第3話 女神ソレイユ

 陽華と明夜を助けた次の日、帰城影人は朝から学校の机に突っ伏していた。

 今日は朝から本を読みたい気分ではなく、少しでも寝たい気分だった。昨日初めて変身した後に気づいたのだが、体が全身筋肉痛になっていたのだ。

「っ・・・・・痛てぇ」

 ちくしょう、あのクソ女神。変身した後に筋肉痛になるなら最初から言っとけ。こちとら運動部でもなんでもないただの帰宅部である。こんなハードな筋肉痛は初めてだ。

 そんなことを思っている影人だが、なぜ筋肉痛になったのかはある程度予測がついている。おそらく、スプリガンとしての体のスペックに自分の体が追いつていないのだろう。

 元々、スプリガンに変身した影人の身体能力の高さはスプリガン時の服装によるものだ。あの服装を身に纏うことにより、スプリガン時の影人は超常的な身体能力を得ることができているのだ。

 他にも、あの鍔の長い帽子には認識阻害効果があり、あの帽子を着けている間は例え普段の影人を知っていても、影人が誰だか分からなくなったり、金の瞳は視力が飛躍的に上がったり様々な効果がある。

 まあ、これは全てソレイユの受け売りなのだが。

 そんなことを考えている間に、チャイムが鳴った。影人は体を起こすと、何とはなしに窓の外を見る。すると案の定、陽華と明夜がギリギリ正門を通り抜けた後だった。またしても、34歳独身上田勝雄が悔しそうな悲しそうな顔で2人を見つめていた。がんばれおっさん。

 急いで昇降口に向かう陽華と明夜を見ながら、影人は思考した。

(あいつらはきっと、スプリガンのことが否が応でも気になっているはずだ。なら、あいつらが取る行動は――)

『私に直接聞きに来る、ですね』

「・・・・・・・・・・・・はあ」

 何だかんだでこの1ヶ月近くで慣れてしまった自分に思わずため息が出る。普通、頭の中に突然声が響けば誰だって混乱するだろう。というか、普通の人なら病院に行く。だが悲しいかな、影人はもうこれくらいで驚嘆の心が反応しなくなってしまった。

(一応、聞いていやる。何の用だ)

 教師がホームルームを始めている手前、普段のように独り言としてソレイユと交信できないため、影人は心の中からソレイユに問いかけた。ソレイユは一応神なので、念話というやつが可能らしい。

『あらあら、用事がなければ影人と話してはいけないのですか?』

(気色悪きしょくわりぃぞ、ババア)

『カッチーン。私久しぶりにキレましたよ影人。女神に対してババアとはなんですか! こんな不敬は生まれて初めてです! というか、あなた私の姿見たことあるでしょう!? どう見ても年頃の乙女だったでしょう!? ええい、謝罪を要求します! 今すぐカワイイと言いなさい! カワイイと!』

(・・・・・・・・・)

『影人ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

 その後授業が始まるまで影人はソレイユを無視した。まあ、授業が始まると何も語りかけてこなかったため、分別はあるらしい。きっとまだ怒っているだろうが。









 放課後。学校からの帰り道、陽華は珍しく考え事をしていた。普段はあまり考え事などしないのだが、いま頭を悩ませている問題は昨日から続いている。

 いや、正確にはある人物に会ってからだ。

(あの人、何者なんだろ・・・・・スプリガンって言ってたけど)

 そう、陽華の考え事とは昨日自分たちを助けてくれた、スプリガンという少年のことだ。

(あの感じだと、年は私たちと一緒くらいだよね・・・・? でも目の色が金色だったから外国人かな? いやでも、それにしては日本語が上手すぎるし・・・・もしやカラコン? いやいや、何のために・・・・・)

 昨日からずっとこんな感じで、陽華はスプリガンのことを考えていた。なぜだろう、彼のことが頭から離れない。陽華の頭には、美しい金の瞳とその端正な顔が強烈なイメージとして残っている。

(も、もしかしてだけど・・・・・これが恋ってやつなのかな・・・・・・? いやいや確かにしてみたいとは思ったけど! こんなすぐ恋する!? も、もしやこれが一目惚れというやつか!?)

