第112話 光導会議(後編)
「光導会議は例年通り様々な議題を話し合っていく会議ですが、今回は最も大きな議題から話し合いましょう。すなわち――今年になって現れた謎の人物、スプリガンについてです」
会議を始めるとソレイユは第一声に円卓に着く者たちにそう伝え、言葉を続けた。
「スプリガンを私たちの敵と認定するか否か。皆さんにはそれに関する意見を述べていただきたいのです。なお、ここで議論した結果は光導姫サイドの総意として、ラルバとの話し合いで伝えるつもりです」
スプリガンに対する光導姫側の総意。それをこの場で決定し、全体の意見の判断材料とする。それこそが今回の会議の最大の目的だ。
「スプリガンね・・・・・・そいつに関しては雇い主様の手紙で知らされたが、本当にそんな奴いるのか? 別に疑うわけじゃねえが・・・・・・・・・・」
ソレイユから議題を聞かされて1番初めに発言したのは菲だった。菲はイスの背もたれに寄りかかり、両手を頭の後ろで組みながら、どこか懐疑的な顔を浮かべていた。
「いるぞ『軍師』、私は奴と何度か邂逅した事がある」
「うん。アイティレの言う通り、スプリガンは実在するわ。私も会った事があるから」
そんな菲の言葉に、実際にスプリガンと邂逅した事のあるアイティレと風音がそう言葉を発する。アイティレと風音から、スプリガンは確かに実在するという事実を聞いた菲は「マジかよ」と眉を寄せていた。
「はい、2人の言う通りスプリガンは確かに実在します。・・・・・・私は皆さんにスプリガンに関する手紙を書きましたが、それ以降のスプリガンについての情報も先にお教えしておきましょう」
ソレイユはほとんど多くの光導姫が知らないであろう、スプリガンのレイゼロール戦以降の情報について話した。最上位闇人キベリア、冥の撃退。そして敵対宣言の事もソレイユは包み隠さずに伝えた。スプリガンを敵と認定されたくないソレイユにとっては、正直あまり伝えたくはない情報だったが、仕方がない。敵対宣言の場にはアイティレと風音もいた。もしソレイユが言わなくとも彼女たちがその事を伝えるだろう。
どちらにせよ、スプリガンの敵対宣言の情報は伝えなければならない。そしてその上で、スプリガンが敵と認定されない結果をソレイユは望んでいるのだ。はっきりと言えば、ソレイユが望む結果はかなり望み薄だ。だが、それでもソレイユはその望み薄な結果を願うしかない。それしか、ソレイユには出来ないから。
「・・・・・・・・・・なるほど。件の人物、スプリガンはそのような発言を・・・・・」
ソレイユから判断に必要であろう全ての情報を聞かされた光導姫たち。そしてソレイユの話を聞き終え、そう声に出したのはランキング6位『貴人』のメリーだった。
「では、その話を聞いた上での私の意見を述べさせていただきますわ。私の意見は・・・・・・・・スプリガンを敵と認定しない意見です」
「「「っ!?」」」
メリーの発言に、スプリガンと邂逅した事のあるアイティレと風音は驚いたような表情を浮かべ、ソレイユですらも驚いたような顔になった。
「・・・・・・『貴人』、敵対宣言の事を聞いてまで、お前がスプリガンを敵とは思わないその理由は、いったい何だ?」
すぐに、アイティレがメリーにその理由を尋ねた。アイティレはスプリガンの敵対宣言の事を聞けば、この場にいるほとんど多くの人物たちは、スプリガンを敵だと認定すると思っていたからだ。認定しないにしても、それはファレルナくらいだと思っていたのだが、まさかメリーの口からその言葉を聞くとはアイティレは思っていなかった。
「理由は簡単ですわ。その方が光導姫や守護者を助けたから。確かにこちらに攻撃してくる事もあるようですが、それは単純に相互理解が足りていないだけだと思いますわ。その宣言を聞くに、確かにスプリガンにはこちらに歩み寄る意志はないのかもしれません。ですが、だからといってこちらから歩み寄る意志を無くしてしまっては、永遠に敵のままですわ。淑女の国際条約第15条、淑女は歩み寄りの精神を持て。私はいつだって歩み寄る者でいたいのです」
