第13話 邂逅せし光導姫たち

 陽華たちや光司の後を追い学校を飛び出した影人は、死んだ目で道を走っていた。

「・・・・・・・・」

 なぜ自分は汗をかきながら今走っているのだろうか。突然、そんなことを思いながら影人は無心に近い気持ちで目的地を目指す。

「そろそろか・・・・・・」

 5分ほど走り続け、周囲から人がいなくなってきたことに気づいた影人はポツリとそう呟いた。

 そして路地を抜け影人は開けた場所に出た。

 目の前には大きな川が流れている。そして右手に見えるのは川に掛かる橋だ。普段なら車が行き交っているであろうその橋も、結界の影響か車一台も見えない。

「・・・・・河川敷か」

 思わず「まずいな」と呟く。ここは見晴らしが良すぎて、自分が隠れる場所がほとんどない。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 影人がそんなことを考えていると、どこからか聞き覚えのある声がした。

 見やると、影人がいる土手の下の河原で変身した陽華がその拳を振るっていた。

「ヴゥゥゥゥゥゥ!」

 子犬のような唸り声を上げているのは、巨大な狸だった。どうやら今回の闇奴は狸型らしい。狸型というと、どこぞの猫型ロボットがよく狸に間違われるが、まあ、あの見た目なら狸と間違われても仕方ないと思う。

 陽華がいるということは、明夜と光司も当然いる。明夜は、いつも通り、後衛での攻撃に徹しているし、光司は陽華と共に前線で戦っている。今は戦いに集中しているから土手にいる影人の姿に気づいていないだろうが、いつ気づかれるかわかったものではない。

「・・・・・どうするか」

 一度、土手から離れ路地に戻った影人は一体どこからなら気づかれずに観察できるか考える。今回は、河川敷という見晴らしが良すぎる場所のため、自分が隠れられる場所がほとんどない。草の中に隠れようかとも考えたが、この河川敷はきちんと手入れされているのか、よく河川敷などにあるボーボーの草が全くない。かといって橋の下にも隠れる場所はなさそうだったし、さてどうするか。これには、自称かくれんぼマスターの影人も頭を悩ませる。

 しかし、そうこうしている間にも戦いは続いている。まあ、光司がいるから大丈夫だろうと思っている影人だが、よくよく考えると光司はフェリート戦での傷がまだ癒えていない。光司は本調子ではないだろう。

 いっそ、ここで待機するという選択肢もあるが、この前襲撃してきたフェリートとかいう闇人のことを考えると、やはりいつでも飛び出ることができるように、常に監視している必要がある。

「・・・・・これしかないか」

 1つだけ、アイデアを思いついた影人は制服のポケットからペンデュラムを取り出した。








「今回は兎型ね・・・・」

 ソレイユから合図により、目的地に到着した暁理は目の前の闇奴を見てそう呟いた。

 特徴的な長い耳に丸い尻尾。白い毛皮に覆われたその獣は間違いなく兎だ。

 ただし、通常の兎の何倍も大きいが。

「プップッ!」

 兎は周囲のコンクリートを囓っていたが、暁理に気がつくと、そんな鳴き声を上げて威嚇してきた。

「鳴き声はかわいいんだけどさ・・・・・」

 闇奴の鳴き声に呆れたような感想を漏らしながら、暁理は周囲の様子を窺う。目視した限り、周囲には人の姿は見当たらない。

(よかった、人的被害はなさそうだね・・・・・)

 人の姿が見えないことを確認し、暁理はホッと息を吐く。なにせまだ結界は展開されていない。もしかすると、一般人に被害が出ていたかもしれないし、周囲にまだ人がいたかもしれないのだ。