 ショートカットの髪を左右に揺らしながら、顔を赤くする陽華。昨日から自分はずっとこんな感じだ。

「――か。陽華ってば!」

「ふぇ!? な、なに? 明夜?」

 突然大声で自分の名を呼ばれた陽華は、思わず声が上ずりながら隣を歩く明夜に返事を返した。

「何じゃないわよ、まったく。さっきからずっと声掛けてたのに、全然反応がないんだもん。心配しちゃうじゃない」

 明夜は少しすねたようにジト目で陽華を見た。そのクールな顔つきも相まって本当に怒っているようにも見えるが、付き合いの長い陽華はそれがポーズだと知っていた。

「あはは、ごめんごめん。ちょっと考え事しててさ」

「珍しい。いっつも元気いっぱいで、考え事とは無縁の陽華が悩み事なんて」

 明夜は本当に驚いたように目を丸くした。その反応に陽華は少しムッとした口調で言葉を返した。

「ちょっと明夜! 私だって考え事くらいするよ!? 私をなんだと思ってるの!?」

「だってあの陽華よ? 陽華が考え事するのなんて、今日の学食なににするかくらいじゃない。いっつも、即断即決なのに」

「うぐ・・・・ま、まあそうだけど」

 言われてみれば、確かにその通りだったので陽華は反応に困った。そんな陽華の反応を見て「でしょ」と明夜が言う。そして明夜は陽華の顔を見て話を続けた。

「で、考え事って何なの?」

「・・・・・・そ、その、スプリガンって人のことを」

 陽華は正直に明夜に自分が考えていたことを打ち明けた。だが、自分の中で渦巻いている思いは悟らせないように、少し苦笑い気味で明夜に顔を向ける。

「あー、なるほど。確かに気になるよね。でもあの人絶っっっ対、性格悪いよ!」

「あはは・・・・明夜、昨日怒ってたもんね」

 スプリガンとの短い会話の中で、明夜はスプリガンにからかわれたと思ったらしく、少し怒っていたのだった。

「あ! そうだ陽華、スプリガンのことソレイユ様に聞きに行こ!」

 明夜は思いついたような顔でそんなことを提案してきた。

「え、ええ!? ソレイユ様に!?」

「うん! 初めてお会いしたときに、ソレイユ様に会う方法聞いたでしょ! よーし、そうと決まればレッツゴーよ!」

「・・・・そうだね! ソレイユ様に聞きに行こー!」

 明夜の提案を受け入れた陽華は、明夜とお互いに顔を合わせると、笑顔でハイタッチした。







 ソレイユに会うためには、どこか人目を気にしない場所が必要なので、2人は人通りの少ない住宅街の路地裏ろじうらに向かった。なぜその場所を知っているかというと、2人はそこにいる野良猫がかわいいのでたまに行くからだ。

