼロールの追う事。またはレイゼロールの目的の妨害だ(目的物があればといった任務もこの中に含まれる)。しかし、このままだとその本来の任務を果たす事など出来はしない。

「――ここかな」

「ッ、何がだよ!」

 骸骨兵たちに対処している刀時に響斬が再び斬りかかる。刀時はその斬撃を回避したが、今度は骸骨兵が回避行動を取った刀時に剣で斬りかかった。

「クッソ、こうなったら・・・・・・・!」

 刀時は周囲の骸骨兵に嫌気がさし、一掃するべく刀を鞘に戻した。そして重心を更に低く(刀時の剱原流は古流なので、重心は元々低い)して、刀時は再び刀を抜刀した。

(剱原流居合術、『斬円ざんえ』)

 刀時が心の中で技名を呟く。刀時は抜刀した刀を自分の前方、半円月状に振るい、体を1回転させた。回転した事により、刀時の後方から攻撃しようとしていた骸骨兵にも斬撃が加わる。

 刀時の真一文字の剣撃は、その技名が示すように円の軌跡を描いていた。その刀の届く範囲にいた骸骨兵たちは全てその骨の体を真横に両断された。

「ま、ここでそれだと思ってたよ」

「なっ・・・・・」

 刀時が回転を終え、硬直した一瞬の隙。響斬はそこを狙い右袈裟の斬撃を振るう。

 まるで刀時の技の弱点を知っているかのような、完璧なタイミング。響斬の一撃は遂に刀時に届いたかに思えた。

 が、

「とでも言うと思ったかい?」

「ッ!?」

 刀時はニヤリとした笑みを浮かべ、刀を逆手に持ち替え、そのまま刀の柄頭を左手で押さえながら、斬りかかってきた響斬に高速の突きを繰り出した。

(剱原流剣術、『突窩とっか。こいつは放った後の隙がでかい『斬円』から繋げられる技だ。あんたはやっぱり剱原流ウチの技をなぜか知ってるみたいだが、この『斬円』から『突窩』の流れは秘伝。知りはしないだろ!)

 響斬の斬撃よりも刀時の刺突の方が速い。響斬も反応から見るに、やはりこの一連の攻撃の流れは知らなかったのだろう。

 そして刀時の刺突は響斬の心臓を正確に穿った。

「何て、知らないとでも思ったかい?」

 ――はずだった。 

 響斬は刀を握っていた左手を即座に離すと、その左手で刀時の左腕を握った。そして響斬はそのまま思いっきり刀時の腕を握りながら、自分の左手を押し込んだ。

「っ!? 嘘だろ・・・・・・!?」

 その結果、刀時の刺突は響斬の体から大きくそのコースが外れる。刀時の刺突は響斬の左の脇腹を少し切り裂くだけに止まってしまった。

「もちろん、これで終わりじゃないよ」

 響斬は刀時の左腕をそのまま押し込みながら、自分の右足で刀時の左足を内側から払う。その結果、刀時は完全に重心がぐらつき、姿勢を大きく崩した。

「ちょっとばかり痛いけど我慢しろよ、男の子だろ? ――我流、組合剣術。『首斬くびきり』」 

 響斬は少しだけ嗤うと、まずは隙だらけの刀時の左の顳顬こめかみ、そこに右手で握っていた剣の柄頭を思いきり叩きつけた。

「〜〜っ!?」

 激痛が刀時を襲う。しかし、激痛はそれで終わりではなかった。響斬は今度は刀時の左腕を握っていた自身の左手を外すと、刀時の髪を掴んだ。そして刀時の髪を思いきり下に引くと、刀時の顔面に左膝による一撃をぶちかました。

「ぶっ・・・・!?」

「ごめんごめん、すぐ介錯するから許してくれよ」

 派手に鼻血を噴き出す刀時に響斬はそう告げると、今度は刀時の髪を引っ張り上げた。必然上を向く刀時、そしてその状態は首が伸びた状態だ。響斬は右手に持っていた愛刀を刀時の首に目掛けて振るった。これで数秒後には、この守護者の首は胴体とお別れしている事だろう。

(上手く決まってよかったなー・・・・・)

 刀時の首に向かって刀を振るった響斬は、内心ホッと息を吐いた。

 過去に何度か戦った事のあった剱原流の剣術を響斬は知っていた。ゆえに、響斬はキベリアに身体能力を上げてもらうまでの刀時との攻防で数十秒は耐える事が出来たし、刀時の技の弱点も、『斬円』から『突窩』の流れも知っていたのだ。

(周囲に骸骨兵が多くいたから、あの回転する居合いはやって来ると思った。で、僕がそこをつけば、この守護者はあの刺突をしてくるだろうって事も読めてはいた。だから、ぼかぁこうやってカウンターを決める事が出来たんだ)

 ただ、カウンターを決めるためには1つだけ問題があった。それは響斬の反射速度だ。当然ながら、刺突が来ると分かっていてもそれに反応出来なければ意味がない。

 その反射速度の解決方法が、キベリアの魔法による自身の身体能力の強化だった。キベリアの身体能力の強化の中には、当然反射速度の強化も含まれている。そして、刀時の刺突にギリギリ反応できるであろう反射速度の倍率が3倍だと、響斬は考えていたのだ。

(結果は大成功で、最低倍率も予想通り。その他にも色々な事が噛み合ったけど、とりあえず1人は最上位を殺せた。今の僕の結果としちゃ、上々でしょ)

 今から人を殺すというのに、響斬には何の感情もない。しかし、それは当然だ。響斬が生まれた時代は戦や合戦がたくさんあった。そこでは人を殺すのなんて当たり前。敵を殺すのが普通。響斬も人間時代と闇人時代も含めて、もう数え切れないほど人を殺して来た。別に今更人間を殺すのに抵抗なんてものは無い。

「「剱原さん!?」」

「バカ何やってんのよ!?」

「『侍』! ちっ、どけ貴様らッ!」

「ッ!?」

 刀時の窮地に気がついた他の光導姫や守護者たちが叫ぶように声を上げる。風音と光司は絶望したように刀時の名を呼び、真夏とアイティレは驚きながらも刀時の元に駆けつけようとする。唯一、ソニアだけが歌っているため、刀時の身を案じるような言葉を出せなかったが、表情は驚愕と絶望が入り混じったようなものになっていた。

「いいわ! そのまま殺っちゃいなさい!」

 キベリアが嬉しそうな声を出しながら笑顔を浮かべた。これで多少はイライラがましになるだろう。

(・・・・・・・・・ははっ、こりゃ死んだな。情けねえ、敵を舐めて死ぬなんて、馬鹿もいいところだぜ・・・・・)

 死の気配がすぐそこに迫っているのがわかる。死の間際、刀時が思った事は自分の不甲斐なさに対する怒りであった。

 響斬の刀が刀時の首に触れる。刀時の首から少量の血が噴き出し、後は首が切断される。誰もがみな次の光景を予想していたその瞬間、

 幾条もの闇の鎖が虚空から出現し、響斬の右手と刀を縛った。

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