第18話 共闘

「いい加減こっちの名前で呼んでくれよ。な、アカツキさん?」

 闇奴との戦闘の最中だというのに、ヘラヘラとした顔で灰色を基調とした服を纏った守護者スケアクロウは緊張を全く感じさせない声でそう言った。

「何度でも言うけど、面倒くさいんだよね。それと、意味は一緒だって何回も言ってるだろ。かかし」

「あんたもわからない人だなあ・・・・・」

 かかしは大きくため息をついた。

 アカツキがかかしと出会った際のおなじみのやり取りをする中、陽華と明夜は闇奴に注意を払いつつ、アカツキに言葉を投げかける。

「あの、アカツキさんはこの方と知り合いなんですか?」

「見たところ守護者のようだけど・・・・」

 2人の質問にアカツキは軽く質問に答えた。

「うん。こいつの名前はかかし。一応守護者のランカーだから実力はあるよ」

「ス・ケ・ア・ク・ロ・ウな。初めましてお2人さん。出来ればもう少しお話ししたいところだが――それはまた後ほどだな」

 スケアクロウはくるりとその少し短めの槍を片手で回すと、軽薄な笑みを貼り付けたまま光導姫たちの前に移動した。

「――――!」

 キメラのような闇奴は羽の攻撃が効かないとようやく理解したのか、徐々にこちらに近づいてきた。

「来るぜ!」

「わかってるよ・・・・・!」

 かかしの警告にアカツキはそう返した。

 闇奴はその2本の足で地面を踏みしめながら、再び初めと同じように爪による攻撃を繰り出してきた。

「オーライ」

 かかしは守護者らしくその攻撃を槍で受け止めそれをいなす。

 その隙にアカツキは闇奴の後方に移動した。

「ブルーシャイン! 君は距離を取って援護してほしい! レッドシャインは僕たちと一緒に近接で!」

 アカツキは先輩の光導姫らしく陽華と明夜に指示を飛ばしながら、剣で獣人タイプに分類される合成獣のような闇奴の背中を斬りつける。闇奴はその攻撃の痛みのためか少しよろめいた。

「「了解!」」

 アカツキの指示に了承の意志を示した2人はすぐさま行動に移る。

「はあッ!」

 明夜は闇奴から距離を取るべく駆け出し、陽華はガントレットを纏った拳で闇奴に打撃を与えた。

「――!」

 浄化の力の宿った攻撃を受け闇奴は先ほどのアカツキの攻撃と同じく少しよろめく。そしてその隙を突いてかかしは闇奴の足に槍を突き刺した。

「隙ありだぜ」

 ニヤリと笑いながらかかしは、闇奴が力任せに横薙ぎに振るった腕を素早く槍を引き抜きながらひらりと避けた。

 大通りの街灯の明かりに照らされた闇奴の姿を見ると、今かかしが槍を突き刺した部分から黒い液体のようなものが流れ出していた。その黒い血のようなものは闇奴の力の源のようなものなのか、それを流せば闇奴が弱体化するのは光導姫・守護者の常識だ。

「チャンスだぜ、光導姫のみなさま」

 しかし守護者は光導姫とは違い、闇奴を浄化することはできない。守護者に出来ることは攻撃により闇奴を弱らせることか、光導姫を身を挺して守ることだけだ。

「はい! ありがとうございます!」

「サンキュー、かかし!」

 陽華と暁理はスケアクロウにそう言うと、闇奴に怒濤の攻撃を仕掛けていく。

「――!」

 浄化の力が宿った斬撃に打撃を立て続けに受け、闇奴は悲鳴のような声を上げた。

 そしてその攻撃から逃げようと、闇奴は片翼や鋭い爪を暴れるように振り回す。

「わっとっとと・・・・・! 危ないな!」

「くっ・・・・これじゃあ近づけない!」

 暁理と陽華は闇奴から一旦距離を取る。スケアクロウも2人と同じく暴れ回る闇奴の攻撃を避け距離を稼いだ。

「まるで駄々をこねた子供だな・・・・・つっても近接が主体の俺らじゃ今の闇奴には近づけないんだよなー」

 スケアクロウが困ったという表情を作る。その表情を横目でチラリと見たアカツキはスケアクロウに胡散臭いものを見るような視線を送った。

(本当に困ってるように見えないのは僕の偏見かな・・・・・・)