「全く、政府の人たちは優秀だよ」

 暁理がそう呟いた瞬間、

「プッ!」

 兎型の闇奴が暁理を敵と見なしたのか、襲いかかってきた。

 だが、暁理に慌てた様子は見られない。暁理は極めて冷静にブレスレットのついた右手を空に掲げた。

「――光の風よ、僕に力を」

 するとブレスレットの宝石が強い緑色の輝きを放つ。そして、暁理を中心に風が渦巻いた。

「プッ!?」

 暁理に襲いかかろうとしていた兎型の闇奴はその風に阻まれ、暁理に近づくことができない。

 暁理の周囲を渦巻いていた風が次第に収まり、その中心から暁理が姿を現す。しかしその装いは先ほどとは違っていた。

 淡いエメラルドグリーンのフードをかぶり、右手には壮麗な剣を持っている。フードの下からニヤリと笑みを浮かべて、暁理は名乗りを上げた。

「光導姫アカツキ、押して参るよ」

 強化された身体能力で、アカツキは闇奴に向かって風のように斬りかかった。








「・・・・・・・」

 強い風が吹く中、影人はそので陽華、明夜、光司と狸型の闇奴との戦闘を観察していた。

 今のところ、特に問題なく3人は闇奴との戦闘を続けている。もちろんといっては変かも知れないが、3人が優勢だ。

 その100メートルほど離れた眼下の光景を影人はただただ集中して観察する。万が一の時はいつでも自分が助けに入れるように。

 スプリガンに変身した影人は、橋のアーチの部分のちょうど頂点にいた。

 影人は観察スポットに悩んだ末、「上からならバレないだろう」という安直というか、バカは高いところが好きというか、とにかくこの場所を選んだ。

 当然、普段の自分でアーチに登るなんてことは出来ないので、そこは変身してスプリガン時の身体能力で駆け上ったというわけだ。

 地上から遠く離れたアーチの頂点で、黒い外套が風に揺られる。外套のポケットに手を入れて、影人は帽子の下のまなこを静かに細めた。

「・・・・・流石に今日みたいな日にこの格好は暑すぎるな」

 額からダラダラと汗を流しながら、影人は外套や深紅のネクタイやら鍔の長い帽子を脱ぎ捨てたい衝動に襲われる。

 しかし、スプリガンとしての超常的な身体能力はこの服装に由来しているし、帽子を脱げば認識阻害効果がなくなる。ゆえに、この服装を脱ぐという選択肢はありえない。

「・・・・対策考えねえとな」

 本格的に夏が到来したときのことを考え影人は、頭を悩ませた。いっそのこと、冷え〇タを全身に張るか、そしてそれを買う金はソレイユが払ってくれるのか、いやそもそもアイツ日本円持ってるのか、などとどうでもいいことを考えていると、

 眼下から眩い光が影人の視界を照らした。

「・・・・終わったか」

 くだらないことを考えつつも、しっかりと戦いを見守っていた影人は、陽華と明夜が浄化の光を放ち闇奴を浄化したことを確認した。

 視力が強化された金の瞳でその後の様子を窺っていると、闇奴化していた人間を光司が介抱している。光司も見ていた限りは骨にヒビが入っているとは思えない、普段と変わらないような動きをしていた。

 どうやら今回は何事もトラブルは起きずに済んだようだ。影人もさっさとここから降りて、変身を解除しようと考えていると、影人の金の瞳が不自然な光景を捉えた。

「・・・・・・・ありゃ何だ?」

 それは全力で逃げる巨大な兎とそれを追う謎の緑色のフードの人物だった。








 一方、アカツキと兎型の闇奴の戦闘も終局に向かっていた。

「キュ、キュー・・・・・・」

 最初の勢いはどこへやら、兎型の闇奴は今やボロボロになりながら怯えたような目でアカツキを見ていた。心なしか、その目は潤んでいるようにも見える。

「・・・・・うーん、やりにくいなー」

 暁理はその姿を見てそんな言葉を漏らした。

 今回の闇奴は正直に言って全く強くはなかったが、この闇奴は所々でこのような目で暁理を見てきた。まるで見逃してくれとでも言うように。

「でもごめんよ、とどめだ」

 暁理は浄化の力を剣に集中させる。そしてその剣には浄化の力を宿した風が立ちこめる。

「疾風――」

 必殺の一撃を放とうと決めぜりふを言おうとした瞬間、闇奴はまさかの行動を取った。

「キュー!」

 巨大な兎型の闇奴は暁理に背を向け、凄まじい速度で逃げ出した。

「え、えぇ!?」

 全く予想もしていないその行動に暁理は、素っ頓狂な声を上げる。今まさに放とうとしていた必殺の一撃も届かないほどの圏外に逃げた闇奴に、暁理は剣を持った右手を挙げながら叫んだ。