「でも、ソレイユ様もスプリガンのこと知らないかもしれないし、そんな理由だけで会いに行ってもいいのかな?」

 路地裏に向かう道すがら、陽華がうーんと唸る。そんな陽華を見た明夜はカラカラと笑いながらこう言った。

「大丈夫大丈夫! もし知らなかったとしても、その時はその時よ。それにソレイユ様はそんなことで、いちいち怒る神様じゃないでしょ?」

「うん、そうだね。ごめんごめん、何か色々弱気になってるみたい」

「ほんと珍しいよね。陽華がなんかいろいろ躊躇ちゅうちょするなんて」

 明夜が少し不思議そうな顔で陽華を見る。確かに、陽華を知っている者が今の陽華を見ればおかしく思うだろう。それほどに今の陽華は普段とは違っていた。

「そ、そんなことないない!! ほ、ほらこんなに元気よ!? あ、そこ曲がれば路地裏ね! 早くソレイユ様に会おう!? ――わ!?」

「ったく、あの野郎。いきなり呼び出しやがっ――っ!?」

 明夜に思いを気取られまいと、慌てた陽華は走って角を曲がったため、路地裏から出てきた人とぶつかってしまった。

 その衝撃で陽華は尻餅をついてしまった。

「いてて・・・・・あ、ごめんなさい!」

 陽華は自分がぶつかってしまった人物を見上げた。陽華がぶつかった人物は幸いにも尻餅をつくことはなかったようだ。

 陽華がぶつかったのはどうやら同じ学校の生徒だったようだ。

 その長すぎる前髪のせいで顔はよく見えない。おそらく、その前髪の下から陽華を見つめているであろう少年に陽華は見覚えがなかった。

「お前は・・・・・そうか。――気をつけろよ」

 その前髪の長い少年は陽華の顔と、今し方自分が出てきた路地裏を交互に見ると、何やら独り言を呟いた。そして陽華に注意の言葉を言うと、そのままどこかへ歩いていった。

「あ、はい・・・・・」

 陽華は素直に言葉を返すと、立ち上がった。少年の去りゆく背中を見ながら、陽華は知らないはずの少年になぜか既視感を覚えた。

「大丈夫、陽華? まったく、確かに陽華の不注意が原因だけど、あんなに冷たいのは流石にひどくない?」

 陽華と同じく少年の背中を見て、明夜は少し不満げに口をとがらせた。

「いや悪いのは私だから。それより、明夜。あの人知ってる?」

「さあ? 風洛ふうらくの生徒みたいけど私は知らないかな」

 どうやら明夜も知らないようだ。2人は気を取り直して、路地裏に入る。

「さてと、確か・・・・・」

 一応、辺りに人がいないことを確認した明夜は、スクールバッグから青い宝石のついたブレスレットを取り出した。そして、それを自分の左手に装着する。

「ほら、陽華も」

「うん」

 陽華も同じように鞄から赤い宝石のついたブレスレットを取り出すと、右手に装着した。

「陽華、手順は覚えてる?」

「大丈夫、明夜3秒後ね」

「わかったわ」

 陽華が明夜の左手を掴み、明夜が陽華の右手を掴む。握手をしたような状態で二人は同時に言葉を紡いだ。

「「光導姫がこいねがう。我らを光の女神の元へ。開け、光の門よ!」」

 二人が詠唱を終えると、赤と青の宝石が強い輝やきを放つ。そして、2人の前に光の輪ができる。

 陽華と明夜は顔を見合わせて頷くと、そのまま輪を潜った。

 そして、2人はしばし地上から姿を消した。






 光の輪を潜った先にあったのは、眩いばかりの光に満ちた空間だった。その暖かな光を感じるのは、陽華と明夜は初めてではない。陽華と明夜はここで光導姫として戦うことを決めたのだ。

 そしてその空間の中央に彼女、いや彼の女神は存在していた。

 桜のような色の美しい長い髪の女性である。まるで光のベールのような服を身に纏い、まぶたを伏せたその姿は神々しいほどに美しい。

 その顔の造形も女神の名にふさわしく、超がつくほどの美女である。陽華と明夜より少し年上にしか見えないその外見に、2人はしばし見とれていた。

「――久しぶりですね、陽華に明夜」

 二人が見とれていた女神、ソレイユは瞼を開くと、柔らかな眼差しで2人を見た。

「あ・・・・お、お久しぶりです! ソレイユ様!」

「で、です! ソレイユ様!」

 ソレイユに話しかけられ、陽華が慌てて言葉を返し明夜もそれに続いた。2人の様子が少しおかしいことに気づいたのだろう、ソレイユは不思議そうに2人を見た。

「あら? そんなに驚いてどうしました二人とも? どうかしましたか?」

「い、いや! どうもしてませんよまったく!?」

「そ、そうですよ! ソレイユ様があまりに美しすぎて見とれていたなんてことはありません!」

「ちょっと明夜!?」

「あ! いやですね!? ・・・・・えへへ」

 つい本当のことを口走った明夜に対し、陽華がつっこみを入れる。明夜はしまったというような顔で、誤魔化しの苦笑いで陽華を見た。

 そんな2人のやり取りで、陽華と明夜が自分に見とれていたことを知ったソレイユは、とても嬉しかった。

「ふふっ、そうですか! 私は美しいですか! そうですよね! 私、仮にも女神ですし! ということは、やはりあの子の性根がひん曲がっているというか、感性がおかしいのですね! ざまぁみやがれです!」