メリーは自身の意見の理由をアイティレや円卓に着く者全員に伝えた。そんなメリーの意見を聞いた菲が白けたような顔を浮かべる。
「ケッ、どの口が言ってんだ」
「あ・な・たは別ですわ。あなただけは、拳で語り合う必要があると思っていますから」
菲の揶揄するような言葉に、メリーはフンといった感じの態度を取る。ともあれ、光導十姫の内1人の意見が述べられたのだ。しかも認定しないという意見で。ソレイユは内心メリーに感謝しつつ、言葉を発した。
「メリー、意見をありがとうございます。これでスプリガンを敵と認定しない意見が1人ですね。次にどなたか意見が決まった、決まっている人はいますか?」
「では私からソレイユ様。・・・・・・・・私はスプリガンを明確に敵だと認識しています。奴は闇の力を扱う悪しき者。知っての通り、闇の力は私たち光導姫とは違い、負の感情によって強さを増すもの。そんな暗い感情を抱き、私たちに攻撃し敵対宣言を行った人物を私は味方だとは思いません。そして癪な事ではありますが、奴の闇の力は強大無比。私は奴の力が危険だと感じています。よって、私はスプリガンを敵と認定する意見です」
次にソレイユに意見を具申したのは、ランキング3位『提督』のアイティレだった。アイティレは以前からのスタンス通り、スプリガンを敵と認定する意見だ。そしてもう1つ、アイティレにはスプリガンを敵と認定しなければ、いや認定されなければならない理由がある。
(もしスプリガンが敵と認定されなければ、本国から極秘裏の任務を受けている私の動きは大幅に制限されるかもしれない。出来れば、その事態は避けたい所だ)
それはアイティレの内なる秘密。アイティレの真の留学目的、スプリガンの捕縛か暗殺。その任務のためにも、アイティレは出来る事なら、この会議でスプリガンを敵と認定したいのだ。
「・・・・・アイティレ、意見をありがとうございます。あなたの意見は常に冷静ですね。さて、これで認定しないが1、認定するが1になりました。他の方は・・・・・・・・エルミナなどはどうですか?」
「んー、私の意見か。そうだなー、色々と難しい問題だけど、私はどっちかというと敵と認定する方かな。理由は、向こうが敵だって言ってるから、です」
「ッ・・・・・・・・そうですか」
ランキング5位『鉄血』のエルミナは、悩むような仕草をしながらもそう意見を述べた。そのエルミナの意見にソレイユは少し驚いた。てっきり、どこかのほほんとしているエルミナは、スプリガンを敵と認定しないと思っていたからだ。
「あ! 私もエルミナと一緒だソレイユ様! 向こうが敵って言ってくるなら、敵だと私は思うぞ!」
そしてエルミナに続くように、ランキング8位『閃獣』のメティもはいはいといった感じで手を挙げた。
「私もスプリガンは敵派です! 色々危険そうだし、何より私より目立って格好よさそうなのが腹立つから!」
更にメティに続き、ランキング10位『呪術師』の真夏も敵と認定する意見を述べた。真夏の意見はどちらかというと、後半の「私より目立って格好よさそうなのが腹立つ」という意見の方が主な気がするが(ちなみに真夏はスプリガンとは邂逅した事がないため、ここで言っている格好よさそうは外見の話ではなく、その噂や立ち位置、力などについてである。真夏はスプリガンの噂や戦果を聞いて、「何か格好よさそう」と思っていた)、まあそれも、最高位ランカーの1人としての意見である。
「わ、分かりました。ええと、エルミナ、メティ、真夏は敵と認定する派ですね。・・・・・・これで、スプリガンを敵としない意見が1、敵とする意見が4ですね。次に誰か――」
いきなり増えた敵認定意見にソレイユが少し焦っていると、ソレイユの左横の少女がいきなりこんな言葉を言った。
