第83話 聖女来日(2)
「――なに考えてんだあんたはッ! いきなり橋から川に飛び込むなんてイカれてんのか!?」
日曜日の昼過ぎ。夏の暑い空気を裂くように、影人の怒りの声が青空の下に響いた。川に飛び込んだため全身が濡れた少女は、影人の怒号に驚いたようにパチパチとした目を瞬かせた。
「ですがお兄さん。そうしなければ、この子は助けられませんでしたよ?」
影人の目の前にいる少女はそう言って、自分が抱えている子犬に視線を落とした。少女同様、その白い毛を水に濡らした子犬は「クゥーン」と甘えたような声を出した。
「よしよし、可愛いですね子犬さん。あなたに家族はいますか? いるならば、家族の元に連れて行ってあげますね」
少女は抱いている子犬に慈愛に満ちた笑顔を向けた。子犬は少女の言葉は理解できないはずだが、まるで少女の言葉に感謝するように、その小さな頭を少女の胸に擦り付けた。
(・・・・・・・・はあー、ダメだこりゃ。やっぱりこいつは――聖女サマはどこか常人とは違うぜ)
怒る気力も呆れに変わった影人は、冷めたような目を前髪の下から少女に向けた。
そう。川の浅瀬に立ちながら子犬と戯れ、影人の目の前にいる少女は、昨日来日し日本に国賓として招かれている『聖女』、ファレルナ・マリア・ミュルセールだった。
そして知る人物はごく限られているであろうが、この少女は光導姫ランキング1位『聖女』でもあった。影人がその事を知ったのは、まだ3日前の事だ。
「ったく、何でこんな事になったんだ・・・・・」
「? どうかなされましたか、お兄さん?」
「いや・・・・・別に何でもない。気にしないでくれ」
大きくため息を吐いた影人に、ファレルナが不思議そうな顔で問いかけてきた。影人はファレルナにそう答えを返すと、心の内である女神にこう語りかけた。
(なあ、ソレイユ?)
『そんなこと私が聞きたいですよ。まさか、本当にあなたがファレルナと接触する事になるとは私も思っていませんでしたし・・・・・・・・』
影人の念話にソレイユは困ったような声音でそう言ってきた。一応、ソレイユは影人が日本にやって来たファレルナに関わるかもしれないからといって、目の前の少女の、普通の人間は知らない情報を教えたのだが、実際は影人も言っていたように関わり合いになる事はないだろうと思っていたのだ。
(まあ、そうだよな・・・・・・・・・はあー、絶対に関わらないと思ってた奴と関わる事になるなんて・・・・・・・やっぱ呪われてんのかな、俺)
今日何度目かになるため息を吐きながら、影人はこの少女と関わる事になった経緯を思い出した。
「暑い・・・・・・・暑いが、笑っちまうくらい良い天気だな」
灼熱一歩手前といった感じの太陽の光を浴びながら、影人は自転車を漕いでいた。
今日は日曜日。何の部活にも所属していない影人は当然ながら休日だ。午前中は少し雨が降っていたが、正午あたりには雨もやみ、夏といった感じの晴天に天気は変わっていた。その天気の変化は、前髪野朗の心にも影響を与え、影人は自分の自転車で当てのないサイクリングに繰り出していた。
「ぶらぶらぶらと・・・・・・やっぱり天気のいい休日は、地元を探索するに限るぜ」
キーコキーコと緩やかに自転車を漕ぎながら、影人は周囲を見渡した。今のところ見渡す限り民家しかないが、影人は別に不満は覚えていなかった。
影人の趣味の1つは、地元を探索すること。まるで若者らしくない趣味である。だが、本人は楽しんでいるのでそこら辺は個人の自由だろう。
「喉渇いたな・・・・・・・・・」
