第94話 夏だ、補習だ、クソッタレ(2)

 午後の授業は生物だった。6人のアホ共はアホらしく真面目にアホな答えを繰り返した。生物の女性教師はアホ共に普通にキレた。例の如くアホ共が真面目にアホな答えを連発したからである。

「――今日の補習授業はこれで終わりです。アホの皆さんもさすがに分かっていると思いますが、君たちはおよそ高校生の知能レベルに達していないと私は感じたので、改めて言っておきます。補習授業は今日から2週間行われます。それぞれ最後の授業で各教科からテストを出されると思いますので、それを通れば前期の単位が認定されます。まあ、普通に授業を受けていれば通るレベルのテストでしょうが、それに通らなかったら留年という事になります」

 6限目の科学の教師が真面目な顔で6人にそう説明する。6人に補習授業を行って男性教師は非常によろしくない事態だとの印象を強烈に受けた。

「もし6人が一気に留年ということになれば、風洛高校始まって以来の珍事であり恥ずべき事態でもあります。プラス、6人の留年は明らかに我々教師陣の面倒ごとになりますので、皆さん死ぬ気でテストに受かってください。絶対ですよ。じゃなきゃ私はやけ酒に溺れるでしょう。それでは失礼します」

 男性教師は真面目な顔で色々とぶっちゃけながら教室を後にした。教師が出て行ったことを確認した6人は、今日の補習が終わったことの自由から軽く雑談に興じた。

風洛ウチの教師陣はなんか色々とぶっちゃける人が多いな。普通の学校だったら、面倒とかは一応言わんだろ」

「まあな。生徒も愉快な奴らが多けりゃ教師も愉快な人たちが多いんだろ」

「動物園かよウチの高校は。まあ何だかんだ楽しいしいいんじゃねえか。俺は好きだぜこの高校」

「そういや今年の夏も体育の上田お見合いするって言ってたよな。あの人普通に滅茶苦茶いい人なんだけど、なんでずっとお見合い失敗してんだろうな」

「普通に顔だろ。世の中残酷なんだよ。それは俺たちが1番よく知ってんだろ」

「クソッ、イケメン共め・・・・・・・ウチでイケメン代表といえば1組の香乃宮だけど、あいつはモテて当然の奴だからなー。マジで良い奴で金持ちで超イケメンだし。嫉妬モンスターの俺ら含めた男子陣も、あいつには嫉妬しねえし」

 ワイワイガヤガヤと雑談をするA、B、C、D、E、F。そのまま軽く5分ほど雑談していた6人は、そろそろ約束のゲーセンやらカラオケに向かうべく、荷物を持って立ち上がった。

「よーし、んじゃ行くか。お前ら学校には何で来てる? 徒歩か、自転車か、電車か、バスか? とりあえず今から行くとこ近場だから徒歩で行こうと思ってるんだが。いいか?」

 Aが5人を見ながらそう提案した。Aの確認を含めた提案に5人はこう答えた。

「俺は徒歩だ。だから変わらん」

「俺もだな。異議なし」

「俺もチャリだけど、押していけばいいし大丈夫だ」

「俺は電車だが、駅近いし問題ない」

「Eに同じ」

 5人から承認を受けたAは軽く頷くと、男子高校生っぽいニヤニヤとした笑みを浮かべた。

「決まりだな。さあ、街に繰り出そうぜお前ら!」

「「「「「おうよ!」」」」」

 さあ、アホ共の宴フィーバータイムの始まりだ。












「うはは! 凄いぞ! カッコイイぞ! 見てくれよ、俺のジェットクマさんマークII!」

「ただのロケット背負ったぬいぐるみじゃねえか」

 Dが掲げた可愛らしいぬいぐるみに、Bが呆れたようにそう呟いた。どちらかといえば、ぬいぐるみはカッコイイより可愛いし、名前も正式名称は「宇宙そらクマさん」とタグに書いてある。何がジェットクマさんマークIIか。

 あと宇宙と書いてそらと読ませるのは、明らかに某ロボットアニメの影響を受けた奴が企画部にいるだろうとBは思った。普通の人は絶対に分からん。

「ああん!? 俺のマークIIにケチつける気か天才(笑)!? お前がUFOキャッチャーで取ったブッサイクな犬のぬいぐるみの100倍いいわ!」

「てめえこの野朗ッ! 俺のプリティなワンワンの可愛さが分からんとは! 表に出やがれ! ぶちのめしてやる!」

「やるってか!? いいぜ、お前のそのメガネをクラッシュしてやるよ!」

 ぬいぐるみを抱えたまま、一触即発の事態になったBとD。制服を着た高校生が可愛らしいぬいぐるみを大事に持ったまま、メンチを切り合っているのは中々にシュールな絵である。