「私は――スプリガンさんに会った事があります」
「「「「「「ッ!?」」」」」」
「へえ・・・・・」
「ほう・・・・・」
ランキング1位『聖女』のファレルナ、その突然の告白に、円卓に着く者たちは驚いたような、興味深そうな反応を示した。特に菲とロゼはニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
「それは・・・・・・・私も初耳ですね、ファレルナ。あなたはいつスプリガンに出会ったのですか?」
ソレイユが不思議そうな顔でファレルナにそう問うた。もちろん、ソレイユが初耳というのは嘘だ。何せスプリガンをファレルナの元に送ったのは、ソレイユだからだ。だが、ソレイユはファレルナからスプリガンと出会ったという報告はまだ正式には受けていなかった。そのため、ソレイユがその事を知っているのはおかしい。ゆえに、少し白々しくはあるがソレイユはそう聞き返したのだ。
「すみませんソレイユ様。報告しようかずっと迷っていたもので。その報告を今ここでしようと思います」
ファレルナはそう言って、スプリガンとの邂逅についての全てを話した。日本を訪れていた夜に、闇奴の浄化をした直接にスプリガンが出現した事。そしてスプリガンに色々と問われた事。
「・・・・・・なあ、聖女様よ。あんたそれ普通に脅されてねえか?」
ファレルナの話を聞き終えた菲は、心底呆れたよう顔でそんな感想を呟いた。いたって真っ当なツッコミである。
「そうとも言うかもしれませんね。ですが、スプリガンさんは約束を守ってくださいました。それに彼は笑いました。あの笑みに邪さは何1つなかったです。・・・・・私にはスプリガンさんを単純な敵だとは思えないんです。直感になってしまって申し訳ありませんが、私はスプリガンさんを敵だとは思いません。だから、私はスプリガンさんを敵とは認定しない意見を述べさせていただきます」
ファレルナは真っ直ぐな瞳でそう言い切った。どこまでも自身が感じた事に素直に、ファレルナは意見を述べた。
「ケッ、さすが聖女様だぜ。甘ちゃんな意見だ」
そんなファレルナの意見に菲は皮肉混じりの言葉を呟いたが、ソレイユはただただファレルナに感謝していた。
(ありがとうございます、ファレルナ。スプリガンを、影人を信じてくれて・・・・・・・・やはり影人の提案通り、あなたとスプリガンを会わせて正解でした)
ソレイユが影人のあの提案を受け入れたのは、ファレルナのスプリガンに対する反応を見るためだった。そしてファレルナがスプリガンに対し、穏やかな反応を見せれば御の字というものだったが、結果としては、あの邂逅がファレルナがスプリガンを敵と認定しない意見に判断させたのだ。やはり、あの時に邂逅させてよかったとソレイユは心の底から思った。
「ふふふふっ、いいねファレルナくん。君の意見は自身の感情に素直に寄ったものだ。自分に正直な意見というのは好ましいと思えるもの。では、そんな君に習って私も私の素直な意見を述べるとしよう。私の意見は、スプリガン何某を敵とは定めない意見だ。だって、そちらの方が色々と面白そうだろう?」
ファレルナの意見に耳を傾けていた、ランキング7位『芸術家』のロゼは、ファレルナの意見に拍手を送ると、そう自身の意見を宣言した。
「ッ! 『芸術家』、そんなふざけた理由の意見が通るとでも――!」
ロゼの言葉を聞いたアイティレが、思わず席から立ち上がり視線を厳しいものにした時、アイティレの右横の席からも声が上がった。
「ファレルナが信じるって言うなら、私もそのスプリガンって人を信じようかな♪ 聞いてた限りだと、そんなに悪い人でもなさそうだし」
「ッ、『歌姫』お前まで・・・・・・・!」
ランキング2位『歌姫』のソニアも、そんなファレルナとロゼの意見に追従するような意見を言った。ソニアの理由にも色々と思うところがあったのか、アイティレは今度は右横のソニアに厳しい視線を向けた。