 それはアカツキのスケアクロウに対するイメージが大部分を占めている、いわゆる主観というものなのだが、どうもかかしは本当に困っているといった感じに思えないのだ。確かに、かかしの言うとおり現在暴れている闇奴に近づくことは難しい。それは事実だ。

 だが何というのだろうか。彼の軽薄さのせいなのか、かかしにはもっと底知れない何かがあるような・・・・・・

「――私を忘れてもらっては困るわね」

 明夜が少し不満げにそう呟くと、闇奴に向かって水の鞭のようなものが5本ほど伸びてゆく。水の鞭は闇奴の体に絡みつくと、その体の自由を奪う。

「――!」

 今まで無作為に暴れていた闇奴はその結果、その暴走を止めることになった。

「おお、やるもんだね」

 かかしが感謝の意を示してか、明夜の方にヒラヒラと手を振ってきた。

「ありがと、ブルーシャイン。これで近づけるよ」

「ありがとう! み――ブルーシャイン!」

 陽華がつい癖で明夜の名前を呼びそうになるが、そこはどうにか気づくことが出来た。3人は再び闇奴に攻撃を仕掛ける。

「・・・・・分かってはいるけど、私って援護や後衛担当なのよね。最近、闇奴の動きを止めることばっかりだわ」

 後ろで3人の姿を眺めながら明夜は不満というか悩みのようなものを独白した。

 後衛というポジションがとても重要なのは明夜にもわかっている。分かってはいるのだが、明夜も某日曜朝の少女向け番組を見て育って世代だ。欲を言うのであれば近接で陽華のようにガンガン殴りたい。

「まっ、そういった運命さだめだったということね」

 明夜は少し格好をつけようと杖をくるりと回そうと思い、派手にミスってその杖を落とした。こういうところがクールビューティー風なのにポンコツというかバカと言われるゆえんの1つだ。