「うるせえぞアホ共。ほれ、仲良くゲンコツをくれてやる。一旦頭をヒヤシンス」

「「痛えッ!?」」

 アホの抗争を見かねたアホAは緩くそう言いながら、BとDの頭に鉄拳を降らせた。Aの拳は2人の頭にクリティカルヒットしたらしく、2人は頭を抱え地面に沈んだ。

「ぶははっ! 見ろよC、F! アホ共が沈んだぜ! ありゃ痛いな!」

「うはははっ! ちげえねえ! 全く低俗な争いしてやがるぜ! 俺らを見習えっていうんだ!」

「本当にな! そうだお前ら、さっき取れたトッ◯やるよ! 最後までチョコたっぷりだぜ!」

 Eが頭を抱えたBとDを指差しながらクズのように笑った。それに釣られて、CとFもクズのように笑う。ついでにといった感じで、Fは棒状のお菓子を出した。

「は? おいおい何言ってるんだよF。トッ◯なんてスマートじゃねえもんは食わねえよ。やっぱりポッ◯ーだろ? さっき取れたからこれ食えよ」

 Fの言葉を笑い飛ばしたCが、Fと同じようにUFOキャッチャーで取れた違う種類の棒状のお菓子を出した。

「冗談はそれくらいにしようやお前ら。チョコなんて甘ったるくていけねえぜ。やはり棒状のお菓子といえば、プリ◯ツだろう。俺もさっき取れたんでな、恵んでやるよ。サラダ味だぜ」

 Cに続き、Eも棒状のお菓子の袋を取り出した。これで偶然極まることに、F、C、Eの3人がそれぞれ違う種類のお菓子を突き合わせたことになった。

「「「・・・・・・・・・・・」」」

 一瞬、笑顔のままフリーズした3人は次の瞬間鬼のような形相を浮かべていた。

「「「やるってか!?」」」

 先ほど笑っていた姿はどこへやら。3人のアホ共は拳を握りしめていた。

「てめえらも大差ねえじゃねえかアホ共。トッ◯VSポッ◯ーVSプリ◯ツVSダーク◯イなんてクソ映画もいいとこだ。やめろやめろ」

「「「痛えッ!?」」」

 AはBとDの時同様、3人の頭にゲンコツを食らわせて鎮静化を図った。やり方が蛮族のそれである。

「全く俺以外アホしかいなくて困るぜ」

 Aがフッとした笑みを浮かべる。その笑みにカチンと来た5人は怒りの鉄拳を握りしめ、Aの頭に拳を降らせた。

「「「「「てめえもアホだろうがッ!」」」」」

「痛えッ!? ちょ、お前ら5人同時はやめろッ! 頭蓋骨陥没するかと思ったぞ!? これ以上アホになってくれたらどうしてくれる!?」

「知るかバカ! バカスカゲンコツしやがって!」

 Bがぬいぐるみを抱えながら吠えた。不意打ち気味にゲンコツをされたものだから、頭は今でもズキズキと痛む。

 6人がいるのは風洛高校から徒歩20分くらいにあるゲームセンターだ。テンションが学校の時よりバグっているように見えるのは、学校外という事もあり、テンションのリミットが外れているからか。