 ソレイユは両手をほおに当てながら、ニヤニヤとした顔で喜びを隠しきれなかった。なにせついさっき、久しぶりに自分の姿を見せて自分が年増ではないと、ある前髪の長すぎる少年に証明しようとしたところ、その少年はソレイユを見て「相変わらずの若作りだな、ババア」と、ソレイユをブチ切れさせるような言葉を言われたばかりなのだ。正直、数百年ぶりに人間に殺意を覚えた女神である。

 だが、やはりあの子は素直ではなかっただけなのだろう。その証拠に、素直な2人がこう言っているのだ。きっとあの子も、人間でいうところの思春期というやつで素直になれないだけなのだ。そう思うと途端にかわいそうに思った女神である。

「ソ、ソレイユ様・・・・・?」

「ど、どうかなされましたか?」

 2人ともソレイユのこのような一面を見るのは初めてだったので、どのように反応してよいか分からなかった。

「い、いえ別に・・・・・こほん! 改めて、よく来ましたね2人とも。本日は何か用ですか?」

 ソレイユはすぐさまいつもの威厳ある女神の顔に戻ると、陽華と明夜に慈愛に満ちた笑顔を向けた。

「あ、はい! 実は――」

 陽華はソレイユになぜここを訪れたのかを説明した。










「スプリガン、ですか」

 陽華の話を聞いたソレイユは神妙な顔でそう呟いた。

「はい。昨日私たちを助けてくれた人なんですけど、自分のことをそう言ってました」

 陽華がソレイユの独白に言葉を返し、その後に明夜が言葉を続けた。

「しかもいま陽華が話した通り、その人不思議な力を使うんです。それにスピードやパワーも人間離れしていて、まるで――」

「光導姫のようですか?」

「ッ! ・・・・・・はい」

 ソレイユの指摘に明夜は頷いた。そう、それは明夜が昨日彼の戦いを見て覚えた印象だった。まるで自分たちのようだと。

「それであなたちは私の元を訪れたのですね。光導姫としての力を人間に与えられる

「「はい」」

 2人はそろってソレイユの言葉に頷いた。2人がソレイユの元に来たのは、スプリガンのことをソレイユが知らないかどうかだ。スプリガンはまるで光導姫のような力を使っていた。ならば、人間にそのような力を与えられるソレイユなら何か知っているのではないかという寸法だ。

「そうですね。確かにそのスプリガンというものが『力』を使っていたのなら、私が何か知っているのでは、となるでしょう。――ですが、すみません。そのような人物を

 しかし、陽華と明夜の期待していたような答えはソレイユから返ってこなかった。

「そもそも、そのような怪しげな人物がいるとは私も今初めて知りました」

 ソレイユは2人の疑問を否定した。

「そ、そうですか・・・・・」

 ソレイユの言葉を聞いて、あからさまに肩を落としたのは陽華だった。明夜は確かに少し残念がっているが陽華ほどではない。

「じゃあ、スプリガンは一体何者だとソレイユ様はお思いですか?」

「わかりません、というのが正直な所です。しかし、光導姫ではないのは間違いないでしょう。光導姫とは女性、少女しかなれないものですから」

 明夜の質問にソレイユはそう答えた。そして、そのまま言葉を続ける。

「その人物は守護者しゅごしゃでもないでしょう。守護者は人間離れした身体能力はあれど、光導姫のような特別な力はありませんから」

「あ、あのソレイユ様、その守護者って何ですか?」

 陽華が一体何のことかといった感じで、ソレイユに質問する。隣の明夜も知らない言葉だ。

「ああ、すみません。あなたたちには、まだ説明していませんでしたね。守護者とは文字通り、光導姫を守る存在です」

「ええー!? そんな人たちがいるんですか!?」

「というか、私たちまだ一回も会ったことないんですけど!?」

 ソレイユの説明の陽華と明夜はびっくり仰天だ。二人ともそんな人たちがいるとは露程にも知らなかった。

「はい、いるのです。陽華と明夜がまだ彼らと会ったことがないのは、あなたたちが相手をしている闇奴の危険度が低いからでしょう」

 その後ソレイユは二人に詳しい説明をした。いわく、闇奴にも危険度のランクがあり、2人が相手をしているのは実は危険度の低い闇奴なのだということ。守護者は危険度の高い闇奴の相手をしている光導姫の元へ駆けつけることなど。