「おやおや、何をそんなに憤る事があるんだい、アイティレくん? 例えどんな理由、意見だろうとこの場ではよしとなる。私たちは実力を以ってこの場にいるんだからね。そこに君が憤り否定するような権利はないんだよ。それとも何かい? 君にはスプリガンが敵認定をされないと困る理由でもあるのかい?」
「ぐっ、それは・・・・・・・!」
自分が秘密裏にしている核心に迫る問いに、流石のアイティレも言葉に詰まる。いや、それ以前にロゼの言う事はどこまでも正論なのだ。そういう事もあり、アイティレは言葉を続ける事が出来なかった。
「アイティレ、まずは着席を。そしてロゼの意見は正論です。この場に着く者の意見もその理由も、誰かが否定する事は出来ません。それは私も同じです」
「・・・・・・・・・・分かりました。取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」
ソレイユの注意するような言葉に、アイティレは渋々といった感じで頷き、謝罪して席に再び腰を下ろした。
「ファレルナ、ロゼ、ソニア、意見をありがとうございます。これでスプリガンを敵と認定する意見は4、敵と認定しない意見は4とちょうど別れましたね。残るは2人ですね、では・・・・・風音はどのような意見ですか?」
ソレイユは3人に礼の言葉を述べると、風音に視線を向けてそう質問した。
「私の意見は・・・・・・・前にファレルナと話をした時から決まっています。私は、私も・・・・・・・・・・スプリガンを敵とは認定したくありません」
前回にファレルナが扇陣高校の生徒会室を訪れた時の事を思い出しながら、ランキング4位『巫女』の風音は凛とした顔を浮かべた。確かにスプリガンの敵対宣言を聞いた時は、ショックを受けた。だが、スプリガンは風音の命を救ってくれた恩人でもある。要は、陽華や明夜たちと同じだ。
(私は、私を助けてくれたスプリガンを敵だとは思いたくない。確かに、前は歩み寄ろうとして拒絶された。でもまだたった1回だ。たった1回拒絶されただけで、敵と認定するなんて、私はしたくない)
最高位のランカーにして、日本最強の光導姫である人物の意見としては、ほとんど私情全開だ。だが、これが風音の偽らざる本音。ファレルナに気づかされた風音の本当の気持ちだ。そして、この場で嘘をつけるほど、風音は大人ではなかった。
「分かりました、風音。意見をありがとうございます。これで敵と認定する意見が4、敵と認定しない意見が5ですね。では、最後は・・・・・・菲、あなたの意見を聞かせてくれますか?」
ソレイユは光導十姫の最後の1人、菲の方に顔を向けた。最後の1人の意見という事もあり、必然菲以外の光導姫の視線も全て菲の方へと集中する。何せ、菲の意見で会議の結果は変わるからだ。
現在の会議の状況は、アイティレ、エルミナ、メティ、真夏がスプリガンを敵と認定する意見で、意見の数は4。対して、ファレルナ、ソニア、風音、メリー、ロゼがスプリガンを敵と認定しない意見で、意見の数は5。つまり、菲が認定する意見に回れば、比率は5対5となり会議は振り出しに戻る。しかし、菲が認定しない意見に回れば意見の比率は4対6となり、光導姫側の意見として、スプリガンを敵と認定しない結果が確定する。以上のような背景があり、菲の意見次第で会議の結果は変わると言っても決して過言ではない。
「私の意見ねえ・・・・・・・・まあ、率直に思った事を言うなら、そのスプリガンを敵と認定しないって言うのは色々と楽観的だと思うよ。つーか、普通にヤバい奴だって感じるしな」
全員の注目が集まる中、ランキング9位『軍師』の菲は全く気負ったような素振りも見せずに自身の意見を述べる。菲の意見はどちらかと言うと、敵と認定する意見に近い。そんな菲の言葉を聞いたアイティレは、チャンスとばかりに菲に確認の言葉を取ろうとした。