20分ほどだろうか。自分の知らない道を気分の向くままに自転車を漕いでいた影人は、汗を拭いながらそんな事を思った。周囲は変わらず民家しかない住宅街であるが、どこかに自販機くらいはあるだろう。
「っと、あったあった」
何度か道を曲がり、影人は赤色の自動販売機を見つけた。自動販売機の前に自転車を止めて、影人は肩に掛けていたウエストポーチから財布を取り出した。
さて何にしようかと飲み物を見ていると、影人の視界の端に人が映った気がした。周囲には影人しかいなかったので、少し気にしてしまったが、まあそれは別にどうでもいい事だ。影人は硬貨を入れて緑茶のペットボトルを購入した。
「――あの、すみません。1つお聞きしたいのですが」
「ん・・・・・・・?」
ガチャンと音を鳴らして受け取り口に出てきたペットボトルを取った瞬間、影人は後ろから声を掛けられた。
「はい、何ですか?」
影人が振り返ると、そこには少女が1人立っていた。
「は・・・・・・・・・・・・・・?」
少女の姿を見た影人は、思わずそう声を出してしまっていた。だが、それは仕方のない事だ。なぜなら、そこにいた少女は影人が絶対に関わる事がないと思っていた人物だったからだ。
「お兄さん、ここはいったいどこなのでしょうか?」
プラチナ色の長い髪に、赤みがかった茶色の瞳。可愛らしい顔立ちのその少女は、軽く首を傾げてそう質問して来た。
その少女は、現代の『聖女』であり、光導姫ランキング1位『聖女』でもある、ファレルナ・マリア・ミュルセールその人であった。
「どこって・・・・・いや、警備も付けずに何で君がこんな場所に、違う、今はそんな事よりも・・・・・・・・」
目の前の現実に混乱した影人は、思わず手に持っていたペットボトルを地面に落とした。
「まあ、落とされましたよ。はい、お兄さん」
混乱している影人をよそに、ファレルナは手を口元に寄せて驚いたような表情を浮かべた。そして影人の落としたペットボトルを拾い、影人にペットボトルを差し出して来た。
「ああ、ありがとう・・・・・・・・・・・いや、やっぱりちょっと待て! 本当に現実かよ!?」
ファレルナからペットボトルを受け取った影人はハッとした表情になり、自問自答するようにそう叫んだ。とりあえず自分の右手の手のひらで頭を打ってみる。痛い。普通に痛い。ということは、どうやら影人がおかしくなったのではなく、やはり目の前にいる少女は本物という事になる。
「大丈夫ですかお兄さん? いきなりご自分をお殴りになるなんて、そんな事はいけませんよ?」
「大丈夫、大丈夫だ! ちょっと混乱してて、ようやくいま現実だと理解しただけだ! だから気にしないでくれ!」
キョトンとした顔でそう言ったファレルナに、影人はちぎれんばかりに手を振りながらそう言った。流石に『聖女』におかしい人扱いされるのは社会的に色々とまずい気がした。
『ぷっ・・・・・・・ははははははははははははっ! 影人、やっぱお前最高だぜ! まさかマジで1位の光導姫と会うとはな! くくくっ、笑いが止まんねえ!』
影人がファレルナに必死の弁明のようなものを行っていると、影人の脳内に爆笑したような声が響いた。ソレイユの声ではない。イヴだ。
(てめえイヴ! 笑い過ぎだろ!? こっちはありえん事態が起きて必死だってのによ!)
イヴの笑い声を聞きながら、影人は内心そう叫んだ。どうやら、肉声に出さなかった理性は残っていたようだと、影人は自分で自分を褒めたくなった。
『はははっ、知るかよ。お前があたふたしてんのが俺は楽しいんだ。いい気味だぜ』
(後で覚えてろよお前・・・・・・・!)