「本当なら俺らアホ6人でプリクラ撮りたかったが・・・・・・悲しいかな。今の時代プリクラは野朗だけじゃ入れないんだよな」

「な、男だけで入れるプリクラもあるらしいが、ここはなさそうだし。まあ、仕方ないな」

「今度野朗だけで入れるプリクラ設置してるとこ探しとくわ。たぶん都心の方になりそうだけどな」

 C、D、Eが軽く涙目なAを無視してそんな事を話し合う。野朗でもプリクラは撮りたいのである。

「次どうする? まあまあいい時間だし、そろそろカラオケでも――って、ん?」

 Fがそう言おうとした時だった。Fの視界にどこか見覚えのある人物が映ったような気がした。

「おい、お前ら。あれって・・・・・・・・・・前髪くんじゃねえか?」

「「「「「え?」」」」」

 Fの指摘に5人は驚いたような声を漏らす。Fの見ている方向に5人も顔を向けた。

 すると、前髪に顔の半分が覆われた1人の少年が半袖短パンの夏らしい姿でアーケードゲームを見渡していた。あの特徴的な前髪の長さは間違いない、前髪くんである。

「まじか、まさかこんなとこで出会うとは・・・・・・・やはり俺たちの道は、交叉する道クロスロードだったようだな」

「ああ、俺たちはきっと魂で結ばれているのさ。どうする、声かけるか?」

 未だに軽く頭をさすりながら、Aがしみじみといった感じでそう呟いた。Aの言葉に同意するように頷いたBが周囲のアホ共にそんな提案をする。つまり自分たちと遊ばないかと誘うという事だ。

「いや、確かに俺も前髪くんとは仲良くなりたいし、話したいとは思うが・・・・・・・今はやめといた方がいいんじゃないかと俺は思う。たぶんだけど、前髪くんは1人が好きな人種の気がするんだよな」

「そうだな、俺もCに賛成だ。俺たちは前髪くんの人となりをあんまり知らないし、Cの言葉は完全な偏見になっちまうが、俺もそう思うんだよな。前髪くんが1人が好きだった場合、いま俺たちが声をかけるのは逆にストレスになっちまう。なんせ今は明らかにプライベートだろうし」

 だが、CとDはBの意見に反対した。理由はいま2人が述べた通りである。

「うーん、まあな・・・・・・・・俺はぶっちゃけ声かけたいけど、CとDの意見も分かるな。きっと前髪くんも予定とかありそうだし・・・・・・つーわけで、俺もCとDに賛成だ。声かけるとしたら、また学校でかけようぜ」

「それが1番丸いか。じゃあ俺も声かけない方に賛成だ」

 EとFも続くように反対の方に賛成した。過半数の意見は決まったので、Bは「わかった」と言ってこう言葉を続けた。

「それじゃあ、いま声をかけるのはなしだ。Aもそれでいいか?」

「全然。俺たちの道は交叉しているんだ。なら、いずれまた機会はあるさ」

 Aは全てを悟ったようにそう言った。傍から見なくとも、明らかにヤベェ奴だし言動も意味不明であるが、それは今に始まった事ではないので逆に無問題モーマンタイである。

「よし、なら決まりだ。ついでに時間もいい時間だし、そろそろカラオケ行くか。こっから歩いて5分だしすぐだ」

「「「「「了解ー」」」」」

 珍しく普通の気遣いを見せたアホ共はゲームセンターを後にして、カラオケに向かった。











「ん? なんだか視線を感じたような気がしたが・・・・・・気のせいか」

 そんなことを呟きながら、前髪くんこと影人はキョロキョロと辺りを見回した。なぜか視線を感じたような気がしたのだが、どうやら勘違いだったようだ。

「ま、ここゲーセンだしな。視線を感じるような事もたまにあるか。それよか今日は遊び倒さないとな。ったくあの担任、何が倉掃除の日が決まったから4日後に来いだ。クソだるいぜ・・・・・・」

 ブツブツと文句を言いながら、影人はゲーム機に100円玉を投入した。軽く不機嫌なのは、先ほど影人の担任教師である榊原紫織から倉掃除の日程を伝えるメールがあったからだ。

 送られてきたメールには、紫織の家の住所と地図が添付されていた。つまり、「迎えに行くのはだるいから来い」ということだ。全くふざけた教師である。しかも、紫織の家の倉はかなり大きいらしく掃除には最低でも3日間はかかるらしい。ふざけるな、そんな話は聞いていない。

 まあ、影人と紫織以外にも1人助っ人はいるから、上手くいけば2日で終われるかもしれないと言っていたが、それでも2日は拘束されることが確定している。夏休みの2日は貴重であるというのに。

 そんなわけで、影人は倉掃除の日までは夏休みをとりあえず満喫しようと決めていた。元々、影人は1人が好きな人間だ。今日はゲームをやりまくる日だが、明日は1人で本屋を巡ろうと決めている。

