第100話 ある少女との出会い

 昼休みに仲を深めた、陽華、明夜、火凛、暗葉の4人は、場所を知っている陽華と明夜の案内の元、第3体育館を目指していた。

 第3体育館にたどり着き中に入ると、そこには先ほど会議室にいた少年少女たちの姿があった。

「――はい、注目! 所定の時間になったので、今から研修午後の部を開始しまーす! なお、ここからの研修は神崎校長ではなく、私と隣の中田先生が講師になります!」

 体育館内に明るい女性の声が響いた。よく見てみると、体育館の前方に2人のジャージ姿の男性と女性がいる。そして今聞こえた声は、女性が発したようだ。

「まずは自己紹介からですね! 私の名前は加辺美希かなべみきって言います! この扇陣高校で体育教師やってます! ちなみに私も過去には光導姫やってました! ランキングは最高60位で、やってた期間は5〜6年です! そういう事情もあって、研修の講師に任命されました! 以後よろしく!」

 歳の頃は、おそらく20代前半といった感じだろう。体育教師らしく、ショートカットな髪を揺らしながら、気さくな笑顔で元光導姫を名乗った女性はそう自己紹介した。

「では、次は僕ですね。僕は中田海輝なかたかいきって言います。加辺先生と同じく、この扇陣高校で理科の教師として勤務させてもらっています。一応、僕も過去には守護者をやっていました。ランキングは最高47位。守護者をやっていた期間は7年くらいです。事情は加辺先生と同じです。短い期間ですが、よろしくお願いします」

 美希の自己紹介に続き、隣の男性も自己紹介を行なった。メガネをかけ、柔和な顔立ちのその男性はいかにも理系の教師ぽかった。歳は美希とそれほど変わらないように見える。

「へえ・・・・・・元光導姫と守護者がコーチかいな。ええやん、本格的にらしくなってきたで」

 2人の自己紹介を聞いた火凛がニヤリと笑みを浮かべた。元光導姫と守護者。初めて会ったその存在に、集まった少年少女たちも驚いているのか、軽いざわめきが起こる。

「はいはい! 皆さんのその気持ちはよーく分かります! 私も初めて研修に参加した時は皆さんみたいな反応してましたからね! ですが、元光導姫や元守護者の人は普通にいるんです。午前の座学で、神崎校長が言ってたと思いますが、レイゼロール率いる闇サイドとの戦いは数千年続いてますからね」

 美希が体育教師らしいよく通る声で、そんな事を付け加えた。なお美希が再び発言した事により、ざわめきは収まっていた。もしかしたら美希の発言には、ざわめきを収める意図もあったのかもしれない。

「その辺りの事情はまた明日からの午前の座学で、僕たちに個人的な興味がある人たちはこの研修が終わってから質問に来てください。それでは、午後の研修についての説明を始めます。午後の研修、その内容は簡単に言うと、体力作りです」

「ああ・・・・・・・・終わった」

 ざわめきが収まったところを狙ったように、海輝がそう発言した。海輝の体力作りという言葉を聞いた瞬間、明夜の隣にいた暗葉が絶望したようにそう言葉を呟いた。

「だ、大丈夫だよ暗葉! 私たちもいるし、きっと何とかなるよ!」

「そ、そうよ。研修の体力作りよ? たぶんそれ程ハードじゃないはずよ!」

 絶望している暗葉に陽華と明夜が、小さな声で励ますような言葉を送る。なお、陽華の「暗葉」呼びからもわかるように、2人の暗葉に対する口調は火凛と同様に砕けたものになっていた。

「この体力作りはですねー、私たちの時から変わらない研修のメニューなんですよ! いやー懐かしい! この体力作り本当、ゲロキツくて! 私なんか当時何度この研修バックれようと思った事か・・・・・・」

「ああ・・・・・・・・・やっぱり終わった」

 美希の言葉を聞いた暗葉がフッと全てを諦めたような笑みを浮かべ倒れそうになった。

「し、しっかりして暗葉! まだ諦めないで!」

「そんな安らかな顔しちゃダメよ暗葉! 死ぬんじゃないんだから!」

 倒れそうになった暗葉を支えながら、陽華と明夜が必死にそう言った。一連のその流れを見ていた火凛は、「いや、自分らなにコント始めとんねん・・・・・」と軽く呆れていた。