小馬鹿にしたようなイヴの言葉に、影人は恨み言を内心で呟いた。この恨み晴らさでおくべきか。
「お兄さん、どこか具合が悪いのですか? いきなりお黙りになられましたが・・・・・・・」
「っ・・・・・いや、体調は別に悪くない。いたって普通だ。急に黙ったのは、まあ色々とな」
心配するような声音で影人に語りかけてきたファレルナに、影人はようやく普段通りの声でそう答えた。自分にしては落ち着くのに時間がかかった気がしたのは、きっと気のせいではない。
「ところで、あんたの・・・・・・いやあんたはさすがに失礼か。聖女サマの質問は、ここはどこかってものだったよな。すまないが全く話が見えてこないんだが・・・・・・・そもそも、なんで聖女サマは知らないはずの場所にいるんだ?」
「お兄さん、聖女などとは呼ばずに、私のことは気軽にルーナと呼んでください。それについては、話せば少し長くなるのですが・・・・・・一言で言うなら、助けを求める声が聞こえたんです」
「助けを求める声・・・・・・・?」
そのファレルナの答えに、影人は眉を寄せた。疑問からではない。ただ、目の前の少女がいったい何を言っているのか理解しきれなかっただけだ。
そして今更だが、この少女は流暢に日本語を話すなと影人は感じた。確かテレビでやっていたが、『聖女』の言葉は万人が理解できるという。この事実もファレルナが起こした「奇跡」であると言われている。オカルトじみた話ではあるが、これは事実であるらしい。実際、ファレルナの言葉に翻訳者はいらないとこれもテレビで言っていた気がする。そこら辺の事情は学者たちが躍起になって謎を解明しようとしているらしい。
つまりそのオカルト話を信じるとするならば、厳密にはファレルナは日本語を話しているわけではないという事になるが、それは別にどうでもいい。いまこの状況で言語が通じている。大事なのはその事実だけだ。
「はい。たまにではあるのですが、時折そう言った声が私の中に聞こえてくるんです」
そう言って、ファレルナはなぜ自分がここにいるのかの理由を話し始めた。
今日はこの辺りの大きな会場で信者の人々(ファレルナの信者ではない。宗教のである。だが、ファレルナを崇拝している者も決して少なくはない)と話し合いをするイベントがあったのだが、そのイベントが終了しファレルナが待ち合い室のような場所で休憩をしていると、ファレルナの頭の中に助けを求めるような声が聞こえてきたらしい。
ファレルナはその声の主を探すべく、書き置きを残し1階であったので窓から待ち合い室を抜け出した。そして声のする方に従って歩いていくと、泣いている女児を発見したらしい。ファレルナがその女児になぜ泣いているのかと理由を聞くと、女児は「お母さんとはぐれた」と言ったそうだ。ファレルナはそんな女児を助けるべく一緒にお母さんを探す事にした。
幸い、女児の母親は近くを探し回っていたためすぐに見つける事が出来たようで、女児はちゃんと母親の元に帰ったらしい。女児と母親からお礼を言われたファレルナは、会場に戻ろうとしたのだが、土地勘の全くない外国という事もあり、自分のいる場所がどこなのか分からなくなった。
そんな時影人を見つけたので、ファレルナは影人に話しかけてきたというわけらしい。
「・・・・・・・・・・・・・・聖女サマ、1つだけ質問していいか?」
「はい、何でしょう?」
とりあえずファレルナが今ここにいる理由は分かった。その上で影人はファレルナにこう質問した。
「・・・・・・・要するに、聖女サマは無断で抜け出してきたって事だよな。という事はだ、今ごろえげつないくらい騒ぎになってるんじゃないか?」
「そうでしょうか? ちゃんと『すぐに戻ります』という書き置きを残しておきましたので、大丈夫だと思いますよ?」
「大丈夫なわけないでしょうよ・・・・・・・・・・・・・」
心の底から影人はため息を吐いた。この少女は自分が何をしたか分かっているのだろうか。国賓が一時でも失踪したとなれば、国際問題に発展する事は間違いない。別に影人は政府の人間ではないが、それくらいは分かる。