「ふへへ、1人最高だぜ。頼むから暁理からの急な連絡とかスプリガンの仕事やらは来てくれるなよ・・・・・・・」

 気色悪い笑い声をあげながら、影人は心の底から邪魔が入らない事を祈りつつ、オンラインの対戦相手とのゲームを始めた。

 こんなのが主人公である。悲しむべし、悲しむべし。














「俺の歌を聞けーーーーーーーーー!」

「ふー! いいぞB! お前の魂の叫びシャウトを聞かせてくれーーーー!」

「行けよ友よッ! 目指すは100点だ!」

「てっぺんだ! てっぺんしか見えないぜ!」

「バ○ラの兄貴ーーーー!」

「やっはーーーーーーーーーーー!」

 カラオケのとある一室。完全にテンションのタガが外れたアホ共は、それはそれは盛り上がっていた。世紀末テンションである。絶対そのうちヒャッハーとか言い出しそうだ。

 今はBがテンションのまま、その上手くもなければ下手でもない歌声を披露しているところだ。A、C、D、E、Fの5人はそんなBをひたすらに盛り上げていた。

「奪えッ! 全てッ! この手でッ!」

 Bがとあるアニソンを熱唱し始める。そう男の義務教育の1つである、あのアニメのオープニングだ。大胆に魂に火をつけるんだよ!

「ふぅ・・・・・・満足したぜ。ほれ、次はどいつが歌うんだ?」

 どこかスッキリとした顔でBがそう言った。心の底から熱唱したので、ストレスが解消されたのだ。

「次は俺だぜ! ふふふっ! 見てろよ聞いてろよお前ら! 俺が歌うのはもちろんジャストコミニ◯ケーションだ!」

 次の曲を予約していたFが嬉々とした様子で、Bからマイクをもぎ取った。

「いいぞF! ファンの歌唱力を見せてくれー!」

「お前を殺す!」

「強者なんてどこにもいないぜ! 人類全体が弱者なんだ!」

「俺が正義だ!」

「今わかったぜ! 宇宙の心はお前だったんだよ!」

 Fの選曲に完全にとあるロボットアニメWダブリューを見ていたであろう残りのアホ共が、そのアニメ中のセリフを言いながら盛り上げを図る。1人だけ殺人宣言してる奴いるくね? と思われるかもしれないが、このセリフはれっきとした第1話の主人公のセリフである。改めて見てもヤバイセリフである。

「テテンテテンテテンテテン!」

 イントロの部分から擬音を使って、なぜかヘッドバンキングをし始めるF。どうやら気分が最高潮に達したようだ。アホのテンションが限界突破とかむしろ恐怖を抱くわ。

「ジャストワイルドビートコミニュケーション!」

 Fは中々の歌声で歌を歌い始めた。ついでに首はずっと揺れたままである。良い子のみんなは首を痛める可能性があるので、激しすぎるヘドバンはやめようね。

「うはははっ! 楽しいな! しばらくずっと補習だが、お前らと一緒なら楽しくやっていけそうだぜ!」

 Fが熱唱する中、Aが心の底からの笑顔を浮かべながらそんな事を言った。Aの言葉に同意するように、残りの4人も楽しくて仕方ないといった感じの笑顔を浮かべた。

「ははははっ! 俺もだ! こんなに気の合う奴らがいたなんてな! 1年の頃から出会いたかったぜ!」

「違いない! 今年の夏休みは楽しくなるぜ!」

「さあさあさあ! もっと騒ごうぜ! ここは防音だから人様に迷惑はかからねえ!」

「飲めや歌えや! 酒はまだ飲めねえが、若いテンションに酒はいらん! 素面でも俺らは最強じゃーー!」

 B、C、D、Eがクスリでもキメてんのかといったテンションでそう言った。そして気がつけば4人は肩を組んでいた。

「AもFも来いよ! 一緒に肩組んで校歌でも歌おうぜ!」

「お! いいな! Fも一旦歌中止して歌おうや! その曲はまた後でも歌えるしよ!」

「ったくしゃーねえな! マイクはちょっと置いとくぜ!」

 Bの呼びかけにAとFは嬉しそうにそう返し、BとEの横に加わり肩を組んだ。端からA、B、C、D、E、Fの順番だ。

「音頭は俺が取るぜ! 呼吸を合わせろ! せーの!」

 端のAがリズムを作り始める。Aの呼吸に残りの5人も合わせた。

「「「「「「緑濃いみやこの端のー!」」」」」」

 夏の狂騒は風物詩。もちろん人に迷惑のかからない範囲のだが。

 世界には戦いや闘争が絶えないが、今この瞬間この場所だけは間違いなく平和だった。

 6人の若者は輝かんばかりの笑顔で歌いながら、青春を謳歌していた。

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