第15話 風洛高校の愉快な生徒たち
唐突だがギャグ回である。
「ち、まずいなこりゃ・・・・・・」
自分の部屋で帰城影人は悩んでいた。
5月も中盤に差し掛かったころ、風洛高校では明後日に中間試験が実施されようとしていた。
何がまずいかと言うと、影人は全く勉強していなかった。
なぜ勉強していないかと言うと、理由は簡単だ。
まず、なにぶんやる気が起きない。いや、全くもってやる気ゼロだ。それはそれは
その次にテスト一週間前の期間はなぜかものすごくゲームや読書がはかどる。これはテストというものを犠牲にして生み出される一種の快楽なのだ。
読者諸君もきっと経験があるのではないだろうか。この読者諸君という表現は有名なところでは江戸川乱歩、『少年探偵団』シリーズで用いられていたものだ。
しかし、現在では廃れた。理由は簡単、なんか偉そうだからである。
偉そうで投稿ペースの遅いゴミ作者のことは置いておくとして、影人は考えた。
どうすれば一切勉強せずに赤点を回避できるかと。
これでも影人は2年だ。テストは今まで1年の中間、期末、2学期の中間、期末、3学期の中間と合わせて5回受けている。その時は高校1年ということもあって多少は真面目に勉強したので何の心配もいらなかったが、別に普通の公立の高校のテストは赤点さえ回避すればチョロいということを知っている今となっては、そんな気力はあるはずがない。
しかし、赤点を取らないためとはいえ勉強はしたくない。ちなみに風洛の赤点の基準は30点だ。
「あれを・・・・・・やるしかねえか」
実は人生で一度はやってみたかったある行為。せっかく学生なのだから一度はやってみたいあの行為。だが、バレれば全てを失い夏休みの補習は確定するあの行為。
そうカンニングである。
「ふ・・・・・・・ついに俺もやるときがきたか」
今時、クールなだけの主人公などつまらないだけだ。やはり時代は人間味のある愛されクールキャラ。
「悔しいけど、僕は男なんだ・・・・・・」
クールキャラなんぞは変身した自分に任せておけばいい。あれはスプリガンで俺は帰城影人だ。
「そうと決まれば、明日にカンニングペーパーを作るか・・・・・・」
ふふっときっしょい笑い声を挙げながら、影人は暗い笑みを浮かべた。
その他にもイカれた奴らを紹介するで!
同時刻。風洛高校2年の一般男子生徒Aは悩んでいた。
「ま、まずい! 明後日はもうテストじゃないか!?」
明後日からテストが始まるというのに、この生徒はどこぞのバカと同じく全く勉強をしていなかった。
「あ、ああ・・・・・・どうすればいいんだ!?」
このままではまずい。非常にまずい。もし、このテストを落とせば夏休みの補習はほぼ確定する。そうなれば夏休みの野郎たちによる楽しい旅行の計画がポシャってしまう。それだけは絶対に避けねばならない。
その時、一般男子生徒Aに一筋の電流が走った。
「そうだ・・・・・! カンニングすればいいんだ!」
アホである。
だが、そんな2秒で考え直せばバカなこととわかるようなことを、この生徒Aは実行しようと心に決めた。
「よし! そうと決まれば、明日の放課後にカンニングペーパーを作ろう!」
なぜか希望に満ちた目で生徒Aは拳をグッと握った。
またまた同時刻。
「「「「「そうだ! カンニングすればいいんだ!」」」」」
風洛高校2年の男子生徒B,C、D、E、Fたちはそのような発想に至った。
これぞバカたちのシンクロニシティ。この世で最も無駄な奇跡の1つだ。
「「「「「そうと決まれば、明日カンニングペーパーを作ろう!」」」」」
そして綺麗に全員同じ結論に至り、これで快眠できると喜んだ。
・・・・・・・・・風洛高校の教師陣の方々は大変可哀想だ。
そして翌日の放課後。
影人はカンニングペーパーを作ろうと図書室を訪れていた。
図書室でカンニングペーパーを作ろうとはいい度胸だが、木の葉を隠すなら何とやらだ。
「さて・・・・・・作るか」
ペーパーをどこに隠すのかはまた後で決めるとして、まずは実際にペーパーを作らなければならない。
「紙のサイズは・・・・・これくらいでいいか」
適当なノートから紙を1枚ハサミで切り取り、それを細長く片手ほどのサイズにカットする。出していた筆箱にハサミを直し、影人は鞄から諸々の教科書とノートを取り出した。
とりあえず明日の教科のテストのペーパーから取りかかろうと、影人は教科書やノートの重要そうな単語をできるだけ小さい字で書き込んでいく。
しばらくそうしていると、図書室に新たな来訪者がやって来た。チラリと見たところ、男子生徒である。