 明夜が慌てて杖を拾ってる間にも、陽華や暁理、かかしは闇奴の攻撃を時には受け、時には回避して闇奴に攻撃を行っていた。

「おーい、アカツキ。そろそろ決めてもいいんじゃねえの?」

 スケアクロウが体から所々黒い血のようなものを流している闇奴を見てアカツキにそう言葉を投げかける。無論、その傷はスケアクロウとアカツキの武器による傷だ。

「確かにね。ならフィナーレと行こうかな!」

 アカツキがバックステップで闇奴から少しだけ距離を取る。そして剣を正面に構える。

「――浄化の風よ、我が剣に宿れ」

 アカツキがそう唱えると、その壮麗な剣に浄化の力を宿す風が剣に集中した。そうして浄化の力の宿った剣を携え、アカツキは闇奴に向かって駆け出した。

「――!」

 闇奴は危険を感じたのか、アカツキの方に集中する。しかし、その隙をかかしと陽華が見逃すはずがない。

「よそ見は厳禁だぜ?」

「そこっ!」

 かかしはチクチクといやらしく闇奴に弱体化を促す血のようなものを流させていき、陽華は浄化の力の宿った拳を闇奴にぶつける。

「――! ――!」

 闇奴は悲鳴のような声を上げ、かかしと陽華の方に集中せざるを得ない。

「疾風――」

 その隙にアカツキが必殺の一撃を叩きこもうとその剣を振るう。

 その攻撃により闇奴は浄化された――かに思えた。

「――――!」

 しかしそこで不測の事態が起こる。闇奴が突然、咆哮したかと思えば、闇奴の腰の部分辺りから固い甲殻に覆われた尻尾のようなものが出現したのだ。

「なっ!?」

 そしてアカツキの必殺の一撃はその尻尾に弾かれた。

「おいおい、こいつは・・・・・!」

「まさか・・・・・ちっ、みんな距離を取れ!」

 それだけではない。今まで片翼だった翼が新たに闇奴の背から生えてきて、両翼になり、鋭かった爪はさらにそのリーチが伸びて凶悪になる。

 その現象を目の当たりにして、スケアクロウは少し冷や汗を流し、アカツキは指示を飛ばした。

「――!!」

 そして頭部はぎょろりとした目が額に追加され、両の目と合わせて合計3つに。肉食獣を思わせる獰猛な牙を覗かせていた口の部分は大きく裂ける。

 そこにいたのは正しく化け物と呼ばれる者の類いだった。

 そして化け物――闇奴は先ほどよりも禍々しい姿になり生まれ変わったように咆哮を上げた。

「最悪だ・・・・・! 野郎、段階進化シフトアップしやがった!」

「くっそ・・・・! レッドシャイン、ブルーシャイン! 気を引き締めてッ! あいつはさっきまでとは全く違う強さになってるよ!」

 かかしとアカツキは顔つきを真剣そのものにすると、油断なく闇奴を睨み付ける。

「ッ・・・・・・!? はい!」

「一体何が起こったっていうのよ・・・・・・!」

 陽華と明夜には何が何だか分からなかったが、スケアクロウとアカツキに尋ねている暇がないことくらいは、2人の言動から分かった。

「――! ――!」

 第2ラウンド開始の合図かのように、闇奴は4人に襲いかかった。








「・・・・・・・何だ、ありゃ」

 大通りに面する少し大きな建物の屋上でスプリガンに変身した影人は疑問の声を上げた。

 ソレイユから闇奴が出現したと念話が送られてきたときは、またかと思い家から近かったので走ってきたが、大通りというこれまたどこに隠れて様子を窺えばいいのか難しい場所が現場だったので、前回と同じく高い場所から観察しようという結果に落ち着いたわけである。断じて高い場所が好きだからというバカみたいな理由ではない。

 守護者が光司ではなくよく分からない人物なのは気になったが、ソレイユ曰く「たまたま近くに守護者がいたので、その人物を現場に向かわせたとラルバが言っていました」ということだ。本来なら光司という上位の実力が伴った守護者に今回も同伴してもらいたかったとソレイユは言っていたが、今回はランカーの光導姫もいるということで、大丈夫だと判断したようだ。

 影人も先ほどから4人と闇奴の戦闘を見守っていたが、自分が介入するほどの危機はないと判断していたのだが(ソレイユも納得していた)、闇奴の姿が変化したという初めての事態に、影人はどう行動するべきなのかわからない。

「――で、あれは何なんだソレイユ」

 ゆえに影人はソレイユにそう質問した。

『――あれは段階進化シフトアップと呼ばれるものです。人間の負の感情、心の闇が他の人間より強い者は、稀に段階進化という現象を起こします。端的に言うと、闇奴の強さが跳ね上がります』

「・・・・・・じゃあ、ヤバイじゃねえか」

 ソレイユの説明に影人は端的な感想を口にする。

 影人がこうして屋上から見守っている間にも、陽華と明夜、それに影人の知らない光導姫と守護者は段階進化を起こした闇奴と戦っている。

『確かに今の陽華と明夜には厳しい相手でしょう。まさかあの闇奴が段階進化をするとまでは考えていませんでした』

「なら助けに入るか・・・・・?」

 影人が帽子を押さえて、ここにはいないソレイユにそう問いかける。あの2人がピンチならそれを助ける。それが影人のスプリガンとしての仕事だ。

『・・・・・いいえ。幸いにも今回は闇人には段階進化していません。あの闇奴は闇人に近い力を持ってはいますが、闇奴に変わりはありません。それに光導姫アカツキと守護者もいます。ならここはあの2人の成長のためにも見守りましょう』

 だが以外にもソレイユの判断は影人が予想していたものとは違っていた。

「・・・・・・・意外だな。お前はもう少し過保護だと思ってた」

『それは必要な時だけです。陽華と明夜も時には自分たちより上の力を持つ闇奴と戦わなければ、成長は見込めません。だから影人、今は手出しをしないでください』

 ソレイユは神界にいるため、もちろん顔は見えないが雰囲気から厳しい顔色をしているだろうと察した影人は、「・・・・わかった」と一言だけ返した。

『・・・・・・私は薄情な女神です。あの子たちが今までと違う危険な相手と戦っているというのに、私はあえて陽華と明夜を突き放している』

 ソレイユがなぜ陽華と明夜のことだけを気にしているのかと言えば、2人がソレイユの切り札の1つというのも、もちろんあるが、単純に2人の実力があの闇奴と戦うには足りていないからだ。