「――1つ、質問をしてよろしいでしょうか?」

 するとそんな時、スッと右手を上げて1人の少女がそんな言葉を発した。

 その場にいた全員の視線がその少女に向けられた。その少女は紫色のジャージに身を包んだ、ツインテールの髪型のお嬢様といった言葉がピッタリな少女であった。

「はい? 何でしょうか、ええと・・・・・・・」

 気難しい顔をして質問の意思を見せて来たその少女に、海輝が対応する。しかし、今日初めて会ったその少女の名前を海輝は知らなかったので、言葉を詰まらせる。その事を察したのだろう、その少女は海輝に自分の名を告げた。

双調院典子そうじょういんてんこ。それが、わたくしの名前です」

 育ちの良さが知れる上品な口調でその少女、双調院典子はその視線を海輝に向けた。

「わざわざありがとうございます。それで双調院さん、質問とはどのようなものでしょうか?」

 海輝が変わらず柔和な笑みを浮かべ、典子にそう促す。海輝に促された典子は「では」と言って、こんな質問をした。

「体力作りをする意味とはいったい何なのでしょうか? 恐らくではありますが、この感じだと体力作りは生身で行われるご様子。そうであると仮定して、変身をする事で身体能力が比較的に向上する私たちにその行為は意味はあるのでしょうか? そしてよしんば効果があったとして、それは守護者の方や近距離前衛型の光導姫には意味があるのでしょう。しかし、遠距離後衛型の光導姫にはあまり意味があるようには思えません」

 スラスラと淀みなく典子はそのような質問を海輝にぶつけた。典子の質問内容を聞いた少年少女たちの瞳に「確かに」といった感じの色が浮かぶ。そして、典子の質問に海輝はこう答えた。

「いい質問ですね、双調院さん。確かに、一見体力作りというものは無駄に思われるかもしれません。先に言っておくと、双調院さんの予想の通り、体力作りは生身で行ってもらいます。では、その理由についてお答えしましょう」

 海輝は教師らしい口調で、こう言葉を続けた。

「実は光導姫と守護者の身体能力は生身の自分の肉体の能力が基礎になっています。光導姫・守護者形態は自分の身体能力が何十倍に増幅している状態というわけです。つまり、生身の身体能力がそのまま光導姫・守護者形態のベースになるわけですね」

 生身で体力作りをする事によって、光導姫・守護者形態の体力も向上する。それは実質的に自身の強化に繋がるというわけだ。そして体力向上の恩恵は、近距離前衛型の光導姫と守護者だけでなく遠距離後衛型の光導姫も大いに得られる。

 光導姫と守護者は、戦う存在。命の危険がある戦場では何が起こるか分からない。ゆえに、遠距離後衛型の光導姫といえども、近距離で戦わざるを得ない状況、体力が試される状況もあり得る。生身での体力作りは全ての光導姫と守護者にとってメリットとなる。それが昔からずっとこの研修が行われて来た理由だと、海輝は説明した。

「・・・・・・なるほど。しかと理解しました。説明を行なっていただき、感謝いたします」

「いえいえ。そういった質問に答えるのも講師の役目です。それに元々今の話はこの後にするつもりでしたから。逆に質問をしてくださって手間が省けました。ありがとうございます、双調院さん」

 質問の答えを得た典子が、律儀に海輝にお礼の言葉を述べる。その典子の言葉に海輝も感謝の言葉を口にした。

「ほへー、そんな理由があったんですねー・・・・・・・さあ、皆さん他に質問がある方は今のうちに中田先生にどうぞ! それが終わり次第、午後の研修を始めますよー!」

「・・・・・・加辺先生はまた後でお話ししましょうか。とりあえず他に質問がいる方はいませんか? いなければ、先生の言われた通り研修を開始しますが」

 美希に対する言葉の部分で、若干笑みを引き攣らせた海輝。海輝の言葉を受けた美希は「あ、あはは・・・・・・・了解です」と露骨な苦笑いを浮かべていた。実は過去の研修の手引書を真面目に読んでいなかった事がバレたようだ。