(というか、この状況的にもし第三者が俺のこと見たら、俺が誘拐犯扱いされねえか? ダメだ、絶対にそんな気がする・・・・・・・・・・・)
影人にとって1番いい方法はファレルナを無視してさっさとこの場から立ち去ることだ。きっとそれが1番いい。面倒ごとはごめんだ。
(・・・・・・・・・・・だが、『聖女』とか関係なくこの子はまだ15の少女。俺より年下だ。そんな子が外国の分からない土地で迷子になってるってのは、精神的にだいぶ不安になってるはず。俺が逆の状況なら、吐く一歩手前まで絶対にいく。・・・・・・・・・・・・ああ、クソ。本当に俺はツイてねえな)
影人はファレルナの事が苦手だ。嫌いではないが苦手。更に迷子の子を助けたら、今度は自分が迷子になったという中々の天然屋だ。善人の天然屋というのは、いよいよもって自分は関わりたくなかった。
しかし、自分が出来る事ならばしてやらなければならないだろう。幸い自分にはスマホがある。
結局のところ、影人はファレルナを見捨てきれなかった。
「・・・・・・・・聖女サマ、あんたはその会場に戻りたいんだよな?」
「はい。あとお兄さん、先ほども言いましたが私の事はルーナと――」
「それは遠慮させてもらう。初対面の人間を愛称で呼べるほど神経が図太くないからな。で、その会場だがちょっと待ってくれ。とりあえず検索かけてみるから」
ファレルナの再びの提言をバッサリと切り捨てながら、影人はウエストポーチからスマホを取り出し、検索エンジンを使って自分が今いる場所を確認する。
「・・・・・・ふむ。この近くの大きな会場って言うとここか?」
影人は地図に引っかかった会場らしき場所の写真をファレルナに見せた。スマホをジッと見つめたファレルナは「はい、ここです」と首を縦に振った。
「そうか。まあ、ここから徒歩15分くらいの場所だ。聖女サマはこっからどうやって戻るか分からんだろう・・・・・・・・・・・・だから、連れて行ってやろうか?」
「いいのですか、お兄さん?」
影人のその言葉を聞いたファレルナは軽く目を開いてそう聞き返してきた。どうやら、案内までしてくれるとは思っていなかったようだ。
「・・・・・・・出会っちまって、しかも迷子なんだろ。なら仕方ない、もう現実を飲み込むさ。あと、別に今日は暇だしな」
ガリガリと頭を掻きながら、影人はぶっきらぼうにそう返答した。そう、仕方ないのだ。もう『聖女』と関わってしまったという現実は変えられない。
「では、お言葉に甘えてもよろしいでしょうか? ありがとうございますお兄さん。実はかなり困っていたんです。ここでお兄さんと出会えた事は、きっと神様の思し召しですね」
(・・・・・・・・・・・もしそうだとしたら、俺はその神様に死ぬほど文句を言いたいがな。つーか、ソレイユだったらアホほど文句言えるんだが、それはないだろうしな)
ファレルナの笑顔を見た影人は内心そんな事を思った。もし、これがファレルナの言うように神の思し召しだとしたら、自分は間違いなくその神にキレるだろう。
「なら、ちょっと待ってくれ。まず先にやる事がある」
影人はとりあえずカラカラの喉を潤すべく、手に持っていた緑茶を飲んだ。かなり渇いていたので、ペットボトルの中身は一気に半分ほどになった。
「ぷはっ・・・・・・・生き返るな」
蓋を閉め一息ついた影人は、再び財布から硬貨を取り出した。そして今度はミネラルウォーターを購入した。
「ほら、飲めよ。水分取らないと熱中症になるぞ。あとタオルだ。まだ俺は使ってないからそこは安心してくれ」
「わわっ、お兄さん私は持ち合わせがございません。だからこれらを受け取るわけには・・・・・」
「聖女サマがなに俗なこと言ってんだ。いいから受け取れ。途中で倒れられたらこっちが困るんだよ」
そう言って影人はファレルナにミネラルウォーターとタオルを押しつけた。ファレルナの格好は肌の露出が少ないドレス姿だ。そのため顔には汗が浮いている。今の日本では明らかに暑い格好なのは明白である。
「で、でも・・・・・・・・・・」
「いいから。じゃなきゃ、勝手に水飲ませて顔拭くぞ。それは嫌だろ」