男子生徒は影人から少し離れた席に座ると、影人と同じように教科者やらノートやらプリントを鞄から出した。
(ふん・・・・・・お真面目にテスト勉強かい)
心の中でケッと毒づいて影人は、カンニングペーパーを作る作業に戻った。自分はあんな真面目ちゃんとは違う。一世一代の賭けに挑むのだ。
このような思考に陥っていること自体、こいつが救いようのない愚か者の証明なのだが、当の本人はその事に全く気がついていない。だいたい、このような問題は本人が気づいていないことが多い。
その後も明日がテストだからか、図書室には続々と風洛の生徒たちがやって来た。どうでもいいことだが、全員男だ。
男子生徒たちは影人や先ほどの生徒と同じように、テスト勉強を始めた。
いま図書室には影人を含め7人の男子生徒がカリカリと、紙にペンを奔らせている。
(一旦、休憩するか・・・・・)
作業に疲れた影人が何気なく周囲を見渡す。どれ、真面目ちゃんどもの様子でも少し見てやるかと何様俺様バーナーナーの王様甘〇王的な態度のおまけ付きだ。要らねえので返品したい所存である。
手始めに自分の近くに座っているモブっぽい男子生徒Bの手元を見てみる。もちろんガン見するわけではなく、ギンギラギンにさりげなくだ。
(ん? あれは・・・・)
見てみると、男子生徒Bは小さな紙片に何やら細かい文字を書いている。それもできるだけギチギチっぽい感じでだ。
そしてその表情は真剣そのもの。
影人は悟った。偶然にもこのB(面倒なので略した)は自分と同じく挑むつもりなのだと。あの行為に。
(何てことだ・・・・・! こんな近くに俺と同じ勇者がいやがったのか・・・・・!)
思わず影人が驚いたような表情をすると、Bはニヤリと笑みを浮かべた。
(ふっ、気づいたみたいだね。俺は最初から気づいていたけど)
実はメガネを掛けていたBはくいっとメガネを持ち上げる。よくメガネキャラがやるあの仕草だ。どうでもいいがあの仕草だけでなぜあんなに賢そうに見えるのだろうか。謎である。
(同士よ、少しすれば君もわかるはずさ。今ここにいる者たち全員がテスト勉強をしているのではなく、カンニングペーパーを作っているのだと!!)
(ふ、前髪くんも気づき始めたか)
影人の次に図書室に入ってきた男子生徒Aもチラリと影人の様子を窺っていた。
(少し、遅いんじゃないか?)
さらには男子生徒Cも。
(天上の挑戦に挑むのはお前1人ではない)
男子生徒Dも。
(俺たちは7人の愚か者さ。だが、男には人生にはやらねばならない時がある! 倒れるなら前のめりにだ!)
男子生徒Eの熱い思い。
(そう俺たちは仲間だ。1人じゃないとわかっただけで、こんなにも勇気がわいてくる! やってやろうぜみんな!)
男子生徒Fの団結の心が。
影ながら影人に向けられる。
実は既にその事に気がついていた影人以外の6人は、勇者の目覚めを歓迎した。
そして影人も他の6人が自分と同じだとようやく気がつく。
(へぇ・・・・・・この世も捨てたもんじゃねえな)
心の底から高揚してくる。さながら自分たちは7人の侍といったところか。
お前らのような奴らが侍ならば、ちゃっちゃか武士道の答えを見つけてそれを実践したほうが世の為である。武士道とは死ぬことと見つけたり。腹ぁ掻っ捌け。
今や心で繋がった7人のアホどもは、心の中でお互に明日の成功を祈りあった。
(((((((グッドラック。幸運を)))))))
こうして仲間の存在を確認した7人は、メラメラとやる気を出してカンニングペーパーの制作を続けた。
・・・・・・・そのやる気を普通にテスト勉強に当てれば、いいものを。これが若さか・・・・・・絶対に違う。
そして問題のテスト初日。影人は自信を持った足取りで教室に向かっていた。
「・・・・・・完璧だ。さあ、世界の扉を開けるぜ」
ドヤ顔でそう呟きながら、気分はパリコレのモデルの如く影人は颯爽と廊下を歩く。
その無駄に気取った歩き方と影人の見た目のギャップで、廊下に出ていた生徒たちは一様に痛いものを見る目で影人を見た。その目が物語っているのは、果てしなくダサいといった感情だ。
だがそんなことに全く気がついていないパリコレ野郎は、自分の教室に到着すると席に着いた。そして余裕たっぷりに鞄から水筒を出して喉を潤す。
(ふ、無駄なあがきご苦労さん、だな)
少しでも詰め込もうと勉強している生徒たちを見て、影人はクールな笑み(あくまでも自分ではそう思っている)を浮かべた。
(暁理に朝宮や月下、香乃宮どもは間違いなくまともに勉強してやがるだろうが、俺は違う。他の勇者たちと共に俺はやってみせるぜ!)