 アカツキは光導姫ランキング25位。闇人と戦うこともある彼女のことは、ソレイユも心配していない。彼女の実力ならば、あの闇奴を間違いなく浄化できる。

 守護者に関しても、影人の視覚から様子を見ていたが相応の実力はある。

 ただし2人とも陽華と明夜のことを気にしながら戦っているので、未だに段階進化した闇奴に決定打を与えられていないというのが現状だ。

「・・・・・・違うな」

 影人もそのような事情はなんとなく察していた。そして敢えてそのような返答をソレイユに言い放つ。

『違うとは・・・・・?』

「俺をお茶に誘うためにあんだけはしゃいでたお前が薄情なわけねえだろ。あいつらが戦うことはあいつら自身が選んだ選択だ。例えあいつらが傷を負ったとしてもそれは自己責任。それに、冗談じゃなく死のリスクのある光導姫ならお前の言うように成長して実力をつけることが、あいつらの生存に繋がる。そういう事情を込みにして、お前はその判断をしたんだろ。・・・・・・・だからお前は薄情なんかじゃねえよ」

 ただただ事実を確認するような口調で影人はソレイユの薄情な女神という言葉を否定する。影人のその言葉を聞いたソレイユはしばらく呆けたように口を開かなかった。

『・・・・・・・・・・あなたという人は、本当に・・・・・・・ありがとうございます。私を励ましてくれて』

「勘違いするな、お前を励ましたわけじゃない。俺はただ事実を言っただけだ。・・・・・・・後、俺はお前に無理矢理この仕事やらされてるから、さっき言った自己責任には当てはまらないからな。つまり俺になんかあったらお前のせいだ」

 少し照れたように影人は早口でソレイユの言葉を否定した。

『ふふっ、分かっていますよ。・・・・・・影人、もし本当に危険が訪れた場合には――』

 ソレイユは全て分かっていると言った口調で影人の言葉を受け取ると、影人に指示を1つ言おうとした。だが、影人はソレイユの言葉の続きを分かっていたように、その続きを言葉に出した。

「――いつも通り助けろ、だろ?」

『ええ。お願いします』

 影人は鷹のようにその金の瞳で引き続き戦闘を見守った。









「ああー、本当に面倒くさい! あの雑魚闇奴、段階進化なんかしやがってよ!」

「うるさいよかかし! 闇人に段階進化シフトアップしなかっただけましだと思え!」

 一方、段階進化した闇奴との戦闘は熾烈を極めていた。

 闇奴は両翼になったことで低い高度なら飛べるようになったし、あのサソリの尾のような突起物も厄介極まりない。さらには目も1つ増えたことも闇奴を厄介にしている要素の1つだ。