「では、『軍師』。お前の意見は、敵と認定するという意見で――」
「――だが、物事ってのは必ずしも安定択が正解とは限らない」
間違いないな、とアイティレが言葉を続けようとした矢先、菲はそんな言葉を述べた。
「なに・・・・・・・・・・・?」
「勝手に私の意見を決めようとするなよ、『提督』さんよ。私はな、これでもさっきからずっと考えてたんだぜ? どっちの方がいいかってな」
眉をひそめるアイティレに、菲は面白くなさそうに言葉を返すと、ため息を吐いた。
「安定択は今言ったみたいに、スプリガンを敵と認定する事だ。そっちの方がリスクは少ないし、不確定要素を排除出来るしな。だが、世の中には面倒極まりねえ事だが、安定択が正解じゃなく、リスクのある方が正解の時もある。今回の場合だと、スプリガンを敵と認定しない事の方がリスクは高いが、クソ強い強力ユニットがいつか味方になるかもしれねえっていう、ハイリターンな結果が付いてくる可能性があるって事だ。・・・・・・・・・ま、要はよ、決め手がねえんだよな。私がどっちの意見を取る方が得かっていう明確な決め手がよ」
菲は途中までは難しそうな表情を浮かべていたが、不思議な事に一旦言葉を切った辺りから、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、メリーの方に視線を向けていた。
「ふん・・・・・・なるほど、そういう事なんですわね? あなたの守銭奴ぶりには反吐が出そうですが、いいでしょう。乗ってさしあげますわ」
他の者たちがキョトンとしたような表情を浮かべる中、菲の言わんとしている事をただ1人察したメリーは、自身が常に持ち歩いているある紙とペンを取り出し、そこにサラサラと手慣れた様子で何かを書きつけていく。そしてメリーはその紙を菲に見せた。
「ほら、これでいいのでしょう。金額は100ポンド・・・・・あなたの国の通貨で言うと、大方1000元といったところですわ。換金方法は、守銭奴のあなたならご存知でしょう」
「お! まあまあ太っ腹じゃねえか。まあ、貴族様にしちゃ、ちょいと少ない気もするが、いいぜ乗った。つーわけで、雇い主様。私の意見は、スプリガンを敵とは認定しない意見で」
「え・・・・・・!?」
メリーから小切手を見せられた菲は満足そうに頷くと、上機嫌な感じでソレイユにそう言ってきた。流石のソレイユも、今目の前で堂々と行われた取り引きには呆気に取られていたからだ。
「全く・・・・・つくづく金ですわね、あなたは」
「私の国じゃそれが普通だ。会議終わったら渡してくれよ」
ソレイユだけでなく、アイティレや風音が呆気に取られている中(他の光導姫たちは、呆れていたり、それほど驚いてはいなかった)メリーと菲はそんな会話を続けていた。そして驚きから立ち直ったアイティレは、彼女にしては珍しく怒ったような口調でこう言った。
「ふざけるなッ! 今のは明らかに意見の買収だろう!? いくらどのような理由と意見が保証されていると言っても、今のような事は論外のはずだ!」
「おーおー、怖い怖い。さすがは正義感の強い『提督』さんだ。だが、てめえは何か勘違いしてんな。私はメリーが決め手を示してくれたから、その決め手に従っただけだ」
激昂するアイティレに、菲はメガネをクイっとしながらしれっとそう述べた。
「そんな屁理屈が・・・・・・!」
「あ? どこが屁理屈だよ。私の意見にはそれだけの価値があるって事だ。それを分かってるから、イギリスのお貴族様は私の意見に値段をつけたんだ。別に私の意見を変えようとするなら、簡単な話だぜ? 認定する派の誰かが、お貴族様以上の決め手を提示してくれりゃあいい。それだけで私はまた迷うだろうよ」
菲はつらつらと自分の言葉を述べる。そして、アイティレの言葉にどこまでも反論するようにこう言葉を続けた。