 ソレイユの話を聞いた2人はまたしても驚いた。自分たち以外にも光導姫がいるのかと。ソレイユは実は光導姫は世界中におり、また闇奴も世界中でレイゼロールの手により、発生していることも説明した。

「・・・・・私、驚きすぎて訳わかんなくなってきたよ明夜」

「・・・・・私もよ、陽華」

 驚愕に驚愕を重ねた2人は真っ白になっていた。

「ごめんなさい。本当は初めに色々なことを説明したかったのですけど、あなたたちが光導姫になったのは特殊でしたから」

 何分あの時は時間がなかった。その他にも様々な要因が重なり、このような説明をする機会がなかったのだ。

「ですが、昨日の闇奴のことは私のミスです。あの闇奴はまだあなたたちが相手をするには少し早すぎました。どうやらレイゼロールがあの闇奴のランクを細工していたようです。そのことは本当にすみません」

 通常ソレイユは闇奴の危険度、ランクによってその実力に応じた光導姫に闇奴の場所を知らせる。昨日の闇奴はソレイユが確認した時点では、陽華と明夜でも対処可能だったが、昨日のことを考えるとレイゼロールが何か小細工をしたのだろう。そのために、ソレイユは2人の命を危険にさらした。

「そんなソレイユ様が謝ることじゃありません! あれは私たちのミスです!」

「そうです! ・・・・・私たち心のどこかで楽観視してたんです。私たちは絶対に大丈夫だって。でもそのせいで私は死を前にしました。スプリガンが助けてくれなかったら私は死んでたと思います」

「陽華・・・・・」

「だから私は彼に助けてもらったこの命で、今度はもっとたくさんの人の力になりたいんです。もう楽観視なんか絶対にしません!」

 陽華は真っ直ぐにソレイユを見て力強く自分の思いを宣言した。そんな陽華を見た明夜も、何か思うところがあったのだろう。明夜もソレイユに向き直った。

「私も、私ももう油断なんかしません! そのせいで私は自分を陽華を失いたくなんてない!」

「2人とも・・・・」

 その決意を覚悟をソレイユは確かに感じた。元々、彼女たちは善意で光導姫になってくれたのだ。時には命を失うかもしれないその役割を彼女たちは二つ返事で引き受けてくれた。昨日、まさに死に直面したというのに、2人はこう言ってくれたのだ。2人の真摯な目を見た瞳を見たソレイユはふっと笑った。

「どうやら杞憂だったようですよ・・・・?」

「「?」」

 ソレイユの独白に2人は一体どういう意味かと考えたが、2人にはその意味は分からなかった。

「・・・・・2人の覚悟はしっかりと伝わりました。スプリガンなる者のことも何かわかり次第、あなたたちに伝えましょう。――陽華、明夜、改めて光導姫になってくれて、ありがとうございます」

 その言葉とソレイユの柔らかな笑顔に陽華と明夜は目を大きく見開いて、すぐに破顔した。

「「はい!」」












「・・・・・ごめんなさい二人とも」

 陽華と明夜が地上に帰った後、ソレイユは罪悪感に襲われていた。

 2人には嘘をついてしまった。ソレイユはスプリガンのことと正体を知っている。なにせ、陽華と明夜が来る前はそのスプリガンこと、帰城影人がこの場所に来ていたのだ。

「ですが、影人のことは私以外には誰にも知られてはならないのです・・・・」

 その独白が虚しく虚空に消える。そうスプリガンの正体は自分以外には知られてはならない。特にレイゼロールには。

 影人はソレイユの切り札だ。そしてソレイユにはレイゼロールに対する切り札がもう一つある。それが陽華と明夜である。

 陽華と明夜は歴代最高の光導姫としての資質がある。2人がその資質を発揮し、今まで以上に成長すれば、あのレイゼロールも浄化できるだろうとソレイユは考えている。

 そして、そんな2人を影から守るのが影人だ。影人は2人の専属の守護者であり、そのための力もある。

「・・・・・やはり、最低ですね私は」

 少年少女たちに戦いを強いる自分に思わず嘲笑がこぼれる。だがそんなものは何千年も前から分かっていることだ。

「・・・・せめて、祈りましょう。それしか、今の私にはできないから」

 ソレイユは3人のために祈りを捧げた。

  

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