「質問はなさそうですね。それでは、午後の研修を始めます。まずは場所を変えますので、皆さんは少しだけ待ってくださいね」

 しばらく周囲を見渡した後、質問がなさそうな事を察した海輝はそう宣言すると、体育館のステージの縁に置かれていた真っ白なキューブに触れた。

「扉も窓も全て閉まっていますね。では――『メタモルボックス』起動。モード、平原」

 海輝が真っ白なキューブに触れながらそう呟くと、キューブを光源として眩い光が体育館内を照らした。ほとんど全ての少年少女たちは驚いたような表情を浮かべ、中には驚きから声を上げる者もいた。例えば、陽華と明夜の近くにいた火凛と暗葉は、「な、なんや!?」「う、うわ・・・・・・!」などといった声を上げていた。

 唯一、普段から風音やアイティレなどとの鍛錬でメタモルボックスを利用している陽華と明夜は驚いていなかったが、2人がメタモルボックスを利用している時に使っているフィールドは、風音と初めて戦った時に使っていたプラクティスルームだけだ。ゆえに、いま海輝が言った平原というフィールドはどのような場所なのかは、2人も知らなかった。

 光の輝きが収まる。すると、そこは青空の下どこまでも続く平原に変わっていた。

「な、なな何やここ!? ウチらついさっきまで体育館の中におったやろ!? ど、どないなっとるんやーーー!?」

 陽華と明夜以外の少年少女たちの言葉を代弁するように、火凛がそう叫んだ。火凛の叫びは決して大げさなものではないだろう。誰だって一瞬の間に、体育館内から異空間の平原に光景が変われば驚く。実際、最初は陽華と明夜も大変驚いたものだ。

「あ、あの先生方。これはいったい・・・・・・」

 大勢の少年少女たちが未だに驚いている中、驚きから立ち直りつつある典子がそう質問した。典子のその当然の質問に、今度は美希が典子の質問に答えた。なぜかドヤ顔で。

「ふふん、驚きましたか? この真っ白な箱は『メタモルボックス』て言ってですね、ソレイユ様とラルバ様から頂いた奇跡なんです!」

「加辺先生、それでは説明になっていませんよ・・・・・・・・ええと、皆さん。『メタモルボックス』というものはですね――」

 美希の言葉に苦笑しながら、海輝が陽華と明夜が過去に聞いた説明と同じ説明を行った。

「す、すごい・・・・・・・さすがは神様・・・・・・」

「えげつない代物やな・・・・・・売ったらいくらくらいするんやろ・・・・・・・」

 平たい岩の上に置かれたメタモルボックスを見つめながら、暗葉と火凛がそんな感想を漏らす。他の少年少女たちも暗葉や火凛と同様、「すごい・・・・・」「現実世界だよな、ここ・・・・・・?」といった感想を呟いていた。

「さて、皆さん。今から行う体力作りのメニューですが、まずは簡単なものです。あそこに1本の大きな木が見えますね。とりあえずあそこまでダッシュして戻って来てください。それを10往復です」

 海輝がここから50メートルほど先に見える大きな木を指さした。なぜだろうか、その言葉を聞いた瞬間、海輝の柔和な笑みが黒い笑みに見えて来た。

「こ、ここからあの木まで往復ダッシュを10本・・・・・・・・ご、ごめんなさい明夜・・・・・や、やっぱり骨は拾ってほしい・・・・・・・・」

「し、しっかりして暗葉! 傷はたかが致命傷よ! まだ元気に生きれるわ!」

「いや、致命傷やったら元気に生きられへんやろ・・・・・」

 海輝の言葉を聞いた暗葉がまた倒れそうになった。陽華と明夜が何とか暗葉を支える。ちなみに、暗葉が明夜に対してそう言ったのは、最初に明夜が骨は拾う発言を暗葉にしたのを覚えていたからだ。

 陽華が心配そうな顔で、火凛は明夜の言葉に突っ込んでいると、海輝がパンパンと手を叩いた。

「でも、まずはストレッチからです。まずは体を暖めないと危ないですからね。それが終わり次第、皆さんには往復ダッシュを10本。その後に、また色々とメニューをこなしてもらいます」

