第116話 歌姫オンステージ(3)

「・・・・・・? あの、俺に何か用ですか・・・・・・・・?」

 突然何者かに自分の手首を掴まれた影人は、訝しげな表情を浮かべながら、そう言った。自分の手首を掴んできたのは、どうやら同年代の少女のようで、白いキャップを被り、メガネを掛けたその少女は、オレンジ色に近い金髪が特徴的だった。

「え? ま、前髪長っ、こ、これじゃあ顔が・・・・」

 振り返った影人の顔を見たソニアは、驚き焦ったようにそう呟く。久しぶりに会った影人は、前髪に顔の半分が支配されていて、全く顔が分からない感じになっていた。おそらく、彼がソニアの記憶にいる帰城影人なのは間違いないのだろうが(名前などから考えるに)、いかんせん顔という1番の決め手が見えないので、ソニアにはこの少年が帰城影人であるという確証は持てなかった。

「し、知り合いかい影人? それとも、君が何か落としたとか・・・・・?」

 影人の隣にいた暁理が驚いたように目を瞬かせる。見たところ、影人の手首を掴んできた少女は自分たちと同年代。そして、ここは影人の母校でもあるので、影人と同じようにお祭りを訪れた当時の知り合いなのでは、と暁理は考えていた。もしくは今いったように、影人が何かを落として、それを見ていたこの少女がそれを拾ってくれたのかと。

「いや、別に何も落としてないと思うが・・・・・・で、すみません、ご用は結局なんでしょうか?」

「あっ、ええと、その・・・・・・・・す、少し確認させて欲しいんですけど、あなたのフルネームは・・・・?」

 未だに自分の手首を掴んでいる少女に、影人は再びそう問いかけるが、少女は何かに戸惑ったようにそう質問を返して来るだけだった。

「・・・・・・? 帰城影人ですけど・・・・・・・・・」

「ああ、やっぱり・・・・・・・・・あの、ちょっとだけこっちに来てください!」

「は? って、ちょっと!?」

 影人の名前を確認した少女はそう呟くと、突然影人の手首を掴んだまま走り始めた。影人は意味不明の事態に驚きそう声を漏らすが、手首を少女に掴まれているため、必然、影人も少女に釣られるように走らざるを得なかった。

「え、影人!? ちょっと、君なんなのさ!」

 いきなり目の前で友人が謎の少女に連れて行かれた暁理は、そう叫びながら少女と影人の後を追った。影人の手首を掴んだ少女は、先ほど暁理が行こうと言っていた体育館の方へと向かっていく。

 そして、少女と影人は体育館の横の細い道へと曲がっていった。

「はあ、はあ・・・・・で、いきなり僕の友人を連れ去って何なんだい君は? 事と次第によっちゃ、僕は何するか分からないよ。幸い、君が来たここは人の目もないしね」

 暁理は、彼女にしては珍しく怒ったような顔で静かにそう言った。心なしか、目も据わっている。しかし、それも当然だ。暁理の大切な少年が連れ去られようとしたのだ。暁理は警戒と怒りを隠さなかった。 

 少女と影人を追って暁理がたどり着いた場所は、いわゆる体育館裏という場所だった。今日はお祭りという事もあって、体育館内は多少騒がしいが、ここは至って静かで周囲には自分たち以外人は誰もいない。ゆえに、少女が何かしようものならば、手荒な選択を取る事も不可能ではない。

「いや、私は別に彼に乱暴な事をしようとかは思ってないの! ただ、あそこは人の目があったから、キャップとメガネを取れなくて! だから、人目がないこの場所に来たってだけ!」

 ソニアは焦ったように暁理にそう弁明した。ソニアからしてみれば、あそこで変装を解いて影人と話をすれば、周囲は自分に気がつくと思ったので、人が少ないだろうこの場所に移動しただけなのだが、事情を知らない暁理からしてみれば、ソニアの言っている事は意味不明だった。

「はあ? 君はいったい何を言ってるんだ? 影人、さっさと手を振り解きなよ。今なら出来るだろ?」

「いや、別にそうなんだが・・・・・・・」

 なぜか暁理から睨まれた影人は、困惑したようにそう言った。確かに今ならば、影人は少女に握られている手首を解けるだろうが、影人は少女から別段悪意も害意も感じなかった。そのため、積極的に手首を振り解く気も、影人はあまり起こらなかったのだ。