「つっても、あいつ闇人並に厄介だぞ? どうすんだアカツキ」

「僕と君があの闇奴の注意を引きつけて、2人に浄化してもらう。実力的に考えればそれが1番ベストだ」

「了解だ」

 前線で闇奴の攻撃をいなしながらアカツキとかかしは闇奴をどのように浄化するかを話し合う。

 普段、闇人を相手にすることもある2人にはまだ余裕が感じられた。

「くっ・・・・!?」

 しかし、同じく前線で戦っている陽華にとっては。余裕など全く無かった。明夜の援護もありなんとか闇奴の攻撃に耐えてはいるが、攻撃する暇もない。

「氷弾よッ!」

 明夜が浄化の力を宿した氷弾を放つ。その攻撃を闇奴は第3の目で確認し、尻尾で迎撃した。

「よし、チャ――」

「レッドシャイン! 君は下がれ!」

 陽華がようやく攻撃に転じようとした瞬間、アカツキが陽華にそう指示した。

「え、何でですか!?」

「君はブルーシャインと一緒に闇奴を浄化してほしい! 隙を作るのは僕たちがどうにかする!」

 アカツキが風の力を使った素早い動きで闇奴に斬りつける。そのアカツキを狙うかのように尻尾がアカツキを突き刺そうとするが、その攻撃はスケアクロウが槍でいなす。

「つーわけで、お願いできるかいレッドシャインちゃん? 君のことを気にしながらだと俺らも動きにくい」

「っ・・・・・・・はい!」

 かかしの言葉は暗にお前は邪魔だと言っているようなものだ。それはとてつもなく悔しい事だが、それは事実だろう。陽華がいては2人は満足に動けない。

 その事実を受け止めながらも、いま自分がすべきことはアカツキの言った通り、明夜と一緒に闇奴を浄化する隙を窺うことだ。

 陽華はくるりと振り返ると、明夜の元へ駆けだした。

「ちょっと、キツい言い方過ぎたんじゃないかい?」

「事実だろ。それは彼女も分かってるさ、だから彼女はすぐに下がってくれたんだろ」

「君、僕の友人と一緒でデリカシーってやつが足りないよ!」

 一見、軽口を交わしているように見える2人だが、その実、闇奴の隙を窺っている。しかし、段階進化した闇奴は中々隙というものを見せてくれない。

 その間にも陽華はアカツキの言葉を明夜に伝え、いつでも闇奴を浄化する準備を整える。後はアカツキとスケアクロウの働きにかかっているというわけだ。

「かかし、僕があいつの注意を引くから君はなんとかあの額の目を潰してくれ。とにかくあれが面倒だ」

「簡単に言ってくれるねえ、まああんたの実力は知ってるし引き受けてやるよ」

「ありがと、なら少し本気で行こうか――かぜ旅人りょにん

 アカツキがそう呟くと、アカツキの周囲に風が吹き乱れる。そして先ほどよりも速い速度でアカツキは闇奴に襲撃をかける。

「――! ――!」

 闇奴はアカツキに尻尾や爪による攻撃を行うがそれらの攻撃は全てアカツキには当たらない。アカツキのスピードが先ほどとは全く異なるほど速くなっているからだ。

「――!?」

 闇奴は両の目でだけでなく第3の目でもアカツキの姿を追おうとするが、アカツキが速すぎて目で追いきれない。そこに一瞬の隙が生じた。

「――ほらよ、喰らいな」

 その隙にかかしは闇奴の膝の部分を踏み台に跳躍する。

 そしてかかしは槍を闇奴の額の瞳に突き刺した。

「――!? ――!?」

 闇奴は潰れた額の瞳を両手で押さえてうめき声のようなものを上げた。

「――!」

 反射的に闇奴は翼をはためかせ上空に逃げようとする。しかし、それをアカツキは見逃さなかった。

「させないよ!」

 アカツキは剣で闇奴の片方の翼の根元を切り裂いた。派手に黒い液体をまき散らしながら、翼は地に落ちた。再び片翼になった闇奴は飛び立つことが出来ない。

「今だ2人とも!」

 今度こそ決定的な隙を見せた闇奴にアカツキは陽華と明夜にそう叫ぶ。

 陽華と明夜は頷くと、その言葉を世界に響かせる。

「「汝の闇を我らが光に導く」」

 陽華が右手を前方に突き出す。

「逆巻く炎を光に変えて――」

「神秘の水を光に変えて――」

 明夜も陽華に続くように左手を前方に突き出す。

 陽華のガントレットと明夜の杖が光となり、2人の手に宿る。

 2人は闇奴に向かって必殺の一撃を放った。

「「浄化の光よ! 行っっっっっっっっっっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」

 光の奔流が闇奴に向かって放たれる。アカツキとかかしによって弱体化した闇奴はその奔流に飲み込まれた。

「おお、あの2人一緒に闇奴を浄化するのか。こりゃまた珍しいやり方だ、2人の分浄化力も2倍ってわけだ。それはそうと、アカツキさんよ、最初っからあれ使っとけよ。おかげさまで、余計な時間が掛かっちまったじゃねえか」

「風の旅人は使うと、明日に筋肉痛が確定するんだよ。か弱い乙女ならできるだけ使いたくないっていうのが、乙女心だよ」

「あんたが乙女って・・・・・冗談だろ?」

「君、殴るよ?」

 陽華と明夜の放った浄化の光を傍目に見ながら、アカツキとかかしは軽口をたたき合っている。

 そうこうしている内に、闇奴が浄化され中年と思われる男性が光の中から姿を現した。

「ご苦労様、2人とも。後はこのおじさんを介抱して――ん?」

 アカツキがそう言って2人を労う。


 しかし、そこで奇妙な事が起こった。

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