「はーい! では、ストレッチ始めますよー! 私が見本見せるんで、皆さんはそれを真似してくださーい!」

 自分の出番だとばかりに、美希が明るくそう言った。美希の言葉を聞いた少年少女たちは、少し戸惑いながらも美希の指示に従った。

「はい、まずは足を伸ばしますよー! イッチニーイッチニー!」

 こうして青空の平原の下、午後の研修が始まった。











「ぜえ、ぜえ・・・・・・・・だ、だめだ・・・・・わ、私もう死ぬ・・・・・こ、これが明日も続くなんて・・・・・・・・」

「た、確かにこれがしばらく続くと思うとキツいわね・・・・・・・」

「あはは、確かにけっこうキツかったね。私もかなり息上がっちゃったし」

「あれでけっこうかいな・・・・・・ウチも体力にはまあまあ自信あったけど、ゲロ吐きそうやったで。陽華は大概な体力お化けやなー」

 午後の研修開始から3時間ほど過ぎた、午後4時過ぎ。研修から解放された暗葉、明夜、陽華、火凛の4人は、帰路に着くべく扇陣高校の校門を目指していた。

「陽華は昔からフィジカルお化けだったから。そう言えば、あの双調院さんって人もかなり体力あったわね。私てっきりあんな質問したから体力ないって思ってた」

「ああ、それはウチも思ったわ。上品な感じのいかにもお嬢様って子やったけど、普通に体力あったしな。あんな見た目して、もしかしたら近接型の光導姫かもしれんな」

 明夜と火凛が、海輝に質問した生徒――双調院典子の事について話す。的確な質問に、見た目からは想像も出来ないような身体能力。双調院典子は研修初日にして、研修に参加している者たちから一目置かれる存在になりつつあった。

「あ、そうだ。火凛と暗葉はこの後時間ある? せっかくだからお茶しない? 私たちいい喫茶店知ってるんだー。こっからちょっとだけ遠いけど、飲み物も食べ物もとってもおいしいよ!」

 陽華が火凛と暗葉をお茶に誘う。陽華のその言葉に、2人は嬉しそうにこう答えた。

「お、ええな! 東京の喫茶店でお茶っていうのは洒落しゃれや。ウチは行くでー!」

「わ、私も大丈夫・・・・・・・・と、友達とお茶は憧れだったし・・・・・・」

「よし、じゃあ決まりね。『しえら』に向かいましょうか」

 2人の答えを聞いた明夜がそう言葉を締め括る。この後は、扇陣高校を出て喫茶店「しえら」に向かう。それで4人の意思は決定した。

「あ、ごめん。私ちょっとトイレ行ってくるから、校門出たとこで待っててくれない? すぐに行くから!」

「分かったわ。じゃあ、私たちは校門前で待ってるから」

 陽華の言葉に明夜が了解の言葉を返す。明夜と火凛と暗葉の3人から離れて、陽華は近くの校舎にあるトイレへと向かった。

「ふうー、スッキリ。そうだ、今日しえらさんの所で何食べようかな。ホットサンドとかオムライスも捨てがたいし、パンケーキとかパフェ系も捨て難いなー」

 校舎のトイレから外に出た陽華がハンカチで手を拭きながら、そんな事を呟いた。午後の研修でかなり動き回ったため陽華のお腹はペコペコだ。朝宮陽華は色気より食い気を地で行く少女である。

「さてと、私も早く校門に・・・・・・・」

 陽華が校門に向かって歩き始めようとすると、近くの別の校舎から1人の少女が出てきた。

 扇陣高校の夏の制服姿の少女、言わずもがなここの生徒だろう。漆黒の長髪に端正な顔をしたその女子生徒に陽華の目が止まった。

(あ・・・・・・・あの人、確か聖女様の講演の時に私の隣に座ってた人だ)