「こ、こらー! 待てーーーーーー!」

 そして闇奴と光導姫の奇妙な追いかけっこが始まった。

 暁理はその身体能力と自らの力である風の力を使い、まさしく風のような速さで闇奴を追う。

「闇奴が逃げるなんて聞いてないよ!」

 愚痴をこぼしながら暁理は必死に闇奴を追いかける。今まで闇奴が逃げたなんてことはなかったので、暁理は本当に驚いた。

「しかもめちゃくちゃ速いし!」

 そう兎型の闇奴は尋常ではない速さで暁理から逃げていた。まるで生命の危機を悟ったかのように。それこそ、スピードには自身のある暁理がまだ追いつけないほどだ。

 全速力で追いかけながらも、闇奴と自分との距離はまだ20メートルほど離れている。このままではいつ追いつけるかわかったものではない。

「くそ・・・・・・!」

 しかし暁理は闇奴を追い続けるしかなかった。







「何、あれ・・・・・・?」

 闇奴化していた人間の浄化を終えた陽華たちは変身を解いて、学校に戻ろうとしていた。しかし変身を解こうとする直前、何かがこちらに迫ってくるのを明夜は見た。

「兎・・・・・・?」

 明夜と同じくこちらに迫ってくる巨大な生物の姿を見て、陽華がそんな感想を漏らした。だが、兎があんなに巨大なはずがない。

 すると光司が何かに気づいたようにその整った顔を険しくする。一度、仕舞っていた剣を再び構え、陽華と明夜に忠告した。

「ッ! 2人とも気をつけてくれ! あれはおそらく闇奴だ!」

「「えぇ!?」」

 光司のその言葉に2人は驚きの声を上げる。

 そして真っ直ぐにこちらに向かってくる兎型の闇奴はよく見ると、所々に傷を負っていた。まるで今まで何かと戦い、その何かから逃げてきたような有様だ。

「っ!? 人・・・・・?」

 一方、闇奴を追っていた暁理は少し先に3人の少年少女がいることに気がついた。光導姫の結界はその光導姫を中心として展開されるため、光導姫が移動すると結界も移動するという仕組みになっている。そのため、人払いの結界が機能し今まで追っている道中、人とは接触しなかった。

 しかし、なぜか人がいるという状況に暁理は混乱した。その混乱が原因で暁理はその特徴的なコスチュームを見ても、その3人が自分の同業者だと気づけなかった。

「ごめん! 今すぐ逃げてくれッ!!」

 暁理が大声で3人にそう告げる。そうしている間にも暁理から必死に逃げる闇奴は、段々と3人に近づいていく。

「キュー!」

 闇奴もそのあまりの焦りからか、正面の3人には気がついていないようだ。このまま行けば激突は免れないだろう。

「行かせないッ!」

 正面から恐ろしい速度で向かってくる闇奴の正面に光司が立ち塞がる。その光景を見た陽華と明夜もお互いの顔を見合わせると、自分たちがすべき行動を悟る。

「香乃宮くん! 私たちも手伝うよ!」

「バックアップは任せてッ!」

 陽華は光司の横に並び、兎型の闇奴を待ち構える。明夜は後方で杖を構えながら何かのタイミングを窺っている。

「ありがとう2人とも!」

 光司は2人が自分のしようとしていたことを察して、手助けしてくれたことに感謝した。

 しかし、そんな3人の動きを見て戸惑いを覚えたのは闇奴を追っていた暁理だった。暁理は全く逃げようともせず、それどころか闇奴の正面に立ち塞がる2人とその後方にいる1人に苛立ちと焦りの混じった声でこう言った。

「何してる!? 逃げろと言っただろ!」

 だが、そんな暁理の忠告もはかなく闇奴は陽華と光司に激突した。

「キュ!?」

 闇奴は激突してようやく人がいたのに気がついたのかそんな声を発した。そして正面から闇奴の突進を受け止めた陽華と光司はその衝撃に苦悶の声を漏らす。

「ぐっ・・・・・!?」

 特にフェリートとの戦いで肋骨にヒビが入っていた光司は、その衝撃で負傷した箇所に激痛が走り顔を歪める。だが意地と気合いでその痛みを我慢する。

 凄まじい速度だった闇奴を2人で止めることは敵わず、陽華と光司は地面に靴でえぐれた後を作りつつも、後ろに押し込まれる。だが、もちろん当初のような速さではなくなった。