 ちなみに、影人が知る由もないが、暁理が影人を睨んでしまった理由は、影人が自分以外の女性に長時間(暁理の主観で)触れられているから、といったもので、何とも可愛らしい理由である。

「あっ、ごめんなさい! ずっと握りっぱなしで! 後ちょっと待って! 今、変装解くから・・・・!」

「「変装・・・・・・・・?」」

 慌てたようにずっと握っていた影人の手首から自身の手を離し、そう言った少女の言葉に、影人と暁理が疑問の表情を浮かべる。2人が見つめる中、ソニアはキャップとメガネを取った。

「は・・・・・・・・・・・・?」

「え・・・・・・・・・・・・?」

 少女の普段の姿が露わになる。オレンジ色に近い長髪の金髪に、整った顔立ち。キャップとメガネを取っただけで、彼女の華やかなオーラが解放されたように感じられた。

 影人と暁理は、放心したように声を漏らす事しか出来なかった。だが、それも当然だろう。

 なぜなら、そこにいたのは世界の歌姫の呼び名を持つ少女であり、超有名人。つい昨日、彼女が数日後に日本で行うライブのため、来日したとの情報が様々なメディアで報じられたばかりだ。

「ど、どうかな? これで、私が乱暴するような者じゃないって分かってもらえた・・・・・?」

 正体を明かした少女が、照れたような笑みを浮かべながらそう言った。いや、確かに彼女が乱暴するような怪しい者ではないという事はよく分かったが、問題はそこではなかった。

「な、何であんたがこんな所に・・・・・・・・!?」

「う、嘘だろッ!? まさか本物・・・・!?」

 そう、問題は彼女の正体だった。なぜ彼女がこのような東京郊外の小学校の祭りにいるのか。

 世界の歌姫として、日本だけでなく世界にその名を轟かせている少女の名は――

「「ソニア・テレフレア・・・・・・」」

「うん、正解♪」

 呆気に取られた顔で、自分の名を呟く影人と暁理に、ソニアはそう言って笑うのであった。













(い、意味が分からん・・・・・何で『歌姫』がここに? というか、なぜ俺の手首を掴んでこんな場所に連れて来たんだ・・・・・・・・!?)

 謎の少女の正体が、世界の歌姫であり、光導姫ランキング2位『歌姫』のソニア・テレフレアであると判明したことによって、影人は混乱していた。

(いや、落ち着け俺・・・・・こういう訳の分からん出会いは聖女サマとかで経験したはずだ。とりあえず俺は呪われている)

 だが、非常に悲しい事ではあるが、前髪野朗はこういった事態には経験が既にあった。ゆえに、すぐに冷静さを取り戻す事が出来た。今、自分が疑問に思う事は、「なぜ『歌姫』が影人を人気のない場所に連れて来たのか」これだけでいいはずだ。相変わらず、メンタルだけは色々と凄まじい前髪である。

「こ、これって夢じゃないよね!? もしくは何かのドッキリ!? あ、あのソニア・テレフレアが本当に目の前にいるなんて・・・・・・」

 一方、前髪とは違ってメンタルが普通の暁理は、未だに混乱していた。まあ、それが普通だろう。いくら過去に同じような経験があったからといって、すぐに冷静さを取り戻した影人が異常なだけであって、暁理の反応は本当にごく普通に正しいものだ。

「わっとっと! ごめんだけど、あんまり大声は出さないでほしいな? 一応、ここにはプライベートで来てるから!」

 ソニアは再びキャップとメガネを装着して、春子の時と同じように暁理に両手を合わせてそう言った。ソニアにお願いされた暁理は、ようやく少し冷静さを取り戻したのか、「あっ、わ、分かりました・・・・・・」と首を上下に振った。

「・・・・・・・・それで、? わざわざ人気のない場所に来た理由は理解できましたが・・・・・・」

 影人は前髪の下で警戒するような目をしながら、ソニアにそう質問した。ソニアが人気のない場所に来たかった理由は分かった。ソニアは超有名人。あそこで変装を解けば、周囲の人間に大いに騒がれていただろう。ソニアはオフでここを訪れているといったから、騒ぎになるのは嫌だったのだろう。だから、人気のない場所に来た。それは分かる。だが、肝心の影人に何の用があるのか、それが分からない。

