第1話 つかさの「好き」
春人くんはあたしより二つ上で、あたしのお兄ちゃんの無二の親友だった。父親同士が同じ会社の同期で、お互い社宅暮らしで、ご近所さんで。半年違いに生まれたお兄ちゃんたちは、親友になるべく生まれた二人、て感じだった。
物心ついてから、あたしたち三人はずっと一緒だった。お兄ちゃんは熱苦しいほど面倒見がよくて、春人くんは優しくて。遊びに行くときは、いつも二人はあたしを連れて行ってくれた。あたしはお兄ちゃんが大好きで。でも、それ以上に、春人くんのことが大好きだった。
その『大好き』が変わったのは、三年前。
あたしは小さい頃から背が高くて、彫りの深い顔立ちはきりっと凛々しく、よく男の子に間違われた。今でも、Tシャツにジーンズなんかで歩いてると、「あの男の子、かっこいい」と囁かれたりする。確かに、胸は一向に膨らまないし、ロングは似合わないから、といつまでも少年みたいなベリーショートでいるあたしにも非はあるのかもしれないけど。
それでも、だ。
中一の春の終わり。授業中に、担任が「お前は男に生まれればモテたろうに」なんて悪気のない冗談をこぼした。クラスは冷ややかな笑いに包まれ、あたしは恥ずかしくて悲しくて泣きたくなった。女の子らしく、髪を伸ばそうと思っていた矢先のことだった。
とぼとぼ家に帰っていると、偶然、春人くんに出くわした。あたしを見るなり、春人くんが「どうしたの」と優しく聞いてきてくれたから、思わず、全部、ぶちまけてしまった。そしたら、春人くんは当然のように「つかさちゃんはかわいいよ」て言ってくれた。「俺に言われても、嬉しくないかな」と、はにかみながら付け加えて。そのとき、気付いたんだ。春人くんが「かわいい」て言ってくれるなら、それだけでいい、て。他の人になんて言われようとどうでもいい、て。
そのときから、あたしの中で春人くんへの『好き』が変わった。
小さい頃は、大好き、大好き、て、春人くんにくっつき回ってたけど、その『大好き』は今の『大好き』とは違う。あんなに簡単に抱きつけたのに。今は、春人くんの手に触れることさえできない――そういう『好き』。
でも、それをどう伝えたらいいのか、分かんない。だって、もう『好き』て言いすぎちゃってて、その言葉に何の重みもなくなってしまった。
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