 その隙を突いて、後方に控えていた明夜が闇奴を束縛する魔法を放つ。

「氷のつるよ!」

 明夜の声に呼応するかのように、地面から氷の蔓が何本も伸び今なお突進を続ける闇奴に襲いかかる。

「キュ、キュー!?」

 闇奴は驚いたような鳴き声を上げるがもう遅い、氷の蔓は闇奴の全身に絡みつき、その動きを制限する。

 そして闇奴は完全に停止した。そのことを確認した陽華と光司はいったん明夜のいる後方まで跳び、迎撃の準備をしようとする。

「っ!? 同業だったのか!」

 3人が光導姫と守護者だと気づいた暁理はフードの下の目を見開く。まさか闇奴が逃げた先に光導姫と守護者がいるとは夢にも思わなかった暁理だ。

 しかし、瞬時に動きを止めた闇奴を見てこの瞬間をチャンスと悟る。

「ちょっと乱暴だけどッ!」

 そう言って、暁理は強く地面を蹴った。

「「え?」」

 空を舞った淡いエメラルドグリーンのフードの人物に陽華と明夜は驚きの表情を浮かべる。2人はこの巨大な兎を追っていた人物がいることは忠告の声から分かっていたが、その人物が光導姫だとは分かっていなかった。

 光司だけは追跡者チェイサーが光導姫だと分かっていたのか、真剣な表情でアカツキを見つめていた。

 光導姫の身体能力を生かしたジャンプにより、アカツキは一瞬の滞空のなか右手に持っていた剣を両手で持ち、剣先を闇奴に向ける。

「風よ! 我が剣に宿れっ!」

 アカツキの剣に風が渦巻き、その壮麗な剣に風を纏う。そしてアカツキはその剣を身動きの取れない闇奴の背に突き刺した。

風烈一刺ふうれついっし!」

「キューーーーーーーーーーーーー!?」

 断末魔の悲鳴を残し、アカツキを手こずらせた闇奴は光に包まれ浄化されていく。

 闇奴の巨体が全て光の粒子に変わり、アカツキは軽やかに地面に着地する。粒子の中から現れたまだ中学生ほどの少年をアカツキはそっと支える。

「まだ子供じゃないか。全く、どんな闇を抱えていたのか・・・・・」

 ポツリとそんなことを呟き、アカツキはその少年を地面に横たえる。

 アカツキはくるりと振り返ると、自分を見つめている3人に笑みを浮かべて感謝の言葉を述べた。

「ありがとう、君たちのおかげで彼を浄化することができたよ。まずは心からの感謝を」

 綺麗に腰を折って自分たちに感謝するアカツキに陽華と明夜は慌てたように手を振った。

「い、いえ! 私は別にただ体当たりしただけですし!」

「私も特に大したことは・・・・・」

 あたふたする2人とは別に光司は、至極落ち着いた様子で自己紹介を始めた。

「2人ともそんなに謙遜しないで、感謝は素直に受け取るものだよ。――守護者ランキング10位、守護者名、騎士ナイトです。初めまして」

 2人にそんなアドバイスをしつつ、光司はニッコリといつもの爽やかな笑顔を浮かべ、手を差し伸べる。どうやら握手を求めているようだ。

「いやいやご丁寧にどうも。僕は――って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 正面から光司の顔を見たアカツキは素っ頓狂な声を上げた。その声に光司はキョトンとしたような表情になり、陽華と明夜は心配そう声でアカツキに声をかけた。

「あ、あのどうしたんですか?」

「何かおかしなことでも・・・?」

 2人に声を掛けられたことで、アカツキはハッと我に返る。いけない、このままでは自分に様々な不信感が持たれる。

(ま、まさかあの香乃宮光司が守護者だったなんて・・・・・・!)

 しかも10位。それではかかしが言っていたフェリートと戦ったのは光司だったというわけだ。

(ダメだ! さっさと切り替えないと!)

 確かに自分の通う風洛高校の有名人、香乃宮光司が守護者だったことには驚いたが、それはそれだ。なにせ、光導姫と守護者は世界中に存在しているのだ。ならば光司が守護者であっても何らおかしくはない。

「い、いやすまない。ちょっと虫が見えてね。僕は虫が苦手なんだ」

 自分でも苦しいとわかる言い訳をしつつ、アカツキは「あはは」と苦笑いする。そして強引に話の流れを変えようと、自己紹介を行った。

「あ、改めて僕は――は? はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 しかし、自己紹介は、またしても自らの驚きの声によって妨げられた。

 光司と同じように近くから顔を見ることによって、アカツキはようやくわかったのだ。

 2人が光司と同じように風洛高校の名物コンビである朝宮陽華と月下明夜であることに。

(おいおい冗談だろ!? この2人光導姫だったのか!?)