遂に影人の言葉に観念したのか、ファレルナは「す、すみません。では受け取らせていただきます」と申し訳なさそうな顔をして、影人からミネラルウォーターとタオルを受け取った。
ファレルナはまずタオルで自分の顔の汗を拭い、それからペットボトルの水に口をつけた。
「ごくごく・・・・・・・はぁ、とても美味しいお水ですね! お兄さん、本当にありがとうございます。このご恩は一生忘れません」
「いや、重いからそれは逆に困るんだが・・・・ああ、タオルは返してもらうが、水はやるよ。俺には緑茶があるからな」
水とタオルを返そうとしてきたファレルナから、影人はタオルだけ受け取りそう言った。他人が口をつけたペットボトルを飲むのは色々と気が引ける。それが『聖女』であるならば、尚更だ。
「じゃあ、そろそろ行くか。はぐれないように気を付けろよ、聖女サマ」
「はい、お兄さん。本当に色々とありがとうございます」
「そんなにお礼ばっか言わないでくれ。別に俺は普通の事をしてるだけだ」
自転車を引きスマホの地図を見ながら、休日の前髪野朗は何の因果か迷子の『聖女』を連れて歩き始めた。
(おい、ソレイユ。返事が出来るなら返事してくれ)
ファレルナと共に目的地の会場を目指していた影人は、心の中でソレイユに念話を行った。一応、この事態を報告しておかなければと思ったからだ。
『はい。影人? 珍しいですね、あなたの方から念話をしてくるなんて。何かありましたか?』
(おう、あったぜ。ビックリ仰天のふざけた話がな。実はな――)
かくかくしかじかといった感じで、影人はソレイユについさっき起きた事を話し始めた。影人の話を最後まで聞いたソレイユは、影人にこう聞いてきた。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジですか?』
(マジもマジ大マジだ。疑うんなら俺の視覚共有してみろよ)
ソレイユがファレルナの姿を確認できるように影人は自分の隣を歩いているファレルナの姿を見つめた。といってもファレルナは影人の視線に気がついた様子はない。前髪様々である。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジじゃないですか』
(だから言っただろうマジだって。嘘みたいな本当の話だ。まさか、お前が言ってた万が一が本当に起こるとはな)
視覚を共有したらしいソレイユが漏らした言葉に、影人は投げやりな感じでそう呟いた。
『・・・・・・・・・影人、あなたの本質の事といい、今回のファレルナとの出会いといい・・・・・・・・・・あなた他の神に呪われているんじゃないですか?』
(そんなこと俺が知るかよ・・・・・・・・とりあえず俺はこの子を送るが、それ以降はもう関わらん。これは絶対だ)
ソレイユの疑わしそうな声を聞きながら、影人はそう誓った。というか、もう関われないというのが現実な気がするが、とにかくそう誓った。
「? お兄さん、あれは・・・・・・」
「ん、なんだ?」
いまファレルナと影人は小さな橋を渡っているのだが、ファレルナが下の川の方を指差しながら、そう呟いた。
「キャウン! キャウン!」
ファレルナの指差す方を見てみると、白い子犬らしきものが声を上げながら川に流されていた。もう少しで影人たちのいる真下まで流れてくるだろう。今のところバタバタと足を動かして溺れてはいないようだが、いつ力尽きるかわかったものではない。
「子犬だな・・・・・・・・・可哀想だが、俺らに出来ることは――」
影人が諦めたように言葉を紡ごうとした時、ファレルナが突然こう言った。
「お兄さん、すみませんが少しこれを持っていてくれませんか?」
「え? ああ、それはいいが・・・・・・・」
ファレルナがペットボトルを影人に渡してきた。影人は反射的にそのペットボトルを受け取った。いったいどうしたと影人が聞こうとした次の瞬間、
「えい!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
ファレルナは橋から川に飛び込んだ。
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