 陽華はすぐに彼女の事を思い出した。というのも、彼女のことは印象に残っていたからだ。

 ファレルナの心打たれる講演で、乾いたような空虚な拍手をしていた少女。陽華の記憶には、あの軽い拍手の音が今でも残っていた。

 陽華が半ば無意識にその少女を見つめていると、少女の鞄から何かが落ちた。だが、少女は気が付いていないらしくそのまま歩き続ける。

「あ、あのっ!」

 陽華はハッとすると、少女が落とした物――どうやら髪留めのようだ。かなり古い――を拾い、その少女に声を掛けた。

「はい・・・・・・? 私に何か・・・・・・・?」

 陽華に声を掛けられた少女は、陽華の方に振り返ると首を傾げそう言った。

「これ落とされましたよ!」

 陽華は手に持っていた髪留めを少女に見せた。髪留めを見た少女は、「え、嘘? 落とした・・・・?」と慌てたように呟くと、自分の鞄を確認した。

「あ、すいません・・・・・・やっぱり落としてたみたいです。拾っていただいて、ありがとうございます」

「いえ全然! この髪留め大切な物みたいですし、気付けてよかったです!」

 お礼の言葉を述べる少女に、陽華は笑顔で首を振った。陽華のその言葉を聞いた少女は、不思議そうにこんな事を聞いてきた。

「あの・・・・・・・・何でこの髪留めが大切な物だって分かられたんですか?」

「それは分かりますよ。だってその髪留め、かなり古そうですもん。そんな髪留めをずっと持たれて使われてるって事は、大切な物に決まってます」

 陽華のその答えを聞いた少女は、「確かに・・・・・言われてみれば、その通りですね」とくすりと笑った。

「10年くらい前の古いおもちゃみたいな髪留めなんですけど、お言葉の通りこれは大切な物なんです。だから、改めて拾ってもらって、ありがとうございます」

 そう言って頭を下げた少女に、陽華は「いや当然の事しただけですから! 顔を上げてくださいっ!」と慌てた様子になった。

「その、あなたも光導姫ですよね? 前に聖女様の講演の席にいられましたし・・・・・・・・あ、だからどうこうって話じゃないんですけど! その私は、あなたの横に座ってたから、覚えてて・・・・!」

 陽華はついそんな話をしてしまった。少女の事が気になっていたとはいえ、ほとんど初対面でこれは踏み込み過ぎだ。陽華は慌ててそう言葉を付け加えた。

「ああ、あの時の・・・・・・・思い出しました、確か風洛高校の制服を着ていた方ですよね? そう言えば、そのジャージも風洛のものですし」

「あ、風洛高校のこと知ってるんですか?」

 少女に自分の高校の名前を言い当てられた陽華は、少し驚いたようにそう聞き返した。

「はい。兄が通っていますから。そう言えば、この時期にジャージで他校の光導姫の人となると、研修ですか? 大変ですよね」

「そうなんですよー! ちょうど今日から研修が始まって・・・・・・というか、お兄さん風洛なんですね。何年生なんですか? もしかしたら知ってるかも!」

「2年です。でも、知らないと思いますよ。兄は孤独が好きで、他人にあまり関わろうとはしない人間ですから。たぶん学校では基本的にボッチです」

「同じ学年だ! ああ、確かにそういう人だと知らないかもです。同じクラスにそういう人はいなかったと思うから、たぶん違うクラスだとは思いますけど・・・・・・・」

 少女と会話が弾んでいると、陽華のスマホが鳴った。見てみると、明夜からのメッセージだった。「ちょっと遅くない? もしかしてお腹壊した?」といったメッセージに、陽華はそう言えば明夜たちを待たせていた事を思い出した。

「あ、ごめんなさい。私、もう行かなくちゃ! あと今更になりますが、私朝宮陽華って言います! ええと、本当に良かったら何ですけど、あなたのお名前を教えてくれませんか? 他意とかはないんです! ただ、気になって」

 明夜に「壊してないよ! すぐ行くから!」とメッセージを送った陽華は、最後に少女にそんな事を質問した。

「私の名前ですか・・・・・・?」

 少女は少し逡巡するような仕草をすると、「・・・・・別に大丈夫か」と呟き、陽華に自分の名を告げた。

「――穂乃影ほのか。私の名前は、穂乃影と言います」

 そう言って、その少女――帰城影人の妹、帰城穂乃影は口角を少し上げて笑みを浮かべた。

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