「っ・・・・・・・・わ、私の事、覚えてない・・・・・?」

 影人の質問を聞いたソニアは、なぜかショックを受けたような顔でそんな事を聞き返して来た。

「? 何を・・・・・・そもそも、俺とあなたは初めて会ったと思いますが・・・・・」

 影人は意味が分からないといった感じで答えを返す。ソニアの言い方だと、まるで自分たちが過去に会った事があるかのようだ。そして、影人にはソニアと会った事のある記憶はない、はずだ。

「そ、そっか・・・・・・・・・忘れちゃってるか・・・・・あ、あはは・・・・・ちょっと、いやかなりショックだなー・・・・・・・・・・」

「忘れてる・・・・・? あの、それってどういう――」

 表情が暗くなったソニアの呟きを聞いた影人が、質問をしようとした時だった。突如、携帯電話の着信音が体育館裏に響いた。

「あ、私だ。ちょっとごめんなさい。はい、もし――」

 どうやら鳴ったのは、ソニアのスマホのようだった。ソニアは掛けてきた相手の名前を見ずに、急いで電話に出た。

『ソニアッ! もう約束の1時間はとっくに過ぎてるわよ! 私、時間厳守って言ったわよね!? 今日も予定がいっぱいあるんだから! 今すぐ帰って来なさい! いいわね!?』

「レ、レイニー・・・・・」

 着信に応えた瞬間、電話から英語の怒鳴り声が聞こえてきた。電話を掛けてきたのは、ソニアのマネージャーのレイニアだった。

 ソニアはレイニアの怒った声を聞きながら、チラリと腕時計に目を落とした。見ると、時間は約束の1時間から15分も過ぎている。これではレイニアが怒り狂うのも無理はない。

「も、もう少しだけ待ってくれない? 今、とっても大事な場面で――」

 ソニアは影人の方を見ながら、レイニアに英語でそう伝えた。奇跡的に彼に会えたのだ。残念な事に、どうやら影人はソニアの事を忘れているようだが、話をすればソニアの事を思い出すはずだ。そして、その話をするには多少の時間がいる。

『今一番大切なのはスケジュール! これ以上に大事なものなんてないわ! あなたがいる学校の近くに車を用意してあるから、それに乗ってさっさと戻って来なさい!』

「は、はーい・・・・・・・・」

 しかし、怒り狂ったマネージャーはソニアのお願いをバッサリ却下した。ダメだ、こうなったレイニアはいくらソニアがお願いしても、絶対にわかったとは言わない。それに元々悪いのは、約束の時間を守らなかったソニアだ。正論はレイニアにある。

(ああでも、せっかく会えたのに・・・・・)

 ソニアは惜しむように影人を見た。当時と違い、影人はなぜか顔の上半分を覆うほどに前髪を伸ばしているが、フルネームを確認した限り、この少年がソニアの記憶にいるあの少年である事は間違いないのだ。

 だが、今話す時間はない。しかし、ソニアは影人とまた久しぶりに話がしたい。となると、残る手段は1つしかない。

 ソニアはいつも持ち歩いている手帳とペンをジーンズのポケットから取り出すと、素早く数字とアルファベットの羅列を手帳に書いていった。そして全てを書き終えると、手帳のページを破り、その紙を影人に手渡した。

「はいこれ! 私の携帯番号とプライベートのメールのアドレス! とりあえず今は時間がないから、これだけ渡しとくね! どっちでもいいから、後で連絡してほしい! 絶対お願いね!?」

「は・・・・・・・・・・・?」

 ソニアに無理矢理紙を手渡された影人は思わずポカンと口を開けてしまったが、ソニアはそんな影人にそれ以上構う事はなく、校門へ向かって走り出した。最後に、当時呼んでいた呼び名で影人の事を呼びながら。

「また話そう! 絶対私の事思い出させるから! じゃあね、シャドウくん!」

「影? って、ちょっと! こんなもの貰っても困――」

 驚きから再び立ち直った影人が、ソニアにそう抗議しようとしたのだが、ソニアの姿はもう影人たちの視界から消えてしまっていた。 

「後で連絡してこいって・・・・・・どういう事だよ」

 ソニアがいなくなった後、影人はソニアから手渡された紙を見つめながらそう呟いた。いま影人の手には、世界の歌姫にして光導姫ランキング2位『歌姫』と個人的に連絡する事が可能な情報がある。ソニアのファンならば、発狂するほどのお宝なのだろうが、別にソニアのファンではない影人からしてみれば、欲しいというものではない。いや、どちらかというと、正直いらない。こんな物をもらっても、困るだけだからだ。