「出来ねえなら、私は今の意見で決定だ。そんだけお貴族様の方が、私の意見を買ってくれてるって事だし、覚悟があるって事だからな。そもそも、こんなバラバラの国の奴らの価値観が1つなわけねえだろ。なら、それを否定するんじゃなくて折り合いをつけるってのが自然だ。てめえの怒りは筋違いもいいとこだ。分かったか『提督』?」
「ぐっ・・・・・・・・・!」
菲の言葉に中々反論するような言葉が出てこない。そもそもアイティレとはあまりにも違いすぎる価値観だからだ。菲は意見を変えさせたいなら、メリー以上の決め手となる価値、つまりメリーが示した以上の金を提示しろと言っている。だが、アイティレはそんな事をするつもりなどサラサラなかった。なぜなら、それは彼女の中では正しくないからだ。
「・・・・・・・・提示はねえみたいだな。じゃあ、雇い主様。私は変わらずさっきの意見で」
「え、ええと・・・・・・あまり褒められた方法ではなかった事は確かですが、仕方がありませんね。私は多様性を尊重していますし・・・・・菲、あなたの意見は分かりました。あなたのその理由も、私は認めましょう」
ソレイユはため息を吐きながらも、菲の意見を認めた。菲の意見の方がソレイユにとって都合の良かった、という事実も確かにあるが、そうでなくともソレイユは菲のどのような意見と理由でも認めていた。それが、神だからだ。
「っ・・・・・・・!」
アイティレがギリッと奥歯を噛み締める中、ソレイユは会議の結果を全て纏め、報告した。
「では皆さんの意見の総評を述べます。スプリガンを敵と認定する意見4、スプリガンを敵と認定しない意見6。よって、光導姫側の意見は――」
ソレイユはそこで息を大きく吸うと、会議の結果を宣言した。
「――敵と認定しないものとします。これは厳正なる光導十姫の意見、論議の結果。光導姫の神ソレイユはこの結果を保証し認めます」
ソレイユは内心ホッと息を吐きながら、円卓に着く者たちを見回した。それぞれ、笑顔を浮かべていたり、普通の表情だったり、不機嫌そうな顔を浮かべているが、何はともあれ、これで影人が一方的に敵と認定される事はなくなった。
(ギリギリの戦いでしたが、何とかこの結果に落ち着いてよかったですね・・・・・・・・・これで、まだしばらく影人はこちら側からの妨害を気にせずに自由に動ける)
全くあの前髪少年には感謝してもらいたいものだ、とソレイユは本気半分、冗談半分で思いながら、言葉を放った。
「では、最重要議題の結果は決まりましたので、後は例年通りの会議といきましょうか」
ソレイユはニコリと笑みを浮かべる。他の光導姫たちも、それぞれ反応を示しながらも会議は続いていった。
――かくして、守護会議、光導会議、両会議の結果は決まった。この後、ラルバとソレイユはお互いの会議の結果を報告しあい、意見が分かれたため中間の意見の調整を行ったのだが、そこは両神の思惑が絡み合い、調整は難航した。しかし、長時間の調整の末、意見はこのようなものに決定された。
スプリガンが光導姫・守護者に再び攻撃を行ってこないまでは、光導姫・守護者側はスプリガンを敵と認定しない。また光導姫・守護者からスプリガンに攻撃を行なってはならない。攻撃をしてよいのは、スプリガンから攻撃を受けた場合のみ。
つまり、スプリガンが攻撃してこない間は、光導姫・守護者側はスプリガンを攻撃してはいけないし、敵と認定しないが、スプリガンが攻撃してきた場合は、敵と認定し、攻撃をしてもよいというわけだ。
今までとあまり変わらないように思えるが、これはソレイユとラルバの正式決定意見だ。光導姫と守護者はこの決定に従わなければならない。
こうして、スプリガンは自身から攻撃しない限り、今までと同じ立ち位置で活動出来る事が保証された。
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