 またしてもいきなり素っ頓狂な声を上げたアカツキに陽華と明夜はさらに不安そうな顔に、光司も何か疑うような顔になる。

 しかし、今回ばかりはアカツキも中々切り替えることができない。

 まさか自分と同じ高校に、自分以外に光導姫と守護者が合計3人もいるとは考えていなかったアカツキだ。しかもその人物たちが、風洛高校で知らぬ者はいない有名人と名物コンビときている。アカツキと同じ立場なら驚くなというほうが無理があるだろう。

(・・・・というか原則的に光導姫と守護者はに所属しなきゃいけないはずなんだけどな)

 一周回って冷静さを取り戻したアカツキはそんなこと考える。しかし、それは原則であって強制ではない。現に自分もそうなのだから。

「ッ――!?」

 そして冷静さを取り戻したアカツキは何者かに見られているような視線と気配を感じた。

 振り返り、油断なく周囲を見回す。これはアカツキの勘でしかないが、視線は遠く離れたあの橋から感じたように思う。アカツキが重点的その橋の辺りを詳細に見るが、結界が展開されているので当然人の姿はない。

「・・・・・・気のせいか?」

 確かに視線を感じたと思ったのだが、どうやら自分の勘違いだったようだ。

「・・・・・・・あの、さっきからどうかしたんですか?」

 今のところ、いきなり奇声を上げたり奇妙な行動しか取っていないアカツキに、陽華が心配というよりかどこか「この人大丈夫?」的な表情でそう声をかける。

 そしてそんな表情を浮かべているのは陽華だけではない。明夜もだ。光司だけは紳士だからかそのような表情を浮かべていないが、内心はわからない。

(こ、これって、いつも影人がされてるような顔じゃないか・・・・・・!)

 それがアカツキにはいや暁理にはとてつもなくショックだった。

 暁理は自分の友人が変わっていると思っているし、実際その友人、帰城影人は変わっている。しかし、暁理は自分が変わっていると思ったことはほとんどない。

 ゆえにこのような顔をされるのは大変不本意だった。

「いや本当にさっきから変な行動ばかりでごめんなさい! 実は――!」

 暁理は頭の中で凄まじいスピードで先ほどの自分の行動に対する言い訳を考えた。

 その結果、もう頭の中からは先ほど感じた謎の視線のことは忘れ去られていた。








「・・・・・あぶねえ」

 一方、アカツキが感じた謎の視線の主スプリガンは帽子を押さえながら、橋の歩道の上に設置された真っ黒な弾力性のある不思議な物体の上で横になったいた。

「ギリギリだったぜ・・・・・・」

 兎型の闇奴と謎の光導姫が現れ、監視を続行していたスプリガンだが、あわや自分の存在が謎の光導姫にバレそうになったのだ。

「しっかし、なんつー勘してやがる」

 スプリガン時の動体視力でなんとか、あのフードの光導姫が振り向くことを直前の動作から予測したため、アーチの頂点から背中から倒れるように落下した影人。そのため、アカツキが振り向いた時にはスプリガンの姿は見えなくなっていたというわけだ。

 しかし、当然そのままでは頭から落下して影人の頭はオシャカである。ゆえに影人はスプリガンの闇の力による物質創造能力を使い、いま自分が横たわっているこのマットのようなものを創造したのだ。

「・・・・・あいつら以外の光導姫を見るのは初めてだな」

 この距離なので会話はもちろん聞こえなかったが、闇奴を浄化したことからあのフードの人物が光導姫であることは間違いない。

 まあ、見たといってもあの光導姫はフードを被っていたし、その素顔などは全く見れなかったが。

「どんな奴なのかね・・・・・」

 まあ、見ていた限り随分と変わった行動をしていたので、かなりヤバイ奴だろう。そして、光導姫なのだからお人好しなのだろう。

 そんなこと考えながら影人はしばらくスプリガンのまま、五月晴れの空を見上げていた。


 その頃、影人にヤバイ奴認定された光導姫アカツキは必死に3人に弁明していた。

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