カンニングペーパーの制作は終えた。影人はそれをカッターシャツの袖の内側に潜ませていた。我ながら完璧である。
「ふっふっふっ・・・・・・」
ついついにやけて笑い声が出てしまうがそれは仕方ない。未知への挑戦というものは得てしてワクワクするものだ。
可哀想なのは影人の前の席の人だ。また後ろの奴がいきなり変な笑い声を上げたものだから、彼は少しびくつきながら勉強に集中しなければならなかった。早く席替えが行われないかと切に願う彼である。
キーンコーンカーンコーン
「はい。みなさん席についてください」
がらがらと教室の戸を開けて、テストを持ったこのクラスの担任ではない教師がやって来た。まあ、それはテストなので当たり前だ。テストの時は大体知らない教師が監督を務めるものである。
「では、5分後に問題を配ります」
黒板に科目名と時間を書いて、その教師はそうアナウンスした。
いよいよ、風洛高校の中間試験が幕を開けようとした。
願わくば7人のバカたちが全員夏休みの補習が確定にならんことを。
(ふ、案の定全くわからん・・・・・)
テストが始まり、問題をざっと見た影人はにやりとした顔でそう思った。普通そのような笑みは、「楽勝だ!」とか思う時に浮かべるものだと思うが、こいつはどこか頭がおかしいのでこのような笑みを浮かべたのだろう。
(だがしかし! 俺にはこれがある!)
教師の隙を窺い、影人は袖口に仕込んだカンニングペーパーをそれとはなしに見る。そしてわかりそうな問題に単語を書き込んでいく。
(最高だな! カンニングってやつは!)
まるでどこぞの戦争屋のようなセリフを心の中で呟き、影人はドキドキハラハラといった感じで教師の位置などを確認した。
(今のところバレてる感じはしねえ。俺は大丈夫だ。問題は・・・・・・)
影人はきのう図書室に集った他の6人のことを心配した。普段、他人のことは何とも思わない自分だが、彼らにはこの試練を突破してほしいと考えていた。
その頃、男子生徒Bがいる教室では、
「君、カンニングしてるだろ。外に出なさい」
中年男性教師の厳しい声が響き渡っていた。
「な!? お、俺いや僕ですか!? 言いがかりですよ! 一体なにを根拠に――」
焦ったBは癖なのかメガネをくいっと持ち上げる。すると、中年教師はそのメガネを没収した。
「あ、何をするんです!?」
「なるほどな。メガネのレンズに紙を貼り付け、その紙面が見えないようにするために片方だけ鏡のレンズをメガネのレンズにくっつけた訳か」
「な、なぜわかったんだ!?」
仕組みを見られたからそのような説明をしたことには納得できた。しかし、なぜ自分がカンニングをしていると気がついたのか。メガネを使っている自分だからこそできるこのやり方を完璧だと自負していたBにはまるで意味が分からなかった。
「なぜって、そりゃ君の目がなかったからだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「このやり方だと当然君の目が外から見えないだろう?」
「た、確かに・・・・・・・!」
そんな盲点があったとは。Bは目から鱗が落ちた気分だった。
冷静に考えればわかることなのだが、自惚れていたBはその事に気がつかなかったのだ。
「ほれ、わかったら廊下に立ってなさい。あと、君その他の教科ゼロ点確定だから」
無情な死刑宣告を受けたBは言われた通りにトボトボと廊下に出た。同じクラスの生徒たちはざわついていたが、アホに構っている暇がないことを思い出したのかテストに取り組んでいた。
「くっ! どうやら俺はここまでのようだ・・・・・後は頼んだよ勇者たち」
Bは悔しそうな表情を浮かべながら、そう呟いた。
あーあ、これで夏休みの補習は確定だ。嫌だなー。心の底からBはそう思った。
何はともあれ、これで1人脱落だ。残りのカンニング野郎たちは6人になった。
しかし、その後。
「おい、お前カンニングしてるだろう!? 廊下に出てろ!」
消しゴムにカンニングペーパーを貼り付けていたAも。
「カンニングは不正行為です。外に出なさい」
シャープペンシルにこれがデフォルトの模様だと言わんばかりにカンニングペーパーを巻き付けていたCも。