(歌姫サマのあの様子からするに、俺がスプリガンどうこうで絡んで来たってわけじゃなさそうだな・・・・あの言動から察するに、歌姫サマと俺は過去に会った事があるって事か? そして俺はそれを忘れている・・・・・・・・・?)

 ソニアから接触された影人が1番初めに考えたのは、自分がスプリガンだとなぜかバレたのでは、というものだった。だが、どうやらソニアはその事とは全く関係ない、プライベートな事で影人に接触を図ってきたらしい。それが、いま影人が内心考えていた事なのだろう。

(プライベートでここの祭りに来てたって事は、歌姫サマはこの学校に在籍してたのか? じゃなきゃ、こんなローカル極まりねえ祭りになんか来ないよな)

 そうであるならば、ソニアと影人が過去に出会ったのは自分がこの小学校に在籍していた時なのか。

(・・・・・・ダメだ、思い出せねえ。そもそも、小学校時代の記憶なんて、あんまりはっきりとはしてねえからな。祭りに関する事はたまたま覚えてたが・・・・・)

 影人は内心そう呟き首を振った。小学校時代といっても、もう5年前だ。いくら影人が若いといっても、記憶は薄れてきている。まあ、それ以外にも影人の小学校時代の記憶が薄まっている理由はあるのだが。

「・・・・・・・・・・・ねえ、影人」

「ん? 何だ暁理。一応言っとくと、俺もまだ何が何だか分かって――」

 すると、今まで黙っていた暁理が顔を俯かせながら影人に近づきそう声を掛けてきた。影人は暁理に言葉を返そうとしたのだが、影人が言葉を述べ終わる前に、暁理は影人の肩を右手で掴んできた。

「さ、暁理・・・・? 急にどうした? 後、すっげえ肩が痛いんだが・・・・・・・・」

 未だに顔を俯かせている暁理。だが、影人の肩を掴む力は凄まじく、はっきり言って痛い。そんな友人は顔を上げると、完璧な笑顔を浮かべながらこう言った。

「いやー驚いたよ。まさか君があの歌姫と面識があったなんてね! しかも電話番号とメアド貰ったみたいじゃないか! よかったね影人! 本当、よかったねえ?」

「いや、だから俺は歌姫サマと会った記憶は・・・・・って、俺の肩掴みながらどこ行くんだよ!? 後、本当に肩痛いからやめろ!」

 暁理は笑顔で肩を掴みながら、どこかへと向かって歩き始めた。暁理に肩を掴まれている影人は必然暁理の後を歩かされる形になる。

「なに、ちょっと休憩がてら、近くのファミレスに行こうと思って。バス降りてこの学校に着く前にあったでしょ? そこでじーっくり尋問・・・・じゃなかったお話しようよ。大丈夫、今日という日はまだ長いよ」

「い、いや俺覚えないんで、する話はないと思いますよ・・・・・・・?」

 暁理は変わらずに影人の肩を掴みながら、そんな事を言った。その暁理になぜか恐怖を抱いた影人は、自然と友人に対して敬語を使っていた。

「だとしても君が歌姫からアプローチされた事には変わりないよ。ほら、キリキリ歩いて!」

「理不尽だろ!? ああ、くそ・・・・・今日は厄日だ・・・・・・・・・」

 全てを諦めたようにそう呟きながら、影人は暁理に連行されるのであった。














「へえー、ここがシェルディア様とキベリアくんが住んでる場所かあ。西洋風でいい感じの部屋ですね」

「ふふっ、そうでしょ?」

 響斬の賞賛の言葉を聞いたシェルディアは、嬉しそうな笑みを浮かべてそう言った。

 雑貨屋での突然の出会いの後、響斬はシェルディアに誘われてシェルディア宅を訪れていた。道中響斬と話した内容によると、何でも響斬はシェルディアに会うために、ここ最近ずっとシェルディアを捜していたらしい。