「はいー外出てろー」
ネクタイの裏側にペーパーをくくりつけていたDも。
「よくこれでバレないと思いましたね・・・・・・」
手の内側に細切れにペーパーを貼っていたEも。
「全く今でもカンニングするやつなんていたんだな・・・・・・・」
ポケットティッシュの中にペーパーを忍ばせていたFも。
結局、カンニングがばれてB同様全員廊下に立たされた。
「くそ・・・・・・これで6人がアウトか。残りはあの前髪くんだけ・・・・・」
惨状を確認したBが代表したように呟いた。
「ああ、俺らの希望は彼に託された・・・・・・」
呼応するかのようにAが真剣な眼差しで虚空を見る。
その他のC、D、E、Fも残り1人になったしまった勇者の無事を祈る。
そして6人はお互いの顔を見合わせてこう言い合った。
「「「「「「とりあえず・・・・・・補習で会おうぜ」」」」」」
格好つけた感じでそう言い合った6人だが、心の中では、「真面目に勉強しておけばよかった・・・・・」と激しく後悔していた。ざまあみろである。
「やりきったぜ・・・・・・」
なんとかバレずにテストを終えた影人はホッと一息をついた。
(俺の他の勇者たちは残念なことに、バレちまったが、お前らの犠牲は無駄にしねえぜ・・・・・・)
1時間目のテストが終わったときに、彼らがカンニングしたという噂が流れてきたのだ。まことに残念だがバレてしまったものは仕方ない。
「さて、俺も帰るか・・・・・」
まだ初日のテストが終わっただけだが、今日バレなかったという結果は大きかった。さっさと帰って明日のテストの分のカンニングペーパーを作らねば。
影人が教室を出て昇降口へ向かおうとすると、声が掛けられた。
「おーい、帰城。ちょっと待て」
「? 何ですか先生」
面倒くさそうな
見た目もダウナーな感じの今年27歳の面倒くさがり教師と生徒に知られる彼女が一体自分に何の用だろうか。
「うん、ちょっとな。――お前、カンニングしただろ」
「・・・・・・・・・は、はい?」
ポンと肩に手を置かれて囁くような声でそう言われた影人は、上ずった声でとぼけたふりをした。
「とぼけんのはなしだ。今日ウチのクラスの1時間目の教師がこっそり私に教えてくれてなー。いやー弱み握っといてよかったわ」
「え? 先生いま何て・・・・・・・・」
少しヤバイことというか教師にあるまじき言葉を聞いた気がしたが、きっと気のせいだろう。・・・・・・・気のせいだと信じたい。
「まあ、2時間目と3時間目の教師には奇跡的にバレなかったみたいだけど。確か、袖口だっけか」
「あ、ちょっと・・・・・!」
影人の制止も聞かずに紫織は影人の袖口を捲る。すると、まだ回収していなかったカンニングペーパーが露わになった。
「おーおー、こりゃ歴とした証拠だな」
「あ、あのこれは・・・・・・」
影人がなんとか理由をこじつけようと言葉を探していると、紫織は全く覇気のない声でこう言った。
「なーに、私も面倒なのは御免だ。だから大事にはしたくない、面倒くさいからな」
「は、はあ・・・・・」
果たして教師がそれでいいのかと思うところはあったが、紫織がそう言うのならその方に超したことはない。
「だから、明日からは真面目にやれよ。それとこれはでっかい貸しだからな。いやー、お前見た目の割にはけっこう大胆だなー。ま、おかげでいいカモが手に入ったけどさ」
紫織は軽く笑みを浮かべながら、バンバンと影人の背中を叩いた。
「いや、あの先生俺は――」
本人の前でカモと言い切る実はヤバかった担任教師に影人が何か言おうとすると、
「文句はないな?」
「・・・・・・・は、はい」
全く笑っていない目を向けられ、影人は思わず首を縦に振っていた。
「それならいいんだ。じゃ、さっさと帰れ」
そう言うと、紫織はどこかへと行ってしまった。
「・・・・・・・・あの人、怖えな」
大人の怖さというか人の二面性を見た影人は少し震えていた。
結果、カンニングをした7人のアホたちは内6人が補習確定。残り1人が担任に弱みを握られるという、何とも不思議? な結果になった。どちらがマシかは難しいところである。
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