 何でも、あの雑貨屋の店主の女性に頼まれて一緒に撮った写真1つからあの雑貨屋の場所を突き止め、シェルディアが来るまで毎日あの店を訪れていたようだ。店主の女性によくシェルディアはここに来るという情報を、最初に訪れていた時に聞いたから、毎日通えばシェルディアと出会えるだろうと思った、と言ったような事を響斬は道中語った。

「・・・・・・・響斬、あんたえらく現代的な見た目になったものね。和服着てた印象強すぎて、最初誰かと思ったわよ。シェルディア様を捜し出した方法に至っては、ストーカーのそれだし・・・・」

「おおう・・・・・・やめてくれよキベリア君。それ僕もちょい思ってたんだからさ。メンタルに来るよ」

 キベリアから若干引かれた目を向けられた響斬は、苦笑いを浮かべながらそう言葉を返した。言葉通り、内心けっこうメンタルに来た響斬だった。

「それで響斬、私を捜していた理由はいったい何だったのかしら? というか、あなたが普通に街中にいたって事は、あなたまだ力を封印されままという事よね?」

 シェルディアがアンティーク調のイスに腰掛けながら、響斬にそう質問した。シェルディアはまだ肝心の響斬がなぜシェルディアを捜していたかの理由を聞いていない。響斬はシェルディアの問いにこう答えた。

「ああ、それはですね。実は――」

 響斬は自分がなぜシェルディアを捜していたのかその理由について話した。イスに座りながら響斬の話を聞いていたシェルディアとキベリアは、響斬の話を聞き終えると、それぞれの感想を漏らした。

「ふーん、なるほどね・・・・・レイゼロールのカケラのあるかもしれない場所が分かったから、それを私からレイゼロールに伝えてほしい。うん、中々愉快なお願いね」

「でもそれネットの噂の範囲なんでしょ? 本当にそんな所にレイゼロール様のカケラがあるか、怪しくない?」

「それ言っちゃお終いなんだけどさ。でも、情報が無いよりかはいいでしょ。だから、ね?」

 キベリアの指摘にまたも苦笑いを浮かべる響斬。キベリアの指摘は全く以てその通りなのだが、そもそもレイゼロールの探し物に、確定的な情報という物は存在しないので、噂でも情報があるというのはそれだけで値千金なのである。

「まあ、それはそうだけど・・・・・・・・」

「いいじゃないキベリア。響斬は頑張ってレイゼロールのために情報を集めたんだから。あなたの願いはわかったわ響斬。私があなたの情報をレイゼロールに伝えてあげるわ」

「本当ですか? ありがとうございますシェルディア様。これでぼかぁゆっくり寝れそうですよ」

 シェルディアの承諾を受けた響斬はホッとしたような顔を浮かべる。シェルディアは早速、響斬から伝えられた情報を影から取り出した便箋に、同じく影から取り出した万年筆で書いていく。途中シェルディアは、「それにしても恐山ね。確かあそこは・・・・・ふふっ、面白い事になりそうだわ」と奇妙な事を言っていたが、言葉の意味が分からなかった響斬はあえてその言葉に突っ込まなかった。分かったのは、どうやらシェルディアが恐山を知っているらしいという事だけだ。

「はい、これで手紙は完成よ。後はこれをレイゼロールに送って・・・・・うん、終わりよ」

 情報を記した手紙を書き終えたシェルディアは、左手を虚空に向けた。すると小さな黒い渦が出現する。シェルディアはその黒い渦に、まるでポストに入れるように手紙を放り投げた。

「これでレイゼロールは今夜にも恐山に向かうでしょうね」

「そうですね。いやー、重ね重ねありがとうございましたシェルディア様。じゃあ、ぼかぁは基礎稽古やら色々あるので、これで失礼します。忙しなくてすみません」

 シェルディアに頭を下げた響斬はイスから立ち上がり、シェルディア宅を後にしようとしたのだが、シェルディアはどこか意地悪そうな顔をしながら、こう言葉を紡いだ。

「あら、どこにいくの響斬? あなたとキベリアは今夜私と恐山に行くのよ? ふふっ、きっと今夜は楽しくなるわ」

「「え・・・・・・・・・・?」」

 シェルディアのその言葉に、響斬とキベリアは揃ってポカンとした顔を浮かべた。

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